説明

高圧放電ランプ装置、高圧放電ランプ点灯装置および照明装置

【課題】
水銀フリーの高圧放電ランプにおいて、ランプ電圧が向上して電気特性が優れた高圧放電ランプ装置、これを用いた高圧放電ランプ点灯装置及び照明装置を提供する。
【解決手段】
高圧放電ランプ装置は、内部に放電空間1cを有する透光性気密容器1、透光性気密容器に封装されて放電空間に臨む一対の電極2、2、ならびに希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、水銀を本質的に含まない気密容器内に封入されたイオン化媒体を備えた発光管ITと、発光管の一対の電極間を結ぶ管軸に沿う磁束を含む直流磁界を発生する磁界発生手段MGとを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水銀フリーの高圧放電ランプを備えた高圧放電ランプ装置、これを用いた高圧放電ランプ点灯装置および照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプを水平点灯すると、一対の電極間に生じる放電アークが上方へ湾曲するために、集光効率が低下し、放電アークが発光管の上部内面に接近することで熱ロス増加による発光効率が低下し、発光管上部の失透や変形を生じて短寿命を招くという問題があり、従来これを改善する多くの提案がなされている。
【0003】
また、高圧放電ランプには、放電媒体に水銀を含むいわゆる水銀入りの高圧放電ランプと、水銀を含まないいわゆる水銀フリーの高圧放電ランプとがあり、両者は放電の態様が相違するところがあるために、高圧放電ランプを水平点灯する際の放電アークの湾曲に伴う問題の改善に対する提案もそれぞれ別になされている場合が多い。
【0004】
水銀入りの高圧放電ランプにおいては、水銀蒸気を主成分とする高圧気体が放電してプラズマを形成し発光する発光管内の一対の電極間に生じる放電アークの始点間を結ぶ直線にほぼ平行な磁界を一方の電極側の半分に形成することにより、磁界発生手段と発光管の位置の調整が簡単で、点灯中のプラズマ湾曲の変動が小さくなり、効率を向上した技術は既知である(特許文献1参照。)。この特許文献1における磁界発生手段は、穴あきコインのようなリング状の永久磁石を発光管の両端方向に延びる封止部に嵌め込まれている。
【0005】
一方、水銀フリーの高圧放電ランプにおいては、電極の先端間を結ぶ直線に対してほぼ垂直な成分を含む磁界を、ほぼ鉛直方向に印加する磁界発生手段を、電極間距離、管内圧力、電力および点灯周波数が所定数式を満足するように配設することにより、無水銀高輝度放電ランプのアークのゆれを抑制してちらつきを防止した技術は既知である(特許文献2参照。)。
【0006】
【特許文献1】特開平11−040102号公報
【特許文献2】特開2002−110099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、特許文献1に記載の技術は、水銀入りの高圧放電ランプについてなされているものであり、水銀フリーの高圧放電ランプに適用できるかについては議論されていない。また、磁界発生手段にリング状の永久磁石を用いていて、永久磁石は遮光性であるため、放電部分から外部へ放射される光を遮断してしまい、利用できる光量が低減したり、配光特性が阻害されるという問題がある。
【0008】
一方、水銀入りの高圧放電ランプでは、緩衝体としても作用する水銀の蒸気圧が高いために、所望のランプ電圧を形成することができる。
【0009】
これに対して、水銀フリーの高圧放電ランプにおいては、水銀を用いないためにランプ電圧が水銀入りの高圧放電ランプに比較して低いという特有の問題がある。特許文献2に記載の技術は、水銀フリーの高圧放電ランプについてなされているものであるが、上述のランプ電圧低下の問題に対しては解決されていない。また、磁界発生手段としてのフェライト永久磁石を、放電空間を包囲する包囲部の下部に配置するために、フェライト永久磁石により遮断されて利用できる光量が低減したり、配光特性が阻害されたりするという問題もある。
【0010】
