高圧放電ランプ
【課題】環境汚染物質を用いずに、電極部材の消耗・変形を抑制でき、気密性容器の黒化、白濁を抑制することができる高圧放電ランプを提供すること。
【解決手段】紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された気密性容器12の両端に、それぞれ一端を含むように2つのコイル巻装電極13が設けられた高圧放電ランプ11であって、2つのコイル巻装電極13のうち、少なくとも一方のコイル巻装電極13を構成する電極部材131は、タングステンを基材とし、これに少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有させる。
【解決手段】紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された気密性容器12の両端に、それぞれ一端を含むように2つのコイル巻装電極13が設けられた高圧放電ランプ11であって、2つのコイル巻装電極13のうち、少なくとも一方のコイル巻装電極13を構成する電極部材131は、タングステンを基材とし、これに少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプに関し、特に、放電ランプに用いられるタングステン電極の材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶の製造工程中の硬化及び乾燥または、接着剤の硬化などには、交流放電方式の高圧放電ランプが使用されている。この交流放電方式の高圧放電ランプに用いられる電極は、電子を放出する陰極の特性と、消耗・変形し難い陽極の特性と、を同時に備える必要がある。これらの特性を同時に満たす電極として、酸化トリウムを含有したタングステン電極が知られている。(特許文献1参照)
この電極は、電極表面からの深さが5nmの位置におけるトリウム(Th)の含有率が0.25〜4.98AC%であるタングステン電極である。ここでAC%(Atomic Concentrate %)とは、電極表面からの深さが5nmまでの範囲中に存在するタングステン(W)、トリウム(Th)の原子数およびトリウム(Th)酸化物の分子数等を含めた全ての原子数および分子数の合計に対するトリウム(Th)の原子数を百分率で示したものである。
【0003】
上述した酸化トリウムを含有したタングステン電極は、酸化トリウムが低い仕事関数を有するため、良好な陰極の特性を有する。すなわち、低い仕事関数を有するため、低電圧で電子を放出することができるとともに、ランプを放電させた時に長時間安定して動作させることが可能である。このように、酸化トリウムを含有したタングステン電極は、電子放出性が良く、比較的低い温度での電子放出が可能なため、電極の温度は上昇せず、酸化トリウムの蒸発による放電管の黒化・白濁を抑圧することが可能である。
【0004】
さらに酸化トリウムは、酸化物の中で最も高い融点を持ち、電極の温度を下げる効果を有するため、良好な陽極の特性をも有する。すなわち、電極の温度を下げる効果を有するため、タングステンの消耗、耐変形性が向上する。さらに酸化トリウムは高い融点を持つため、蒸発量が少なく、放電管の材料である石英ガラスと反応し難い。従って、タングステンの消耗・変形を抑制することが可能であるとともに、放電管の黒化・白濁を抑制することが可能である。
【0005】
このように、上述した酸化トリウムを含有したタングステン電極は、陰極と陽極に要求される特性を同時に高度に備えることが可能となる。従って、高圧放電ランプに酸化トリウムを含有したタングステン電極を用いることで、電極の消耗・変形及び、放電管の黒化、白濁などの現象などを抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−179849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に係る電極に対して用いられる酸化トリウムは放射性物質であるため、環境に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、環境汚染物質を用いずに、電極の消耗・変形が抑制でき、放電管の黒化、白濁を抑制することができる高圧放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による高圧放電ランプは、紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された放電管と、この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、を有し、前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による高圧放電ランプは、紫外線透過性の材料からなり、少なくとも水銀及び希ガスが封入された放電管と、この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、を有し、前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境汚染物質を用いずに、電極の消耗・変形が抑制でき、放電管の黒化、白濁を抑制することができる高圧放電ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧放電ランプの軸に沿った断面図である。
【図2】図1に示す高圧放電ランプの要部を拡大した断面図である。
【図3】図1に示す高圧放電ランプを実験1により点灯させた場合のエミッタ材の濃度およびエミッタ材の粒径と、気密性容器の黒化、白濁との関係を示す表である。
【図4】図1に示す高圧放電ランプ実験2によりを点灯させた場合のエミッタ材の濃度およびエミッタ材の粒径と、気密性容器の黒化、白濁との関係を示す表である。
【図5】図1に示す高圧放電ランプの電極部材に沿った断面の顕微鏡写真である。
【図6A】図1に示す高圧放電ランプの電極部材の結晶状態を示す顕微鏡写真である。
【図6B】図1に示す高圧放電ランプの電極部材の結晶状態を示す顕微鏡写真である。
【図7A】図6Aの結晶状態と比較するための顕微鏡写真である。
【図7B】図6Bの結晶状態と比較するための顕微鏡写真である。
【図8】図6A、図6Bに示す結晶状態を簡略化した図である。
【図9】図7A、図7Bに示す結晶状態を簡略化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態に係る高圧放電ランプについて、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る高圧放電ランプの軸に沿った断面図である。図2は、図1の高圧放電ランプの電極部分を拡大した断面図である。
【0015】
図1に示す高圧放電ランプ11において、気密性容器12は、紫外線透過性の石英製の発光管である。この気密性容器12の両端内部には、図1に示すように、コイル巻装電極13が対向配置される。これらのコイル巻装電極13は、それぞれ気密性容器12の両端の外部のソケット14に支持されている。
【0016】
気密性容器12の内部には、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、水銀、そして、鉄、錫、ハロゲン化水銀、が封入されている。ハロゲン化水銀は、ヨウ化水銀(HgI2)を用いることができる。水銀、鉄、錫、ヨウ化水銀が封入された場合は、波長358nm、365nm、378nm付近に発光ピークを有する。
