説明

高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体

【課題】 建築用の鉄骨等構造材どうしを接合するための高力ボルト摩擦接合部に発生する摩擦力を増強させるとで、高力ボルトの使用本数の削減を図る。
【解決手段】 接合構造体Pは、1対の母材(L1)(L2)の接合部(L1b)(L2b)を跨いで覆う添板(S1)と、その添板と接合部(L1b)の間に摩擦シート材(Q1a)が、高力ボルト(U1a)により締め付け狭持される。高力ボルト(U1a)の中心軸(C1)から同心円的に広がる高力ボルト締付力有効領域(G1)の外側に中心軸(C1)共有で環状の高力ボルト作用領域(H1)が形成される。その領域(H1)内で添板(S1)の反り返りにより、摩擦シート(Q1a)と添板(S1)の間に形成される微量の接合面空隙(g1)を補填するのに適う添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)だけ、摩擦シート材(Q1a)の厚みを増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主として建築用の鉄骨等構造材から成る骨組みを形成する際に、鉄骨等構造材どうしを接合するための接合構造体に関するものであり、とりわけ、有効な高力ボルト摩擦接合を効率的に実現するものである。
【背景技術】
【0002】
近時の建築現場では、建築用の鉄骨等構造材(柱や梁等)の骨組みの形成方法として、接合構造体の高い剛性と現場での優れた工事作業性の観点からの高評価故に、通常のボルトに対し2−3倍の強度を有する高力ボルトの採用で特徴付けられる高力ボルト摩擦接合法が主流になっている。
こうした摩擦接合法は、基本的に、互いに重ね合わされた複数の接合部材を高力ボルトにより、両側から強く押し付けることで、各接合部材の接合面間に生ずる摩擦力により、該接合面間にすべり耐力(抵抗力)を発生させることができ、これにより、すべり耐力を利用してボルト中心軸に直交する方向の応力を伝達するようにした剪断型の接合方法である。従って、接合強度を向上させるのには、各接合部材の接合面間に高いすべり係数を実現することが重要であり、この点に関し、建築基準法施行令92条の2の規定は、「0.45」以上のすべり係数値の実現を求めている。このすべり係数値を実現すべく、典型的には、以下の仕方が知られているが、これらの仕方に内在する未解決の技術的課題が縷々指摘されている。
【0003】
[1]ショットブラスト、サンドブラスト、グリッドブラスト等により、上記鉄骨構造材の場合の接合面に表面処理を施す仕方は、摩擦接合法の実施の前提的な基本技術として定着しおり、こうした表面処理なくしては、0.45以上のすべり係数値の実現が困難であることが現場の経験則として周知されている。しかしながら、接合部材の工場出荷から現場での部材の組み立て作業までの期間が、まちまちである事情に起因して、現場でのその期間内における表面処理の実施が困難を伴う事例の存在も知られている。
[2]上記[1]の鉄骨構造材の場合の表面処理の典型的な仕方として、黒皮を除去した後に、上記接合面に発錆処理を施す仕方は、日本建築学会の鋼構造設計基準や建設省告示第1309号により是認されているところであり、この仕方により、0.45以上のすべり係数値を実現している多くの事例が経験的に知られている。しかしながら、上記[1]同様に、(1)発錆処置作業に当てられ現場での部材の組み立て作業までの期間がまちまちである事情に起因して、現場作業が制約を蒙るのに加えて、(2)過剰発錆に起因するすべり係数の劣化を回避し、適正な発錆条件を管理するのには、現場作業に高度の熟練が求められ、しかも、(3)近時、有望視されているステンレス鋼製ないしアルミ製の接合構造体には、発錆処理が適用できないという不利点の存在が知られている。
[3] ステンレス粉末等を含有する塗料を現場作業時に上記接合面に塗布する仕方は、主として、上記[2](3)の不利点の解消を指向するものであり、典型的には、特開平1−268940に開示されている技術である。しかしながら、この仕方にでは、(4)ステンレス粉末等を含有する塗料が、勢い高粘度のものになり、現場での塗料塗布が厚手に行われ易くなるので、高力ボルトの締付け後に、厚手の塗膜厚が経時的に漸減し、これに起因して、該ボルトの再締付け作業が必要になるという不利点の存在が知られている。
[4]アルミナ、ジルコニヤ等の高い硬度、強い靭性の微粒体を合成樹脂接着剤と混合して、これを予め塗布なしいし含浸した薄手のシート材を現場での組み立て作業時に上記接合面に介装する仕方は、主として、上記[2](1)(2)ないし[3](4)の不利点の解消を指向するものであり、典型的には、特開平1−164807に開示されている技術である。
[5]上記接合部材の接合面の全面に亘って耐蝕性金属をプラズマ溶射により、半溶融状態で吹き付けて被着させる仕方は、主として、上記[2](2)の不利点の解消を指向するものであり、典型的には、特開平1−164807に開示されている技術である。
[6]上記接合面の高力ボルト周りに該ボルトと中心軸を共通にして、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化タングステン等を円形状にプラズマ溶射する仕方は、主として、上記[2](3)の不利点の解消を指向するとともに、各接合部材の接合面間に高いすべり係数値を効率的に実現することで、接合部材を締め付けるための高力ボルトの本数の削減を指向するものであり、典型的には、特開平1−266309に開示されている技術である。
[7]上記接合部材のそれと同等ないし、それよりも高値の硬度、高値の靭性で、高力ボルトの締付力の働く範囲の大きさに合わせて予め製作された円板状摩擦板を該ボルトのそれと中心軸を共通にして上記接合面に現場作業時に介装する仕方は、主として、上記[2](1)(2)の不利点の解消を指向するとともに、非特許文献(「鋼構造接合資料集成」社団法人鋼材倶楽部・日本鋼構造協会編・技報堂出版323頁―327頁)の開示事項によるところの、高力ボルトによる締付力が有効に働く範囲が該ボルトの中心軸周りの特定半径の円形領域に限られている点の知見に基づき、各接合部材の接合面間に高いすべり係数値を効率的に実現することで、接合部材を締め付けるための高力ボルトの本数の削減を指向するものであり、典型的には、本件出願人による特開平5−331918に開示されている技術である。
【0004】
総じて、従前、盛んに採用されてきた発錆処理を前提とする高力ボルト摩擦接合法に関しては、発錆処理自体が、作業工程におけるスケジュールの自由度の制約や作業者に求められる熟練度の負担という難点を本来的に抱えており、このことに由来する接合構造体の品質の不安定化(すべり係数のバラツキ)ないし品質の劣化に対する警戒感から、勢い、過剰品質に走る傾向に陥り、適正値である「0.45」のすべり係数値を確保するのに必要な本数以上の高力ボルトの使用を甘受することになるので、すべり係数の該適正値の確保という観点から、高力ボルトの本数をクリティカルに選定するとで、経済性を追及するのには、ほど遠い実情にあった。そこで、こうした本来的な難点を抱える発錆処理の採用を回避するようにした改善提案の技術や、さらには、発錆処理の採用の回避を前提にして、すべり係数依存の摩擦力により、接合面間にすべり耐力(抵抗力)を発生させるための摩擦部位の形状を接合面上で高力ボルトの締付力が働く範囲の形状(該ボルトの中心軸からの同心円状)に整合させることで、すべり耐力の設計上の管理を容易化し、該すべり耐力を効率的に発生させるようにした改善提案の技術により、高力ボルトの本数の削減や、鉄骨等構造材の骨組み組立て作業の効率化を図る取組みが有望視されている。
【0005】
しかしながら、これらの改善提案の技術に関しては、殆どの場合、接合面でのすべり係数を適正値である「0.45」まで高めて、これを維持するための設計上の管理が困難であることから、高力ボルトの本数の削減もまた困難であることが、実験室を離れて、作業現場での実施段階に進むにつれて知見されるようになった。
【0006】
本願発明者は、接合面でのすべり係数を適正値である「0.45」まで高めて維持するのを実際の現場で困難にしている原因の解明に鋭意取り組んだ結果、その解明に成功し、本願発明の完成に至った。
【0007】
