説明

高力ボルト摩擦接合構造

【課題】現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能な高力ボルト摩擦接合構造を提供する。
【解決手段】複数の部材1、2、3、4を高力ボルト7、8により締め付けて接合する高力ボルト摩擦接合構造Aにおいて、部材1、2、3、4の接合面1e、2e、3c、4cが赤錆処理あるいはブラスト処理され、高力ボルト7、8によって締め付けられる部材同士(1と3、1と4、2と3、2と4)の間に、複数の繊維からなる繊維体5、6を介装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高力ボルトを用いて例えば鋼板や鉄骨などの被接合部材同士を接合する高力ボルト摩擦接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板や鉄骨などの被接合部材同士を接合する手法として、例えば被接合部材同士及び/又は被接合部材とスプライスプレート(添板)、被接合部材とフィラープレートを高力ボルトにより締め付け、各部材の接合面に生じる摩擦力によって応力伝達可能に被接合部材同士を接合する高力ボルト摩擦接合が多用されている。また、一般に、高力ボルト摩擦接合では、被接合部材、スプライスプレート、フィラープレートの接合面に赤錆処理やブラスト処理を施して所要の摩擦力が発生するようにしている。
【0003】
しかしながら、赤錆処理においては、錆生成状態にばらつきが生じやすく、ブラスト処理においては、部材の鋼種やショット粒の種類などによって多少の違いが生じるが、表面粗さ、すなわち表面凹凸の高低差が50μm程度となる。このため、各部材の接合面に赤錆処理やブラスト処理を施した場合においても、接合面の摩擦係数の増加には限界があり、一般に、処理後の接合面の摩擦係数(すべり係数)の設計値に摩擦係数0.45という低い値を設定して、すべり耐力を算出している。
【0004】
これに対し、高力ボルト、スプライスプレート等の鋼材量の削減と、現場での生産性向上を図るために、各部材の接合面の高摩擦係数化を試みる研究開発が進められている。そして、接合面の高摩擦係数化方法として、
(1)各部材の接合面の凹凸角度や硬さを調整し、接合面の性状を改善する方法
(2)鋼棒、ピアノ線、鋼線メッシュ、軟鋼などの接合補助部材を部材同士の間に介装する方法
(3)接合面に接着剤を塗布する方法
などが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0005】
ここで、高力ボルト摩擦接合における応力伝達機構は、主に凝着抵抗(部材同士の凝着)と、掘り起こし抵抗(凸部による掘り起こし)とに分けられる。そして、上記の(1)接合面の性状を改善する方法では、接合面の凹凸角度や硬さを調整して理想的な掘り起こし抵抗を実現することで高摩擦係数化を図っている。また、(2)接合補助部材を介装する方法では、各部材の接合面に接合補助部材を食い込ませ、支圧抵抗を付加することにより高摩擦係数化を図っている。(3)接合面に接着剤を塗布する方法では、接着剤による粘着抵抗を付加することにより高摩擦係数化を図っている。
【特許文献1】特開平10−18423号公報
【特許文献2】特開平11−106867号公報
【特許文献3】特開平8−177818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の(1)接合面の性状を改善する方法では、表面処理加工が難しく一般の鉄骨加工工場では加工できないため、納期、供給能力に問題が生じ、さらに加工費が高いため、コストダウンを図ることが難しいという問題がある。また、(2)接合補助部材を介装する方法では、理想的な支圧抵抗を得るために高精度で接合補助部材を配置して施工する必要があり、施工性に問題がある。さらに、(3)接合面に接着剤を塗布する方法では、現場施工性に加え、接着剤の耐久性、耐火性などに問題がある。そして、このようにいずれの方法においても現場での施工性やコストなどに問題があるため、一般に広く普及するには至っていないのが現状である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能な高力ボルト摩擦接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0009】
本発明の高力ボルト摩擦接合構造は、複数の部材を高力ボルトにより締め付けて接合する高力ボルト摩擦接合構造であって、前記部材の接合面が赤錆処理あるいはブラスト処理され、前記高力ボルトによって締め付けられる前記部材同士の間に、複数の繊維からなる繊維体が介装されていることを特徴とする。
【0010】
この発明においては、鋼板や鉄骨などの被接合部材、スプライスプレート(添板)、フィラープレートなどの複数の部材を高力ボルトで締め付けて、被接合部材同士を接合するにあたり、部材同士の間に例えば炭素繊維やバサルト繊維などの複数の繊維からなる繊維体を介装する。そして、被接合部材に荷重が作用した際に、赤錆処理あるいはブラスト処理して凹凸状に形成した部材の接合面に繊維体の繊維が絡み、繊維体によって大きな抵抗力が発揮され、接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0011】
