説明

高周波回路及び高周波スイッチ

【課題】少ない部品点数で高周波信号の通過損失を低減することができる高周波回路、特に高周波スイッチを提供する。
【解決手段】第1端子T1と第2端子T2との間に高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1マイクロストリップライン10を配置し、第2端子T2とGND間に直列に第1ダイオード12及び第1コンデンサ14を配置する。このとき、第1ダイオード12は、第2端子T2側を順方向として配置する。さらに、第1ダイオード12及び第1コンデンサ14に並列に第1コイル16を配置し、第1ダイオード12及び第1コンデンサ14の間に第1抵抗18を介して第1制御端子CT1を配置する。同様に、第1端子T1と第3端子T3との間に、第2マイクロストリップライン20、第2ダイオード22、第2コンデンサ24、第2コイル26、第2抵抗28及び第2制御端子CT2を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路、特に、ダイオードスイッチを利用して高周波信号の通過経路を2系統に切り換える高周波スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高周波信号の通過経路を2系統に切り換える高周波スイッチとして、ダイオードスイッチで構成されたものがある。このダイオードスイッチを用いた高周波スイッチでは、高周波の通過損失が大きいという問題があった。
【0003】
つまり、ダイオードスイッチを用いた高周波スイッチは、例えば、図2(a)に示すように、高周波信号の通過経路となる端子T1と端子T2間及び端子T1と端子T3間に、それぞれ端子T1側がカソードとなるようにダイオードD1,D2を接続し、各ダイオードD1,D2のカソード側を抵抗器R3を介して接地し、各ダイオードD1,D2のアノード側に、それぞれ抵抗器R1,R2を介して制御端子CT1,CT2を接続することにより構成されている。
【0004】
この高周波スイッチでは、制御端子CT1、CT2にそれぞれ「H」又は「L」の直流電圧を同時に印加することで、端子T1と端子T2間の導通及び遮断を切り換えることができる。
【0005】
ところが、ダイオードD1,D2は、通電状態にあるときには誘導性リアクタンスXD1が生じ、非導通状態にあるときには、容量性リアクタンスXD2が生じる。このリアクタンスXD1及びXD2により、高周波の通過損失が大きくなるのである。
【0006】
そこで、リアクタンスXD1及びXD2をキャンセルして高周波の通過損失を抑制する技術が考案されている。つまり、図2(b)に示すように、ダイオードD1と第2端子T2との間及びダイオードD2と第3端子T3との間に、それぞれ、通電状態にあるダイオードに生じる誘導性リアクタンスXD1に対し、XC1+XD1=0の関係を満足するように、キャパシタンスC1,C2をダイオードD1,D2に直列に接続する。さらに、非導通状態にあるダイオードに生じる容量性リアクタンスXD2に対し、1/{(1/XL1)+(1/XD2)}=∞の関係を満足するインダクタンスL1を第2端子T2と第3端子T3の間に接続している(例えば特許文献1参照)。
【0007】
このような構成を有する高周波スイッチでは、オン状態にあるダイオードの誘導性リアクタンス分は、そのダイオードに直列に接続されたキャパシタンスC1,C2によって打ち消され、オフ状態にあるダイオードの容量性リアクタンス分は、第2端子T2と端子T3との間に接続されたインダクタンスL1により打ち消される。
【0008】
したがって、高周波信号はオン状態にあるダイオードを損失なく通過することができ、また、高周波信号がオフ状態にあるダイオードを通過してしまうこともない。つまり、高周波信号の通過損失を低減した高周波スイッチとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3809533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記高周波スイッチでは、切り換え対象となる高周波信号の周波数が高くなると(5[GHz]程度)高周波信号の通過損失が大きくなってしまう。
つまり、高周波領域においては、図2(b)に示すインダクタンスL1の対GND寄生容量やインダクタンスL1からダイオードD1,D2に至るまでの、各部品のはんだ付け用PADの対GND寄生容量など、無視することができなくなり、これらの寄生容量の存在により通過損失が大きくなるのである。
【0011】
これらの寄生容量をキャンセルすれば通過損失を低減することができるのであるが、高周波回路を構成する各部品がGNDから浮遊していると、寄生容量をキャンセルするために必要となる部品点数が膨大となるという問題がある。
【0012】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、少ない部品点数で高周波信号の通過損失を低減することができる高周波回路、特に高周波スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の高周波回路は、少ない部品点数で高周波信号の通過損失を低減することができる。以下説明する。なお、この欄においては、発明に対する理解を容易にするため、必要に応じて「発明を実施するための形態」欄において用いた符号を付すが、この符号によって請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0014】