鉄骨等構造材(柱や梁)の骨組みの高力ボルト摩擦接合法による接合構造体に関しては、典型的には、2つの鉄骨等構造材(以下、母材という)の互いの端部が当接ないし対向する接合部の母材の上下表面沿いに、該母材を上下から挟むようにして、該母材の長手方向に両母材の端部を跨いで延在する上下1対の添板と両母材に対し、高力ボルトを貫通させて、該ボルトにより、上下1対の該添板を両母材の上記接合部に対して友締めするのが、前提的な構成である。こうした前提的な構成に対し、発錆処理を回避するようにした改良提案の構成にあっては、上記母材の上下表面とこれらの表面に対面する上記1対の添板の各々の表面(母材自体ないし添板自体の表面を含む)との間に、摩擦力生成要素が介装されており、これにより、高力ボルトによる締付力に該摩擦力生成要素が応動して、上記接合構造体の接合部材の接合面に摩擦力を生じさせるものである。ここに言う母材としての鉄骨等構造材(柱や梁)には、鋼材により製作されたもののほか、ステンレス材、アルミニューム材、木材により製作されたものも包含される。
【0008】
然るに、本願発明者が解明したところによれば、多くの場合、上記摩擦力生成要素の働きが、面的に一様ではなく、高力ボルトの中心軸から同心円状に離遠した所定半径内の位置に円形で出現し、該高力ボルトによる締付力が十分に働く高力ボルト締付力有効領域と、該中心軸から同心円状に十分に離遠した位置に出現し、該締付力が働かない高力ボルト締付力不作用領域との間に環状に出現し、該締付力が働くがその働きが十分ではない高力ボルト締付力作用領域が存在し、これにより、上記母材の上下表面とこれらの表面に対面する上記1対の添板の各々の表面(母材自体ないし添板自体の表面を含む)との間に介装された摩擦力生成要素にて発生する摩擦力が不安定的に抑制されることから、しかも、従前、その摩擦力抑制現象が認識されていなかったことから、ここでの十分な摩擦力の発生に必要な「0.45」以上のすべり係数値を安定的に確保するための設計上の管理が困難であった。
【0009】
さらに、本願発明者が、鋭意解明したところによれば、上記高力ボルト締付力作用領域における上記摩擦力の抑制は、上記高力ボルトによる締付力の反作用に応動して、1対の添板が、各別に、母材の上下表面から離遠する方向に反り返るように変形し、その結果、上記母材の上下表面と上記1対の添板の各々の表面との間に介装された摩擦力生成要素の、該添板に対する密着性が減退することで、該添板を介して、該摩擦力生成要素に伝達されるべき高力ボルトからの締付力が減少する点の現象に起因するものである。
【0010】
従前の高力ボルト摩擦接合法による接合構造体では、こうした添板の変形に起因して、摩擦力生成要素におけるすべり係数値、ひいては、ここで発生する摩擦力が不安定的に抑制されるので、すべり係数を適正値である「0.45」まで高めて、これを維持するための設計上の管理が困難であり、それ故に、高力ボルトの本数削減もまた困難であるという問題点があった。
【0011】
【特許文献1】特開平1−268940
【特許文献2】特開平1−164807
【特許文献3】特開平1−164807
【特許文献4】特開平1−266309
【特許文献5】特開平5−331918
【非特許文献1】「鋼構造接合資料集成」社団法人鋼材倶楽部・日本鋼構造協会編・技報堂出 版・323頁―327頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の課題は、従来の高力ボルト摩擦接合法採用の接合構造体の摩擦力生成要素におけるすべり係数値の不安定的抑制に起因する該すべり係数の適正値維持のための設計管理の困難さの問題点に鑑み、1対の添板の変形に対処すべく、摩擦力生成要素の高力ボルト締付力作用領域内での厚み寸法に関し、該摩擦力生成要素の高力ボルト締付力有効領域内での高力ボルト締付力有効領域厚みに対し、該添板の変形を補償するための添板変形補償用厚み増分を加えた添板変形補償値に選定することにより、上記問題点を解消する優れた高力ボルトによる鉄骨等構造材(柱や梁)の接合構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1記載の発明は、以下の構成の協働により、この発明の課題を解決する手段を提供するものである。
第1の母材は、長手方向に伸び、該長手方向に直交する裁断面に現れる四辺形の端面を有している。第2の母材も、長手方向に伸び、該長手方向に直交する裁断面に現れる四辺形の端面であって、上記第1の母材の端面に対し整合して当接され、又は間隙を介して対面する端面を有している。1対の添板対は、上記第1第2の母材を跨いで長手方向に面的に延在し、上記第1の母材の端面と上記第2の母材の端面が整合して当接され、又は間隙を介して対面する接合部の母材の互いに平行に対向して延在する1対の外表面を挟んでいる。
上記接合部の母材と上記1対の添板対には、高力ボルト用孔が、上記母材の長手方向に直交する方向に該母材と該添板対を整合的に貫通するように穿孔されている。高力ボルト金具は、上記高力ボルト用孔に貫通挿入され、上記1対の添板対を上記母材の上記1対の外表面に対し締結している。
摩擦力生成要素としての摩擦シート材は、上記1対の添板対のうち、上記母材の1つの外表面と該外表面に対面する1つの添板の内面との間に密着して介装されている。
上記摩擦シート材は、板状のものであってもよいし、適切な厚みを伴う布状ないし箔状のものであってもよい。また、上記摩擦シート材の素材として、典型的には、母材である鉄骨等構造材(柱や梁)に多用される鋼鉄材ないし、鋼鉄材のそれと同等ないし、それよりも、高値の硬度、高値の靭性を備えた金属ないしセラミックスが好適である。発錆処理を必要としないので、ステンレス製の母材をも、接合対象とすることができる。
鉄骨構造の場合、上記摩擦シート材に対面する上記接合部の母材の外表面及び上記添板の内表面の表面状態に関しては、黒皮除去処理を施さずに黒皮を残存させたままの状態でもよいし、黒皮除去処理を施して黒皮のみを除去した状態でもよいし、ショットブラスト、サンドブラスト、グリッドブラスト等の表面処理を施した状態でもよいし、同表面処理を施したうえで、さらに発錆処理を施した状態でもよい。
上記摩擦シート材には、上記高力ボルト用孔に整合し、上記高力ボルト金具の貫通を許容する摩擦シート材孔が、上記高力ボルトの中心軸を共有できるように穿設され、該摩擦シート材の該摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法が、該摩擦シート材孔の各々の中心軸から該摩擦シート材上に同心円状に広がる各々の高力ボルト締付力有効領域内では、一定一様の高力ボルト締付力有効領域厚みに選定され、各々の高力ボルト締付力有効領域の外側にさらに該同心円状に広がる各々の高力ボルト締付力作用領域では、該有効領域厚みに対し添板変形補償用厚み増分を加えた添板変形補償値に選定されている。
【0014】
請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の発明の構成の働きを前提にして、以下の追加的構成との協働により、この発明の課題を解決するための手段を提供するものである。
上記高力ボルト締付力作用領域内では、上記添板変形補償値が上記摩擦シート材孔の中心軸からの離遠距離に応じて増大傾向を有する可変性添板変形補償値に選定されている。上記摩擦シート材孔の中心軸からの離遠距離に対応する可変性添板変形補償値を得るのを容易化するためには、高力ボルト径、締付力、添板の形状寸法、該添板の機械的属性、摩擦シート材の形状寸法、該摩擦シート材の機械的属性をパラメータとし、該摩擦シート材孔の中心軸からの離遠距離ごとの実験関数を予め用意することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、上記請求項2記載の発明の構成の働きを前提にして、以下の追加的構成との協働により、この発明の課題を解決するための手段を提供するものである。
上記各々の高力ボルト締付力作用領域の外側に、上記摩擦シート材孔の各々の中心軸から該摩擦シート材上に同心円状にさらに広がる各々の高力ボルト締付力不作用領域内では、上記添板変形補償値が、上記可変性添板変形補償値の該高力ボルト締付力作用領域内での最大値に等しく一定一様に選定されている。高力ボルト締付力不作用領域内の摩擦シート材は、上記接合部材の接合面間での摩擦力の生成に関与しないので、介装を割愛することもできる。
