説明

高度演算装置および方法

【課題】 自機標高を高精度で求めることができる高度演算装置および方法を提供する。
【解決手段】 慣性航法演算手段3によって水平自機位置が取得され、自機標高演算手段6の地形標高抽出部7によって水平自機位置が地形データと照合されて水平自機位置に対応する地形標高が抽出される。また電波高度計5によって対地高度が取得され、自機標高演算手段6の加算部8によって地形標高と対地高度とが加算されて自機標高が演算される。さらに自機標高演算手段6のカルマンフィルタ9によって他の標高取得手段17によって取得される自機標高とハイブリッド処理し、精度を向上することができる。これによって気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算し、高精度に自機標高を求めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば航空機に搭載され、自機標高を演算して推定する高度演算装置および方法に関する。
【0002】
本発明において、用語「地表面」は、地球の表面を意味し、陸地の表面、ならびに海洋、河川および湖沼などの水域の表面を含む。
【背景技術】
【0003】
航空機は、自機標高を取得しながら、予め設定されている目標標高で飛行している。また航空機に搭載される航法扶助装置が知られており、この航法扶助装置では、自機の水平方向および鉛直方向の位置を検出し、この検出値から自機標高を求めて地表面の形状を表す地形データと比較しながら、衝突防止のための警告を発するように構成されている(たとえば特許文献1参照)。
【0004】
自機標高を取得する装置として、たとえば次の3つの装置が知られている。第1の装置は、気圧を計測して、その気圧から演算して標高を求める装置である。第2の装置は、電波高度計を用いて、鉛直下方の地表面までの距離を計測する装置である。第3の装置は、慣性センサを用いて検出される自機の加速度から慣性航法演算によって標高を算出し、これとグローバルポジショニングシステム(GPS)を用いて得られる標高とをハイブリッドさせて標高を求める装置である。
【0005】
【特許文献1】特開平6−24393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高度を取得する従来の第1の装置は、いわゆる気圧高度計であって、標準気圧に基づいて標高を演算しており、気圧の変化の影響を受けてしまうので、自機標高を高精度に求めることができない。たとえば離陸前に、その飛行場などの航空機が存在する位置に対応するジオイド面における気圧を求め、この気圧を用いて自機標高を補正することができるが、気圧は、時々刻々変化するので、航空機の移動に合せて補正に用いる気圧を逐次変更する必要があるが、この補正に用いる気圧の情報を得ることができず、自機標高を高精度に求めることができない。
【0007】
また高度を取得する従来の第2の装置は、いわゆる対地高度計であって、自機と自機の鉛直下方の地表面との相対的な距離である対地距離を計測することはできるが、地表面の地形標高を考慮することができない。したがって自機標高を求めることはできない。
【0008】
また高度を取得する従来の第3の装置は、慣性航法演算とGPSによる検出とをハイブリッドさせているが、慣性航法演算およびGPSの特性上、高精度で自機標高を求めることができない。具体的に述べると、慣性航法演算は、慣性センサ自体の検出精度が低く、決して高精度で標高を演算することができないし、GPSは、位置特定のための衛星が自機よりも上方側にしかないので、鉛直方向の位置に関しては検出精度が低く、決して高精度で標高を演算することができない。またジオイド面が完全な楕円体面ではなく凹凸を有しているのに対して、GPSの衛星軌道は楕円体面であり、その誤差分、精度が低くなってしまう。
【0009】
このように従来の技術では、自機の標高を高精度で求めることができず、自機の標高を高精度で取得できる技術が臨まれている。14000フィートを超えるの標高である高高度で飛行する場合には、自機標高の精度が要求されず、気圧高度計を用いて標準気圧に基づいて自機標高を求めているが、14000フィート以下の標高である低高度で飛行する場合には、高い精度が要求される。
【0010】
本発明の目的は、自機標高を高精度で求めることができる高度演算装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、水平面内における自機の位置である水平自機位置を取得する位置取得手段と、
自機と地表面との鉛直方向の距離である対地高度を取得する対地高度取得手段と、
地形標高を表す地形データを取得し、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出し、この地形標高と対地高度取得手段によって取得される対地高度とを加算して自機標高を演算する自機標高演算手段とを含むことを特徴とする高度演算装置である。
【0012】
