説明

高収縮ポリエステル仮撚糸、それを用いた織編物及び高収縮ポリエステル仮撚糸の製造方法

【課題】ふくらみ、ソフト感、反発感、緻密感に優れており、衣料用に展開可能な織編物をつくることができる高収縮性ポリエステル仮撚糸を提供する。
【解決手段】下記特性を同時に満足する高収縮性ポリエステル仮撚糸。
(1)40≦沸騰水収縮率[SHW](%)
(2)沸騰水収縮後の乾熱収縮率[SHD](%)≦2
(3)10≦1m当たりの交絡度[CF値]
(4)25≦伸度(%)≦60
(5)5≦捲縮発現率[CR](%)≦25

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ふくらみ、ソフト感、反発感、緻密感に優れており、衣料用に展開可能な織編物を提供できる高収縮性ポリエステル仮撚糸およびそれの製造方法、さらには該高収縮性ポリエステル仮撚糸を用いた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の高収縮性ポリエステル糸としては、イソフタル酸やビスフェノール−Aエチレンオキサイド付加物等を共重合した高収縮性のポリエステルを使用したり、ホモポリエステル繊維を延伸する際、熱セットを施さないものを使用することが一般的である。
【0003】
しかしながら、前者は共重合ポリエステルであるためそれだけでコストアップとなり、場合によっては繊維の強度や耐光性が劣ったり、また共重合量によっては高温で過度に収縮が進み過ぎかえって布帛の粗硬化を招くという問題点があった。
【0004】
後者は1500〜4000m/分で紡糸した高配向未延伸糸を低温延伸で結晶化を抑制するもの(特許文献1参照)であるが、低温延伸のため延伸が不安定となり易く、繊維長手方向の収縮斑や太細斑が過大となる問題があり、品位の高い布帛は得ることはできなかった。
【0005】
また、他の特許文献には、種々のパラメータを規定することで糸斑の少ない高収縮糸が得られるとする技術が開示されている(特許文献2参照)。しかし、該技術では、糸斑を少なくできるのは35%程度までであり、布帛の高密度化には限界があった。
【0006】
さらには、高配向未延伸糸を室温からガラス転移温度で延伸仮撚するに際し、ツイスターと供給ローラ間で強制的に撚り止めを実施することで、沸騰水収縮率が50%以上のポリエステル系潜在捲縮糸が得られるとする技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかし、該技術では、撚り斑による収縮バラツキを押さえることができず、かつ、捲縮が潜在化しているため、布帛にした際の捲縮発現にもバラツキがあり、衣服に適用する表面品位にはならない場合があった。また、潜在捲縮糸や生糸のように捲縮がないフィラメントでは、収縮させた後に各フィラメントが直線状に並列に並ぶ形態になり、チョークマークが発生しやすく、摩擦堅牢度も悪いという問題があった。
【0008】
さらに、今までの高収縮仮撚糸が今まで衣料用展開できていなかった原因としては、高収縮仮撚糸が熱的特性に弱いことが原因の一つであった。すなわち織布準備工程においてサイジングや撚糸スチームセットで熱が付与されると、織物に付与する高収縮特性が阻害されてしまう。したがって、織物の経糸に本糸を用いるためには、サイジングや撚糸スチームセットが不要であることが条件であるが、その他には発生した毛羽やタルミを抑える手段(サイジングや中強撚)がないので、今まで衣料用織物には展開できていなかった。
【特許文献1】特開昭58−180670号公報
【特許文献2】特開2000−248425号公報
【特許文献3】特開平2−210034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来高収縮糸が単独で衣料用織編物、特に衣料用織物に用いることができなかった様々な問題を解決し、ふくらみ、ソフト感、反発感に優れ、しかも表面品位や摩擦特性に優れた布帛を形成するための、高収縮性ポリエステル仮撚糸、その製造方法等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、下記特性を同時に満足する高収縮性ポリエステル仮撚糸により達成される。
【0011】
すなわち、下記特性を同時に満足する高収縮性ポリエステル仮撚糸である。
(1)40≦沸騰水収縮率[SHW](%)
(2)沸騰水収縮後の乾熱収縮率[SHD](%)≦2
(3)10≦1m当たりの交絡度[CF値]
(4)25≦伸度(%)≦60
(5)5≦捲縮発現率[CR](%)≦25