【0016】
請求項4記載の発明は、上記請求項2記載の発明の構成の働きを前提にして、以下の追加的構成との協働により、この発明の課題を解決するための手段を提供するものである。
上記摩擦シート材の上記摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法の上記可変性添板変形補償値は、上記摩擦シート材としての剛性を有する部材の該厚み寸法の中心から上記添板対の1つの添板に対面する表面までの厚み寸法と該中心から上記母材に対面する表面までの厚み寸法のいずれか一方又は双方により規定されている。
【0017】
請求項5記載の発明は、上記請求項4記載の発明の構成の働きを前提にして、以下の追加的構成との協働により、この発明の課題を解決するための手段を提供するものである。
上記摩擦シート材として剛性を有する部材の上記添板対の1つの添板に対面する表面と上記母材に対面する表面のいずれか一方又は双方に、該表面に粗表面を形成し、摩擦係数を増大させる摩擦増強表面処理層がさらに設けられている。上記粗表面は、発錆表面処理又はショットブラスト、サンドブラスト、グリッドブラスト等の機械的表面処理により形成してもよいし、金属粒子ないし耐蝕性セラミック粒子等をプラズマ溶射することで、形成してもよい。後者のプラズマ溶射は、ステンレス粒子層ないしアルミニューム粒子層の溶射形成ができるので、ステンレス製ないしアルミニューム製の母材を接合対象とするのに好都合である。
【0018】
請求項6記載の発明は、上記請求項2記載の発明の構成の働きを前提にして、以下の追加的構成との協働により、この発明の課題を解決するための手段を提供するものである。
上記摩擦シート材の上記摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法の上記可変性添板変形補償値が、上記摩擦シート材の上記添板対の1つの添板に対面する表面と上記母材に対面する表面のいずれか一方又は双方の表面上に溶射形成された剛性を有する金属粒子層の厚み寸法により規定されている。上記金属粒子層には、ステンレス粒子、アルミニーム粒子等のプラズマ溶射によるものも包含されており、これによれば、ステンレス製ないしアルミニューム製等の母材を接合対象とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明によれば、上記接合部材の接合面間に摩擦シート材を介装し、該摩擦シート材の厚みに関し、該摩擦シート材上、摩擦シート材孔の中心軸から同心円状に広がる高力ボルト締付力有効領域内では、一定一様の有効領域厚みを選定し、該高力ボルト締付力有効領域の外側にさらに同心円状に所定距離だけ離遠した位置に環状に出現し、高力ボルトの締付力が働くものの、その働きが十分ではない高力ボルト締付力作用領域内では、該有効領域厚みに対し、所定厚みの添板変形補償用厚み増分を加えた添板変形補償値を選定する構成としたことにより、上記高力ボルトによる締付力の反作用に応動して、添板が、母材の表面から離遠する方向に反り返るように変形することに起因して、接合部材としての添板の表面に対する該摩擦シート材の密着性が減退するのを有効に防止できるので、高力ボルトからの締付力が添板を介して該摩擦シート材に対し十分に伝達され、これにより、該接合部材の接合面でのすべり係数値を適正値の「0.45」以上の値に安定的に維持するための設計上の管理を可能にし、その結果、高力ボルトの本数削減が実現できるという優れた効果が奏される。
【0020】
請求項2記載の発明によれば、上記請求項1記載の発明の構成中の上記摩擦シート材の高力ボルト締付力作用領域内での厚みを表す上記添板変形補償値に関し、上記摩擦シート材孔の中心軸からの離遠距離に応じて増大傾向を呈する可変性添板変形補償値を選定する構成としたことにより、添板の表面に対する該摩擦シート材の密着性が減退するのを、より一層正確完璧に回避できるので、すべり係数値を適正値の「0.45」以上の値に安定的に維持するための設計上の管理をより一層容易にし、その結果、高力ボルトの本数削減がより一層容易に実現できるという優れた効果が奏される。
【0021】
請求項3記載の発明によれば、上記請求項2記載の発明の構成中の上記添板変形補償値に関し、上記高力ボルト締付力作用領域の外側に、上記同心円状にさらに広がる高力ボルト締付力不作用領域内では、上記高力ボルト締付力作用内での厚みを表す添板変形補償値の一定一様の最大値を該添板変形補償値として選定する構成としたことにより、摩擦力の生成に関与しない高力ボルト締付力不作用領域内での添板の形状寸法を調整的なものに選定できるので、摩擦シート材の形状寸法の設計の自由度が向上するという付随的効果が奏される。
そのうえ、上記高力ボルト締付力不作用領域内では、隣接する高力ボルト締付力不作用領域どうしの介在を確保することで、隣接する別の高力ボルトにかかる上記高力ボルト締付力有効領域ないし上記高力ボルト締付力作用領域との間での力の干渉を考慮する必要がないので、実験関数等に基づく、上記可変性添板変形補償値の算定が容易になるという付随的効果も奏される。
【0022】
請求項4記載の発明によれば、上記請求項2記載の発明の構成中の上記可変性添板変形補償値に関し、上記摩擦シート材としての剛性を有する部材の中心から、該部材の上記母材ないし上記添板に対面する表面までの厚みを上記摩擦シート材孔の中心軸からの同心円的離遠距離に応じて変化させることで、実現するように構成したことにより、該摩擦シート材の厚みの変化が常法的な金属切削加工にて実現できるので、低コストで安定的な品質のものが得られるという付随的効果が奏される。
【0023】
請求項5記載の発明によれば、上記請求項4記載の発明の構成中の上記摩擦シート材としての剛性を有する部材の表面に関し、上記接合部材間での摩擦係数の増大を図るべく、該表面に祖表面を形成することで、摩擦増強表面処理層を設ける構成としたことにより、常法的な金属切削加工でコスト負担の軽減が図れるにも拘わらず、すべり係数値を適正値の「0.45」以上の値に安定的に維持できるという付随的効果が奏される。
【0024】
請求項6記載の発明によれば、上記請求項2記載の発明の構成中の上記摩擦シート材の上記可変性添板変形補償値に関し、上記摩擦シート材としての剛性を有する部材の中心から、該部材の上記母材ないし上記添板に対面する表面までの厚みを上記摩擦シート材の表面に剛性を有する金属粒子層の溶射により形成して、該金属粒子層の厚みを上記摩擦シート材孔の中心軸からの同心円的離遠距離に応じて変化させることで、実現するように構成としたことにより、溶射処理時間等の溶射条件を変更することで、該同心円的離遠距離に応じて、多様に変化する該可変性添板変形補償値を容易かつ高精度に管理することができ、しかも、溶射されるべき金属粒子等を選択することで、ステンレス製の接合構造体にも適用可能となるので、総じて、接合構造体の形態と素材の多様性に対する許容度合いが広がるという付随的効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明の実施例の前提的構成である鉄骨構造体の高力ボルト摩擦接合部構造体を示すのが図1であり、同図中、垂設された角型鋼管柱(1)の長手方向の中間位置には、ウェブ(2a)と該ウエブの上下両辺に直交連成された1対のフランジ(2b)(2b)を備えたH型鋼梁(2)が横設されており、該H鋼梁(2)の図中左側に現れている左側H鋼梁(2A)と図中右側に現れている右側H鋼梁(2B)が、上記左側H鋼梁(2A)の接合部位のフランジ(2bA)(以下、第1の母材(L1)という)と上記右側H鋼梁(2B)の接合部位のフランジ(2bB)(以下、第2の母材(L2)という)に関しては、フランジ用の接合部材(3)(以下、添板(S)という)により、同様に、左右両側H型鋼梁(2A)(2B)の接合部位のウエブ(2aA)(2aB)に関しては、ウエブ用の接合部材(4)により各別に連結されている。
【0026】
フランジ用の接合部材(4)から成る接合構造体を抽出して示すための図1中のA−A矢視断面図が図2であり、同図中の接合構造体は、高力ボルト摩擦接合法による摩擦接合構造体である。図2において、第1の母材(L1)と第2の母材(L2)は、長手方向の中心線を共有しながら、長手方向に延在し、該長手方向に直交する裁断面に四辺形の断面が現れる先端部(L1a)(L2a)を有し、該先端部どうしが空隙(g)を介して、対面するように整合して配置されている。
