説明

高周波誘導加熱装置及び同装置による被加熱部材の加熱方法

【課題】被加熱物の凹凸面に沿ってコイル部または被加熱物の少なくとも一方を相対的に移動させながら高周波誘導加熱するのに好適に用いることができる高周波誘導加熱装置、及び同装置を用いた高周波誘導加熱方法を提供する。
【解決手段】幅寸法よりも長尺の長さ寸法を有する環状のコイル部4の長さ方向の少なくとも一端部が、コイル部4の厚さ方向の一方側に曲成されてなることを特徴とする高周波誘導加熱装置である。コイル部4の長さ方向の両端部が、中間部42に対してコイル部の厚さ方向の一方側に曲成されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高周波誘導加熱装置及び同装置による被加熱部材の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用ドア部材の製造工程において、ドア部材の水密性を高めるために、ドア部材の内面側の周端部に粘性のシール材を塗布し、これを乾燥硬化することが行われている。
【0003】
従来、このようなシール材の乾燥硬化は、温風乾燥等により行われていたが、塗布したシール材の表面が局部的に加熱されるため乾燥むらが生じるとか、エネルギ効率が悪いとか、処理に時間がかかるいう問題があった。
【0004】
そこで、高周波誘導加熱装置を用い、外貨熱装置によりドア部材を加熱することにより、その熱でシール材を乾燥硬化させる方法が提案されている。
【0005】
そして、この高周波誘導加熱装置として、例えば特許文献1に記載されているような馬蹄型のコイル部を用い、この馬蹄型コイル部の内側中空部にドア部材の端部を挿入し、ドア部材の輪郭に沿ってコイル部をドア部材に対して相対移動させながら、加熱することが提案されている。
【特許文献1】特開平5−261526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、馬蹄型のコイル部では、コイル部の内側中空部へのドア部材の挿入の程度によって加熱状態が著しく変化し、同部材の端縁部のみが局部的に加熱されたり、全体の加熱量が不足する等の不都合がしばしば発生し、ロボットで自動加熱を行う場合のティーチングも含めて、制御が難しいという問題があった。
【0007】
なお、この問題に対しては、馬蹄型のコイル部ではなく平面状のコイル部を用い、該コイル部をシール材に対向する態様で近接配置して加熱する、いわゆる平面焼きと呼ばれる方法を採用することが有効である。
【0008】
しかし、ドア材の内面側の周端面は、必ずしも全体が平坦ではなく、うねりやくびれ等による部分的な凹凸が形成されており、このような凹凸面に対して、平坦なコイル部を用いることは、特に平坦部と凹凸部の境界部分の形状に沿うようにコイル部を配置することが困難で、被加熱面と平坦状コイル部とに大きな隙間が生じてしまい、加熱効率が低下するというような別の問題があった。
【0009】
このような問題は、単に自動車用ドア材に塗布したシール材の乾燥硬化にとどまらず、被加熱物の凹凸面に沿ってコイル部または被加熱物の少なくとも一方を相対的に移動させながら高周波誘導加熱する場合に、共通に発生する問題であった。
【0010】
この発明は、このような技術的背景に鑑みてなされたものであって、被加熱物の凹凸面に沿ってコイル部または被加熱物の少なくとも一方を相対的に移動させながら高周波誘導加熱するのに好適に用いることができる高周波誘導加熱装置、及び同装置を用いた高周波誘導加熱方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の手段によって解決される。
(1)幅寸法よりも長尺の長さ寸法を有する環状のコイル部の長さ方向の少なくとも一端部が、コイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
(2)コイル部の長さ方向の両端部が、中間部に対してコイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなる請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
(3)コイル部の長さ方向の端部曲成部を除く中間部が平坦状である請求項1または2に記載の高周波誘導加熱装置。
(4)請求項1〜3のいずれかに記載の高周波誘導加熱装置を用い、被加熱面に凹凸を有する被加熱部材の前記被加熱面に、高周波誘導加熱装置のコイル部を近接配置し、コイル部または被加熱部材の少なくとも一方を、コイル部の長さ方向に前記被加熱面に沿って移動させることにより、被加熱面を高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱による被加熱部材の加熱方法。