また、上述した本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸の製造方法は、ポリエステル高配向未延伸糸を70℃以下、仮撚数Kが1500(T/m)以上で延伸仮撚し、交絡を付与することを特徴とする高収縮性ポリエステル仮撚糸の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、従来高収縮糸が単独で衣料用織編物、特に衣料用織物に用いることができなかった様々な問題を解決し、ふくらみ、ソフト感、反発感に優れ、しかも表面品位や摩擦特性に優れた布帛を得ることができる。
【0013】
本発明により得られた繊維はブラウス、スーツ、パンツ、ワンピース、コート等の婦人衣料、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェア等のスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明において、高収縮性仮撚糸とは染色工程時に充分に収縮特性を発揮する仮撚糸のことであり、下記の沸騰水収縮率を示すものをいう。
【0016】
本発明では、布帛に緻密感を付与するためには沸騰水収縮率(SHW)が40≦SHW(%)であることが必要である。SHW(%)<40であると収縮が不十分であり、緻密感のある布帛を得るのが困難なためである。また、好ましくはSHW(%)≦65である。SHW(%)>65のものを安定的に得るのは現在の技術では難しく、また、SHW(%)≦65とすることにより、収縮が大きすぎて布帛に収縮斑が発生することを抑制することができる。さらに好ましくは、45≦SHW(%)≦60である。なお、沸騰水収縮率(SHW)は後述した実施例の欄のA項に記載した測定方法によって測定した値を言う。
【0017】
また、高レベルのソフト感、反発感を有する布帛を得るためには、布帛の精練後の乾熱中間セット等で織物拘束を除き、布帛の粗硬化を防ぐことが必要である。そのためには、高収縮性ポリエステル仮撚糸の沸騰水収縮後の乾熱収縮率(SHD)がSHD(%)≦2であることが必要である。すなわち熱水収縮からさらに高温の乾熱処理をした際に糸がほとんど収縮しないことが必須である。また、好ましくは、−10≦SHD(%)であり、この範囲とすることにより乾熱セット性を良好に保つことができる。寸法安定性を考慮すると、さらに好ましくは、−6≦SHD(%)≦2である。なお、沸騰水収縮後の乾熱収縮率(SHD)は後述した実施例の欄のB項に記載した測定方法によって測定した値を言う。
【0018】
また、従来から高収縮糸の衣料展開の妨げであった毛羽発生問題や収縮バラツキ問題、さらには織物工程通過性の問題を解決するために、鋭意検討した結果、本発明者らは糸にある程度の捲縮を付与し、かつ糸形態が収束した形態であることが効果的であることを見出した。
【0019】
すなわち、捲縮の指標である捲縮発現率CR(%)が5≦CR(%)≦25、交絡の指標である1m当たりの交絡度CF値が10≦CF値、かつ25≦伸度(%)≦60であることが必要である。
【0020】
収縮バラツキを発生させないためには、高配向未延伸糸(POY)に同時仮撚延伸を施すことで、糸斑を分散させ、また捲縮により糸斑を吸収することが重要である。5≦CR(%)≦25であると、捲縮が糸斑を分散させると同時に、捲縮が単糸フィラメント間に空隙をもたせることができ、これにより耐摩擦特性も向上することが分かった。
【0021】
CR(%)<5であると収縮バラツキが発生し、さらには糸を収縮させた後に各フィラメントが直線状に並列に並ぶ形態になり、摩擦堅牢度も悪くなる。また、CR(%)>25であると、捲縮が強すぎ、糸が収束した形態にすることが難しくなる。さらには、量産性のことを考えると、織物の経糸に用いるためには撚糸してスチームセットすることが必要になり、高収縮特性が阻害されてしまう。これらのことから、7≦CR(%)≦25であると、布帛にふくらみ感、ストレッチ性を付与することができ、より好ましい。なお、捲縮発現率(CR)は後述した実施例の欄のE項に記載した測定方法によって測定した値を言う。
【0022】
また、交絡の度合いの指標であるCF値が10≦CF値、かつ25≦伸度(%)≦60の糸を収束した形態にすることで、捲縮がありながら、毛羽をほとんど発生させないことが可能になる。糸を収束させることで、無撚りまたは1000T/m以下の低撚り後・低温乾熱セットでの織物経糸使いの展開が可能となる。さらには布帛収縮時での抵抗が緩和されて高収縮性をさらに高めることができる。
【0023】
