説明

高効率の有機発光素子およびその製造方法

【課題】電圧面および効率面で共に優れた効果を示す有機発光素子を目的とする。
【解決手段】本発明は、第1電極、第2電極、およびこれら2つの電極の間に配置された発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を含む有機発光素子であって、前記有機物質層が、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を含み、前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層は、HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質と、LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とを共に含む有機発光素子、およびその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高効率有機発光素子、およびその製造方法に関するものである。具体的には、本発明は、正孔注入および/または輸送層にLUMOエネルギーレベルの低い物質が組み入れられた高効率の有機発光素子、およびその製造方法に関するものである。
本出願は2006年3月14日に韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2006−0023608号の優先権の利益を主張し、その内容全体を本明細書に組み込む。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子は印加された電圧による電流によって発光する電子素子である。Tang.らは論文[Applied Physics Letters 51、p.913、1987]で良好な特性の有機発光素子を報告した。さらに、この論文に開示された有機発光素子の構造を利用しつつ、高分子物質を用いた有機発光素子が開発されている。
前記のような先行技術の核心は、有機発光素子中の有機物質層が、発光過程、すなわち電子注入、電子輸送、光励起子形成、および発光過程の役割をそれぞれ独自に分担することである。したがって、最近では、図1に示すように、陽極7、正孔注入層6、正孔輸送層5、発光層4、電子輸送層3、電子注入層2、陰極1を含む有機発光素子、あるいはそれ以上の層を用いるさらに複雑な構造の有機発光素子が用いられている。
【0003】
前記有機発光素子の構造中、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層については、有機物質の導電率(conductivity)を向上させるために、様々な物質をドーピングする研究がなされている{日本特開2000−196140号公報、論文[Applied Physics Letters、73、p.729−731、1998]、論文[Applied Physics Letters、72、pp.2147−2149、1998]、米国特許第5,093,698号、国際公開第01/67825号}。
【0004】
前記文献は、ドーピングによって単に電子輸送層または電子注入層の導電率を増加させることによる高効率を有する素子を提唱している。例えば、国際公開第01/67825号には、正孔輸送層を、200g/mol以上の高い分子量を有するアクセプタ型の安定な有機分子材料を用いて(1:110〜10000の低いドーピング濃度で)p−ドーピングすると、そのような手順を適用しない場合より正孔導電率が増加することが記載されている。同様に、電子輸送層を、分子量の高いドナー型の安定な分子でn−ドーピングすると、同様の結果が得られることが記載されている。
【0005】
一方、現在の有機発光素子においては、電子輸送層から電子が発光層に入る程度が正孔輸送層から正孔が発光層に入る程度より小さいため、正孔輸送層の導電率を減少させることによって素子効率を高めることが可能になっている[Applied Physics letters、86、203507、2005]。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/67825号
【0007】
【非特許文献1】Applied Physics Letters 51、p.913、1987
【非特許文献2】Applied Physics letters、86、203507、2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記文献には大きなエネルギーバンドギャップを有する正孔輸送層[N,N’−ビス−(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)、HOMO:−5.5eV、LUMO:−2.4eV]に、小さなエネルギーバンドギャップを有する正孔注入層[銅フタロシアニン(CuPC)、HOMO:−5.1eV、LUMO:−3eV]をドーピングしたものが記載されている。このような素子における効率の増加は、CuPCのHOMO(最高被占分子軌道)エネルギーレベルを用いて正孔をトラップさせることによって、発光層に入る正孔と電子との比に応じて効率を増加させることに起因している。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、有機発光素子の正孔注入層および/または輸送層を、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質に加えて、従来有機発光素子の正孔注入および/または輸送物質として用いられてきたHOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質を用いて形成させることよって、高効率の有機発光素子を得ることができることを見出した。
【0010】
そこで、本発明は、正孔注入および/または輸送層が、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に含む有機発光素子、およびその製造方法を提供することをその目的とする。
本発明では、有機発光素子の正孔注入および/または輸送層の材料として、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と、従来有機発光素子の正孔注入および/または輸送物質として用いられてきたHOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に用いることによって、高い効率を有する有機発光素子を製造することができる。
【0011】
本発明は、第1電極、第2電極、およびこれら2つの電極の間に配置された発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を含む有機発光素子において、
前記有機物質層が、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を含み、
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層が、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に含む、有機発光素子を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、
第1電極を準備するステップ、
第1電極上に発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を形成させるステップ、および
前記有機物質層上に第2電極を形成させるステップ
を含む有機発光素子の製造方法であって、
前記有機物質層を形成させるステップが、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップを含み、
