説明

高密度磁気記録媒体及びその製造方法

【解決手段】基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列した高密度磁気記録媒体を、基板表面部に、並列する複数のトラックを設け、該トラックに複数の微小凹陥部を略等間隔で直列形成し、上記微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、該分散液の分散媒を揮発させることにより、微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子の集合体を形成することにより製造する。
【効果】基板上に磁性ナノ粒子を微細に区画して、安定に、かつ効率よく配列させて、高密度磁気記録媒体を製造することができる。このような高密度磁気記録媒体は、それを適用した高密度磁気記録システムの提供を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度磁気記録システムの実現を可能とする高密度磁気記録媒体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録による情報ストレージ分野は近年の高度情報化社会を支える基盤技術である。磁気記録密度の向上は大容量の情報処理や社会に散在する知の財産の利用を可能とするだけでなく、記録デバイスの小型化及び軽量化によるユビキタスコンピューティング、更には省電力、省材料の点から低環境負荷を促すことになる。現行のハードディスクドライブ(HDD)の磁気記録媒体は、スパッタリング法により作製された磁性薄膜が用いられている。更なる記録媒体の高記録密度化のためには、記録ビット面積の縮小化及び記録ビットの経時に対する記録安定性が求められる。ここで、記録ビット面積の縮小化とは、薄膜を構成する磁性粒子の微細化により実現される技術を示す。
【0003】
磁性粒子の微細化に伴い、体積に比例する粒子内の磁化方向を保つKuV(Ku:一軸結晶磁気異方性エネルギー、V:磁性粒子体積)は、熱エネルギーkBT(kB:ボルツマン定数、T:使用温度(単位:K))を下回るために記録情報の熱安定性がボトルネックになっている(熱擾乱)。熱擾乱を低減させる解決策の一つとして記録ビットの安定性に優れた高い結晶磁気異方性エネルギー(Ku)を備えた材料の磁気記録媒体材料への適用が求められている。
【0004】
上記課題を解決するために、本発明者らは、特開2009−035769号公報(特許文献1)において、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するFePtナノ粒子の作製方法及び配列方法を提案している。しかしながら、ナノ粒子の特性を最大に発揮させた磁気記録媒体を実現するためには、均一な形状、粒径及び磁気特性を有するナノ粒子の作製と共に、磁性ナノ粒子を、基板上に安定な状態で、効率よく配列する技術の確立が不可欠である。
【0005】
なお、本発明に関連する先行技術文献としては、以下のものが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−035769号公報
【特許文献2】特開2006−291303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、基板上に磁性ナノ粒子を微細に区画して配列させた高密度磁気記録媒体、及び磁性ナノ粒子を安定に配列させた高密度磁気記録媒体を効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を行った結果、基板表面部に、並列する複数のトラックを設け、このトラックに複数の微小凹陥部を略等間隔で直列形成し、微小凹陥部内に磁性ナノ粒子の集合体を形成した磁気記録媒体が、磁気記録媒体の高密度化に有効であり、また、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、この分散液の分散媒を揮発させることにより、基板上に磁性ナノ粒子を微細に区画して配列させることができることを見出した。
【0009】