ここで、CF値<10または伸度(%)<25であると糸が開繊した状態になり、毛羽・タルミが発生しやすくなることから、撚糸や織物での糸切れが多くなる。また、織物の経糸に用いるためには撚糸してスチームセットすることが必要になり、高収縮特性が阻害されてしまう。また、伸度(%)>60であると、製織の際、糸ヒケが発生し、表面品位に問題が生じる。
【0024】
また、CF値は、CF値≦80であることが好ましい。CF値>80であると交絡ムラが布帛で目立つようになるのでなるべくなら避けるべきである。
【0025】
なお、伸度はは後述した実施例の欄のD項に記載した測定方法によって測定した値を、1m当たりの交絡度(CF値)は後述した実施例の欄のC項に記載した測定方法によって測定した値を言う。
【0026】
本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸はその単繊維の断面が長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、断面形状は丸型、三角、扁平、六角、L型、T型、W型、八葉型、ドッグボーン型などの多角形型、多様型、中空型など任意に選択することができる。異形型の場合には肌触りが点接触になるので、ドライ感・キシミ感が増し、好ましい。
【0027】
本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸は糸段階で、トータル繊度が20〜350dtexの範囲であれば、衣料用としてふさわしい緻密感、ソフト感を付与することができ好ましい。さらに好ましくはトータル繊度が30〜200dtexである。
【0028】
また、必要に応じて艶消し剤となる酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナ微粒子、染色顔料などを添加しても良い。本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸は結晶化度が低く、高発色性であることも特徴の一つである。ポリマーにシリカやアルミナ微粒子を添加することで、アルカリ減量後に繊維表面から脱落させ、ミクロボイドを発生させることでさらに発色性の高い織編物も得ることができる。また酸化チタンは多量に含有すると、発色性が悪くなり、黒色の衣服に適用できない弊害があったが、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸に酸化チタンを含有しても、発色性が良いので、酸化チタン含有の目的の一つでもある白の防透け性と、黒の発色性を両方満たし、多彩な色展開が可能となる織編物を提供することができる。
【0029】
また、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸の単繊維繊度にも特に限定はなく、必要に応じて0.7dtex程度の細繊維から15dtex程度の太繊維まで適宜採用することができる。ソフト感を得るという観点からでは当然ながら単繊維繊度が細い方が好ましい。
【0030】
また、アルカリ処理で割繊後の単繊維繊度が0.2dtex以下になる割繊型繊維を用いると、ソフトで緻密感に優れた布帛が得ることができ、好ましい。割繊型繊維のタイプはいずれのタイプでも問題なく、また、海島型繊維でもミカン型繊維でも良い。
【0031】
本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸は低収縮性ポリエステル繊維と混繊し、収縮差混繊糸として用いても、ふくらみ感、ソフト感に優れた布帛が得られ好ましい。混繊する繊維としては特に限定されないが、SHW≦5%の低収縮性ポリエステル繊維であれば充分なふくらみ感が得られる。また、混繊する繊維の単繊維繊度は3dtex以下、トータル繊度は高収縮性ポリエステル繊維の繊度以下であれば、ソフトな風合いを強調でき好ましい。その際の混繊方法としてはエア混繊、合撚、複合仮撚等いずれも混繊でも構わないが、高収縮ポリエステル繊維の収縮特性を充分に発揮させるためには、糸拘束が少ないエア混繊が好ましい。
【0032】
次に、本発明の高収縮ポリエステル仮撚糸の製造方法について説明する。
【0033】
本発明の高収縮ポリエステル仮撚糸の製造方法は、ポリエステル高配向未延伸糸(POY)を70℃以下で延伸仮撚し、交絡を付与することを特徴とする。
【0034】
