説明

高品質アイオノマーの製造方法

アイオノマーを製造するための反応押出方法を開示する。本方法は、カルボキシル官能基含有ポリマーを押出機に加える工程と、続いて押出機の溶融ゾーン中でそのポリマーを均一に溶融させる工程とを含む。押出機の第1の溶融シールゾーンが、金属イオン水溶液が溶融ポリマーに加えられる注入ゾーンから溶融ゾーンを分離するために形成される。第1の溶融シールゾーンは、注入ゾーン及び反応ゾーンのいずれの位置の水の蒸気圧よりも高い圧力まで溶融シールゾーン中の圧力を増加させることによって形成される。次に、金属イオンがカルボキシル官能基と実質的に反応する条件下で、金属イオン水溶液がカルボキシル官能基含有ポリマーと押出機の反応ゾーン中で混合される。圧力上昇ゾーンが押出機中に形成され、この圧力上昇ゾーンは反応ゾーンの終端より手前に位置することはなく、圧力上昇ゾーンは、金属イオンとポリマーのカルボキシル官能基との間の所望の反応を進行させるのに十分な時間、金属イオン水溶液が液相中に残存するようなレベルまで圧力を増加させることによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改善された性質を有するポリマーアイオノマー組成物を製造するための新規な方法に関する。本方法は、少なくとも4つのゾーンを有することを特徴とする反応押出方法を含む。第1のゾーンでは、カルボキシル官能基含有ポリマーの添加及び溶融を行うことができる。第2のゾーンでは、金属イオン水溶液を添加することができる。第3のゾーンでは、金属イオン水溶液をカルボキシル官能基含有ポリマーと混合し反応させることができる。第4のゾーンでは、アイオノマー及び水蒸気を排出することができる。本方法は、第3のゾーン中の混合性能において実質的に反応を完了するのに十分な滞留時間が得られるまで、水蒸気が第3のゾーンを離れるのを阻止するのに十分高い圧力を反応押出機内で維持することを特徴とする。本発明のアイオノマー組成物は、他の性質に悪影響を与えることなく改善された透明性と減少したゲル量とを特徴とする。従って、アイオノマーは、ゴルフボール、ボーリングのピンのカバー、車のバンパーガード、サイドモールディングのストリップ、靴の部品、包装フィルム、コーティング、及び接着剤などの用途に理想的である。
【0002】
アイオノマー及びその製造方法は当分野において周知である。本発明は、αオレフィンとカルボキシル基を有するビニルモノマーとを含むコポリマーの中和又は鹸化反応によって形成されるアイオノマーに関する。このようなコポリマーとしては、インターポリマー、ならびにグラフトコポリマー及びブロックコポリマーが挙げられる。中和反応は、金属塩が少なくとも一部のカルボキシル基上に形成される反応である。このようなアイオノマーは、価値の高い用途、例えばフィルム結合層、ヒートシール層、ゴルフボールカバー、及び耐衝撃性改質において使用することができる。これらの用途の多くでは、アイオノマーが高い透明性を示し最小限のゲルを有することが望ましい。
【背景技術】
【0003】
米国特許第3,264,272号明細書には、金属イオン含有溶液を、α−オレフィンとαβエチレン系不飽和カルボン酸とを含むコポリマーと溶融ブレンドすることが記載されている。この参考文献に開示される溶融ブレンド方法で、所望の粘度及び透明性のアイオノマーが製造されるとは考えられない。
【0004】
米国特許第4,847,164号明細書には、金属酸化物をエチレンコポリマー中に混入して濃縮物又はマスターバッチを形成し、続いて少量のこの濃縮物をエチレン/カルボン酸コポリマー中に溶融ブレンドする方法が記載されている。本方法によって、金属酸化物のより均一な分散体が実現され、金属化合物水溶液を使用する場合に報告されている泡立ちの問題が回避されると報告されている。
【0005】
米国特許第5,631,328号明細書には、ASTM方法D1003によって測定したヘイズが10%以下となるアイオノマーが開示されている。この参考文献には、IA族金属含有溶液を、2〜8個の炭素原子を有するα−オレフィン及び4〜22個の炭素原子を有するα,βエチレン系不飽和カルボン酸のエステルを含む溶融又は流動性コポリマーに接触させる工程と、上記コポリマー及びIA族金属含有溶液を、10%以下のヘイズを有するアイオノマー組成物が得られる温度及び程度で激しく混合する工程とを含む方法が開示されている。このような方法で調製されたアイオノマーは有用であるが、依然として白色の斑点が発生し、これらはこのような材料の有用性を損なうものである。
