説明

高圧ガスタンクとガス充填方法

【課題】タンクへのガス充填に要する時間の短縮化を図る。
【解決手段】高圧ガスタンク10では、充填側ライナーパーツ21aと底側ライナーパーツ21bとを気密に接合して樹脂製ライナー20とした上で、底側ライナーパーツ21bについては、タンク内壁側に放射状のフィン25を設けてガス接触面積を増加させ、高い放熱特性とする。充填側ライナーパーツ21aについては、その樹脂成形の際に成形用樹脂に発泡剤を混入することで、シリンダー部22の内部に気泡Faを混在させ、高い断熱特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状をなす高圧ガスタンクと当該タンクにガスを充填するガス充填方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料とその酸化剤、例えば水素と酸素の電気化学反応によって発電して電気エネルギーを生む。こうした燃料電池には、高圧でのガス貯蔵を行う高圧ガスタンクから水素ガスが供給される。高圧ガスタンクでは、水素ガスの消費に伴う内圧降下により温度は低下し、水素ガスの充填に伴う内圧上昇により温度は高くなる。こうした温度の高低推移は、タンク寿命の低下を招く危惧があることから、タンク温度を均一化する手法が提案されている(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−32757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ガス充填後の高圧ガスタンクの取り扱いや、充填済みタンクからのガス供給開始、或いは、燃料電池搭載車両におけるガス供給に伴う車両走行等のタンク運用は、タンク温度がある程度低くなってからなされることが求められている。このため、タンク温度が上昇する水素ガス充填の際には、充填する水素ガスを、その充填前に予め冷却(プレクール)しておき、冷却済みの水素ガスを充填することが行われている。しかしながら、充填される水素ガスは、プレクール済みであるとはいえ、高速で充填口からタンク内に入り込んでタンク底側の壁面に衝突するので、タンク底側では、過渡的とはいえガス圧縮が進んだ状態となり、タンク内温度が急激に上昇する。つまり、水素ガスをプレクールしておいても、タンク底側でのガス圧縮に伴う昇温の抑制効果は限定的なため、例えば、低いガス充填圧で時間を掛けてガス充填を行わざるを得ないのが実情である。上記した特許文献にあっては、タンク温度をタンク鉛直方向で均一化させるとはいえ、上記したようなタンク底側での温度上昇に対する対処が不足している。このため、ガス充填に要する時間の短縮化は限定的となり、更なる短縮化が求められるに至った。なお、上記したタンク底側での昇温は、水素ガスの充填に限らず、タンクへの高圧でのガス充填であれば、他のガスの充填の際にも起きる。
【0005】
本発明は、上述した従来の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、タンクへのガス充填に要する時間の短縮化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的としてなされたものであり、以下の構成を採用した。
【0007】
[適用1:高圧ガスタンク]
筒状をなす高圧ガスタンクであって、
長手方向一端のガス充填口の側と該ガス充填口と対向するタンク底部の側とで熱の伝導特性に差を持たせる熱特性規定部を備え、
該熱特性規定部は、タンク内部のガスの熱をタンク外部に放熱する放熱特性を、前記タンク底部の側で前記ガス充填側より高くする
ことを要旨とする。
【0008】
上記構成を備える高圧ガスタンクでは、タンク底部の側を高い放熱特性とする。このため、ガス充填口からタンク内に高速で入り込んだガスがタンク底側の壁面に衝突して圧縮されてタンク内温度が上昇しても、その上昇した温度を、高い放熱特性のタンク底部の側にて下げることが可能となる。この結果、上記構成を備える高圧ガスタンクによれば、ガス充填の際のタンク内温度の昇温を効果的に抑制できることから、ガス充填圧を高くでき、その分だけ、ガス充填に要する時間(以下、ガス充填時間)を短縮化できる。しかも、ガス充填口の側は、タンク底部の側より放熱特性が低いので、相対的とはいえ、断熱特性が高まる。よって、ガス充填口からタンク内に入り込んだガスの熱を、ガス充填口の側ではなるべく奪わないようにできる。よって、充填ガスをプレクールしておく場合には、そのプレクール済みのガスの温度を、ガス充填口の側で昇温しないようにできるので、この点からも、ガス充填時間の短縮化に寄与できる。
【0009】