高周波回路では、高周波信号の周波数が高くなると、高周波回路を構成する部品自体の寄生容量、部品とGND間の寄生容量或いは基板上のはんだ付け用PADとGND間の寄生容量が無視できなくなり、これらの寄生容量のために高周波信号の通過損失が大きくなる。
【0015】
例えば、部品自体の寄生容量、部品とGND間の寄生容量或いは基板上のはんだ付け用PADとGND間の寄生容量が、図3(a)に点線で示すような形で存在する。これらの寄生容量のうち部品自体の寄生容量をキャンセルするために、誘導性リアクタンスを部品の寄生容量と平行に接続すると、図3(b)に示すように、接続した誘導性リアクタンス自体に寄生容量があり、また誘導性リアクタンスとGND間及び誘導性リアクタンスを接続するための基板上のPADとGND間にも新たな寄生容量が発生する。
【0016】
この新たに発生した寄生容量をキャンセルするためには、誘導性リアクタンスを追加する必要があるなど、寄生容量のキャンセルが複雑化すると共に部品点数が増えてしまうことになる。
【0017】
一方、図3(c)に示すように、二端子部品の端子のうちの一つを接地すれば、前述した寄生容量がGNDに対して並列に存在することになるので、それらの寄生容量を図3(d)に示すように1つにまとめることができる。
【0018】
このようにして1つにまとめた寄生容量に対して、図3(e)に示すように、誘導性リアクタンスを並列接続することにより、寄生容量をキャンセルすることができる。さらに、寄生容量に並列接続する誘導性リアクタンスの一端を接続すると、誘導性リアクタンスを接続することにより発生する寄生容量も共にキャンセルすることができる。このようにして寄生容量をキャンセルする方法は、二端子部品のみでなく、二以上の端子を有する部品であれば同様に適用することができる。
【0019】
つまり、請求項1に記載のように、高周波回路において、基板上の回路を構成する二以上の端子を有する部品の端子のうち一つを接地すると、部品自体の寄生容量、部品とGND間の寄生容量或いは基板上のはんだ付け用PADとGND間の寄生容量を、少ない部品点数でキャンセルすることができる。したがって、高周波信号の通過損失を低減することができる高周波回路とすることができる。
【0020】
ところで、部品には、所定の周波数以下の周波数信号において本来接地が必要であるあるために接地を行っているものと、所定の周波数以下の周波数信号においては接地をしなくても機能を発揮できるために接地を行っていないものとがある。このうち、接地を行っていない部品については、所定の周波数以上の周波数信号において、寄生容量による通過損失が発生することになる。
【0021】
そこで、請求項2に記載のように、部品は、回路を所定周波数よりも低い周波数信号において、接地しない状態で回路を作動することができる部品とする、つまり、所定周波数よりも低い周波数信号において、接地しない状態で作動することができる部品の一つの端子を接地することにより、所定の周波数以上の高周波信号に対し、それらの部品の寄生容量をキャンセルすることができる。したがって、高周波信号の通過損失を低減することができる高周波回路とすることができる。
【0022】
特に、部品が、共振回路の場合には、一般的にインダクタンスとキャパシタンスで構成されるので、一つの端子を接地することによる寄生容量をキャンセルするという効果が大きい。
【0023】
そこで、請求項3に記載のように、部品は、前記高周波回路を構成するスイッチ手段(12,22)のオン時のインダクタンスないしオフ時のリアクタンスの少なくとも一つを打ち消す共振回路部品であるようにすると、その寄生容量をキャンセルすることができる。したがって、高周波信号の通過損失を低減することができる高周波回路とすることができる。
【0024】
高周波回路のうち、特に高周波スイッチでは、従来、1/4波長回路を用いて、高周波信号の通過経路を2系統に切り換える単極双投シャント型高周波スイッチがある。
この従来型の単極双投シャント型高周波スイッチの構成と機能について図4に基づき説明する。従来型のシャント形高周波スイッチは、図4(a)に示すように、第1端子(T1)、第2端子(T2)及び第3端子(T3)の3端子を有している。
【0025】
そして、第1端子(T1)と第2端子(T2)間及び第1端子(T1)と第3端子(T3)間に、高周波信号の1/4波長の第1マイクロストリップライン(10)及び第2マイクロストリップライン(20)を有している。
【0026】
また、第2端子(T2)及び第3端子(T3)側には、それぞれ第1抵抗(18)及び第2抵抗(28)を介して第1制御端子(CT1)及び第2制御端子(CT2)が設けられ、第2端子(T2)及び第3端子(T3)とGND間にはそれぞれ、GND側を順方向とする第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)が配置されている。
