高強度レーザー療法による再生医療のための装置及び方法
治療を必要とした患者の皮膚に対してパルスレーザービームを適用することによる患者における生物学的生組織の再生を刺激するための高強度レーザー治療の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、患者の組織を治療する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーは、発見された時から、広範囲の医療用途に対する従来の臨床方法の代替物として支持されてきた。何年もの間、高出力及び高集束レーザーが、多くの外科技術において組織を切断及び分離するために使用されてきた。さらに最近では、レーザー放射の治療特性及びバイオスティミュレーション特性が発見された。レーザー放射は、細胞分裂、ヘモグロビン、コラーゲン及び他の蛋白質の合成、白血球の活性、マクロファージ細胞の産生、並びに、創傷治癒を含めたいくつかの代謝過程を刺激すると信じられている。この場合、レーザー放射は、細胞活性に対する刺激剤として作用し、それと共に体独自の治癒能力を活性化する。
【0003】
レーザー療法は、急性痛も慢性痛も軽減し、炎症を消散させ、組織修復のスピード、質及び引っ張り強さを上げ、感染を消散させ、並びに、ダメージを受けた神経組織の機能を改善するために使用される場合が多い。この療法は、それらの組織内での治癒を刺激するために、外傷又は傷害に関して狭いスペクトル幅の光の適用に基づいている。レーザービームを用いた治療は無痛性であり、組織において巨視的化学変化もダメージも生じない。
【0004】
現在までに、レーザー効果の根底にある作用の実際の機構は、まだ完全には理解されていない。1つの理論によると、レーザー放射のエネルギーは、植物光合成の反応の連鎖において光の「量子」が取り込まれる方法と類似の方法で自然な工程において取り込まれる。細胞及び組織が自由電荷のある種の蓄えを有し、また、生物、器官、機構、及び組織間での相互接続が上腕骨、神経、及び、化学的調節の機構のみによって決定されないだけでなく、より複雑なエネルギーの接続によっても決定されないように、前記細胞及び組織は特定の生物学的な場によって取り囲まれているという仮定に、別の理論は基づいている。
【0005】
レーザー適用の効果の根底にある基本的な機構の理解の欠如によって、非常に異なる方法で異なる波長を用いたレーザーを使用する、種々の範囲の治療装置及びプロトコルを生じた。いくつかの米国特許品には、レーザー照射による生組織の治療に対するレーザー適用に基づく種々の装置及び方法に対して特許が与えられてきた。それらの特許の間で、全内容を本出願において援用する以下の:Walkerに対する米国特許第4,671,258号;Diamantopoulos等に対する米国特許第4,930,504号;L’Esperance,Jr.に対する米国特許第4,931,053号;Bellingerに対する米国特許第5,445,146号及び第5,951,596号;並びに、Segalに対する米国特許第5,755,752号;が特に関連がある。
【0006】
上記の特許全て、並びに、この分野における大部分の研究が、「低」又は「中」出力レベルでのレーザーの使用に言及している。この種の療法は現在、LLLT(低反応レベルレーザー療法)又はLILT(低強度レーザー療法)に広く言及されている。LLLTに使用される出力領域は、数mWから1,000mWである。
【0007】
LLLTは、種々の医療学問分野において人気の治療になってきている。この療法の使用はいくらか成功しているが、結果はただゆっくりと得られ、一貫性もない。達成される治療効果の程度にはむらがあり、発光波の用量、照射リズム、及び、レーザー源から治療組織の距離に激しく依存している。数分間の適用が、何日という間隔で繰り返され、何ヶ月間か繰り返される場合も多くある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の実施形態は、高強度レーザー療法(HILT)に対する装置及び方法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例として示す方法は、組織にパルスレーザービームを適用するステップを含み、レーザービームは、0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有する。ピーク強度フルエンス(PIF)は:
【0010】
【数1】
によって定義され、Ipはパルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eはパルスのエネルギーであり、τonはパルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、患者上のパルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である。
【0011】
好ましい実施形態において、パルスのピーク出力は400Wから50kWであり;パルスの幅は1マイクロ秒から500マイクロ秒であり;パルスレーザービームのデューティサイクルは0.01%から0.5%であり;治療中の組織上のパルスレーザービームによって形成されるスポットの直径は1ミリメートルから20ミリメートルである。他の実施形態は、PIFが受け入れられる範囲内にとどまるという条件で、別のパラメータの組み合わせを含む場合がある。
【0012】
パルスレーザービームは、経皮的に又は皮膚を通して適用することができる。例えば、患者の皮膚を通して挿入された光ファイバーを介して経皮的に適用することができる。治療中に組織上に形成されたスポットは、約1mmから約20mm、又は、約2.5mmから約20mmの直径を有し得る。スポットの領域は、0.05cm2を超えるものであり得るか、約0.05cm2から3.14cm2までのものであり得る。スポットを明らかにするために使用される光ファイバーは、約300μmから約1.5mmの外径を有することができ、0.6mm又は1.0mmであり得る。光ファイバーに結合された円錐体の放出チップは、約0.35cmから1.00cmの高さ、0.50cmの高さ、又は、0.80cmの高さを有することができ;円錐のチップは、約0.014cm2から約0.54cm2の領域、約0.058cm2の領域、又は、約0.23cm2の領域を有し得る。円錐体のチップ(ハンドプローブ)は、2.5mm以上の直径を有し得る。
【0013】
パルスレーザービームは、患者の皮膚と接触した光チップを用いて経皮的に適用することができる。例として示す光チップは、光ファイバー結合器、及び、該光ファイバー結合器に結合された、組織内の約0.5cmから約10cmの距離にて組織内のスポットにパルスレーザービームを集束させる集束要素を含む。例として示す光チップは、プレキシグラス、プラスチック、又は、強化ガラスから作製することができる。光チップの実施形態は使い捨てできるものであり、密封されたパッケージで届く場合がある。
【0014】
ゲルで少なくとも部分的に覆われた集束要素は、円筒形要素及び曲面を含み得る。円筒形要素は、約3cm長から約4cm長でありえ、約1.5cmから2.5cmの直径を有し、皮膚に対して押し付けて、皮膚と治療される組織間で組織を加圧することができる。曲面は、約2cmの直径及び約10mmから約100mmの曲率の半径を有し得る。
【0015】
ゲルは、パルスレーザービームの波長にて光を透過し、パルスレーザービームの波長での光チップと皮膚との間の光インピーダンスのミスマッチを減らす。ゲルは、光チップと皮膚との接触の領域を滑らかにもする。さらに、パルスレーザービームの適用中に皮膚を冷やす。治療中に皮膚の境界面にて低温を維持するのに寄与するよう、ゲル及び光チップを予め冷やすか又は予め冷蔵することもできる。
【0016】
前記のことは、異なる図を通して類似の参照記号が同じ部分を意味する付随の図面に例示されているように、本発明の例として示す実施例における以下のより特定の説明から明らかになるであろう。図面は、必ずしも縮尺で製図されているわけではなく、代わりに、本発明の実施形態を例示すると同時に強調している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ピーク強度フルエンス(PIF)対生物学的効果のグラフである。
【図2】当該装置のハンドユニット、並びに、概略図でレーザー源及び制御システムを示している。