第1、第2の母材(L1)(L2)の、互いに平行に対向して延在する上下1対の外表面を挟むようにして、上記第1、第2の母材(L1)(L2)を跨いで長手方向に面的に延在する上下1対の添板対(上側外表面のものを第1の添板(S1)といい、下側外表面のものを第2の添板(S2)という)が配置されている。これらの第1、第2の添板対(S1)(S2)は、上記第1、第2の母材(L1)(L2)として採用された鉄骨等構造材の剛性と同等の剛性を有する鉄骨構造材により製作されている。
上記母材(L1)(L2)のうち、上下1対の上記第1、第2の添板(S1)(S2)に挟まれた第1、第2の母材(L1)(L2)の先端部(L1a)(L2a)を含む該母材の接合部(L1b)(L2b)には、該接合部と上記第1、第2の添板(S1)(S2)の長手方向に直交する方向に、該母材の接合部(L1b)(L2b)と該添板対(S1)(S2)を整合的に貫通するように、4個の高力ボルト用孔(T1a)(T1b)(T2a)(T2b)が穿設されている。上記4個の高力ボルト用孔のうち、2個(T1a)(T1b)が、上記第1の母材の接合部(L1b)において、該長手方向に所定の間隔を置いて配置され、別の2個(T2a)(T2b)も、上記第2の母材の接合部(L2b)において、同様に配置されている。
【0027】
上記4個の高力ボルト用孔(T1a)(T1b)(T2a)(T2b)には、4個の高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)が各別に挿入されて螺合している。上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)の頭部は、適切な直径(r)の4個のワッシャー(V1a)(V1b)(V2a)(V2b)を介して、第1の添板(S1)の上面に対し各別に係止されており、該高力ボルトの先端部には、4個のナット(W1a)(W1b)(W2a)(W2b)が各別に羅着しており、上記同様に直径(r)の4個のワッシャー(V1a)(V1b)(V2a)(V2b)を介して、第2の添板(S2)の下面に対し各別に係止されており、これにより、上記第1、第2の母材の接合部(L1b)(L2b)の上下面に対し、1対の第1、第2の添板対(S1)(S2)が締結されている。
【0028】
ここでの上記第1、第2の添板対(S1)(S2)の上記第1、第2の母材(L1)(L2)の接合部(L1b)(L2b)に対する締結時に、第1の添板(S1)の下面とこれに対面する上記第1の母材の接合部(L1b)の上面との間には、摩擦力生成要素としての第1の上側の摩擦シート材(Q1a)が介装されており、同様に、第1の添板(S1)の下面と第2の母材の接合部(L2b)の上面との間には、第2の上側の摩擦シート材(Q2a)が介装されている。
一方、これとは対象的に、第2の添板(S2)の上面とこれに対面する上記第1の母材の接合部(L1b)の下面との間には、摩擦力生成要素としての第1の下側の摩擦シート材(Q1b)が介装されており、同様に、第2の添板(S2)の上面と第2の母材の接合部(L2b)の下面との間には、第2の下側の摩擦シート材(Q2b)が介装されている。
なお、実施例の構成に関する以降の説明は、上記対称的な構成のうち、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)と第2の上側の摩擦シート材(Q2a)が含まれている上側の構成のみに仕向けられる。
【0029】
上記第1、第2の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)は、板状のものであてもよいし、適切な厚みを伴った布状ないし箔状のものであってもよい。また、上記摩擦シート材の素材としては、典型的には、母材である鉄骨等構造材(柱や梁)に多用される鋼鉄材、若しくは、鋼鉄材のそれと同等ないし、それよりも、高値の硬度、高値の靭性を備えた金属ないしセラミックスが好適である。
上記摩擦シート材(Q1a)(Q2a)の形態としては、図2に現れているように、上記第1、第2の母材(L1)(L2)の接合部(L1b)(L2b)の厚さ寸法が相互同一である通常的な構成にあっては、上記第1、第2の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)の厚み寸法に関しても、相互同一の寸法に選定されるが、上記接合部(L1b)(L2b)の厚さ寸法が相互不一致であり、該接合部の長手方向に段差を伴う構成にあっては、該段差に整合するような段差を形成するように、上記第1、第2の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)の該接合部における厚み寸法に格差を設けるのがよい。
さらに、加うる形態として、第1、第2の接合部(L1b)(L2b)単位に各別に区切られる形態のほか、該第1、第2の接合部(L1b)(L2b)間の空隙(g)を跨ぐように、該摩擦シート材(Q1a)(Q2a)が一体化された形態であってもよい。
なお、図2の構成において、上記第1、第2の添板対(S1)(S2)と、上記第1、第2の該母材の接合部(L1b)(L2b)と、上記第1、第2の上側の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)と、上記第1、第2の下側の摩擦シート材(Q1b)(Q2b)により、接合部材が構成され、かかる接合部材を含む全体的な構成がこの明細書にいうところの鉄骨等構造材の接合構造体Pである。
【0030】
図3は、図2中のB−B矢視断面図により、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)と第2の上側の摩擦シート材(Q2a)を抽出して、それの上面を模式的に表現した説明図であり、図2中で、構成要素を指し示す符号と同一の符号により指し示されている構成要素は、それぞれ同一のものである。
図3中の最小径の4個の円形は、図2中の4個の高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)の中心軸と整合すべき中心軸(C1)(C2)(C3)を共有する4個の摩擦シート材孔(F1)(F2)(F3)(F4)を表現している。即ち、上記中心軸(C1)(C2)(C3)(C4)を有し、該ボルトごとに介装された4個のワッシャー(V1a)(V1b)(V2a)(V2b)に対応して、該中心軸からの直径が、該ワッシャーのそれよりも小径の直径(r)を有する上記摩擦シート材孔(F1)(F2)(F3)(F4)が上記第1第2の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)に穿設されている。
【0031】
図3中で、上記摩擦シート材孔(F1)(F2)(F3)(F4)には、4個の上記摩擦シート材孔の中心軸(C1)(C2)(C3)(C4)に対して、同心円状に広がる各別の円形が現れており、該円形は、高力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)を表現している。
上記高力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)内では、上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)による締付け力が典型的に有効に作用し、該締結力が上記接合部材の接合面間の摩擦力に変換されることで、該接合面間に、安定確実にすべり耐力(抵抗力)が発生する。
【0032】
図3中で、上記高力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)のさらに外側には、上記摩擦シート材孔の中心軸(C1)(C2)(C3)(C4)に対して、同心円状に広がる各別の円形(同心円的環状形)が現れており、該円形は、高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)を表現している。