本発明でいうところのポリエステルとは、テレフタル酸を主成分とし、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ペンタメチレングリコール、およびヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルであり、40%モル以下の第3成分が共重合されていてもよい。好ましい共重合成分としては、アジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタリンジカルボン酸等の2塩基酸類、オキシ安息香酸の如きオキシ酸類、およびジエチレングリコール、プロピレンングリコール、ポリエチレングリコールのグリコール類、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、および2,2ビス{4−〈2−ヒドロキシエトキシ〉フエニル}プロパンなどが挙げられる。これらの共重合成分のうちから1種または2種以上のものを共重合したポリエステルが好ましく用いられる。
【0035】
使用する高配向未延伸糸(POY)については、伸度が100%以上300%以下であることが好ましい。100%以上であるということは高配向未延伸糸の延伸結晶化が進んでいない状態である。この伸度が100%以上の高配向未延伸糸を本発明の製造方法に用いることで、仮撚糸のSHW(%)を40%以上とすることが可能になる。また、伸度が300%以下であるということは非結晶部の配向が進んでおり、結晶部になりうる核が存在しているということである。結晶部になりうる核が存在していると、160℃の高温乾熱で結晶部が成長し、自発伸長現象を生じる。この伸度が300%以下の高配向未延伸糸を本発明の製造方法に用いることで、仮撚糸のSHD(%)を2%以下にすることが可能になる。
【0036】
延伸しながら仮撚する方法においては、通常用いられている延伸仮撚機で充分対応可能である。本発明においては、繊維の温度を、70℃以下のガラス転移温度(Tg)以下で延伸仮撚することで、糸の熱結晶化を防ぐことができ、SHW(%)を40%以上にコントロールすることが可能になる。一般に、仮撚加工温度が低いと、通常の熱延伸仮撚に比べ、加工張力が高くなり、単繊維間でネッキング現象が生じやすく、毛羽・タルミも発生しやすい。本発明者らはこの問題を鋭意検討した結果、仮撚延伸倍率を下げて、加工糸伸度が25%以上になるように設定することが効果的であることを見出した。このことにより加工張力が下がり、糸が収束した形態になることで、毛羽やタルミがなくなり、織物の経糸への展開も可能となった。
【0037】
また、Tgより20℃以上低い温度で仮撚を実施すると、糸の熱結晶化を完全に防ぐことができ、より高い収縮特性を得ることができ、好ましい。
【0038】
図1は、本発明の高収縮ポリエステル仮撚糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。図1において、供給糸条Aは、フィードローラーBを用いて安定的に加熱媒体Cに供給される。この際、加熱媒体Cを用いて70℃以下で加熱しても良いし、そのまま室温で仮撚しても良い。加熱媒体Cは、仮撚加工用として公知の媒体を適宜使用すればよいが、接触式の加熱媒体の具体例としては電熱あるいは循環する加熱媒体によって加熱される熱板が挙げられる。また、非接触式の加熱媒体であるスリットヒーターを用いても良い。
【0039】
加撚されつつ加熱された走行糸条は、次いで冷却媒体Dで冷却され、仮撚を与えるための仮撚回転子Eを通過する。仮撚回転子Eは、直接撚糸を与えるスピナーピンであってもよいし、間接的に撚糸を与えるフリクションディスクあるいはベルトニップであってもよい。
【0040】
また、捲縮発現率を5%以上得るためには、仮撚数Kを1,500(T/m)以上にすることが重要である。K<1,500であると、糸に捲縮を付与することができない。
【0041】
糸の捲縮を充分に付与するためにはK≧2000が好ましい。またK>4000であると、仮撚時の糸切れが発生しやすくなるため好ましくない。
【0042】
また、糸加工速度については早ければ生産性が高くなり好ましいが、安定仮撚性を考慮すると、100〜700(m/min)が好ましい。
【0043】
走行する糸条は、仮撚回転子Eを通過した後に解撚され、延伸ローラーFとリラックスローラーHの間に設置されたノズルGを用いて交絡あるいは混繊を付与される。交絡を付与することで、糸を収束化できる。ノズルGとしては、インターレースノズルやタスランノズルに代表される圧縮空気ノズルなどを特に制限なく使用することができるが、収束した糸形態を得るにはインターレースノズルが好ましい。
【0044】