【図3A】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図3B】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図3C】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図4A】図2に示された装置と共に使用するのに適したスキャン送達システムの概念図である。
【図4B】図2に示された装置と共に使用するのに適したスキャン送達システムの概念図である。
【図5】6つの異なるスポットサイズでの4つの異なる波長の透過率を示したグラフである。
【図6】2つの媒体間の境界面でのレーザー光のフォトメカニカル波又は光音響波への変換を示した概念図である。
【図7】硝子軟骨基質の分子構造を示した概略図である。
【図8】ヒアルロン酸の吸収スペクトルである。
【図9】本発明による高強度レーザー治療中の組織温度の傾向を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例として示す本発明の実施形態の説明が続く。
【0019】
本明細書において引用された全ての特許、公開特許出願、及び、参考文献の教示は、全内容を本出願において援用する。
【0020】
LLLTを用いて得られた不十分な結果を考慮して、より速く一貫して再生可能な結果を得ることができる、レーザー治療のより効率的な装置及びより良い方法の必要性がある。特に、LLLTは、光化学効果、又は、光化学及び光熱効果のみを生じることができ、それら3つ全てを生じることはできない。パルス放出を使用して、光化学及び光熱効果と共にフォトメカニカル効果を誘発しなくてはならない。
【0021】
非侵襲性の再生医療に対する高強度レーザー療法放射のための療法プロトコル及び関連する装置が、本明細書に提供されている。レーザー療法のための他の類似の方法及び装置が、Cho及びMasottiによって2005年4月5日に出願された米国特許出願第11/099,216号;Cho及びMasottiによって2007年2月9日に出願された米国特許出願第11/704,710号;並びに、Masotti及びFortunaによって2008年9月12日に出願された米国特許出願第12/283,612号;に開示されている。
【0022】
ピーク強度フルエンス(PIF)
HILTは、特定のピーク強度フルエンス(PIF)により特徴づけられたパルスレーザー放出によって、フォトメカニカル効果、光熱効果、及び、光化学効果を誘発することができる。PIFは、パルスの時間及び空間形状についての十分な情報を供給しない平均出力密度よりも優れたパルス放出特徴を定める。ピーク強度(スポット領域に対するピーク出力の比)によって、3D空間分布のアイデアが与えられるが、パルスのエネルギーの量及びその時間分布に関する情報を提供することはできない。フルエンス(スポットサイズによって割られたエネルギーの量)は、時間における光子密度を示しているが、強度、又は、空間における光子密度は与えない。(例えば、同じフルエンスが、異なるピーク出力及びパルス幅τonを有する無数の異なるパルスに共通であり得る)。
【0023】
従って、本発明者等は、空間要素も時間要素も含むPIFを定めるために、パルス放出時間と共にピーク強度を増した。PIFは、
【0024】
【数2】
として表すことができ、以下に記述される3つの要素を含むとして考慮することができる。
【0025】
標的領域内の光の強度を定める第1の要素は、1パルスあたりの二次元エネルギー、Ip・τonであり、Ipは、ピーク強度(Wp/cm2)か又はスポットの表面積(cm2)によって割られたピーク出力(Wp)であり、τonはパルス幅である。
【0026】
第2の要素は、パルスと照射組織との三次元の関係を定める。第2の要素、(Ep/Vks)αは、1パルスあたりのエネルギー、照射組織の容積Vksによって割られたEpであり、αは水の吸収係数である。容積Vksは、レーザーによって放射される球部分の容積の一部、Vks=10.07・r3として近似させることができ、rはスポットサイズの半径である。球の中心座標からスポットの中心までの距離hは、スポットの半径の約三分の2である。
【0027】
比Ep/Vksは波長λに対して考慮するべきであるため、容積Vksは、λに対して変わる水の吸収係数αにほぼ等しい吸収を有して処理することができる。例えば、λ=1064nmにて、α=2.29cm−1であり、λ=980nmにて、α=3.52cm−1である。
【0028】
前記式の第3の要素、τoff/Tは、パルス停止時間又は暗期τoffと全パルス時間T=τon+τoffとの関係を記載している。PIFは、パルスオン時間及びパルスオフ時間の観点から以下の式、
【0029】
【数3】
で書くこともできる。(この関係は、その時間のパルス対パルス時間の比、τon/Tであるパルスデューティサイクルによっても特徴づけることができる)。組織を過熱させることによって熱によるダメージが生じる場合があるため、暗期は、組織温度を維持するために重要である。
【0030】
本発明の一態様は、生理的細胞分化の原因であるフォトメカニカル効果の誘発である。そのフォトメカニカル効果は、所与のスポットサイズに合うよう調整された時間的及び空間的形状のレーザーパルスに対して誘発することができる。パルスの強度が低すぎる場合、フォトメカニカル効果はほとんど又は全くない。
【0031】
パルス強度が高すぎる場合、パルスは組織への毒性があり得る。
【0032】
組織に対する再生効果及び細胞培養に対する細胞増殖効果を得るために、HILTが提供されたパルスは、約0.1(J/cm3)2から約1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンス(PIF)を有する。別の実施形態では、PIFは、0.2(J/cm3)2から0.88(J/cm3)2であり得る。1.0(J/cm3)2を超えるPIFは有毒であり得る。0.1未満のPIFは、抗炎症効果のみを有し得る。これとは対照的に、疼痛管理に使用されるLLLTシステムは、0.0(すなわち、ビームは連続波ビームである)から0.0015(J/cm3)2のPIF、又は、HILTに対するPIFよりも約100から1000分の1のPIFを有する。図1は、PIF(J/cm3)2で表現されるHILTパルスの特徴と実験的試みで観察された生物学的効果との相関性を示すグラフである。各データポイントは、特定の設定において、例えば、ニワトリ、ヒツジ、又はヒトにin vivoで適用されるパルスレーザービームのPIFを表している。各ポイントから延びる垂直線はエラーバーである。水平の点線は、組織再生に対する受け入れ可能なPIFの範囲:0.2(J/cm3)2のすぐ下から1.0(J/cm3)2のすぐ下までを示している。0.1(J/cm3)2より下では、再生効果ではなく抗炎症効果のみがありえ、1.0(J/cm3)2を超えるPIFに対しては、組織毒性効果があり得る。
【0033】
パルスレーザービームのパラメータ
PIFが0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2の範囲内に留まる場合、十分なPIFは、受け入れ可能な値の広い範囲内にあるパルスレーザービームのパラメータを変えることによって達成することができる。パラメータの組み合わせによって、異なる方法で表現することができ、例えば、ピーク強度は、ピーク出力及びスポットサイズという観点からも表現することができる。同様に、パルス繰り返し周波数及びデューティサイクルは、パルス幅及びパルス間の時間によって固定される。
【0034】
短いパルス幅は、組織における熱エネルギーの蓄積を回避することができる。パルスの間に組織に影響を与える熱エネルギーは、次のパルスが到着する前に放散される。このように、組織の温度調節が得られる。従って、本発明の実施形態は、1マイクロ秒から500マイクロ秒のパルス幅を有したパルスレーザービームを利用することができる。同様に、パルスレーザービームは、0.2Hzから100Hzのパルス繰り返し周波数を有する。そのような低い値のパルス周波数は、最適な熱放散を可能にする。
【0035】