上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)内では、上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)による締付け力が一応は有効に作用するものの、後述するところの本願発明者の解明にかかる要因の故に、上記接合部材の接合面間に発生するすべり耐力(抵抗力)が、上記効力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)内で働くものとの相対で、減少傾向を示すことが判明している。
本願発明者のさらなる解明によれば、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)内での上記接合部材の接合面間に発生するすべり耐力(抵抗力)の減少傾向は、各別の摩擦シート材孔の中心軸(C1)(C2)(C3)(C4)からの平面上の離遠距離に応じて強まるような平面的変化傾向を帯びている。
【0033】
図3中で、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)のさらに外側には、ここでの実施例にあっては、平面視で矩形の上記第1、第2の上側の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)の全領域から、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)と高力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)を仮想的に取り除いた残余の形状が現れており、該残余の形状は、高力ボルト締付力不作用領域(I1)(I2)(I3)(I4)を表している。
上記高力ボルト締付力不作用領域(I1)(I2)(I3)(I4)内では、上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)による締付け力の作用が及ばないので、上記接合面間に、すべり耐力(抵抗力)が発生することはない。換言すれば、上記高力ボルト締付力不作用領域は、この明細書で言うところの上記接合部材としては、働かないが、該接合部材中の上記摩擦シート材(Q1a)(Q2a)自体に関し、設計上の形状選択の自由度を確保するのに有利である。
その上、高力ボルト締付力不作用領域(I1)(I2)(I3)(I4)が、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)の各々の間に介在することで、該高力ボルト締付力作用領域どうしの重なり部分の発生を回避することができるので、該高力ボルト締付力作用領域の各々において作用する摩擦力どうしの該重なり部分での干渉を防ぎ、これにより、該高力ボルト締付力作用領域における第1、第2の摩擦シート材(Q1a)(Q2a)の厚み寸法の設計が容易になる。
こうした高力ボルト締付力不作用領域の存在に関しては、上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)により締付力の伝播が、上記第1、第2の添板(S1)(S2)の板面全体に及ぶことはなく、該高力ボルトを中心とする所定の上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)内で、臨界的、離散的に及ぶという知見によるところであり、本願発明者による先願の特開平5−331918開示の発明も、上記知見に基づいている。
上記の知見を本願発明の実施の形態に適用した実証試験によれば、高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)の直径が20mmの場合、上記高力ボルト締付力有効領域(G1)(G2)(G3)(G4)の直径は、55mm―60mmであり、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)(H2)(H3)(H4)の直径は、75mm―85mmである。
【0034】
次いで、4個の上記高力ボルト(U1a)(U1b)(U2a)(U2b)のうちの1個の高力ボルトの近傍におけるところの、上記第1の母材の接合部(L1b)と、第1、第2添板対(S1)(S2)と、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)から成る接合部材(P)を抽出して断面図で表現した図4、図5の説明図に基づいて、第1の実施の形態を説明すれば、以下のとおりである。
図4の説明図は、同実施の形態が採用されていない通常的な上記接合部材(P)の作動状態を表しており、これとの対比により、本願発明の要旨の理解を容易にすべく、本願発明にかかる上記第1の実施の形態の接合部材(P1)の作動状態を表すのが図5である。図4、図5において、図2中の構成要素を指し示す符号と同一の符号により指し示されている構成要素は、それぞれ同一のものである。
【0035】
先ず、図4に示されるように、上記接合部材(P)にあっては、鉄骨構造材から成る骨組みを組み付ける際に、高力ボルト(U1a)が締め込まれることで、該高力ボルトからの締付力が上記接合部材(P)に伝播すると、該接合部材の接合面間に生ずる摩擦力により、該接合面間にすべり耐力(抵抗力)が発生するのであるが、ここで発生したすべり耐力の反作用の働きにより、極めて微小ではあるが、第1の添板(S1)が、高力ボルト(U1a)周りで第1の上側の摩擦シート材(Q1a)から反り返って離遠するように、図4中、矢印(X)(X)の方向に変形することで、該第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上面と、変形した上記第1の添板(S1)の下面との間に極めて微量の接合面空隙(g1)(g1)が形成される。こうした状態に関し、図4、図5では、誇張して摸式的に表現されているが、現実に形成される上記接合面空隙(g1)(g1)は、極めて微小なものであるので、従前、その存在自体が認識されていなかった。
同様に対称的に、第2の添板(S2)が、高力ボルト(U1a)周りで第1の下側の摩擦シート材(Q1b)から反り返って離遠するように、図4中、矢印(Y)(Y)の方向に変形することで、該第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の下面と、変形した上記第2の添板(S2)の上面との間に極めて微小の空隙(g2)(g2)が形成される。
なお、上記第1の添板(S1)の下面に対向する上記第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上面と、第2の添板(S2)の上面に対向すると上記第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の下面は、ショットブラスト、サンドブラスト、グリッドブラスト等の機械的表面処理により形成された祖表面を有する第1、第2の表面処理層(Q1at)(Q1bt)で覆われており、これにより、上記接合部材(P)の接合面間に生ずる摩擦力を増強することで、該接合面間に発生するすべり耐力(抵抗力)を増大させる。
【0036】
図4の上記構成における第1、第2の添板(S1)(S2)の高力ボルト(U1a)周りでの反り返り変形に起因する微小な接合面空隙(g1)(g2)の存否に対応させながら、図3に戻って、高力ボルト締付力有効領域(G1)及び高力ボルト締付力作用領域(H1)において、上記接合部材(P)の接合面間に発生するすべり耐力(抵抗力)の分布状態に関し、振り返って考察すれば、以下のとおりである。
図3中の高力ボルト締付力有効領域(G1)には、図4中の高力ボルト(U1a)から、上下のワッシャー(V1a)(V1a)の平面視で第1、第2の添板(S1)(S2)への投影領域を経て左右に所定距離だけ離遠した同心円状の領域(G1)(G1)が対応し、ここでは、高力ボルト(U1a)による締付力がワッシャー(V1a)を介して強力に働き、その働きの影響が十分有効に及ぶので、該領域(G1(G1)内では、反り返りによる第1、第2の添板(S1)(S2)の微小な変形は起こらない。このことの反映により、図3中の高力ボルト締付力有効領域(G1)内においては、上記第1の上、下側の摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の厚みは、一定一様の高力ボルト締付力有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に選定されていて、上記接合部材(P)の接合面間に働くすべり耐力(抵抗力)は、最大にして一様の値に維持される。