【0027】
さらに、第1マイクロストリップライン(10)の第2端子(T2)側及び第2マイクロストリップライン(20)の第3端子(T3)側には、第1制御端子(CT1)と第2制御端子(CT2)を絶縁するためのDCカットコンデンサ(C1,C2)が配置されている。
【0028】
このようなシャント形高周波スイッチの第1制御端子(CT1)に直流5[V](以下、5[V]の電圧を「H」とも呼ぶ。)を印加すると、第1抵抗(18)と第1ダイオード(12)によって第2端子(T2)が図4(b)に示すように、短絡状態となる。
【0029】
この場合、第1端子(T1)と第2端子(T2)間には高周波信号が通過しなくなる(以下、この状態を「遮断状態」又は「オフ」とも呼ぶ。)。
また、第1端子(T1)から第2端子(T2)側を見た場合、図4(b)中のa点から先は繋がっていないように見えるため、第1端子(T1)と第3端子(T3)間は、高周波信号が通過する。
【0030】
このとき、第2制御端子(CT2)に直流0[V](以下、0[V]の電圧を「L」とも呼ぶ。)を印加すると、第2抵抗(28)と第2ダイオード(22)によって第3端子(T3)が図4(c)に示すように、非短絡状態となる。この場合、第1端子(T1)と第3端子(T3)間には高周波信号が通過するようになる(以下、この状態を「導通状態」又は「オン」とも呼ぶ。)。
【0031】
同様に、第2制御端子(CT2)に「H」を印加すると、第2抵抗(28)と第2ダイオード(22)によって第3端子(T3)が図4(b)に示すように、短絡状態となる。
この場合、第1端子(T1)と第3端子(T3)間には高周波信号が通過しなくなる(「オフ」となる。)。
【0032】
また、第1端子(T1)から第3端子(T3)側を見た場合、図4(b)中のb点から先は繋がっていないように見えるため、第1端子(T1)と第2端子(T2)間は、高周波信号が通過する。
【0033】
このとき、第1制御端子(CT1)に「L」を印加すると、第1抵抗(18)と第1ダイオード(12)によって第2端子(T2)が図4(c)に示すように、非短絡状態となる。この場合、第1端子(T1)と第2端子(T2)間には高周波信号が通過するようになる(「オン」となる。)。
【0034】
このようなシャント型高周波スイッチでは、回路上の対GND寄生容量(浮遊容量)以外にも、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)が誘導性リアクタンス(例えば、第1スイッチ手段(12)をダイオードで構成した場合には、ダイオードのオン時インダクタンス)及び容量性リアクタンス(例えば、ダイオードのオフ時キャパシタンス)を有している。したがって、これらの対GND寄生容量(浮遊容量)や誘導性リアクタンス及び容量性リアクタンスのために通過損失が発生する。
【0035】
そこで、高周波回路のうち、高周波スイッチ(1)を請求項4に記載のように、第1端子(T1)と第2端子(T2)間又は第1端子(T1)と第3端子(T3)間の高周波信号の通過経路を切り換える高周波スイッチであって、第2端子(T2)とGND間に直列に配置した第1スイッチ手段(12)及び第1容量性リアクタンス(14)と、第1スイッチ手段(12)及び第1容量性リアクタンス(14)に並列に配置した第1誘導性リアクタンス(16)と、第1スイッチ手段(12)及び第1容量性リアクタンス(14)の間に配置した第1制御端子(CT1)と、第1端子(T1)と第2端子(T2)との間に接続され、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品(10)と、第3端子(T3)とGND間に直列に配置した第2スイッチ手段(22)及び第2容量性リアクタンス(24)と、第2スイッチ手段(22)及び第2容量性リアクタンス(24)に並列に配置した第2誘導性リアクタンス(26)と、第2スイッチ手段(22)及び第2容量性リアクタンス(24)の間に配置した第2制御端子(CT2)と、第1端子(T1)と第3端子(T3)との間に接続され、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第2分布定数部品(20)と、を備え、第1制御端子(CT1)及び第2制御端子(CT2)を介して電圧を印加することにより第1スイッチ手段(12)又は第2スイッチ手段(22)のオン又はオフ状態を相互に切り換えることにより、高周波信号の通過経路を2系統に切り換え可能に構成され、第1容量性リアクタンス(14)、第1誘導性リアクタンス(16)、第2容量性リアクタンス(24)及び第2誘導性リアクタンス(26)は、二以上の端子を有し、その端子のうちの一つを接地するとよい。
【0036】
このようにすると、少ない部品点数で高周波信号の通過損失を低減することができる高周波スイッチ(1)とすることができる。以下図5に基づき説明する。なお、図5においては、説明を分かりやすくするため、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)として主にダイオードを用いて説明する。
【0037】