【0017】
また、気密性容器12の内部には、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、水銀、ハロゲン化タリウムが封入されてもよい。ハロゲン化タリウムとしては、ヨウ化タリウム(TlI)を用いてもよい。この種の高圧放電ランプ11においては、波長352nm、365nm、378nm付近に、特に、352nm、378nm付近に大きな発光ピークを有する。なお、ヨウ化タリウムに代えて、臭化タリウムを採用することもできる。
【0018】
図2に示すように、コイル巻装電極13は、電極部材131と、この電極部材131の一端に螺旋状に巻かれたコイル132からなる。このコイル132は、電極部材131の先端の表面積を増やすことにより、電極部材131の温度上昇を抑制するために設けられている。電極部材131の他端は、電極箔133と接合している。電極部材131の他端が一端に接続された電極箔133の他端は、ソケット14の内部において、図1に示すように、外部リード15に接続されている。
【0019】
電極部材131は、タングステン(W)に、エミッタ材を含有されたものである。エミッタ材は、電極部材131から電子を放出させる能力を有するとともに、電極部材131の温度を下げる能力を有するものである。このエミッタ材は、例えばランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)のうち、いずれか1種類の希土類元素の酸化物からなり、希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度で含有されている。この濃度の範囲は、下記に示す2種のランプの実験結果より導き出されたものである。この濃度範囲以外の濃度のエミッタ材を含有する電極13を備えた高圧放電ランプを点灯させた場合、気密性容器12は黒化または白濁する。
【0020】
なお、上述したエミッタ材の濃度範囲は、気密性容器12の外径φが40mm未満の場合には、0.5〜2.5体積%であることが好ましい。また、気密性容器12の外径φが40mm以上の場合には、0.5〜5.0体積%であることが好ましい。
【0021】
体積%は、以下の式により求めることができる。
B={vem/(vw+vem)}×100
=[(mem/ρem)/{(mw/ρw)+(mem/ρem)}]×100
ここで上述の式のBは、体積%を示す。vwは、タングステンの体積、vemは、タングステンに含有される希土類元素の体積を示す。すなわち、体積%とは、タングステンの体積に対する、含有された希土類元素の体積の割合を意味する。
【0022】
これらの体積vw、vemは、それぞれの質量(mw、mem)および密度(ρw、ρem)から求めることができる。ここで、電極部材131は、タングステンに希土類元素の酸化物を含有させることにより、タングステンに希土類元素を含有させて形成される。なお、上述の希土類元素の質量memは、タングステンに含有させる希土類酸化物の質量から算出される質量である。
【0023】
以上に示した高圧放電ランプ11を用い、以下の2種の実験を行った。
実験1に使用された高圧放電ランプ11の気密性容器12は、外管径φが27.5mm、肉厚mが1.5mm、発光長Lが1000mmのものであり、ランプ電流値11.0Aの仕様のものである。この高圧放電ランプ11を、定格電圧1150V、定格電流10.5A、定格電力12kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。この結果を図3に示す。
【0024】
図3は、エミッタ材の種類毎に、異なる濃度および異なる平均粒径のエミッタ材をそれぞれタングステンに含有させた電極部材131を用い、これらのランプの黒化状態、白濁状態を5段階で評価したものである。図3において、黒化、白濁の評価については、数値が大きくなるほど特性が悪いことを示した。さらに、黒化状態と白濁状態の総合評価を、黒化状態と白濁状態との評価の和で示し、評価の和が4以下の場合は○、5の場合は△、6以上の場合は×を、それぞれ図3に示した。
【0025】
次に、実験2使用された高圧放電ランプ11の気密性容器12は、外管径φが84.0mm、肉厚mが1.5mm、発光長Lが1490mmのものであり、ランプ電流値23.4Aの仕様のものである。この高圧放電ランプ11を、定格電圧1925V、定格電流23.4A、定格電力44kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。この結果を、図4に示す。
【0026】
図4は図3同様に、エミッタ材の種類毎に、異なる濃度のエミッタ材をそれぞれタングステンに含有させた電極部材131を用い、これらのランプの黒化状態、白濁状態を5段階で評価したものである。図4において、黒化、白濁の評価については、数値が大きくなるほど特性が悪いことを示した。さらに、黒化状態と白濁状態の総合評価を、黒化状態と白濁状態との評価の和で示し、評価の和が4以下の場合は○、5の場合は△、6以上の場合は×を、それぞれ図4に示した。
【0027】
図3、図4の結果より、以下のことが判明した。
まず、総合評価が○であった高圧放電ランプ11に使用された電極部材131のエミッタ材の含有量は、実験1に場合は、希土類元素単体の量に換算して0.5〜2.5体積%、実験2の場合は希土類元素単体の量に換算して0.5〜5.0体積%の範囲であることがわかった。
【0028】
実験1においてエミッタ材が2.5体積%より高い濃度である場合、または、実験2においてエミッタ材が5.0体積%より高い濃度である場合は、気密性容器12が白濁していた。これは、電極部材131の表面に存在するエミッタ材が多くなるため、点灯中にエミッタ材が飛散してしまったためである。これにより、飛散したエミッタ材は、気密性容器12の内面などに付着し、照度の低下およびエミッタ材に起因する石英の結晶化が起こり、気密性容器12の破損につながる可能性がある。
【0029】
一方、両実験において、エミッタ材が0.5体積%より低い濃度である場合は、気密性容器12が黒化していた。これは、電極部材131が純タングステンに近い状態になるため、電極部材131からの電子放出性が悪くなり、スポット温度が高くなったためである。これにより、電極部材131の劣化が促進されるとともに、タングステンが蒸発し、気密性容器12を黒化させた。
【0030】
また、両実験において、総合評価○であった高圧放電ランプ11に使用された電極部材131に添加されたエミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることがわかった。ここで平均粒径は、放電電極131を軸方向に沿って切断し、その断面をレーザ顕微鏡で1000倍に拡大した図5に示すような画像を用いて求めた。すなわち、平均粒径とは、図5に示す画像内の任意の50μmの円中に含まれるエミッタ材粒子の最大径(フィレット径)を測定し、エミッタ材粒子の最大径の和をエミッタ材粒子の個数で割ることにより求めたものである。
【0031】
エミッタ材の平均粒径が3μm以上であった場合には、気密性容器は黒化した。これは、エミッタ材の粒径大きいため、エミッタ材の粒子が電極部材131の表面の結晶化された領域を移動し難くなったためである。その結果、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され難くなったため、エミッタ材を含有させることによって得られる効果は得られにくくなった。