また、交絡圧については、0.15(MPa)とすることで、CF値を10以上とするることが可能になる。また0.7(MPa)以上であると、布帛交絡ムラが目立ちやすくなるので、好ましくない。
【0045】
また、交絡オーバーフィードについては、0.5(%)以上とすることで、CF値を10以上にコントロールすることが可能になる。また、5%以上であると、交絡ノズル手前で糸ブレが発生しやすくなるので、好ましくない。
【0046】
最終的にはパッケージIへと巻き取られる。
【0047】
また、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸は、布帛で充分なふくらみ感を得るためには、撚り係数10,000以下で用いることが好ましい。ただし、
撚り係数=T×(繊度)1/2
T:1mあたりの撚り数(ターン/m)
繊度:デシテックス×0.9
である。
【0048】
撚り係数10,000以下であれば、本発明の仮撚糸を、低温乾熱セットで織物の経糸にも用いることができる。ここでいう低温乾熱セットとは40〜55℃の温度帯のことである。この温度帯で熱セットを12時間以上実施すると、撚糸パッケージの最内層までビリ止めが確実にできるので好ましい。
【0049】
本発明において、織物と編物を総称して「織編物」という。本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸を織物にする場合、組織・密度になんら制約されることはないが、好ましくは浮きの多い1/3ツイルやサテン組織である。また、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸を編物にする場合にも、組織・密度になんら制約されることはないが、好ましくは編拘束の少ない天竺、スムース組織である。
【0050】
さらに、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸を用いた織編物を染色仕上げ加工する場合にも、加工方法・加工装置等になんら制約されることはないが、急激な収縮による収縮シワ発生を避けるために、拡布状でリラックス精練できるソフサー加工を実施することが好ましい。ソフサー装置が2浴の場合には1段目の温度を60〜75℃、2段目の温度を90〜98℃に設定すると多段収縮させることができ、さらに好ましい。
【0051】
また、中間セット時に高温乾熱で自発伸長する特性があるので、通常織物よりやや高めの5〜15%伸長設定が好ましい。
【0052】
本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸を用いて織編物にすることで、従来高収縮糸が単独で衣料用織編物、特に衣料用織物に用いることができなかった様々な問題を解決し、ふくらみ、ソフト、反発感に優れ、しかも表面品位や摩擦特性に優れた布帛を形成することができる。
また、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸を経糸または緯糸に用いると、捲縮と乾熱後伸長することによるクリンプアップ効果により、織物にストレッチ性を付与することができる。用いた方向のストレッチ率が5%以上であれば、高密度でありながら、快適なストレッチ性を織物に付与することができる。
【0053】
本発明により得られた繊維はブラウス、スーツ、パンツ、ワンピース、コート等の婦人衣料、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェア等のスポーツ衣料用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により、本発明の高収縮性ポリエステル仮撚糸とその製造方法について詳細に説明する。なお、実施例中の物性は次の方法により求めた。
【0055】
A.沸騰水収縮率[SHW]
周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で糸を10回巻回してカセ取りし、10分放置した後、荷重0.09cN/dtex下でカセ長(L)を測定する。その後、このカセをガーゼで包み、無荷重下で98℃×20分間熱水処理し、2cm以下の棒につり下げて約12時間放置した後、荷重0.09cN/dtex下でカセ長(L1)を測定し、下記式で算出し、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。
沸騰水収縮率[SHW](%)=(L−L1)/L×100
B.沸騰水収縮後の乾熱収縮率[SHD]