上記構成を備える高圧ガスタンクは、次のような態様とすることができる。例えば、前記ガス充填口を含む充填側タンクボディーと、前記タンク底部を含む底側タンクボディーとを気密に接合して備えた上で、前記底側タンクボディーの前記放熱特性を前記充填側タンクボディーより高くするようにできる。こうすれば、ガス充填口からタンク内に高速で入り込んだガスがタンク底側の壁面に衝突して圧縮されてタンク内温度が上昇しても、その上昇した温度を、高い放熱特性の底側タンクボディーにて下げることが可能であり、相対的とはいえ、充填側タンクボディーの断熱特性を底側タンクボディーより高くできる。よって、既述した効果を奏することができる。
【0010】
また、タンク外部からタンク内部への熱の伝導を抑制する断熱特性を、前記充填側タンクボディーの側で前記底側タンクボディーより高くすることができる。こうすれば、充填ガスをプレクールしておく場合のプレクール済みのガスの温度を充填側タンクボディーの側でより確実に昇温しないようにできるので、ガス充填時間の短縮化に大きく寄与できる。
【0011】
また、前記底側タンクボディーを、ボディー内壁からタンク中心に延びるフィンを、前記底側タンクボディーにおける前記ボディー内壁に沿って複数備えるものとすれば、ガスとの接触面積を増やすことで放熱特性が容易に高くできる。よって、この態様では、ガス充填時間の短縮化が可能な高圧ガスタンクを簡便に提供できる。
【0012】
また、ガス拡散部材を有するものとし、前記ガス充填口から充填注入される注入ガスをこのガス拡散部材と衝突させて、該注入ガスを前記ボディー内壁に向けて拡散させるようにできる。こうすれば、注入ガスがタンク底側で圧縮される程度を低くできるので、その分だけ、タンク底側でのガス圧縮に伴うタンク内温度の上昇を抑制できる。よって、この態様によれば、ガス充填時間の短縮化の実効性を高めることができる。
【0013】
この場合、前記ガス拡散部材を、タンク中央まで延びた複数の前記フィンの端部に配設するようにできる。こうすれば、このガス拡散部材によりフィンを補強できるので、高圧でのガス充填に伴うフィン破損を効果的に回避できる。
【0014】
また、前記充填側タンクボディーについては、これを、気泡または熱伝導率の低い固形粒子を混入した樹脂製ボディーとし、前記底側タンクボディーについては、これを、熱伝導率の高い金属粒子を混入した樹脂製ボディーとすることもできる。或いは、前記充填側タンクボディーについては、これを、ボディー内外の少なくとも一方の表面に熱伝導率の低い材質の材料から形成された断熱表皮層を備えるものとし、前記底側タンクボディーについては、これを、ボディー内外の少なくとも一方の表面に熱伝導率の高い材質の材料から形成された放熱表皮層を備えるものとできる。このようにしても、充填側タンクボディーと底側タンクボディーとで熱の伝導特性に差を持たせた上で、底側タンクボディーを高い放熱特性とできるので、ガス充填時間を短縮化できる。
【0015】
本発明は、上記した高圧ガスタンクの他、この高圧タンクへのガス充填方法やタンク製造方法としても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例としての高圧ガスタンク10の構成を概略的に断面視して示す説明図である。
【図2】図1における2−2線にて底側ライナーパーツ21bを断面視して示す概略斜視図である。
【図3】タンク製造過程を示す製造手順を説明する説明図である。
【図4】高圧ガスタンク10への水素ガス充填の様子を概略的に示す説明図である。
【図5】図2相当に第1変形例の底側ライナーパーツ121bを断面視して示す概略斜視図である。
【図6】図2相当に第2変形例の底側ライナーパーツ221bを断面視して示す概略斜視図である。
【図7】第3変形例の高圧ガスタンク310の構成を概略的に断面視して示す説明図である。
【図8】図2相当に第3変形例の底側ライナーパーツ321bを断面視して示す概略斜視図である。
【図9】第4変形例の底側ライナーパーツ421bを分解して示す概略斜視図である。
【図10】第5変形例の高圧ガスタンク510の構成を概略的に断面視して示す説明図である。
【図11】第6変形例の高圧ガスタンク610の構成を概略的に断面視して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の実施例としての高圧ガスタンク10の構成を概略的に断面視して示す説明図、図2は図1における2−2線にて底側ライナーパーツ21bを断面視して示す概略斜視図である。
【0018】