特に、微小凹陥部の内表面に、分子鎖の一端側に上記内表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記内表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子を固定すれば、基板上に磁性ナノ粒子が安定して固定され、更に、この際、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に、分子鎖の一端側に上記基板表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記基板表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に磁性ナノ粒子を固定し、その後、微小凹陥部の内表面以外で固定された磁性ナノ粒子を除去すれば、容積が限られた微小凹陥部内にのみ直接磁性ナノ粒子を選択的に導入する煩雑な操作の必要がなく、微小凹陥部の内表面で固定された磁性ナノ粒子は微小凹陥部で保護され、微小凹陥部の内表面以外の基板の外表面で固定された磁性ナノ粒子は、簡単に除去できることから、限られた容積の微小凹陥部内のみに効率よく磁性ナノ粒子を微小サイズに区画して配列させることができ、次世代の高密度磁気記録システムの実現を可能とする高密度磁気記録媒体を効率よく製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
従って、本発明は下記の高密度磁気記録媒体及びその製造方法を提供する。
請求項1:
基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列した高密度磁気記録媒体であって、
基板表面部に、並列する複数のトラックが設けられ、該トラックに複数の微小凹陥部が略等間隔で直列形成され、上記微小凹陥部内に磁性ナノ粒子の集合体が形成されてなることを特徴とする高密度磁気記録媒体。
請求項2:
磁性ナノ粒子の集合体が、上記微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、該分散液の分散媒を揮発させることにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の高密度磁気記録媒体。
請求項3:
微小凹陥部の口径が20〜500nmであり、深さが10〜500nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の高密度磁気記録媒体。
請求項4:
磁性ナノ粒子の平均粒子径が3〜20nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体。
請求項5:
磁性ナノ粒子の保磁力が237kA/m以上であり、角型比が0.5以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体。
請求項6:
基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列した高密度磁気記録媒体を製造する方法であって、
基板表面部に、並列する複数のトラックを設け、該トラックに複数の微小凹陥部を略等間隔で直列形成し、上記微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、該分散液の分散媒を揮発させることにより、微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子の集合体を形成することを特徴とする高密度磁気記録媒体の製造方法。
請求項7:
トラックを溝状に形成し、該溝状トラックに上記微小凹陥部を形成することを特徴とする請求項6記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
請求項8:
微小凹陥部の口径が20〜500nmであり、深さが10〜500nmであることを特徴とする請求項6又は7記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
請求項9:
磁性ナノ粒子の平均粒子径が3〜20nmであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
請求項10:
微小凹陥部の内表面に、分子鎖の一端側に上記内表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記内表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、
上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子を固定することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
請求項11:
微小凹陥部の内表面を含む基板表面に、分子鎖の一端側に上記基板表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記基板表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、
