説明

高圧放電処理したポリオレフィンと芳香族ポリエステル樹脂からなる重合体アロイ

【課題】優れた機械物性を有し、かつ無水マレイン酸変性物等の反応性相溶化剤を用いず溶融混練するのみのクリーンで比較的安価な方法により、ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂との重合体アロイを提供。
【解決手段】ポリオレフィン重合粉末を窒素を含む雰囲気下で高圧放電の場において処理したのち、前記ポリオレフィン粉末と液晶ポリマー又は芳香族ジカルボン酸類とジオール類との縮合反応により得られる芳香族ポリエステル樹脂とを溶融混練して得られることを特徴とする重合体アロイ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非相容のポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の2種類のポリマーをドライプロセスでアロイ化し、新規性能を有する比較的安価に製造できる重合体アロイに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステル系樹脂は、優れた耐熱性、ガスバリア性、透明性、電気的性質から、繊維、フィルム、ボトル等の用途に幅広く使用されている。とりわけ、熱可塑性ポリエステル、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)やポリエチレンテレフタレート(PET)は優れた寸法安定性、耐熱性および耐薬品性を有し、電気、電子および自動車分野で使用されている。しかし、成形操作中の高温でポリマーの分子量が減少し、耐衝撃性が低下する。さらに、ポリエステルはノッチ付の部品では破断抵抗性が不十分であるのが現状である。
一方、液晶ポリマーは、剛直な分子骨格を有しており、溶融状態で液晶を形成するため、成形時に加わる剪断応力によって容易に配向し、成形品は、高強力、高弾性率を示すとともに、優れた耐衝撃性を有し、線膨張率が小さいという特長を有している。このような液晶ポリマーの特徴を活かすため、非液晶ポリマーと混合して成形することにより、非液晶ポリマーを改質しようとする試みが種々なされている。しかし、ポリオレフィンと液晶ポリマーとは相溶性が悪く、ポリオレフィンに液晶ポリマーを配合しても機械的特性の優れたポリオレフィン系樹脂組成物は得られないのが現状である。
【0003】
これらの欠点を克服すべく、各種のアロイが検討されており、更には、アロイの際の異型押し出し特性の改良も試みられている。例えば、ポリエステル樹脂に、エチレン・(メタ)アクリル酸アルキルエステル・(メタ)アクリル酸グリシジル共重合体やエチレン性不飽和結合含有カルボン酸、その無水物または誘導体をグラフト変性したエチレン共重合体等を併用する組成物(例えば、特許文献1、2参照。)が提案されている。また、液晶ポリエステル樹脂に、石油ロジンを併用したり(例えば、特許文献3参照。)、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸、その無水物または誘導体をグラフト変性したポリプロピレン樹脂を併用する組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。
しかしながら、これらの手法は、添加剤がモノマーであったり、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ピロメリット酸、無水マレイン酸等の刺激性モノマーを用いて変性を行うので、これらのモノマーが残存する可能性があるばかりでなく、その変性反応操作が煩雑でクリーン性にかけるといった欠点があった。
【0004】
一方、プラズマ処理による高分子表面改質による技術分野への応用も平行して数多く試みられている(例えば、非特許文献1参照。)。そこでは、接着性改善、親水化などの固体表面の改質が対象である。例えば、ポリプロピレフィルムを連続的に巻き取りながら窒素気流中でコロナ放電処理し、フィルム表面の10nm厚にわたり、アミノ型、イミノ型窒素を導入して印刷適性を付与する方法(例えば、特許文献5参照。)、ポリプロピレンフィルム表面に印刷適性を付与する窒素気流中でのコロナ放電処理(例えば、特許文献6、7参照。)があるが、ポリオレフィン粉末を処理対象とする記載はない。さらに、大気圧下のプラズマ放電による無機、有機粉体のグロー放電表面処理において、流入する不活性気体に選択した有機化合物を気化混合して粉体表面を親水性、あるいは疎水性にする方法(例えば、特許文献8参照。)が開示されているが、固体表面の機能の付与に限られており、処理粉末をさらに融点以上の温度で溶融して形状を消滅させ、窒素官能基を三次元空間において他のポリマーのカルボキシル基と反応させアロイ化する記戴はない。
さらにまた、学術的には、ポリプロピレンを含む各種ポリマー表面に窒素ガス気流中のプラズマ処理によりアミノ基を導入し、アミノ基を介して抗血液凝固機能のあるヘパリンを導入した例(例えば、非特許文献2参照。)があるが、それらをポリマーアロイに用いた記載はない。
【特許文献1】特開2005−247970号公報
【特許文献2】特公昭63−4566号公報
【特許文献3】特開2001−64449号公報
【特許文献4】特開平10−158437号公報
【特許文献5】特開昭53−66973号公報
【特許文献6】特開昭55−137136号公報
【特許文献7】特開昭55−137137号公報