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップが、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に用いて層を形成させるステップを含むことを特徴とする、有機発光素子の製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、有機発光素子の構造を例示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、有機物質層として正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を含み、これらの層は、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と、従来正孔注入および/または輸送物質として用いられてきたHOMOエネルギーレベルが−4eV以下の物質とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明において、HOMOエネルギーレベルおよびLUMOエネルギーレベルは当技術分野で公知の装置または計算方法によって得ることができる。例えば、HOMOエネルギーレベルは、UPS(紫外光電子放出分光法)またはRiken Keiki社(日本)のAC−2装置を用いて測定することができる。さらに、LUMOエネルギーレベルは、IPES(逆光電子放出分光法)を用いて測定するか、HOMOエネルギーレベルを測定した後、この値から光学バンドギャップを減じて計算することができる。
【0016】
本発明において、前記HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質は、従来正孔注入物質または輸送物質として用いられているものであれば特に制限されない。
【0017】
HOMOエネルギーレベルの限定は、隣接する電極の仕事関数に基づく。したがって−4eV以下のHOMOエネルギーレベルを有する物質を用いる場合、その物質にドーピングされるLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質は、電荷生成中心(charge generation center)としての役割をする。この場合、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質の電荷は、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質にジャンプして、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質には正孔が残り、トラッピング(trapping)現象が優先し、移動度の調節効果が2次的に現れる。
【0018】
さらに、この物質のHOMOエネルギーレベルは、−9eV以上であることが好ましい。前記正孔注入または輸送物質としては、アミン基を含む有機物を用いることが好ましい。
【0019】
HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質の具体的な例としては、N,N’−ビス−(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)(−5.5eV)、およびN,N’−ジフェニル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)(−5.2eV)等が挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0020】
本発明において、LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質は、そのLUMOエネルギーレベルによって、有機発光素子中の正孔注入および/または輸送層の導電率を調節することができる。具体的には、前記LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質は、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質の正孔をトラッピングできるLUMOエネルギーレベルを有するため、正孔注入および/または輸送層の導電率を減少させる役割をし、これによって素子の効率を向上させられると考えられる。
【0021】
本発明において、LUMOエネルギーレベルが−4eV以下でさえあれば、この物質の種類は特に限定されるものではない。前記LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質はLUMOエネルギーレベル−5eV以下であることがより好ましい。さらに、前記物質のLUMOエネルギーレベルは−9eV以上であることが好ましい。この物質が前記範囲内のLUMOエネルギーレベルを有する場合、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とバランスをとり、正孔注入および/または輸送層の導電率を適切に減少させることによって素子の効率をより向上させることができる。
【0022】
このような物質の具体的な例としては、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素置換されたNTCDA、シアノ置換されたNTCDA、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルなどが挙げられるが、これらの例だけに限定されるものではない。
【0023】
本発明の有機発光素子において、正孔注入および/または輸送層中ののHOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質の比は特に限定されるものではなく、それぞれの物質が単独で用いられる場合に比べて駆動電圧が増加する比率で用いることができる。このような混合比率は、混合される物質の種類、素子の製作または駆動条件などに応じて当業者が選択することができる。例えば、HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質としてNPBを用いる場合、LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質としてヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを20体積%〜80体積%の範囲で混合することができる。
【0024】
HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に用いて正孔注入および/または輸送層を形成させる方法は、特に限定されるものではなく、当技術分野で公知の方法を利用することができる。例えば、上述した物質を混合して溶液法でコーティングする方法、もしくは上述した物質を共に蒸着する方法、または他の方法によって、正孔注入および/または輸送層を形成させることができる。コーティング方法としては、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、スクリーン印刷、インクジェット印刷または熱転写法などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0025】
本発明に係る有機発光素子において、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを含む層の厚さは、1nm〜100nmが好ましく、10nm〜60nmがより好ましい。
【0026】