そして、例えば構造物の補強などに使用されている補強繊維シートなどの補強繊維部材を繊維体として用いることで、安価で安定的に入手することが可能になり、このような繊維体を部材同士の間に介装し、従来と同様に高力ボルトにより締め付けるという簡便な操作で、容易に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。また、このとき、繊維体の複数の繊維の繊維方向が被接合部材に作用する荷重の作用方向の直交方向に対してずれていたとしても、繊維体の繊維を赤錆処理あるいはブラスト処理して凹凸状に形成した部材の接合面に絡ませることが可能であるため、特に高精度で繊維体を位置決めする必要がない。このため、現場での施工性を損なうことなく、繊維体によって接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0012】
また、本発明の高力ボルト摩擦接合構造においては、前記繊維体が複数の繊維を一体にしてシート状に形成されていることが望ましい。
【0013】
この発明においては、繊維体がシート状に形成されていることにより、その取扱いが容易であり、例えば構造物の補強などに使用されている補強繊維シートを繊維体に用いることで、確実に、現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0014】
さらに、本発明の高力ボルト摩擦接合構造においては、前記繊維体が前記複数の繊維の繊維方向をランダムに配して形成されてもよい。
【0015】
この発明においては、ランダムに配された繊維体の繊維が、接合面のいずれかの箇所でこの接合面の凹凸に絡み、摩擦抵抗を向上させることが可能になる。このため、繊維体を部材同士の間に介装するように設置する際に、高精度で位置決めする必要がなく、繊維がランダムに配された繊維体によって、確実に、施工性を損なうことなく、接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0016】
また、本発明の高力ボルト摩擦接合構造においては、前記繊維体が少なくとも一部の前記繊維の繊維方向を一方向に揃えて形成されており、該繊維体が、前記少なくとも一部の繊維の繊維方向を前記部材の接合面に生じる摩擦力の作用方向に直交する方向に配して、前記部材同士の間に介装されてもよい。
【0017】
この発明においては、接合面に生じる摩擦力の作用方向に、一方向に揃えた繊維の繊維方向を直交させて繊維体を部材同士の間に設置することで、上記の繊維体の複数の繊維がランダムに配されている場合と比較し、その設置に僅かながら手間が掛かる。この反面、繊維方向を摩擦力の作用方向に直交させておくことにより、被接合部材に荷重が作用した際に、赤錆処理あるいはブラスト処理して凹凸状に形成した部材の接合面にこの一方向に揃えた複数の繊維が確実に絡み、確実に大きな抵抗力を発揮させることが可能になる。これにより、接合面の摩擦係数のさらなる増大を図ることができ、効果的に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の高力ボルト摩擦接合構造によれば、複数の部材の接合面を赤錆処理あるいはブラスト処理して凹凸状にするとともに、部材同士の間に複数の繊維からなる繊維体を介装することによって、接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。そして、安価で安定的に入手できる繊維体と、通常の赤錆処理あるいはブラスト処理とを組み合わせて、接合面の高摩擦係数化を実現できるため、コストを抑えて市場に安定的に供給できる。また、繊維体を高精度で位置決めして設置する必要がないため、施工性を損なうこともない。よって、従来の接合面の性状を改善する方法、接合補助部材を介装する方法、接合面に接着剤を塗布する方法と比較し、現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造について説明する。本実施形態は、互いに突き合わせるように配置した一対の接合鋼板(被接合部材)と、これら接合鋼板を挟み込むように配置した一対のスプライスプレート(添板)の複数の部材を高力ボルトで締め付けることにより、一対のスプライスプレートを介して接合鋼板同士を接合する高力ボルト摩擦接合構造に関するものである。
【0020】
本実施形態の高力ボルト摩擦接合構造Aは、図1に示すように、接合する一対の接合鋼板(部材)1、2と、スプライスプレート(部材)3、4と、繊維体5、6と、高力ボルト7、8と、ナット9、10とを備えて構成されている。
【0021】
一対の接合鋼板1、2は、互いの一端部1a、2a同士を突き合わせるように間隔をあけて平行配置されている。また、これら一対の接合鋼板1、2にはそれぞれ、一端部1a、2aから間隔をあけた所定位置に、キリ孔のボルト挿通孔1b、2bが一面1c、2cから他面1d、2dに貫通形成されている。また、各接合鋼板1、2は、一面1c、2c及び他面1d、2dの一端部1a、2a側の接合面1e、2eがブラスト処理(あるいは赤錆処理)され、高低差が50μm程度の凹凸状に形成されている。
