説明

高屈折率材料用ナフタレン重合体、及びその製造方法

【課題】ジヒドロキシナフタレンを繰返し単位として有し、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとを有する低分子量の高屈折率材料用ナフタレン重合体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】ジヒドロキシナフタレン誘導体を原料として特定の条件下で重合反応を行い、得られた重合反応生成物を溶媒抽出等により取り出すことによる、低分子量であって、高屈折率材料として優れた性能を有するナフタレン重合体の製造方法の提供。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロキシナフタレンから由来する構造を繰返し単位として有する低分子量の高屈折率材料用ナフタレン重合体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナフタレン類を重合して得られるナフタレン重合体は、エンジニアリングプラスチック等として有用であり、他の重合体、添加剤等と混合することで、さらに機械的強度、耐熱性、電気的特性及び化学的特性に優れた樹脂とすることができる。このようにして得られた樹脂は、加工適性に優れており、電子部品材料、電気部品材料、機械部品材料等、広範な用途に用いられる。
【0003】
しかし、このようなナフタレン類を重合して得られる高屈折率材料はこれまでにも知られているが、十分な屈折率を有しないか、或いは、高分子量であるため溶解性に乏しい等の欠点を有するものが多かった。
【0004】
一方、酵素を用いた化合物の重合は、酵素の高い基質特異性を利用した反応であることから目的物を効率よく製造でき、コスト低減に有利である。また、温和な条件下での反応であるため、消費するエネルギーが少なくてすみ、環境負荷を低くすることができるなど優れた方法である。
【0005】
そこで、酵素を用いてナフタレン重合体を製造する方法として、例えば、1−ナフトール又は2−ナフトールを、メタノールとリン酸緩衝液との混合溶媒中で重合する方法が提案されている(非特許文献1参照)。
【0006】
このようなナフトール重合体は、通常、モノマーであるナフトール類がその芳香環上の炭素原子間で結合し、その結果できた分子中にフェノール性水酸基を有するナフタレンユニット(以下、ヒドロキシナフタレンユニットと略記)と、モノマーである一方のナフトール類の芳香環上の炭素原子と他方のナフトール類のフェノール性水酸基との間で結合が生じて得られたオキシナフタレンユニット(以下、オキシナフタレンユニットと略記)の両方を構成単位とするものである。
分子中にヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとが存在するナフトール重合体は酵素法によってのみ特異的に生成されるもので、芳香族環同士が酸素原子を介して結合しているため柔軟性を有する重合体となる。
以上のように、本発明にかかるナフタレン重合物が、低分子量であって、高屈折率であるという優れた特性を有することは、これまで知られていなかった。
【0007】
【非特許文献1】エネルギー使用合理化生物触媒等技術開発 要素技術の研究開発脱ホルマリン樹脂の酵素触媒重合技術の研究開発 平成13年度成果報告書,新エネルギー・産業技術総合開発機構
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に記載の方法で得られる1−ナフトールの重合反応生成物は、重量平均分子量が15000〜20000と大きく、また、2−ナフトールの重合反応生成物も、重量平均分子量が4500〜5000と比較的大きなものであった。その結果、溶媒溶解性や流動性が低い欠点を有していた。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、ジヒドロキシナフタレンから由来する構造を繰返し単位として有し、ヒドロキシナフタレンユニットとオキシナフタレンユニットとを有する低分子量の高屈折率材料用ナフタレン重合体、及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ジヒドロキシナフタレン誘導体を原料として特定の条件下で重合反応を行い、得られた重合反応生成物を溶媒抽出等により取り出すことで、低分子量のナフタレン重合体を製造できること、及び得られたナフタレン重合体は高屈折率材料として優れた性能を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
一般式(1)、(2)、(3)又は(4)
【0012】
【化1】

【0013】

【0014】
で表される構造を繰り返し単位として有する高屈折率材料用ナフタレン重合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低分子量の高屈折率材料用ナフタレン重合体、及びその製造方法が提供できる。得られた該重合体は、低分子量であることから、有機溶媒等に対する溶解性も高く、また、水酸基を多く含有することから、他の重合体との架橋が容易である特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のナフタレン重合体は、前記一般式(1)、(2)、(3)又は(4)で表される繰返し単位を有し、重量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。本発明のナフタレン重合体は、一般式(1)又は(2)で表される繰返し単位の数と一般式(3)又は(4)で表される繰返し単位の数との比は、特に限定されない。
【0017】
また、重量平均分子量は、特に限定されることはないが、溶媒溶解性や流動性を考慮すると、300〜3000であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、その用途に応じて求められる比も異なることから、特にその範囲が限定されるものではないが、より均質な分子量を有するものとして、例えば、好ましいものは3.0以下の範囲のものが挙げられ、より好ましいものは1.05以上3.0以下の範囲のものが挙げられ、特に好ましいものとして1.05以上2.0未満のものが挙げられる。
【0018】
本発明のナフタレン重合体が有する一般式(1)〜(4)で表される繰返し単位の、該重合体中における結合順序は、特に限定されない。また、他の重合体との共重合体であっても好ましく用いることができる。
