説明

高収率パルプの製造方法

本発明は、高収率パルプの製造方法において、a) リグノセルロース含有物質を、実質的にオゾン及び二酸化塩素を含まない少なくとも1の非酵素の酸化剤及び活性化剤を含む酸化系により約2〜約6.5のpHにおいて化学的に処理すること;及びb) リグノセルロースを含む物質を、高収率パルプを製造するのに十分な時間、機械的に処理することを含み、ここで該リグノセルロース含有物質は任意の機械処理段階の前及び/又はその間に化学的に処理され、かつリグノセルロース含有物質は、段階a)及びb)の間において、約11.5〜約14のpHにおいて、化学的に処理されない方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリグノセルロース含有物質から高収率パルプを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロース製品の高められた生産及び効率的な利用は、パルプ及び紙産業ならびに社会の両者にとって非常に重要な問題である。メカニカル及びケミメカニカルパルプの生産は、世界の天然資源を効率的に使用する方法である、なぜならこれらの製造方法の収率は高く、環境影響が比較的低いからである。機械的及び化学機械的パルプ化は、世界の総バージンフィブリル生産の約25%を構成する。機械的パルプ化法の一つの欠点は、世界の製紙のエネルギー需要の約20%を占める高いエネルギー消費である。エネルギーだけで、世界のどこにメカニカルパルプミルがあるかに依存して、サーモメカニカルパルプ(TMP)の総製造コストの25〜50%を占める。TMPミルにおいて、エネルギーの約80%がメインラインリファイニング(一次、二次等)、リジェクト及び低コンシステンシーリファイニングの間に消費される。エネルギーの残りは、ポンプ、攪拌機、スクリーン、ブローワー、ファン、及び機械ドライブにおいて消費される。これは、エネルギーの大部分は、フィブリルの分離及び決められた用途に適するようにするためにフィブリルを展開させるために使用されることを意味する。したがって、エネルギーの消費を減少させる適切な方法を見つけることは非常に重要である。しかし、メカニカルパルプの製造の間のエネルギー消費を減少させる方法は、もし、同時に、パルプ又は紙の強度が実質的に減少される、又は環境的な影響が実質的に損なわれるならば、従来の製品にとっては、利益が制限される。
【0003】
欧州特許出願公開第494519号は、アルカリ性過酸化物溶液であって過酸化物のための安定化剤を含むものでチップを含浸し、続いて機械的脱フィブリル化(defibration)することを含む方法に関する。上記方法において木材のチップは過酸化物含浸の前に前処理される。しかし、欧州特許出願公開第494519号の方法は、大変な資本投下を含み、維持されたパルプの収率及びパルプの性質を有し、十分なエネルギー節約をもたらさない。
【0004】
本発明の一つの目的は、高収率パルピング方法に組み込むことが簡単で、かつ製造されたパルプのフィブリル長又は強度の性質を実質的に減少させることない方法においてエネルギー消費を減少させることである。本発明のさらなる目的は、パルプ収率を許容できるレベルに維持しながら、そのような方法を提供することである。本発明のさらなる意図は、かなりの資本の投下の必要なしに、促進された方法を提供することである。さらなる目的は、得られた高収率パルプの性質、例えば強度の性質を改善しつつ、又は少なくとも実質的に影響を与えずにアルカリ処理段階なしの方法を提供することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、高収率パルプを製造する方法において、
a)リグノセルロース含有物質を、実質的にオゾン及び二酸化塩素を含まない少なくとも1の非酵素の酸化剤及び活性化剤を含む酸化系により約2〜約6.5のpHにおいて化学的に処理すること;及び
b)リグノセルロースを含む物質を、高収率パルプを製造するのに十分な時間の間、機械的に処理すること、ここでリグノセルロース含有物質は何らかの機械処理段階の前及び/又はその間に化学的に処理され、かつリグノセルロース含有物質は、段階a)〜b)において、約11.5〜約14のpHにおいて化学的に処理されない
を含む方法に関する。
【0006】
一つの実施態様に従うと、pHは約2.5〜約6であり、例えば約2.5〜約5.5又は約3〜5.5、例えば約3〜約4である。一つの実施態様に従うと、pHは約3.5〜約5である。
【0007】
一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約7〜約14、例えば約8〜約14又は約9〜約14、例えば約10〜約14又は約10.5〜約14又は約11〜約14のpHにおいて段階a)〜b)において化学的に処理されない。
【0008】
一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約7〜約14、例えば約8〜約14又は約9〜約14、例えば約10〜約14又は約10.5〜約14又は約11〜約14又は約11.5〜約14のpHにおいて段階a)の前に化学的に処理されない。
【0009】
用語、高収率パルプは、例えばメカニカルパルプ(MP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)、加圧リファイナーメカニカルパルプ(PRMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、サーモメカニカルケミカルパルプ(TMCP)、高温TMP(HT-TMP)、RTS-TMP、サーモパルプ、グラウンドウッドパルプ(GW)、ストーングラウンドウッドパルプ(SGW)、加圧グラウンドウッドパルプ(PGW)、超加圧グラウンドウッドパルプ(PGW-S)、サーモグラウンドウッドパルプ(TGW)、サーモストーングラウンドウッドパルプ(TSGW)、ケミメカニカルパルプ(CMP)、ケミリファイナーメカニカルパルプ(CRMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、高温CTMP(HT-CTMP)、サルファイト変性されたサーモメカニカルパルプ(SMTMP)、リジェクトCTMP(CTMPR)、グラウンドウッドCTMP(G-CTMP)、セミケミカルパルプ(SC)、ニュートラルサルファイトセミケミカルパルプ(NSSC)、高収率サルファイトパルプ(HYS)、バイオケミカルパルプ(BRMP)、OPCO法に従って製造されたパルプ、爆発パルピング法、バイビス(Bi-Vis)法、希釈水スルホネート化法(DWS)、スルホネート化された長フィブリル法(SLF)、化学的に処理された長フィブリル法(chemically treated long fibres process)(CTLF)、長フィブリルCMP法(LFCMP)又はこれらの任意の修正及び組合せを含み得る。一つの実施態様に従うと、高収率パルプは、少なくとも約60%、例えば少なくとも約70%、又は少なくとも約80%、又は少なくとも約85%の収率を有する。一つの実施態様に従うと、高収率パルプは、少なくとも約90%、例えば少なくとも約95%の収率を有する。パルプは、漂白されたパルプであっても非漂白されたパルプであってもよい。