【0032】
すなわち、電極部材131の放電による消耗、変形を抑制するとともに、十分に気密性容器12の黒化、白濁を抑制することができるエミッタ材の平均粒径は上述の実験の結果から、3μm未満であることがわかった。この平均粒径は小さいほど望ましく、より好ましい範囲は、1.5μm以下である。
【0033】
以上から、希土類元素単体の量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度の希土類の酸化物であり、平均粒径が3μm未満のエミッタ材を電極部材131に含有させることにより、電極部材131の放電による消耗・変形を抑制するとともに、十分に気密性容器12の黒化・白濁を抑制することができることがわかった。
【0034】
次に、上述した本実施例に係る電極部材131の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法で製造できる。
【0035】
まず、希土類金属の硝酸化物を水溶液状にしたものと、平均粒径2〜3μmで純度99.95%以上のタングステン粉末を規定量、磁製皿の中で混ぜ合わせ、乾燥させる。その後、700〜900℃の水素雰囲気中で希土類金属の硝酸化物を分解させ、酸化物として微細に分散させると同時に、タングステン粉末を還元させる。エミッタ材粉末は、酸化物の形でタングステン粉末とボールミルで混合しても良いが、粗大なエミッタ材粒子がそのまま焼結体にしたときに残存し、結果として本発明のエミッタ材粒子径3μm未満にすることが困難となるため、粉末の製造方法は上記方法が好ましい。
【0036】
続いて、金型で縦15mm×横15mm×長さ650mm程度の大きさにプレスし、所定の大きさの成形体を作成する。その後、水素雰囲気で通電焼結を行い、縦12.5mm×横12.5mm×高さ540mm程度の焼結体を得る。
【0037】
次に、1400〜1700℃に加熱された焼結体を叩きながら引き伸ばすことによって、焼結体を細く引き伸ばす。続いて、細く引き伸ばされた焼結体を、径が一定の同心円状になるように研磨する。最後に、同心円状に研磨された焼結体の表面を電解処理により研磨することによって、電極部材131を形成する。
【0038】
電極部材131を形成した後、気密性容器12に対して、1200〜1400℃の水素雰囲気でクリーニングを行った後、2000℃以下で真空処理を行う。そして、電極部材131の先端にコイル132を備えたコイル巻装電極13を、この気密性容器12に組み込むことにより、上述した高圧放電ランプ11を得ることができる。
【0039】
以上に示したコイル巻装電極13を用いることにより、電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能な高圧放電ランプ11を形成することができる。
【0040】
ここで、上述した電極部材131の先端のタングステン結晶の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたとき、L/Wを3.0以上とすることによって、さらに電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能となる。以下、この点について説明する。
【0041】
電極部材131の先端は、放電の起点となるために溶融し、溶融層を形成する。ここで溶融層を、電極部材131の先端から軸方向に向かう長さをM、電極部材131の直径をDとした時に、M/Dが0.01以上0.5以下の範囲とする。この溶融層は、放電の起点(スポット)の一部分に形成される場合、または、電極部材131の先端部分全体に渡って形成される場合がある。しかし、どちらの場合であっても、溶融層が再結晶化するときに、タングステン結晶の粒径が粗大化する。この再結晶化したタングステン結晶は、図6A、図6Bに示す顕微鏡写真に示されるように、軸方向に向かって長大になることが望ましい。これは、タングステン結晶が図6A、図6Bに示すように長大になることにより、電極部材131に含有されるエミッタ材を、電極部材131の表面に容易に移動させることができるためである。反対に、図7A、図7Bに示す顕微鏡写真のように、再結晶化したタングステン結晶が微細な状態になった場合、電極部材131内のエミッタ材を、電極部材131の表面に移動させることは困難になる。
【0042】
これは、図6A、図6Bを模式化した図8に示すように、長大なタングステン結晶の場合、タングステン結晶の粒界をエミッタ材が容易に移動できるため、電極部材131内のエミッタ材は、電極部材131の表面に移動し易いことによる。
【0043】
反対に、図7A、図7Bを模式化した図9に示すように、タングステン結晶が微細な場合、エミッタ材は、タングステン結晶の粒界を移動することが困難になるため、電極部材131内のエミッタ材は、その表面に移動し難くなる。
【0044】
従って、この溶融層直下に形成される結晶の大きさは、電極部材131の長手方向を長軸(L)、電極部材131の断面方向を短軸(W)とした場合にL/Wが大きいことが望ましい。具体的には、3.0以上であることが望ましいく、より好ましいL/Wの値は5.0以上であることが、本願発明者によって確認されている。
【0045】
また、上述した電極部材131にさらに、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)の少なくとも1種を0.001〜0.01質量%含ませることにより、電極部材131の耐変形性をさらに向上させることができる。以下、この点について説明する。
【0046】
Al、Si、Kはドープ材として用いられるものであり、上述の電極部材131にこれらを含有させることにより、電極部材131の耐変形性を向上させることができる。このドープ材の含有量は、Al、Si、Kのいずれか1種を0.001〜0.01質量%含有させることが望ましいことが本願発明者によって確認されており、0.001質量%未満では含有による効果を充分に得ることはできず、また、0.01質量%を超えると焼結性や加工性に問題が発生する。
【0047】
さらに、上述した各種ドープ材を電極部材131に含ませることにより、タングステンの結晶をより大きくすることができる。従って、電極部材131の内部のエミッタ材が移動することを促進すると推定される。
【0048】
なお、このようなドープ材を含有した電極部材131の製造方法は、希土類金属の硝酸化物を水溶液にしたものと、Al、Si、Kを規定量ドープしたタングステンの粉末と、純水とを規定量、磁製皿の中で混ぜ合わせ、乾燥させる他は、上述した製造方法と同様である。
【0049】
また、加工率が80%以上である電極部材131を使用することにより、さらに電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能となる。以下、この点について説明する。
【0050】
上述の加工率は、焼結体から電極形状に加工する際の加工する割合を示しており、焼結体の断面積をS1とし、電極部材131の断面積をS2としたとき、[(S2−S1)/S1]×100(%)で示される量である。この加工率は、エミッタ材の電極部材131中への分散及び、電極部材131の先端に生成される結晶の大きさL/Wに影響を及ぼすものである。すなわち、加工率が高いほど、焼結体の状態から電極形状への加工が進むにつれて、タングステンマトリックス中で細かく砕かれていき、微細に分散するようになるため、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され易くなる。さらに、加工率が高いほど、焼結体の状態から電極形状への加工などにより、電極部材131に負荷される熱エネルギーが増し、このエネルギーが溶融したタングステンの再結晶の駆動エネルギーとなるため、L/Wの大きな結晶が生成され易くなり、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され易くなる。従って、加工率が高い電極部材131を使用することが望ましく、具体的には80%以上の電極部材131を使用することが望ましい。
