説明

高強度グラウト材

【課題】高い流動性と良好な強度発現性を兼ね備えたグラウト材を提供する。
【解決手段】セメント100重量部と、下記(a)〜(d)の性状を有するシリカフュームを15〜50重量部、細骨材0〜200重量部、減水剤0.1〜0.8重量部、および水を含有する高強度グラウト材。
(a)平均粒子径が0.5〜2.0μm
(b)BET法比表面積が2〜15m2/g
(c)950℃での強熱減量が1.0重量%以下
(d)60%水スラリーの20℃でのpHが2.5〜7.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い流動性および強度発現性をグラウトに付与するためのグラウト用混和材、および該混和材を含むグラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
グラウト材とは、地盤、構造物周辺、部材間の隙間や継目、補強鋼材のまわりの狭い間隙や空洞部を止水、補強、鋼材保護、安定化などの目的のために充填する、流動性のよい充填材料である。
グラウト材の性能としては、「強度発現性」が求められるとともに、隙間をあけずに空間を充填できるために、及び良好な作業性(ポンプ圧送性)のために、「高い流動性」が要求され、ポンプ圧送時の閉塞防止や充填後の安定した強度発現のために、「混練水がブリーディングしないこと」、「細骨材が分離しないこと」が求められる。
これらの性能を満たすものとして、セメント、シリカフュームを代表とするポゾラン物質、細骨材およびポリカルボン酸系等の減水剤を配合したグラウト材(例えば特許文献1、特許文献2)が提案されている。
【0003】
しかしながら、一般的なシリカフューム、すなわちセメント業界で使用されるシリカフュームの約9割を占めるフェロシリコン起源のシリカフュームは、多量の未燃カーボンを含むため、未燃カーボンが減水剤成分を吸着し、減水剤の効果が大きく低下する。しかし、上記従来技術のような比較的多い減水剤量、あるいはさらに過剰の減水剤量を使用した場合、グラウト材中の混練水のブリーディング、セメントペースト分と骨材の材料分離が生じる恐れがある。また、フェロシリコン起源のシリカフュームは、粒子径が小さく、比表面積が大きいため、これを使用する場合グラウト材の流動性確保のために比較的多量の水の添加が必要となり有効な強度発現ができなくなる。さらに、一般的に使用されるシリカフュームは、通常、水中でのpHが高いため、凝集して二次粒子を生成し、やはりグラウト材の流動性は低下する。
従って、一般的に使用されるフェロシリコン起源のシリカフュームでは、高い流動性の高強度グラウト材を得ることは容易ではない。
また、一般的なグラウトの混練には、コンクリートミキサーよりもトルクの小さいハンドミキサーやグラウトミキサーが使用され、簡便な装置による容易な混練性が要望される。しかしながら、特許文献1のグラウト材は混練性が不十分なためか、その製造においてコンクリートミキサーを使用することが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−240452号公報
【特許文献2】特開平11−49549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、減水剤添加量が低くても、高い流動性と良好な強度発現性を兼ね備え、かつ簡便な装置による容易な混練性を有するグラウト材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、未燃カーボン含有量(950℃での強熱減量)が少なく、特定範囲のpH、粒子径を有するシリカフュームを用いることで、減水剤添加量が低くても高い流動性であり、良好な強度発現性のグラウト材が得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は
(1)セメント100重量部と、下記(a)〜(d)の性状を有するシリカフュームを15〜50重量部、細骨材0〜200重量部、減水剤0.1〜0.8重量部、および水を含有する高強度グラウト材;
(a)平均粒子径が0.5〜2.0μm
(b)BET法比表面積が2〜15m2/g
(c)950℃での強熱減量が1.0重量%以下
(d)60%水スラリーの20℃でのpHが2.5〜7.0
(2)水/セメント比が20〜40重量%である(1)の高強度グラウト材;