図示するように、高圧ガスタンク10は、樹脂製ライナー20と、繊維強化樹脂層30とを備える。樹脂製ライナー20は、タンク長手方向の中央で2分割され、長手方向一端側のガス充填口を含む充填側ライナーパーツ21aと、ガス充填口と対向する有底部を含む底側ライナーパーツ21bとを気密に接合して形成されている。これらライナーパーツは、例えばナイロン系樹脂等の適宜な樹脂にて型成形され、それぞれ円筒状のシリンダー部22の一端側に球面形状のドーム部24を連続して備える。充填側ライナーパーツ21aは、ドーム部24の頂上箇所に、ガス充填口12aを有する金属製のタンク金具12を備える。底側ライナーパーツ21bは、ドーム部24の頂上箇所、即ちタンク底に金属製のタンク金具14を備える。上記した両タンク金具は、後述の繊維巻回の際のタンク軸支に用いられ、一方のタンク金具12は、配管接続用の図示しないベース接続用にも用いられる。タンク金具14については、タンク内側に湾曲した湾曲壁面部14aを有する。なお、ライナーパーツの接合については、後述する。
【0019】
この他、底側ライナーパーツ21bは、図1および図2に示すように、シリンダー部22の内壁にフィン25を有する。このフィン25は、シリンダー部22の内壁からタンク中心に向かって延び、シリンダー内壁に沿って等ピッチで放射状に形成されている。また、フィン25は、シリンダー部22のライナーパーツにおける開口端の側からタンク底側にタンク長手方向に沿って延び、タンク金具14と干渉しないようにされている。つまり、底側ライナーパーツ21bは、タンク内ガスとの接触面積を、放射状のフィン25の表面積の分だけ増加させるので、タンク内部のガスの熱をタンク外部に放熱する放熱特性が充填側ライナーパーツ21aより高くなる。図2においては、図示の都合から、フィン25をシリンダー部22の肉厚と同程度のものとしているが、それぞれのフィン25は、ガス充填口12aから高圧・高速で流れ込むガス(水素ガス)の流れに沿って配設されているので、薄肉化が可能であり、上記のガスの圧力に耐えられるようにされている。なお、耐圧性を増すよう、適宜箇所において向かい合うフィン25を連結して補強するようにすることもできる。
【0020】
繊維強化樹脂層30は、熱硬化性樹脂を含浸した繊維強化樹脂層をフィラメントワインディング法(以下、FW法)によりライナー外周に巻回させることで形成され、樹脂製ライナー20における円筒状のシリンダー部22の外周範囲に亘るフープ巻きによる繊維巻回と、ドーム部24の外周範囲に亘る低角度・高角度のヘリカル巻きによる繊維巻回を経て形成される。こうした繊維強化樹脂層30の形成には、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いることが一般的であるが、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。また、FW法によりライナー外周に巻回させる補強用の繊維(スライバー繊維)としては、ガラス繊維やカーボン繊維、アラミド繊維等が用いられる他、複数種類(例えば、ガラス繊維とカーボン繊維)のFW法による巻回を順次行うことで、繊維強化樹脂層30を異なる繊維からなる樹脂層を積層させて形成することもできる。本実施例では、繊維強化樹脂層30をカーボン繊維により形成した。
【0021】
次に、高圧ガスタンク10の製造手法について説明する。図3はタンク製造過程を示す製造手順を説明する説明図である。
【0022】
図3に示すFW法による繊維巻回に先だち、充填側ライナーパーツ21aと底側ライナーパーツ21bとを用意する。この両ライナーパーツは、樹脂の成型品であり、充填側ライナーパーツ21aは、タンク金具12を組み込んだ金型にて成型され、その樹脂成形の際には、シリンダー部22の成形用に注入される樹脂に発泡ウレタン等の発泡剤が混入される。よって、充填側ライナーパーツ21aは、図3の拡大図に示すように、シリンダー部22の内部に気泡Faを混在させ、高い断熱特性を有する。この場合、発泡剤に代えてゴム等の熱伝導率の低い固形粒子をシリンダー部22の成形用に注入される樹脂に混入させて、充填側ライナーパーツ21aの断熱特性を高めても良い。
【0023】
底側ライナーパーツ21bは、タンク金具14を組み込んだ金型にて成型され、シリンダー部22の内壁にフィン25を一体にして樹脂成形される。こうして用意された充填側ライナーパーツ21aと底側ライナーパーツ21bとを、シリンダー部22の開口側の斜面を重ねて接合し、その接合箇所へのレーザー光照射、或いはマイクロ波照射等の手法による樹脂融着を経て、一体化する。これにより、樹脂製ライナー20が得られる。なお、フィン25を有する底側ライナーパーツ21bについては、いわゆる抜き型を分割して型抜きができるようにした上での型成形が可能なほか、フィン25を有するシリンダー部22を型成形し、そのシリンダー部22に、タンク金具14を有するドーム部24を接合するようにすればよい。