本発明者は、水銀フリーの高圧放電ランプに、その管軸方向に沿った磁界を印加すると、著しくランプ電圧を上昇させることができるという事実を発見した。本発明は、この発見に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明は、水銀フリーの高圧放電ランプにおいて、ランプ電圧が向上して電気特性が優れた高圧放電ランプ装置、これを用いた高圧放電ランプ点灯装置及び照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の高圧放電ランプ装置は、内部に放電空間を有する透光性気密容器、透光性気密容器に封装されて放電空間に臨む一対の電極、ならびに希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、水銀を本質的に含まない気密容器内に封入されたイオン化媒体を備えた発光管と;発光管の一対の電極間を結ぶ管軸に沿う磁束を含む直流磁界を発生する磁界発生手段と;を具備していることを特徴としている。
【0013】
本発明は、以下の態様を含む。
【0014】
〔発光管について〕 発光管は、透光性気密容器、一対の電極およびイオン化媒体を備えていればよく、例えば放電空間の形状、内容積は自由であり、また外管などその余の構成を備えていてもよい。透光性気密容器は、内部に放電空間を有していればよく、その構成材料および構造は問わない。一対の電極は、その構成材料および電極間距離を問わない。
【0015】
イオン化媒体は、希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、金属ハロゲン化物が少なくとも発光金属のハロゲン化物を含んでいて、水銀を本質的に含まないのであれば、種々の構成が許容される。なお、金属ハロゲン化物中に水銀に代わる緩衝金属のハロゲン化物、例えばヨウ化亜鉛(ZnI)などを含有させることにより、水銀入りの高圧放電ランプにおけるランプ電圧にはおよばないものの、ランプ電圧を高めることができる。
【0016】
なお、上述の水銀に代わる緩衝金属のハロゲン化物は、一般的に蒸気圧が比較的高くて可視域における発光が少ない金属のハロゲン化物からなる。また、水銀に代わる他の緩衝金属としての金属ハロゲン化物としては、インジウム(In)など蒸気圧が比較的高いものの、可視域において発光する金属のハロゲン化物であってもよい。
【0017】
さらに、発光金属であるとともに、上記緩衝金属ハロゲン化物との共存下においてランプ電圧を高める作用のあるツリウム(Tm)のハロゲン化物を封入するのも効果的である。
【0018】
なお、水銀を本質的に含まないとは、水銀を全く含まないのが環境負荷物質削減のために好ましいことであるが、不純物程度に含んでいても許容される意味である。
【0019】
また、発光管は、透光性気密容器が一対の電極を支持し、かつ放電空間と外部との間を気密に封止し、かつ所望により磁界発生手段を配設するために、一対の細長い棒状部分を備えていることが許容される。透光性気密容器が石英ガラスからなる場合、細長い棒状部分を一対の封止部が構成する。透光性気密容器が透光性セラミックスからなり、かつ小径筒部を備える場合、一対の小径筒部が細長い棒状部分を構成する。
【0020】
さらに、発光管は、交流および直流のいずれで点灯されるように構成してもよい。
【0021】
〔磁界発生手段について〕 磁界発生手段は、発光管の一対の電極間を結ぶ管軸に沿う磁束を含む磁界を発生するのであれば、その余の構成を問わない。すなわち、磁界は、直流磁界および交流のいずれであってもよい。また、磁束の極性と透光性気密容器内を流れるランプ電流の極性とは同一方向および反対方向のいずれであってもよい。
【0022】
発生する磁界が直流の場合、電磁石および永久磁石のいずれを用いて磁界を発生させてもよい。また、交流磁界の場合、電磁石を用いて磁界を発生させるのがよい。
【0023】
磁界発生手段として電磁石を用いる場合、ソレノイドコイルで電磁石を形成することにより、磁界発生手段の直径を例えば包囲部の最大外径より小さくして、透光性気密容器の包囲部から外部へ放射される光の遮断を効果的に低減することができる。また、ソレノイドコイル用いる場合、透光性気密容器の細長い棒状部分をその外側から包囲するように配置すれば、磁界発生手段の装着や支持が容易になる。なお、ソレノイドコイルは、円筒状の巻枠の周囲にコイルを巻装したものである。
【0024】
また、電磁石からなる磁界発生手段の場合、永久磁石におけるような温度上昇によりキュリー点に達して磁界が弱まる問題はない。
【0025】
一方、磁界発生手段が永久磁石の場合、これを円筒形にすることにより、比較的小径にすることができる。円筒形は、円筒の直径より軸方向の長さが大きい。
【0026】
さらに、磁界発生手段は、発光管の例えば透光性気密容器の棒状部分に、これを支持させることができる。しかし、所望により発光管とは別に支持することができる。