【0022】
スプライスプレート3、4は、一対の接合鋼板1、2の一端部1a、2a側を挟み込むように、一対の接合鋼板1、2のそれぞれの外側に配置されている。また、これらスプライスプレート3、4にはそれぞれ、一方の接合鋼板1のボルト挿通孔1bと他方の接合鋼板2のボルト挿通孔2bに連通する2つのボルト挿通孔3a、3b、4a、4bが所定の間隔をあけて一面(接合面)3c、4cから他面3d、4dに貫通形成されている。また、各スプライスプレート3、4は、一面3c、4cがブラスト処理(あるいは赤錆処理)され、高低差が50μm程度の凹凸状に形成されている。
【0023】
一方、繊維体5、6は、図1及び図2に示すように、例えば炭素繊維やバサルト繊維などの高強度の複数の繊維5a、6aを、その繊維方向Tを一方向に揃えて一体にし、シート状に形成されている。また、繊維体5、6の繊維5a、6aは、例えば10μm程度の径で形成されている。さらに、この繊維体5、6には、一対の接合鋼板1、2と一対のスプライスプレート3、4のボルト挿通孔1b、2b、3a、3b、4a、4bに連通する2つのボルト挿通孔5b、5c、6b、6cが所定の間隔をあけて貫通形成されている。
【0024】
そして、本実施形態の高力ボルト摩擦接合構造Aによって一対の接合鋼板1、2同士を接合する際には、図1に示すように、はじめに、一方の接合鋼板1の一端部1aに他方の接合鋼板2の一端部2aを突き合わせるように、一対の接合鋼板1、2を所定位置に配置する。ついで、各接合鋼板1、2と互いのボルト挿通孔1b、2b、5b、5c、6b、6cを連通させるように、各接合鋼板1、2の一面1c、2c側及び他面1d、2d側にそれぞれ、繊維体5、6を重ねて設置する。このとき、繊維体5、6の一方向に揃えた繊維5a、6aの繊維方向Tが、接合鋼板1、2の接合面1e、2eに生じる摩擦力の作用方向Hに直交する方向に配されるように、繊維体5、6を設置する。なお、本実施形態においては、接合鋼板1、2と互いのボルト挿通孔1b、2b、5b、5c、6b、6cを連通させるように繊維体5、6を所定位置に設置するとともに、一方向に揃えた繊維5a、6aの繊維方向Tが、自ずと接合鋼板1、2の接合面1e、2eに生じる摩擦力の作用方向Hに直交する方向に配されることになる。よって、繊維体5、6を設置する際には、特に高精度で位置決めを行う必要はない。
【0025】
また、これとともに、一対の接合鋼板1、2を挟み込むように、接合鋼板1、2の外側からスプライスプレート3、4を設置する。このとき、各スプライスプレート3、4を、ブラスト処理を施した一面(接合面)3c、4cが一対の接合鋼板1、2の接合面1e、2eに対向するように設置する。このようにスプライスプレート3、4を所定位置に設置することによって、スプライスプレート3、4の接合面3c、4cと一対の接合鋼板1、2の接合面1e、2eとの間に繊維体5、6が介装される。また、この状態で、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4と繊維体5、6のボルト挿通孔(1bと3aと4aと5bと6b/2bと3bと4bと5cと6c)が連通する。
【0026】
ついで、スプライスプレート3、4と繊維体5、6を設置した段階で、一方のスプライスプレート3の他面3d側から、高力ボルト7、8の軸部7a、8aを互いに連通するボルト挿通孔(1bと3aと4aと5bと6b/2bと3bと4bと5cと6c)に挿通する。また、他方のスプライスプレート4の他面4dから外側に突出した高力ボルト7、8の軸部7a、8aの先端側にナット9、10を螺合し、高力ボルト7、8の軸部7a、8aに所定の導入軸力が生じるように、高力ボルト7、8とナット9、10を締結する。
【0027】
そして、高力ボルト7、8とナット9、10を締結した段階で、スプライスプレート3、4の接合面3c、4cが一対の接合鋼板1、2の接合面1e、2eを押圧するように、一対の接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4とが高力ボルト7、8により締め付けられ、スプライスプレート3、4、高力ボルト7、8、ナット9、10を介して一対の接合鋼板1、2が接合される。また、このとき、一対の接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の接合面1e、2e、3c、4cがブラスト処理され、これら接合面1e、2e、3c、4cが50μm程度の高低差で凹凸状に形成されている。このため、一対の接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の間に介装した繊維体5、6の繊維5a、6aが接合面1e、2e、3c、4cの凹部に入り込んだ状態で、一対の接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4とが接合することになる。
【0028】