【0037】
一方、図3中の高力ボルト締付力作用領域(H1)には、図4中の高力ボルト(U1a)から、上記同心円状の領域(G1)(G1)を隔てて、図中で外側に現れている同心円的環状の領域(H1)(H1)が対応し、ここでは、高力ボルト(U1a)による締付力が、上記同心円状の領域(G1)(G1)でのすべり耐力(抵抗力)に変換される際に、該締付力の反作用により、該領域(H1)(H1)内では、第1、第2の添板(S1)(S2)の反り返りによる微小な変形が起こる。このことの反映により、図3中の高力ボルト締付力作用領域(H1)内において上記接合部材(P)の接合面間に働くすべり耐力(抵抗力)の減少が、本願発明者により実証的に確認された。
そして、高力ボルト締付力作用領域(H1)内における上記すべり耐力の減少に関しては、通常的な上記接合部材(P)の属性的条件下では、高力ボルト(U1a)の中心軸、すなわち、摩擦シート材孔(F1)の中心軸(C1)からの同心円的な離遠距離の増大につれて、強まる減少傾向も、本願発明者により実証的に確認された。
【0038】
これに対し、図5の本願発明の第1の実施態様にあっては、上記第1の上側の摩擦シート材(Q1a)及び上記第1の下側の摩擦シート材(Q1b)には、図4中の表面処理層(Q1at)(Q1bt)に該当する表面処理層(Q1at)(Q1bt)が施されており、しかも、図5中、上記摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の高力ボルト(U1a)の中心軸方向の厚みに関しては、上記高力ボルト締付力有効領域(G1)内においては、図5中の該摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の高力ボルト締付力有効領域厚みの厚み寸法(d1A)(d1B)(表面処理層(Q1at)(Q1bt)の厚みも含まれる)が、図4中の高力ボルト締付力有効領域(G1)内における摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の一定一様の高力ボルト締付力有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)(表面処理層(Q1at)(Q1bt)の厚みも含まれる)に等しく選定されている。これにより、上記高力ボルト締付力有効領域(G1)内においては、図4、図5に共通に現れているように、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上下両面に設けられた第1の表面処理層(Q1at)のうち、上側のものが上記第1の添板(S1)の下面に対し、密着して押圧され、下側のものが上記母材(L1)の接合部(L1b)の上面に対し、密着して押圧さる状態が確保される。同様に対称的に、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の上下両面に設けられた第2の表面処理層(Q1bt)のうち、下側のものが上記第2の添板(S2)の上面に対し、密着して押圧され、上側のものが上記母材(L1)の接合部(L1b)の下面に対し、密着して押圧される状態が確保される。
【0039】
一方、この発明の第1の実施態様である図5の構成の上記高力ボルト作用領域(H1)内において、図中の上記摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の高力ボルト締付力作用領域厚みの厚み寸法(d1C)(d1D)に関しては、図4中の一定一様の有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に対し、図5中の接合面空隙(g1)(g2)の寸法に合致していて、該空隙を埋め合わせるのに過不足のない添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)(Δd1D)を加えた値の添板変形補償値の厚み寸法(d1C)(d1D)として選定されている。
これにより、図5の構成にあっては、上記高力ボルト作用領域(H1)内においても、添板変形補償用厚み増分が、その寸法(Δd1C)(Δd1D)の分だけ、上記接合面空隙(g1)(g2)を埋め合せることができるので、図4の構成のように、上記接合面空隙(g1)(g2)の発生を伴うことなく、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上下両側の第1の表面処理層(Q1at)(Q1at)が、それぞれ、上記第1の添板(S1)の下面と上記接合部(L1b)の上面に対し、密着して押圧される状態が確保される。同様に対称的に、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の上下両側の第2の表面処理層(Q1bt)(Q1bt)が、それぞれ、上記第2の添板(S2)の上面と上記接合部(L1b)の下面に対し、密着して押圧される状態が確保される。
【0040】
さらに、図5の通常的な構成にあっては、上記高力ボルト作用領域(H1)内において、上記高力ボルト締付力有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に対し、上記接合面空隙(g1)(g2)を埋め合わせるための添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)(Δd1D)を加えた値の添板変形補償値の厚み寸法(d1C)(d1D)に関し、上記高力ボルト(U1a)の中心軸(C1)から同心円状に離遠する距離が増大するにつれて増大傾向を示す可変性添板変形補償値に選定されるのが好適である。これにより、上記高力ボルト作用領域(H1)内で、上記中心軸(C1)からの同心円的な離遠距離に対応して増大傾向を示す図4中の上記接合面空隙(g1)(g2)を正確に埋め合わせることで、上記第1、第2の表面処理層(Q1at)(Q1bt)の上記接合部材(P)の接合面間での完全な密着・押圧状態を確保できるので、該接合面間に発生する摩擦力の低下、ひいては、該接合面でのすべり耐力(抵抗力)の減退を確実に防止できる。
【0041】
この発明の第1の実施の形態である図5の構成にあっては、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)内において、上記可変性添板変形補償値の寸法を有する第1の上下両側摩擦シート材(Q1a)(Q1b)を実現するのに、該摩擦シート材の上下表面を覆う第1、第2の表面処理層(Q1at)(Q1bt)の厚み寸法を微小な一定値に維持したまま、専ら、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)自体と第1の下側の摩擦シート材(Q1b)自体の厚み寸法の変化をもって対処するものである。
【0042】
加うるに、上記第1の実施の形態である図5の構成にあっては、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の厚み寸法の変化が、該摩擦シート材(Q1a)自体の厚みの中心線(C5)、正確に言えば、上記高力ボルト有効領域(G1)内における上記有効領域厚み寸法(d1A)の中間点を通る上記中心線(C5)から上記第1の添板(S1)の下面に向かって、同図中、上方片側に膨出する形態で確保されている。
同様に対称的に、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の厚み寸法の変化が、該摩擦シート材(Q1a)自体の厚みの中心線(C6)から上記第2の添板(S2)の上面に向かって、同図中、下方片側に膨出する形態で確保されている。
【0043】