従来の高周波スイッチ(1)は、図5(a)(図4(a)と同じ回路)に示す構成となっている。図5(a)中に示す第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)には、容量性リアクタンスや誘導性リアクタンスが発生する。
【0038】
例えば、第1スイッチ手段(12)がダイオードの場合、ダイオードのオフ時には、容量性リアクタンスとしてオフ時キャパシタンスが発生する。したがって、図5(b)に示すように、誘導性リアクタンス(16,26)を第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)と並列接続すればオフ時キャパシタンスを打ち消すことができる。
【0039】
また、第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)のオン時には、オン時インダクタンスが発生するので、図5(c)に示すように、容量性リアクタンス(14,24)を第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)に直列接続すればオン時インダクタンスを打ち消すことができる。
【0040】
ところが、第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)に容量性リアクタンス(14,24)を直列接続すると第1制御端子(CT1)及び第2制御端子(CT2)からの電流(DCバイアス電流)が第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)に流れないので、図5(d)に示すように、第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)の方向を反転させた上で第1抵抗(18)及び第2抵抗(28)を第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)のアノード側に接続する。
【0041】
このようにした高周波回路においては、DCカットコンデンサ(C1,C2)は不要となるので、削除する。このようにして構成された高周波スイッチ(1)の高周波回路を図5(e)に示す。
【0042】
この図5(e)に示す高周波スイッチ(1)では、第1ダイオード(12)及び第2ダイオード(22)の有するオン時インダクタンス及びオフ時キャパシタンスを誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)で打ち消すとともに、誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)となる部品の一端を接地することにより、対GND寄生容量(浮遊容量)も打ち消すことができる。
【0043】
ここでは、前述のように、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)の例として、ダイオードを用いて説明したが、例えば、トランジスタ、リレー、メカニカルスイッチなどの他のスイッチ手段も同様に、誘導性リアクタンスや容量性リアクタンスを有しているので、同様にして、それらを誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)で打ち消すことができる。
【0044】
さらに、誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)となる部品の一端を接地することにより、対GND寄生容量(浮遊容量)も打ち消すことができる。
【0045】
このように、高周波スイッチ(1)では、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)の有する容量性リアクタンス及び誘導性リアクタンスをそれぞれ誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)で打ち消すとともに、誘導性リアクタンス(16,26)及び容量性リアクタンス(14,24)となる部品の一端を接地することにより、対GND寄生容量(浮遊容量)も打ち消すことができる。
【0046】
なお、第1分布定数部品(10)及び第2分布定数部品(20)における「分布定数部品」とは、分布定数線路ともいい、キャパシタンスとインダクタンスとが無数に分布した部品のことであり、集中定数部品に置き換えて構成することもできる。
【0047】
また、「第1スイッチ手段(12)のオン又はオフの状態を反転させるための、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品(10)」とは、前述のように、第1スイッチ手段(12)がオンのときに、第1端子(T1)と第2端子(T2)間をオフとし、第1スイッチ手段(12)がオフのときに、第1端子(T1)と第2端子(T2)間をオンとする、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品(10)のことをいう。
【0048】
「第2スイッチ手段(22)のオン又はオフの状態を反転させるための、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品(20)」についても同様である。