【0010】
一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、脱フィブリル化されていない木材を含む。一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は機械的に処理されたリグノセルロース含有物質を含む。一つの実施態様に従うと、酸化系は2つの機械処理の段階の間に施与される。リグノセルロース含有物質は、例えば木材の丸太、木様の物質を含む細かく分割された原材料、例えば(例えば木材チップ、経木(wood shavings)、木のフィブリル、および鉋屑の形における)木材の粒子、及び木ではないものを含む一年生又は多年生の植物のフィブリルを含み得る。木様の原材料は、硬材又は軟材の種、例えばカバノキ、ブナノキ、アスペン、例えばヨーロッパアスペン、ハンノキ、ユーカリ、カエデ、アカシア、混合された熱帯の硬材、マツ、例えばテーダマツ、モミ、ベイツガ、カラマツ、スプルス、例えばブラックスプルス、又はノルウェースプルス、及び/これらの混合物から誘導されることができる。非木の植物の原材料は、例えば穀物の農作物の藁、クサヨシ、ヨシ(reed)、アマ、アサ、ケナフ、ジュート、カラムシ、サイザル、アバカ、コイア、竹、バガス又はこれらの組合せから与えられることができる。
【0011】
一つの実施態様に従うと、酸化剤は、過酸化化合物、ハロゲン含有酸化剤、酸素、酸化窒素又はこれらの組合せから選択される。実質的にオゾンを含まない非酵素酸化剤を含む酸化系が、オゾンは低い選択性のために十分なパルプ収率を提供しないこと、及び通常、より高価な代替品であるという事実のために有利であることができる。用語「実質的にオゾンを含まない」により、酸化系が、酸化系の総重量に基づいて(100%として計算されて)5重量%未満、例えば2重量%未満、又は1重量%未満のオゾンを含むことを意味する。用語「実質的に二酸化塩素を含まない」により、酸化系が、酸化系の総重量に基づいて(100%として計算して)5重量%未満、又は2重量%未満、又は1重量%未満の二酸化塩素を含むことを意味する。
【0012】
一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤及び活性化剤が、任意の機械処理段階の前及び/又はその間の任意の点において添加されることができる。一つの実施態様に従うと、酸化系は機械処理の前又はその間の1又は複数の段階においてリグノセルロース含有物質に施与される。一つの実施態様に従うと、酸化系は2の機械処理段階の間の中間段階処理として施与される。一つの実施態様に従うと、本方法は、2又は3の機械処理段階、例えば、その間にリグノセルロース含有物質の処理が酸化系で実行されることができるリファイニング段階を使用する。しかし、任意の他の数の段階もまた1又は複数のリジェクトリファイニング段階を含めて使用されることができる。一つの実施態様に従うと、酸化系はリジェクトリファイニング段階に適用される。
【0013】
活性化剤は非酵素酸化剤の存在下で酸化を加速させることのできる任意の適切な物質であり得る。一つの実施態様に従うと、活性化剤は、金属イオン、TAED、シアナミド、硫酸銅、硫酸鉄、及びこれらの混合物から選択される。一つの実施態様に従うと、活性化剤は遷移金属である。
【0014】
一つの実施態様に従うと、酸化系は酸化を促進する/制御するエンハンサーを含む。一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、窒素含有ポリカルボン酸、窒素含有ポリホスホン酸、窒素含有ポリアルコール、シュウ酸、オキザレート、グリコレート、アスコルビン酸、クエン酸、ニトリロアセテート、没食子酸、フルボ酸、イタコン酸、ヘモグロビン、ヒドロキシベンゼン、カテコレート(catecholate)、キノリン、ジメトキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、ジメトキシベンジルアルコール、ピリジン、ヒスチジルグリシン、フタロシアニン、アセトニトリル、18−クラウン−6−エーテル、メルカプトコハク酸、シクロヘキサジエン、ポリオキソメタレート、及びこれらの組合せから選択される。
【0015】
一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、窒素含有有機化合物、主として窒素含有ポリカルボン酸、窒素含有ポリホスホン酸、窒素含有ポリアルコール及びこれらの混合物から選択される。一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、及びこれらの組合せから選択される。一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、他のアミノポリカルボン酸、ポリホスフェート又はポリホスホン酸に基づく化合物、ヒドロキシカルボキシレート、ヒドロキシカルボン酸、ジチオカルバメート、シュウ酸、イミノジコハク酸、[S,S']-エチレンジアミンジコハク酸、グリコレート、アスコルビン酸、クエン酸、ニトリロアセテート、没食子酸、フルボ酸、イタコン酸から選択される。一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、オキザレート、ヘモグロビン、ジヒドロキシベンゼン(例えばハイドロキノン)、トリヒドロキシベンゼン、カテコレート(catecholate)(例えば4、5−ジメトキシカテコール、2,3ジヒドロキシベンゼン、4−メチルカテコール)、キノリン、ハイドロキノン(例えば8−ハイドロキノン)、ジヒドロキシ安息香酸(例えば3,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸)、3,4−ジメトキシベンジルアルコール、3,4−ジメトキシ安息香酸、3,4−ジメトキシトルエン、ピリジン、ヒスチジルグリシン、フタロシアニン、アセトニトリル、18−クラウン−6−エーテル、メルカプトコハク酸、1,3-シクロヘキサジエン、ポリオキソメタレートから選択される。一つの実施態様に従うと、酸化系はエンハンサーとして少なくとも1の酵素をもまた含む。
【0016】
一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約1秒〜約10時間、酸化系で処理される。一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約5秒〜約5時間、酸化系で処理される。一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約10秒〜約3時間、酸化系で処理される。
【0017】
一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約30℃〜約200℃の温度において処理される。一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約50℃〜約180℃の温度において処理される。一つの実施態様に従うと、リグノセルロース含有物質は、約80℃〜約180℃の温度において処理される。