【発明の効果】
【0012】
前項(1)に記載の発明によれば、幅寸法よりも長尺の長さ寸法を有する環状のコイル部の長さ方向の少なくとも一端部が、コイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなるから、被加熱物の平坦部と凹凸部の境界部分や曲線部において、全体が平坦状であるコイル部に較べて、被加熱面の形状に対応した姿勢を採るための自由度が増し、被加熱部材を効率よく加熱することができる。
【0013】
前項(2)に記載の発明によれば、コイル部の長さ方向の両端部が、中間部に対してコイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなるから、長さ方向の両端部を、被加熱面の形状に対応した姿勢に対応させながら、加熱を行うことができる。
【0014】
前項(3)に記載の発明によれば、コイル部の長さ方向の端部曲成部を除く中間部が平坦状であるから、被加熱物の平坦面に対しては、この中間部を主体的に用いて加熱することができる。
【0015】
前項(4)に記載の発明によれば、被加熱面に凹凸を有する被加熱部材の前記被加熱面に、高周波誘導加熱装置のコイル部を近接配置し、コイル部または被加熱部材の少なくとも一方を、コイル部の長さ方向に前記被加熱面に沿って移動させることにより、被加熱面を高周波誘導加熱することで、被加熱物の平坦部と凹凸部の境界部分や曲線部において、コイル部を被加熱面の形状に対応した姿勢に配置しながら、被加熱物を効率よく加熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次にこの発明の一実施形態を説明する。
【0017】
図1(a)は、この発明の一実施形態に係る高周波誘導加熱装置のコイルヘッド1を示す平面図、(b)は同じく正面図、図2は同じく側面図である。
【0018】
これらの図に示すように、前記コイルヘッド1は、図4および図5に示すように、図示しない高周波発信装置に接続されたケーブルの先端に接続されたカレント・トランス(CTという)収容部2と、このCT収容部2の先端面から前方へ突設された仕切り板3と、CT収容部2の先端面から引き出された環状のコイル部4とを備えている。
【0019】
前記コイル部4は、良導製の金属材、例えば銅からなり、CT収容部2から引き出された一対のパイプ材が、前記仕切り板3の両面に沿って延設されるとともに、途中で延設方向と直角に折曲され、交差状部5を経て互いに連成されることにより、幅寸法Wよりも長さ寸法Lの長い平面視長円形状ないし楕円形状に形成されている。
【0020】
かつ、コイル部4は図1(b)の正面視において、長さ方向の両端部がコイル部4の厚さ方向の仕切り板3側に直線的に傾斜する態様で曲成されることにより、曲成部41、41が形成されてなるとともに、コイル部4の長さ方向の両端部を除く中間部42は、正面視平坦状(直線状)に形成されている。
【0021】
なお、この実施形態では、コイル部4は1ターンにより構成されているが、2ターン以上で構成しても良い。また、高周波誘導作用の増強のために、環状のコイル部4の内側空所にフェライトコア等の磁性体が装填されても良い。また、コイル部4の全体を樹脂モールド等により絶縁被覆しても良い。
【0022】
次に、図1及び図2に示した高周波誘導加熱装置を用いて、被加熱部材を連続的に加熱する方法を説明する。
【0023】
この実施形態では、図3に示すように、自動車用ドア材からなる被加熱部材10の内面側の周端部に沿って塗布された樹脂製シール材11を、乾燥硬化する場合を例にとって説明するが、これに限定されることはない。
【0024】
まず、図3(a)に示すように、前記コイル部4の長さ方向がシール材11の塗布方向と合致する向きにして、コイル部4をシール材11の上方に近接配置させる。
【0025】
この状態で、コイル部4に高周波電流を流すと、コイル部4の下方に位置する被加熱部材10であるドア材が高周波誘導作用により発熱する。この発熱により、シール材11が加熱されて乾燥硬化する。加熱温度は被加熱部材10に歪み等を生じさせない範囲で、シール材11の硬化に必要な温度に設定すればよい。
【0026】
次に、コイルヘッド1を移動させることにより、コイル部4をその長さ方向に前記被加熱部材10の被加熱面に沿って移動させる。すると、コイル部4の直下に位置する被加熱面が連続的に加熱されていき、シール材11は連続的に乾燥硬化される。
【0027】