【0051】
以上に示したように、本発明の高圧放電ランプ11によれば、電極部材131の消耗、変形を抑制することができ、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することができる。
【0052】
以下に、上述した高圧放電ランプ11の具体的な実施例を示す。
【実施例1】
【0053】
実施例1に係る高圧放電ランプ11は、体積%が0.6%、平均粒径3μmのCe2O3を含有したタングステン製の電極部材131を、気密性容器12の両端に備えたメタルハライドランプ11である。容器12の内部には、Hg、Fe、Sn、HgI2を封入した。さらに封入ガスとしてArを封入した。このランプにおいて、気密性容器12は、紫外線透過性の高い石英管からなり、外径φが27.5mm、発光長が1000mmの仕様のものである。
【0054】
このメタルハライドランプ11を、定格電圧が1310V、定格電流が12.2A、定格電力が16kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。その結果、電極部材131の消耗、変形は抑制され、気密性容器12の黒化、白濁も抑制された。
【実施例2】
【0055】
実施例2に係る高圧放電ランプ11は、体積%が3.0%、平均粒径3μmのLa2O3を含有したタングステン製の電極部材131を、気密性容器12の両端に備えたメタルハライドランプ11である。容器12の内部には、Hg、TlI、NaIを封入した。さらに封入ガスとしてNe−Arの混合ガスを封入した。このランプにおいて、気密性容器12は、光透過性の高い石英管からなり、外径φが84mm、発光長が1430mmの仕様のものである。さらに気密性容器12は、この容器12の外径より大きなφ120mmからなる外観に封装された2重構造である。
【0056】
このメタルハライドランプ11を、定格電圧が1925V、定格電流が23.4A、定格電力が44kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。その結果、電極部材131の消耗、変形は抑制され、気密性容器12の黒化、白濁も抑制された。
【0057】
以上に、本発明の高圧放電ランプ11について説明した。しかし本発明は、上述した各実施例に限定されるものではない。
【0058】
例えば、電極部材131に添加するエミッタ材は、希土類の酸化物を2種類以上含有させてもよい。この場合であっても、希土類元素単体の量の合計が上述した範囲に含まれるように含有させれば、同様の効果を得ることが可能である。
【0059】
また、ドープ材を2種または3種用いる場合であってもその合計量が0.001〜0.01質量%の範囲内であれば、同様の効果を得ることが可能である。
【0060】
また、上述の気密性容器12の内部には、放電媒体として、希ガス、水銀、メタルハライドがいずれも含まれた。しかし、本発明は、希ガス及び水銀または、希ガス及びメタルハライドが放電媒体として気密性容器12の内部に含まれる高圧放電ランプ11であっても、適用することができる。
【0061】
また、上述の交流放電方式の各高圧放電ランプ11において、エミッタ材の濃度およびエミッタ材の平均粒径を上述のように限定することにより、黒化・白濁を抑制できることがわかった。これは、エミッタ材として上述のような物質を用いることにより、電極部材131の温度が上昇することを抑制することができたためである。従って、上述の各高圧放電ランプ11において示した電極部材131を、直流放電方式の高圧放電ランプの陰極に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
11・・・高圧放電ランプ
12・・・気密性容器
13・・・コイル巻装電極
131・・・電極部材
132・・・コイル
133・・・電極箔
14・・・ソケット
15・・・外部リード
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプに関し、特に、放電ランプに用いられるタングステン電極の材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液晶の製造工程中の硬化及び乾燥または、接着剤の硬化などには、交流放電方式の高圧放電ランプが使用されている。この交流放電方式の高圧放電ランプに用いられる電極は、電子を放出する陰極の特性と、消耗・変形し難い陽極の特性と、を同時に備える必要がある。これらの特性を同時に満たす電極として、酸化トリウムを含有したタングステン電極が知られている。(特許文献1参照)
この電極は、電極表面からの深さが5nmの位置におけるトリウム(Th)の含有率が0.25〜4.98AC%であるタングステン電極である。ここでAC%(Atomic Concentrate %)とは、電極表面からの深さが5nmまでの範囲中に存在するタングステン(W)、トリウム(Th)の原子数およびトリウム(Th)酸化物の分子数等を含めた全ての原子数および分子数の合計に対するトリウム(Th)の原子数を百分率で示したものである。
【0003】
上述した酸化トリウムを含有したタングステン電極は、酸化トリウムが低い仕事関数を有するため、良好な陰極の特性を有する。すなわち、低い仕事関数を有するため、低電圧で電子を放出することができるとともに、ランプを放電させた時に長時間安定して動作させることが可能である。このように、酸化トリウムを含有したタングステン電極は、電子放出性が良く、比較的低い温度での電子放出が可能なため、電極の温度は上昇せず、酸化トリウムの蒸発による放電管の黒化・白濁を抑圧することが可能である。
【0004】
さらに酸化トリウムは、酸化物の中で最も高い融点を持ち、電極の温度を下げる効果を有するため、良好な陽極の特性をも有する。すなわち、電極の温度を下げる効果を有するため、タングステンの消耗、耐変形性が向上する。さらに酸化トリウムは高い融点を持つため、蒸発量が少なく、放電管の材料である石英ガラスと反応し難い。従って、タングステンの消耗・変形を抑制することが可能であるとともに、放電管の黒化・白濁を抑制することが可能である。
【0005】