デューティサイクルは、T=τ−on+τ−off、すなわちパルスサイクルの合計時間である場合のレーザーパルスにおけるτ−onとTとの比を示している。τ−onは、レーザービームがオンである時間間隔であり、τ−offは、レーザービームがオフである時間間隔である。τ−onの時間間隔が短いほど、デューティサイクルは低い。高い平均出力値と組み合わされた低デューティサイクルは、1パルスあたりに非常に高いピーク出力値を生じる。低デューティサイクルは、後のτ−on期間とτ−on期間との間に十分な時間を可能にし、極度に高いピーク出力値が各τ−on期間に達成されるにも関わらず、その時間の間に、処理した組織から熱を除いて組織ダメージを回避することができる。従って、パルスレーザービームは、0.01%から0.5%のデューティサイクルを有することができる。
【0036】
パルスレーザービームの焦点をぼかして、4から20mmの直径を有した実質的に円形のスポットを生じることができる。あるいは、パルスレーザービームは、5から7mmの直径を有した皮膚上のスポットを有する。例えば軟骨等の治療される組織上の焦点を合わされたスポットの半径は、0.05cm2から3.14cm2のスポット領域に対して、0.12センチメートルから1センチメートルまでであり得る。本発明に従い焦点がぼかされたレーザービームによって生じるこれらのスポットサイズに反して、従来の方法は、本明細書において示唆された低い出力値を有した所望の出力密度を達成するために、焦点を合わせる手段を必要とする。
【0037】
上記のように、パルスレーザービームの強度(W/cm2)は、治療されている体の表面(スポットサイズ)でのレーザービームの出力に関する。表面上のスポットサイズを大きくすることによって、出力密度の減少が結果として生じる。従って、特に、スポットサイズが大きい場合に、治療されている組織及び/又は細胞にフォトメカニカル効果を及ぼすのに適した出力密度を得るために、非常に高い出力のレーザー光が使用されることが好ましい。本発明のさらに別の実施形態によると、パルスレーザービームは、少なくとも35kW;少なくとも1kW;又は、400Wから50kW;のピーク出力を有する。同様に、パルスレーザービームは、1パルスあたり、0.03から10ジュール、より好ましくは、0.2から2ジュールのエネルギーを有する。パルスレーザービームは、5kW/cm2から25kW/cm2のピーク強度も有し得る。
【0038】
特に、慢性退行性症状治療のため等、高いピーク出力レベルが使用される場合に、治療条件の厳しい制御が重要であるということが、上記の記載から明らかになる。ピーク出力は、組織の熱ダメージを回避する必要性とできるかぎり両立できるぐらい高くあるべきである。実際の作動条件は、治療中の患者のフォトタイプ(皮膚色)に強く依存する。本発明のさらなる態様によると、皮膚の温度は、実際の皮膚の温度が制御された状態で保たれるように、連続又は不連続の様式で有利に検出することができる。照射条件は、例えば最も効果的な照射(すなわち、もっとも深い透過力及び最も高い出力レベル)を有するが、それにもかかわらず、例えば40℃又は42℃の皮膚の温度等、閾値温度の値を超えることのないように設定される。
【0039】
これは、(以下で説明される)図2に示されたハンドピース等のハンドピース上に配置される温度センサによって達成することができる。治療中の患者の皮膚色(フォトタイプ)を決定するための光検出器も、ハンドピースに組み合わせることができる。治療中に適切な制御を提供することに加えて、温度センサ及び光検出器は、組織によって吸収されて熱に変換されるか、又は、皮膚によって反射されるエネルギーの量を決定するために有用である。供給源によって放出されて皮膚に衝撃を与える全エネルギーを知ることによって、治療されることになる深くに位置する組織に実際に到達するエネルギーの値を、十分正確に決定することができる。
【0040】
本発明のレーザー光のピーク出力及び平均出力は従来の治療方法に使用されるもの、特に、上記の米国特許に開示されているものよりも大きいということが正しく理解されるべきである。一方、本発明のレーザー光のパルス幅ははるかに短い。
【0041】
HILT器具
本発明は、単一の治療レーザー放射線を生成する第1のレーザー源、レーザーエネルギーをハンドユニットまで運ぶための第1の運搬手段、及び、レーザービームの経路に配置されるレーザービームの焦点をぼかすための光焦点はずし手段を含むレーザー療法のための装置にも関する。
【0042】
好ましい実施形態によると、光焦点はずし手段が配置される排出端の前に、運搬手段は光ファイバーによって形成される。光ファイバーを使用する場合、チップの放出面は、チップ周辺の組織へのダメージを回避するために0.05cm2よりも大きくあり得る。
【0043】
レーザーの光経路が終わり、焦点ずらし手段が配置されるハンドユニットは、治療を受ける患者の表皮から適した距離にてオペレーターが手に持つことができる。しかし、オペレーターにとって使用をより安全及びより容易にするために、ハンドユニットには、好ましい実施形態において、治療が適用されている患者の体から所定の距離にて前記光焦点ずらし手段を持つための距離要素が提供され、最適な距離を決定する及び手動で維持する必要性を回避する。
【0044】
ここでも、装置の使用を容易にするという目的のために、可視域の波長にて放出する第2のレーザー源、該第2の供給源によって生成されたレーザービームをハンドユニットの方向に運ぶための光ファイバー又は同等の手段が提供され得る。この第2のレーザー源はマーカーのみであり、治療特性は有さない。
【0045】
図2において、1は、光ファイバー3によってハンドユニットに接続されたレーザー源を示しており、好ましくは1.064マイクロメートルで放出するNd:YAGレーザーである。ハンドユニットの内側では、光ファイバー3の排出端3Aが、弾性スリーブ7及びクランピングナット9によって固定されている。光ファイバー3の終端3Aに面して配置されているのは、焦点はずし光学部品11、13である。
【0046】
ハンドユニット5は、表面15Aを有するディスタンスピース15が固定された集光端5A内で終わり、表面15Aは、治療が適用されている患者の表皮Eと接触される。この方法で、焦点はずし光学部品11、13は、表皮から所定の距離にて常に保たれる。この方法で、一度固定されると、エネルギーはエネルギー密度によってのみ決定される。
【0047】
可視域の波長にて連続的に放出する第2のレーザー源17は、予備の光ファイバー19、コネクター21、及び、ミキサーによってファイバー3内にレーザービームを導入する。もう1つの手段及び同等のものとして、第2のレーザー源は、2つのレーザービームの同軸の混ぜ合わせのために既知の装置内にレーザービームを送ることができる。同軸で作製された2つのビームは、次に、ファイバー内への導入のために既知の装置に送られる。
【0048】
この様式で治療ゾーンは例示されており、ディスタンスピース15の存在下で、また、これが開いているか又は透明な材料から作製されている場合にもオペレーターは見ることができる。
【0049】
ディスタンスピース15に結合しているのは、抵抗測定装置27に接続された2つの電極23、25である。これは、ハンドユニット5の適用ゾーンの領域内の表皮の抵抗を測定し、測定装置27によって測定された抵抗が低いトリガーポイントの領域内にハンドユニット5がある場合に、レーザー源1が所望の周波数にて及び所望の幅のパルスを放出するようにレーザー源1に対する制御信号をトリガー信号発生装置29によって生成する。
【0050】
供給源1からのレーザー放出の特徴は、以下の通りであり得る。パルスレーザー放出の各期間Tの間、幅τのパルスが生成され、「オフ」間隔が続く。上記のように、パルスの幅と期間Tとの比Dは、レーザー放出のデューティサイクル(D=τ/T)である。ピーク出力はPpで示され、上記のように期間T及びデューティサイクルDを介した1パルスあたりの平均出力Pmに関連づけられる。
【0051】
本発明の実施形態によると、高出力パルスレーザービームは、固体レーザー源、すなわち、ドープ単結晶構造により形成されたレーザー源によって生成される。適した固体レーザー源は、Nd:YAGレーザーである。このレーザーは、十分高い出力のパルスレーザーを放出することができ、本願において関心のある生物学的組織を介して前記の放射線を透過させ、組織再生が必要とされる深さの軟骨構造に達することができるため特に有利な波長である1064nmの放出波長を有している。
【0052】
本発明による特徴を有したパルスは、固体源(例えばNd:YAG)を用いて得られることが好ましい。ダイオードレーザー又はLEDでは物理的に取得可能ではない。半導体レーザー、ランプ、又は、LEDは、本発明による特徴を有したパルスを放出することができない。