【0018】
一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤は(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.1〜約5重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤は(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.2〜約3重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤は(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.3%〜約2重量%の量で添加される。
【0019】
一つの実施態様に従うと、活性化剤は、(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.0001〜約1重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、活性化剤は、(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.001〜約0.5重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、活性化剤は、(100%として計算して)リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.0025〜約0.1重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、活性化剤は、非酵素酸化剤と別に又は同時にのいずれかにより任意の機械処理段階の前又はその間に添加される。即ち活性化剤は、非酵素酸化剤の添加の前、同時に又は後のいずれかにより添加され得る。これは機械処理段階、例えばリファイナーの前の非酵素酸化剤の添加の直前であり得るが、例えば一次リファイナーの前であってもよい。一方、非酵素酸化剤は一次リファイナーの後であるが、二次リファイナーより前に添加される。
【0020】
一つの実施態様に従うと、(100%として計算された)エンハンサーは、リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.001〜約1重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、(100%純粋化合物として計算された)エンハンサーは、リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.01〜約0.5重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、(100%として計算された)エンハンサーは、リグノセルロース含有物質の重量に基づいて約0.05〜約0.3重量%の量で添加される。一つの実施態様に従うと、エンハンサーは、非酵素酸化剤及び任意的に活性化剤と別に又は同時に任意の機械処理段階の前又はその間に添加される。即ち、エンハンサーは非酵素酸化剤の添加の前、同時、又は後のいずれかにより添加され得る。これは機械処理段階、例えばリファイナーの前の非酵素酸化剤の添加の直前であってもよいが、例えば一次リファイナーの前であってもよい。一方、非酵素酸化剤は一次リファイナーの後であるが、二次リファイナーより前に添加される。
【0021】
機械処理は、1又は複数の段階において実行され得る。典型的には、機械処理は、60重量%以下のリグノセルロース含有物質が通過させられてもよいリジェクト機械処理段階を含む2以上の段階で実行されてもよい。機械処理段階は、通常リグノセルロース物質をグラインダー及び/又はリファイナーを通過させることにより実行される。しかし、他の機械処理は、装置、例えばプラグスクリュー(例えばインプレッサファイナー)、ローラーミル(例えばゼゴー(Szego)ミル)、ダブルシャフト押出機(Bi-Visスクリュー押出機)、レシプロ装置、RTファイバイライザー(Fiberizer)(商標)、ディスパーサー又はこれらの任意の組合せで実行され得る。
【0022】
一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤は、無機の過酸化化合物、例えば、過酸化水素又は過酸化水素生産化合物、例えば、過炭酸、過ホウ酸、ペルオキシ硫酸、ペルオキシホスフェート、ペルオキシシリケート、又は、対応する弱酸の塩から選択される。
【0023】
一つの実施態様に従うと、非酵素酸化剤は有機ペルオキシ化合物、例えば、ペルオキシカルボン酸、例えば、過酢酸及び過安息香酸から選択される。
【0024】
一つの実施態様に従うと、酸化系はハロゲン含有酸化剤、例えばクロライト、ハイポクロライト、シアヌール酸の塩化ナトリウム塩(chloro sodium salt of cyanuricacid)を含む。一つの実施態様に従うと、酸化系は、酸素および/または窒素酸化物、例えばNO又はNO2を含む。一つの実施態様に従うと、酸化系は、添加されるか、又は非酵素酸化剤を生み出す製造工程から再利用されることのできる種々の酸化剤の組合わせを含む。
【0025】
一つの実施態様に従うと、酸化系は活性化剤、例えば金属イオン、例えばFe、Mn、Co、Cu、W若しくはMo、又はTAED、シアナミド、又はこれらの混合物をさらに含む。一つの実施態様に従うと、金属イオン、例えば遷移金属は、酸、又は、一般的な有機又は無機化合物との塩又は錯体の形で使用され得る。
【0026】
一つの実施態様に従うと、紫外照射又は他の照射が、任意的にエンハンサーと組合わせて、非酵素酸化剤、又は非酵素酸化剤で処理されたリグノセルロース含有物質に施与される。
【0027】
一つの実施態様に従うと、エンハンサー、例えば錯体化剤、キレート剤若しくはリガンドが酸化系に含まれる。これらのエンハンサーは添加されたその量に依存して酸化効果を促進する/制御し得る。
【0028】
一つの実施態様に従うと、エンハンサーと活性化剤との両者が酸化系に含まれる。
【0029】
以下の実施例は、記載された発明がその範囲を制限することなくどのように実行されるかを説明する。
【0030】
全ての部及び百分率は、他に明記されなければ、絶乾重量による部及び百分率を意味する。化学物質は100%として計算される。
【0031】
実施例1