【発明の開示】
【0006】
本発明は、ポリマーアイオノマーを製造するための反応押出方法であって、カルボキシル官能基含有ポリマーを押出機に加える工程と;ポリマーを押出機の溶融ゾーン中で均一に溶融させる工程と;押出機の溶融シールゾーンを形成する工程と;押出機の注入ゾーン中の溶融ポリマーに金属イオン水溶液を加える工程であって、注入ゾーンが押出機の溶融ゾーンの後に位置する工程と;金属イオンがカルボキシル官能基と実質的に反応するような条件下で、金属イオン水溶液をカルボキシル官能基含有ポリマーと押出機の反応ゾーン中で混合する工程と;続いて、反応したアイオノマーを排出する工程とを含む方法を含む。本方法は、注入ゾーンを取り囲む反応押出機の領域内の圧力が、金属イオンをカルボキシル官能基と実質的に反応させるのに十分な時間水溶液が確実に溶液中に残留するのに十分高い圧力が保証されることを特徴とする。理想的には、溶融シールゾーンは、注入ゾーン及び反応ゾーン内の水溶液の最大蒸気圧よりも高い圧力に維持され、そのため、水蒸気はポリマー流方向の反対方向には移動しない。注入ゾーン及び反応ゾーン内の圧力は、金属イオンとポリマーのカルボキシル基との反応を実質的に完了させるのに十分な滞留時間となるまで、水溶液中の水の気化を防止するのに十分高い圧力となるべきである。これは、場合により、注入ゾーン及び反応ゾーン中の水溶液の最大蒸気圧よりも高い圧力に維持される反応ゾーン後の第2の溶融シールゾーンの補助によって行うこともできるが、溶液中の金属イオンとポリマー中のカルボキシル官能基との間の所望の反応を実質的に完了させるのに十分な滞留時間(反応ゾーン中の混合条件において)を得るのに十分なだけ気化を遅らせる圧力上昇ゾーンが存在するのであれば、全体のシールは必要ではない。水溶液を反応ゾーン中で気化させないために十分な背圧を発生させるのであれば、この圧力上昇ゾーンは、反応ゾーン自体の一部であってもよいし、反応ゾーンの後に位置してもよい。
【0007】
本発明の別の一態様においては、透明性、ならびにゲル又は他の介在物の量の減少によって区別される新規アイオノマー組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、一般に、カルボキシル含有ポリマーを金属イオン水溶液と反応させることによって調製されるアイオノマーに関する。
【0009】
カルボキシル含有ポリマーは、CO2H官能基を有するあらゆるポリマーであってよい。最も一般的には、カルボキシル基は、カルボン酸又は誘導体の形態のモノマーに由来し、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、並びに、モノエステル、例えばメチル水素マレエート、メチル水素フマレート、エチル水素フマレート、及び無水マレイン酸などのモノマーが挙げられる。最も一般的には、カルボキシル含有モノマーは、αオレフィンモノマー、好ましくは2〜8個の炭素原子を有するα−オレフィンと共重合される。ポリマー中のカルボキシル基の濃度は、典型的には0.2モル%〜25モル%、より典型的には1.0モル%〜12モル%の範囲内である。好適なカルボキシル含有ポリマーとしては、Dow Chemical Companyより商品名プリマコール(PRIMACOR)で販売されているものなどのエチレンアクリル酸コポリマーが挙げられる。
【0010】
カルボキシル官能基を有するあらゆるポリマーを本発明に使用できるが、多くの用途では、ASTM−D1238(2.16kg/190℃)によって求められる材料のメルトインデックスが、1g/10分〜2000g/10分、より好ましくは10g/10分〜500g/10分、さらにより好ましくは25g/10分〜200g/10分の範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明での使用に好適な金属イオンとしては、元素周期表のI、II、及びIII族の金属の1又はそれ以上の一、二、及び三価のイオンが挙げられる。これらの中で、IA族のアルカリ金属が一般に好ましく、ある用途ではリチウム及びナトリウムが理想的となる。さらに、好適な金属イオンは遷移金属中にも見出すことができる。