本発明に従えば、位置取得手段によって水平自機位置が取得され、自機標高演算手段によって水平自機位置が地形データと照合されて水平自機位置に対応する地形標高が抽出される。また対地高度取得手段によって対地高度が取得され、自機標高演算手段によって地形標高と対地高度とが加算されて自機標高が演算される。これによって気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算することができる。したがって高精度に自機標高を演算することができる。
【0013】
また本発明は、地形標高を表す地形データを記憶する地形データ記憶手段をさらに含み、
自機標高演算手段は、地形データ記憶手段に記憶される地形データと、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出することを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、地形データ記憶手段を含んでおり、この地形データ記憶手段に記憶される地形データと、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出することができる。
【0015】
また本発明は、対地高度演算手段は、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理して補正することを特徴とする。
【0016】
本発明に従えば、対地高度演算手段によって、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高が、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理されて補正される。これによって自機標高の精度を向上することができる。
【0017】
また本発明は、対地高度演算手段は、カルマンフィルタを用いてハイブリッド処理することを特徴とする。
【0018】
本発明に従えば、対地高度演算手段では、カルマンフィルタを用いてハイブリッド処理される。これによって自機標高の精度向上を実現することができる。
【0019】
また本発明は、水平面内における自機の位置である水平自機位置を取得し、この水平自機位置を、地形標高を表す地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出する地形標高抽出工程と、
自機と地表面との鉛直方向の距離である対地高度を取得する高度取得工程と、
地形標高抽出工程で抽出される地形標高と、高度取得工程で取得される対地高度とを加算して自機標高を演算する自機標高演算工程とを含むことを特徴とする高度演算方法である。
【0020】
本発明に従えば、水平自機位置を取得し、この水平自機位置を地形データと照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出する。また対地高度を取得し、地形標高と対地高度とを加算して自機標高を演算する。これによって気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算することができる。したがって高精度に自機標高を演算することができる。
【0021】
また本発明は、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理して補正する補正工程をさらに含むことを特徴とする。
【0022】
本発明に従えば、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理して補正する。これによって自機標高の精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算することができる。したがって高精度に自機標高を演算することができる。
【0024】
また本発明によれば、地形データ記憶手段に記憶される地形データと、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出することができる。
【0025】
また本発明によれば、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高が、ハイブリッド処理されて補正される。したがって自機標高の精度を向上することができる。
【0026】
また本発明によれば、カルマンフィルタを用いてハイブリッド処理することができる。
また本発明によれば、気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算することができる。したがって高精度に自機標高を演算することができる。
【0027】
また本発明によれば、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、ハイブリッド処理して補正する。したがって自機標高の精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、本発明の実施の位置形態の高度演算装置1を含む飛行管理装置2を示すブロック図である。図2は、高度演算装置1による高度の演算を説明するための断面図である。高度演算装置1および飛行管理装置2は、たとえば固定翼機および回転翼機を含む航空機15に搭載される。高度演算装置1は、その航空機である自機15のジオイド面16からの高度である標高(以下「自機標高」という)H,HGEOを演算して推定する装置であり、飛行管理装置2は、高度演算装置1によって求められる自機標高H,HGEOを利用して航空機15を誘導する装置である。航空機15は、有人機であってもよいし、無人機であってもよい。