を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明で使用するシリカフュームは、未燃カーボン含有量(950℃での強熱減量)が少なく、pH、粒子径が特定の範囲内にあるため、減水剤の効果が発現しやすく、分散性に優れ、減水剤添加量が低くても高い流動性(すぐれた充填性、作業性)が確保でき、良好な強度発現性を有するグラウト材を与える。また、本発明の高強度グラウト材は、混練性が大幅に改善され、ハンドミキサーやグラウトミキサーを利用しても十分に混練が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用するシリカフュームは、(a)平均粒子径が0.5〜2.0μm;(b)BET法比表面積が2〜15m2/g;(c)950℃での強熱減量が1.0重量%以下;(d)60%水スラリーの20℃でのpHが2.5〜7.0という性状を有する。
【0009】
本発明で使用するシリカフュームの(a)平均粒子径は0.5〜2.0μmであり、より好ましくは0.7〜1.5μmである。平均粒子径が0.5μm以下であると流動性が低下し、充填性、作業性の確保が困難であり、2.0μm以上であるとブリーディング、材料分離の発生、または、反応性、硬化体の緻密性(マイクロフィラー効果)の面で充分な強度発現を得ることが困難である。
また、本発明で使用するシリカフュームの(b)BET法による比表面積は2〜15m2/gであり、より好ましくは7〜12m2/gである。BET比表面積が2m2/g以下であるとブリーディング、材料分離の発生、または、反応性、硬化体の緻密性(マイクロフィラー効果)の面で充分な強度発現を得ることが困難であり、15m2/g以上であると流動性が低下し、充填性、作業性の確保が困難である。
【0010】
本発明で使用するシリカフュームの(c)950℃での強熱減量(未燃カーボン含有量)は1.0重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以下である。950℃での強熱減量(未燃カーボン含有量)が1.0重量%以下であると、減水剤成分が未燃カーボンに吸着されることが抑制できる。従って、減水剤の効果が十分に発現され、減水剤添加量が少ない配合であってもセメント粒子やシリカフュームの分散性が良好となり、グラウト材の流動性や強度発現性が良好となる。
【0011】
本発明で使用するシリカフュームの(d)60%水スラリーの20℃でのpHは2.5〜7.0であり、より好ましくは3.0〜5.0である。該pHが2.5以下であると予めセメントと混合した場合の安定性が低下し、該pHが7.0以上であると粒子が凝集し、2次粒子を形成しやすくなることで、シリカフュームの分散性の悪化によりグラウト材の流動性の低下が発生する。
【0012】
本発明で使用するシリカフュームは、上記(a)〜(d)の性状を満足するものであれば製法や原料物質等は特に限定されないが、通常、ジルコニア製造時の副産物であるシリカフュームにおいて、かかる性状を満たすものを見出しやすい。よって、主としてジルコニア起源のシリカフュームのバッチから(a)〜(d)の性状を満足するものを選別して本発明のグラウト材に使用するのが好ましい。
【0013】
上記シリカフュームのグラウト材への配合量は、グラウト材に要求されるワーカビリティー、強度、耐久性などの所望の性能を付与する量であり、セメント100重量部に対し、15〜50重量部含有させる。配合量が15重量部未満では増粘作用の低下のためにブリーディング、細骨材の分離が起こり、配合量が50重量部を超えるとグラウト材の流動性が低下する。
【0014】
本発明で使用するセメントは、特に限定されず、いずれのセメントも使用することができる。例えば、普通、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩など各種ポルトランドセメント、高炉セメントやフライアッシュセメントおよびシリカセメントなどの混合セメント、アルミナセメントやジェットセメントなどの超速硬セメント、アーウィン系セメントなどが挙げられる。
【0015】
本発明のグラウト材は、セメント、上記シリカフュームのほか、細骨材、減水剤、水および必要に応じ、膨張材、消泡剤、発泡剤などを含有する。
細骨材としては、粒径5.0mm以下の川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ骨材などが使用でき、セメント100重量部に対して0〜200重量部配合され、より好ましくは、50〜150重量部である。該細骨材量が200重量部を超えるとセメント量、シリカヒューム量が低下することとなり、安定的な高流動性、高強度が得られない。
【0016】
減水剤としては、公知の高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤等が使用できるが、高強度のグラウトを得るためには、高性能AE減水剤を使用することが好ましい。減水剤の添加量はセメント100重量部に対して0.1〜0.8重量部であり、より好ましくは、0.2〜0.6重量部である。該減水剤添加量が0.1重量部以下であると良好な流動性を得ることができず、0.8重量部を超えるとブリーディング、あるいは細骨材の分離が発生する。