上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に磁性ナノ粒子を固定した後、
微小凹陥部の内表面以外で固定された磁性ナノ粒子を除去することを特徴とする請求項10記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板上に磁性ナノ粒子を微細に区画して、安定に、かつ効率よく配列させて、高密度磁気記録媒体を製造することができる。このような高密度磁気記録媒体は、それを適用した高密度磁気記録システムの提供を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の高密度磁気記録媒体に好適に用いられる基板の一例を示す部分斜視図である。
【図2】ナノインプリント法により、基板に微小凹陥部を形成する工程の一例の説明図である。
【図3】基板の微小凹陥部内に磁性ナノ粒子の集合体を形成する工程の一例の説明図である。
【図4】基板の微小凹陥部内に磁性ナノ粒子の集合体を形成する工程の他の例の説明図である。
【図5】本発明の高密度磁気記録媒体の一例を示す部分斜視図である。
【図6】実施例の基板表面の電界放射型走査電子顕微鏡による観察像であり、(a)はFePt磁性ナノ粒子の集合体が形成される前の基板の像、(b)はFePt磁性ナノ粒子の集合体が形成された後の基板の像、(c)は(b)の部分拡大像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明の高密度磁気記録媒体は、基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列したものであり、磁性体が形成される基板には、その表面部に多数の微小凹陥部が配列して形成され、これら各々の微小凹陥部は互いに他の微小凹陥部と隔離して形成されており、この微小凹陥部内に磁性体として磁性ナノ粒子の集合体を形成することにより、基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画され、互いの集合体が隔離されて配列された構造となっている。また、基板表面部には、複数のトラックが並列して設けられ、各トラックに複数の微小凹陥部を略等間隔で直列形成することにより、微小凹陥部が配列されている。
【0014】
磁性体が形成される基板には、表面部に多数の微小凹陥部が配列して形成され、これら各々の微小凹陥部は互いに他の微小凹陥部と隔離して形成される。また、基板表面部には、複数のトラックが並列して設けられ、各トラックに複数の微小凹陥部が略等間隔で直列形成されている。このような基板として具体的には、図1に示されるようなものが挙げられる。図1に示される基板では、基板1の上面部に、断面円弧形状の溝状のトラック11が平行に設けられている。そして、各々のトラック11には、その長さ方向に等間隔に微小凹陥部12が、互いに独立して形成される。図1の場合、3本のトラック11とトラック毎に5個の凹陥部が形成された計15個の凹陥部12が示されているが、図1は基板の一部を示すものであり、トラック及び微小凹陥部の数は、これらに限定されず、高容量の磁気記録を達成するために、多数のトラック及び微小凹陥部が形成される。
【0015】
基板の材料としては、Si、酸化ケイ素、石英ガラス、アモルファスガラス、Al、酸化アルミナ等が挙げられるが、特にSiが好ましい。
【0016】
トラックは、公知のナノインプリント法、電子線等によるフォトリソグラフィなどの手法により形成することができる。なお、図1に示される基板の場合、溝状のトラックに微小凹陥部を形成したものを示したが、トラックは、凹状に形成されているものに限られず、基板上面と同じ高さに(フラットに)形成しても、凸状に形成してもよい。
【0017】
トラックの形状及びサイズは、目的に応じて適宜設定すればよいが、例えばトラックの幅は20〜500nm、特に20〜150nmであることが好ましい。トラックの間隔は40〜1000nm、特に40〜200nmであることが好ましい。
【0018】
微小凹陥部は、好適にはナノインプリント法で形成される。図2は、基板の縦断面図であり、微小凹陥部をナノインプリント法で形成する工程を示す。まず、図2(A)に示されるように、Si等の基板10の上面に、未硬化の樹脂組成物5をスピンコート法などにより塗布する。樹脂組成物としては紫外線硬化型のものが好適に用いられる。次に、図2(B)に示されるような、凹陥部を形成する部位に突出部61が形成されたモールド6を、図2(C)に示されるように、基板10上の樹脂組成物5に押し付けて、突出部61と基板10とを接触又は近接させ、この状態で、樹脂組成物5を硬化させる。紫外線硬化型樹脂組成物を用いる場合、モールドを例えば石英ガラス等の紫外線を透過する材料で形成すると、効果的である。