【0024】
こうして得られた樹脂製ライナー20に対してFW法による繊維巻回を実施して、樹脂製ライナー20の外周に繊維強化樹脂層30を形成する。つまり、タンク両側のタンク金具12とタンク金具14を図示しないFW装置の回転軸に係合させ、樹脂製ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転するよう軸支する。そして、樹脂製ライナー20をタンク中心軸AXの回りに回転させながら、FW法による繊維巻回を行う。このFW法では、カーボン繊維31を巻き取ったリール35から当該繊維を送り出す際にエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂をカーボン繊維31に予め含浸させ、その上で、リール35をタンク軸方向に移動させるリール移動と上記したライナー回転とを行い、カーボン繊維31をリール35から送り出しつつライナー外周に巻回する。本実施例では、まず、リール移動速度とライナー回転速度とを調整することで、シリンダー部22の外周範囲に亘ってFW法によりフープ巻きによる繊維巻回を繰り返し実行する。この場合の上記した速度調整は、シリンダー部22のタンク中心軸AXと巻き付け繊維のなす角度がほぼ垂直な巻き角度となるよう、調整される。なお、上記した「巻き角度」は、カーボン繊維31の巻き付け方向(リール35の移動方向)に対するカーボン繊維31の繊維方向の角度を意味する。
【0025】
次いで、改めてリール移動速度とライナー回転速度とを調整することで、シリンダー部22の両端のドーム部24にカーボン繊維31を掛け渡すようFW法により高角度・低角度のヘリカル巻きによる繊維巻回を繰り返し実行する。この場合にあっても、ヘリカル巻きの巻き角度が一定となるよう調整され、カーボン繊維31は、ドーム部24の外表において、巻き付け方向を折り返して螺旋状に巻き付けられる。これにより、繊維強化樹脂層30が樹脂製ライナー20の外周に形成される(図2(B)参照)。その後、図示しない乾燥装置にて熱硬化性樹脂を硬化させ、その後の冷却養生を経ることで、樹脂製ライナー20を繊維強化樹脂層30で補強した高圧ガスタンク10が得られる。
【0026】
次に、上記した本実施例の高圧ガスタンク10への水素ガス充填について説明する。図4は高圧ガスタンク10への水素ガス充填の様子を概略的に示す説明図である。この場合、高圧ガスタンク10が燃料電池搭載車両用のタンクであれば、水素ディスペンサー100は、既存のガソリンスタンドに代わる水素スタンドに設置される。そして、高圧ガスタンク10は、車両搭載の状態で、タンク金具12のガス充填口12aに水素ディスペンサー100のガス供給金具120が接続される。水素ディスペンサー100は、ガスクーラー110を備え、当該クーラーでプレクールした水素ガスを、ガス供給金具120からタンク金具12のガス充填口12aを経て、高圧ガスタンク10に高圧充填する。
【0027】
ガス供給金具120からタンク内部に高圧充填された水素ガスは、高速で図1に白抜き矢印のように充填側ライナーパーツ21aを通過し、底側ライナーパーツ21bに達する。この底側ライナーパーツ21bでは、図1中の複数本の矢印で示したように、水素ガスは、タンク底側のタンク金具14に向けて直接、或いは、底側ライナーパーツ21bが有する放射状のフィン25に沿いつつタンク金具14に向けて高速で流れ込む。このように高速で流れ込んだ水素ガスは、タンク金具14の側のタンク底側の壁面に衝突して圧縮され、タンク内温度の上昇をもたらす。ところが、本実施例の高圧ガスタンク10は、その有する底側ライナーパーツ21bを、水素ガスとの接触面積を放射状のフィン25にて増加させて高い放熱特性を有するものとしているので、上記のような水素ガスの圧縮により上昇したタンク温度を、高い放熱特性の底側ライナーパーツ21bにて下げることができる。この結果、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、水素ガス充填の際のタンク内温度の昇温を、底側ライナーパーツ21bにて効果的に抑制できることから、ガス充填圧を高くでき、その分だけ、ガス充填時間を短縮化できる。
【0028】