【0019】
本発明のナフタレン重合体においては、ジヒドロキシナフタレン同志が結合する位置は特に限定されず、繰り返し単位が前記一般式(1)又は(3)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基の酸素原子と、フェノール性水酸基が結合していない1位〜8位のいずれか一つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。また、繰り返し単位が前記一般式(2)又は(4)で表されるものである場合には、フェノール性水酸基が結合していない1位〜8位のいずれか二つの炭素原子がモノマー同士の結合に関与する。
【0020】
以下、本発明のナフタレン重合体の製造方法について説明する。
◎製造方法1
本発明のナフタレン重合体の製造方法は、ジヒドロキシナフタレンを、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程を有しており、得られるナフタレン重合体は、前記一般式(1)及び(2)又は一般式(3)及び(4)で表される繰返し単位を有し、重量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。
(重合反応)
本製造方法においては、反応溶媒として、水又は水溶液、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いるが、水溶液としては緩衝液を好ましいものとして挙げることができる。
【0021】
緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液及びコハク酸緩衝液等が挙げられるが、なかでも、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液が好ましい。
【0022】
反応には、一種以上の有機溶媒を含んでもよい。このような有機溶媒としては、酸化還元酵素の活性を低下させるものでなければ、特に制限なく使用することができる。このような有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の有機溶媒を挙げることができる。これらの溶媒は、単独でも、或いは2種類以上の有機溶媒を混合しても用いることができる。
また、有機溶媒に含まれる水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等の水溶性アルコール類が特に好ましい。これらの溶媒は、単独でも、或いは2種類以上の有機溶媒を混合しても用いることができる。
【0023】
反応溶媒として水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒を用いる場合には、該混合溶媒中の有機溶媒の量がごく少量でも、モノマーの重合反応を行うことができる。前記混合溶媒中の有機溶媒の量は、1体積%以上75体積%以下が好ましい。
【0024】
本製造方法で、酸化還元酵素の存在下にモノマーを酸化重合することで、重量平均分子量が3000以下である低分子量のナフタレン重合体を効率よく得ることができる。
【0025】
本製造方法で用いる酸化還元酵素は、酸化重合能を有する酵素であり、オキシダーゼ又はペルオキシダーゼが好ましい。これらオキシダーゼ、ペルオキシダーゼは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
オキシダーゼとしては、例えば、ラッカーゼ、カテコールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、チロシナーゼ及びポリフェノールオキシダーゼ等を挙げることができ、これらの中でも、ラッカーゼが好ましい。本発明において、用いるオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
ラッカーゼは、植物、動物及び微生物に広く存在することが知られており、種々の起源のものを用いることができるが、植物由来、微生物由来のラッカーゼが好ましい。
【0028】
植物由来のラッカーゼとしては、漆の木由来のラッカーゼが好ましい。また、微生物由来のラッカーゼとしては、細菌、真菌(糸状菌及び酵母を含む)に由来するものが好ましいものとして挙げられるが、真菌のうち白色腐朽菌等の担子菌類や子のう菌類に由来するラッカーゼが、特に好ましいものとして挙げられる。
【0029】
このような、特に好ましいラッカーゼとしては、アスペルギルス(Aspergillus)属;ニューロスポラ(Neurospora)属;ピリキュラリア・オリザエ(P.oryzae)等のピリキュラリア(Pyricularia)属;トラメテス・ビローサ(T.villosa)、トラメテス・バーシカラー(T.versicolor)等のホウロクタケ(Trametes)属;リゾクトニア・ソラニ(R.solani)等のリゾクトニア(Rhizoctonia)属;コプリヌス・シネレウス(C.cinereus)等のコプリヌス(Coprinus)属;コリオルス・ヒルスツス(C.hirsutus)、コリオルス・バーシカラー(C.versicolor)等のコリオルス(Coriolus)属に由来するものが挙げられる。
また、市販されているラッカーゼとしては、例えば、「ラッカーゼダイワ EC−Y120」(商品名;大和化成株式会社製)等が挙げられる。
【0030】
本発明において、これらのラッカーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ペルオキシダーゼとしては、前記と同様種々の起源のものを用いることできるが、植物由来、細菌由来あるいは担子菌由来のものが好ましく、西洋ワサビ由来又は担子菌由来のものが特に好ましい。このようなペルオキシダーゼとして、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ、リグニンペルオキシダーゼが好ましく、マンガンペルオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0031】
また、本発明において、これらのペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0032】