図4ないし図5の構成の左右端部に現れている高力ボルト不作用領域(I1)内では、接合部材(P)(P1)の接合面間、即ち、上記摩擦シート材(Q1a)(Q2b)の上下両表面と上記添板(S1)(S2)の表面ないし母材(L1)の接合部(L1b)の表面との間に高力ボルト(U1a)による締付力が及ばないので、該摩擦シート材の存否自体が設計上の選択に委ねられる。図5中の構成では、上記高力ボルト締付力不作用領域(I1)内で、上記摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の厚み寸法が、上記高力ボルト締付力作用領域(G1)の図中の左右両端部において到達するところの上記可変性添板変形補償値の最大値のまま、該高力ボルト締付力不作用領域(I1)内で一定一様に維持される形状で、図3に現れているように、平面視で矩形の外周を有する高力ボルト締付力不作用領域(I1)が形成されている。
【0044】
本願発明にかかる上記第1の実施の形態の接合部材(P1)の作動状態を表す図5では、1本の高力ボルト(U1a)周りが抽出して描かれているが、実際には、図2に現れているように、2本の高力ボルト(U1a)(U1b)周りの協働的作動状態が力学的に最小単位の解析モデルであり、こうした2本の高力ボルト(U1a)(U1b)周りに関し、図5の作動状態を拡張して表現するのが図6である。図3に現れている中心軸(C1)を有する高力ボルト(U1a)周りの高力ボルト締付力作用領域(H1)と、該ボルト(U1a)に隣接する高力ボルト(U1b)周りの高力ボルト締付力作用領域(H2)との間に介在する高力ボルト締付力不作用領域(I2)の作動状態が図6の中央部に現れている。図6中の上記高力ボルト締付力不作用領域(I2)で、第1の上下両側摩擦シート材(Q1a)(Q1b)は、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)内での添板変形補償値の厚み寸法(d1C)(d1D)の最大値を維持しながら、第1の母材(L1)の接合部(L1b)の上下面に密着して平板状に延在し、該高力ボルト締付力不作用領域(I2)内で、第1の添板(S1)は、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)を覆いながら、該第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上面から離れる方向に膨出するように変形し、同様に対称的に、第2の添板(S2)は、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)を覆いながら、該第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の下面から離れる方向に膨出するように変形するものである。
【0045】
図5に対応する図7の説明図に基づいて、第2の実施の形態を説明すれば、以下のとおりである。図7において、図5中の構成要素を指し示す符号と同一の符号により指し示されている構成要素は、それぞれ同一のものである。図5の構成にあっっては、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)内における第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上記可変性添板変形補償値の厚み寸法の変化が、該摩擦シート材(Q1a)自体の厚みの中心線(C5)から、上記第1の添板(S1)の下面に向かって、同図中、上方片側に膨出する形態で確保されているのに対し、図7の構成にあっては、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上記可変性添板変形補償値の厚み寸法の変化が、該摩擦シート材(Q1a)自体の厚みの中心線(C5)から、上記第1の添板(S1)の下面と上記第1の母材の接合部(L1b)の上面との双方に向かって、同図中、上下両側に膨出する形態で確保されている。同様に対称的に、図7の構成にあっては、第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の上記可変性添板変形補償値の厚み寸法の変化が、該摩擦シート材(Q1a)自体の厚みの中心線(C6)から上記第2の添板(S2)の上面と上記第1の母材の接合部(L1b)の下面の双方に向かって、同図中、上下両側に膨出する形態で確保されているものである。
【0046】
上記高力ボルト締付力作用領域(H1)内におけるこうした上記可変性添板変形補償値の厚み寸法の部分を抽出して示す部分拡大図が図8である。図8中で、その際、図中左端の高力ボルト締付力作用領域(H1)内における第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の高力ボルト締付作用領域厚み寸法(d1C)に関しては、該摩擦シート材の中心線(C5)に対し図示の上下両側において、図示の右側(又は左側)に進むにつれて、即ち、上記高力ボルト(U1a)の中心軸(C1)から同心円状に離遠する距離が増大するにつれて増大傾向を示す可変性添板変形補償値を辿るものであるが、高力ボルト締付力有効領域(G1)内に現れている一定一様の高力ボルト締付力有効領域厚み寸法(d1A)に対する増し分、即ち、添板変形補償用厚み増し分(Δd1C)が、該上締付力作用領域(H1)内における該摩擦シート材(Q1a)の中心線(C5)に対して、図中、上下対称に、半量(1/2Δd1C)ずつに振り分けられて現れる。そして、図中、左右両端部に現れている高力ボルト締付力不作用領域(I1)では、上記高力ボルト締付作用領域厚み寸法(d1C)も、上記添板変形補償用厚み増し分(Δd1C)の半量(1/2Δd1C)も、一定一様の最高値に維持される点は、図5に示される第1の実施の形態の場合と同じである。
なお、ここでの実施の態様にあっては、第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の上下両側表面を覆う第1の表面処理層(Q1at)は、一定一様の厚みで形成されており、上記高力ボルト締付力作用領域厚み寸法(d1C)の一部分を構成する。この段落の上記説明の一切は、図7中で上下対称に現れている第1の下側の摩擦シート材(Q1b)に関しても、同様に成り立つこことは、言及するまでもない。
【0047】
図5に対応する図9は、本発明の第3の実施の形態の構成を示すものであり、図5中の構成要素を指し示す符号と同一の符号により指し示されている構成要素は、それぞれ同一のものである。図9において、高力ボルト締付力作用領域(H1)内の第1の上下両側の摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の上記高力ボルト締付作用領域厚み寸法(d1C)(d1D)が、上記高力ボルト締付有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に対し、上記第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の、図中、上側表面を覆う第1の表面処理層(Q1at)の上記添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)および上記第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の下側表面を覆う第2の表面処理層(Q1bt)の上記添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1D)を加えた値の各別の添板変形補償値の厚み寸法となるように、各別に、上記片側の第1、第2の表面処理層(Q1at)(Q1bt)の厚みが調整されているものである。従って、上記高力ボルト締付作用領域厚み寸法(d1C)(d1D)のうちの、上記表面処理層(Q1a)(Q1b)を除く、第1の上側、下側の摩擦シート材(Q1a)(Q1b)自体の正味の厚さは、常に上記高力ボルト締付有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に維持される。
【0048】
この場合、例えば、上記高力ボルト締付力作用領域(H1)内における第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の図中、上側の第1の表面処理層(Q1at)の厚み寸法に関し、上記高力ボルト(U1a)の中心軸(C1)から同心円状に離遠する距離が増大するにつれて増大傾向を呈するように変化する添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)を確保するものであるが、ここでの表面処理層(Q1at)の厚み寸法の変化は、該摩擦シート材の表面上に剛性を有する金属粒子層を公知の溶射技術により形成する際に、溶射位置ごとの溶射条件を制御する仕方により実現される。ここに言う公知の溶射技術には、プラズマ溶射のほか、溶線式フレーム溶射、粉末式フレーム溶射、ワイヤー溶射等が含まれる。とりわけ、プラズマ溶射のうちの大気圧プラズマ溶射は、鉄骨構等造材の接合作業現場での
