説明

高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法

【課題】 高強度コンクリートを用いた施工に際して、煩雑な養生を必要とせず、しかも減水剤等の混和剤を多量に添加しなくとも、該高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れを効果的に低減すること。
【手段】 ブレーン比表面積が1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートを調製し、該高強度コンクリートを表面が露出する部位に打設する。また、圧縮強度が50N/mm2以上の第1の高強度コンクリートを調製して該第1の高強度コンクリートを打設し、さらに、ブレーン比表面積が、前記第1の高強度コンクリートを構成するセメントよりも小さく且つ1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートを調製し、前記第1の高強度コンクリートの表面に該第2の高強度コンクリートを打設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高強度コンクリートは、圧縮強度が50N/mm2以上と極めて高いものであるために、近年、高層建築物や土木建造物等の用途において多用されている。
しかし、該高強度コンクリートは、水セメント比を小さくすることによって調製されたコンクリートを打設するものであるため、夏場の高温時や強風時など、乾燥しやすい状況下においては、打設後24時間以内の初期段階において養生中のコンクリート表面に乾燥によるひび割れ(以下、本発明において、初期乾燥ひび割れという)が生じる場合がある。
【0003】
この初期乾燥ひび割れは、コンクリート構造物の表面から、水分、塩分、二酸化炭素といったコンクリート構造物を劣化させる物質を内部にまで侵入させてしまう原因となることから、該コンクリート構造物の寿命を低下させるものである。
【0004】
従来、このような高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れを防止するためには、養生の際にコンクリート表面にシートを被覆することによって水分の蒸発を防止する、いわゆるシート養生や、コンクリート表面にアスファルト乳剤、ビニル乳剤などを散布して被膜を形成することによって水分の蒸発を防止する、いわゆる膜養生などが知られている。
【0005】
また、初期乾燥ひび割れが起こりつつあるコンクリートの表面を、平板など用いて叩きならしてひび割れを閉じさせるタンピングと呼ばれる方法や(特許文献1)、表面のならし作業が終了した直後に生コンクリートの表面を不織布などにより覆って生コンクリートの表面乾燥を遅らせる方法(特許文献2)なども知られている。
【特許文献1】特開2002−213082号公報
【特許文献2】特開平8−12097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シート養生や膜養生などは、生コンクリート打設面全体にシート等を敷設し且つ除去するという極めて煩雑で手間の掛かる作業を必要とし、しかも施工費用がかさむという問題がある。
【0007】
また、前記タンピングによる方法でも、生コンクリート打設面全体を叩きならすという多大なる作業を必要とし、作業性が非常に悪いという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑み、高強度コンクリートを用いた施工に際して、煩雑な養生作業を必要とせずに該高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れを効果的に低減することを一の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係る高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法は、ブレーン比表面積が1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートを調製し、該高強度コンクリートを表面が露出する部位に打設することを特徴とする。
【0010】
ブレーン比表面積が2400cm2/g以下であるセメントを用いて高強度コンクリートを調製することにより、打設後の初期段階におけるコンクリート中の自由水が多くなるため、打設後24時間以内という初期段階において水分が多量に蒸発した場合でも、ひび割れの発生が効果的に防止されることとなる。
【0011】
また、本発明に係る高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法は、圧縮強度が50N/mm2以上の第1の高強度コンクリートを調製して該第1の高強度コンクリートを打設し、さらに、ブレーン比表面積が、前記第1の高強度コンクリートを構成するセメントよりも小さく且つ1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の第2の高強度コンクリートを調製し、前記第1の高強度コンクリートの表面に該第2の高強度コンクリートを打設することを特徴とする。
【0012】
斯かるひび割れ防止方法によれば、ブレーン比表面積が1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて調製された第2の高強度コンクリートが、ブレーン比表面積の大きいセメントを用いて調製された第1の高強度コンクリートの表面に積層されることとなる。第2の高強度コンクリートで表面が覆われることにより、上述した作用によって高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れの発生が効果的に防止されることとなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法によれば、高強度コンクリートを用いた施工に際して、煩雑な養生を必要としなくとも高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れを効果的に低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法は、粉末度の小さい粗粒セメントを用いて高強度コンクリートを調製し、該高強度コンクリートを打設するものである。
【0015】
本発明において、粉末度の小さい粗粒セメントとしては、ブレーン比表面積が1000〜2400cm2/gであるものを使用し、好ましくは1800cm2/g以上であるものを使用する。
ブレーン比表面積が1000cm2/g未満であるとセメントの粒子が粗くなりすぎ、硬化後のセメント硬化体の強度が低下する虞がある。
また、ブレーン比表面積が2400cm2/gを超えるとセメントの粒子が細かくなりすぎ、十分な自由水を確保できず、乾燥収縮によるひび割れが発生する虞がある。
尚、本発明において、ブレーン比表面積とは、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に記載された比表面積試験に基づいて測定されたものである。
【0016】
また、本発明において、初期乾燥ひび割れの防止対象となる高強度コンクリートは、圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートであるが、とりわけ、圧縮強度が70N/mm2以上であるような高強度コンクリートについては、本発明による初期乾燥ひび割れの防止効果がより一層顕著なものとなる。
【0017】
尚、本発明における粗粒セメントとしては、特に限定されることなく、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント、該ポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ混合した混合セメント、ジェットセメント、アルミナセメントなどの特殊セメントなどと同一成分からなるセメントを使用することができる。中でも、粘性が低く、流動性の高いコンクリートを調製することが容易な、低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法の他の実施形態は、圧縮強度が50N/mm2以上の第1の高強度コンクリートを調製して該第1の高強度コンクリートを打設し、さらに、ブレーン比表面積が前記第1の高強度コンクリートを構成するセメントよりも小さく且つ1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の第2の高強度コンクリートを調製し、前記第1の高強度コンクリートを打設した後、2時間以内に、該第2の高強度コンクリートを3〜50cmの厚みで打設するものである。
【0019】
第1の高強度コンクリートとしては、圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートであれば特にその他の限定はない。
【0020】
一方、第2の高強度コンクリートは、ブレーン比表面積が、前記第1の高強度コンクリートを構成するセメントよりも小さく、しかも1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを使用し、好ましくは1800cm2/g以上であるものを使用する。
ブレーン比表面積が1000cm2/g未満であるとセメントの粒子が粗くなりすぎ、硬化後のセメント硬化体の強度が低下する虞がある。
また、ブレーン比表面積が2400cm2/gを超えるとセメントの粒子が細かくなりすぎ、十分な自由水を確保できず、乾燥収縮によるひび割れが発生する虞がある。
【0021】
また、本発明においては、第2の高強度コンクリートの厚みを3cm以上とすることが好ましい。第2の高強度コンクリートの厚みが3cm未満であれば、乾燥収縮によるひび割れを充分に抑制することができないという問題がある。
【0022】
また、本発明においては、前記第1の高強度コンクリートを打設した後、2時間以内に、好ましくは1.5時間以内に第2の高強度コンクリートを打設する。前記第1の高強度コンクリートを打設した後、2時間よりも後に第2の高強度コンクリートを打設すると、これら第1および第2の高強度コンクリートが剥離するおそれがある。
【0023】
本発明において使用する骨材としては、特に制限されることなく、一般的な細骨材や粗骨材を使用することができる。
また、コンクリート表面における自由水を確保して、初期乾燥ひび割れをより一層効果的に防止する観点からは、細骨材として、粗粒率が3.0〜4.0である粗粒細骨材を好適に使用することができる。
さらに、細骨材の一部として軽量骨材を使用することもできる。
【実施例】
【0024】
下記の材料を用い、表1に示す配合にて、実施例1および比較例1の高強度コンクリートを調製し、これらの高強度コンクリートを型枠(600mm×600mm)中に厚さ3cmとなるように打設した。そして、気温30±2℃、湿度30〜35%RHの恒温室内において、該高強度コンクリートの上方から扇風機にて風をあてた状態で24時間放置した。
【0025】
<使用材料>
セメント
実施例1;粗粒セメント(普通ポルトランドセメントと同一成分で、ブレーン比表面積が2390cm2/g、密度が3.15g/cm3
比較例1;普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積が3300cm2/g、密度が3.15g/cm3
細骨材(共通)
野洲川産川砂(密度=2.60g/cm3、FM=3.04)と揖斐川産川砂(密度=2.60g/cm3、FM=2.18)の混合砂(野洲川川砂:揖斐川川砂=7:3)
粗骨材(共通)
高槻産砕石(密度=2.69g/cm3、FM=6.86、Gmax=20mm)
水(共通)
工業用水
高性能AE減水剤
花王社製、マイティ3000S
【0026】
【表1】