ところで、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)としては、種々のものが考えられるが、請求項5に記載のように、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ手段(22)をダイオード(12,22)とすると、第1スイッチ手段(12)及び第2スイッチ(22)手段を簡単な回路で実現することができる。また、前述のように、オン時インダクタンス及びオフ時キャパシタンスを打ち消すとともに、対GND寄生容量(浮遊容量)も打ち消すことができる。
【0049】
また、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品(10)及び第2分布定数部品(20)を、請求項6に記載のように、基板上に形成されるマイクロストリップライン(10,20)とすると、高周波信号の1/4波長の電気長を有する部品を、従来のパターン形成方法によって基板上に容易に形成することができる。
【0050】
さらに、請求項7に記載のように、高周波スイッチ(1)において、第1リアクタンス(14)及び第2容量性リアクタンス(24)を、少なくとも2層のパターン層が積層されており、そのうち1層が回路パターンを形成するための層であり、隣接する他の層がGND層となっている基板において、回路パターンを形成するための層に回路パターンを形成することにより、その回路パターンとGND層との間で決定されるキャパシタンスを有するコンデンサとして形成する。
【0051】
また、第1誘導性リアクタンス(16)及び第2誘導性リアクタンス(26)を、回路パターンを形成するための層に回路パターンで形成することにより、その回路パターンにより決定されるインダクタンスを有するコイルとして形成されるようにするとよい。
【0052】
このようにすると、容量性 リアクタンス及び誘導性リアクタンスを、従来のパターン形成技術により基板上にコンデンサやコイルとして形成できるので、容易に部品点数を減らすことができ、小型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】高周波スイッチ1の概略の回路構成を示す回路図である。
【図2】従来の高周波スイッチの概略の回路構成を示す回路図である。
【図3】高周波回路を構成する部品に発生する寄生容量とそのキャンセル方法を示す図である。
【図4】従来型の単極双投シャント型高周波スイッチの概略の構成と機能を示す図である。
【図5】従来型の単極双投シャント型高周波スイッチを本願発明に係る高周波スイッチ1の回路に変換する過程を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0055】
(高周波スイッチ1の構成)
図1は、本発明が適用された高周波スイッチ1の概略の回路構成を示す回路図である。図1に示すように、高周波スイッチ1は、第1高周波ライン3及び第2高周波ライン5を備え、その第1高周波ライン3と第2高周波ライン5とを切り替え可能に構成されている高周波スイッチである。
【0056】
第1高周波ライン3は、第1マイクロストリップライン10、第1ダイオード12、第1コンデンサ14、第1コイル16、第1抵抗18及び第1制御端子CT1を備えており、第2高周波ライン5は、第2マイクロストリップライン20、第2ダイオード22、第2コンデンサ24、第2コイル26、第2抵抗28及び第2制御端子CT2を備えている。
【0057】
第1マイクロストリップライン10は、第1端子T1と第2端子T2との間に接続される、高周波信号の1/4波長の電気長を有するマイクロストリップラインであり、その特性を分布定数で表すことができる分布定数部品である。基板上の回路パターンとして形成されている。
【0058】
第1ダイオード12及び第1コンデンサ14は、第2端子T2とGND間に直列に配置されており、第1ダイオード12は、第2端子T2側を順方向として配置されている。また、第1コンデンサ14は、容量性リアクタンスであり、2層基板上の回路パターンとして形成されている。
【0059】
つまり、第1コンデンサ14は、1層が回路パターンを形成するための層であり、他の層がGND層となっている2層基板において、回路パターンを形成するための層に形成された回路パターンと、その回路パターンとGND層との間で決定されるキャパシタンスを有するコンデンサとして形成される。
【0060】
ここで、基板は、回路パターンを形成する層とGND層が隣接して積層されていれば、2層以上の多層基板であってもよい。
第1コイル16は、第1ダイオード12及び第1コンデンサ14に並列に配置された誘導性リアクタンスであり、基板上の回路パターンとして形成されている。また、第1制御端子CT1は、電流制限用の第1抵抗18を介して、第1ダイオード12及び第1コンデンサ14の間に接続されている。
【0061】
第2マイクロストリップライン20は、第1端子T1と第3端子T3との間に接続される、高周波信号の1/4波長の電気長を有するマイクロストリップラインであり、その特性を分布定数で表すことができる分布定数部品である。基板上の回路パターンとして形成されている。