【0019】
次に、モールド6を外すと、図2(D)に示されるように、微小凹陥部を形成する部位以外に、硬化した樹脂層51が形成される。通常、このままでは、微小凹陥部を形成する部位が薄い樹脂層で被覆されているので、酸素プラズマ等を用いた異方性ドライエッチングなどで、微小凹陥部を形成する部位の樹脂層を除去して、基板10の表面を露出させる。
【0020】
次に、図2(E)に示されるような、微小凹陥部を形成する部位が露出し、他の部分が樹脂層51で被覆された基板10に、例えば、SF6を用いた異方性ドライエッチングなどで、図2(F)に示されるように基板10を掘り込んで微小凹陥部12を形成し、樹脂層51を剥離することにより、図2(G)で示されるような微小凹陥部12が形成された基板1が得られる。
【0021】
微小凹陥部の形状及びサイズは、目的に応じて適宜設定すればよいが、開口部の大きさ(開口部の最大幅)は20〜500nm、特に20〜100nmであることが好ましい。また、深さは10〜500nm、特に10〜50nm、とりわけ10〜20nmであることが好ましい。
【0022】
本発明に用いる磁性ナノ粒子としては、強磁性材料であれば特に制限はなく、例えばFePt磁性ナノ粒子、CoPt磁性ナノ粒子などが好適に使用できる。上記磁性ナノ粒子(一次粒子)の平均粒子径は、3〜20nmであることが好ましく、特に4〜10nm、更には5〜7nmであることが好ましい。なお、この平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)像等の電子顕微鏡像から算出することができる。
【0023】
また、本発明で用いられる磁性ナノ粒子及びその製造方法は特に限定されないが、例えば、特開2009−035769号公報(特許文献1)に記載されたものが挙げられる。
【0024】
FePt磁性ナノ粒子は、例えば、
Pt化合物と還元剤と第1の粒子分散剤とを含む溶媒溶液から還元反応により金属Pt核粒子を生成させる工程(工程a)、
金属Pt核粒子を生成させた後の溶媒溶液に、Fe化合物及び第2の粒子分散剤を添加、好ましくはFe化合物を添加してFe化合物を溶解させた後に第2の粒子分散剤を添加して、金属Pt核粒子上に金属Feを析出させる(工程b)、
金属Feが析出して生成したFeとPtとを含むナノ粒子を、反応液中で185〜320℃、好ましくは225〜275℃、特に好ましくは245〜255℃の温度で熟成する(工程c)
により得ることができる。
【0025】
ここで、上記工程a〜cについて説明する。
工程aは、Pt化合物と還元剤と第1の粒子分散剤とを含む溶媒溶液から還元反応により金属Pt核粒子を生成させる工程である。Pt化合物としては、例えばPtアセチルアセトナート、Ptエトキシド(Pt(OEt)2)などを用いることができる。また、還元剤としては、1−オクタデセン等の炭素数16〜18の不飽和炭化水素(直鎖状のものが好ましく、また片末端に二重結合を有するものが好ましい)、1,2−ヘキサデカンジオール等の炭素数16〜18の飽和炭化水素ジオール(飽和炭化水素基が直鎖状のものが好ましく、また1,2−位に各々ヒドロキシル基を有するものが好ましい)などを用いることができる。
【0026】
一方、第1の粒子分散剤は、生成した金属Ptの凝集を抑制する作用を有するものが好ましく、例えば、オレイン酸等の炭素数3〜17の直鎖不飽和脂肪酸、N−2−ビニルピロリドンなどを用いることができる。
【0027】
Pt化合物、還元剤及び第1の粒子分散剤は、溶媒に溶解させた溶液として用いられる。この溶媒としては、ベンジルエーテル、オクチルエーテル等のエーテル類、テトラエチレングリコール等のグリコール類、ノナデカン等の炭素数18〜20の飽和炭化水素などの有機溶媒を用いることが好ましい。
【0028】
なお、溶媒溶液に溶解させるPt化合物の濃度はPt基準で0.45〜0.65mmol/dm3、特に0.50〜0.55mmol/dm3とすることが好ましい。また、溶媒溶液に溶解させる還元剤の濃度は1.2〜1.8mmol/dm3、特に1.5〜1.6mmol/dm3とすることが好ましい。一方、溶媒溶液に溶解させる第1の粒子分散剤の濃度は0.90〜1.5mmol/dm3、特に1.0〜1.2mmol/dm3とすることが好ましい。
【0029】
