説明

高圧放電ランプ

本発明に係る高圧放電ランプは、発光管1の放電容器2内に対向して配置された電極3、3の先端部が略半球状に成形されて、その先端部にアークスポットとなる突起物10が形成される高圧放電ランプであって、アークスポットがサイクリックに移動するアークジャンプ現象の発生を確実に防止するために、電極3、3間の距離L(mm)と安定点灯時のランプ電流I(A)との関係式:0.3≦L/I≦1.0、放電容器2内に封入する臭化物の臭素のモル量X(mol)と放電容器2の内容積Y(ml)との関係式:1.2×10−7≦X/Y≦1.1×10−5、電極3の略半球状に成形された先端部のタングステン重量W(mg)とランプ電流I(A)との関係式:9≦W3/2/I≦65をすべて充足すると共に、安定点灯時における矩形波点灯周波数を45Hz以上とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、水銀、臭化物及び希ガスを封入した発光管の放電容器内にタングステンで成る一対の電極が対向して配置された高圧放電ランプに係り、特に、互いに対向する両電極の先端部が各々略半球状に成形され、その先端部に電極間の放電によってアークスポットとなる突起物が形成されるショートアーク型の高圧放電ランプに関する。
【背景技術】
投射型液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ等の投射型画像表示装置に設けるバックライトは、矩形状のスクリーンに対して充分な輝度、効率及び演色性を以って均一に画像を投射することが要求されるため、その光源として、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ等の高圧放電ランプが用いられている。
この種のランプとしては、タングステンで成る一対の電極が対向して配置された発光管の放電容器内に、発光物質である水銀と、電極から蒸発して放電容器の内面に付着したタングステンを電極に戻すハロゲンサイクル作用を奏して発光管の黒化を抑制する臭化物等のハロゲン化合物と、点灯始動用補助ガスとなるアルゴン、クリプトン、キセノン等の希ガスとを封入したものが一般的であるが、点光源に近い高輝度光源とするために電極間距離を短くしたショートアーク型の高圧放電ランプは、電極の先端部の温度が過度に上昇するため、タングステンの溶融・蒸発作用が著しくなって、電極の先端部が変形したり損耗すると同時に、蒸発したタングステンが放電容器の内面に付着して生ずる発光管の黒化が早期に進行し、ランプ寿命が短くなるという問題があった。
また、電極間距離を短くすると、ランプの点灯初期には電極の先端部の中心付近に形成されていたアークスポット(電極の陰極動作時に電子電流が放射される箇所)が、点灯時間の経過に伴って点灯初期とは異なった位置にサイクリック(点灯周期毎)に移動するというアークジャンプ現象が発生し、僅か100時間程度の点灯で投射型画像表示装置のスクリーン照度が30%程度も低下したり、そのスクリーン画面上に輝度変動による不快なチラツキを生ずることがある。
すなわち、投射型画像表示装置のバックライトの光源として用いる高圧放電ランプは、発光管の管軸と、その発光管から放射される光を反射させる凹面反射鏡の中心軸とを一致させる光軸合わせが予めなされているが、上記のようなアークジャンプ現象が発生すると、アークスポットが点灯周期毎に光軸から外れて無秩序に移動するため、スクリーン画面上に輝度変動による不快なチラツキを生ずると同時に、スクリーン照度の低下を招くという問題があった。
上記のような問題に鑑み、日本国特開2001−312997号、同2001−325918号及び同2002−83538号には、電極を形成するタングステンの溶融・蒸発作用を抑制するために、電極の先端部を太くして熱容量を大きくすると同時に、アークジャンプ現象の発生を抑制するために、電極の先端部を略半球状に成形してアークスポットが生ずる箇所を球面状の凸面に形成する技術が開示されている。