上記A項の沸騰水収縮率測定後のカセを用い、乾熱160℃で荷重フリーの状態で15分間処理し、荷重0.09cN/dtex下でのカセ長(L2)を測定し、下記式で算出し、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。
沸騰水収縮後の乾熱収縮率[SHD](%)=(L1−L2)/L×100
C.1m当たりの交絡度[CF値]
交絡度は、0.1g/dの張力下における1m当たりの交絡部の数であり、糸に0.02g/dの張力下で非交絡部にピンを刺し、糸条1mにわたり0.1g/dの張力でピンを糸の長手方向の上下に移動せしめ、抵抗なく移動した部分を非交絡部として移動した距離を記録し、ピンが止まる部分を交絡部とする。この作業を5回繰り返し、その非交絡部の距離の平均値(n=5)から1m当たりの交絡度を計算する。
【0056】
D.伸度
JIS L 1013に基づいて測定した。
【0057】
E.捲縮発現率[CR]
周長0.8mの検尺機に、90mg/dtexの張力下で糸を10回巻回してカセ取りした後、2cm以下の棒につり下げ、約24時間放置する。このカセをガーゼにくるみ、無緊張状態下で90℃×20分間熱水処理した後、2cm以下の棒につり下げ約12時間放置する。放置後のカセの一端をフックにかけ他端に初荷重と測定荷重をかけ水中に垂下し2分間放置する。このときの初荷重(g)=1.8mg/dtex、測定荷重(g)=90mg/dtex、水温=20±2℃である。放置したカセの内側の長さを測り、Lとする。さらに、測定荷重を除き初荷重だけにした状態で2分間放置し、放置したカセの内側の長さを測り、L1とする。次式により、荷重下捲縮発現率を求め、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。
捲縮発現率[CR](%)={(L−L1)/L}×100
F.防透け性
5cm×5cmの織物サンプル5枚をミノルタ製CM−3600dを用いて透過率を測定し、平均値で評価した(n=5)。
○○:透過率 10%未満
○:透過率 10〜20%
×:透過率 20%以上。
【0058】
G.黒発色性
JIS Z 8729(色の表示方法−L*a*b*表色系及びL*u*v*表色系)に記載のL*を、深色性を表すL値として求め、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。L値は濃色ほど値が小さく、淡色ほど値が大きくなる。測色計には、ミノルタ製CM−3600dを用いた。また、光源はD65、視野角は2°とした。その際の染料は市販のブラック染料を用い、135℃で染色した後、還元洗浄(80℃、20分)を実施する。
【0059】
H.摩擦堅牢度
JIS L 0849(摩擦に対する染色堅ろう試験方法)に規定の方法に準じて、乾燥時と湿潤時を試験した。それぞれ、この作業を5回繰り返し、平均値により求めた。
【0060】
摩擦試験機には学振形を用い、級判定には、汚染用グレースケールを用いた。
【0061】
I.風合い評価、表面品位評価
緻密感、ふくらみ感、ソフト感、反発感の風合い評価、および表面品位の均一性について、熟練者5名にて4段階判定法で評価した。
○○:優
○:良
△:可
×:不可。
【0062】
J.ストレッチ率
JIS L 1096の伸長率A法(定速伸長法)で測定した。
【0063】
実施例1〜6
供給糸条として、酸化チタンを1重量%含有した繊度が90dtex、フィラメント数が96フィラメント、伸度150%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用い、フリクション・ピン仮撚機(愛機製作所TH312MKII)で表1記載の方法で仮撚を実施し、その後、インターレース交絡処理(交絡ノズル:東レプレシジョン製QCII)を実施した。実施例1〜4,および6ではウレタンディスクによるフリクション仮撚り、また実施例5では直径2mmのピンを用いてピン仮撚りを実施した。
【0064】
また、実施例2ではヒータ長1.5mの接触式ダウサムヒーターを用いた。
【0065】
次に、このようにして得られた仮撚糸に、村田(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、S方向に撚係数(K)=5000で追撚を施し、その後、45℃×24時間の乾熱撚止めセットを実施した。得られた追撚糸を経糸に用い、緯糸には無撚糸を用い、経密度:140本/2.54cm、緯密度:110本/2.54cm、平織物を作成した。次いで、得られた織物に、常法に従いソフサーリラックス精練処理(1段目60℃、2段目98℃)を実施し、続いて、拡布乾燥機で乾燥後、中間セットを施した。中間セット条件は、温度180℃、加工布速度2m/min、幅出し率9.5%で実施した。その後、3%苛性ソーダ水溶液中に浸漬し、20%のアルカリ減量加工を行い、市販のブラック染料で135℃染色した後、常法に従い還元洗浄(80℃、20分)を行い、水洗し乾燥した。最後に180℃で仕上げセットを実施した。