ブラックスプルス(Picea mariana)の木材が、サーモメカニカルパルプ(TMP)の製造のために使用された。該木材の丸太は、樹皮が剥がされ、刻まれ、洗浄され、そして予備加熱(4.14バールの水蒸気圧、40秒の保持時間)及びリファイニング操作された。3段階のリファイニングセットアップが使用され、最後のリファイニング段階においてエネルギーインプットが変化され、種々のフリーネス(リファイニング)のレベルを有するパルプを得た。第一リファイニング段階においては、シングルディスク36インチ加圧リファイナー(1800rpmにおいて作動されたモデル36−1CP)が使用され、第二及び第三段階においてはダブルディスク36インチ大気圧リファイナー(モデル401、1200rpm)が使用された。一次リファイナーにおけるエネルギーインプットは約500kWh/絶乾メトリックトン(bone dry metric ton)(bdmt)であり、第二リファイニング段階においては約1000kWh/(bdmt)であった。ほとんどの場合、400、800及び1200kWh/bdmtのターゲットとされたエネルギーインプットを有する3つの3次リファイニング段階が行われた。全ての実験は一定の条件において行われ、そのことは比エネルギー消費量(specific energy consumption)ならびにパルプ及び紙の性質における変動は、実験の間に添加された化学物質の結果であることを意味する。レファランス(TMPRef1及びTMPRef2、下記の表及び図を参照のこと)についてパイロットプラントにおいて測定されたエネルギー消費は、商業操業に匹敵する。
【0032】
以下の実施例に記載される各リファイニングのシリーズは、上記の手順にしたがって行われた。
【0033】
TMPレファランス(下記の図及び表におけるTMPRef1)は、化学物質の添加なしに行われた。比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)は、図1において見られることができ、得られるパルプの強度は、表1及び2において見られることができる。図2は得られたパルプ(約100mlCSFのフリーネス)のフィブリル長の分布を示し、図3は、得られたパルプ(約100mlCSFのフリーネス)のフィブリル幅の分布を示す。
【0034】
より酸性の条件下で製造されたTMPレファランス(TMPRef2と表示する)もまた、得られたエネルギーの減少が本発明において記載された方法の結果であって、リファイニングの間にpHを下げたことの効果ではないことを確認するために提供された。pHは絶乾木の重量に基づいて0.19重量%の硫酸(H2SO4)を1次リファイナーのリファイナーの目(入口)に添加することにより下げられた。得られたパルプのpHは3.8であった。製造されたパルプのTMP性質は、下記の図1〜3及び表1〜2に見られる。
【0035】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、1次リファイナーのリファイナーの目に絶乾木の重量に基づいて0.08重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)を添加し、そして1次リファイナーのブローラインに絶乾木の重量に基づいて1.0重量%の過酸化水素(H2O2)を添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.6であった。該パルプは下記の図及び表においてTMPHP1Feと表示される。
【0036】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造された第二のTMPは、1次リファイナーのリファイナーの目に(絶乾木の)0.15重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)を添加し、そして1次リファイナーのブローラインに(絶乾木の)1.1重量%の過酸化水素(H2O2)を添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.4であった。該パルプは下記の図1〜3及び表1〜2においてTMPHP2Feと表示される。
【0037】
パルプのフリーネス値として測定されたリファイニングの程度は、パルプ及び紙の性質、例えば強度及び光散乱力に影響を及ぼす最も重要なパラメーターである。したがって、パルプを一定のフリーネスの値において比較することが必要である。そこで、測定された値及び(フリーネス100mlCSFに)内挿された値の両方が下記において与えられる。
【0038】
図1は、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2)及び本発明にしたがって製造されたパルプ(TMPHP1Fe及びTMPHP2Fe)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを示す。実質的なエネルギー節約が本発明にしたがって製造されたパルプの場合、得られるのに対して、エネルギー消費については、TMPRef1及びTMPRef2の間に重大な差がなかったことは、図1から明らかである。本発明に従って製造されたパルプは、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2、表2を参照のこと)のエネルギー消費と比較されたとき、一定のフリーネスのレベル(100mlCSF)に対して20%(TMPHPIFe)及び25%(TMPHP2Fe)少ないエネルギーを消費する。TMPHP1Fe及びTMPHP2Feのエネルギー節約は、それぞれ(絶乾木の)1.0及び1.1重量%のH2O2で得られた。
【0039】
さらに、本発明に従って製造されたパルプ(TMPHP1Fe及びTMPHP2Fe)の強度の性質(引張及び破裂指数、TEA)は、TMPレファランスの強度の性質に似ている(表1及び2を参照のこと)。
【0040】
【表1】

【0041】
1平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニ(Kajaani)FS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
2本発明に従って製造された。
【0042】
【表2】

【0043】
1エネルギー節約は、TMPレファランス(TMPRef1及びTMPRef2)のエネルギー消費に対して与えられる。
2平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニFS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
3本発明に従って製造された。
【0044】
エネルギー消費を減少させる一つの方法は、リファイニングの間にフィブリルを切断することである。しかし、ケミメカニカル、又はメカニカルパルプ、例えばTMPの製造において最も重要な特徴の一つは、可能な限り、フィブリル長を保持することである。通常、高い平均フィブリル長は強い紙を製造する良好な可能性をパルプに与える。表1及び2に見られるように、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2)及び本発明に従って製造されたパルプ(TMPHP1Fe及びTMPHP2Fe)の平均フィブリル長は維持された。これは、TMPRef1、TMPRef2及び本願発明に従って製造された、実施例1〜3から選択されたパルプのフィブリル長の分布を示す図2において、及びファイバーマスターインスツルメントで測定された同じパルプについてのフィブリル幅の分布を示す図3においてさらに説明される。パルプのフリーネス値は、表1、3、及び5において与えられる。すなわち、本発明に従う方法は、パルプの強度の性質を破壊することなく、ずっと低いエネルギー消費で高収率パルプを製造することを可能にする。