このように、上述した酸化トリウムを含有したタングステン電極は、陰極と陽極に要求される特性を同時に高度に備えることが可能となる。従って、高圧放電ランプに酸化トリウムを含有したタングステン電極を用いることで、電極の消耗・変形及び、放電管の黒化、白濁などの現象などを抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−179849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した特許文献1に係る電極に対して用いられる酸化トリウムは放射性物質であるため、環境に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、環境汚染物質を用いずに、電極の消耗・変形が抑制でき、放電管の黒化、白濁を抑制することができる高圧放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による高圧放電ランプは、紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された放電管と、この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、を有し、前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明による高圧放電ランプは、紫外線透過性の材料からなり、少なくとも水銀及び希ガスが封入された放電管と、この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、を有し、前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境汚染物質を用いずに、電極の消耗・変形が抑制でき、放電管の黒化、白濁を抑制することができる高圧放電ランプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧放電ランプの軸に沿った断面図である。
【図2】図1に示す高圧放電ランプの要部を拡大した断面図である。
【図3】図1に示す高圧放電ランプを実験1により点灯させた場合のエミッタ材の濃度およびエミッタ材の粒径と、気密性容器の黒化、白濁との関係を示す表である。
【図4】図1に示す高圧放電ランプ実験2によりを点灯させた場合のエミッタ材の濃度およびエミッタ材の粒径と、気密性容器の黒化、白濁との関係を示す表である。
【図5】図1に示す高圧放電ランプの電極部材に沿った断面の顕微鏡写真である。
【図6A】図1に示す高圧放電ランプの電極部材の結晶状態を示す顕微鏡写真である。
【図6B】図1に示す高圧放電ランプの電極部材の結晶状態を示す顕微鏡写真である。
【図7A】図6Aの結晶状態と比較するための顕微鏡写真である。
【図7B】図6Bの結晶状態と比較するための顕微鏡写真である。
【図8】図6A、図6Bに示す結晶状態を簡略化した図である。
【図9】図7A、図7Bに示す結晶状態を簡略化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態に係る高圧放電ランプについて、図面を参照して説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る高圧放電ランプの軸に沿った断面図である。図2は、図1の高圧放電ランプの電極部分を拡大した断面図である。
【0015】
図1に示す高圧放電ランプ11において、気密性容器12は、紫外線透過性の石英製の発光管である。この気密性容器12の両端内部には、図1に示すように、コイル巻装電極13が対向配置される。これらのコイル巻装電極13は、それぞれ気密性容器12の両端の外部のソケット14に支持されている。
【0016】
気密性容器12の内部には、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、水銀、そして、鉄、錫、ハロゲン化水銀、が封入されている。ハロゲン化水銀は、ヨウ化水銀(HgI2)を用いることができる。水銀、鉄、錫、ヨウ化水銀が封入された場合は、波長358nm、365nm、378nm付近に発光ピークを有する。
【0017】
また、気密性容器12の内部には、アルゴン(Ar)ガス等の希ガス、水銀、ハロゲン化タリウムが封入されてもよい。ハロゲン化タリウムとしては、ヨウ化タリウム(TlI)を用いてもよい。この種の高圧放電ランプ11においては、波長352nm、365nm、378nm付近に、特に、352nm、378nm付近に大きな発光ピークを有する。なお、ヨウ化タリウムに代えて、臭化タリウムを採用することもできる。
【0018】
図2に示すように、コイル巻装電極13は、電極部材131と、この電極部材131の一端に螺旋状に巻かれたコイル132からなる。このコイル132は、電極部材131の先端の表面積を増やすことにより、電極部材131の温度上昇を抑制するために設けられている。電極部材131の他端は、電極箔133と接合している。電極部材131の他端が一端に接続された電極箔133の他端は、ソケット14の内部において、図1に示すように、外部リード15に接続されている。
【0019】
電極部材131は、タングステン(W)に、エミッタ材を含有されたものである。エミッタ材は、電極部材131から電子を放出させる能力を有するとともに、電極部材131の温度を下げる能力を有するものである。このエミッタ材は、例えばランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)のうち、いずれか1種類の希土類元素の酸化物からなり、希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度で含有されている。この濃度の範囲は、下記に示す2種のランプの実験結果より導き出されたものである。この濃度範囲以外の濃度のエミッタ材を含有する電極13を備えた高圧放電ランプを点灯させた場合、気密性容器12は黒化または白濁する。
【0020】
なお、上述したエミッタ材の濃度範囲は、気密性容器12の外径φが40mm未満の場合には、0.5〜2.5体積%であることが好ましい。また、気密性容器12の外径φが40mm以上の場合には、0.5〜5.0体積%であることが好ましい。
【0021】
体積%は、以下の式により求めることができる。
B={vem/(vw+vem)}×100
=[(mem/ρem)/{(mw/ρw)+(mem/ρem)}]×100
ここで上述の式のBは、体積%を示す。vwは、タングステンの体積、vemは、タングステンに含有される希土類元素の体積を示す。すなわち、体積%とは、タングステンの体積に対する、含有された希土類元素の体積の割合を意味する。
【0022】
これらの体積vw、vemは、それぞれの質量(mw、mem)および密度(ρw、ρem)から求めることができる。ここで、電極部材131は、タングステンに希土類元素の酸化物を含有させることにより、タングステンに希土類元素を含有させて形成される。なお、上述の希土類元素の質量memは、タングステンに含有させる希土類酸化物の質量から算出される質量である。
【0023】
以上に示した高圧放電ランプ11を用い、以下の2種の実験を行った。
実験1に使用された高圧放電ランプ11の気密性容器12は、外管径φが27.5mm、肉厚mが1.5mm、発光長Lが1000mmのものであり、ランプ電流値11.0Aの仕様のものである。この高圧放電ランプ11を、定格電圧1150V、定格電流10.5A、定格電力12kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。この結果を図3に示す。
【0024】
図3は、エミッタ材の種類毎に、異なる濃度および異なる平均粒径のエミッタ材をそれぞれタングステンに含有させた電極部材131を用い、これらのランプの黒化状態、白濁状態を5段階で評価したものである。図3において、黒化、白濁の評価については、数値が大きくなるほど特性が悪いことを示した。さらに、黒化状態と白濁状態の総合評価を、黒化状態と白濁状態との評価の和で示し、評価の和が4以下の場合は○、5の場合は△、6以上の場合は×を、それぞれ図3に示した。
【0025】