【0027】
<初期乾燥ひび割れの評価>
24時間放置した後、実施例1の高強度コンクリートおよび比較例1の高強度コンクリートについて、表面のひび割れ発生状況を目視にて観察した。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示すように、比較例1の高強度コンクリートでは、0.1mm以上のひび割れが44箇所確認されたが、実施例1の高強度コンクリートでは、そのようなひび割れは10箇所しか確認されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積が1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の高強度コンクリートを調製し、該高強度コンクリートを表面が露出する部位に打設することを特徴とする高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法。
【請求項2】
圧縮強度が50N/mm2以上の第1の高強度コンクリートを調製して該第1の高強度コンクリートを打設し、さらに、ブレーン比表面積が、前記第1の高強度コンクリートを構成するセメントよりも小さく且つ1000〜2400cm2/gである粗粒セメントを用いて圧縮強度が50N/mm2以上の第2の高強度コンクリートを調製し、前記第1の高強度コンクリートの表面に該第2の高強度コンクリートを打設することを特徴とする高強度コンクリートの初期乾燥ひび割れ防止方法。

【公開番号】特開2006−117439(P2006−117439A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303733(P2004−303733)
【出願日】平成16年10月19日(2004.10.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年4月20日 社団法人セメント協会発行の「第58回 セメント技術大会 講演要旨 2004」に発表
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】