【0029】
高度演算装置1は、航法演算手段3と、地形データ記憶手段4と、電波高度計5と、自機標高演算手段6とを含む。自機標高演算手段6は、地形標高抽出部7と、加算部8と、カルマンフィルタ9とを含む。航法演算手段3は、位置取得手段であり、電波高度計5は、対地高度取得手段である。
【0030】
航法演算手段3は、たとえば慣性航法演算手段であり、自機15の加速度を検出するセンサを備え、そのセンサによって検出される加速度を積分演算して変位を算出し、その変位を累積して水平自機位置を求める。水平自機位置は、水平面内における自機15の位置、すなわち水平方向に関する自機の位置である。この水平自機位置は、たとえば緯度および経度によって表される。航法演算手段3は、水平自機位置を表す信号を地形標高抽出部7に与える。
【0031】
地形データ記憶手段4は、地形標高を数値で表すデータである地形データを記憶する。この地形データは、たとえば緯線および経線に沿うメッシュ状に区切られる領域の地形標高の代表値を有するデータである。地形標高は、地表面のジオイド面からの高度である。
【0032】
地形データとしては、各領域の1辺が30m、50m、250mなど、必要な精度に合せて用いることができる。各領域の1辺が小さいほど精度を高くすることができ、各領域の1辺が大きいほどデータ量を小さくできる。本実施の形態では、たとえば1辺が50mの地形データを用いる。また地形標高の代表値は、各領域の平均標高であってもよいし、最高標高であってもよい。安全性を高くするためには、代表値として最高標高が示されている地形データを用いることが好ましい。また建物などの人工物の存在が既知である場合には、その人工物の高さを加えるように地形データを補正しておいてもよい。これによってさらに精度の向上を図ることができる。
【0033】
電波高度計5は、自機から鉛直下方に電波信号を送信し、地表面で反射して戻ってくる反射信号を受信する。電波高度計5は、電波信号を送信してから反射信号を受信するまでの時間を計測し、その時間から対地高度Hを求める。対地高度Hは、自機と地表面との鉛直方向の距離である。電波高度計5は、対地高度Hを表す信号を加算部8に与える。
【0034】
地形標高抽出部7は、地形データ記憶手段4から地形データを読込み、航法演算手段3によって演算される水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高Hを抽出する。具体的には、水平自機位置と地形データとを比較し、航法演算手段3によって演算される水平自機位置が含まれる領域を抽出し、その領域の地形標高を取出す。このようにして水平自機位置に対応する地形標高Hを抽出する。地形標高抽出部7は、地形標高Hを表す信号を加算部8に与える。
【0035】
加算部8は、地形標高Hと対地高度Hとを加算し、自機標高Hを演算する。このようにして自機標高Hが演算して推定される。カルマンフィルタ9は、このようにして求められる自機標高Hを、この自機標高Hとは異なる他の原理によって求められる自機の標高を用いて、具体的には他の標高取得手段17によって取得される自機標高を用いて、ハイブリッド処理して補正する。つまり高度演算装置1の自機標高演算手段6では、地形照合によって演算される自機標高と、他の手段によって得られる自機の標高との差を逐次計算し、補正を加える。この補正によって、過去に演算された自機標高と新しく演算された自機標高とに統計的に重みを付けて積算し、求められる自機標高の精度を、演算して求める毎に向上させることができる。
【0036】
他の標高取得手段17は、たとえば慣性航法演算手段であってもよいし、グローバルポジショニングシステム(GPS)を利用する手段であってもよいし、その他の手段であってもよい。慣性航法演算手段を用いる場合、水平自機位置を取得するための慣性航法演算手段3を代用することもできる。
【0037】
カルマンフィルタ9で得られる自機標高は、高度演算装置1から出力される値であり、たとえば後述するように、自機の地形追従および回避飛行などの飛行管理のために用いられる。高度演算装置1における演算周期は、後段の飛行管理で必要とされる周期と同一であり、後段の飛行管理における処理に合せて自機標高を出力する。
【0038】
以下、理解を容易にするために、地形標高と対地高度を加算して求めた自機標高を計測標高Hといい、カルマンフィルタ9によって補正して得られる自機標高を補正標高HGEOという。
【0039】
図3は、高度演算装置1を用いて実行される高度演算方法を示すフローチャートである。図3は、実質的に、高度演算手段6の演算処理手順を示す。高度演算方法に従う動作は、航法演算手段3による水平自機位置の演算が可能でありかつ電波高度計5による対地高度の計測が可能な時点で開始することができ、動作が開始されると、ステップs0からステップs1に移行して、慣性航法演算手段3によって求められる水平自機位置を取得し、ステップs2で、地形データ記憶手段4から地形データを読込んで取得し、ステップs3で、自機位置に対応する地形標高を抽出する。このステップs1〜s3は、地形標高抽出部7によって実行される。