【0053】
治療される患者の皮膚上にレーザービームによって生成されるスポットの寸法は、焦点はずし手段の光学的特徴、及び、光焦点はずし手段と皮膚との距離次第である。出力密度、すなわち、表面あたりの出力が限界値であると、スポットの寸法が、治療の方法を特徴づける重要なパラメータである。これは、出力密度が特定の用途に応じて上記で示された範囲内にあるように選択される。
【0054】
光チップ
図3A、3B、及び、3Cは、図2に示されたレーザー源1と共に使用するのに適した光チップ300の透視図及び概略図を示している。図3Aに示されているように、チップ300は、円筒形要素306及び曲面304を含む焦点合わせ要素に接続される光ファイバーカプラ302を含む。曲面304は、カプラ302を出る発散ビーム308を集束ビーム310に変換し、その集束の面は、部分的に、曲面の曲率半径によって決定される。
【0055】
使い捨てであり得る例として示す光チップ300は、透明な固体のプレキシグラスのロッド又は予め成形したプラスチックから作製される。使い捨てではないチップ300は、調節されたガラス又はプラスチックから作製することができる。円筒形要素300は、約2cmの直径及び3〜4cmの長さを有し得る。曲面304は、10mmから100mmの曲率半径を有し得る。カプラは、集束要素と共に完全になるか、又は、集束要素に接続され得る。別のチップ300は、曲面304の代わりにゾーンプレートを使用して発散ビーム308を焦点に集めることができる。
【0056】
図3Bは、シールパッケージ330内の光チップ300の斜視図を示している。シール334は、曲面304の少なくとも一部に被覆されたゲル332が乾燥する又は汚染されるのを防ぐ。好ましいゲル332は、治療波長にて透明であり、例として一般的な超音波ゲルが含まれる。チップ300全体、又は、チップ300のゲルで被覆された部分のみを覆うことができるシール334は、タブ336を引っ張ることによって取り除くことができる。チップ300及びシールパッケージ330は、使用後に処理することができる。
【0057】
図3Cは、光チップ300を使用した軟骨364の経皮的治療の概略図である。光ファイバー3は、カプラ302を介してレーザー源1をチップ300に結合する。チップの曲面304は、ファイバーから軟骨上の治療領域366までの発散ビーム308を焦点に集める。チップの曲率半径、並びに、チップ300と軟骨364との間にある組織362、皮膚360、及び、ゲル332の指数に応じて、組織内の焦点距離は、組織362において0.5cmから約10cmであり得る。
【0058】
ゲル332は、治療波長にて光を透過させ、その結果、チップ300と皮膚360との間のいかなる光インピーダンスの不一致も減らす。ゲル332は、また、皮膚を滑らかにする及び冷やし、熱ダメージを防ぐ。皮膚362は、治療中又は治療前に冷蔵するか又は冷やされたチップ300を用いて冷やすこともできる。
【0059】
スキャニング送達システム
自動又は手動のスキャニング送達システムを使用して、治療領域までパルスレーザービームを効果的及び安全に送達することができる。スキャニングは、レーザーの照射表面積(ハンドピースのスポットサイズ又は光ファイバーの放出面)よりも大きい表面領域を治療するのに有用である。治療領域における各位置での滞留時間等のスキャンパラメータは、所望の線量、パルス期間、及び、パルス繰り返し率によって固定することができる。滞留時間が受け入れ可能な範囲内にあり続ける限り、これらは、過度の加熱又は治療非能率のいかなるリスクであるはずもない。このように、スキャニングも組織温度の制御に寄与する。
【0060】
図4A及び4Bは、患者の膝に渡ってパルスレーザービームをスキャンするための異なるスキャン送達システムを示している。図4Aは、図2に示されているハンドユニット5を用いて膝の上又は膝の中の所定の標的組織を治療するためのポート402を含むブレイシングシステム400を示している。ポート402は、標的にされた領域のみにビームが透過されることも確実にしている。患者は、このシステム400を使用して、医師による直接的な監視もなく患者自身を治療することができる。装具400は、ハンドユニット5内で皮膚と接触していない限りハンドユニット5がビームを放出するのを防ぐフェイルセイフ等、ダメージを引き起こす信号を患者が誤って放出するのを防ぐ安全特徴を取り込むことができる。
【0061】
図4Bは、レーザートランスミッター432を用いたパルスレーザービームの自動送達のためのコンピュータ制御システムの一部を示している。当該システムは、膝の中にある軟骨の領域に送達されるレーザービームの位置及び線量を制御する。トランスミッター432は、プレキシグラス、プラスチック、又は、ガラスから作製することができる透明な球表面430を介して膝の領域の上を横に又は上下に移動することができる。球体430は、治療ビームに対する誤った被曝を防ぐために、治療波長(例えば1064nm)にて吸収し、治療を容易にするために照準ビームの波長(例えば633nm)にて透明であり得る。
【0062】
球体430は、膝の上に位置づけられ、レーザートランスミッターを位置づけるための指標付け参照ポイントを提供する。トランスミッター432が球体430上に適切に位置づけられ、球体430が膝の上に適切に位置づけられると、当該システムを使用し、医師によりプログラムされた治療パラメータに従って、適切な線量を適用することができる。当該システムを、患者による安全な自己治療のために使用することもできる。スキャニング送達システム400もコンピュータ制御システムも、標的にされた組織以外に透過され得るビームを取り除く又は抑制することができる。
【0063】
吸収係数
レーザービームが通過した組織又はレーザー治療を受けさせる容積を取り囲む組織にダメージを与えることなく、レーザービームの透過深度が治療中の患者の体内に深く配置された位置に到達するよう改善されるように、放出パラメータを選択することができる。レーザー放射の深い透過によって、例えば、体内の比較的深い所に位置した軟骨組織の傷のレーザー治療が、周囲の生物学的組織にダメージを与えることなく可能になる。
【0064】
生物学的組織を通って伝わる光は、そのような組織を通り抜ける間にその振幅が指数関数的に減衰するように、ランベルト−ベールの法則に従う。生物学的組織を通るレーザーエネルギーの透過の程度は、組織吸収の係数及びレーザービームのフルエンス(表面あたりのエネルギーの単位:L/cm2)、すなわち、ビームエネルギーの密度次第である。前記フルエンスは、出力密度に照射の時間を掛けることによって与えられる。組織吸収係数は、放射線の波長に応じて変わるパラメータである。従って、生物学的組織内へのレーザービームの透過の程度は、レーザービームの波長及びレーザービームの出力に直接依存し、ビームの出力が高いほど、治療中の組織内への透過の程度も高い。
【0065】
生物学的組織内のレーザービームの透過深度に対するこれらのパラメータの効果における詳細は、K.Doerschel et al.,“Photoablation,”SPIE,Vol.1525 Future Trends in Biomedical Application of Laser(1991),pp.253−278において論議されている。Doerschel et al.(1991)によると、光の光透過深度(x)は、組織吸収の指標(α)に逆比例し、すなわち、x=1/αである。従って、組織吸収係数(α)が高いほど、組織内への透過は低くなる。上記のパラメータに対する透過深度の依存性は、Doerschel et al.の261ページの図9に示されている。吸収係数が高いほど、組織を介した放射線の透過は乏しくなる。
【0066】
表1に示されているように、正常軟部組織に対する吸収係数(α)は、波長(λ)の関数である。1,064nmの波長は、最も低い吸収係数(α=4cm−1)、及び、最も深い透過(2,500μm)を有している。これとは対照的に、Doerschel et al.によって報告されたデータは、CO2レーザー(波長10,600nm)が600cm−1の吸収係数及び非常に低い透過深度を有していることを示している。
【0067】
【表1】