次に、実験2使用された高圧放電ランプ11の気密性容器12は、外管径φが84.0mm、肉厚mが1.5mm、発光長Lが1490mmのものであり、ランプ電流値23.4Aの仕様のものである。この高圧放電ランプ11を、定格電圧1925V、定格電流23.4A、定格電力44kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。この結果を、図4に示す。
【0026】
図4は図3同様に、エミッタ材の種類毎に、異なる濃度のエミッタ材をそれぞれタングステンに含有させた電極部材131を用い、これらのランプの黒化状態、白濁状態を5段階で評価したものである。図4において、黒化、白濁の評価については、数値が大きくなるほど特性が悪いことを示した。さらに、黒化状態と白濁状態の総合評価を、黒化状態と白濁状態との評価の和で示し、評価の和が4以下の場合は○、5の場合は△、6以上の場合は×を、それぞれ図4に示した。
【0027】
図3、図4の結果より、以下のことが判明した。
まず、総合評価が○であった高圧放電ランプ11に使用された電極部材131のエミッタ材の含有量は、実験1に場合は、希土類元素単体の量に換算して0.5〜2.5体積%、実験2の場合は希土類元素単体の量に換算して0.5〜5.0体積%の範囲であることがわかった。
【0028】
実験1においてエミッタ材が2.5体積%より高い濃度である場合、または、実験2においてエミッタ材が5.0体積%より高い濃度である場合は、気密性容器12が白濁していた。これは、電極部材131の表面に存在するエミッタ材が多くなるため、点灯中にエミッタ材が飛散してしまったためである。これにより、飛散したエミッタ材は、気密性容器12の内面などに付着し、照度の低下およびエミッタ材に起因する石英の結晶化が起こり、気密性容器12の破損につながる可能性がある。
【0029】
一方、両実験において、エミッタ材が0.5体積%より低い濃度である場合は、気密性容器12が黒化していた。これは、電極部材131が純タングステンに近い状態になるため、電極部材131からの電子放出性が悪くなり、スポット温度が高くなったためである。これにより、電極部材131の劣化が促進されるとともに、タングステンが蒸発し、気密性容器12を黒化させた。
【0030】
また、両実験において、総合評価○であった高圧放電ランプ11に使用された電極部材131に添加されたエミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることがわかった。ここで平均粒径は、放電電極131を軸方向に沿って切断し、その断面をレーザ顕微鏡で1000倍に拡大した図5に示すような画像を用いて求めた。すなわち、平均粒径とは、図5に示す画像内の任意の50μmの円中に含まれるエミッタ材粒子の最大径(フィレット径)を測定し、エミッタ材粒子の最大径の和をエミッタ材粒子の個数で割ることにより求めたものである。
【0031】
エミッタ材の平均粒径が3μm以上であった場合には、気密性容器は黒化した。これは、エミッタ材の粒径大きいため、エミッタ材の粒子が電極部材131の表面の結晶化された領域を移動し難くなったためである。その結果、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され難くなったため、エミッタ材を含有させることによって得られる効果は得られにくくなった。
【0032】
すなわち、電極部材131の放電による消耗、変形を抑制するとともに、十分に気密性容器12の黒化、白濁を抑制することができるエミッタ材の平均粒径は上述の実験の結果から、3μm未満であることがわかった。この平均粒径は小さいほど望ましく、より好ましい範囲は、1.5μm以下である。
【0033】
以上から、希土類元素単体の量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度の希土類の酸化物であり、平均粒径が3μm未満のエミッタ材を電極部材131に含有させることにより、電極部材131の放電による消耗・変形を抑制するとともに、十分に気密性容器12の黒化・白濁を抑制することができることがわかった。
【0034】
次に、上述した本実施例に係る電極部材131の製造方法について説明する。製造方法は特に限定されるものではないが、例えば次のような方法で製造できる。
【0035】
まず、希土類金属の硝酸化物を水溶液状にしたものと、平均粒径2〜3μmで純度99.95%以上のタングステン粉末を規定量、磁製皿の中で混ぜ合わせ、乾燥させる。その後、700〜900℃の水素雰囲気中で希土類金属の硝酸化物を分解させ、酸化物として微細に分散させると同時に、タングステン粉末を還元させる。エミッタ材粉末は、酸化物の形でタングステン粉末とボールミルで混合しても良いが、粗大なエミッタ材粒子がそのまま焼結体にしたときに残存し、結果として本発明のエミッタ材粒子径3μm未満にすることが困難となるため、粉末の製造方法は上記方法が好ましい。
【0036】
続いて、金型で縦15mm×横15mm×長さ650mm程度の大きさにプレスし、所定の大きさの成形体を作成する。その後、水素雰囲気で通電焼結を行い、縦12.5mm×横12.5mm×高さ540mm程度の焼結体を得る。
【0037】
次に、1400〜1700℃に加熱された焼結体を叩きながら引き伸ばすことによって、焼結体を細く引き伸ばす。続いて、細く引き伸ばされた焼結体を、径が一定の同心円状になるように研磨する。最後に、同心円状に研磨された焼結体の表面を電解処理により研磨することによって、電極部材131を形成する。
【0038】
電極部材131を形成した後、気密性容器12に対して、1200〜1400℃の水素雰囲気でクリーニングを行った後、2000℃以下で真空処理を行う。そして、電極部材131の先端にコイル132を備えたコイル巻装電極13を、この気密性容器12に組み込むことにより、上述した高圧放電ランプ11を得ることができる。
【0039】
以上に示したコイル巻装電極13を用いることにより、電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能な高圧放電ランプ11を形成することができる。
【0040】
ここで、上述した電極部材131の先端のタングステン結晶の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたとき、L/Wを3.0以上とすることによって、さらに電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能となる。以下、この点について説明する。
【0041】
電極部材131の先端は、放電の起点となるために溶融し、溶融層を形成する。ここで溶融層を、電極部材131の先端から軸方向に向かう長さをM、電極部材131の直径をDとした時に、M/Dが0.01以上0.5以下の範囲とする。この溶融層は、放電の起点(スポット)の一部分に形成される場合、または、電極部材131の先端部分全体に渡って形成される場合がある。しかし、どちらの場合であっても、溶融層が再結晶化するときに、タングステン結晶の粒径が粗大化する。この再結晶化したタングステン結晶は、図6A、図6Bに示す顕微鏡写真に示されるように、軸方向に向かって長大になることが望ましい。これは、タングステン結晶が図6A、図6Bに示すように長大になることにより、電極部材131に含有されるエミッタ材を、電極部材131の表面に容易に移動させることができるためである。反対に、図7A、図7Bに示す顕微鏡写真のように、再結晶化したタングステン結晶が微細な状態になった場合、電極部材131内のエミッタ材を、電極部材131の表面に移動させることは困難になる。