【0040】
次にステップs4で、電波高度計5によって計測される対地高度を取得し、ステップs5で、地形標高を地形標高抽出部7から取得して、これと対地高度を加算して計測標高H0を求める。このステップs4およびs5は、加算部8によって実行される。
【0041】
次にステップs6で、計測標高Hを加算部8から取得して補正し、補正標高HGEOを求め、ステップs7で、補正標高HGEOを出力して、ステップs8に移行して高度演算方法に従う動作が終了する。ステップs6およびs7は、カルマンフィルタ9によって実行される。
【0042】
図4は、カルマンフィルタ9における補正手順を示すフローチャートである。カルマンフィルタ9による補正手順は、大きく分けて、ステップa1のカルマンフィルタ9の初期化工程と、ステップa2の航法サイクル工程と、ステップa3の観測サイクル工程とを有する。
【0043】
カルマンフィルタ9の補正手順は、航法演算手段3による水平自機位置の演算が可能でありかつ電波高度計5による対地高度の計測が可能な時点で開始することができ、動作が開始されると、ステップa0からステップa1に移行する。ステップa1では、まず、図1を参照して説明したように加算部8で求められた計測標高Hに基づいて、その誤差分散である計測標高分散σ(確からしさ)を算出する。計測標高Hは、対地高度を計測する電波高度計5の誤差と、地形データが有する誤差とを含んでいるので、これらの誤差から求めた計測標高分散σを、式(1)によって算出する。
σ=σRA+σMAP …(1)
【0044】
ここでσRAは、電波高度計5による対地高度の計測誤差の分散である高度計誤差分散である。この高度計誤差分散σRAは、搭載する機器の精度に基づいて、対地高度などを引数として数式化しており、電波高度計5による計測毎に変化する。
【0045】
σMAPは、地形データ誤差の分散である。地形データは、前述のように、所定の範囲、たとえば50m四方の領域の代表値であり、その領域内の凹凸による誤差を含んでいる。地形データの誤差の分散(以下「地形データ誤差分散」という)σMAPは、このような地形データの誤差の分散であり、用いる地形データの精度として与えられる。
【0046】
次に、補正パラメータを初期化する。換言すれば、補正に用いるパラメータである航法高度誤差ΔHおよび補正標高誤差分散σの初期値を設定する。航法高度誤差ΔHは、前述のような地形標高と対地高度の加算とは異なる原理を利用する他の標高取得手段17によって求められる自機の標高(以下「自機高度」という)HNAVが、実際の自機の標高に対して有する誤差の推定値である。取得補正標高誤差分散σは、航法高度誤差ΔHの推定値の誤差分散(推定の確からしさ)である。航法高度誤差ΔHおよび取得補正標高誤差分散σの初期値を、式(2)および式(3)のように設定する。
ΔH=HNAV−H …(2)
σ=σ …(3)
【0047】
このように航法高度誤差ΔHおよび補正標高誤差分散σの初期値を設定すると、ステップa1の初期化工程を終了する。
【0048】
ステップa2では、補正標高HGEOおよび補正標高誤差分散σを求める。補正標高HGEOは、カルマンフィルタ9から出力される値である。この補正標高HGEOは、式(4)によって求める。
GEO=HNAV−ΔH …(4)
【0049】
この補正標高HGEOは、自機高度HNAVを含んでいる。この自機高度HNAVが自機15の上昇および下降を考慮しているので、補正標高HGEOは、式(4)で表されるように、自機15の上昇および下降に応じて変化する。
【0050】
また補正標高HGEOの推定精度である補正標高誤差分散σを、次のようにして求める。自機標高HNAVを求める前記他の標高取得手段17は、補正標高HGEOの算出に関係なく誤差が変化するので、その変化量を考慮して、補正標高HGEOの推定の確からしさ、すなわち補正標高誤差分散σも変化させる必要がある。この補正標高誤差分散σは、式(5)によって、旧補正標高誤差分散σOLDを用いて、新補正標高誤差分散σNEWを求める。つまり、補正標高誤差分散σを更新する。
【0051】
ここで添え字OLDは、変化前(更新前)、すなわち現在の値であることを示し、添え字NEWは、変化後(更新後)、すなわち新たに求められる値であることを示す。これらの添え字「OLD」および「NEW」は、補正標高誤差分散σ以外に、航法高度誤差ΔHに関しても、同様の意味で添える場合がある。また新旧に拘わらずに補正標高誤差分散および航法高度誤差を示す場合には、添え字を省略してσおよびΔHとそれぞれ示す。
σNEW=σOLD+(dt×σND …(5)
【0052】
ここでσNDは、単位時間あたりに変化する前記他の標高取得手段17による取得誤差であり、搭載する手段の精度によって与えられる。dtは、補正標高誤差分散σを求める時間間隔(時間の単位)である。
【0053】
このように補正標高HGEOおよび補正標高誤差分散σを求めると、ステップa2の航法サイクル工程を終了する。
【0054】