また、上記特開2001−312997号には、先端部が略半球状に成形された一対の電極間に交流を一定時間通電してアーク放電を生じさせ、その放電により両電極の先端部にアークスポットとなる突起物を予め形成することによって、電極の先端部の熱容量を増大させると同時に、アークジャンプ現象の発生を防止しようとする技術が開示されている。
しかしながら、この技術の作用効果について実験・研究したところ、ランプの点灯波形や点灯周波数、発光管の放電容器内に封入する臭化物の臭素濃度、電極間距離とランプ電流の大きさ、電極の略半球状に成形された先端部におけるタングステン重量等の諸条件を適正に調整しなければ、ランプの点灯から僅か数分で電極の先端部に形成されていたアークスポットとなる突起物が消失してアークジャンプ現象が早期に発生したり、あるいはその突起物が異常に成長して電極間距離が短くなり、ランプ電圧が早期に低下して照度低下を招くなどの不具合が発生し、更に、電極先端部の変形、損耗や、発光管の早期黒化等も生ずるがことが判明した。
そこで本発明は、高圧放電ランプにおける上記のような諸条件を適正に調整することによって、電極先端部の変形、損耗や、発光管の早期黒化を防止すると同時に、電極の先端部に形成したアークスポットとなる突起物の消失や異常な成長を抑止して、アークジャンプ現象の発生を確実に防止し、高圧放電ランプを光源とする投射型画像表示装置のスクリーン画面にチラツキが生じたり、そのスクリーン照度が低下することを防止することを目的としている。
【発明の開示】
本発明は、水銀、臭化物及び希ガスを封入した発光管の放電容器内にタングステンで成る一対の電極が対向して配置され、両電極の先端部が各々略半球状に成形されて、その先端部に電極間の放電によりアークスポットとなる突起物が形成される高圧放電ランプにおいて、両電極の電極間距離をL(mm)、安定点灯時におけるランプ電流をI(A)、発光管の放電容器内に封入する臭化物の臭素のモル量をX(mol)、発光管の放電容器の内容積をY(ml)、各電極の略半球状に成形された先端部のタングステン重量をW(mg)としたときに、次式1〜3の条件を充足すると共に、
式1: 0.3≦L/I≦1.0
式2: 1.2×10−7≦X/Y≦1.1×10−5
式3: 9≦W3/2/I≦65
安定点灯時における矩形波点灯周波数が45Hz以上であることを特徴とする。
本発明による高圧放電ランプは、対向する電極の先端部が各々略半球状に成形されているので、電極間距離が最も短い電極の最先端箇所にアークスポットとなる突起物が形成されることとなる。
そして、本発明者の実験によれば、L/Iの値が0.3未満の場合は、電極の先端部が損耗してランプ電圧が早期に上昇するため、安定した放電が得られなくなり、一方、L/Iの値が1.0を超えると、電極の先端部に形成されたアークスポットとなる突起物にハロゲンサイクル作用によりタングステンが過剰に付着堆積してその突起物が異常に成長するため、電極間距離が短くなってランプ電圧が早期に低下し、ランプ電力不足による照度低下を招いてしまうが、そのL/Iの値を0.3〜1.0の範囲内に選定すれば、電極先端部の損耗や、アークスポットとなる突起物の異常な成長を抑制することができる。
また、X/Yの値が1.2×10−7未満の場合は、発光管の黒化が早期に進行し、その値が1.1×10−5を超えると、略半球状に成形された先端部を支えている電極の根元部分が早期に痩せ細って、電極落下が発生しやすくなるが、X/Yの値を1.2×10−7〜1.1×10−5の範囲内に選定すれば、発光管の早期黒化と電極落下を防止することができる。
また、W3/2/Iの値が9未満の場合は、電極の先端部が早期に損耗して急激なランプ電圧の上昇を招き、その値が65を超えると、ランプの始動性能が悪化すると共に、電極の先端部に形成されたアークスポットとなる突起物が、縮小もしくは消失したり、あるいは複数形成されたりして、アークスポットが移動するアークジャンプ現象を生ずるおそれがあるが、W3/2/Iの値を9〜65の範囲内に選定すれば、突起物の形状や大きさがさほど変化しないのでアークジャンプ現象を生ずるおそれがなく、電極の先端部が早期に損耗するおそれもない。