【0027】
〔本発明における作用について〕 本発明においては、磁界発生手段により発光管の管軸に沿った磁束を含む磁界が発生する。この磁界が印加された状態で管軸が水平方向になっている発光管が放電して高圧放電ランプが点灯すると、放電アークが磁界中の発光管の軸方向に沿った成分によって放電アークの上方への湾曲が抑制され、その原理は不明であるが、同時にランプ電圧が著しく高くなることが確認された。
【0028】
水銀フリーの高圧放電ランプは、水銀のように高いランプ電圧を形成する緩衝物質が存在しないためにランプ電圧が低いという問題があるが、本発明によればこの問題を軽減することができる。なお、本発明の実施に際しては、さらにヨウ化亜鉛などの蒸気圧が高くて、しかも可視光領域における発光が少ない第2のハロゲン化物を発光金属のハロゲン化物に添加する既知の技術を適用すれば、充分な程度までランプ電圧を高めることが容易になる。
【0029】
次に、本発明の高圧放電ランプ点灯装置は、前記本発明の高圧放電ランプ装置と;高圧放電ランプ装置の発光管を付勢して点灯させる点灯回路と;高圧放電ランプ装置の磁界発生手段を付勢して磁界を発生させる電源と;を具備していることを特徴としている。
【0030】
本発明において、点灯回路は、どのような構成であってもよい。また、交流点灯および直流点灯のいずれの点灯方式であってもよい。交流点灯の場合、例えばインバータを主体とする電子化点灯回路を構成することができる。所望により、インバータの入力端子間に接続する直流電源に昇圧チョッパまたは降圧チョッパなどの直流−直流間変換回路を付加することができる。直流点灯の場合、例えば上記直流−直流間変換回路を主体とする電子化点灯回路を構成することができる。
【0031】
磁界発生手段を付勢する電源は、直流および交流のいずれであってもよい。また、点灯回路の電源と共用することもできる。
【0032】
本発明の照明装置は、照明装置本体と;照明装置本体に配設された本発明の高圧放電ランプと;高圧放電ランプを点灯する点灯回路と;を具備していることを特徴としている。
【0033】
本発明において、照明装置は、高圧放電ランプを光源とする全ての装置を含む概念である。例えば、屋外用および屋内用の各種照明器具、自動車前照灯、画像または映像投射装置、標識灯、信号灯、表示灯、化学反応装置、検査装置などである。
【0034】
照明装置本体は、照明装置から高圧放電ランプおよび点灯回路を除いた残余の部分をいう。
【0035】
点灯回路は、照明装置本体から離間した位置に配置されるのであってもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、管軸に沿った磁束を含む磁界の印加によってランプ電圧が向上して電気特性が優れた水銀フリーの高圧放電ランプ装置、これを用いた高圧放電ランプ点灯装置及び照明装置を提供することができる。
【0037】
また、管軸に沿った磁束によって放電アークの上方への湾曲が抑制されることにより、集光効率を向上させることができるとともに、放電アークが透光性気密容器の上部に接近して温度過剰になって生じる白濁の発生が防止されることによって光束維持率や寿命特性の低減を改善する効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態を説明する。
【0039】
図1は、本発明の高圧放電ランプ装置を実施するための一形態を示す正面図である。図において、高圧放電ランプ装置は、発光管ITおよび磁界発生手段MGを具備している。
【0040】
まず、発光管ITについて説明する。
【0041】
発光管ITは、透光性気密容器1、一対の電極2、2およびイオン化媒体を備えている。
【0042】
透光性気密容器1は、内部に放電空間1cを有している。また、放電空間1cを形成するために包囲部1aを有しているとともに、放電空間1cを気密に封止し、かつ電極2を支持するために一対の封止部1b、1bを有している。
【0043】
また、透光性気密容器1は、透光性と耐火性を備えた材料、例えば石英ガラスまたは透光性セラミックスなどにより形成されている。透光性セラミックスとしては、例えば透光性アルミナ、酸化イットリウム(YOX)、YAGおよびアルミニウム窒化物(AlN)などの多結晶構造体および単結晶構造体を用いることができる。図示の形態において、透光性気密容器1は、石英ガラスにより形成されている。
【0044】