【0045】
実施例2
上の実施例1に従って、ブラックスプルス(Picea mariana)のサーモメカニカルパルプ(TMP)は、樹皮が剥がされ、刻まれ、予備加熱され、リファインされた。
【0046】
TMPレファランス(TMPRef1と表示される)が実施例1に記載されたのと同じ方法で化学物質の添加なしに製造された。
【0047】
より酸性の条件下で製造されたレファランスTMP(TMPRef2と表示する)は、実施例1に記載されたのと同じ方法で一次リファイナーのリファイナーの目(入口)に絶乾木の重量に基づいて0.19重量%の硫酸(H2SO4)を添加することにより製造された。
【0048】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.12重量%のNa4EDTAと絶乾木の重量に基づいて0.08重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)とを混合し、そして1次リファイナーのリファイナーの目に該混合物を添加することにより製造された。過酸化水素(H2O2、絶乾木の重量に基づいて1.1重量%)が1次リファイナーのブローラインに添加された。得られたパルプのpHは3.7であった。該パルプは図2〜4及び表3〜4においてTMPHPIFeEDTAと表示される。
【0049】
パルプのフリーネス値として測定されたリファイニングの程度は、パルプ及び紙の性質、例えば強度及び光散乱力に影響を及ぼす最も重要なパラメーターである。したがって、パルプを一定のフリーネスの値において比較することが必要である。そこで、測定された値及び(フリーネス100mlCSFに)内挿された値の両者が図及び表に与えられる。
【0050】
図4は、TMPレファランス(TMPRef1及びTMPRef2)及び本発明にしたがって製造されたTMPHPIFeEDTAの比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを示す。TMPHPIFeEDTAは、レファランスTMP(TMPRef1及びTMPRef2、表4を参照のこと)のエネルギー消費に比較して、一定のフリーネス値((100mlCSF)に対して19%少ないエネルギーを消費する。
【0051】
【表3】

【0052】
1平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニ(Kajaani)FS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
2本発明に従って製造された。
3表1からのデータ
【0053】
【表4】

【0054】
1エネルギー節約は、TMPレファランス(TMPRef1及びTMPRef2)のエネルギー消費に対して与えられる。
2平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニFS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
3本発明に従って製造された。
4表2からのデータ
【0055】
TMPHPIFeEDTAのエネルギー節約のレベルは、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2)のエネルギー消費と比較されたとき、TMPHPIFeの場合と同じ約20%である。しかし、TMPHPIFeEDTAの実験において、強度の性質(即ち引張指数及びTEA)は、TMPRef1に比較して改良又は強く改良されており、TMPHPIFeに比較して改良されている(表3及び4を比較)。印刷用紙の場合重要なパラメーターである光散乱力は、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2)の場合と同じレベルに維持されている。フィブリル長及び幅分布は、TMPレファランスのものと似ていた(TMPRef1及びTMPRef2、図2〜3を参照のこと)。これは本発明が、パルプの光散乱力を維持しながらエネルギー効率および得られるパルプの強度の性質を著しく改良することを意味する。
【0056】
実施例3
実施例1に記載された方法に従って、ブラックスプルス(Picea mariana)サーモメカニカルパルプ(TMP)は、樹皮が剥がされ、刻まれ、予備加熱され、リファインされた。
【0057】
レファランスTMP(TMPRef1と表示される)が実施例1に記載されたのと同じ方法で化学物質の添加なしに製造された。
【0058】
より酸性の条件下で製造されたTMPレファランス(TMPRef2と表示される)は、実施例1に記載されたのと同じ方法で一次リファイナーのリファイナーの目(入口)に(絶乾木の)0.19重量%の硫酸(H2SO4)を添加することにより製造された。
【0059】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、1次リファイナーのリファイナーの目に絶乾木の重量に基づいて0.08重量%の硫酸鉄(FeSO4x7H2O)を添加し、そして1次リファイナーのブローラインに絶乾木の重量に基づいて2.2重量%の過酸化水素(H2O2)を添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.3であった。該パルプは図5及び表5〜6においてTMPHP3Feと表示される。
【0060】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、1次リファイナーのリファイナーの目に絶乾木の重量に基づいて0.14重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)を添加し、そして1次リファイナーのブローラインに絶乾木の重量に基づいて2.1重量%の過酸化水素(H2O2)を添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.2であった。該パルプは下記の図2〜3及び5ならびに表5〜6においてTMPHP4Feと表示される。
【0061】
パルプのフリーネス値として測定されたリファイニングの程度、はパルプ及び紙の性質、例えば強度及び光散乱力に影響を及ぼす最も重要なパラメーターである。したがって、パルプを一定のフリーネスの値において比較することが必要である。そこで、測定された値及び(フリーネス100mlCSFに)内挿された値の両方が下記の表において与えられる。
【0062】
図5は、TMPRef1、TMPRef2及び本発明にしたがって製造されたパルプ(TMPHP3Fe及びTMPHP4Fe)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを示す。記載された方法に従って製造されたパルプは、レファランス(TMPRef1及びTMPRef2)のエネルギー消費に比較されたとき一定のフリーネス値((100mlCSF)に対して33%(TMPHP3Fe)及び37%(TMPHP4Fe)少ないエネルギーを消費する。
【0063】
【表5】

【0064】