【0012】
好都合には、金属イオン水溶液は、金属水酸化物を水に加えることによって調製することができるが、他の塩でも可能である。リチウムの場合、好ましくは水中に5重量%〜18重量%溶液のLiOHが調製され、より好ましくは8重量%〜15重量%のLiOHであり、室温での保存及び配送の場合は約10重量%が最も好ましく、より高温での保存及び配送の場合はより高いパーセンテージが許容される。
【0013】
ナトリウム塩、例えばNaOHの場合、ナトリウム塩は水性媒体に対する可溶性がはるかに高いが、特に、結果として得られるアイオノマーの着色が少ないことが望ましい場合に、より低濃度の溶液の使用が好ましいことを発見した。色は好都合には、ASTM 6290によって求められる黄色度指数(YI)で評価することができる。たとえば、室温における水に対するNaOHの飽和点が50重量%を超えるNaOHとなり得るが、このような高濃度の使用によって、改善された混合条件とは無関係に琥珀色のアイオノマーが得られる。ナトリウムアイオノマーの場合、わずか5%〜25重量% NaOHを含有する溶液を使用することが好ましく、10%〜25%がさらにより好ましい。当業者によって一般に認識されているように、加工上の理由でより高濃度が一般に好ましく、その理由はこれによって除去すべき水が少なくなるからである。この考慮事項は、より高い濃度で観察されるYIの増加に対してバランスを取るべきである。
【0014】
より少ない着色(すなわち、より小さい(lowere)YI)が、改善された混合効率によってナトリウムアイオノマーにおいて実現され得ることも一般に観察された。例えば、増加したスクリュー速度で25%NaOH溶液を使用すると、より遅いスクリュー速度で10%NaOH溶液を使用して得られるアイオノマーと同等のYIを有するアイオノマーが製造されることを観察された。
【0015】
他の塩の好ましい濃度は様々であるが、反応押出機に送達するまでに十分な溶解性が得られるように選択すべきである。
【0016】
本発明の目的では、水に対する溶解性が低い金属酸化物のスラリーを加えると好都合となる場合があり、これによりスラリー中の金属酸化物の反応性が、反応ゾーン中の液体状態の水が多量に存在することによって向上する。例えば、酸化亜鉛は水に対する溶解性が低いことが公知であるが、高い温度及び圧力下での水の存在下でカルボキシル部分とより効率的に反応することができる。従って、本発明において使用される用語「水溶液」は水性スラリーを含むものと理解されたい。
【0017】
本発明のアイオノマーは、好都合には反応押出方法を使用して製造される。押出機及び押出方法は当分野において周知である。あらゆる連続型押出システムを使用することができる。押出機は十分な運搬、溶融、及び混合の能力が保証されるように選択すべきである。押出機は、固体ポリマーを加えることができる供給ゾーン、液体注入フィーダー、及び理想的には液化能力も有するべきである。好適な連続型押出システムとしては、より大きな外径/内径比のかみ合い同方向回転二軸スクリュー押出機接線異方向回転(tangential-counter rotating)二軸スクリュー押出機、多段一軸スクリュー押出機、又は2つ又はそれ以上のこれらの連続型ミキサーの組み合わせが挙げられる。
【0018】
好適な連続混合装置の1つを図1に示す。この図は、単純な反応押出機(1)の断面を示している。固体ポリマーが、押出機(1)の供給セクション(2)に加えられ、溶融され、スクリュー(3)によって運ばれる。このポリマーは、押出機(1)の溶融ゾーン(4)中で溶融し、第1の溶融シールゾーン(8)を介して運ばれる。注入ポート(5)から、金属イオン水溶液を押出機(1)の注入ゾーン(6)中に導入することができる。溶融したポリマー及び金属イオン水溶液は次に押出機(1)の反応ゾーン(7)中で十分に混合され、圧力上昇ゾーン(9)を通過して運ばれ、この圧力上昇ゾーンは、金属イオンが実質的にカルボキシル官能基と反応した後でポリマー材料のみがそのゾーンを通過するように配置されている。従って、反応ゾーン(7)が圧力上昇ゾーン(9)を通り過ぎるまで延在するのでなければ、反応ゾーン(7)及び圧力上昇ゾーン(9)が重なっていてもよいことを理解されたい。次に液化ポート(10)で、残留する水がポリマーから除去され、続いてストランドダイカッター又はその他の好適な排出手段(11)を通過する。
