説明

高圧放電ランプ

本発明は、放電空間を有する少なくとも1つの放電容器(2)と、この放電空間中に延在する2つの電極と、この放電空間中にあり、少なくとも不活性ガス及びハロゲン化金属混合物を含むガス充填剤と、2つの端部を有する外管(3)とを有する高圧放電ランプ(1)であって、外管(3)にはその少なくとも一方の端部で放電容器(2)が取付けられており、この外管(3)が、少なくとも1つの光吸収手段(5)と少なくとも1つの干渉フィルタ(6)とを有し、放電容器(2)の少なくとも一部の上又は内に干渉フィルタ(4)が配置されている当該高圧放電ランプ(1)に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電空間を有する放電容器と、この放電空間中に延在する2つの電極と、放電空間中にあり、少なくとも不活性ガス及びハロゲン化金属混合物を含むガス充填剤と、2つの端部を有し、そのうちの少なくとも一方の端部に放電容器が取付けられている外管とを有する高圧放電ランプに関するものである。
【0002】
外管を有するこの高圧放電ランプは一般的な照明目的に用いるのが好適である。この高圧放電ランプは自動車のような車両のヘッドランプとして使用するのに特に適している。
【従来技術】
【0003】
内管及び外管を有するこの種の放電ランプは、欧州特許出願公開第0 964 431 号明細書から既知である。この欧州特許出願公開明細書中に開示されている放電ランプは、1対の電極が設けられた発光領域を有するアーク管と、この発光領域を包囲している外管であって、前記アーク管に少なくとも一部融着されている当該外管とを有しており、この外管は、主成分として二酸化ケイ素(SiO2 )を有しており、これに加えてホウ素を有している。
【0004】
国際公開パンフレットWO 01/24224の明細書には、光吸収特性を有するハロゲンランプが開示されている。この点に関して、このランプは、光吸収手段と、ランプ管の外面上に配置されている干渉フィルタとを有しており、この光吸収手段は、機能的な理由から、ランプ管と干渉フィルタとの間に配置する必要がある。双方とも特に570〜620nmの波長範囲で作用する光吸収手段及び干渉フィルタを組み合わせて用いることにより、放出される可視光には、多量の琥珀色の光が含まれるようになる。
【0005】
この解決方法を高圧放電ランプの放電容器に適用することはできない。特に点灯温度が高温になるこの種のランプに対してはそうである。
【0006】
従来技術による放電ランプには、CIE1931の色度図による放出光の色点がECE R99 によるいわゆる「フロントフォグ」範囲に存在しないという欠点がある。さらに、従来技術による放電ランプでは、しばしば光の出力(ルーメン/ワット)が小さいものとなり、耐用時間が極めて短くなってしまう。
【発明の開示】
【0007】
本発明の目的は、放出光の色温度が3000Kより低く、放出光の色点が ECE R99による「フロントフォグ」の範囲内にあり、少なくとも60ルーメン/ワットの光出力を呈し、且つ寿命特性が向上した高圧放電ランプを提供することにある。
【0008】
本発明によれば黄色の光の場合に、色の特性値が以下の境界値により規定される範囲内に存在するようにする必要がある。
赤色に関し: y>0.138+0.580x
緑色に関し: y<1.29x−0.100
白色に関し: y>−x+0.940且つy>0.440
スペクトル軌跡に関し: y<−x+0.992
【0009】
本明細書中で「フロントフォグ」の用語を用いる場合、この用語は、CIE1931に対応する色度図の黄色範囲に応じた黄色を意味するものと理解されたい。
【0010】
本発明の目的は、少なくとも1つの光吸収手段及び少なくとも1つの干渉フィルタを有する外管を具えるとともに、放電容器の少なくとも一部の上又は内に他の干渉フィルタが配置されている高圧放電ランプにより達成される。
【0011】
本発明によるイオン化ガス充填剤は、少なくとも不活性ガス及び0mg〜10mgの範囲の水銀とを有する。
【0012】
「フロントフォグ」の範囲における色温度をより低くすることにより、特に霧のような悪天候の条件下における自動車の運転手の視界を改善することができる。本発明による高圧放電ランプにより放出される可視黄色光は、人間の目の自然な感応性により良く適合しているため、このような状況に関連する過大なストレス及びそれに付随する疲労が防止される。その結果、特に交通上の安全性が高まる。
【0013】
さらに、本発明による高圧放電ランプによれば、良好な光出力(ルーメン/ワット)も得ることができる。例えば、このような高圧放電ランプにより放出される光の出力は、少なくとも60ルーメン/ワット、好ましくは70ルーメン/ワット以上である。その上、本発明による高圧放電ランプによれば、80ルーメン/ワット以上の光出力も達成することができる。
【0014】
本発明による高圧放電ランプ有利な例は、請求項2〜12の記載から明らかとなる。
【0015】