【特許文献8】特開平4−135638号公報
【非特許文献1】理研報告、第63巻、第2号、44頁
【非特許文献2】J.R.Hollahanら、J.Appl.Polym.Sci.Vol.13,pp807−816(1969))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、優れた機械物性を有し、かつ無水マレイン酸変性物等の反応性相溶化剤を用いず溶融混練するのみのクリーンで比較的安価な方法により、ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の重合体アロイを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく鋭意検討した結果、窒素を含む雰囲気下で高圧放電で処理したポリオレフィン重合粉末と液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂とを溶融混練することにより、非相容であるポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の2種類の成分ポリマーをマレイン酸変性体のような反応性相容化剤を用いないで、ポリマーアロイを製造することができることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ポリオレフィン重合粉末を窒素を含む雰囲気下で高圧放電の場において処理したのち、前記ポリオレフィン粉末と液晶ポリマー又は芳香族ジカルボン酸類とジオール類との縮合反応により得られる芳香族ポリエステル樹脂とを溶融混練して得られることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0008】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体からなる群から選ばれる一又は二以上のポリオレフィンであることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0009】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、芳香族ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選ばれる一又は二以上のポリエステル樹脂であることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0010】
また、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、液晶ポリマーが、芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニルから選ばれる構造単位を有する液晶性ポリエステルであることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0011】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、高圧放電の場において処理されたポリオレフィン粉末のX線光電子分光分析法によるN1sスペクトルの強度とC1sスペクトルの強度比が、0.1以上であることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0012】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、重合体アロイが、ポリオレフィン25〜99容量%と液晶ポリマー又は芳香族ジカルボン酸類とジオール類との縮合反応により得られる芳香族ポリエステル樹脂1〜75容量%とからなることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0013】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、窒素を含む雰囲気が、窒素、窒素とヘリウム若しくは水素の少なくとも一つとの混合ガス、またはこれにアンモニアを加えた混合ガスの雰囲気であることを特徴とする重合体アロイが提供される。
【0014】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、高圧放電の場において処理する工程を減圧、常圧又は加圧下で行うことを特徴とする重合体アロイが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の重合体アロイは、ポリオレフィン重合粉末を窒素を含む雰囲気下で高圧放電の場において処理しているので、非相容であるポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂を溶融混練で比較的安価な手段によりアロイ化によって得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、ポリオレフィン重合粉末を窒素を含む雰囲気下で高圧放電処理したのち、液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂と溶融混練して得られる重合体アロイである。以下に、本発明の重合体アロイに用いる重合体のポリオレフィン、その高圧放電処理、芳香族ポリエステル樹脂、液晶ポリマー、得られた重合体アロイについて詳細に説明する。
【0017】