【0019】
適切な滞留時間が維持されることで適切な溶融、混合、及び反応が行われるのであれば種々の長さ対直径比(L/D)を本発明において使用できることを理解されたい。例えばL/Dが40を超えてもよいが、より好ましくは30〜40の範囲内であり、より好ましくは30〜35の範囲内である。
【0020】
反応ゾーン中の滞留時間及び温度は、最低で99%、好ましくは実質的に100%となるべきである。ポリマーとの中和反応に関与しない金属イオンは、水を除去した後に沈殿することが多く、ポリマー中に粒子として現れる。本発明は、完全に変換されるまで反応を進行させることによってこれらの粒子の存在を排除する。理論によって束縛しようと意図するものではないが、金属イオンを溶液中に確実に残留させるために圧力上昇ゾーン及び溶融シールゾーンを設けることによって、反応が拡散のみに限定されると考えられる。
【0021】
当分野において公知のように、ポリマー中の特定のカルボン酸モル量に対する金属塩のモル当量は、ポリマーの最終用途の要求に依存して調整することができ、高い耐酷使性が要求される用途ではより高い中和レベルが一般に好ましく、より低粘度が要求される用途ではより低い中和レベル(すなわち、より多くの未反応カルボキシル基)が一般に好ましい。
【0022】
本発明のこの態様において重要なことは、押出機の温度及び圧力は、溶融シールゾーン(8)の圧力が、注入ゾーン(6)及び反応ゾーン(7)の中のいずれの位置の水の蒸気圧よりも高くなるように維持される。この方法では、金属イオンがポリマーのカルボキシル基と実質的に反応する前に、水蒸気が押出機の供給セクションから逃げ出さないようにすることができる。同様に、圧力上昇ゾーン(9)は、水溶液中の金属イオンとカルボキシル官能基との間で所望の反応が起こるのに十分な滞留時間が確実となるのに十分高い圧力に維持される必要がある。この圧力は、注入ゾーン(6)及び反応ゾーン(7)の中のいずれの位置の水の蒸気圧よりも高くてもよいが、水の蒸気圧よりも高くなる必要はない。当業者は理解しているように、必要な滞留時間は、種々の要因、例えば温度、混合効率、及び特定の成分の反応性に依存して変動する。例えば混合効率を改善することによって、例えば反応の完了が早まり、それによって滞留時間を短縮できる。
【0023】
仮定であるが、第1の溶融シールゾーンの圧力が、注入ゾーン及び反応ゾーンのいずれの位置の水蒸気圧よりも高くなることが保証されないと、水蒸気は押出機の供給ゾーンから逃げ出すことができる。同様に、圧力上昇ゾーン中の圧力が低すぎると、金属イオンがカルボキシル官能基と十分に反応する機会を得る前に、水溶液中の水が気化し得る。これらの場合のいずれが発生しても、水の量が減少するために一部の金属塩が沈殿すると考えられる。沈殿した金属塩によって、局所的な中和反応が起こってゲルが形成されることがある。さらに、沈殿した金属塩自体が未反応のまま残って白色斑点として見ることができ、そのためアイオノマーの有用性が低下することがある。
【0024】
本発明により調製されたアイオノマーは、少量のゲル(ラインにあるキャストフィルムアナライザーを使用して求められる)及び/又は低ヘイズ値(ASTM D1003に準拠して求められる)が特徴となり得る。これらのアイオノマー自体が本発明の別の一態様となる。
【0025】
本発明の別の一態様は、ポリマーアイオノマーの製造方法であって、a)カルボキシル官能基含有ポリマーを押出機に加える工程と;b)ポリマーを押出機の溶融ゾーン中で均一に溶融させる工程と;c)押出機の第1の溶融シールゾーンを形成する工程と;d)押出機の注入ゾーン中の溶融ポリマーに金属イオン水溶液を加える工程であって、注入ゾーンが押出機の第1の溶融ゾーンの後に位置する工程と;e)金属イオンがカルボキシル官能基と実質的に反応するような条件下で、金属イオン水溶液をカルボキシル官能基含有ポリマーと押出機の反応ゾーン中で混合する工程と;d)押出機の圧力上昇ゾーンを形成する工程であって、圧力上昇ゾーンが反応ゾーンの後に位置する工程とを含む方法である。