マンガンペルオキシダーゼとしては、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
本製造方法において、酸化還元酵素としてマンガンペルオキシダーゼを用いる場合には、重合反応時に2価マンガンを用いる必要がある。
【0034】
2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物であれば、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
【0035】
また、2価マンガンの添加量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよい。
【0036】
西洋ワサビペルオキシダーゼとしては、例えば、SIGMA−ALDRICH社製P6140,P9568,P2649,P2088等、Fluka社製77330,77332等、和光純薬株式会社製169−10791等を挙げることができる。これらの西洋ワサビペルオキシダーゼは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
これらの酸化還元酵素のなかで、より均質な分子量のナフタレン重合体が得られる点で、オキシダーゼが、さらにラッカーゼが好ましいものとして挙げられる。
【0038】
酸化還元酵素を用いた反応では、酸化剤を用いるが、酸化カップリングを生起させる酸化剤であればよく、一般的には過酸化物が用いられる。過酸化物は有機過酸化物および無機過酸化物のいずれでも良い。特に好ましいものとして、過酸化水素を挙げることができる。なお過酸化物の濃度は特に限定されない。この場合、過酸化物の使用量は、ジヒドロキシナフタレン1モル当たり0.3〜10倍モルであり、好ましく0.5〜5倍モルである。過酸化物は、反応混合物中に、一度に加えても良いが、酵素の活性を保持するために、分割して加える方が好ましい。
ラッカーゼなどのオキシダーゼを酸化還元酵素として使用する時には、酸化剤として分子状酸素を用いることができる。この場合の酸素としては、純酸素のほか、空気あるいは酸素と不活性ガスとの混合物の形で用いることができる。これらは、反応混合物中に吹き込んでも良いが、単に重合雰囲気中に存在させるだけでも良い。
【0039】
これら酸化還元酵素の使用量は、用いる該酵素の酵素活性により適宜調整すればよいが、原料であるモノマーに対して、過剰量使用することが、後述する工程2における抽出分が多くなるため好ましい。酸化還元酵素の反応液中での濃度は2μmol/L以上が好ましく、20μmol/L以上が特に好ましい。
【0040】
また、反応条件は、基質濃度、酸化還元酵素の種類及び濃度に応じて適宜調整すればよいが、反応温度は比較的低温に設定することができ、5〜70℃とすることが好ましく、20〜60℃とすることが特に好ましい。pHは酸化還元酵素の種類に応じて適宜調整すればよいが、pH3.0〜8.0が好ましく、pH3.5〜7.0がより好ましい。また反応時間は30分〜24時間が好ましく、1時間〜20時間がより好ましい。また、反応時の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。
本工程は、前記の条件を満たす攪拌条件であれば、水浴中又は気流中のいずれでおこなってもよい。
【0041】
本製造方法においては、重合反応後の反応液の後処理の方法は特に限定されず、従来公知の方法を適用すれば良い。即ち、例えば、不溶物を除去した後、溶媒を留去してナフタレン重合体を取り出しても良いし、反応液に新たに溶媒を添加してナフタレン重合体を析出させて取り出すこともできる。
◎製造方法2
本発明のナフタレン重合体の製造方法は、ジヒドロキシナフタレンを、水又は水溶液中で、あるいは水又は水溶液と有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に酸化重合する工程と、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程とを有しており、得られるナフタレン重合体は、前記一般式(1)及び(3)又は一般式(2)及び(4)で表される繰返し単位を有し、重量平均分子量が3000以下であることを特徴とする。
【0042】
本製造方法では、酸化還元酵素の存在下にモノマーを酸化重合し、反応後に溶媒抽出を行うことにより、重量平均分子量が3000以下である低分子量のナフタレン重合体を、より効率よく得ることができる。
【0043】
重合工程の条件は、製造方法1で述べた条件を適用すれば良く、以下に抽出工程について述べる。
(抽出工程)
本製造方法においては、重合工程に続いて、該工程で得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程を行う。溶媒抽出を行うことにより、重量平均分子量が3000以下である低分子量のナフタレン重合体を効率よく得ることができる。
【0044】
重合工程で得られた反応生成物は、目的物であるナフタレン重合体とその他の不純物との混合物である。抽出工程では、この混合物を含む反応液中からナフタレン重合体を溶媒抽出する。
【0045】
抽出工程で用いる抽出溶媒は、有機溶媒が好ましく、なかでも、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系溶媒、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、n−ブタノール等のアルコール系溶媒が好ましいが、特に、酢酸エステル系溶媒が好ましい。
【0046】
ナフタレン重合体の抽出は、例えば、重合工程終了後の反応生成物に、前記抽出溶媒を添加して撹拌し、有機層を分離することで行うことができる。
【0047】
この時の抽出溶媒の添加量は特に限定されるものではないが、通常、得られるナフタレン重合体に対して5〜100倍量(v/w)であることが好ましく、抽出温度は室温であることが好ましい。
【0048】
また、抽出溶媒添加後の溶液の撹拌方法は特に限定されず、振盪、回転子又は攪拌翼を用いた攪拌のいずれでもよい。
【0049】
一方、重合工程終了後に反応液が二層分離する場合は、有機層をそのまま抽出液としてもよい。即ち、反応に用いた有機溶媒をそのまま抽出溶媒とすることができる。
【0050】
この場合の抽出温度、抽出時の撹拌方法等の抽出条件は、重合工程終了後に抽出溶媒を添加した場合と同じ条件を適用すればよい。
【0051】