ステップa3では、補正標高誤差分散σおよび航法高度誤差ΔHを更新する。高度演算装置1では、前述の演算周期で電波高度計5によって対地高度Hが計測しており、この周期で計測標高Hを求めると、計測標高誤差分散σを求め、その計測標高Hおよび計測標高誤差分散σから、航法高度誤差ΔHおよび補正標高誤差分散σを、より確からしい値に更新する。つまり新たな計測が行われて、計測標高Hが求められると、補正標高HGEOの演算精度および確からしさが高くなるので、航法高度誤差ΔHにフィードバックする。
【0055】
まず、加算部8によって計測標高Hを求めると、前記式(1)を用いて、同様に計測標高誤差分散σを求める。次に計測標高誤差分散σから次のような式(6)を用いる統計的な計算によって、補正標高誤差分散σを更新する。更新された新補正標高誤差分散σNEWは、新たな計測に基づく計測標高Hの取得に基づいて、新たな補正標高HGEOの確からしさを示す情報である。
σNEW=σOLD−(σOLD/(σOLD+σ
…(6)
【0056】
次に、航法高度誤差ΔHを更新する。航法高度誤差ΔHは、求められる計測標高Hおよび補正標高HGEOとの差分を、補正標高誤差分散σと、計測標高誤差分散σとに基づいて、フィードバックすることによって、更新する。航法高度誤差ΔHは、式(7)を用いて更新する。これによって、過去の推定の確からしさ(補正標高誤差分散σ)に対して、新たな計測による確からしさ(計測標高誤差分散σ)に重みをつけて、航法高度誤差ΔHを新たに求めることができる。
ΔHNEW=ΔHOLD+(σ/σ)×(H0OLD−HGEO
…(7)
【0057】
このように補正標高誤差分散σおよび航法高度誤差ΔHを更新すると、ステップa3の計測サイクル工程を終了し、再びステップa2に移行する。つまり以降、ステップa2の航法サイクル工程とステップa3の計測サイクル工程とを、繰り返して補正標高HGEOを演算する。
【0058】
このようにカルマンフィルタ9では、高度演算装置1による演算動作が開始されると、最初に計測標高Hが求められたとき、航法高度誤差ΔHと補正標高誤差分散σとの初期値を設定する。そして初期値の航法高度誤差ΔHから補正標高HGEOを求めるとともに、補正標高誤差分散σを更新する。以降、計測標高Hが求められる毎に、航法高度誤差ΔHと補正標高誤差分散σとを更新しながら、更新される航法高度誤差ΔHから補正標高HGEOを求める。
【0059】
飛行管理装置2は、前述の高度演算装置1の構成に加えて、飛行計画作成手段10、飛行管理手段11および誘導表示手段12を含む。飛行計画作成手段10は、たとえばパイロットなどによって入力される、出発地点から目標地点まで低高度でかつ所定の距離以上の対地距離を保って飛行する経路を、飛行計画として作成する。この飛行計画を表す信号を飛行管理手段11に与える。
【0060】
飛行管理手段11には、高度演算装置1によって推定される自機標高を表す信号がカルマンフィルタ9から与えられるとともに、水平面内の自機位置を表す信号が与えられる。水平面内の自機位置を表す信号は、航法演算手段3から与えられてもよいし、GPSを利用して水平面内の自機位置を求める手段から与えられてもよい。
【0061】
飛行管理手段11は、自機標高と、水平面内の自機位置に基づいて、自機の3次元的な位置を把握し、飛行計画の経路とを比較しながら、自機が飛行計画の経路に沿って飛行できるように誘導する表示内容を指示する信号を誘導表示手段12に与える。誘導表示手段12は、指示される表示内容の誘導表示をする。
【0062】
本実施の形態によれば、慣性航法演算手段3によって水平自機位置が取得され、自機標高演算手段6によって水平自機位置が地形データと照合されて水平自機位置に対応する地形標高Hが抽出される。また電波高度計5によって対地高度Hが取得され、自機標高演算手段6によって地形標高Hと対地高度Hとが加算されて自機標高H,HGEOが演算される。これによって気圧などの時々刻々変化する物理量を用いることなく、かつ地形を考慮して、自機標高を演算することができる。したがって高精度に自機標高H,HGEOを演算することができる。
【0063】
したがって低高度で飛行する場合のように、地表面に接近して飛行する場合に、地形追従飛行および障害物回避飛行を、高精度に達成することができる。特に低高度で飛行すべき状況は、たとえばレーダなどの監視手段への曝露を防止するために、山岳によって監視手段から隠蔽される領域を飛行する状況、またたとえば監視および調査の目的で、火山活動および災害の現場付近を飛行する状況などであり、できるだけ地表面に接近して飛行することが好ましく、自機標高の精度を高くすることによって、地表面により接近して飛行することが可能になる。本実施の形態では、たとえば100フィート以下の高精度を実現することができる。
【0064】
また地形データ記憶手段4を含んでおり、この地形データ記憶手段4に記憶される地形データと、慣性航法演算手段3によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高Hを抽出することができる。地形データは、たとえば基地局などから送信される地形データを受信して取得する構成としてもよいが、低高度で飛行する場合には、山岳などの遮蔽物によって受信困難な状況になる場合があるので、記憶手段に記憶しておくことによって、このような不具合を防ぐことができる。