しかも、本実施例の高圧ガスタンク10は、ガス充填口12aを含む充填側ライナーパーツ21aを、図3で説明したように気泡Faの混在による高い断熱特性を有するものとした。このため、本実施例の高圧ガスタンク10は、水素ディスペンサー100のガスクーラー110にてプレクール済みの状態で充填された水素ガスの熱を、充填側ライナーパーツ21aの側で奪わないようにできる。よって、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、タンク内に入り込んだプレクール済みの水素ガスを昇温させないで底側ライナーパーツ21bに流すので、上記した圧縮による昇温程度も抑制でき、この点からも、ガス充填時間の短縮化を促進できる。
【0029】
この他、本実施例の高圧ガスタンク10では、ガス充填口12aと向き合ってタンク底側に位置するタンク金具14を、タンク底側からガス充填口12aに向けて延ばした上で、タンク内側に湾曲した湾曲壁面部14aを有するものとした。よって、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、底側ライナーパーツ21bに高速で流れ込んだ水素ガスを、タンク金具14に衝突させて図1中の湾曲矢印で示すように底側ライナーパーツ21bの内壁、詳しくはドーム部24の内壁に向けて拡散させるようにできる。このため、充填側ライナーパーツ21aを経て底側ライナーパーツ21bに高速で流れ込んだ水素ガスがタンク底側で圧縮される程度を低くできるので、その分だけ、タンク底側でのガス圧縮に伴うタンク内温度の上昇を抑制できる。よって、タンク底側に湾曲壁面部14aを有するタンク金具14を設けた高圧ガスタンク10によれば、ガス充填時間の短縮化の実効性を高めることができる。
【0030】
以上説明した本実施例の高圧ガスタンク10と比較例の高圧ガスタンクとについて、ガス充填時間を比較したところ、次のようになった。この場合、比較例の高圧ガスタンクは、気泡Faを有しない樹脂からなる充填側ライナーパーツと、フィン25を備えない底側ライナーパーツとを接合し、その外周に繊維強化樹脂層30をFW法により形成したものである。この比較例の高圧ガスタンクでは、水素ガス充填に際して通常採択される温度(例えば、約−40℃)に水素ガスをガスクーラー110(図4参照)にてプレクールした上で水素ガス充填を行ったところ、ガス充填開始からタンク温度が約85℃まで低下するまでに40分を要した。これに対し、上記した本実施例の高圧ガスタンク10では、上記のようにプレクール済みの水素ガスを充填してからタンク温度が約85℃まで低下するまでに数分程度しか要しなかった。よって、本実施例の高圧ガスタンク10によれば、ガス充填時間を既存タンクより大きく短縮することができたとことになる。
【0031】
また、底側ライナーパーツ21bについては、フィン25を設けることで容易に高い放熱特性を備えるものとでき、充填側ライナーパーツ21aについては、気泡Faを混在させることで容易に高い断熱特性を備えるものとできた。そして、フィン25の配設および気泡Faの樹脂への混在は、型成形において簡便な手法であることから、本実施例によれば、図3で説明したような既存のタンク製造手法で、ガス充填時間の短縮化が可能な高圧ガスタンク10を簡便に提供できる。
【0032】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、充填側ライナーパーツ21aにおけるシリンダー部22に気泡Faを混在させることで、充填側ライナーパーツ21aに高い断熱特性を付与したが、気泡Faの混在のないシリンダー部22を有する充填側ライナーパーツ21aとすることもできる。つまり、充填側ライナーパーツ21aは、底側ライナーパーツ21bがフィン25を有することで高い放熱特性を有しているので、その結果として、底側ライナーパーツ21bよりも断熱特性が底側ライナーパーツ21bより高くなる。このため、気泡Faの混在のないシリンダー部22を有する充填側ライナーパーツ21aを底側ライナーパーツ21bに接合した高圧ガスタンクであっても、ガス充填時間の短縮化を図ることができる。また、次のような変形も可能である。
【0033】
図5は図2相当に第1変形例の底側ライナーパーツ121bを断面視して示す概略斜視図である。図示するように、この変形例の底側ライナーパーツ121bは、タンク中央まで延びたそれぞれのフィン25を、タンク中心側の端部にて環状体25aに接続して備える。この環状体25aは、その内部で水素ガスを通過させるほか、環状体端部に水素ガスを衝突させて拡散することができるほか、フィン25の補強の要をなす。よって、この変形例の底側ライナーパーツ121bを有する高圧ガスタンクによれば、水素ガスの拡散による温度上昇の抑制によるガス充填時間の短縮化に加え、フィン25の補強によりフィン25の薄肉化、延いては、高圧でのガス充填に伴うフィン25の破損を効果的に回避できる。なお、フィン25を環状体25aに繋いだ底側ライナーパーツ121bについては、既述したように、抜き型の分割による型抜き、或いは、フィン25を環状体25aに繋いで有するシリンダー部22に、タンク金具14を有するドーム部24を接合するようにすればよい。