本発明の低分子量のナフタレン重合体は、有機溶媒への溶解度が大きいため、上記のように、重合工程で得られた反応生成物から溶媒抽出する際は、抽出溶媒として用いる有機溶媒量を少なくすることができ、低分子量のナフタレン重合体を効率よく抽出することができる。
【0052】
また、前記一般式(1)又は(3)で表される繰返し単位を多く有するナフタレン重合体の方が、前記一般式(2)又は(4)で表される繰返し単位を多く有するナフタレン重合体よりも、前記抽出溶媒、特に酢酸エチルに対する溶解度が大きいため、低分子量のナフタレン重合体としてより効率よく得ることができる。
【0053】
また、本発明のナフタレン重合体の製造方法では、製造方法1〜2のいずれにおいても、重量平均分子量が3000以下である低分子量のナフタレン重合体が得られるが、前記ジヒドロキシナフタレンの重合体も好適に得られる。
【0054】
本発明で用いられるジヒドロキシナフタレンの好ましい化合物として、その重合体が、後述する高屈折率材料として好ましい特性を示すことから、1,5−ジヒドロキシナフタレン、又は2,7‐ジヒドロキシナフタレンを挙げることができるが、これらに限られない。
【0055】
次に、本発明で得られるナフタレン重合体は高屈折率材料として用いることができる。本発明のナフタレン重合体は、屈折率が1.550以上、好ましくは1.600以上である。ナフタレン重合体単体の屈折率が測定できない場合は、適当な溶媒に溶解した溶液状態での屈折率から、ナフタレン重合体単体の屈折率を外挿することができる。光学分野等で屈折率調整剤として使用するには、色相、光線透過率等の透明性に優れることが重要である。
【0056】
本発明のナフタレン重合体は、屈折率調整剤として他の樹脂に配合して屈折率が高められた樹脂組成物とすることができる。上記他の樹脂としては、ナフタレン重合体に対し0.001以上、好ましくは0.01以上の屈折率の差がある樹脂が挙げられる。かかる樹脂としては、ナイロン66、ポリアセタール、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、MMA樹脂、AS樹脂、石油樹脂等が挙げられる。ナフタレン重合体の配合量は1〜60質量%、好ましくは5〜50質量%程度である。
本発明の製造方法で得られるナフタレン重合体は、樹脂組成物によって様々な特性を有するが、その特性に応じて、光学材料をはじめとして各種成形品として広範な分野において有用である。
【実施例】
【0057】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)ラッカーゼを用いた製造方法1による2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
反応溶媒として、50mmol/Lリン酸緩衝液(pH4.5)にイソプロピルアルコールを50体積%となるように混合した混合溶媒600mLを調製した。この混合溶媒に、原料として2,7−ジヒドロキシナフタレンを9.6g(100mmol/L)、ラッカーゼを18g添加して、通気量0.15L/minで空気を吹き込みながら反応温度30℃で8時間重合反応を行った。この時の2,7−ジヒドロキシナフタレンの反応率は99.8%であった。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収し、酢酸エチル100mLに溶解させ、蒸留水で水洗後、酢酸エチルを留去して、目的物である2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.6g得た(収率100%)。
【0059】
得られた2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が2100、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.33であった。水酸基当量は162g/eqであった。
【0060】
(実施例2)ラッカーゼを用いた製造方法2による2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における製造方法1を製造方法2に変更して酢酸エチルで抽出する工程を、重合反応後に行った他は、実施例1と同様にして、目的物である2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
【0061】
得られた2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が2100、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.33であった。水酸基当量は162g/eqであった。
【0062】
(実施例3)ラッカーゼを用いた製造方法1による1,5−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における2,7−ジヒドロキシナフタレンを、1,5−ジヒドロキシナフタレンに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である1,5−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
【0063】
得られた1,5−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が1320、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.58であった。水酸基当量は162g/eqであった。
【0064】
(実施例4)ラッカーゼを用いた製造方法2による2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における反応溶媒イソプロピルアルコールを、メタノールに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体を5.7g得た(収率59%)。
【0065】
得られた2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が1300、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.30であった。水酸基当量は159g/eqであった。
【0066】