このPt化合物、還元剤及び第1の粒子分散剤を溶解させた溶媒溶液を、例えば60〜275℃、特に80〜100℃にして、必要に応じて攪拌しながら加熱することにより、Pt化合物(Ptイオン)が還元剤により還元されて、金属Pt核粒子が生成する。この反応時間は、通常5〜10分間とすることが好ましい。なお、この工程で、金属Pt核粒子が生成するが、この段階でPt化合物(Ptイオン)の全てが金属Pt核粒子として生成する必要はなく、一部は残っていてもよい。残留したPt化合物(Ptイオン)は、後の工程において更に金属Ptとして析出させることができる。
【0030】
工程bは、金属Pt核粒子を生成させた後の溶媒溶液に、Fe化合物及び第2の粒子分散剤を添加、好ましくはFe化合物を添加してFe化合物を溶解させた後に第2の粒子分散剤を添加して、金属Pt核粒子上に金属Feを析出させる工程である。Fe化合物としては、例えば鉄カルボニル、鉄アセチルアセトナート、鉄エトキシドなどを用いることができる。
【0031】
一方、第2の粒子分散剤は、生成した金属Feの凝集を抑制する作用を有するものが好ましく、例えば、オレイルアミン等の炭素数16〜18の直鎖不飽和脂肪族アミンなどを用いることができる。
【0032】
溶媒溶液に添加するFe化合物の濃度はFe基準で0.95〜1.15mmol/dm3、特に0.99〜1.09mmol/dm3とすることが好ましい。一方、溶媒溶液に添加する第2の粒子分散剤の濃度は0.90〜1.5mmol/dm3、特に1.0〜1.2mmol/dm3とすることが好ましい。
【0033】
このFe化合物及び第2の粒子分散剤を溶解させた溶媒溶液を、例えば100〜140℃、特に115〜125℃で必要に応じて攪拌することにより、金属Pt核粒子上に金属Feが析出する。この反応時間は、通常5〜15分間とすることが好ましい。なお、この工程で、金属Feが析出するが、この段階でFe化合物の全てが金属Feとして析出する必要はなく、一部は残っていてもよい。残留したFe化合物は、後の工程において更に金属Feとして析出させることができる。
【0034】
工程cは、金属Feが析出して生成したFeとPtとを含むナノ粒子を、反応液中で185〜320℃、好ましくは225〜275℃、特に好ましくは245〜255℃の温度で熟成する工程である。この工程により、Pt原子とFe原子とが相互拡散して合金化され、PtとFeとの合金であるFePtナノ粒子が生成する。この熟成時間は、短すぎると十分な拡散がなされないおそれがあり、また、長すぎるとFePtナノ粒子の凝集を引き起こすおそれがあるため、30〜300分間、特に110〜130分間とすることが好ましい。
【0035】
なお、上記工程a〜工程cは、酸化成分の生成を防ぐためにいずれもアルゴン等の不活性ガス若しくは窒素ガス雰囲気又はこれらのガスに対して数パーセントの水素を含んだ還元雰囲気で実施することが好ましい。
【0036】
熟成後の反応液は、必要に応じて溶媒交換をして、磁性ナノ粒子が分散した分散液とすることができるが、ろ過等の常法に従い、生成したFePtナノ粒子を一旦分離し、再び分散媒を加えて分散液とすることも可能である。特に、遠心分離によりFePtナノ粒子を溶液から分離する際、例えば、溶媒の作用によるFePtナノ粒子の凝集・再分散を利用して、微小な粒子を除去することが可能であり、これにより、粒子径分布がより揃ったFePtナノ粒子とすることが可能である。更に、必要に応じて、磁性ナノ粒子の表面に、磁性ナノ粒子から離間する側に、後述する有機コーティング剤分子の他端側の官能基と化学結合し得る官能基を有する連結分子を結合させておくことも好適である。
【0037】
また、合金化後のFePtナノ粒子に、更に、400℃以上、好ましくは500℃以上、より好ましくは550℃、更に好ましくは600℃以上でアニール処理を施すことが可能である。アニール処理温度の上限は特に限定されないが、好ましくは900℃以下、より好ましくは800℃以下、更に好ましくは700℃以下、特に好ましくは650℃以下である。また、アニール処理は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、窒素ガス雰囲気下、又はアルゴン等の不活性ガス若しくは窒素ガス中に、水素ガスを1〜5容量%、特に2〜3容量%含む還元雰囲気下で処理することが好ましく、処理時間は0.5〜10時間、特に2.5〜3.5時間とすることが好ましい。また、合金化後のFePtナノ粒子のアニール処理は、基板上、特に、微小凹陥部内にFePtナノ粒子を分散配置した後に実施することもできる。
【0038】
また、FePtナノ粒子中のFeとPtとの比率は、Fe:Pt=50:50〜60:40(原子比)であることが好ましい。この比率は、面心直方(L10)構造のFeとPtの合金の比率に近似するものであり、このようなFePtナノ粒子が、特に磁気異方性が高く、強い磁性を有するFePt磁性ナノ粒子を与えるものであることから好適である。