1.重合体
(1)ポリオレフィン
本発明に使用されるポリオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ビニルシクロヘキセン、ブタジエン、ヘキサジエンなどのα−オレフィン等の単独重合体、二以上のα−オレフィン間の共重合体、一又は二以上のα−オレフィンと他の共重合可能なモノマー、たとえば、ノルボルネン、スチレン、ジビニルベンゼンとの共重合体等公知のものが特に制限なく使用される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体等から選ばれる一又は二以上の樹脂などを挙げることができる。なかでも得られる重合体アロイの組織構造と力学物性を勘案すると、エチレンおよびプロピレンの単独重合体、エチレンおよびプロピレンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体、およびそれらの混合物が好適である。
【0018】
上記のα−オレフィンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体は、一般にα−オレフィン、特にエチレン、またはプロピレンを90%以上含み、他の共重合可能なモノマーを10%以下を含む共重合体粉末が好適である。また、上記共重合可能なモノマーも特に制限されず公知のものを使用できるが、一般には炭素原子数2〜8のα−オレフィン、特にエチレンに対してはプロピレン、ブテン、あるいはヘキセン、プロピレンに対してはエチレンおよびブテンが好適である。
【0019】
ポリオレフィン重合粉末を用いることにより、窒素を主体とする特定気体雰囲気で高電圧放電によりポリオレフィン粉末の表面にとどまらず、粉末内部の一次微細粒子間隙にまで官能基の導入が及ぶ。窒素を含む気体中の放電により窒素原子含有官能基は、ポリオレフィン粉末の空間内部に導入され、これが混練り機内の環境で溶融してメルト空間に分布し、同じく溶融した液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の末端のカルボキシル基とグラフト反応して、新規組織構造をもつアロイを与えることが期待できる。
【0020】
本発明においてポリオレフィン重合粉末を使用することは、本発明の重合体アロイの実現にとって重要な前提条件である。選択した気体雰囲気で高分子固体表面を高圧放電の場で照射することにより、活性化した励起原子、分子、励起イオンによる高分子固体表面への各種官能基の導入にかかわる1960年代からの学術的知見はあるが、これらは接着性の改善、印刷適性の向上などの固体表面にかかわる高分子加工技術であった。プラズマ処理による化学変化は、表面から50〜100nmの厚さに限られると理解されていたからである。
計算で例示すれば、10μm厚のポリオレフィンフィルムの表面を高圧放電処理によって100nm厚にプラズマ処理効果があったとすれば、処理ポリオレフィン(窒素官能基の導入されたポリオレフィン)の容積分率は1%で、未処理ポリオレフィンは99%である。これに対し、本発明ではプラズマ処理によって10%以上の処理ポリオレフィン容積分率を達成できる。
ポリオレフィン重合粉末は、表面から内部にわたり多くの孔隙を持ち、プラズマ処理を受ける気相が接触して反応する界面の面積は一粉末あたり広大になるからと考えられる。
【0021】
本発明において高圧放電下で処理するポリオレフィン重合粉末の一次粒子の平均粒子径は、5mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以下、更に好ましくは1mm以下である。一次粒子の平均粒子径が5mmを超えると改質される重合体粉末の比表面積が減少する傾向がある。
【0022】
高圧放電は、従来公知の方法、条件、装置で行うことができる。例えば、高圧放電処理による励起は、原料を室温〜300℃程度の温度域で行う(以下、高圧放電処理をプラズマ処理または低温プラズマ処理という場合がある。)。プラズマ流体を得るためには、電磁気的な励起源を使用する。プラズマ発生の条件は、気体の種類、気体圧力、励起電圧、励起電流、励起電源周波数、電極形状などに応じて、適宜選択することができる。
【0023】
プラズマを発生させるための電磁気は、直流および交流のどちらであっても良く、電極の材質、形状などは、投入される電磁気の形態に応じて選択される。交流としては、50〜60Hz程度、1〜10KHz程度の低周波および10〜数GHz程度の高周波などが通常使用される。工業的な高周波としては、13.56MHz、40MHz、915MHz、2.45GHzなどが一般的に使用される。電極材料としては、ステンレス鋼、アルミニウムおよびその合金、普通鋼などが通常使用され、その形状は、容量結合型、平行平板型、ホローカソードタイプ、コイル状などから選択される。
【0024】
プラズマ法において使用する気体に関しては、その特性によりプラズマ状態を形成し難いものもあるが、この様な場合にも、励起電磁気の投入量を増加させることにより、プラズマ状態を形成することは可能である。