αに対して本明細書において使用されるデータは、K.F.Palmer and D.Williams,“Optical properties of water in the near infrared,”J.Opt.Soc.Am.64,1107−1110(1974)からきている。異なるレーザー源の透過深度に対するさらなる情報は、J.Tuner et al.,Laser Therapy:Clinical Practice and Scientific Background,Prima Books,2002,pages40−43に提示されている。
【0068】
できる限り最良の透過を達成するために、レーザー光放射は、組織発色団によって最小限に吸収されることが好ましく、すなわち、レーザー光の波長は、組織発色団のピーク吸収波長に一致するべきではない。最も重要な発色団には、水、メラニン、ヘモグロビン、オキシヘモグロビン、及び、核酸(DNA)が含まれる。
【0069】
図5は、3.3mmの超優黒質組織を介した透過度対可視及び近赤外線の波長のビームに対するビーム直径のグラフである。透過度における変化は濃い色の皮膚、すなわち、超優黒質の皮膚(アフリカ人の皮膚)を有した被験者において特に重要であるけれども、類似の結果が、例えばヨーロッパ、アフリカ、及び、アジア人の被験者の皮膚等の明るい色のヒトの皮膚に当てはまる。一般に、透過度は、ビーム直径と共に、及び、独立して、波長と共に増す。最大の透過度は、λ=1064nm及び12mmのビーム直径でのビームに対して生じる。この波長は、皮膚、メラニン、及び、皮下脂肪によって部分的にのみ吸収され、最も深い組織(すなわち、関節軟骨)内に進入することが可能である。
【0070】
従って、本発明の一実施形態によると、パルスレーザービームは、0.75から2.5マイクロメートルの波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、0.9から1.2マイクロメートルの波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、1.064マイクロメートルの波長を有している。
【0071】
低い吸収係数によって特徴づけられる種々の波長を採用することができる。従って、本発明の別の実施形態によると、パルスレーザービームは、正常な生物学的軟組織において50cm−1以下の吸収係数(水の吸収係数)を有した波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、正常な生物学的軟組織において15cm−1以下の吸収係数を有した波長を有している。本発明のさらに別の実施形態によると、パルスレーザービームは、少なくとも2mmの透過深度を有している。
【0072】
フォトメカニカル効果
本発明の方法の根底にある1つの重要な態様は、高強度で使用される場合にレーザー光が、レーザー光によって治療されている組織及び/又は細胞に対して治療レベルにてフォトメカニカル効果を有し得ることである。フォトメカニカル効果を用いて、レーザー光のエネルギーの少なくとも一部を、レーザー光によって治療されている組織及び/又は細胞に対する1又は複数の形状の機械的力に変えることができる。そのような機械的力は、治療されている組織及び/又は細胞に対して物理的効果を有し、組織及び/又は細胞の形及び/又はサイズを変化させ、細胞代謝、細胞増殖、細胞分化、従って組織再生を刺激する等の効果を生じることができる。
【0073】
第1の態様によると、適切に焦点をぼやかしたレーザービームを適用し、特にピーク強度フルエンス(PIF)の観点から特定の特徴を有することによって、患者の組織表皮の所与の領域にて、レーザービームは、治療されている組織及び/又は細胞、特に、治療中患者の体内に深く位置する組織及び/又は細胞、例えば軟骨組織に対する光熱及び光化学効果と共にフォトメカニカル効果を有し得る。
【0074】
使用される高いPIFにもかかわらず、高すぎる温度上昇は組織ダメージを生じるため、皮膚レベルでの温度上昇は、生理学的範囲(37〜41℃)に維持されなければならない。この結果を達成するために、本発明に従って、パルスレーザーが使用されることが好ましい。
【0075】
一般的な用語において、生物学的組織との電磁放射の相互作用は、放射線波長及び組織の光学特性次第である。組織の表面に対して直交に向けられたレーザービームは、取り囲む環境(空気)から組織を通過する場合にインピーダンス指標の違いにより、部分的に反射され返される。レーザービームエネルギーの残りの部分は、組織まで及び組織を通って透過され吸収されて、組織内に含まれた種々の化学物質によって何回か拡散される。
【0076】
図6は、どのようにしてパルスレーザービーム602が、音波604、第1の媒体601と第2の媒体603との境界605を生じるかを示した概略図である。パルスレーザービーム602が第2の媒体603に衝撃を与える場合、弾性の圧力波604が第2の媒体603自体において直ちに生じ、表面605から媒体603内に深く伝播する。波604の振幅は、光ビーム602の強度に直接比例し、パルス幅の時間に逆比例する。波の振幅は、第2の媒体603の光の特性(λ)及び物理学的化学的構造次第でもある。以下、
【0077】
【数4】
は、高強度パルスレーザービームによって打たれた組織内に生じる音波の形の関係を記載する式であり、熱拡散係数は、
【0078】
【数5】
であり;寸法係数は、
【0079】
【数6】
であり;Iはレーザーパルス強度であり;ciは比熱であり;βiは線膨張係数であり;Kiは熱伝導率であり;piは密度であり;viは音速であり;αは組織の光吸収係数であり;zは深度であり、tは時間である。
【0080】
入射レーザー光と組織内に生じるフォトメカニカル又は光音響波との関係には:(1)入射光の強度と組織内に生じる機械的波の強度との直接的な関係;及び(2)機械的波の周波数とレーザーのパルス幅(τ)との直接的な関係が含まれる。すなわち、音波の形は、レーザーパルスの形に関連している。機械的波の強度は、(例えば図6の媒体2等の)媒体の光学的、熱的、及び、機械的特徴次第でもあり得る。
【0081】
フォトメカニカル効果の治療価値
高いピーク出力値(例えば、少なくとも1kWのもの)及び高いピーク強度値(例えば、少なくとも1kW/cm2のもの)は、フォトメカニカル効果が治療目的で利用されることを可能にする。フォトメカニカル効果の例としての上記の「光膨張」及び「光収縮」効果は、パルスのピーク出力、パルスデューティサイクル、及び、パルス周波数が適切に選択された場合に、照射を受ける組織におけるある種の細胞外マッサージを実質的に生じ得る。
【0082】
軟骨組織に対するフォトメカニカル効果の限定しない例は、以下において詳細に与えられ、本発明によるパルスレーザービームのフォトメカニカル効果の治療価値の1つの例を与えている。
【0083】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸又はヒアルロナートとも呼ばれ;以下、「HA」と呼ばれる)は、結合性の上皮及び神経組織に渡り広く分布された、硫酸化されていないグリコサミノグリカンであり、細胞増殖及び細胞移動に著しく寄与する細胞外基質の主要な成分の一つである。HAは、関節軟骨の重要な成分であり、各細胞(軟骨細胞)の周りをコーティングするものとして関節軟骨に存在する。リンク蛋白質の存在下でアグリカンモノマーがHAに結合する場合、大きな非常に負の電荷をもつ凝集体が形を成す。これらの凝集体は水を吸収し、軟骨のリジリエンス(その圧迫に対する抵抗)の原因である。細胞外基質で豊富であるけれども、HAは、組織流体力学、細胞の移動及び増殖にも寄与し、特にその最も重要な受容体であるCD44を含むもの等、多くの細胞表面受容体相互作用に関与する。HAは、水の容積を粘性の高いゼラチン様の基質にする能力がある。組織に圧縮性を提供することに加えて、プロテオグリカンは、(例えばbFGF等の)ECMへの増殖因子に対する貯蔵所としても役に立つ。ECMに対するいかなるダメージも、従って、結合された増殖因子を解放し、治療工程を開始し得る。プロテオグリカンは必須の細胞膜蛋白質でもありえ、その能力において、細胞増殖及び分化を調節し得る。
【0084】
図7は、細胞外軟骨基質(ECM)におけるHAの分布を、ECMの最も重要な成分の1つとして示している。ECMと軟骨細胞との間に密接な接続が存在すると指摘することは非常に重要である。従って、ECMのいかなる空間的な変形も、機械的刺激として自動的に細胞に伝達される。