【0039】
磁性ナノ粒子は、保磁力が237kA/m(3kOe)以上、特に395〜474kA/m(5〜6kOe)、角型比が0.5以上、特に0.6〜0.9のものが好適である。
【0040】
基板に形成された微小凹陥部内には、磁性ナノ粒子が分散した分散液が注入され、微小凹陥部内の分散液から分散媒を揮発させることによって、磁性ナノ粒子の集合体が形成される。具体的には、磁性ナノ粒子を、例えば、トルエン、ヘキサン等の分散媒に分散させた分散液を、ピコピペットやインクジェット法などの方法によって、微小凹陥部内に滴下し、例えば20〜40℃の温度で、分散媒を揮発させればよい。
【0041】
また、磁性ナノ粒子の集合体を形成する際には、微小凹陥部の内表面に、有機コーティング剤分子の単分子膜を形成することが好ましい。より具体的には、微小凹陥部の内表面に、分子鎖の一端側に内表面と化学結合し得る官能基、他端側に内表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子を固定することができる。
【0042】
具体的には、図3(A)に示されるような上面部に微小凹陥部12が形成された基板1に、図3(B)に示されるように、微小凹陥部12内に、有機コーティング剤分子の単分子膜2を形成した後、図3(C)に示されるように、磁性ナノ粒子を含む分散液31を微小凹陥部12内に充填し、分散液31から分散媒を揮発させることにより、図3(D)に示されるように、微小凹陥部12内に磁性ナノ粒子の集合体3を形成した高密度磁気記録媒体を製造することができる。特に、本発明では、粒子を基板上、特に微小凹陥部の表面上に単層状に固定することができ、粒子が1〜20nm、特に5〜15nmの間隔で分散配置した集合体を形成することができる。
【0043】
上記一端側の官能基は、微小凹陥部の内表面、即ち、基板と結合を形成し得るものであるが、基板には、磁気記録媒体、特に垂直磁気記録媒体において、磁気記録層が積層される部分に軟磁性裏打ち層(SUL)、酸化ケイ素(SiO2)中間層等の下地層などを形成した基板が含まれ、この場合、第2の官能基はこれらの層などに結合するものであることが好ましい。この一端側の官能基として具体的には、メトキシシラニル基、エトキシシラニル基等のアルコキシシラニル基、シラノール基、ヒドロキシル基などを挙げることができる。
【0044】
一方、上記他端側の官能基としては、チオール基、アミノ基、シアノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基など、メトキシシラニル基、エトキシシラニル基等のアルコキシシラニル基、シラノール基、ヒドロキシル基などを挙げることができる。
【0045】
上記有機コーティング剤として具体的には、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。
【0046】
上記有機コーティング剤分子の単分子膜を基板上の微小凹陥部の内表面上に形成させる方法としては、例えば、有機コーティング剤をトルエン、ヘキサン等の溶媒に溶解させた溶液を調製し、ピコピペットやインクジェット法などの方法によって、微小凹陥部内に滴下し、例えば20〜60℃、特に20〜40℃の温度で、10〜60分間、溶媒を揮発させながら、反応させる方法が挙げられる。これにより、有機コーティング剤分子が上記一端側の官能基を介して微小凹陥部の内表面に化学結合して、有機コーティング剤分子の単分子膜が形成される。
【0047】
次に、有機コーティング剤分子の単分子膜が形成された微小凹陥部に磁性ナノ粒子が分散した分散液を充填し、分散媒を揮発させることにより、上記他端側の官能基と、磁性ナノ粒子の表面又は連結分子の官能基とが反応して、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子が固定される。
【0048】
また、磁性ナノ粒子の集合体を形成する際には、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に、分子鎖の一端側に基板表面と化学結合し得る官能基、他端側に基板表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に磁性ナノ粒子を固定した後、微小凹陥部の内表面以外で固定された磁性ナノ粒子を除去することが特に好ましい。
【0049】