【0062】
第2ダイオード22及び第2コンデンサ24は、第3端子T3とGND間に直列に配置されており、第2ダイオード22は、第3端子T3側を順方向として配置されている。また、第2コンデンサ24は、容量性リアクタンスであり、第1コンデンサ12と同様に、2層基板上の回路パターンとして形成されている。
【0063】
第2コイル26は、第2ダイオード22及び第2コンデンサ24に並列に配置された誘導性リアクタンスであり、基板上の回路パターンとして形成されている。また、第2制御端子CT2は、電流制限用の第2抵抗28を介して、第2ダイオード22及び第2コンデンサ24の間に接続されている。
【0064】
(高周波スイッチ1の作動)
高周波スイッチ1では、第1端子T1に図示しないアンテナが接続され、第2端子T2に図示しない送信回路、第3端子T3に図示しない受信回路が接続されている。また、第1制御端子CT1及び第2制御端子CT2には、図示しない直流電源が接続されている。
【0065】
直流電源は、第1制御端子CT1に直流5[V](以下、5[V]の電圧を「H」とも呼ぶ。)を印加するとともに、第2制御端子CT2には、0[V](以下、0[V]の電圧を「L」とも呼ぶ。)を印加する。逆に、第1制御端子CT1に[L]を印加するときには、第2制御端子CT2には、「H」を印加するという、いわゆるオルタネート作動をする。
【0066】
第1制御端子CT1に「H」が印加されると、前述の従来型の高周波スイッチと同様に第1抵抗18と第1ダイオード12によって第2端子T2が短絡状態となる。したがって、第1端子T1と第2端子T2の間は、「オフ」となる。したがって、第1端子T1と第2端子T2間には高周波信号が通過しなくなる(図4(b)参照)。
【0067】
同時に、第2制御端子CT2には、「L」が印加されるので、第2抵抗28と第2ダイオード22によって第3端子T3が開放状態となる。したがって、第1端子T1と第3端子T3の間は、「オン」となる。したがって、第1端子T1と第3端子T3間には高周波信号が通過する(図4(c)参照)。
【0068】
逆に、第1制御端子CT1に「L」が印加されると、第1端子T1と第2端子T2の間はオンとなるので、第1端子T1と第2端子T2間には高周波信号が通過する。
同時に、第2制御端子CT2には、「H」が印加されるので、第1端子T1と第3端子T3の間はオフとなるので、第1端子T1と第3端子T3間には高周波信号が通過しなくなる。
【0069】
このように、第1制御端子CT1及び第2制御端子CT2を、同時に「H」、「L」又は「L」、「H」とすることで高周波信号を2系統に切り換えるというスイッチング動作ができる。
【0070】
(高周波スイッチ1の特徴)
この高周波スイッチ1では、前述のように、第1ダイオード12及び第2ダイオード22の有するオン時インダクタンスを、容量性リアクタンスである第1コンデンサ14及び第2コンデンサ24で打ち消すとともに、オフ時キャパシタンスを、誘導性リアクタンスである第1コイル16及び第2コイル26で打ち消すことができる。
【0071】
さらに、容量性リアクタンス部品である第1コンデンサ14、第2コンデンサ24及び誘導性リアクタンス部品である第1コイル16、第2コイル26の一端を接地することにより、対GNDの寄生容量(浮遊容量)も同時に打ち消すことができる。
【0072】
また、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1マイクロストリップライン10及び第2マイクロストリップライン20を基板上に形成しているので、従来のパターン形成方法により、基板上に容易に形成することができる。
【0073】
さらに、高周波スイッチ1において、第1コンデンサ14及び第2コンデンサ24と第1コイル16及び第2コイル26を基板上の回路パターンで形成しているので、従来のパターン形成技術により、基板上に形成できる。したがって、容易に部品点数を減らすことができ、さらに、第1端子T1、第2端子T2及び第3端子T3がGND電位であるので、ESD(Electrostatic Dischargeの略:静電破壊)に強い高周波スイッチ1とすることができる。
【0074】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
【0075】
(1)上記実施形態では、分布定数部品として、基板上に回路パターンとして形成した第1及び第2マイクロストリップライン10,20を用いたが、第1及び第2マイクロストリップライン10,20の代わりに導波管や同軸ケーブル或いは平衡線を用いてもよい。
【0076】
さらに、コンデンサやコイルなどの集中定数部品を組み合わせて分布定数回路を構成してもよい。
(2)上記実施形態では、第1コンデンサ14,第2コンデンサ24、第1コイル16、第2コイル26を基板上に回路パターンとして形成したが、コンデンサ部品やコイル部品を用いてもよい。
【0077】
(3)上記実施形態では、第1マイクロストリップライン10及び第2マイクロストリップライン20を、高周波信号の1/4波長の電位長を有するものとしていたが、移相器を備える等により、電気長を可変にすることができるようにしてもよい。