(実施例5)ラッカーゼを用いた製造方法2による1,6−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における2,7−ジヒドロキシナフタレンを、1,6−ジヒドロキシナフタレンに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である1,6−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が4400、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.44であった。水酸基当量は251g/eqであった。
【0067】
(実施例6)ラッカーゼを用いた製造方法2による1,7−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における2,7−ジヒドロキシナフタレンを、1,7−ジヒドロキシナフタレンに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である1,7−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
得られた1,7−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が2800、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.99であった。水酸基当量は223g/eqであった。
【0068】
(実施例7)ラッカーゼを用いた製造方法2による2,3−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における2,7−ジヒドロキシナフタレンを、2,3−ジヒドロキシナフタレンに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である2,3−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
得られた2,3−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が8800、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.97であった。水酸基当量は484g/eqであった。
【0069】
(実施例8)ラッカーゼを用いた製造方法2による2,6−ジヒドロキシナフタレン重合体の製造
上記実施例1における2,7−ジヒドロキシナフタレンを、2,6−ジヒドロキシナフタレンに変更した他は、実施例1と同様にして、目的物である2,6−ジヒドロキシナフタレン重合体を9.5g得た(収率99%)。
得られた2,6−ジヒドロキシナフタレン重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が4900、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.29であった。水酸基当量は144g/eqであった。
【0070】
(実施例9)2,7−ジヒドロキシナフタレンと2−ナフトールの共重合体の製造
反応溶媒として、50mmol/L酢酸緩衝液(pH4.5)にイソプロピルアルコールを50体積%となるように混合した混合溶媒600mLを調製した。この混合溶媒に、原料として2,7−ジヒドロキシナフタレンの4.8g(50mmol/L)と2−ナフトールの4.3g(50mmol/L)を仕込み、ラッカーゼを18g添加して、通気量0.15L/minで空気を吹き込みながら反応温度30℃で8時間重合反応を行った。この時の2,7−ジヒドロキシナフタレンと2−ナフトールの残存率はそれぞれ0.1%以下であった。反応終了後、遠心分離により沈殿を回収し、酢酸エチル100mLに溶解させ、蒸留水で水洗後、酢酸エチルを留去して、9.0gの固形物を得た(収率99%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が1400、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.27であった。
【0071】
(実施例10)2,7−ジヒドロキシナフタレンと5−ヒドロキシインダンの共重合体の製造
実施例9における2−ナフトールの4.3gを5−ヒドロキシインダンの4.0gに変更した他は、実施例9と同様にして、8.7g固形物を得た(収率99%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が1600、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.34であった。
【0072】
(実施例11)2,7−ジヒドロキシナフタレンと4−ヒドロキシフェニルメタクリルアミドの共重合体の製造
実施例9における2−ナフトールの4.3gを4−ヒドロキシフェニルメタクリルアミドの5.3gに変更した他は、実施例9と同様にして、10.1g固形物を得た(収率100%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が2700、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.41であった。
【0073】
(実施例12)2,7−ジヒドロキシナフタレンと4−ヒドロキシフェニルエチルアクリレートの共重合体の製造
実施例9における2−ナフトールの4.3gを4−ヒドロキシフェニルエチルアクリレートの5.8gに変更した他は、実施例9と同様にして、10.5g固形物を得た(収率99%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が2800、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.74であった。
【0074】
(実施例13)2,7−ジヒドロキシナフタレンとバニリルアルコールアクリル酸エステルの共重合体の製造
実施例9における2−ナフトールの4.3gをバニリルアルコールアクリル酸エステルの6.2gに変更した他は、実施例9と同様にして、10.9gの固形物を得た(収率99%)。
得られた生成物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が1600、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.43であった。