図は、透光性気密容器1が石英ガラスからなる場合を示していて、包囲部1aは、その内部の放電空間1cが適当な形状、例えば球状、楕円球状、ほぼ円柱状などの形状をなしていることを許容する。放電空間の容積は、高圧放電ランプの定格ランプ電力、電極間距離などに応じてさまざまな値が選択され得る。例えば、液晶プロジェクタ用ランプの場合、0.5cc以下にすることができる。自動車前照灯用ランプの場合、0.05cc以下にすることができる。また、一般照明用ランプの場合、定格ランプ電力に応じて1cc以上および以下のいずれにすることもできる。
【0045】
透光性気密容器1の封止部1bは、その内部に石英ガラスが充実し、かつ封着金属箔3が気密に埋設されている。封止部1bは、包囲部1aを封止するとともに、後述する電極2の軸部がここに支持され、かつ点灯回路から電流を電極2へ気密に導入するのに寄与する手段である。封着金属箔3の放電空間1c側の端部には電極2の基端が溶接され、他端には導入線4が溶接されている。
【0046】
一方、透光性気密容器1が透光性セラミックスからなる場合の封止手段としては、例えばフリット材を透光性セラミックスと給電導体すなわち導入線の間に流し込んで封止するフリット封着、フリット材に代えて金属を用いる金属封着や透光性気密容器1または給電導体と同質材料の融着により封止する技術などを用いることができる。
【0047】
また、透光性気密容器1の封止部1bを所要の比較的低い温度に保持しながら透光性気密容器1内に形成される放電空間1cの最冷部温度を所望の比較的高い温度に維持するために、包囲部1aに連通する小径筒部を形成することができる。このような構造の場合、封止部1aは小径筒部の端部部分に配設されるとともに、小径筒部内に電極軸を延在させて電極軸と小径筒部の内面との間にキャピラリーと称する僅かな隙間を小径筒部の軸方向に沿って形成するのが一般的である。なお、電極2の基端は、給電導体すなわち導入線に接続する。
【0048】
一対の電極2、2は、透光性気密容器1に封装されて放電空間1cに離間して臨むように配設される。一対の電極2、2の間に形成される電極間距離は、液晶プロジェクタなどの場合、好適には2mm以下、より好ましくは1mm以下であり、例えば0.5mm程度であってもよい。また、前照灯用としては中心値で4.2mmが規格化されている。一般照明用ランプの場合、小形で電極間距離の小さいものでは6mm以下、中形ないし大形では6mm以上に設定することができる。
【0049】
また、電極2の構成材としては、耐火性があって、導電性の金属、例えば純タングステン(W)、ドープ剤(例えばスカンジウム(Sc)、アルミニウム(Al)、カリウム(K)およびケイ素(Si)などのグループから選択された一種または複数種)を含有するドープドタングステン、酸化トリウムを含有するトリエーテッドタングステン、レニウム(Re)またはタングステン−レニウム(W−Re)合金などを用いて形成することができる。
【0050】
さらに、小形で水銀フリーの高圧放電ランプの場合、直棒状の線材や先端部に径大部を形成した線材を電極として用いることができる。中形ないし大形の電極の場合、電極軸の先端部に電極構成材製のコイルを巻回したりすることができる。なお、一対の電極2、2は、交流で作動する場合、同一構造とするが、直流で作動する場合、一般に陽極は温度上昇が激しいから、陰極より放熱面積の大きい、したがって主部が太いものを用いることができる。
【0051】
イオン化媒体は、始動ガスとしての希ガスおよび主として発光に寄与するイオン化媒体としての第1のハロゲン化物を含み、水銀を本質的に含まないという構成であり、透光性の放電空間1c内に封入されている。また、好ましくは主としてランプ電圧形成に寄与する後述する第2のハロゲン化物を含むことができる。
【0052】
希ガスは、緩衝ガスとしても作用し、キセノン(Xe)、アルゴン(Ar)およびネオン(Ne)などのグループの一種を単独で、または複数種を混合して封入することができる。希ガスの封入圧力は、高圧放電ランプの用途に応じて適宜設定することができる。
【0053】
希ガスの中でもキセノンは、その原子量が他の希ガスより大きいため、熱伝導率が相対的に小さいので、これを0.6気圧以上、好適には5気圧以上封入することにより、点灯直後のランプ電圧形成に寄与するとともに、ハロゲン化物の蒸気圧が低い段階で白色の可視光放射を行って光束立ち上がりに寄与するので、前照灯用の高圧放電ランプの場合に効果的である。この場合、キセノンの好ましい封入圧は、6気圧以上、より好適には8〜16気圧の範囲である。このため、点灯直後からの光束立ち上がりおよび光色立ち上がりに寄与して点灯直後から自動車前照灯用のHID光源としての白色発光の規格を満足することができる。