【0085】
図8は、HAの光スペクトルを示している。HAの吸収ピークの1つにある適切な波長(例えば1064nmの波長)を有したパルス高強度レーザービームを使用して軟骨組織を治療する場合、ECM内のHA含有量によって選択的に吸収される。この特定のレーザー光のパルス放出を介したこのECM内のHAによる特異的な吸収は、即座の組織膨張、その後の冷却期中の収縮の原因である。この復元可能なECMの空間的変形は、機械的刺激として自動的に細胞に伝達される。
【0086】
骨、軟骨、骨格筋、及び、靱帯を含む筋骨格系は、代謝、細胞骨格系、増殖の速度、及び、発生中の分化の状態における変化を用いてそのような機械的刺激に反応する(Onodera et al.)。軟骨細胞も、その代謝、その分化の状態、及び、その増殖を変えることによって機械的力に反応し、機械的刺激の大きさ、頻度、及び、モードに応じてそれぞれ機械的力に反応する。
【0087】
「インテグリン」を介したECM接着は、異なる種類の間葉系細胞の細胞移動度、代謝、及び、増殖に対して重要であるということが一般的に知られている。インテグリンは、細胞内領域が細胞骨格要素と付随している膜貫通型(α−及びβ−鎖)ヘテロ二量体糖蛋白質のファミリーである。上皮細胞又は間葉系細胞上のインテグリンもECMに結合し;これらの相互作用は細胞付着を合図し、細胞遊走、増殖、又は、分化に影響を与え得る。インテグリン−ECM相互作用は、増殖因子受容体によって使用される同じ細胞内シグナル伝達経路を利用することができ;例えば、インテグリンにより媒介されたフィブロネクチンへの接着は、MAPキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ、及び、プロテインキナーゼC経路の要素をトリガーし得る。この様式で、細胞外機械的力を、細胞内合成及び転写経路に結合させることができる。
【0088】
分化している軟骨細胞はα5β1及びα2β1インテグリンを発現し、成熟した軟骨細胞も、α5β1、α2β1、及び、αvβ5インテグリンを発現する。インテグリンにより媒介された細胞−ECM接着の阻害は、ペレット培養系での胚性間葉系細胞における軟骨形成の分化を高める。一般的に、インテグリンを介した細胞−ECM接着は、低分子量GTPase及びマイトジェン活性化チロシンキナーゼ(MAPK)経路を活性化し、細胞骨格構造を変える。同時に、これらの経路を介したインテグリンの下流シグナル制御は、軟骨細胞内の有力なメカノトランスダクション経路であり得る。実際に、異なる種類の機械的負荷によって、軟骨細胞における細胞外調節キナーゼ経路(ERK−1/2)が活性化され、それは、自由な膨張(free swelling)ではなく軟骨外植片に対する負荷の動的な構成要素である。Takahashi et al.は、拡張性の力がin vivoでのERK−1/2のリン酸化及び核移行を誘発したと示した。従って、細胞−ECM接着は、メカノトランスダクション、及び、後の機械的刺激に対する軟骨細胞の反応において重大な役割を果たし得る。
【0089】
細胞増殖及び分化は、強調して作用する少なくとも2つの異なる種類のシグナルを含む。1つは、ポリペプチド増殖因子及び増殖抑制物質等の可溶性分子に由来する。もう1つは、細胞インテグリンと相互に作用するECMの不溶性要素を含む。
【0090】
細胞は、関節軟骨等の最も深い組織に達することができる本発明による高強度レーザー光波長(例えば、1064nm)に対して実質的に透明であるため、本発明による高強度レーザー光は、HAによって選択的に吸収されるレーザー光を機械的力に変えることができ、その力は、ECMに作用することによって、軟骨細胞を機械的に刺激することができる。
【0091】
光熱効果
上記のように、組織透過は、使用される出力に比例し、その結果、強度(W/cm2)又は出力密度に比例し、その結果、ピーク強度フルエンスに比例する。深い組織まで達するために、高い出力値を採用しなくてはならず、同時に、例えば光熱現象により生じる組織ダメージを回避する。
【0092】
パワーレーザーシステムは、短期間でも多量のエネルギーを供給し、治療されている領域を必ず加熱する。組織内で生じる熱は、その組織に伝達されるエネルギーの量に直接相関する。
【0093】
連続して放出するレーザーシステムにおいて、放出出力の増加は、放出されるエネルギーを増やし、時間における出力の積分である。前記エネルギーの一部は、照射された組織において熱に変換される。水中(生物学的組織は水によって主に形成される)での熱の伝播の速度は、組織中での電磁放射線の伝播の速度よりもはるかに遅い。結果として、組織においてレーザーエネルギーにより生じる熱は、温度上昇によって結果として生じる負の効果と共に、治療されている患者の皮膚の下の特定の深さにてたまる。
【0094】
生物学的組織中での熱の拡散距離は、レーザー治療中に熱効果を制御するための重要なパラメータである。そのような距離Lは、L2=4Ktによって与えられ、Kは、熱が伝播する物質の熱拡散率と呼ばれ、熱伝導率、比熱、及び、物質の密度の関数であり;tは、時間である。
【0095】
上記の式から、水に対してK=1.43×10−3であると仮定すると、熱エネルギーは、水中を1秒あたり0.8mmで伝播する。拡散距離Lをレーザー放射線の透過深度に等しいと見積もることによって、緩和時間が以下、trelax=1/4Kx2のように得られ、trelaxは緩和時間であり、Kは組織の熱拡散係数であり、xは透過深度である。
【0096】
1/4cmに等しい透過深度を有するNd:YAGレーザーに対して、及び、Kが0.00143という値(水の値)であると仮定して、緩和時間は312.5秒である。これは、Nd:YAGレーザーを使用して組織内の深い透過深度に達する場合に、かなり長い熱緩和時間が得られることを意味している。これは、治療中の組織においてゆるやかな温度上昇及びゆるやかな熱放散を生じる。そのようなゆるやかな放散は熱蓄積を生じ、結果として治療中の組織においてダメージを生じ得る。
【0097】
上記のように、体内の深くに位置する組織を治療するために、低い水吸収係数によって特徴づけられる波長が使用されることが好ましい(光放射の組織吸収係数が低いほど、その組織透過は良くなる)。これは、例えば関節腔の内側等、体内の深くに光を運ぶことを可能にするけれども、照射される組織において生じる熱放散速度に関して起こりうる問題も生じる(組織中の光の伝播速度が速いほど、誘発される熱が奥底で「閉じ込められて」残り、熱蓄積現象が生じるリスクは大きくなる)。従って、治療中の組織における熱の蓄積及び過度の温度上昇を回避するため、熱が消散するよう、連続するレーザーパルスの間に十分な時間を提供することが必要な場合がある。
【0098】
本質的に、レーザー光は少なくとも部分的に、42℃までの明白な温度上昇によって観察される光膨張効果の原因である熱波に変えられる。τ−off時間の間、急冷があり、(例えば組織等の)媒体は光収縮に移る。光膨張及び光収縮は、それぞれレーザー光から変換された熱の発生及び放散による媒体の膨張及び収縮であり得る。組織はいかなる強烈な変形も経ないため、膨張及び収縮は可逆的である。音波を生じることができ、従って、光音響効果としても知られるこのフォトメカニカル作用は、十中八九、これらのシステムにおいて観察されるミクロン尺度の表面質量輸送を含めた種々様々な奇妙なフォトモーションの発端である。
【0099】
熱蓄積、従って温度上昇に対する影響を有したさらなる重要なパラメータは、治療中の組織の全容積である。照射される表面(すなわち、レーザースポット)及び照射されるエネルギーを一定に維持することによって、1パルスあたりのピーク出力の増加は、照射される容積を増やす。これに対する理由は、高いピーク出力が、組織におけるレーザーの深い透過を引き起こす、従って、レーザーエネルギーを吸収する全容積の増加を引き起こすからである。その透過深度は、レーザー放射の密度レベルが治療効果を及ぼすことができる深度として理解される。
【0100】
等エネルギーの熱力学的変換において、以下の式:Ck=ck×mに従い、熱容量(Ck)によって、対応する容積は異なり、m=体重;及び、ck=各体の特色を示す比熱である。
【0101】
Ck=ΔQ/ΔTであり、Q=エネルギー;及び、T=温度であるため、ck×m=ΔQ/ΔTであり、従って、ΔT=ΔQ/(ck×m)である。
【0102】