【0075】
(実施例14)
実施例1で得られた2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて、固形分含有率50wt%の2,7−ジヒドロキシナフタレン重合体/DMF溶液を調製した。アプリケータを使用してガラス板上に塗布し、加熱乾燥後、キャスト膜を得た。膜厚は3.6μmであった。屈折率(nD25)を測定した結果、1.610であった。
【0076】
(実施例15)
実施例3で得られた1,5−ジヒドロキシナフタレン重合体を実施例14と同様にして屈折率を測定したところ、膜厚は3.4μmであり、屈折率(nD25)を測定した結果、1.590であった。
(実施例16)〜(実施例24)
実施例5から13で得られたジヒドロキシナフタレン重合体および共重合体をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させて、固形分含有率50wt%のDMF溶液を調製した。アプリケータを使用してガラス板上に塗布し、加熱乾燥後、キャスト膜を得た。膜厚および屈折率(nD25)を測定した結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(比較例1)非特許文献1による方法
◎西洋わさびペルオキシダーゼを用いた製造方法1による1−ナフトール重合体の製造
反応溶媒として、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)にメタノールを50体積%となるように混合した混合溶媒1000mLを調製した。この混合溶媒に、原料として1−ナフトールを1.44g(10mM)、西洋わさびペルオキシダーゼを12g添加して、反応温度30℃で6時間重合反応を行った。その際、30%過酸化水素水をテフロン(登録商標)チューブで接合したシリンジにとり、シリンジポンプを用いて反応液に滴下した。
反応終了後、遠心分離により沈殿を回収、水洗の後、沈殿を凍結乾燥した後、酢酸エチル100mlに室温にて溶解し、酢酸エチルを留去して、目的物である1−ナフトールポリマーを1.44g得た(収率100%)。
【0079】
得られた1−ナフトール重合体をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により分子量測定を行ったところ、重量平均分子量(Mw)が18000、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.20であった。
以上のように、本発明のジヒドロキシナフタレンを用いた本発明の製造方法により、重量平均分子量が3000以下であるナフタレン重合体を、簡便に製造できることが確認され、これらの重合体は高い屈折率を有することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の製造方法により、重量平均分子量が3000以下であるナフタレン重合体を提供できる。また、当該ナフタレン重合体は、高屈折材料の原料として有用であり、各種光学材料としての用途がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)、(2)、(3)又は(4)
【化1】

で表される構造を繰り返し単位として有する高屈折率材料用ナフタレン重合体。
【請求項2】
前記一般式(1)〜(4)で表される構造が、1,5−ジヒドロキシナフタレン又は2,7‐ジヒドロキシナフタレンから由来する構造である請求項1に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体。
【請求項3】
一般式(1)、(2)、(3)又は(4)
【化2】

【化3】

で表される構造を繰り返し単位として有する高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造において、
一般式(1)〜(4)で表される繰り返し単位を構成するジヒドロキシナフタレンを、水中で、あるいは水と一種以上の有機溶媒との混合溶媒中で、酸化還元酵素の存在下に重合する工程を有する高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項4】
前記重合する工程の後に、得られた重合反応生成物を溶媒抽出する工程を有する請求項3に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項5】
前記酸化還元酵素が、オキシダーゼ又はペルオキシダーゼである請求項3又は4のいずれか一項に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項6】
前記オキシダーゼ又はペルオキシダーゼが、マンガンペルオキシダーゼ、西洋わさびペルオキシダーゼ及びラッカーゼからなる群より選ばれる一種以上である請求項5に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項7】
前記重合する工程における混合溶媒に用いる一種以上の有機溶媒が水溶性有機溶媒を含む請求項3乃至6のいずれか一項に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性有機溶媒が水溶性アルコール類である請求項7のいずれか一項に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性アルコール類が、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールである請求項8に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。
【請求項10】
前記重合反応生成物の溶媒抽出に用いる溶媒が酢酸エステルである請求項4乃至9のいずれか一項に記載の高屈折率材料用ナフタレン重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−30022(P2009−30022A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131833(P2008−131833)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】