これにより、接合鋼板1、2に荷重が作用し、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の接合面1e、2e、3c、4cに摩擦力が発生する際には、ブラスト処理して凹凸状に形成した接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の接合面1e、2e、3c、4cに繊維体5、6の繊維5a、6aが絡み、繊維体5、6によって大きな抵抗力が発揮される。よって、接合面1e、2e、3c、4cの摩擦抵抗が向上し、確実に且つ好適に一対の接合鋼板1、2の間で応力伝達が行われる。
【0029】
また、本実施形態においては、繊維体5、6が、一方向に揃えた繊維5a、6aの繊維方向Tを、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の接合面1e、2e、3c、4cに生じる摩擦力の作用方向Hに直交する方向に配して、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の間に介装されている。このため、接合鋼板1、2に荷重が作用した際に、接合面1e、2e、3c、4cにこの一方向に揃えた複数の繊維5a、6aが確実に絡み、確実に大きな抵抗力が発揮される。これにより、接合面1e、2e、3c、4cの摩擦係数が確実に増大する。
【0030】
したがって、本実施形態の高力ボルト摩擦接合構造Aにおいては、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の接合面1e、2e、3c、4cをブラスト処理(あるいは赤錆処理)するとともに、接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の間に繊維体5、6を介装することによって、接合鋼板1、2に荷重が作用した際に、接合面1e、2e、3c、4cに繊維体5、6の繊維5a、6aが絡み、繊維体5、6によって大きな抵抗力が発揮され、接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0031】
そして、例えば構造物の補強などに使用されている補強繊維シートなどの補強繊維部材を繊維体5、6として用いることで、安価で安定的に入手することが可能になり、このような繊維体5、6を接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4の間に介装し、従来と同様に高力ボルト7、8で締め付けるという簡便な操作で、容易に接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0032】
また、繊維体5、6がシート状に形成されていることにより、その取扱いが容易になり、例えば構造物の補強などに使用されている補強繊維シートを繊維体5、6に用いることで、確実に、現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0033】
さらに、接合面1e、2e、3c、4cに生じる摩擦力の作用方向Hに、一方向に揃えた繊維5a、6aの繊維方向Tを直交させて繊維体5、6を介装することにより、接合鋼板1、2に荷重が作用した際に、ブラスト処理した接合面1e、2e、3c、4cにこの一方向に揃えた複数の繊維5a、6aが確実に絡み、確実に大きな抵抗力を発揮させることが可能になる。これにより、接合面1e、2e、3c、4cの摩擦係数の増大を確実に図ることができ、効果的に接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0034】
一方、繊維体5、6の複数の繊維5a、6aの繊維方向Tが接合鋼板1、2に作用する荷重の作用方向Hの直交方向に対してずれていたとしても、繊維体5、6の繊維5a、6aをブラスト処理した接合面1e、2e、3c、4cに絡ませることが可能であるため、特に高精度で繊維体5、6を位置決めする必要がない。このため、現場での施工性を損なうことなく、繊維体5、6によって接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を図ることが可能である。
【0035】
よって、本実施形態の高力ボルト摩擦接合構造Aによれば、安価で安定的に入手できる繊維体5、6と、通常のブラスト処理(あるいは赤錆処理)とを組み合わせて、接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を実現できるため、コストを抑えて市場に安定的に供給できる。また、繊維体5、6を高精度で位置決めして設置する必要がないため、施工性を損なうこともない。これにより、従来の接合面の性状を改善する方法、接合補助部材を介装する方法、接合面に接着剤を塗布する方法と比較し、現場での施工性を損なうことなく、且つ安価に接合面1e、2e、3c、4cの高摩擦係数化を図ることが可能になる。
【0036】