なお、コイル部4(コイルヘッド1)を固定しておき、被加熱部材10をその被加熱面がコイル部4の下方に臨んだのちに通過するように移動させても良いし、コイル部4(コイルヘッド1)と被加熱部材10の両方を移動させても良い。
【0028】
また、被加熱部材10の被加熱面に、うねりやくびれ等による凹凸が生じていても、図3(b)に示すように、コイル部4の長さ方向の端部に曲成された曲成部41が、前記凹凸の変化に追従し、凹凸部の境界部分や曲線部からコイル部4が浮き上がって離間するのを抑制できるから、この部分において加熱効率が低下してシール材11の乾燥硬化が部分的に不足するといった不都合の発生を抑止できる。
【0029】
こうして、平坦な被加熱面についてはコイル部4の中間部42を支配的に作用させ、凹凸面に対しては、長さ方向の両端部に形成された曲成部41、41を利用し、場合によってはコイル部4の姿勢を調整しながら、被加熱面の形状にコイル部4を沿わせながら移動させ、被加熱部材10を加熱する。
【0030】
このように、本実施形態では、全体が平坦状であるコイル部に較べて、被加熱面の形状に対応した姿勢を採るための自由度が増し、被加熱部材10を効率よく加熱することができる。このような効果を有効に発揮させるために、コイル部4の中間部42に対する曲成部41の傾斜角度は、限定はされないが20〜45度程度に設定するのが良く、好ましくは30〜40度に設定するのがよい。
【0031】
なお、図1〜図3に示した実施形態では、コイル部4の長さ方向の両端部に曲成部41、41を形成したが、図4に示すように、コイル部4の長さ方向の一端側にのみ曲成部41を形成しても良い。
【0032】
また、曲成部41は、正面視で直線状に傾斜していなくても良く、湾曲状に曲成されたものであっても良い。
【0033】
また、図5に示すように、コイル部4の長さ方向の全体が湾曲状ないし円弧状に曲成されていても良い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(a)は、この発明の一実施形態に係る高周波誘導加熱装置のコイルヘッドを示す平面図、(b)は同じく正面図である。
【図2】同じく図1に示したコイルヘッドの側面図である。
【図3】(a)は、図1及び図2に示した高周波誘導加熱装置を用いて、被加熱物を加熱している状態を説明するための斜視図、(b)は同じく正面断面図である。
【図4】(a)は、この発明の他の実施形態に係る高周波誘導加熱装置のコイルヘッドを示す平面図、(b)は同じく正面図である。
【図5】(a)は、この発明のさらに他の実施形態に係る高周波誘導加熱装置のコイルヘッドを示す平面図、(b)は同じく正面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 コイルヘッド
4 コイル部
41 曲成部
42 中間部
5 交差部
10 被加熱部材
11 シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅寸法よりも長尺の長さ寸法を有する環状のコイル部の長さ方向の少なくとも一端部が、コイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなることを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
コイル部の長さ方向の両端部が、中間部に対してコイル部の厚さ方向の一方側に曲成されてなる請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
コイル部の長さ方向の端部曲成部を除く中間部が平坦状である請求項1または2に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の高周波誘導加熱装置を用い、
被加熱面に凹凸を有する被加熱部材の前記被加熱面に、高周波誘導加熱装置のコイル部を近接配置し、コイル部または被加熱部材の少なくとも一方を、コイル部の長さ方向に前記被加熱面に沿って移動させることにより、被加熱面を高周波誘導加熱することを特徴とする高周波誘導加熱による被加熱部材の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−252523(P2009−252523A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98777(P2008−98777)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(505361587)株式会社オー・イー・ティー (9)
【Fターム(参考)】