本発明に係る有機発光素子は、その正孔注入および/または輸送層が、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質を、従来の正孔注入および/または輸送物質として用いられるHOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と共に含むことを除いて、当技術分野で公知の構造を有し得る。
【0027】
本発明に係る有機発光素子において、前記正孔注入および/または輸送層は、無機物質をさらに含むことができる。無機物質は、金属または金属酸化物であることが好ましい。この無機物質の仕事関数は、6eV以下、好ましくは2.5eV以上であって6eV以下であることが好ましい。仕事関数が6eV以下である無機物質の具体的な例としては、Au(5.1eV)、Pt(5.6eV)、Al(4.2eV)、Ag(4.2eV)、Li(2.9eV)等を挙げることができる。
【0028】
本発明に係る有機発光素子は、第1電極、第2電極、およびこれら2つの電極の間に配置された有機物質層を含む構造であって、
前記有機物質層は、正孔注入および/または輸送層と、発光層とだけを含むことができ、あるいは、追加の有機物質層(例えば、電子輸送層、電子注入層、正孔または電子阻止層、およびバッファー層)から選択される1以上の層をさらに含むことができる。
【0029】
例えば、本発明の有機発光素子は、基板、正孔注入電極、正孔注入および/または輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入電極が順次積層された構造を有していてよい。このような構造の有機発光素子は、順方向構造を有する有機発光素子と呼ばれるが、本発明はこれに限定されず、逆方向構造を有する有機発光素子も含む。すなわち、本発明の有機発光素子は、基板、電子注入電極、電子輸送層、発光層、正孔注入および/または輸送層、および正孔注入電極が順次積層された構造を有することもできる。
【0030】
本発明に係る有機発光素子の製造方法は、
第1電極を準備するステップ、
第1電極上に発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を形成させるステップ、および
前記有機物質層上に第2電極を形成させるステップ
を含み、
前記有機物質層を形成させるステップが、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップを含み、
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップが、HOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とLUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に用いて層を形成させるステップを含む。
【0031】
本発明に係る有機発光素子は、正孔注入および/または輸送層を、LUMOエネルギーレベル−4eV以下の物質と、従来の正孔注入または輸送物質として用いられるHOMOエネルギーレベル−4eV以下の物質とを共に用いて形成させることを除いて、当技術分野で公知の方法および材料を用いて製造することができる。
【0032】
例えば、本発明に係る有機発光素子は、例えば、スパッタリング(sputtering)や電子ビーム蒸着(e−beam evaporation)等のPVD(物理蒸着法:physical vapor deposition)方法を用いて基板上に金属、もしくは導電性を有する金属酸化物、またはこれらの合金を蒸着させて陽極を形成し、この陽極上に有機物質層を形成させた後、その上に陰極として用いることのできる物質を蒸着させることによって製造することができる。あるいは、逆方向構造を有する有機発光素子を製作するために、上述と同様に、基板上に陰極物質、有機物質層、および陽極物質を順次蒸着させて有機発光素子を製作することもできる。
【0033】
本発明に係る有機発光素子中の有機物質層は、多様な高分子素材を用いて蒸着法ではない溶媒工程(solvent process)、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、スクリーン印刷、インクジェット印刷または熱転写法などの方法によって、さらに少ない数の層を有するように製造することができる。
【0034】
本発明に係る有機発光素子の電極の正孔注入電極物質としては、有機物質層への正孔注入を容易にするために、仕事関数の大きい物質が好ましい。本発明に用いることができる正孔注入電極物質の具体的な例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金等の金属またはこれらの合金;酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)等の金属酸化物;ZnO:AlまたはSnO:Sb等の金属と酸化物の組み合わせ;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ[3,4−(エチレン−1,2−ジオキシ)チオフェン](PEDT)、ポリピロール、およびポリアニリン等の導電性高分子が挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0035】
本発明に係る有機発光素子の電極の電子注入電極物質としては、有機物質層への電子注入を容易にするために、仕事関数の小さい物質であることが好ましい。陰極物質の具体的な例としては、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズ、および鉛等の金属またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Al等の多層構造物質などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0036】
発光物質は、正孔輸送層からの正孔と電子輸送層からの電子とを受容し再結合させることによって可視光線領域の光を放出可能な物質であって、蛍光や燐光への高い量子効率を有する物質が好ましい。具体的な例としては、8−ヒドロキシ−キノリンアルミニウム錯体(Alq);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10−ヒドロキシベンゾキノリン−金属化合物;ベンゾオキサゾール系、ベンゾチアゾール系、およびベンゾイミダゾール系の化合物;ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン系、ルブレン系化合物等が挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0037】
電子輸送物質は、電子注入電極からの電子を発光層に輸送することができる物質であって、電子移動度の高い物質が適している。具体的な例としては、8−ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;およびヒドロキシフラボン−金属錯体などが挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0038】
以下に、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を例示するためのものであって、これらによって本発明の範囲が制限されるものではない。
【実施例】
【0039】
[実施例1]