具体的には、図4(A)に示されるような上面部に微小凹陥部12が形成された基板1に、図4(B)に示されるように、基板1の上面部に形成された微小凹陥部12内を含む、基板1の上面全体に、有機コーティング剤分子の単分子膜2を形成した後、図4(C)に示されるように、磁性ナノ粒子を含む分散液31を微小凹陥部12内に充填し、分散液31から分散媒を揮発させることにより、図4(D)に示されるように、微小凹陥部12内に磁性ナノ粒子の集合体3を形成させる。その後、微小凹陥部12の内表面以外で極薄層状に固定された磁性ナノ粒子を除去することで、図4(E)に示されるように、微小凹陥部12内のみに磁性ナノ粒子の集合体3を形成した高密度磁気記録媒体を製造することができる。
【0050】
この場合、上記有機コーティング剤分子の単分子膜を、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に形成させる方法としては、例えば、有機コーティング剤をトルエン、ヘキサン等の溶媒に溶解させた溶液を調製し、この溶液に、基板を、例えば20〜60℃の温度で、1〜20分間浸漬する、又は上記溶液をスピンコート等により塗布して上記時間保持することにより形成することができる。
【0051】
次に、有機コーティング剤分子の単分子膜が形成された微小凹陥部に磁性ナノ粒子が分散した分散液を充填し、分散媒を揮発させることにより、上記他端側の官能基と、磁性ナノ粒子の表面又は連結分子の官能基とが反応して、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子が固定される。この場合、磁性ナノ粒子が分散した分散液は、微小凹陥部以外の基板表面でも有機コーティング剤分子と結合するが、微小凹陥部の内表面で固定された磁性ナノ粒子は微小凹陥部で保護されるため、微小凹陥部の内表面以外の基板の外表面で固定された磁性ナノ粒子は、微小凹陥部内の磁性ナノ粒子を取り除くことなく簡単に除去することができる。具体的には、例えば、微小凹陥部が形成された面を下にして溶媒中で洗浄すれば、溶媒と接触する微小凹陥部の内表面以外の基板の外表面の磁性ナノ粒子のみが脱離し、微小凹陥部内は、空気が充填されており、溶媒が侵入することがないため、磁性ナノ粒子が保持される。
【0052】
このような方法により、図5に示されるような、基板1の表面部に、並列する複数のトラック11が形成され、トラック11に複数の微小凹陥部12が略等間隔で直列形成され、この微小凹陥部12内に磁性ナノ粒子の集合体3が形成された高密度磁気記録媒体を得ることができる。
【0053】
本発明の高密度磁気記録媒体には、磁性ナノ粒子の集合体を形成した基板上に保護層を形成することが好ましい。上記保護層としては、SiO2をスピンコート(SOG)法により塗布したものや、カーボンスパッタによる炭素系保護層等が挙げられる。
【0054】
本発明の高密度磁気記録媒体は、特に、次世代の超高密度磁気記録システムとして有望視されているディスクリートトラック型の磁気記録媒体の磁気記録層に適用すれば、例えば1Tbit/inch2以上の記録密度を有する超高密度磁気記録媒体の提供も可能となる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0056】
図1に示されるような微小凹陥部を有する基板を用い、濃度が10質量%の3−メルカプトプロピル)トリメトキシシランが含まれているトルエン溶液に浸漬し、60℃で10分間静置して、微小凹陥部内表面上に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランをSi基板上の自然酸化膜を利用して結合させ、単分子膜を形成させた。次に、溶媒を揮発させた後、FePt磁性ナノ粒子がヘキサン中に5g/dm3の濃度で分散した分散液を、微小凹陥部内にピコピペット(アルテア技研(株)製)を用いて滴下した後、室温で自然乾燥して、FePt磁性ナノ粒子の集合体を形成した。FePt磁性ナノ粒子の集合体が形成される前後の基板について、その表面を走査型プローブ顕微鏡SPM−9600(島津製作所(株)製)を用いて観察した。
【0057】
走査型プローブ顕微鏡による表面観察の結果、微小凹陥部のボトム部のみコントラストが変化し、微小凹陥部内にFePt磁性ナノ粒子の存在を示す結果が得られた。
【0058】
また、FePt磁性ナノ粒子の集合体が形成される前後の基板について、その表面を、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて観察した。顕微鏡像を図6に示す。電界放射型走査電子顕微鏡による表面観察の結果、基板の微小凹陥部において、FePt磁性ナノ粒子が単層状に固定され、粒子が約10nmの間隔で分散配置した集合体の形成が確認された。
【0059】