前記干渉フィルタは少なくとも1つ放電容器の外面上に設けるのが好ましい。このように光源のすぐ近くに干渉フィルタを設けることにより、放出された光の所望の成分が有効に濾波される。所望しない成分はできる限り多く放電空間中に反射され、少なくとも部分的に放出光に戻る。これにより、全体的に放電空間の吸収領域をより高温にし、すなわち放電空間からより多くの光が放出されるようになり、また、干渉フィルタを採用しなかった場合に一般的に起こる光出力の著しい減少が観察されなくなる。従って、充分な光度を有する所望の黄色光を得ることができる。
【0016】
前記光吸収手段は外管の内面上に設けるとともに、外管の外面とその干渉フィルタとの間に他の光吸収手段を設けるのが特に好ましい。これにより、残りの不所望な光の成分が効率的に除去される。外管の内面及び外面上に同一の光吸収手段を設けるのが、工業的生産という目的の範囲内で技術的に簡単であり、この場合、外管にはコーティング技術を適用する。
【0017】
好適例によれば、少なくとも、放電容器を外管に装着するのに用いられる領域の表面には、光吸収手段及び干渉フィルタの双方又はいずれか一方が設けられないようにする。これにより、高圧放電ランプを技術的に簡易に大量生産しうるようになる。
【0018】
この例の他の変形では、放電容器上に配置された干渉フィルタ及び外管上に配置された干渉フィルタの双方の光透過率が、600〜800nmの波長範囲に関して90%より大きくなるようにするのが好ましい。
【0019】
更に、光吸収手段の光透過率は、600〜800nmの波長範囲に関して、70%〜90%の範囲にあるようにするのが好ましい。
【0020】
干渉フィルタの効率的な製造及び機能という観点から、各干渉フィルタの厚さは、800〜2800nmの範囲にあるようにするのが好ましい。
【0021】
干渉フィルタは、通常は多層構造を有し、この多層構造は、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に重なるようにする。この点について、低屈折率の層は、主としてSiO2 を有するようにするのが有利であり、高屈折率の層は、SiO2 より屈折率の高い材料を有するようにする。この高屈折率の層は、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、窒化ケイ素及び酸化ジルコニウム(ZrO2 )よりなる群から選択した材料、極めて好ましくは酸化ジルコニウム(ZrO2 )から構成するか、又はこれら材料の任意の組み合わせの混合物から構成するのが好ましい。干渉フィルタに使用する材料は、少なくとも900℃までの温度に耐える。
【0022】
光吸収手段の層厚は、5〜10000nmの範囲にあるようにするのが好ましい。
【0023】
光吸収手段は、一部の可視光を吸収する無機顔料を有するのが好ましい。この無機顔料の平均直径は、光吸収手段が所望の光透過率となり光の散乱ができる限り多く防止されるように、通常100nm以下にする必要がある。
【0024】
また、無機顔料は、酸化鉄、亜鉛−鉄−酸化物(Zn-Fe24又はZnO-ZnFe24)、蛍光体をドープした酸化鉄、亜鉛−鉄−クロム、ビスマス-バナデート、特にプッチャー石ビスマス-バナデート、酸化バナジウム、ジルコニウム-プラセオジミウム-シリケート、チタン−アンチモン−クロム、ニッケル-アンチモン-チタン及び銀からなる群から選択された材料又は酸化物、或いはこれら材料の任意の組み合わせの混合物から構成するのが好ましい。本発明による無機顔料は、複数のこれら材料の混合物から構成することもできるし、又は金属成分を追加的に含んでもよいし、或いはこれらの双方であってもよい。これら顔料は、使用する条件として、900℃までの温度に耐える必要がある。
【0025】
本発明の目的は、少なくとも請求項1〜12に記載された高圧放電ランプを有する自動車用の照明装置を提供することによっても達成される。
【0026】
本発明による高圧放電ランプは、一般的な照明目的に使用しうるものである。特に、この高圧放電ランプは、例えば、飛行機、自動車、オートバイ等のような輸送手段の光源として使用することができる。本発明による高圧放電ランプは、特に自動車のようなモータービークルのヘッドライト照明に用いるのが特に好ましい。
【0027】
本発明の上述の及び他の観点を、以下に記載する実施例を参照した説明から明らかなものとする。
図1には、「フロントフォグ(front fog)」光に対する標準規格ECE R99 に対応する本発明によるスペクトル領域を平面として示してある。この平面内には、「相関色温度」とも称される色温度、この場合にはそれぞれ3000K及び2500Kとした等しい色温度とした2本のラインが部分的に存在している。図1に示されるように、本発明による高圧ランプの色位置は、黒体放射のライン(Black body line)よりも上方に位置している。
【0028】