ガラス基板上に正孔注入電極として透明電極(酸化インジウムスズ)を100nmの厚さに蒸着し、これに真空状態で熱を加えた。この上に、正孔注入および輸送層として、下記化学式1の化合物(HOMO:約−5.33eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリル(LUMO:約−5.5〜−6eV)を40体積%ドーピングしたものを、60nmの厚さに蒸着した。この上に、正孔輸送および電子阻止層として、N,N’−ビス−(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPB)を20nmの厚さに蒸着した。この上に発光層として、トリス(8−ヒドロキシキノリノ)アルミニウム(Alq)および10−(2−ベンゾチアゾリル)−1,1,7,7−テトラメチル−2,3,6,7−テトラヒドロ−1H,5H,11H−[1]ベンゾピラノ[6,7,8−ij]−キノリジン−11−オン)(C545t)を25nmの厚さに蒸着した。この上に電子輸送および注入層として、トリス(8−ヒドロキシキノリノ)アルミニウム(Alq)を25nmの厚さに蒸着した。この上に電子注入層としてLiFを1nmの厚さに蒸着した後、この上に電子注入電極としてアルミニウム(Al)を150nmの厚さに蒸着して、有機発光素子を製作した。
【0040】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は10.97Vであり、電流効率は9.92cd/Aであった。
【0041】
【化1】

【0042】
[実施例2]
正孔注入および輸送層の厚さを10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを40nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0043】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は7Vであり、電流効率は9.95cd/Aであった。
【0044】
[実施例3]
正孔注入および輸送層としてNPB(HOMO:約−5.5eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを40体積%ドーピングしたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0045】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は7.73Vであり、電流効率は10.11cd/Aであった。
【0046】
[実施例4]
正孔注入および輸送層として下記化学式2の化合物(HOMO:約−5.3eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを40体積%ドーピングしたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0047】
【化2】

【0048】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は7.2Vであり、電流効率は9.5cd/Aであった。
【0049】
[実施例5]
正孔注入および輸送層として下記化学式3の化合物(HOMO:約−5.2eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを40体積%ドーピングしたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0050】
【化3】

【0051】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は6.9Vであり、電流効率は9.4cd/Aであった。
【0052】
[実施例6]
正孔注入および輸送層として下記化学式4の化合物(HOMO:約−5.4eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを40体積%ドーピングししたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0053】
【化4】

【0054】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は8Vであり、電流効率は10.6cd/Aであった。
【0055】
[実施例7]
正孔注入および輸送層として下記化学式5の化合物(HOMO:約−5.4eV)にヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルを40体積%ドーピングしたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0056】
【化5】

【0057】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は7.4Vであり、電流効率は9.8cd/Aであった。
【0058】
[実施例8]
正孔注入および輸送層としてNPB物質(HOMO:−5.5eV程度)に下記化学式6の化合物(LUMO:約−5.0〜−5.3eV)を40体積%ドーピングしたものを厚さ10nmに蒸着し、正孔輸送および電子阻止層の厚さを30nmに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0059】
【化6】

【0060】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は8.4Vであり、電流効率は9.5cd/Aであった。
【0061】
[比較例1]
正孔注入および輸送層として前記化学式1の化合物のみを60nmの厚さに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0062】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は6.93Vであり、電流効率は7.74cd/Aであった。
【0063】
[比較例2]
正孔注入および輸送層としてNPB物質のみを60nmの厚さに蒸着したことを除いて実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0064】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は7.55Vであり、電流効率は8.5cd/Aであった。
【0065】
[比較例3]
正孔注入および輸送層としてヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルのみを60nmの厚さに蒸着したことを除いて、実施例1と同様の方法で有機発光素子を製作した。
【0066】
製造された素子は、100mA/cmの電流密度で電圧は6.3Vであり、電流効率は6.9cd/Aであった。
【0067】
実施例1〜8の結果より、有機発光素子においてHOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とLUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とを共に用いて、正孔注入および/または輸送層を形成させると、高効率を有する素子を実現することができるという事実が確認された。
【0068】
比較例1、3の結果と実施例1の結果との比較、および比較例2の結果と実施例3の結果との比較から、上述した2つの物質を正孔注入および/または輸送層物質として用いた実施例の素子は、正孔注入および輸送層物質として1つの物質のみを用いた比較例の素子に比べて効率面で有利な特性を示した。
【0069】
実施例2の素子は、比較例1の素子に比べて電圧および効率面共に優れた効果を示した。
【符号の説明】
【0070】
1 陰極
2 電子注入層
3 電子輸送層
4 発光層
5 正孔輸送層
6 正孔注入層
7 陽極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第2電極、およびこれら2つの電極の間に配置された発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を含む有機発光素子であって、