【0034】
図6は図2相当に第2変形例の底側ライナーパーツ221bを断面視して示す概略斜視図である。図示するように、この変形例の底側ライナーパーツ221bは、タンク中央まで延びたそれぞれのフィン25を、タンク中心側の端部にて対向するフィン同士で連結して備える。この底側ライナーパーツ221bであっても、タンク中央のフィン連結箇所に衝突した水素ガスの拡散によるガス充填時間の短縮化に加え、上記の連結箇所によるフィン25の補強を通したフィン25の薄肉化、延いては、高圧でのガス充填に伴うフィン25の破損を効果的に回避できる。なお、フィン25をタンク中央で連結した底側ライナーパーツ221bについても、既述したように、抜き型の分割による型抜き、或いは、フィン25をタンク中央で連結して有するシリンダー部22に、タンク金具14を有するドーム部24を接合するようにすればよい。
【0035】
図7は第3変形例の高圧ガスタンク310の構成を概略的に断面視して示す説明図、図8は図2相当に第3変形例の底側ライナーパーツ321bを断面視して示す概略斜視図である。図示するように、この変形例の底側ライナーパーツ321bは、タンク中央まで延びたそれぞれのフィン25を、タンク中心側の端部にて対向するフィン同士で連結した上で、その連結箇所にタンク軸方向に亘るセンター部材333を備える。センター部材333は、タンク金具14の側ほど径が広がるテーパ状外壁を有する。この底側ライナーパーツ321bであっても、タンク中央のセンター部材333に衝突した水素ガスをテーパ状外壁に沿って拡散させると共に、フィン25を補強するので、既述した第2変形例と同様の効果を奏することができる。なお、フィン25をセンター部材333で連結した底側ライナーパーツ321bについても、既述したように、抜き型の分割による型抜き、或いは、フィン25をセンター部材333で連結して有するシリンダー部22に、タンク金具14を有するドーム部24を接合するようにすればよい。
【0036】
図9は第4変形例の底側ライナーパーツ421bを分解して示す概略斜視図である。図示するように、この変形例の底側ライナーパーツ421bは、フィン25を放射状に有するフィン保持体220を別体として、このフィン保持体220をシリンダー部22に保持した点と、このフィン保持体220をアルミ等の熱伝導率の高い金属から形成した点に特徴がある。こうした底側ライナーパーツ421bを得るには、まず、外筒からその中央に向かって放射状にフィン25を延ばしたフィン保持体220を上記金属から予め形成する。次いで、このフィン保持体220を、ドーム部24と接合形成済みのシリンダー部22に挿入固定する、或いは、シリンダー部22の樹脂成形に際してその金型にフィン保持体220をセットして型成形する。これにより、図2に示した底側ライナーパーツ21bと同様に、フィン25をタンク中央に向けて放射状に延ばした底側ライナーパーツ421bが得られる。この底側ライナーパーツ421bを有する高圧ガスタンクにあっても、熱伝導率の高い金属から形成したフィン保持体220を有する底側ライナーパーツ421bを、高い放熱特性のものとできるので、既述した効果を奏することができる。
【0037】
図10は第5変形例の高圧ガスタンク510の構成を概略的に断面視して示す説明図である。図示するように、この変形例は、充填側ライナーパーツ521aと底側ライナーパーツ521bの熱伝導特性を、これらパーツ自体で異なるようにした点に特徴がある。つまり、図10の拡大図に示すように、充填側ライナーパーツ521aにあっては、既述したように、その有するシリンダー部522aの成形用に注入される樹脂への発泡ウレタン等の発泡剤の混入を経て、シリンダー部22の内部に気泡Faを混在させたり、発泡剤に代えて混入したゴム等の熱伝導率の低い固形粒子の混在により、高い断熱特性を有する。底側ライナーパーツ521bは、その樹脂成形の際において、シリンダー部522bの成形用に注入される樹脂にアルミ等の熱伝導率の高い金属粒子が混入される。これにより、底側ライナーパーツ521bは、シリンダー部522bの内部に金属粒子Fbを混在させ、高い放熱特性を有する。この変形例の高圧ガスタンク510にあっても、充填側ライナーパーツ521aと底側ライナーパーツ521bとで熱の伝導特性に差を持たせた上で、底側ライナーパーツ521bを高い放熱特性とし、充填側ライナーパーツ521aについてもこれを高い断熱特性とするので、既述したように、ガス充填時間を短縮化できる。
【0038】