【0017】
本発明のグラウト材において、水は、水/セメント比20〜40重量%で添加される。
【0018】
膨張材、消泡剤、発泡剤などは公知の材料、薬剤が特に制限なく使用できる。
【0019】
以下に本発明の実施例を挙げ、さらに詳しく本発明を説明する。
【0020】
実施例
(使用原材料)
セメント:早強ポルトランドセメント(住友大阪セメント(株))
シリカフュームA:SFシリカフューム(巴工業(株))
シリカフュームB:900W(エルケム・ジャパン(株))
シリカフュームC:EFACO(巴工業(株))
シリカフュームD:940U(エルケム・ジャパン(株))
細骨材:3号珪砂と5号珪砂とを重量比1:1で混合したもの
水:上水道水
減水剤:マイティ21P(花王(株))
【0021】
使用したシリカフュームA〜Dの性状を表1に示す。
強熱減量はJIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準じて950℃で測定し、未燃カーボン量の指標とした。平均粒子径はレーザー回析式粒度分布計によって測定した。BET比表面積は、「窒素吸着法」によって測定した。また、60%水スラリーの20℃でのpHはJIS Z 8802−1986「pH測定法」に基づいて測定した。
【0022】
【表1】

【0023】
表1より、シリカフュームAは、強熱減量(未燃カーボン含有量)が極めて小さく、pHも他のシリカフュームに比べて低い。シリカフュームBは、強熱減量は小さいがpHが高く、シリカフュームCは、pHは低いが強熱減量が大きい。また、シリカフュームDは強熱減量、平均粒子径、BET比表面積、pHのいずれもが本発明の範囲外である。
【0024】
(配合試験)
表2の配合比(重量部)でセメント、シリカフューム、細骨材、減水剤を混合し、適量の消泡剤、発泡剤などをプレミックスした粉体を水に投入後、ハンドミキサーを使用し混練を行った。
【0025】
得られた混練物であるグラウト材の流動性、ブリーディング、細骨材の分離状況を評価した。ブリーディングは、JSCE−F532「PCグラウトのブリーディング率および膨張率測定方法」に準拠し、打設後3時間でのブリーディング率を測定した。流動性は、JSCE−F531「PCグラウトの流動性試験方法」に準拠し、J14流下時間を測定した。J14流下時間が「5〜15秒」であれば高流動性のグラウト材であり、すぐれた充填性、作業性のグラウト材となる。
細骨材の分離状況は、混練終了10分後の細骨材分離の有無を指触観察した。
また、得られた混練物からφ50mm×100mmの圧縮強度測定用円柱供試体を作製した。円柱供試体は材齢1日で脱型し、20℃で封緘養生し、材齢28日でJIS A 1108に準じた圧縮強度試験を実施した。
これらの試験結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【0028】
表2に示すように、シリカフュームAを配合した実施例1〜3は、J14流下時間が8〜14秒であり、高流動性のグラウト材が得られ、ブリーディング、細骨材の分離はなく、材齢28日における圧縮強度も高強度であった。
しかしながら、シリカフュームAの配合量が本発明で規定する量より少ない比較例4では細骨材が分離し、規定量より多い比較例5では、J14流下時間が15秒を超え、高流動性とはいい難いものであった。
【0029】
一方、シリカフュームB,C,Dを配合した比較例1〜3、比較例6〜8では、J14流下時間が長く、流動性に大きく劣り、圧縮強度も若干低めであった。
【0030】
以上のように強熱減量(未燃カーボン含有量)が1.0重量%以下で、pHが2.5〜7.0であり、所定の粒径、比表面積であるシリカフュームを所定量配合したグラウト材は高流動性であり、強度発現性にもすぐれることが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100重量部と、下記(a)〜(d)の性状を有するシリカフュームを15〜50重量部、細骨材0〜200重量部、減水剤0.1〜0.8重量部、および水を含有する高強度グラウト材。
(a)平均粒子径が0.5〜2.0μm
(b)BET法比表面積が2〜15m2/g
(c)950℃での強熱減量が1.0重量%以下
(d)60%水スラリーの20℃でのpHが2.5〜7.0
【請求項2】
水/セメント比が20〜40重量%である請求項1に記載の高強度グラウト材。

【公開番号】特開2008−143759(P2008−143759A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−335630(P2006−335630)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】