プラズマ法における気体圧力は、投入する励起電磁気量との関連で選択する必要がある。すなわち、気体圧力が高い程、気体分子数が多くなり、個々の気体分子を励起するための必要エネルギーも大きくなるので、大きな励起電磁気量が必要となる。例えば、気体圧力が10気圧以上の加圧条件下においても、プラズマを発生させることは可能である。ただし大電力電源が必要となり、設備コストが著しく高くなる点に留意する。また、励起電圧および励起電流が高い程、多くのプラズマ粒子を発生させることができるが、投入する電気エネルギーが高すぎる場合あるいは圧力が低すぎる場合には、気体への電磁エネルギーの伝達が円滑に行われ難くなって、電極間での放電が起こり、十分なプラズマ粒子が発生しなくなる点にも留意する。一方、気体圧力が低い場合には、比較的小さな投入歴電磁気量でプラズマが発生する。ただし圧力が低すぎる場合には、十分な量のプラズマが得られなくなる点に留意する。これらの諸要因を考慮して、本発明においては、プラズマ発生時の気体圧力は、常圧〜減圧の範囲とすることが好ましい。
【0025】
低コストで簡便にプラズマを発生させる方法の一例として、窒素を含む気流を10−1Pa〜数十kPaの減圧状態とし、13.56MHzの高周波電源を使用して数百Wの電力をコイル状電極に投入することにより、所望のプラズマを形成させることができる。
【0026】
本発明においては、高圧放電処理は、窒素を含む雰囲気下で行う必要がある。窒素を含む雰囲気としては、窒素、窒素とヘリウム若しくは水素の少なくとも一つとの混合ガス、またはこれにアンモニアを加えた混合ガスの雰囲気であることが好ましい。
混合ガスの場合には、ガス組成は窒素/ヘリウム=40〜60/60〜40(vol%/vol%)、窒素/水素=40〜60/60〜40(vol%/vol%)、窒素/ヘリウム/アンモニア=40〜60/30〜50/5〜20(vol%/vol%/vol%)、窒素/水素/アンモニア=40〜60/30〜50/5〜20(vol%/vol%/vol%)が好ましい。
【0027】
本発明における具体的な低温プラズマ処理の一例としては、圧力計をそれぞれ設置した真空系と窒素ガス供給系とに接続したガラスフラスコにポリオレフィン粉末2gを装填し、一昼夜排気したのち、窒素ガスを0.2Torrの圧力に保持して流入する。フラスコの外部に両電極を置き、規制された周波数13.56MHzで100Wattの放電電力でプラズマ処理をおこなう。この間、フラスコは気密状態のまま75rpmで回転し、粉末を一様な条件で処理する。放電処理量は照射時間で規定する。常圧コロナプラズマ処理は、春日電機製のプラスチックフィルム連続巻き取りコロナ放電処理機の放電設備を転用し、一辺15cmの金属両電極の面に厚さ3mmの耐熱ガラスを置き、両ガラスの間隔5mmの空間に処理粉末を置く。処理室の四壁は5mm厚のポリメタクリル酸メチルで外気から遮断し、對壁にはそれぞれ窒素ガス導入と排出のための挿入管を置き、コックを調節して窒素ガスを流入させる。放電電力は100Wattとし、コロナ放電の状態が均一でないときには、ヘリウムガスを混合ガスとして流入し、場合によりアンモニアガスも添加させることができる。
【0028】
本発明で用いる高圧放電処理されたポリオレフィン粉末は、ポリオレフィン中に窒素官能基が導入され、X線光電子分光分析法(ESCA)によるN1sスペクトルの強度とC1sスペクトルの強度比(N1s/C1s)が0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.13以上であり、さらに好ましくは0.16以上である。N1s/C1s比が0.1未満であるとポリオレフィンに導入した窒素官能基が少ないために重合体アロイの力学的性質が充分に発現できないので好ましくない。
ここで、ESCAによるポリマー表面に導入されたN1s、O1sピークの分析は、ポリエチレンを含む各種ポリマー表面について1970年代以降に数多く行われている(H.Yasudaほか、J.Polym.Sci.:Polymer Chem.Edi,Vol.15,pp.991−1019(1977)ほか)方法により行い、ESCAスペクトルの測定は、島津ESCA750を用いて行う。
【0029】
ポリオレフィン粉末を上記のようなプラズマ処理した結果を図で説明する。
図1は、プラズマ処理したポリエチレンと未処理のポリエチレンのC1sスペクトル、N1sスペクトル、O1sスペクトルを示したものである。上段には線状直鎖ポリエチレン(メルト指数MI=4g/10分、230℃)の粉末の低温プラズマ処理40分のESCAスペクトルのC1s、N1s、O1sのピークを示したものである。下段は同一粉末の未処理試料である。プラズマ処理後に新たに現れたN1sピークの存在からプラズマ処理により窒素官能基が導入されたことが検証される。C1sピークでは比較した未処理ポリエチレンに見られる対称的な鋭いピークにかわって、プラズマ照射により高エネルギー側に新たにピークの肩が現れたのは、炭素原子とヘテロ原子間に新たな結合ができたことを示し、窒素官能基の形成が支持される。なおO1sの新たな出現は、試料を大気中に取り出したときに、ポリエチレン鎖の励起サイトが空気中の酸素と結合したものである。
【0030】
図2及び図3は、ポリエチレン、ポリプロピレンの粉末をプラズマ処理した場合のプラズマ処理時間とN1s/C1sの関係を示す図である。図2は、ポリエチレン粉末のプラズマ処理試料について、低温プラズマ処理時間に対してC1spピーク強度を基準にしたN1sピーク強度比、N1s/C1sをプロットしたもので、10分経過で小さな極大値を経て、60分で0.35の最大値に達する。図3は、ポリプロピレン粉末のプラズマ処理試料について、低温プラズマ処理時間に対してC1spピーク強度を基準にしたN1sピーク強度比、N1s/C1sをプロットしたものである。ただし、白丸は減圧プラズマ処理の場合、黒丸は常圧コロナ放電による常圧プラズマ処理の場合である。処理時間が5分経過でN1s/C1sが0.1となり、10分で第1極大を経過し、40分で0.3まで増加する。常圧コロナ処理ポリプロピレンは、低温プラズマの場合とN1s/C1s比の時間経過は変わらない。