【0065】
また本発明によれば、対地高度演算手段によって、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高が、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理されて補正される。具体的にはカルマンフィルタを用いてハイブリッド処理される。これによって高精度の自機標高HGEOを求めることができる。前述のように、演算する毎に精度が高くなるように精度の向上を図ることができる。
【0066】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、構成を変更することができる。たとえば位置取得手段として、慣性航法演算手段3に代えて、GPSを利用する手段またはこれら以外の手段ならびにこれらをハイブリッドさせた手段であってもよい。また対地高度手段手段として、電波高度計5に代えてレーザ高度計など、他の測距手段を含む高度計を用いてもよい。もちろん地形データ記憶手段4は、必須の構成ではなく、地形データは、受信する構成にしてもよい。また本発明としては、カルマンフィルタ(ハイブリッド処理手段)を備えていない構成であってもよい。
【0067】
また求めた自機標高H,HGEOは、飛行管理手段に与えて誘導表示に用いるのではなく、単に、表示するようにしてもよい。また飛行管理手段は、単に、誘導表示するだけではく、操舵手段を制御する構成として、自動操縦を達成してもよい。特に無人機では、この構成が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の位置形態の高度演算装置1を含む飛行管理装置2を示すブロック図である。
【図2】高度演算装置1による高度の演算を説明するための断面図である。
【図3】高度演算装置1を用いて実行される高度演算方法を示すフローチャートである。
【図4】カルマンフィルタ9における補正手順を示すフローチャートである。
【図5】補正標高HGEOと航法高度誤差ΔHとを示す断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 高度演算装置
2 飛行管理装置
3 慣性航法演算手段
4 地形データ記憶手段
5 電波高度計
6 自機標高演算手段
7 地形標高抽出部
8 加算部
9 カルマンフィルタ
17 高度取得手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面内における自機の位置である水平自機位置を取得する位置取得手段と、
自機と地表面との鉛直方向の距離である対地高度を取得する対地高度取得手段と、
地形標高を表す地形データを取得し、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出し、この地形標高と対地高度取得手段によって取得される対地高度とを加算して自機標高を演算する自機標高演算手段とを含むことを特徴とする高度演算装置。
【請求項2】
地形標高を表す地形データを記憶する地形データ記憶手段をさらに含み、
自機標高演算手段は、地形データ記憶手段に記憶される地形データと、位置取得手段によって取得した水平自機位置を地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出することを特徴とする請求項1記載の高度演算装置。
【請求項3】
対地高度演算手段は、地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理して補正することを特徴とする請求項1または2記載の高度演算装置。
【請求項4】
対地高度演算手段は、カルマンフィルタを用いてハイブリッド処理することを特徴とする請求項3記載の高度演算装置。
【請求項5】
水平面内における自機の位置である水平自機位置を取得し、この水平自機位置を、地形標高を表す地形データに照合して、水平自機位置に対応する地形標高を抽出する地形標高抽出工程と、
自機と地表面との鉛直方向の距離である対地高度を取得する高度取得工程と、
地形標高抽出工程で抽出される地形標高と、高度取得工程で取得される対地高度とを加算して自機標高を演算する自機標高演算工程とを含むことを特徴とする高度演算方法。
【請求項6】
地形標高と対地高度とを加算して求められる自機標高を、他の原理によって求められる自機の標高を用いてハイブリッド処理して補正する補正工程をさらに含むことを特徴とする請求項5記載の高度演算方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−138697(P2006−138697A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−327537(P2004−327537)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成14年度、防衛庁、研究委託、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】