以上、本発明に係る高力ボルト摩擦接合構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、互いの一端部1a、2aを突き合わせるように一対の接合鋼板1、2を配置し、接合鋼板1、2を挟み込むようにスプライスプレート3、4を配置して、高力ボルト7、8により接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4を締め付けることによって接合するものとした。すなわち、本発明に係る複数の部材が一対の接合鋼板1、2と一対のスプライスプレート3、4であるものとして説明を行った。これに対し、例えば一対の接合鋼板1、2を重ね合わせ、高力ボルトによりこれら接合鋼板1、2同士を締め付けて接合したり、対向配置した一対の接合鋼板1、2の間にフィラープレートを介装し、これら一対の接合鋼板1、2をさらに接合鋼板で挟み込んで、各接合鋼板とフィラープレートを高力ボルトで締め付けて接合する場合などに、本発明を適用してもよく、特に本発明に係る複数の部材を接合鋼板1、2とスプライスプレート3、4に限定する必要はない。
【0037】
また、本実施形態では、繊維体5、6が、複数の繊維5a、6aを一方向に揃え一体にしてシート状に形成されているものとしたが、本発明に係る繊維体は、例えば複数の繊維を、直交する二方向に繊維方向Tを配して(クロス状にして)シート状に形成してもよく、この場合には、二方向のうち一方の方向に揃えた繊維の繊維方向Tが接合面1e、2e、3c、4cに生じる摩擦力の作用方向Hに直交するように繊維体を介装することで、本実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0038】
さらに、本発明に係る繊維体は、複数の繊維の繊維方向Tをランダムに配して形成されてもよい。この場合には、ランダムに配された繊維体の繊維が、接合面のいずれかの箇所で接合面の凹凸に絡み、摩擦抵抗を向上させることが可能になる。このため、繊維体を部材同士の間に介装するように設置する際に、高精度で位置決めする必要がなく、繊維がランダムに配された繊維体によって、確実に、施工性を損なうことなく、接合面の高摩擦係数化を図ることが可能になる。すなわち、本実施形態のように、繊維体5、6の複数の繊維5a、6aの繊維方向Tが接合鋼板1、2に作用する荷重の作用方向Hの直交方向に配されていなくても、繊維体5、6の繊維5a、6aをブラスト処理(あるいは赤錆処理)した接合面1e、2e、3c、4cに絡ませることが可能であるため、繊維体が複数の繊維の繊維方向Tをランダムに配して形成されても、本実施形態と同様に、接合面の高摩擦係数化を図ることが可能である。
【0039】
また、本実施形態では、繊維体5、6にボルト挿通孔5b、5c、6b、6cが形成されているものとしたが、高力ボルト7、8の挿通時に、繊維5a、6aをより分けて繊維体5、6に高力ボルト7、8を挿通させてもよく、必ずしも繊維体5、6にボルト挿通孔5b、5c、6b、6cが形成されていなくてもよい。
【0040】
さらに、本発明に係る高力ボルト摩擦接合構造で接合する被接合部材(部材)が接合鋼板であるものとしたが、例えば鉄骨など他の被接合部材を接合するために本発明を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る高力ボルト摩擦接合構造の繊維体を示す平面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 接合鋼板(部材)
1e 接合面
2 接合鋼板(部材)
2e 接合面
3 スプライスプレート(添板、部材)
3c 接合面
4 スプライスプレート(添板、部材)
4c 接合面
5 繊維体
5a 繊維
6 繊維体
6a 繊維
7 高力ボルト
7a 軸部
8 高力ボルト
8a 軸部
9 ナット
10 ナット
A 高力ボルト摩擦接合構造
H 接合面に生じる摩擦力の作用方向
T 繊維方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部材を高力ボルトにより締め付けて接合する高力ボルト摩擦接合構造であって、
前記部材の接合面が赤錆処理あるいはブラスト処理され、前記高力ボルトによって締め付けられる前記部材同士の間に、複数の繊維からなる繊維体が介装されていることを特徴とする高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の高力ボルト摩擦接合構造において、
前記繊維体が複数の繊維を一体にしてシート状に形成されていることを特徴とする高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の高力ボルト摩擦接合構造において、
前記繊維体が前記複数の繊維の繊維方向をランダムに配して形成されていることを特徴とする高力ボルト摩擦接合構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の高力ボルト摩擦接合構造において、
前記繊維体が少なくとも一部の前記繊維の繊維方向を一方向に揃えて形成されており、
該繊維体が、前記少なくとも一部の繊維の繊維方向を前記部材の接合面に生じる摩擦力の作用方向に直交する方向に配して、前記部材同士の間に介装されていることを特徴とする高力ボルト摩擦接合構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−7722(P2010−7722A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165764(P2008−165764)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】