1平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニFS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
2本発明に従って製造された。
【0065】
【表6】

【0066】
エネルギー節約は、TMPレファランス(TMPRef1及びTMPRef2)に対して与えられる。
平均(長さ加重された)フィブリル長がカヤーニFS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された。
本発明に従って製造された。
【0067】
図5から、本発明に記載された手順に従って2重量%を丁度上回る過酸化水素で(100mlCSFフリーネスレベルにおいて)37%までの甚大なエネルギー節約を得ることが可能であることが明らかである。得られるパルプの強度の性質(引張指数、TEA)はTMPRef1の強度の性質以上であり(表5〜6を比較)、フィブリル長及びフィブリル幅の特徴の低下は得られなかった(図2〜3を比較)。得られるパルプの強度の性質を失うことなく電気エネルギーの量を節約する可能性は注目に値する。
【0068】
実施例4
ノルウェースプルス(Picea abies)の木材が、サーモメカニカルパルプ(TMP)の製造のために使用された。該木材の丸太は、樹皮が剥がされ、刻まれ、洗浄され、予備加熱及びリファイニング操作された。20インチの加圧リファイナー(1500rpmにおいて作動されたモデルOVP-MEC)が使用されて、高いフリーネスのパルプ(約540mlCSF)を製造した。リファイナーにおけるエネルギーの入力は当たり約1150kWh/絶乾メトリックトン(bdmt)であった。活性化剤及び酸化剤は次に、ミキサー(Electrolux BM 10 S)中で脱フィブリル化されたパルプに、ウィングリファイナー中でさらにリファインする直前に添加された。活性化剤は、まずパルプに添加され、続いて酸化剤が添加される。混合時間は、活性化剤および酸化剤の両方の場合、30秒であった。レファランスパルプ(TMPRef3)は、本発明に従って処理されたパルプの場合と同じパルプのコンシステンシーを与えるように、ミキサーに脱イオン化された水が添加された以外は同じ方法で処理された。これは、パルプのコンシステンシーが、得られるパルプの性質及びリファイニングエネルギー消費に影響を及ぼすことはよく知られているので、行われた。パルプは次にさらなる処理のためにウィングリファイナーに移された。
【0069】
ウィングリファイナーは、商業用リファイナーに比較してそのより小さいサイズのために固定されたフリーネスレベルに対してより高いエネルギー消費を与える実験室用装置である。
【0070】
以下の実施例において記載された各リファイニングシリーズは、上に記載された手順に従って製造された。
【0071】
TMPレファランス(TMPRef3)は、上述の化学物質の添加なしに製造された。比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)は図6において見られる。
【0072】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.13重量%の硫酸銅(CuSO4×5H2O)と絶乾木の重量に基づいて2.0重量%の過酸化水素(H2O2)とを高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.5であった。該パルプは図6においてTMPHP5Cuと表示される。
【0073】
図6は、レファランス(TMPRef3)及び本発明にしたがって製造されたパルプ(TMPHP5Cu)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを表す。本発明に従って製造されたパルプの場合、かなりのエネルギー節約が得られることが図6から明らかである。TMPHP5Cuは、レファランスパルプ(TMPRef3)のエネルギー消費に比較されたとき一定のフリーネス値((175mlCSF)に対して37%少ないエネルギーを消費する。TMPHP5Cuの場合のエネルギー節約は、(絶乾木の)2.0重量%のH2O2及び(絶乾木の)0.13重量%のCuSO4×5H2Oで得られる。
【0074】
(パルプクォリティモニターPQM1000装置で測定された175mlCSFにおける)平均フィブリル長はレファランス(TMPRef3)の場合1.7mmであり、本発明に従って製造されたパルプ(TMPHP5Cu)の場合1.8mmであった。即ちフィブリル長の減少は起きなかった。
【0075】
実施例4は、本発明に記載された方法に従って、活性化剤として硫酸銅を、酸化剤として過酸化水素を使用することにより、実質的にエネルギー節約が得られることを示す。
【0076】
ブラックスプルス(Picea mariana)の木材が、サーモメカニカルパルプ(TMP)の製造のために使用された。該木材の丸太は、樹皮が剥がされ、刻まれ、洗浄され、そして予備加熱(4.14バールの水蒸気圧、40秒の保持時間)及びリファイニング操作された。シングルディスク36インチ加圧リファイナー(1800rpmにおいて作動されたモデル36−1CP)が使用され、高フリーネスパルプ(約750mlCSF)を作った。リファイナーにおけるエネルギーインプットは約500kWh/絶乾メトリックトン(bdmt)であった。活性化剤及び酸化剤は次にミキサー(Electrolux BM 10 S)中で脱フィブリル化されたパルプに、ウィングリファイナー中でさらにリファインする直前に添加された。活性化剤は、まずパルプに添加され、続いて酸化剤が添加される。混合時間は、活性化剤および酸化剤の両方の場合、30秒であった。レファランスパルプ(TMPRef4)は、本発明に従って処理されたパルプの場合と同じパルプのコンシステンシーを与えるように、ミキサーに脱イオン化された水が添加された以外は同じ方法で処理された。これは、パルプのコンシステンシーが、得られるパルプの性質及びリファイニングエネルギー消費に影響を及ぼすことはよく知られているので、行われた。パルプは次にさらなる処理のためにウィングリファイナーに移された。
【0077】
ウィングリファイナーは、商業用リファイナーに比較してそのより小さいサイズのために固定されたフリーネスレベルに対してより高いエネルギー消費を与える実験室用装置である。より小さいリファイナーはより大きいものに比べてより高いエネルギー消費を有することは周知である。
【0078】
以下の実施例に記載されている各リファイニングシリーズは、上述の手順に従って製造された。
【0079】
TMPレファランス(TMPRef4)は上記の化学物質の添加なしに製造された。比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)は図7において見られる。
【0080】
酸化剤(H2O2)のみを添加し、活性化剤若しくはエンハンサーを添加しないで製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて1.0重量%の過酸化水素(H2O2)を高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは4.0であった。該パルプは図7においてTMPHPrefと表示される。