一方、X線回折(XRD)により、FePt磁性ナノ粒子が、L10(面心直方構造)の(110)面に優先配向した粒子であること、また、X線光電子分光(XPS)による表面電子状態の評価から、FePt磁性ナノ粒子が非常に安定なL10相であることが確認された。更に、高温超伝導量子干渉磁束計(SQUID)により、FePt磁性ナノ粒子集合体の保磁力を測定したところ、284kA/m(3.6kOe)であった。
【符号の説明】
【0060】
1,10 基板
11 トラック
12 微小凹陥部
2 有機コーティング剤分子の単分子膜
3 磁性ナノ粒子の集合体
31 分散液
5 樹脂組成物
51 樹脂層
6 モールド
61 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列した高密度磁気記録媒体であって、
基板表面部に、並列する複数のトラックが設けられ、該トラックに複数の微小凹陥部が略等間隔で直列形成され、上記微小凹陥部内に磁性ナノ粒子の集合体が形成されてなることを特徴とする高密度磁気記録媒体。
【請求項2】
磁性ナノ粒子の集合体が、上記微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、該分散液の分散媒を揮発させることにより形成されたことを特徴とする請求項1記載の高密度磁気記録媒体。
【請求項3】
微小凹陥部の口径が20〜500nmであり、深さが10〜500nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の高密度磁気記録媒体。
【請求項4】
磁性ナノ粒子の平均粒子径が3〜20nmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体。
【請求項5】
磁性ナノ粒子の保磁力が237kA/m以上であり、角型比が0.5以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体。
【請求項6】
基板表面部に磁性ナノ粒子の集合体が区画されて配列した高密度磁気記録媒体を製造する方法であって、
基板表面部に、並列する複数のトラックを設け、該トラックに複数の微小凹陥部を略等間隔で直列形成し、上記微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子が分散した分散液を注入して、該分散液の分散媒を揮発させることにより、微小凹陥部内に、磁性ナノ粒子の集合体を形成することを特徴とする高密度磁気記録媒体の製造方法。
【請求項7】
トラックを溝状に形成し、該溝状トラックに上記微小凹陥部を形成することを特徴とする請求項6記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
【請求項8】
微小凹陥部の口径が20〜500nmであり、深さが10〜500nmであることを特徴とする請求項6又は7記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
【請求項9】
磁性ナノ粒子の平均粒子径が3〜20nmであることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
微小凹陥部の内表面に、分子鎖の一端側に上記内表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記内表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、
上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面に磁性ナノ粒子を固定することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
微小凹陥部の内表面を含む基板表面に、分子鎖の一端側に上記基板表面と化学結合し得る官能基、他端側に上記基板表面と化学結合せず、磁性ナノ粒子又は磁性ナノ粒子と化学結合した連結分子と化学結合し得る官能基を有する有機コーティング剤分子の単分子膜を形成し、
上記他端側の官能基と磁性ナノ粒子又は連結分子とを結合させることにより、微小凹陥部の内表面を含む基板表面に磁性ナノ粒子を固定した後、
微小凹陥部の内表面以外で固定された磁性ナノ粒子を除去することを特徴とする請求項10記載の高密度磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−165299(P2011−165299A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269983(P2010−269983)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】