【0042】
これは、図6A、図6Bを模式化した図8に示すように、長大なタングステン結晶の場合、タングステン結晶の粒界をエミッタ材が容易に移動できるため、電極部材131内のエミッタ材は、電極部材131の表面に移動し易いことによる。
【0043】
反対に、図7A、図7Bを模式化した図9に示すように、タングステン結晶が微細な場合、エミッタ材は、タングステン結晶の粒界を移動することが困難になるため、電極部材131内のエミッタ材は、その表面に移動し難くなる。
【0044】
従って、この溶融層直下に形成される結晶の大きさは、電極部材131の長手方向を長軸(L)、電極部材131の断面方向を短軸(W)とした場合にL/Wが大きいことが望ましい。具体的には、3.0以上であることが望ましいく、より好ましいL/Wの値は5.0以上であることが、本願発明者によって確認されている。
【0045】
また、上述した電極部材131にさらに、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)の少なくとも1種を0.001〜0.01質量%含ませることにより、電極部材131の耐変形性をさらに向上させることができる。以下、この点について説明する。
【0046】
Al、Si、Kはドープ材として用いられるものであり、上述の電極部材131にこれらを含有させることにより、電極部材131の耐変形性を向上させることができる。このドープ材の含有量は、Al、Si、Kのいずれか1種を0.001〜0.01質量%含有させることが望ましいことが本願発明者によって確認されており、0.001質量%未満では含有による効果を充分に得ることはできず、また、0.01質量%を超えると焼結性や加工性に問題が発生する。
【0047】
さらに、上述した各種ドープ材を電極部材131に含ませることにより、タングステンの結晶をより大きくすることができる。従って、電極部材131の内部のエミッタ材が移動することを促進すると推定される。
【0048】
なお、このようなドープ材を含有した電極部材131の製造方法は、希土類金属の硝酸化物を水溶液にしたものと、Al、Si、Kを規定量ドープしたタングステンの粉末と、純水とを規定量、磁製皿の中で混ぜ合わせ、乾燥させる他は、上述した製造方法と同様である。
【0049】
また、加工率が80%以上である電極部材131を使用することにより、さらに電極部材131の消耗、変形を抑制でき、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することが可能となる。以下、この点について説明する。
【0050】
上述の加工率は、焼結体から電極形状に加工する際の加工する割合を示しており、焼結体の断面積をS1とし、電極部材131の断面積をS2としたとき、[(S2−S1)/S1]×100(%)で示される量である。この加工率は、エミッタ材の電極部材131中への分散及び、電極部材131の先端に生成される結晶の大きさL/Wに影響を及ぼすものである。すなわち、加工率が高いほど、焼結体の状態から電極形状への加工が進むにつれて、タングステンマトリックス中で細かく砕かれていき、微細に分散するようになるため、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され易くなる。さらに、加工率が高いほど、焼結体の状態から電極形状への加工などにより、電極部材131に負荷される熱エネルギーが増し、このエネルギーが溶融したタングステンの再結晶の駆動エネルギーとなるため、L/Wの大きな結晶が生成され易くなり、電極部材131の表面にエミッタ材が供給され易くなる。従って、加工率が高い電極部材131を使用することが望ましく、具体的には80%以上の電極部材131を使用することが望ましい。
【0051】
以上に示したように、本発明の高圧放電ランプ11によれば、電極部材131の消耗、変形を抑制することができ、気密性容器12の黒化、白濁を抑制することができる。
【0052】
以下に、上述した高圧放電ランプ11の具体的な実施例を示す。
【実施例1】
【0053】
実施例1に係る高圧放電ランプ11は、体積%が0.6%、平均粒径3μmのCe2O3を含有したタングステン製の電極部材131を、気密性容器12の両端に備えたメタルハライドランプ11である。容器12の内部には、Hg、Fe、Sn、HgI2を封入した。さらに封入ガスとしてArを封入した。このランプにおいて、気密性容器12は、紫外線透過性の高い石英管からなり、外径φが27.5mm、発光長が1000mmの仕様のものである。
【0054】
このメタルハライドランプ11を、定格電圧が1310V、定格電流が12.2A、定格電力が16kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。その結果、電極部材131の消耗、変形は抑制され、気密性容器12の黒化、白濁も抑制された。
【実施例2】
【0055】
実施例2に係る高圧放電ランプ11は、体積%が3.0%、平均粒径3μmのLa2O3を含有したタングステン製の電極部材131を、気密性容器12の両端に備えたメタルハライドランプ11である。容器12の内部には、Hg、TlI、NaIを封入した。さらに封入ガスとしてNe−Arの混合ガスを封入した。このランプにおいて、気密性容器12は、光透過性の高い石英管からなり、外径φが84mm、発光長が1430mmの仕様のものである。さらに気密性容器12は、この容器12の外径より大きなφ120mmからなる外観に封装された2重構造である。
【0056】
このメタルハライドランプ11を、定格電圧が1925V、定格電流が23.4A、定格電力が44kWで定格点灯させた。そして、500時間後の気密性容器12の両端の黒化、白濁状態を観測した。その結果、電極部材131の消耗、変形は抑制され、気密性容器12の黒化、白濁も抑制された。
【0057】
以上に、本発明の高圧放電ランプ11について説明した。しかし本発明は、上述した各実施例に限定されるものではない。
【0058】
例えば、電極部材131に添加するエミッタ材は、希土類の酸化物を2種類以上含有させてもよい。この場合であっても、希土類元素単体の量の合計が上述した範囲に含まれるように含有させれば、同様の効果を得ることが可能である。
【0059】
また、ドープ材を2種または3種用いる場合であってもその合計量が0.001〜0.01質量%の範囲内であれば、同様の効果を得ることが可能である。
【0060】
また、上述の気密性容器12の内部には、放電媒体として、希ガス、水銀、メタルハライドがいずれも含まれた。しかし、本発明は、希ガス及び水銀または、希ガス及びメタルハライドが放電媒体として気密性容器12の内部に含まれる高圧放電ランプ11であっても、適用することができる。
【0061】
また、上述の交流放電方式の各高圧放電ランプ11において、エミッタ材の濃度およびエミッタ材の平均粒径を上述のように限定することにより、黒化・白濁を抑制できることがわかった。これは、エミッタ材として上述のような物質を用いることにより、電極部材131の温度が上昇することを抑制することができたためである。従って、上述の各高圧放電ランプ11において示した電極部材131を、直流放電方式の高圧放電ランプの陰極に応用することも可能である。
【符号の説明】
【0062】
11・・・高圧放電ランプ
12・・・気密性容器
13・・・コイル巻装電極
131・・・電極部材
132・・・コイル