上記の式から、同じ量の照射エネルギーは、照射される容積に反比例する温度上昇を引き起こし:照射される容積が大きいほど、温度上昇は小さくなることが明白である。従って、初めて見たときに現れるものに反して、各レーザーパルスのピーク出力の増加によって、組織温度制御の観点から治療の状態が改善される。
【0103】
従って、より上皮及び周囲の組織にダメージを与えることなく、深い組織の効果的な治療を得るために、低いパルス周波数及び短いパルス(すなわち、低デューティサイクル値:短いτ−on時間及び長いτ−off時間)を、1パルスあたりの高いピーク出力値と組み合わせて有したパルスレーザー源が使用されることが好ましいということが認識されてきた。
【0104】
レーザースポットの領域も、散乱の量を最小にしながら可能な限り透過を最大にするために非常に重要である。実験(Zhao,1998)において、スポットサイズの直径を大きくすることによって、散乱角の減少が生じる(スポットの直径が大きいほど、散乱角は小さい)ことが実証されてきた。これによって、より深い透過及び組織におけるより均一な放射線の拡散が生じ、従って、治療効果が増加される。
【0105】
さらに、上記のようにΔT=ΔQ/(ck×m)であるため、同じパルスあたりのエネルギーでは、治療される容積が大きいほど、組織に対する熱の上昇は小さい。特に透過深度が一定の値で維持されることが好ましい場合に、治療される容積を増やすための1つの方法は、スポットサイズを大きくすることである。上記のパラメータを適切に選択することによって、治療される容積における組織温度は、例えば42℃又はそれ以下、好ましくは40度未満等の特定の温度未満に維持される。要求があった場合には、治療中の患者の皮膚の冷却をさらに提供することができる。
【0106】
光化学効果
本発明によるパルス高強度レーザービームは、治療される組織及び/又は細胞に対して光化学効果も有することができる。光化学効果によって、レーザー光内のエネルギーの少なくとも一部が、そのレーザー光により治療されている組織及び/又は細胞によって直接吸収され得る。レーザー光内のエネルギーの直接的な吸収は、治療される組織及び/又は細胞において特定の化学的及び生化学的結果を有することができる。レーザー光で治療されている組織及び/又は細胞によって直接吸収されるエネルギーは、フォトメカニカル効果においてそうであったように機械的力に変えられることはない。
【0107】
レーザー光の光化学効果における1つの限定しない例は、エネルギー閾値を超えて生化学的反応を開始するよう、酵素に運動エネルギーを提供することである。この例は、以下で詳細に説明される。
【0108】
傷ついた生物学的組織に対するレーザー放射の作用方法を完全に理解する及び記載するためには、レーザー療法中に観察される臨床的現象を考慮することがきわめて重要である。臨床的レベル、生化学的レベル、分子生物学関連レベル、及び、物理学的レベルといった少なくとも4つの異なるレベルの調査が考慮されるべきである。
【0109】
実際のところ、生化学的態様の前に物理学的考慮を入れることによって、例えば、10,600nmの放射線(CO2レーザー)の臨床的有効性を生物学的組織に関するその光学的性質と一致させることは可能ではない。従ってこれを前提に、この20年間の文献に報告されているように、レーザーの治療効果:すなわち、抗炎症効果、生体刺激効果、鎮痛性効果、抗浮腫性効果、及び、脂肪分解性効果を第一に考慮することはきわめて重要である。
【0110】
変形性関節症病理学の動物モデルにおいて、本発明による方法の適用によってPCR(反応性蛋白質−C)値の低下が生じることが発見されてきた。これは、IL−6、IL−1β、及び、TNFα等のサイトカインの内分泌の減少によるものである。内分泌は、その生じる生物の中で残る及び作用するよう意図された腺性分泌である。
【0111】
サイトカインにわたり拮抗性効果を有するTGFβ及びIGF−I等の特定の増殖因子に対するレーザーによって誘発される刺激に関しては、前記サイトカインの減少は、これら又は他の起炎性のサイトカインにわたるレーザー作用の直接的効果にそんなにたいしてよるものではない。サイトカインは、広範囲の細胞によって生じる蛋白質のホルモン様因子であり、細胞内メッセンジャーとして作用することによって、多くの異なる生物学的効果を及ぼし、その中には、宿主の炎症性、増殖、及び、細胞分化工程の制御、並びに、免疫反応工程の制御がある。最もよく知られたサイトカインは、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、及び、サイトカインである。組織破壊を生じる異化作用工程を活性化する起炎性タイプのサイトカイン、並びに、それどころか再生工程を促進する同化作用のサイトカインも知られている。
【0112】
従って、レーザー放射は、いかなる細胞構造又は(例えば、IL−1β、TNFα,IL−6等の)産物に対していかなる遮断作用も提供しないが、容易に利用可能なエネルギーを用いて、進行中の異化作用工程を逆にすることができる同化作用のサイトカインを促進することができる。
【0113】
この刺激は、内因性のチロシンキナーゼ(tyrosinchinasic)活性を有する細胞受容体に対しても、細胞質内のチロシンキナーゼ(tyrosinchinase)に関する受容体を利用するものに対しても作用することによって実際に起こる。
【0114】
前者のタイプに属することは、原型としてインシュリンを有した受容体のグループである。特に、前記グループは、インシュリン様増殖因子(IGF−I)に対する受容体,変異増殖因子ベータ(TGFβ)に対する受容体、上皮細胞増殖因子(EGF)に対する受容体、及び、血小板由来増殖因子(PDGF)に対する受容体を含む。受容体とホルモンとの相互作用による活性化に続き、細胞増殖に関与する他の分子の活性を調節することが可能である。
【0115】
言い換えると、これらの受容体は、特異的ホルモン(例えばIGF−I)によって活性化されると、細胞活性を直接変えることが可能であるということに関してそのような構造を有する。
【0116】
細胞質内のチロシンキナーゼを利用する第2のグループの受容体は、このグループに、GH、プロラクチン、エリスロポエチンの受容体、及び、多くのサイトカインの受容体が属するため、「GH/サイトカイン」の受容体とも呼ばれる。
【0117】
レーザーは、まず第一に、内因活性を有した(従って、IGF−I、TGFβ、EGF、PDGF因子を増やす)受容体のチロシンキナーゼ活性を好み、第二に、(GH効果を改善することにより)細胞質内のチロシンキナーゼを有したものを好む。
【0118】
レーザーにより生じる作動機構を理解するために、どのようにして酵素システムは機能するかを覚えるに値する。これらは、無機触媒と類似の方法で作動するが、はるかに高い作用の特異性を有する。実際、酵素は下層を選択的に吸着し、その上で作用して、そこと密接に結合するようになる。
【0119】
一度反応すると、酵素により吸着された分子はより弱く結合し、酵素から移動して再び利用可能になる。酵素の主要な目的は(触媒と類似して)、分子が所与の反応サイクルに入るのに必要なトリガー(運動)エネルギーを減らすことであるということを心に留めておくべきである。触媒及び酵素は、従って、エネルギーの要求を減らす、すなわち、分子が反応を開始するのに超えなくてはならないエネルギー閾値を下げる。
【0120】
慢性の感染により誘発されるもの等のストレス状態の下、起炎性のサイトカインの増加が起こり、GHをめぐる競合的干渉と共に細胞質内のチロシンキナーゼ受容体の活性化をもたらす。この現象は、細胞の同化作用の現象が完全に遮断されず、実際は、酵素及びエネルギー競合の現象のため阻止される理由の説明を提供することができる。
【0121】
この状況において、レーザーからの容易に利用可能なエネルギーは、(すでに起炎性のサイトカインにより結合された)細胞質内のものではなく、内因性のチロシンキナーゼ受容体の経路を好み、異化作用経路の代わりに同化作用経路を支持して恒常性細胞尺度を変える(IGF−I)、変異増殖因子ベータ(TGFβ)、上皮細胞増殖因子(EGF)、及び、血小板由来増殖因子(PDGF)等の増殖因子を好む。
【0122】
このレベルにて、レーザーは2つの異なる方法で作動する。
【0123】