第1の溶融シールゾーンの場合は、注入ゾーン及び反応ゾーンのいずれの位置の水の蒸気圧よりも高い圧力まで、圧力上昇ゾーンの場合は、水性金属イオンがカルボキシル官能基と反応するのに十分な時間水溶液が液体に維持されるのに十分高い圧力まで、各ゾーン中の圧力を独立に増加させることによって、第1の溶融シールゾーン及び圧力上昇ゾーンが形成される。ある実施形態においては、圧力上昇ゾーンは、注入ゾーン及び反応ゾーンのいずれの位置の水の蒸気圧よりも高い圧力でもある。溶融シールゾーン及び圧力上昇ゾーン中の圧力は、好ましくは非ポンプ要素又は逆方向ポンプ要素によって得られるが、その理由は、これらの要素は非ポンプ障壁として機能し、正方向ポンプ能力を有するあらゆる要素よりもはるかに高い圧力が得られるためである。
【0026】
好ましくは、本方法は、押出機の1又はそれ以上の液化ゾーン中の水の少なくとも一部を除去する工程をさらに含み、液化ゾーンは圧力上昇ゾーンの後に位置する。
【実施例】
【0027】
本発明の有用性を示すために、一連のアイオノマーを製造した。各実施例において、ベース樹脂は、約13.5重量% アクリル酸を有し、ASTM−D1238に準拠して温度190℃において2.16kgの重りを使用して測定したメルトインデックス(I2)が60g/10分であるエチレンアクリル酸(EAA)コポリマーである。10重量%水酸化リチウム(LiOH)水溶液を100psig(690kPag)〜230psig(1586kPag)の圧力で注入してアイオノマーを製造する。使用した二軸スクリュー押出機の概略図は図1に示すものと類似しているが、十分な圧力を発生させるために異なる構成を使用した。計算される中和は、100%の変換を仮定して個別の成分の相対流量によって計算される目標%中和である。
【0028】
構成#1(比較例)
スクリュー構成#1を図2に示す。このスクリュー構成は、3つの混合要素ゾーンを有する。第1のニーディングディスクブロックゾーンは、ベース樹脂の溶融を完了させ、溶融シール圧力を上昇させるように設計した。このスクリュー構成の第2の混合要素ゾーンはLiOH溶液注入用に設計した。第3のニーディングディスクブロックゾーンは、強力な下流の混合が行われ、反応完了前にLiOH溶液蒸気の漏れを防止するために溶融シール圧力を上昇させ滞留時間が延長されるように設計した。
【0029】
スクリュー構成#1に沿った溶融シール中の圧力上昇を解析するために、方法シミュレーションを行った。中和39%においてスクリュー構成#1を使用して計算した溶融シール圧力のピークにおける溶融温度、ピークにおける溶融シール圧力、及び水蒸気圧を表1にまとめた。
【表1】

【0030】
表1示すように、第1の溶融シール中の計算最大圧力は161psig(1110kPag)であり、水蒸気圧は159psig(1096kPag)であった。LiOH溶液の蒸気は、第1の溶融シールに向けて逆流することがあり、さらに、溶融セクション中に白色斑点として沈殿することがあり、これは未反応の白色斑点によるものと考えられる。注入ポイント及び第3の溶融シール中の溶融圧力が水蒸気圧よりもはるかに低くなったが、このこともアイオノマー試料中の白色斑点の存在に寄与すると考えられる。
【0031】
この構成を使用し、表示の中和レベルを得るために必要に応じてLiOH溶液注入速度を変化させることによって互いに異なる実施例1〜5を製造した。操作条件の概要及び測定メルトインデックスを表2に示す。この表に見られるように、目視観察可能な白色斑点がすべての試料中に存在し、上述の圧力計算から予想される通りとなった。
【表2】

【0032】
構成#2(比較例)
スクリュー構成#2を図3に示す。このスクリュー構成は4つの混合要素ゾーンを含有した。1組の左ねじ要素を有する第1のニーディングディスクブロックゾーンは、スクリュー構成#1より低温でベース樹脂の溶融が完了し、スクリュー構成#1より高い溶融シール圧力に上昇するように設計した。このスクリュー構成中の第2の混合要素ゾーンはLiOH溶液注入用に設計した。第3及び第4の混合要素ゾーンは、大規模に下流を混合し溶融シール圧力がより上昇するように設計した。
【0033】
中和39%においてスクリュー構成#2を使用して計算した溶融シール圧力のピークにおける溶融温度、ピークにおける溶融シール圧力、及び水蒸気圧を表3にまとめた。