図2は、放電容器2と外管3とを有する高圧放電ランプを示す。この放電容器2は、それ自体一般的なもので、主として石英ガラスから形成されている。この放電容器2は、イオン化混合ガスが封入された放電空間を有し、このイオン化混合ガスは、少なくとも40〜80重量%のNaI及び0〜40重量%のScIを含むハロゲン化金属混合物と、不活性ガスとを有する。放電空間中には、電気接点をそれぞれ具える2つの電極が通常のように配置されている。放電容器2は、外管3の下端部に取付けられており、少なくとも放電容器2を外管3に取付けるのに用いられる領域の表面には、光吸収手段及び干渉フィルタの双方又はいずれか一方は設けられていない。放電容器2の外面には、ほぼ400〜550nmの波長範囲の光を反射する多層干渉フィルタ4が設けられている。この干渉フィルタ4は、22層の層を有し、その層構造は、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に重なったものである。低屈折率の11層の層は、主としてSiO2 から構成されており、その他の高屈折率の11層の層は、酸化ジルコニウム(ZrO2 )から構成されている。この干渉フィルタ4全体の層厚は約2662nmである。外管3の内面及び外面には、約850nmの層厚を有する光吸収手段5が被着されている。この光吸収手段5は、少なくともFe23の顔料を有しており、この顔料は、約30nmの直径を有し且つゾル−ゲルマトリクスに結合されている。この光吸収手段5の層は、種々の方法、例えばいわゆるPVD又はCVD処理により既知のように堆積させることができ、ゾル−ゲルマトリクスを有する光吸収手段5を用いる場合には、特に噴霧又は浸漬被覆処理により堆積させることができる。
【0029】
外管3の外面上に配置されている光吸収手段5の外面上には、主として380〜550nmの波長範囲の光を反射する多層干渉フィルタ6が存在しており、この多層干渉フィルタ6は、光吸収手段5の少なくとも殆どの表面を被覆している。この干渉フィルタ6は多層構造として構成されており、この多層構造は、高屈折率の層と低屈折率の層とが交互に重なるようになっている。低屈折率を有する層は、ほぼSiO2 から構成されており、高屈折率を有する層は、SiO2 より屈折率が高い酸化ジルコニウム(ZrO2 )から構成されている。干渉フィルタ6全体の層厚は、約1510nmであり、層構造としては8層のSiO2 の層と8層のZrO2 の層とが互いに交互に重なっている。干渉フィルタ4及び干渉フィルタ6の光透過率は、600〜800nmの波長範囲に関して双方とも90%より大きく、光吸収手段5の光透過率は、600〜800nmの波長範囲に関して70〜ほぼ100%の範囲にある。
【0030】
干渉フィルタ4及び干渉フィルタ6の個々の層は、例えばいわゆるPVD処理である一般的な薄膜処理により形成されている。
【0031】
ランプを自動車のフロントヘッドライトに着脱自在に装着しうるように、ランプは一般的な口金7を有する。
【0032】
本発明によるこのような高圧放電ランプを有する自動車用の照明装置は、約73ルーメン/ワットの光出力を得ることができる。CIE1931の色度図中の色位置は、X及びY双方の座標の値により充分に特定することができる。すなわちXは約0.496でありYは約0.45である。本発明による高圧放電ランプの耐用時間は少なくとも1000時間である。
【0033】
図3は、図2に示す本発明による高圧放電ランプで干渉フィルタにより濾波された発光スペクトルを示す線図であり、縦軸は光度、横軸は波長である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、CIE1931の色度図を示す線図である。
【図2】図2は、放電容器と外管とを有する本発明による高圧放電ランプを示す線図である。
【図3】図3は、本発明による高圧放電ランプの発光スペクトルを示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
放電空間を有する1つの放電容器と、
この放電空間中に延在する2つの電極と、
この放電空間中にあり、少なくとも不活性ガス及びハロゲン化金属混合物を含むガス充填剤と、
2つの端部を有し、そのうちの少なくとも一方の端部に前記放電容器が取付けられている外管と
を具える高圧放電ランプにおいて、
前記外管が、少なくとも1つの光吸収手段と、少なくとも1つの干渉フィルタとを有し、前記放電容器の少なくとも一部の上又は内に、他の干渉フィルタが配置されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記放電容器に配置された前記他の干渉フィルタが、前記放電容器の外面上に配置されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項3】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記光吸収手段が、前記外管の内面上に設けられており、且つ前記外管の外面と前記外管が有する前記干渉フィルタとの間に設けられていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項4】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