更に、ランプを矩形波で点灯しなければ、電極間にグロー放電を生ずる時間が存在するので発光管の黒化を招き、また、ランプの安定点灯時における点灯周波数が45Hz未満の場合は、電極の陰極動作時における冷却時間が長いために、電極の先端に形成されたアークスポットとなる突起物が異常に成長して電極間距離が短くなり、ランプ電圧が早期に低下してランプ電力不足による照度低下を招くが、矩形波で点灯させ、その矩形波点灯周波数を45Hz以上とすれば、発光管の早期黒化とアークスポットとなる突起物の異常な成長を防止することができる。
また、本発明は、安定器の小型化を可能とし、ランプの高輝度・高効率・高演色性を実現し、発光管の破裂を防止するために、発光管の放電容器内に封入する水銀量が、放電容器の単位内容積(ml)当り130〜290mgに選定されている。
すなわち、発光管の放電容器内における平均ガス温度を2000Kとして、ランプ点灯中における放電容器の内圧を気体の状態方程式により算出すると、発光管の放電容器内に封入する水銀量が130mg/ml未満の場合は、その放電容器の内圧は計算上100気圧程度となるが、100気圧付近では水銀の二原子分子が8%程度存在するので、実質上は100気圧以下となるため、ランプ電圧が低くなってランプ電流を多く流す必要があることから、安定器の小型化を図ることが困難となる。また、100気圧以下では、電極間に生ずるアークの径方向の拡がりを充分に抑えることができず、太くて光出力の弱いアークとなるため、ランプと凹面反射鏡とを組み合わせても大した照度は得られず、好ましい光色も得られないので、高輝度・高効率・高演色性を実現することができない。一方、水銀量が290mg/mlを超えると、ランプ点灯中における放電容器の内圧は計算上240気圧程度となり、200気圧付近では水銀の二原子分子が15%程度存在することを考慮しても、実質200気圧以上に達するので、発光管によってはその耐圧強度を超えて破裂を生ずる危険性がある。
そこで本発明は、ランプの点灯中における発光管の放電容器の内圧が実質的に100〜200気圧の範囲内に納まるようにするため、発光管の放電容器内に封入する水銀量を130〜290mg/mlの範囲に選定している。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る高圧放電ランプの一例を示す図、第2図は本発明に係る高圧放電ランプに用いる電極の加工形状と加工前の形状を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明の最良の実施形態を添付の図面によって説明する。
第1図に例示した高圧放電ランプは、定格電力120wの高圧水銀放電ランプであって、発光管1の中央部を球状に膨出させて成る放電容器2内には、タングステンで成る一対の電極3、3が対向して配置されると共に、発光物質である水銀と、ハロゲンサイクル作用を奏するハロゲン化合物である臭化水素と、ランプ点灯始動用補助ガスとなる希ガスのアルゴンガスが封入されている。
なお、発光管1の放電容器2の内容量(Y)は約0.06ml、その放電容器2内に封入する水銀量は13mg(単位内容積当り:213mg/ml)、臭化水素の臭素のモル量(X)は3.0×10−7mol/ml、アルゴンガスの封入量は1.6×104Pa(常温時)にそれぞれ選定されている。
発光管1は、溶融石英で成り、その放電容器2は、最大外径9.4mm、最大内径4.8mmに成形され、電極3、3を埋設して固定する放電容器2の両端には、その両端を気密にシールする封止部4、4が形成されている。
封止部4、4には、それぞれ各電極3の根元部と、その根元部に接続した長さ20mmのモリブデン箔5と、該モリブデン箔5に接続した線径0.5mmのモリブデン線6とが埋設されている。
各電極3は、まず、図2(a)に示すように、高純度タングステンで成る外径0.3mm、長さ7.0mmの電極棒7の先端部に、高純度タングステンで成る外径0.22mmのコイル8が、電極棒7の先端部を1mmだけ露出させるようにしてその後端側から先端側へ7ターン密巻きされた後、その上に連続的に重ね巻きするように先端側から後端側へ5ターン密巻きされて、内巻き部分t1と外巻き部分t2とを有する二重巻きコイルの状態とされる。次いで、各電極3の電極棒7の先端部にアークプラズマやレーザあるいは電子ビーム等による加熱溶融加工を施して、その先端部とコイル8の一部が、コイル8の外巻き部分t2を約2〜3ターン残す所まで加熱溶融され、その加熱溶融部分が球状になろうとする表面張力現象によって、図2(b)に示すように、各電極3の先端部が略半球状に成形されると同時に、略半球状に成形される電極先端部の嵩比重が、タングステンの理論密度〔19.3〕の93%以上、すなわち密度18.0以上となるように加工されている。