【表3】

【0034】
スクリュー構成#2を使用して、2g/10分の目標メルトインデックスを有するアイオノマーを2つの異なる速度で製造した。2g/10分及び1g/10分のアイオノマーについての、操作条件の概要、プロセスデータ、及び測定メルトインデックスを表4に示す。
【表4】

【0035】
第1の溶融シール中の計算最大圧力は604.8psig(4170kPag)であり、水蒸気圧は52.2psig(360kPag)であった。この第1の溶融シール中の最大圧力は、LiOH溶液蒸気が第1の溶融シールに逆流するのを防止するのに十分高い圧力であると考えられる。しかし、第3及び第4における最大圧力は、水蒸気圧よりもはるかに低く、そのことがアイオノマー試料中の白色斑点の存在に寄与する。従って、このスクリュー構成では、注入後の下流での十分な混合が行われず、その結果目視観察可能なゲルが発生する。
【0036】
構成#3
図4はスクリュー構成#3を示している。1組の左ねじ要素を有する第1のニーディングディスクブロックゾーンは、スクリュー構成#1より低温でベース樹脂の溶融が完了し、スクリュー構成#1より高い溶融シール圧力に上昇するように設計した。このスクリュー構成中の第2の混合要素ゾーンはLiOH溶液注入用に設計した。溶融セクション(第1の混合要素ゾーン)及び注入ポイント(第2の混合要素ゾーン)はスクリュー構成#2と同じである。第3、第4、及び第5の混合要素ゾーンは、大規模に下流を混合し、反応完了前にLiOH溶液蒸気が漏れるのを防止するのに十分溶融シール圧力が上昇するように設計した。スクリュー構成#4は、LiOH溶液注入ポイント後に最も大規模な混合ゾーンを有する。
【0037】
中和39%においてスクリュー構成#3を使用して計算した溶融シール圧力のピークにおける溶融温度、ピークにおける溶融シール圧力、及び水蒸気圧を表5にまとめた。
【表5】

【0038】
異なる速度における2g/10分及び1g/10分のアイオノマーについての、操作条件の概要、プロセスデータ、及び測定メルトインデックスを表6に示す。
【表6】

【0039】
第2、第3、及び第4のゾーン中の最大圧力が水蒸気圧よりも低かったとしても、この反応セクションが反応完了に十分な滞留時間を有したためにアイオノマー中に白色斑点及び/又はゲルの存在は目視できなかった。
【0040】
当業者には、中和反応が進行すると、粘度が増加することが理解される。従って、反応がシングルパスで確実に完了させるために、すべてのアイオノマー試料をZSK 30かみ合い同方向回転二軸スクリュー押出機を使用して再度押し出し、そのメルトインデックスを再び測定して、さらなる中和が起こったかどうかを調べた。すべての場合で、このように押し出したアイオノマー試料は、メルトインデックスの変化は全く見られず、さらなる反応がなかったことが示された。
【0041】
ナトリウムアイオノマー 以下の実施例においては、ベース樹脂は、約13.5重量% アクリル酸を有し、ASTM−D1238に準拠し温度190℃において2.16kgの重りを使用して測定したメルトインデックス(I2)が60g/10分であるエチレンアクリル酸(EAA)コポリマーである。種々の濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を、実施例4に記載のものと類似の直径40mmの同方向回転二軸スクリュー押出機中に注入してアイオノマーを製造した。計算される中和は、100%の変換を仮定して個別の成分の相対流量によって計算される目標%中和である。この反応プロセスデータを表6に示す。メルトフローは、ASTM−D1238に準拠し、温度190℃において2.16kgの重りを使用し、10分後の重量をグラム単位で測定することで測定した。黄色度指数は、ASTM 6290に準拠して求めた。ナトリウムアイオノマー試料について得られたMI及び黄色度指数(YI)も表7に示している。
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明における使用に好適な二軸スクリュー押出システムの概略図である。
【図2】実施例中で使用される二軸スクリュー構成#1の概略図である。