【0054】
発光に寄与するイオン化媒体は、発光金属のハロゲン化物を主体とする他、所望により発光金属をそのまま封入することも許容される。発光金属は、本発明において、特段限定されないが、一好適例としてツリウム(Tm)ハロゲン化物を主体として封入することができる。
【0055】
ツリウムハロゲン化物は、水銀フリーランプとして好適な発光金属のハロゲン化物であり、放電により主として可視光を放射する。また、ツリウムハロゲン化物は、透光性気密容器1内に封入されるイオン化媒体中最大封入比率、好適にはこの条件に加えて40〜90質量%で封入することができる。そして、ツリウムハロゲン化物は、後述するランプ電圧形成用のイオン化媒体であるところの蒸気圧が高くて、かつ可視光発光の少ない金属のハロゲン化物すなわち第2のハロゲン化物との共存下において、それ自体電極2、2間の電位傾度、したがってランプ電圧を高くする作用を有している。
【0056】
また、ツリウムハロゲン化物は、その蒸気圧が低いが、ツリウムの発光のピークが視感度曲線のピークに一致するので、発光効率を向上させるのに極めて効果的な発光金属である。ツリウムの発光強度は、高圧放電ランプの点灯中の動作温度に大きく依存しており、その最冷部温度が約800℃となる条件下で効率が最大になる。
【0057】
上記以外に封入することが許容されるその他の発光金属のハロゲン化物としては以下がある。
【0058】
1.(アルカリ金属) アルカリ金属を封入する場合には、透光性気密容器内に封入されている全ての金属ハロゲン化物に対して10質量%未満の範囲内で許容される。アルカリ金属の封入比率が10質量%以上になると、ランプ電圧が低下しやすくなるので、ランプ電圧の形成の観点からは好ましくない。しかしながら、アルカリ金属の封入比率が10質量%未満であれば、ランプ電圧の低下は最小限に抑制される一方、発光効率、ランプ寿命改善および光色調整、特に色偏差改善が可能になる。このような観点から、所要のランプ電圧を確保できる場合には、上記の範囲内であれば封入が許容される。なお、好ましくは2〜8質量%、より好ましくは3〜7質量%、なお一層好ましくは4〜6質量%である。また、アルカリ金属としては、主としてナトリウム(Na)、しかし所望によりまたは/およびセシウム(Cs)およびリチウム(Li)の少なくとも一方を選択的に封入することができる。
【0059】
ナトリウム(Na)は、主として発光効率向上に寄与する。セシウム(Cs)は、放電アーク温度の適正化による寿命特性の向上に寄与する。リチウム(Li)は、赤色演色性の改善に寄与する。
【0060】
2.(その他の希土類金属のハロゲン化物) ツリウムハロゲン化物に加えて以下の金属ハロゲン化物を主として発光金属のハロゲン化物として封入することができる。プラセオジム(Pr)、セリウム(Ce)、ホルミウム(Ho)、ネオジム(Nd)およびサマリウム(Sm)からなるグループの希土類金属の一種または複数種のハロゲン化物である。
【0061】
上記希土類金属は、ツリウムハロゲン化物に次いで発光金属として有用であり、所定量以下の封入比率で封入することが許容される。すなわち、上記希土類金属は、そのいずれも視感度特性曲線のピーク波長付近で無数の輝線スペクトルを有するため、発光効率向上に寄与することができる。
【0062】
また、上記希土類金属のハロゲン化物を添加する場合には、ツリウム(Tm)ハロゲン化物を含めて全イオン化媒体に対する封入比率が50質量%以上になるように構成するのが好ましい。
【0063】
3.(タリウムまたは/およびインジウムのハロゲン化物) タリウム(Tl)または/およびインジウム(In)のハロゲン化物は、所望の演色性および/または色温度などを得るなどの目的で副成分として選択的に封入することが許容される。また、インジウムは、ランプ電圧形成用のイオン化媒体としても効果的である。
【0064】
タリウム(Tl)ハロゲン化物は、波長535nmに輝線を有するタリウムの緑色成分を発光中に加えることができる。なお、一般的に採用し得るタリウムハロゲン化物の封入比率範囲は、封入される全ての金属ハロゲン化物に対して30質量%未満であるのが望ましい。タリウムハロゲン化物の封入比率範囲が30質量%以上になると、発光効率の低下が顕著になる。なお、好適には15質量%未満の範囲で封入するのがよい。
【0065】
また、インジウム(In)ハロゲン化物を添加することにより、ハロゲン化物の発光中に青色成分を増加させることができるとともに、ランプ電圧形成にも寄与する。