図11は第6変形例の高圧ガスタンク610の構成を概略的に断面視して示す説明図である。図示するように、この変形例は、充填側ライナーパーツ521aと底側ライナーパーツ521bの外表に備えた表皮層にて、両ライナーパーツの熱伝導特性に差を持たせた点に特徴がある。つまり、図11に示すように、充填側ライナーパーツ621aと底側ライナーパーツ621bとを接合済みの樹脂製ライナー620において、充填側ライナーパーツ621aの外表に、ゴム等の熱伝導率の低い材質の材料を用いて断熱表皮層Caを形成する。底側ライナーパーツ621bについては、その外表に、熱伝導率の高い材質の材料を用いて放熱表皮層Cbを形成する。断熱表皮層Caにあっては、低熱伝導率の材料、例えばゴムの溶液をスプレー塗布、当該溶液への浸漬等の手法で形成され、放熱表皮層Cbにあっては、アルミ等の高熱伝導率の金属粒子を混入した樹脂溶液をスプレー塗布、当該溶液への浸漬等の手法で形成される。この変形例の高圧ガスタンク610にあっても、充填側ライナーパーツ521aと底側ライナーパーツ521bとを、これらを覆う断熱表皮層Caと放熱表皮層Cbとにより熱の伝導特性に差を持たせた上で、底側ライナーパーツ621bを高い放熱特性とし、充填側ライナーパーツ621aについてもこれを高い断熱特性とするので、既述したように、ガス充填時間を短縮化できる。この場合、断熱表皮層Caや放熱表皮層Cbを、ライナー内壁面に形成したり、ライナー内外の両表面に形成することもできる。
【0039】
また、上記実施例とその変形例では、フィン25をタンク軸方向に延びる平板状のものとしたが、底側ライナーパーツ21bのライナー内壁から延びた上で、連続した螺旋状の軌跡で形成されたフィンとすることもできる。こうしたフィンに代え、底側ライナーパーツ21bのライナー内壁からタンク中央に延びる棒状の凸状体や矩形形状の板状突起等をライナー内壁に多列に形成することもできる。
【0040】
また、上記実施例とその変形例では、樹脂製ライナー20をその中央で分割された充填側ライナーパーツ21aと底側ライナーパーツ21bとで形成したが、これに限らない。例えば、一方のライナーパーツを、充填側ライナーパーツ21aと底側ライナーパーツ21bのシリンダー部22とを含む第1パーツとし、残余のライナーパーツ(第2パーツ)を底側ライナーパーツ21bのドーム部24としたものでも適用できる。この場合には、第1パーツにおけるシリンダー部22に、その開口側から図9に示すようなフィン保持体220を挿入・固定したり、第1パーツにおけるシリンダー部22の開口側の内壁にフィン25を放射状に形成し、その後、この第1パーツに上記の第2パーツを接合すればよい。
【0041】
この他、上記実施例とその変形例では、樹脂製ライナーを繊維強化樹脂層30で補強のために被覆した高圧ガスタンクについて説明したが、金属製の高圧ガスタンク(タンク種別:タイプ1)、或いは、メタルライナーを繊維強化樹脂層で補強した金属製の高圧ガスタンク(タンク種別:タイプ2〜3)に適用することもできる。繊維強化樹脂層を備えない金属製の高圧ガスタンク(タイプ1)にあっては、ガス充填口を含む充填側タンクボディーと、ガス充填口と対向する有底部を含む底側タンクボディーとを、共に金属から形成し、金属製の底側タンクボディーの形成の際に、タンク内壁に金属製のフィン25を溶接等の手法で、図2や図5〜図8のように放射状に設ける。その後、金属製のフィン25を放射状にタンク中央に向けて延ばした金属製の底側タンクボディーを、同じく金属製の充填側タンクボディーに接合して、溶接等の手法で両ボディーを気密に固定すればよい。
【0042】
この他、タイプ1の高圧ガスタンクにおいて、充填側タンクボディーと底側タンクボディーとを同種金属から形成し、図9のように、別体でアルミ等の熱伝導率の高い金属から形成したフィン保持体220を底側タンクボディーに挿入・固定する。その上で、フィン保持体220の挿入済みの金属製の底側タンクボディーを、同じく金属製の充填側タンクボディーに接合して、溶接等の手法で両ボディーを気密に固定すればよい。或いは、タイプ1の高圧ガスタンクにおいて、共に金属製の充填側タンクボディーと底側タンクボディーとを溶接等の手法で気密に接合した後に、図11のように、金属製の充填側タンクボディーの外表に、ゴム等の熱伝導率の低い材質の材料を用いて断熱表皮層Caを形成し、金属製の底側タンクボディーの外表に、熱伝導率の高い材質の材料を用いて放熱表皮層Cbを形成するようにすることもできる。上記したタイプ1の金属製の高圧ガスタンクにあっても、既述した効果を奏することができる。メタルライナーをそのシリンダー部において繊維強化樹脂層で補強した金属製の高圧ガスタンク(タイプ2)と、メタルライナーをそのシリンダー部とドーム部を含めて繊維強化樹脂層で補強した金属製の高圧ガスタンク(タイプ3)にあっても同様である。