この加工によって、各電極3の全長は約6.7mmとなり、その先端部の略半球状を成す部分のタングステン重量(W)は約10mgとなる。
そして、斯く加工された一対の電極3、3を発光管1の放電容器2内に対向して配置させて封止部4、4に固定し、発光管1を水平状態にして、矩形波周波数150Hzの矩形波型電子安定器9により、ランプ電力120W、ランプ電圧90V、ランプ電流(I)約1.3Aの条件でランプに通電して、発光管1の放電容器2の下部外表面温度が850〜900℃となるように保温しながら約2時間点灯させると、電極3、3間の放電により、その放電アークが生ずる各電極3の先端部の最先端箇所にタングステンが集積して、図2(b)破線図示の如く、最大太さ約0.015mm、長さ約0.1mm程度の突起物10が形成され、この突起物10がアークスポットとなる。
また、この突起物10が各電極3の先端部に形成されることによって、最終的に電極間距離(L)が約1.0mmとなるように設計されている。
このようにして完成した高圧放電ランプは、点灯時間が数千時間経過しても、電極3、3の先端部に形成された突起物10が縮小もしくは消失したり、異常に成長したりすることがなく、その突起物10の形状や長さが略一定に保持されるので、アークスポットが無秩序に移動してアークジャンプ現象を生ずるおそれがないと同時に、電極間距離が短くなってランプ電圧が早期に低下するおそれもない。
したがって、このランプを投射型画像表示装置の光源として用いれば、アークジャンプ現象によるスクリーン画面のチラツキやスクリーン照度の低下を生ずる不具合が確実に解消される。
【産業上の利用可能性】
以上のように、本発明に係る高圧放電ランプは、電極の陰極動作時に電子電流が放射される箇所であるアークスポットがサイクリックに移動するアークジャンプ現象を生ずるおそれがないので、投射型液晶ディスプレイや液晶プロジェクタ等の投射型画像表示装置に設けるバックライトの光源として有用性の高いものである。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水銀、臭化物及び希ガスを封入した発光管の放電容器内にタングステンで成る一対の電極が対向して配置され、両電極の先端部が各々略半球状に成形されて、その先端部に電極間の放電によりアークスポットとなる突起物が形成される高圧放電ランプにおいて、
両電極の電極間距離をL(mm)、
安定点灯時におけるランプ電流をI(A)、
発光管の放電容器内に封入する臭化物の臭素のモル量をX(mol)、
発光管の放電容器の内容積をY(ml)、
各電極の略半球状に成形された先端部のタングステン重量をW(mg)
としたときに、次式1〜3の条件を充足すると共に、
式1: 0.3≦L/I≦1.0
式2: 1.2×10−7≦X/Y≦1.1×10−5
式3: 9≦W3/2/I≦65
安定点灯時における矩形波点灯周波数が45Hz以上であることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
発光管の放電容器内に封入する水銀量が、放電容器の単位内容積(ml)当り130〜290mgである請求の範囲1記載の高圧放電ランプ。

【国際公開番号】WO2004/027817
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537495(P2004−537495)
【国際出願番号】PCT/JP2002/009118
【国際出願日】平成14年9月6日(2002.9.6)
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)
【Fターム(参考)】