【0066】
以上説明した各発光金属ハロゲン化物のハロゲンとしては、適度の反応性を有していることからヨウ素が好適であるが、所望により臭素および塩素のいずれかでもよく、またヨウ素、臭素および塩素のうち所望の二種以上を用いてもよい。
【0067】
次に、ランプ電圧形成用のイオン化媒体である第2のハロゲン化物は、水銀フリーの高圧放電ランプを得る場合には、前記のように蒸気圧が高くて、可視光発光の少ない金属のハロゲン化物を封入するのがよい。ランプ電圧形成用のイオン化媒体として封入するのが効果的な金属は、例えば次のとおりである。すなわち、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、アンチモン(Sb)、ベリリウム(Be)、レニウム(Re)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)およびハフニウム(Hf)からなるグループから選択された一種または複数種の金属である。上記の各金属のハロゲン化物は、蒸気圧が高く、電子との衝突断面積が大きくて、しかもイオン化ポテンシャルが大きいため、前述の透光性気密容器1との組み合わせにおいて、水銀に代わるランプ電圧形成用のイオン化媒体として好適な物質である。
【0068】
本発明においては、以下の構成を所望により選択的に付加することができる。
【0069】
1.(外管) 発光管を外管の内部に配設することができる。この場合、外管は、任意所望の形状および大きさにすることができる。また、外管の内部を外部に対して気密にしてもよいし、外気に連通させてもよい。前者の場合、必要に応じてアルゴン(Ar)、窒素(N)などの不活性ガスを封入することができる。さらに、外管は、石英ガラス、硬質ガラスや軟質ガラスなどの透光性材料を用いて形成することができる。
【0070】
2.(反射ミラー) 気密容器を反射ミラー内の所定の位置に固定的に配設することができる。なお、反射ミラーには、内面にダイクロイックミラーを形成したガラス基体からなる構造を採用することができる。
【0071】
次に、磁界発生手段MGについて説明する。
【0072】
磁界発生手段MGは、一対のソレノイドS1、S2からなり、透光性気密容器1の一対の封止部1b、1bを包囲するように封止部1bに装着されている。一対のソレノイドS1、S2は、加極性に直列接続して図示しない電源に接続する。なお、一対のソレノイドS1、S2は、電源に対して並列接続でもよいし、所望により別異の電源に接続してもよい。
【実施例】
【0073】
図1に示す高圧放電ランプ装置を水平点灯する。
(発光管)
気密容器 :最大外径6.0mm、最大内径2.4mm、包囲部長6.5mm、
電極 :ドープドタングステン製、軸径0.3mm、全長10mm、
電極間距離4.2mm
放電媒体 :ZnI−TmI−TlI−NaI=0.7mg、Xe13気圧
(磁界発生手段)
ソレノイドコイル:磁界の強さ40mT
(電気特性):ランプ電圧86.1V、ランプ電力39W

[比較例1]
磁界を印加しない以外は実施例と同じ仕様である。
(電気特性):ランプ電圧64.7V、ランプ電力39W

[比較例2]
管軸を含む水平面内で、かつ発光管の中央において管軸に対して直交する方向に磁界を印加する以外は実施例と同じ仕様である。
(電気特性):ランプ電圧74.9V、ランプ電力39W

[比較例3]
管軸を含む鉛直面内で、かつ発光管の中央において管軸に対して直交する方向に磁界を印加する以外は実施例と同じ仕様である。
(電気特性):ランプ電圧76.9V、ランプ電力39W

実施例に示すように本発明によれば、比較例1より33%、比較例2より15%、比較例3より12%、ランプ電圧が高くなっている。
【0074】
図2は、本発明の高圧放電ランプ装置における磁束密度とランプ電圧の関係を比較例のそれとともに示すグラフである。図において、横軸は磁束密度(mT)を、縦軸はランプ電圧(V)を、それぞれ示す。また、図中の2つの曲線は、それぞれ表示しているように本発明、比較例2のそれぞれにおいて磁束密度を変化させたときのデータである。なお、本発明の曲線は、実施例を用いて得たデータである。比較例3は電圧上昇を示したが、本発明には及ばなかった。
【0075】
図から理解できるように、本発明においては、比較例より高いランプ電圧を得ることができる。特に磁束密度が40mT以上において顕著なランプ電圧の向上が得られる。
【0076】