【0081】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.02重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)と絶乾木の重量に基づいて1.0重量%の過酸化水素(H2O2)とを高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.9であった。該パルプは図7においてTMPHP6Feと表示される。
【0082】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.08重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)と絶乾木の重量に基づいて1.0重量%の過酸化水素(H2O2)とを高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.8であった。該パルプは図7においてTMPHP7Feと表示される。
【0083】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して本発明に従って製造されたTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.14重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)と絶乾木の重量に基づいて1.0重量%の過酸化水素(H2O2)とを高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.7であった。該パルプは図7においてTMPHP8Feと表示される。
【0084】
図7は、レファランスパルプ(TMPRef4及びTMPHPref)及び本発明にしたがって製造されたパルプ(TMPHP6Fe、TMPHP7Fe及びTMPHP8Fe)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを表す。本発明に従って製造されたパルプの場合、かなりのエネルギー節約が得られるのに対して、過酸化水素(酸化剤)のみが存在するときには(TMPHPref)、エネルギー節約が得られないことは図7から明らかである。本発明に従って製造されたパルプは、レファランスパルプ(TMPRef4及びTMPHPref)のエネルギー消費に比較されたとき一定のフリーネスレベル(175mlCSF)に対して10%(TMPHP6Fe)、15%(TMPHP7Fe)及び33%(TMPHP8Fe)少ないエネルギーを消費する。TMPHP6Feの場合のエネルギー節約は、(絶乾木の)1.0重量%のH2O2及び(絶乾木の)0.02重量%のFeSO4×7H2Oで得られた。TMPHP7Fe及びTMPHP8Feの場合、対応する化学物質の添加は、それぞれ1.0重量%のH2O2/0.08重量%のFeSO4×7H2O及び1.0重量%のH2O2/0.14重量%のFeSO4×7H2Oであった。
【0085】
(カヤーニFS-100フィブリルサイズアナライザーで測定された175mlCSFにおける)平均フィブリル長はレファランスパルプTMPRef4の場合1.7mmであり、本発明に従って製造されたパルプの場合、1.7mm(TMPHP6Fe)、1.7mm(TMPHP7Fe)、1.6mm(TMPHP5Fe)であった。TMPHPrefの場合の平均フィブリル長は1.8mmであった。本発明において記載された化学処理の結果として顕著なフィブリルの短化は起きていないことは明らかである。
【0086】
図7に示されたデータ及び上記の記載から、酸化剤、例えばH2O2のみの添加はリファイニングエネルギー消費の減少を生み出すのに十分ではないことが明らかである。即ち、活性化剤、即ち、本発明において記載された方法が規定するもの、が添加されなければならない。
【0087】
実施例6
アスペン(Populus tremula)の木材が、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)の製造のために使用された。該木材の丸太は、樹皮が剥がされ、刻まれ、洗浄され、そして予備加熱及びリファイニング操作された。20インチ加圧リファイナー(1500rpmにおいて作動されたモデルOVP-MEC)が使用され、高フリーネスパルプ(約420mlCSF)を製造した。リファイナーにおけるエネルギーインプットは約1450kWh/絶乾メトリックトン(bdmt)であった。活性化剤及び酸化剤は次に、ミキサー(Electrolux BM 10 S)中で脱フィブリル化されたパルプに、ウィングリファイナー中でさらにリファインする直前に添加された。活性化剤は、まずパルプに添加され、続いて酸化剤が添加された。混合時間は、活性化剤および酸化剤の両方の場合、30秒であった。レファランスパルプ(CTMPRef)は、本発明に従って処理されたパルプの場合と同じパルプのコンシステンシーを与えるように、ミキサーに脱イオン化された水が添加された以外は同じ方法で処理された。これは、パルプのコンシステンシーが、得られるパルプの性質及びリファイニングエネルギー消費に影響を及ぼすことはよく知られているので、行われた。パルプは次にさらなる処理のためにウィングリファイナーに移された。
【0088】
ウィングリファイナーは、商業用リファイナーに比較してそのより小さいサイズのために固定されたフリーネスレベルに対してより高いエネルギー消費を与える実験室用装置である。より小さいリファイナーはより大きいものに比べてより高いエネルギー消費を有することは周知である。
【0089】
以下の実施例に記載されている各リファイニングシリーズは、上述の手順に従って製造された。
【0090】
TMPレファランス(CTMPRef)は上記の化学物質の添加なしに製造された。比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)は図8において見られる。
【0091】
酸過酸化水素(H2O2)を使用して、本発明に従って製造されたCTMPは、絶乾木の重量に基づいて0.14重量%の硫酸鉄(FeSO4×7H2O)及び絶乾木の重量に基づいて2.0重量%の過酸化水素(H2O2)を高フリーネスのパルプに添加することにより製造された。得られたパルプのpHは3.8であった。該パルプは図8においてCTMPHPFeと表示される。
【0092】
図8は、レファランスパルプ(CTMPRef)及び本発明にしたがって製造されたパルプ(CTMPHPFe)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネスを示す。本発明に従って製造されたパルプの場合、実質的なエネルギー節約が得られることは図8から明らかである。CTMPHPFeは、レファランスパルプ(CTMPRef)のエネルギー消費に比較されたとき一定のフリーネスレベル(175mlCSF)に対して32%少ないエネルギーを消費する。CTMPHPFeの場合のエネルギー節約は、(絶乾木の)2.0重量%のH2O2及び(絶乾木の)0.14重量%のFeSO4×7H2Oで得られた。
【0093】