【0066】
得られた織物の仕上げ密度は高密度となり、緻密感、ふくらみ、ソフト感、反発感に優れた風合いであり、ストレッチ性も有していた。また、表面品位や摩擦堅牢度も良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0067】
実施例7
供給糸条として、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカ微粒子を1重量%含有する繊度が90dtex、フィラメント数が48フィラメント、伸度150%のポリエチレンテレフタレート高配向未延伸糸を用い、後は表1記載の方法で実施例1と同様に糸を試作し、織物評価を実施した。
【0068】
得られた織物の仕上げ密度は高密度となり、緻密感、ふくらみ、ソフト感、反発感に優れた風合いであり、ストレッチ性も有しており、黒発色性にも優れていた。また、表面品位や摩擦堅牢度も良好な結果であった。結果を表1に示す。
【0069】
比較例1、4
実施例1と同様の方法で、表1記載の通りの条件で仮撚糸を試作し、織物評価を実施した。仮撚糸試作の際には毛羽による糸切れが多発した。毛羽により製織の際にも糸切れ停台が多発し、得られた織物の表面品位も悪いものであった。
【0070】
比較例2
実施例2と同様の方法で、表1記載の通りの条件で仮撚糸を試作し、織物評価を実施した。得られた織物は緻密感に乏しく、ふくらみ感・反発感も不足していた。
【0071】
比較例3
実施例5と同様の方法で、表1記載の通りの条件で仮撚糸を試作し、織物評価を実施した。得られた織物は緻密感は有していたが、捲縮をほとんど有していないため、摩擦に弱く、表面がこすれるとすぐにチョークマークが発生するものであった。また摩擦堅牢度も不合格であった。
【0072】
比較例5
実施例1と同様の方法で、表1記載の通りの条件で仮撚糸を試作し、織物評価を実施した。得られた織物については緻密感は有していたが、加工糸伸度が高いためと考えられる撚糸パーンひけ、織機ヨコひけによるヨコ段が多発し、表面品位に問題があった。
【0073】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の高収縮ポリエステル仮撚糸は、特に婦人衣料・スポーツ衣料に好適であり、ブラウス、スーツ、パンツ、ワンピース、コート、ジャージ、アスレチックウェア、スキーウェアの原糸として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、本発明の高収縮ポリエステル仮撚糸の製造工程を例示説明するための工程概略図である。
【符号の説明】
【0076】
A:供給糸条
B:フィードローラー
C:加熱媒体
D:冷却媒体
E:仮撚回転子
F:延伸ローラー
G:ノズル
H:リラックスローラー
I:パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記特性を同時に満足することを特徴とする高収縮性ポリエステル仮撚糸。
(1)40≦沸騰水収縮率[SHW](%)
(2)沸騰水収縮後の乾熱収縮率[SHD](%)≦2
(3)10≦1m当たりの交絡度[CF値]
(4)25≦伸度(%)≦60
(5)5≦捲縮発現率[CR](%)≦25
【請求項2】
請求項1に記載の高収縮性ポリエステル仮撚糸を用いてなることを特徴とする織編物。
【請求項3】
経糸または緯糸に請求項1に記載の高収縮性ポリエステル仮撚糸を用い、該高収縮性ポリエステル仮撚糸を用いた糸方向のストレッチ率が5%以上であることを特徴とする織物。
【請求項4】
請求項1に記載の高収縮性ポリエステル仮撚糸の製造方法であって、ポリエステル高配向未延伸糸を70℃以下、仮撚数Kが1500(T/m)以上で延伸仮撚し、交絡を付与することを特徴とする高収縮性ポリエステル仮撚糸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−79335(P2009−79335A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250823(P2007−250823)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】