図3は本発明の高圧放電ランプ点灯装置を実施するための一形態を示す回路ブロック図である。本形態は、その点灯回路が低周波交流点灯回路方式を採用している。図において、DCは直流電源、BUTは昇圧チョッパ、FBIはフルブリッジ形インバータ、IGはイグナイタ、ITは自動車前照灯用の高圧放電ランプ装置の発光管、MGは磁界発生手段である。
【0077】
直流電源DCは、例えば自動車のバッテリーからなる。
【0078】
昇圧チョッパBUTは、その入力端が直流電源DCに接続している。
【0079】
フルブリッジ形インバータFBIは、その入力端が昇圧チョッパBUTの出力端に接続している。
【0080】
イグナイタIGは、フルブリッジ形インバータFBIの低周波交流出力を入力して高電圧始動パルスを発生し、始動時に後述する自動車前照灯用メタルハライドランプMHLの一対の電極間に印加する。
【0081】
発光管ITは、図1に示す構成であり、フルブリッジ形インバータFBIの出力端間に接続して低周波交流点灯する。
【0082】
磁界発生手段MGは、図1に示すように一対のソレノイドS1、S2が加極性に直列接続された構成であり、昇圧チョッパBUTの直流出力を電源として直流で付勢される。
【0083】
図4は、本発明の照明装置を実施するための一形態としての自動車前照灯を示す概念的側面図である。図において、11は前照灯本体、12は高圧放電ランプ点灯装置、13は自動車前照灯用メタルハライドランプである。
【0084】
前照灯本体11は、容器状をなし、内部に反射鏡11a、前面にレンズ11bおよび図示を省略しているランプソケットなどを備えている。
【0085】
高圧放電ランプ点灯装置12は、図3に示す回路構成を備えていて、主点灯回路12Aおよび始動器12Bを具備している。主点灯回路12Aは、図3の昇圧チョッパBUTおよびフルブリッジ形インバータFBIを主構成要素として構成されている。始動器12Bは、同じくイグナイタIGを主構成要素として構成されている。
【0086】
自動車前照灯用メタルハライドランプ13は、上記ランプソケットに装着されて点灯する。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の高圧放電ランプ装置を実施するための一形態を示す正面図
【図2】本発明の高圧放電ランプ装置における磁束密度とランプ電圧の関係を比較例のそれとともに示すグラフ
【図3】本発明の高圧放電ランプ点灯装置を実施するための一形態を示すブロック回路図
【図4】本発明の照明装置を実施するための一形態としての自動車前照灯を示す概念的側面図
【符号の説明】
【0088】
1…気密容器、1a…包囲部、1b…封止部、1c…放電空間、2…電極、3…封着金属箔、4…導入線、IT…発光管、MG…磁界発生手段、S1、S2…ソレノイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に放電空間を有する透光性気密容器、透光性気密容器に封装されて放電空間に臨む一対の電極、ならびに希ガスおよび金属ハロゲン化物を含み、水銀を本質的に含まない気密容器内に封入されたイオン化媒体を備えた発光管と;
発光管の一対の電極間を結ぶ管軸に沿う磁束を含む磁界を発生する磁界発生手段と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ装置。
【請求項2】
磁界発生手段は、発光管の発光部を遮らないように配設されていることを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
磁界発生手段は、ソレノイドコイルであることを特徴とする請求項1または2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか一記載の高圧放電ランプ装置と;
高圧放電ランプ装置の発光管を付勢して点灯させる点灯回路と;
高圧放電ランプ装置の磁界発生手段を付勢して磁界を発生させる電源と;
を具備していることを特徴とする高圧放電ランプ点灯装置。
【請求項5】
照明装置本体と;
照明装置本に配設された請求項4記載の高圧放電ランプ点灯装置と;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−87833(P2007−87833A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276885(P2005−276885)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】