前記有機物質層が、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を含み、
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層が、HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質と、LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とを共に含む、有機発光素子。
【請求項2】
前記HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質が、アミン基を有する有機物を含む、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項3】
前記HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質は、HOMOエネルギーレベルが−9eV以上である、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項4】
前記LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質は、LUMOエネルギーレベルが−9eV以上である、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項5】
前記LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素置換されたNTCDA、シアノ置換されたNTCDA、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)、およびヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項6】
前記LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質が、ヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルである、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項7】
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層が、無機物質をさらに含む、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項8】
前記無機物質が、金属または金属酸化物である、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項9】
前記無機物質が、2.5eV以上6eV以下の仕事関数を有する、請求項7に記載の有機発光素子。
【請求項10】
正孔注入電極、発光層をはじめとする2層以上の有機物質層、および電子注入電極が下方から順次積層された順方向構造を有する、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項11】
電子注入電極、発光層をはじめとする2層以上の有機物質層、および正孔注入電極が下方から順次積層された逆方向構造を有する、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項12】
前記有機物質層が、電子注入層、電子輸送層、電子注入および輸送層、電子阻止層、正孔阻止層、およびバッファー層のうちから選択される1以上の層を含む、請求項1に記載の有機発光素子。
【請求項13】
第1電極を準備するステップ、
第1電極上に発光層をはじめとする2層以上の有機物質層を形成させるステップ、および
前記有機物質層上に第2電極を形成させるステップ
を含む有機発光素子の製造方法であって、
前記有機物質層を形成させるステップが、正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップを含み、
前記正孔注入層、正孔輸送層、および正孔注入と輸送とを同時に行う層のうちの少なくとも1つの層を形成させるステップが、HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とLUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とを共に用いて層を形成させるステップを含むことを特徴とする、有機発光素子の製造方法。
【請求項14】
前記HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質が、アミン基を有する有機物を含む、請求項13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項15】
前記HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質は、HOMOエネルギーレベルが−9eV以上である、請求項13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項16】
前記LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質は、LUMOエネルギーレベルが−9eV以上である、請求項13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項17】
前記LUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質が、2,3,5,6−テトラフルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4TCNQ)、フッ素置換された3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)、シアノ置換されたPTCDA、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)、フッ素置換されたNTCDA、シアノ置換されたNTCDA、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン(HAT)、およびヘキサアザトリフェニレンヘキサカルボニトリルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項13に記載の有機発光素子の製造方法。
【請求項18】
前記HOMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とLUMOエネルギーレベルが−4eV以下である物質とを共に用いて層を形成させるステップが、スピンコーティング、ディップコーティング、ドクターブレード、スクリーン印刷、インクジェット印刷、または熱転写法によって行われる、請求項13に記載の有機発光素子の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−186496(P2012−186496A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−113372(P2012−113372)
【出願日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【分割の表示】特願2009−500291(P2009−500291)の分割
【原出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】