【0031】
(2)芳香族ポリエステル樹脂
本発明の重合体アロイに使用される芳香族ポリエステル樹脂は、芳香環を連鎖単位に有する重合体であり、芳香族ジカルボン酸類とジオール類とを主成分とする縮合反応により得られる重合体ないしは共重合体である。芳香族ジカルボン酸類はそのエステル形成性誘導体であってもよい。またジオール類はそのエステル形成性誘導体であってもよい。
【0032】
上記芳香族ジカルボン酸類の例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4’−p−ターフェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸等が挙げられ、テレフタル酸が好ましく用いられる。また、これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
尚、少量であれば、これらの芳香族ジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族環状ジカルボン酸を1種以上混合して使用することができる。
【0033】
上記ジオール類の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族環状ジオール等が挙げられ、これらは1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
尚、少量であればポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の分子量5000以下の長鎖ジオールを1種単独で又は2種以上を共重合してもよい。
【0034】
芳香族ポリエステル樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリシクロヘキサン−1,4−ジメチロールテレフタレート/イソフタレート、ポリネオペンチルテレフタレート/イソフタレート等が挙げられ、これらのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0035】
(3)液晶ポリマー
本発明の重合体アロイに使用される液晶ポリマーとしては、例えば、液晶性ポリエステルや液晶性ポリエステルアミド等が挙げられる。
上記液晶性ポリエステルとしては、芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニル、エチレンジオキシ等から選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルが好ましい。芳香族オキシカルボニルを構造単位として有する化合物の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等が挙げられ、芳香族ジオキシを構造単位として有する化合物の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。芳香族ジカルボニルを構造単位として有する化合物の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’―ジフェニルエーテルジカルボン酸等が挙げられ、エチレンジオキシを構造単位として有する化合物の具体例としてはエチレングリコール等が挙げられる。
【0036】
上記液晶性ポリエステルの製造方法については特に限定されるものではなく、公知のポリエステルの重縮合方法に準じて製造できるが、上記液晶性ポリエステルを重縮合する際には上記芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニル、エチレンジオキシ等から選ばれた構造を有する成分以外に3,3’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオール及びm−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、p−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸及び芳香族イミド化合物等を本発明の目的を損なわない程度の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0037】
上記液晶性ポリエステルの具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸にポリエチレンテレフタレートを共重合した液晶性ポリエステル(特開昭49−72393号公報)、p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を共重合した液晶性ポリエステル(特開昭54−77691号公報)、p−ヒドロキシ安息香酸に4,4’−ジヒドロキシビフェニルとテレフタル酸、イソフタル酸を共重合した液晶性ポリエステル等が挙げられる。
【0038】