【0078】
このようにすると、高周波スイッチ1で切り換えることができる高周波信号の周波数の幅を大きくすることができる。換言すれば、多数の種類の高周波信号を切り換えることができる高周波スイッチとすることができる。
【0079】
(4)また、高周波スイッチ1を構成する各部品をICで構成してもよい。
(5)また、第1ダイオード12及び第2ダイオード22は、トランジスタ、リレー、メカニカルスイッチなどオン/オフ作動ができるものであればよい。
【符号の説明】
【0080】
1…高周波スイッチ、3…第1高周波ライン、5…第2高周波ライン、10…第1マイクロストリップライン、12…第1ダイオード、14…第1コンデンサ、16…第1コイル、18…第1抵抗、20…第2マイクロストリップライン、22…第2ダイオード、24…第2コンデンサ、26…第2コイル、28…第2抵抗、CT1…第1制御端子、CT2…第2制御端子、T1…第1端子、T2…第2端子、T3…第3端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の回路を構成する二以上の端子を有する部品の端子のうちの一つを接地することを特徴とする高周波回路。
【請求項2】
請求項1に記載の高周波回路において、
前記部品は、前記回路を所定周波数よりも低い周波数信号において、接地しない状態で回路を作動することができる部品であることを特徴とする高周波回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高周波回路において、
前記部品は、前記高周波回路を構成するスイッチ手段のオン時のインダクタンスないしオフ時のリアクタンスの少なくとも一つを打ち消す共振回路部品であることを特徴とする高周波回路。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の高周波回路において、
前記高周波回路は、
第1端子と第2端子間又は第1端子と第3端子間の高周波信号の通過経路を切り換える高周波スイッチであって、
前記第2端子とGND間に直列に配置した第1スイッチ手段及び第1容量性リアクタンスと、
前記第1スイッチ手段及び前記第1容量性リアクタンスに並列に配置した第1誘導性リアクタンスと、
前記第1スイッチ手段及び前記第1容量性リアクタンスの間に配置した第1制御端子と、
前記第1端子と前記第2端子との間に接続され、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第1分布定数部品と、
前記第3端子とGND間に直列に配置した第2スイッチ手段及び第2容量性リアクタンスと、
前記第2スイッチ手段及び前記第2容量性リアクタンスに並列に配置した第2誘導性リアクタンスと、
前記第2スイッチ手段及び前記第2容量性リアクタンスの間に配置した第2制御端子と、
前記第1端子と前記第3端子との間に接続され、高周波信号の1/4波長の電気長を有する第2分布定数部品と、
を備え、
前記第1制御端子及び前記第2制御端子を介して電圧を印加することにより前記第1スイッチ手段又は前記第2スイッチ手段のオン又はオフ状態を相互に切り換えることにより、高周波信号の通過経路を2系統に切り換え可能に構成され、
前記第1容量性リアクタンス、前記第1誘導性リアクタンス、前記第2容量性リアクタンス及び前記第2誘導性リアクタンスは、二以上の端子を有し、該端子のうちの一つを接地することを特徴とする高周波スイッチ。
【請求項5】
請求項4に記載の高周波スイッチにおいて、
前記第1スイッチ手段及び前記第2スイッチ手段は、ダイオードであることを特徴とする高周波スイッチ。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の高周波スイッチにおいて、
前記第1分布定数部品及び前記第2分布定数部品は、基板上に形成されるマイクロストリップラインであることを特徴とする高周波スイッチ。
【請求項7】
請求項4乃至請求項7の何れかに記載の高周波スイッチにおいて、
前記第1容量性リアクタンス及び前記第2容量性リアクタンスは、
少なくとも2層のパターン層が積層されており、そのうち1層が回路パターンを形成するための層であり、隣接する他の層がGND層となっている基板において、前記回路パターンを形成するための層に、回路パターンを形成することにより、その回路パターンとGND層との間で決定されるキャパシタンスを有するコンデンサとして形成され、
前記第1誘導性リアクタンス及び前記第2誘導性リアクタンスは、
前記回路パターンを形成するための層に回路パターンで形成することにより、その回路パターンにより決定されるインダクタンスを有するコイルとして形成されることを特徴とする高周波スイッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−272955(P2010−272955A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120997(P2009−120997)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】