133・・・電極箔
14・・・ソケット
15・・・外部リード
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された放電管と、
この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、
を有し、
前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記エミッタ材を含有する放電電極の先端のタングステン結晶は、この電極の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたときのL/Wが、3.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記エミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
前記エミッタ材は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)の酸化物のうち、少なくとも1種類以上で構成されることを特徴とする請求項3に記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
前記エミッタ材は、さらにアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)のうち、少なくとも1種類を0.001〜0.01質量%含有することを特徴とする請求項4に記載の高圧放電ランプ。
【請求項6】
前記放電管内に、さらにハロゲン化金属が含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高圧放電ランプ。
【請求項7】
紫外線透過性の材料からなり、少なくとも水銀及び希ガスが封入された放電管と、
この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、
を有し、
前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項8】
前記エミッタ材を含有する放電電極の先端のタングステン結晶は、この電極の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたときのL/Wが、3.0以上であることを特徴とする請求項7に記載の高圧放電ランプ。
【請求項9】
前記エミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることを特徴とする請求項8に記載の高圧放電ランプ。
【請求項10】
前記エミッタ材は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)の酸化物のうち、少なくとも1種類以上で構成されることを特徴とする請求項9に記載の高圧放電ランプ。
【請求項11】
前記エミッタ材は、さらにアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)のうち、少なくとも1種類を0.001〜0.01質量%含有することを特徴とする請求項10に記載の高圧放電ランプ。
【請求項12】
前記放電管内に、さらにハロゲン化金属が含有されていることを特徴とする請求項7に記載の高圧放電ランプ。
【請求項1】
紫外線透過性の材料からなり、少なくとも希ガスが封入された放電管と、
この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、
を有し、
前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記エミッタ材を含有する放電電極の先端のタングステン結晶は、この電極の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたときのL/Wが、3.0以上であることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記エミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることを特徴とする請求項2に記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
前記エミッタ材は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)の酸化物のうち、少なくとも1種類以上で構成されることを特徴とする請求項3に記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
前記エミッタ材は、さらにアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)のうち、少なくとも1種類を0.001〜0.01質量%含有することを特徴とする請求項4に記載の高圧放電ランプ。
【請求項6】
前記放電管内に、さらにハロゲン化金属が含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高圧放電ランプ。
【請求項7】
紫外線透過性の材料からなり、少なくとも水銀及び希ガスが封入された放電管と、
この放電管内の両端に、それぞれ一端を含むように設けられた2つの放電電極と、
を有し、
前記2つの放電電極の少なくとも一方は、タングステンを基材とし、この基材に少なくとも1種以上の希土類元素の酸化物を希土類元素の金属単体量に換算して0.5〜5.0体積%の濃度のエミッタ材を含有する放電電極からなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項8】
前記エミッタ材を含有する放電電極の先端のタングステン結晶は、この電極の長手方向を長軸(L)、この電極の断面方向を短軸(W)としたときのL/Wが、3.0以上であることを特徴とする請求項7に記載の高圧放電ランプ。
【請求項9】
前記エミッタ材の平均粒径は、3μm未満であることを特徴とする請求項8に記載の高圧放電ランプ。
【請求項10】
前記エミッタ材は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ユーロピウム(Eu)、プロセオジム(Pr)の酸化物のうち、少なくとも1種類以上で構成されることを特徴とする請求項9に記載の高圧放電ランプ。
【請求項11】
前記エミッタ材は、さらにアルミニウム(Al)、珪素(Si)、カリウム(K)のうち、少なくとも1種類を0.001〜0.01質量%含有することを特徴とする請求項10に記載の高圧放電ランプ。
【請求項12】
前記放電管内に、さらにハロゲン化金属が含有されていることを特徴とする請求項7に記載の高圧放電ランプ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【公開番号】特開2009−259790(P2009−259790A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61604(P2009−61604)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000111672)ハリソン東芝ライティング株式会社 (995)
【Fターム(参考)】
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