少なくとも、前記外管に前記放電容器を取付けるのに用いられる領域の表面には、前記光吸収手段及び前記干渉フィルタの双方又はいずれか一方が設けられていないことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項5】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
双方の前記干渉フィルタの光透過率が、600〜800nmの波長範囲に関して90%より大きいことを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項6】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記光吸収手段の光透過率が、600〜800nmの波長範囲に関して70%〜ほぼ100%の範囲にあることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項7】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
双方の前記干渉フィルタの層厚が、800〜2800nmの範囲にあることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項8】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記干渉フィルタが、複数の層から構成されており、これら層の構造は、主としてSiO2 から構成されているのが好ましい低屈折率の層と、SiO2 より屈折率の高い材料から構成されている高屈折率の層とが交互に重なっていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項9】
請求項8に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記高屈折率の層が、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、窒化ケイ素及び酸化ジルコニウムZrO2 からなる群から選択した材料、極めて好ましくは酸化ジルコニウムZrO2 から構成されているか、又はこれらの任意の組み合わせの混合物から構成されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項10】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記光吸収手段の層厚が、5nm〜10000nmの範囲にあることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項11】
請求項1に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記光吸収手段が、一部の可視光を吸収するとともに平均直径が100nmより小さい無機顔料を有することを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項12】
請求項11に記載の高圧放電ランプにおいて、
前記無機顔料が、酸化鉄、亜鉛−鉄−酸化物(Zn-Fe24又はZnO-ZnFe24)、蛍光体をドープした酸化鉄、亜鉛−鉄−クロム、特にプッチャー石ビスマス-バナデートであるビスマス-バナデート、酸化バナジウム、ジルコニウム-プラセオジミウム-シリケート、チタン−アンチモン−クロム、ニッケル-アンチモン-チタン及び銀からなる群から選択された材料又は酸化物、或いはこれらの任意の組み合わせの混合物から構成されていることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載された少なくとも高圧放電ランプを有する自動車用照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−515103(P2006−515103A)
【公表日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560079(P2004−560079)
【出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【国際出願番号】PCT/IB2003/005884
【国際公開番号】WO2004/055859
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips Electronics N.V.
【住所又は居所原語表記】Groenewoudseweg 1,5621 BA Eindhoven, The Netherlands
【Fターム(参考)】