上記液晶性ポリエステルアミドとは、芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニル、エチレンジオキシ等から選ばれた構造単位と芳香族イミノカルボニル、芳香族ジイミノ、芳香族イミノオキシ等から選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルアミドである。上記液晶性ポリエステルアミドの具体例としては、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、p−アミノフェノールとテレフタル酸から生成した液晶性ポリエステルアミド(特開昭57−172921号公報)、p−ヒドロ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェノールとテレフタル酸、p−アミノ安息香酸及びボリエチレンテレフタレートから生成した液晶性ポリエステルアミド(特開昭64−33123号公報)等が挙げられる。
上記のうち芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニルから選ばれる構造単位を有する液晶性ポリエステルが好ましい。
【0039】
2.組成割合
本発明の高分子アロイは、上記高圧放電処理されたポリオレフィン粉末と液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂を溶融混練して得られるが、そのポリオレフィン/液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の組成割合は、好ましくは25〜99/1〜75(容量%)、より好ましくは75〜95/5〜25(容量%)である。ポリオレフィン/液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の組成割合が上記範囲外であると、室温での引張り降伏強度や、高温時の弾性率の機械的物性が劣ったり、耐加水分解性が悪化する場合がある。
【0040】
3.溶融混練
本発明の高分子アロイは、上記高圧放電処理したポリオレフィン粉末と液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂を、上記の組成比で混合して、溶融混練して得られる。
溶融混練は、混練機内で250℃以上という温度で、粉末の形態は全く消失した溶融混合状態にあって、非相容な両ポリマーがせん断応力の下で接触面を新たにしながら反応を行なうのが好ましい。混練機内の反応は、ポリオレフィン粉末に導入した窒素官能基が液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の末端カルボキシル基と結合して、グラフト鎖の結合拠点となり、アロイの三次元空間に分布して新規組織構造を形成することが期待できる。
【0041】
4.重合体アロイ
本発明の重合体アロイは、上記のように放電処理ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂とを溶融混練機内で溶融混練し、押し出して得られる重合体アロイである。なお、溶融混練機内では放電処理ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂とで反応が進行していると考えられる。本発明の効果は、この重合体アロイが、併用した際の機械的物性、例えば、引張り降伏強度特性が向上したり、曲げ弾性率特性、とりわけ高温時の曲げ弾性率が向上したりすることにより、確認できる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例で用いた試験法及び重合体アロイの混練反応は以下の通りである。
【0043】
1.試験方法
(1)動的粘弾性:(株)オリエンテック社製、DDV−EP型の自動動的粘弾性測定器を用い、測定周波数110Hz、昇温速度2℃/minで、室温から250℃の温度範囲で測定した。測定用試料はホットプレスの上段プレート温度260℃、下段プレート温度250℃、圧力40kg/cmで3分間加重したのち室温で放冷した。圧縮成型用の型は幅10mm、長さ35mm、厚さ1mmとし、測定用試料は幅10mm、厚さ1mm、チャック間距離は20mmとした。
(2)引張試験(降伏強度、破壊強度、ヤング率):(社)オリエンテック社製Tensilon STM−T−50Bを用いて、降伏強度、ヤング率は、JIS K−7113に準拠して測定した。引張試験の試料は、ダンベル型(JIS1号型試験片と同形で小型のもの、厚さ1mm、幅2mm、平行部分の長さ15mm)で同形の鋳型に混練り試料を250℃で圧縮成型した後、水中に投入して急冷して成形した。
(3)X線光電子分光分析(ESCA):島津製作所製ESCA750を用い、X線アノードはMgを用い(すなわちX線はMgXo線(1253.6eV)を用い)、X線電源電圧20kV、電流30mA、真空度5×10−5Pa以下の条件で測定した。結合エネルギー値はAg3dスペクトル(結合エネルギー値:368.2eV)により補正した。実際の測定は自動測定であり、結合エネルギー測定範囲内を0.1eV刻みで、それぞれ20ms間の光電子数をカウントして、XPSデータを得た。
【0044】
2.溶融混練
ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の溶融混練は、ラボスケール検討用の混練り押出し機(商品名「CS−194A MAXMIXING EXTRUDER」,Custom Scientific Instruments社製)を用い、ヘッド、シリンダー温度を250℃とした。
【0045】
(実施例1)