【符号の説明】
【0043】
10…高圧ガスタンク
12…タンク金具
12a…ガス充填口
14…タンク金具
14a…湾曲壁面部
20…樹脂製ライナー
21a…充填側ライナーパーツ
21b…底側ライナーパーツ
22…シリンダー部
24…ドーム部
25…フィン
25a…環状体
30…繊維強化樹脂層
31…カーボン繊維
35…リール
100…水素ディスペンサー
110…ガスクーラー
120…ガス供給金具
121b…底側ライナーパーツ
220…フィン保持体
221b…底側ライナーパーツ
310…高圧ガスタンク
321b…底側ライナーパーツ
333…センター部材
421b…底側ライナーパーツ
510…高圧ガスタンク
521a…充填側ライナーパーツ
521b…底側ライナーパーツ
522a…シリンダー部
522b…シリンダー部
610…高圧ガスタンク
620…樹脂製ライナー
621a…充填側ライナーパーツ
621b…底側ライナーパーツ
AX…タンク中心軸
Ca…断熱表皮層
Cb…放熱表皮層
Fa…気泡
Fb…金属粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状をなす高圧ガスタンクであって、
長手方向一端のガス充填口の側と該ガス充填口と対向するタンク底部の側とで熱の伝導特性に差を持たせる熱特性規定部を備え、
該熱特性規定部は、タンク内部のガスの熱をタンク外部に放熱する放熱特性を、前記タンク底部の側で前記ガス充填側より高くする
高圧ガスタンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクであって、
前記ガス充填口を含む充填側タンクボディーと、前記タンク底部を含む底側タンクボディーとを気密に接合して備え、
前記熱特性規定部は、前記底側タンクボディーの前記放熱特性を前記充填側タンクボディーより高くする、
高圧ガスタンク。
【請求項3】
前記熱特性規定部は、タンク外部からタンク内部への熱の伝導を抑制する断熱特性を、前記充填側タンクボディーの側で前記底側タンクボディーより高くする請求項2に記載の高圧ガスタンク。
【請求項4】
前記熱特性規定部は、ボディー内壁からタンク中心に延びるフィンを、前記底側タンクボディーにおける前記ボディー内壁に沿って複数備える請求項2または請求項3に記載に高圧ガスタンク。
【請求項5】
前記熱特性規定部は、前記ガス充填口から充填注入される注入ガスと衝突して、該注入ガスを前記ボディー内壁に向けて拡散させるガス拡散部材を有する請求項4に記載の高圧ガスタンク。
【請求項6】
前記ガス拡散部材は、前記底側タンクボディーにおいてタンク中央まで延びた複数の前記フィンの端部に配設されている請求項5に記載の高圧ガスタンク。
【請求項7】
前記熱特性規定部は、前記充填側タンクボディーを気泡または熱伝導率の低い固形粒子を混入した樹脂製ボディーとすることで前記断熱特性を高くし、前記底側タンクボディーを熱伝導率の高い金属粒子を混入した樹脂製ボディーとすることで前記放熱特性を高くする請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の高圧ガスタンク。
【請求項8】
前記熱特性規定部は、前記充填側タンクボディーのボディー内外の少なくとも一方の表面に熱伝導率の低い材質の材料から形成された断熱表皮層を備えることで前記断熱特性を高くし、前記底側タンクボディーのボディー内外の少なくとも一方の表面に熱伝導率の高い材質の材料から形成された放熱表皮層を備えることで前記放熱特性を高くする請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の高圧ガスタンク。
【請求項9】
筒状をなす高圧ガスタンクにガスを充填するガス充填方法であって、
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の高圧ガスタンクが有する前記ガス充填口に、ガス供給金具を接続し、
該ガス供給金具から前記ガス充填孔を経て、前記高圧ガスタンクの内部にガスを高圧充填する
ガス充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−87918(P2012−87918A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237576(P2010−237576)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】