(パルプクォリティモニターPQM1000装置で測定された175ml CSFにおける)平均フィブリル長はレファランスパルプ(CTMPRef)の場合0.95mmであり、及び本発明に従って製造されたパルプ(CTMPHPFe)の場合、0.94mmであった。本発明において記載された化学処理の結果としてフィブリルの短化は起きていないことは明らかである。
【0094】
実施例6に示された結果から、本発明に従う方法は、アスペンケミサーモメカニカルポリマーパルプの場合にもまた、リファイニングの間にフィブリルを切断することなく実質的なエネルギー節約を生み出すことは明らかである。
【0095】
添付の図面において、以下の単位及び用語が使用されている:
図1、4〜8:垂直なY軸上のmlCSFで与えられるフリーネス(カナダ標準フリーネス)、kWh/bdtとして測定される水平なX軸上のSEC(比エネルギー消費量)。
【0096】
図2及び3:全長の割合、垂直なY軸上の1/1000、それぞれ水平なX軸上の、mmにおけるフィブリル長(図2);μmにおけるフィブリル幅(図3)。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)
【図2】得られたパルプ(約100ml CSFのフリーネス)のフィブリル長の分布
【図3】得られたパルプ(約100ml CSFのフリーネス)のフィブリル幅の分布
【図4】TMPレファランス(TMPRef1及びTMPRef2)及び本発明にしたがって製造されたTMPHPIFeEDTAの比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネス
【図5】TMPRef1、TMPRef2及び本発明にしたがって製造されたパルプ(TMPHP3Fe及びTMPHP4Fe)の比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのフリーネス
【図6】比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)
【図7】比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)
【図8】比エネルギー消費量(SEC)の関数としてのリファイニングの程度(フリーネス)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)リグノセルロース含有物質を、実質的にオゾン及び二酸化塩素を含まない少なくとも1の非酵素の酸化剤及び活性化剤を含む酸化系により約2〜約6.5のpHにおいて化学的に処理すること、及び
b)リグノセルロース含有物質を、高収率パルプを製造するのに十分な時間、機械的に処理すること、
を含む、高収率パルプの製造方法において、
リグノセルロース含有物質は何らかの機械処理段階の前及び/又はその間に化学的に処理され、かつリグノセルロース含有物質は、段階a)及びb)の間において、約11.5〜約14のpHにおいて化学的に処理されない方法。
【請求項2】
pHが約2.5〜約6である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
pHが約3〜約5.5である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
高収率パルプがメカニカルパルプ、リファイナーメカニカルパルプ、グラウンドウッドパルプ、ケミメカニカルパルプ、セミケミカルパルプ、サーモメカニカルパルプ及び/又はケミサーモメカニカルパルプである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
上記リグノセルロース含有物質が脱フィブリル化されていない木材を含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リグノセルロース含有物質が機械的に処理されたリグノセルロース含有物質を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
酸化系が2つの機械的処理段階の間に施与される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リグノセルロース含有物質が、軟材及び/又は硬材を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
リグノセルロース含有物質が軟材を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
非酵素の酸化剤がペルオキシ化合物、ハロゲン含有酸化剤、酸素、窒素酸化物、又はこれらの組合せから選択される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
非酵素の酸化剤がペルオキシ化合物から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
非酵素の酸化剤が過酸化水素である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
酸化系が、金属イオン、TAED、シアナミド、又はこれらの組合せから選択される活性化剤を含有する、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
金属イオンが遷移金属イオンから選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
酸化系が、窒素含有ポリカルボン酸、窒素含有ポリホスホン酸、窒素含有ポリアルコール、シュウ酸、オキザレート、グリコレート、アスコルビン酸、クエン酸、ニトリロアセテート、没食子酸、フルボ酸、イタコン酸、ヘモグロビン、ヒドロキシベンゼン、カテコレート、キノリン、ジメトキシ安息香酸、ジヒドロキシ安息香酸、ジメトキシベンジルアルコール、ピリジン、ヒスチジルグリシン、フタロシアニン、アセトニトリル、18−クラウン−6−エーテル、メルカプトコハク酸、シクロヘキサジエン、ポリオキソメタレート、及びこれらの組合せから選択されたエンハンサーをさらに含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
酸化系が、EDTA,DTPA, NTA、又はこれらの組合せから選択されたエンハンサーをさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−529609(P2009−529609A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543237(P2008−543237)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/SE2006/050460
【国際公開番号】WO2007/064287
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(390009612)アクゾ ノーベル ナムローゼ フェンノートシャップ (132)
【氏名又は名称原語表記】Akzo Nobel N.V.
【Fターム(参考)】