直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE(出光石油化学製):MI=4g/10分(230℃、21.18N荷重)、平均粒子径(三次粒子)=100μm)粉末6gを低温プラズマ照射用フラスコに装填して、窒素気流下に100Watt出力のプラズマ処理を30分行った(照射L−LDPEをPE30と略称する。)。PE30のN1s/C1sは0.24であった。PE30とPBT樹脂(三菱化学社製:ノバデュラン5008)とを容量比59/41で混練り機に投入し、シリンダー温度を250℃に設定し、押し出された反応物を機械的特性の測定用試験片に圧縮成型し、試験片の評価を行った。その結果を表1に示す。また、PE30/PBT樹脂=59/41の粘弾性測定結果を図4に示す。
【0046】
(比較例1)
低温プラズマ処理を行わないL−LDPE(未照射L−LDPEポリエチレンをPE0と略称する。)を用いた以外は、実施例1と同様にして、測定用試験片を得た。試験片の評価の結果を表1に示す。また、PE0/PBT樹脂=59/41、PE0単体の粘弾性測定結果を図4に示す。
【0047】
(実施例2)
ポリプロピレン(PP(日本ポリプロ社製ノバテックP8000S):MFR(230℃/5kg)=10g/10分)粉末6gを低温プラズマ照射用フラスコに装填して、窒素気流下に100Watt出力のプラズマ処理を30分間行った(照射PPをPP30と略称する)。PP30のN1s/C1sは0.19であった。PP30とPBT樹脂(三菱化学社製:ノバデュラン5008)とを容量比59/41で混練り機に投入し、シリンダー温度を250℃に設定し、押し出された反応物を機械的特性の測定用試験片に圧縮成型し、試験片の評価を行った。その結果を表1に示す。また、PP30/PBT樹脂=59/41の粘弾性測定結果を図5に示す。
【0048】
(比較例2)
低温プラズマ処理を行わないPP(未照射PPをPP0と略称する。)を用いた以外は、実施例2と同様にして、測定用試験片を得た。試験片の評価の結果を表1に示す。また、PP0/PBT樹脂=59/41、PP0単体の粘弾性測定結果を図5に示す。
【0049】
(比較例3)
PBT樹脂の評価の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1及び図4から明らかなように、本発明の高圧放電処理を行ったポリエチレンを用いたPBT樹脂との重合体アロイは、降伏強度、ヤング率等の機械的物性が優れる、アロイ化の効果が発揮されたものであった(実施例1)。一方、高圧放電処理を行わなかったポリエチレン粉末は、混練りでは、PBT樹脂とは相溶に劣り、降伏強度も低いものであった(比較例1)。
また、表1及び図5から明らかなように、本発明の高圧放電処理を行ったポリプロピレン粉末を用いたPBT樹脂との重合体アロイは、降伏強度、ヤング率等の機械的物性が優れる、アロイ化の効果が発揮されたものであった(実施例2)。一方、高圧放電処理を行わなかったポリプロピレン粉末は、PBT樹脂とは相溶に劣り、降伏強度も低いものであった(比較例2)。
【0052】
(実施例3)
直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE(出光石油化学製):MI=4g/10分(230℃、21.18N荷重)、平均粒子径(三次粒子)=100μm)粉末6gを低温プラズマ照射用フラスコに装填して、窒素気流下に100Watt出力のプラズマ処理を30分行った(照射L−LDPEをPE30と略称する。)。PE30のN1s/C1sは0.24であった。PE30と液晶性ポリエステル樹脂(p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を共重合した液晶性ポリエステル(ポリプラスチック社製ベクトラA−950))とを容量比60/40で混練り機に投入し、シリンダー温度を250℃に設定し、押し出された反応物を機械的特性の測定用試験片に圧縮成型し、試験片の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0053】
(比較例4)
低温プラズマ処理を行わないL−LDPE(未照射L−LDPEポリエチレンをPE0と略称する。を用いた以外は、実施例3と同様にして、測定用試験片を得た。試験片の評価の結果を表2に示す
【0054】
(実施例4)
ポリプロピレン(PP(日本ポリプロ社製ノバテックP8000S):MFR(230℃/5kg)=10g/10分)粉末6gを低温プラズマ照射用フラスコに装填して、窒素気流下に100Watt出力のプラズマ処理を30分間行った(照射PPをPP30と略称する)。PP30のN1s/C1sは0.19であった。PP30と液晶ポリエステル樹脂(ポリプラスチック社製:ベクトラA−950)とを容量比60/40で混練り機に投入し、シリンダー温度を250℃に設定し、押し出された反応物を機械的特性の測定用試験片に圧縮成型し、試験片の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0055】
(比較例5)
低温プラズマ処理を行わないPP(未照射PPをPP0と略称する。)を用いた以外は、実施例4と同様にして、測定用試験片を得た。試験片の評価の結果を表2に示す。
【0056】
(比較例6)