適用に有利である。
【0049】
図7に対応する図10は、本発明の第4の実施の形態の構成を示すものであり、図7中の構成要素を指し示す符号と同一の符号により指し示されている構成要素は、それぞれ同一のものである。図10において、高力ボルト締付力作用領域(H1)内の第1の上下両側の摩擦シート材(Q1a)(Q1b)の上記高力ボルト締付作用領域厚み寸法(d1C)(d1D)に関しては、上記高力ボルト締付有効領域厚み寸法(d1A)(d1B)に対し、上記第1の上側の摩擦シート材(Q1a)の、図中、上下両側表面を覆う第1の表面処理層(Q1at)の上記添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1C)の上下両側表面に対称に振り分けられた半量(1/2Δd1C)および上記第1の下側の摩擦シート材(Q1b)の上下両側表面を覆う第2の表面処理層(Q1bt)の上記添板変形補償用厚み増分の寸法(Δd1D)の上下両側表面に対称に振り分けられた半量(1/2Δd1D)を各別に加えた値が、各別の添板変形補償値の厚み寸法となるように、上記上下両側の第1、第2の表面処理層(Q1at)(Q1bt)の厚みがそれぞれ調整されているものである。ここでの厚みの調整は、図9の第3の実施の形態の構成の場合と同様の溶射技術により行われる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
上述したように、本願発明の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体は、建築現場における建築用の鉄骨等構造材の骨組みの形成を確実かつ効率的に行うのに有用なものであるので、産業上の利用可能性を十分に備えている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】は、この発明の実施の形態の前提的構成である建築構造体の高力ボルト摩擦接合部構造体を示す斜視図である。
【図2】は、図1中のA−A矢視断面図である。
【図3】は、図2中のB−B矢視断面図である。
【図4】は、従前の接合部材を抽出して示す断面図である。
【図5】は、本発明の第1の実施の形態である接合部材を抽出して示す断面図である。
【図6】は、図5の構成の作動状態を拡張して表現する説明図である。
【図7】は、本発明の第2の実施の形態である接合部を抽出して示す断面図である。
【図8】は、本発明の第2の実施の形態である接合部の高力ボルト締付力作用領域を抽出して示す拡大断面図である。
【図9】は、本発明の第3の実施の態様である接合部を抽出して示す断面図である。
【図10】は、本発明の第4の実施の態様である接合部を抽出して示す断面図である。
【符号の説明】
【0052】
U1a、U1b、U2a、U2b 高力ボルト
L1 第1の母材
L2 第2の母材
L1b 第1の母材の接合部
L2b 第2の母材の接合部
S1 第1の添板
S2 第2の添板
Q1a 第1の上側の摩擦シート材
Q1b 第1の下側の摩擦シート材
P 接合部材
G1 高力ボルト締付力有効領域
H1 高力ボルト締付力作用領域
I1 高力ボルト締付力不作用領域
Q1a 第1の上側の摩擦シート材
Q1b 第1の下側の摩擦シート材
Q1at 第1の表面処理層
Q1bt 第2の表面処理層
d1A、d1B 高力ボルト締付力有効領域厚み寸法
d1C、d1D 高力ボルト締付力作用領域厚みの寸法
(添板変形補償値の厚み寸法)
Δd1C、Δd1D 添板変形補償用厚み増分の寸法
Δd1C、Δd1D 添板変形補償用厚み増分の寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に伸び、該長手方向に直交する裁断面に現れる四辺形の端面を有する第1の母材と、
長手方向に伸び、該長手方向に直交する裁断面に現れる四辺形の端面であって、上記第1の母材の端面に対し整合して当接され、又は間隙を介して対面する端面を有する第2の母材と、
上記第1の母材の端面と上記第2の母材の端面が整合して当接され、又は間隙を介して対面する母材接合部の互いに平行に対向して延在する1対の外表面を挟むようにして、上記第1第2の母材を跨いで長手方向に面的に延在する1対の添板対と、
上記母材接合部と上記1対の添板対を上記母材接合部の長手方向に直交する方向に該母材接合部と該添板対を整合的に貫通するように穿孔された高力ボルト用孔と、
上記高力ボルト用孔に貫通挿入され、上記1対の添板対を上記母材接合部の上記1対の外表面に対し、締結する高力ボルト金具と、
上記1対の添板対のうち、上記母材接合部の1つの外表面と該外表面に対面する1つの添板の内面との間に密着して介装された摩擦シート材を備え、
上記摩擦シート材には、上記高力ボルト用孔に整合し、上記高力ボルト金具の貫通を許容する摩擦シート材孔が穿設され、該摩擦シート材の該摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法が、該摩擦シート材孔の各々の中心軸から該摩擦シート材上に同心円状に広がる各々の高力ボルト締付力有効領域内では、一定一様の有効領域厚みに選定され、各々の高力ボルト締付力有効領域の範囲外にさらに該同心円状に広がる各々の高力ボルト締付力作用領域では、該有効領域厚みに対し添板変形補償用厚み増分を加えた添板変形補償値に選定されていることを特徴とする高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。
【請求項2】
上記添板変形補償値が、上記高力ボルト締付力作用領域では、上記摩擦シート材孔の中心軸からの離遠距離に応じて増大傾向を有する可変性添板変形補償値に選定されている請求項1記載の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。
【請求項3】
上記各々の高力ボルト締付力作用領域の範囲外に、上記摩擦シート材孔の各々の中心軸から該摩擦シート材上に同心円状にさらに広がる各々の高力ボルト締付力不作用領域内では、上記添板変形補償値が、上記可変性添板変形補償値の該高力ボルト締付力作用領域内での最大値に等しく一定一様に選定されている請求項2記載の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。
【請求項4】
上記摩擦シート材の上記摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法の上記可変性添板変形補償値が、上記摩擦シート材としての剛性を有する部材の該厚み寸法の中心から上記添板対の1つの添板に対面する表面までの厚み寸法と該中心から上記母材に対面する表面までの厚み寸法のいずれか一方又は双方により規定される請求項2記載の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。
【請求項5】
上記摩擦シート材として剛性を有する部材の上記添板対の1つの添板に対面する表面と上記母材に対面する表面のいずれか一方又は双方に、該表面に粗表面を形成し、摩擦係数を増大させる摩擦増強表面処理層がさらに設けられている請求項4記載の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。
【請求項6】
上記摩擦シート材の上記摩擦シート材孔の中心軸方向の厚み寸法の上記可変性添板変形補償値が、上記摩擦シート材の上記添板対の1つの添板に対面する表面と上記母材に対面する表面のいずれか一方又は双方の表面上に溶射形成された剛性を有する金属粒子層の厚み寸法により規定される請求項2の高力ボルトによる鉄骨等構造材の接合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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