【図3】実施例中で使用される二軸スクリュー構成#2の概略図である。
【図4】実施例中で使用される二軸スクリュー構成#3の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アイオノマーを製造するための反応押出方法であって、
a.カルボキシル官能基含有ポリマーを押出機に加える工程と;
b.前記ポリマーを前記押出機の溶融ゾーン中で均一に溶融させる工程と;
c.前記押出機の第1の溶融シールゾーンを形成する工程と;
d.前記押出機の注入ゾーン中の溶融ポリマーに金属イオン水溶液を加える工程であって、前記注入ゾーンが前記押出機の前記第1の溶融ゾーンの後に位置する工程と;
e.前記金属イオンが前記カルボキシル官能基と実質的に反応するような条件下で、前記金属イオン水溶液を前記カルボキシル官能基含有前記ポリマーと前記押出機の反応ゾーン中で混合する工程と;
f.前記押出機中に圧力上昇ゾーンを形成する工程であって、前記圧力上昇ゾーンが前記反応ゾーンの終端より手前に位置することはない工程とを含み;
前記注入ゾーン及び前記反応ゾーンのいずれの位置の水の蒸気圧よりも高い圧力にまで前記溶融シールゾーン中の圧力を増加させることによって、前記第1の溶融シールゾーンが形成され;前記金属イオンと前記ポリマーの前記カルボキシル官能基との間の所望の反応を進行させるのに十分な時間、前記金属イオン水溶液が液相中に残存するようなレベルまで圧力を増加させることによって、前記圧力上昇ゾーンが形成される、反応押出方法。
【請求項2】
a.前記押出機の1又はそれ以上の液化ゾーン中で少なくとも一部の水を除去する工程をさらに含み、前記液化ゾーンが前記圧力上昇ゾーンの後に位置する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のシールゾーン中の圧力が、非ポンプ要素又は逆方向ポンプ要素を使用することで上昇する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水性金属溶液が加熱されることによってイオン種の溶解性が増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
揮発性の共溶媒が加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記樹脂がエチレン−エステルコポリマーであり、前記第1の溶融シールに入る前に前記エステル官能基の一部がカルボン酸官能基に変換される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1又はそれ以上の追加の反応ゾーンが前記押出機プロファイル中に存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記圧力上昇ゾーンが、前記注入ゾーン及び前記反応ゾーンのいずれの位置の水の蒸気圧よりも高い圧力にある、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記金属イオンが、元素周期表のI族、II族、及びIII族の金属の一、二、及び三価のイオン、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記金属イオンがアルカリ金属である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオンがリチウムである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水溶液がスラリーの形態である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−509411(P2010−509411A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535478(P2009−535478)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/US2007/083407
【国際公開番号】WO2008/057979
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】