液晶ポリエステル樹脂の評価の結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2から明らかなように、本発明の高圧放電処理を行ったポリエチレンを用いた液晶ポリエステル樹脂との重合体アロイは、降伏強度、ヤング率等の機械的物性が優れる、アロイ化の効果が発揮されたものであった(実施例3)。一方、高圧放電処理を行わなかったポリエチレン粉末は、混練りでは、液晶ポリエステル樹脂とは相溶に劣り、降伏強度も低いものであった(比較例4)。また、本発明の高圧放電処理を行ったポリプロピレン粉末を用いた液晶ポリエステル樹脂との重合体アロイは、降伏強度、ヤング率等の機械的物性が優れる、アロイ化の効果が発揮されたものであった(実施例4)。一方、高圧放電処理を行わなかったポリプロピレン粉末は、液晶ポリエステル樹脂とは相溶に劣り、降伏強度も低いものであった(比較例5)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、非相容であるポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂とを比較的安価な手段によりアロイ化した重合体アロイであり、さらに本発明の重合体アロイは、液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂の相内に分散したポリオレフィンの球状分散粒子が、接触した界面層を通じて応力を相互に伝達する新規な共連続性の組織構造を有し、未処理ポリオレフィンと液晶ポリマー又は芳香族ポリエステル樹脂からのブレンドでは達成できないアロイ両成分の特性が同時に発揮できることから、プラスチック材料として有用なものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】プラズマ処理したポリエチレンと未処理のポリエチレンのC1sスペクトル、N1sスペクトル、O1sスペクトルを示した図である。
【図2】低温プラズマ処理したポリエチレンのN1sとC1sのスペクトル強度比と処理時間との関係を示す図である。
【図3】低温プラズマ処理したポリプロピレンのN1sとC1sのスペクトルの強度比処理時間の関係を示す図である。
【図4】実施例1、比較例1、プラズマ未処理のポリエチレンの動的弾性率と温度との関係を示す図である。
【図5】実施例2、比較例2、プラズマ未処理のポリプロピレンの動的弾性率と温度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン重合粉末を窒素を含む雰囲気下で高圧放電の場において処理したのち、前記ポリオレフィン粉末と液晶ポリマー又は芳香族ジカルボン酸類とジオール類との縮合反応により得られる芳香族ポリエステル樹脂とを溶融混練して得られることを特徴とする重合体アロイ。
【請求項2】
ポリオレフィンが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、プロピレン−エチレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−4−メチル−ペンテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブタジエン共重合体からなる群から選ばれる一又は二以上のポリオレフィンであることを特徴とする請求項1に記載の重合体アロイ。
【請求項3】
芳香族ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートから選ばれる一又は二以上のポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体アロイ。
【請求項4】
液晶ポリマーが、芳香族オキシカルボニル、芳香族ジオキシ、芳香族ジカルボニルから選ばれる構造単位を有する液晶性ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体アロイ。
【請求項5】
高圧放電の場において処理されたポリオレフィン粉末のX線光電子分光分析法によるN1sスペクトルの強度とC1sスペクトルの強度比が、0.1以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合体アロイ。
【請求項6】
重合体アロイが、ポリオレフィン25〜99容量%と液晶ポリマー又は芳香族ジカルボン酸類とジオール類との縮合反応により得られる芳香族ポリエステル樹脂1〜75容量%とからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の重合体アロイ。
【請求項7】
窒素を含む雰囲気が、窒素、窒素とヘリウム若しくは水素の少なくとも一つとの混合ガス、またはこれにアンモニアを加えた混合ガスの雰囲気であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の重合体アロイ。
【請求項8】
高圧放電の場において処理する工程を減圧、常圧又は加圧下で行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の重合体アロイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−79162(P2009−79162A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−250349(P2007−250349)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】