直接、化学試薬に作動する:これはおそらく、治療処置の第1の経路であり;実際、慢性及び/又は悪化しやすい炎症の間に、細胞質のチロシンキナーゼの飽和が、同化作用のサイトカイン(GH、IGF−I、TGF等)に大きく勝る起炎性のサイトカイン(IL−1β、TNFα、IL−6等)により誘発された「GH/サイトカイン」の刺激により起こる。この条件の下、レーザー放射により送達された運動エネルギーの利用可能性は、チロシンキナーゼ酵素の不足(起炎性のサイトカインの作用による不足)の場合でも、同化作用のサイトカインにより誘発された代謝反応のサイクルに対する細胞試薬の直接的な利用を好むであろう。ルールとして、酵素作用無しでは、要求されるエネルギーが多すぎる:レーザーはそのようなエネルギーを提供しないため、同化作用反応を活性化することは可能ではない。このモードでは、炎症性の状態により中断された同化作用活性を再び開始する可能性を細胞は有するであろう。レーザーと抗炎症活性を有した薬との本質的な差は、その代謝有効性を再び取り戻し、何も促進することなく(起炎性サイトカインのものを含めた)一部の代謝経路を阻止する抗炎症性薬物とは逆にいかなる活性も遮断しないよう同化作用のサイトカインをレーザーが刺激するという事実にある。どのようにしてTNFαの遮断は進行中の変性現象の減速のみを決定するが、レーザー放射を使用した場合にin vivoで観察することができるものとは逆の、反転傾向は決定しないと留意することは興味深い。TNFαの遮断にもかかわらず、反転傾向の欠如は、他の起炎性サイトカインがチロシンキナーゼに結合することによってその拮抗活性と共に進むことを考慮することによって説明することができる。
【0124】
間接的に、チロシンキナーゼ(膜、細胞質)に作動する:この場合、レーザーは、その酵素前駆物質を活性化することによって、より多くの量のチロシンキナーゼを利用可能にする。そのようなさらなる量の細胞質内のチロシンキナーゼによって、GH(同化作用のサイトカイン)のパラクリンの役割により誘発される代謝活性の発生が可能になる。
【0125】
要するに、上記の出力強度レベルでのレーザー放射は、第一に、増殖因子の代謝活性を促進することによって最初のバイパス効果を生じる。その後、GHの経路に有用である、より多くの量の細胞質内チロシンキナーゼを利用可能にする。
【0126】
TGFβは、高用量で、変形性関節症現象の起源において重要な役割を有するTNFαに対して拮抗効果を有するということが知られている。IL−1β及びTNFαがグルココルチコイドに対する受容体の利用可能性を増やすという事実も知られている。これらの全てが、炎症慢性の場合に、同化作用の経路ではなく異化作用の経路の方向に生物を向ける、従って、退行性現象を増やすことに寄与する。Lopez Calderon等は、慢性炎症はGHの分泌を阻止し、IGF−Iの血清レベルを変えると記載したin vivoでの実験の結果を報告した(Lopez Calderon A,Soto L.,Martin A I.Chronic inflammation inhibits GH secretion and alters serum insulin−like−growth factor system.Life Science.1999:65(20):2049−60を参照)。
【0127】
生物の恒常性尺度における軸GH−IGF−Iによるいろいろな明確な効果が知られており、前記軸は、カヘキシー(cachexic)又は退行性現象が起こる場合に変わる。
【0128】
レーザー放射は、活性化閾値を超えるのに十分な強度で送達される場合に、いかなるタイプのいかなる「薬理学的妨害物」も誘発することなく、細胞活性を促進することが可能である。実際、遮断効果を用いていくつかの生物学的機能に対して作用することによって望まない副作用を常に生じる(例えば、TNFαは免疫系の深刻な衰弱を誘発する)という事実に抗炎症薬の重要な制限があることが知られている。
【0129】
要するに、レーザーは、容易に利用可能な運動エネルギーを供給することによって、まず第一に、いかなる酵素欠乏にもかかわらず、内因性チロシンキナーゼ活性に対する受容体経路の活性化を好む。この促進は、一連の細胞内及び細胞外現象をトリガーし、それらを改善することによって増殖因子IGF−I、TGF、EGF、PDGFに影響を与える。第二に、細胞質内のチロシンキナーゼの活性化が起こり、軸GH/IGF−Iを修復することによってGHの効果をブーストし、さらに、サイトカインの効果をブーストする。
【0130】
これは、なぜ特定の条件下でレーザーは抗炎症効果を有さないが、免疫系を改善及び維持する起炎性効果を有するかを説明する。
【0131】
レーザー光の光化学効果における別の限定しない例は、(例えばCa2+チャネル及びその細胞下流メッセンジャー等の)分子メッセンジャーの活性化である。この例は、以下で詳細に説明される。
【0132】
細胞が細胞質のCa2+レベルを正確に管理していることは、よく知られている。生理的細胞内Ca2+濃度は、細胞外Ca2+濃度の20,000分の1である。膜貫通電気勾配(−60、−90mV)が存在するため、Ca2+は自発的に細胞に入る傾向がある。細胞膜は、イオンCa2+に対して部分的に多孔質であり、細胞死を回避するために細胞内Ca2+濃度を低く維持するという問題が存在する。従って、その有毒な細胞内Ca2+濃度を回避するために、細胞は、細胞内Ca2+濃度を制御することができる発振行動を仮定する。この機構によって、「化学波」と呼ばれるCa2+波の細胞内伝播が誘発される。これらの化学波は、細胞が浸漬される電磁場発振に対して感受性が高い。従って、これらの化学波は、パルスレーザービームによって送達されるレーザーエネルギーにも感受性が高い。化学波に影響を与えることによって、パルスレーザービームは、細胞内Ca2+濃度に対する効果を有することができ、従って、一連の生化学的及び生物学的結果を有することができる。
【0133】
フォトメカニカル効果と光化学効果の比較
全てのレーザーシステムが、治療されている組織及び/又は細胞に対するフォトメカニカル効果を有するために必要とされるエネルギーを送達することができるけれども、高強度レーザーのみが、治療価値のフォトメカニカル効果を及ぼすことができる。高いピーク出力値(例えば、少なくとも1kWのもの等)及び高いピーク強度値(例えば、少なくとも1kW/cm2のもの等)は、治療されている組織及び/又は細胞に対するフォトメカニカル効果も光化学効果もパルスレーザー光が有するのを可能にし、その組み合わせで、並外れた予想外の治療結果を達成することができる。
【0134】
本発明の実施形態によると、組織再生は、細胞に対してレーザー光子により誘発される直接的な光化学効果と組み合わせて、治療されている組織に対して高い出力のパルスレーザービームにより誘発される前記フォトメカニカル効果を活用することによって高められる。軟骨組織は、組織細胞が含まれる細胞外基質によって特徴付けられる。パルス高強度レーザーにより誘発されるフォトメカニカル効果は、細胞外基質及びそこに含まれる細胞の繰り返される収縮並びに膨張を生じる。この機械的効果は、軟骨形成作用を刺激する。直接的な光化学効果、すなわち、細胞構造体によるレーザー光子からのエネルギーの直接的な吸収は、繊維軟骨組織ではなく健康な硝子軟骨組織が再生されるように細胞分化を制御する。
【0135】
レーザー放射の線量と治療の効率との関係は、レーザーの治療作用にとって重要であると常に考慮されてきた。この事実は、in vitroでの実験に基づき、文献において広く報告されてきた。
【0136】
ネズミの膝関節に対して行われたin vivoでの実験によって、5.8W/cm2の出力密度では活性化閾値を超えるのに十分ではない場合があると示されてきた。(Usuba M,Akai M,Shirasaki Y:Effect of low level laser therapy(LLLT) on viscoelasticity of the contracted knee joint:comparison with whirlpool treatment in rats,Laser Surg Med 1998,vol.22 pp.81−5)。
【0137】
本発明は、組織に対するレーザー放射の「線量」ではなくその強度、すなわち、全治療中に適用された全エネルギーの重要性における驚くべき認識に基づいている。LLLTはフォトメカニカル効果のみを有することができ、光熱効果も有することができる場合もあるため、フォトメカニカル効果だけでなく光化学効果も光熱効果も有する本発明による高強度レーザー療法(HILT)とは概念的に異なる。本発明によるフォトメカニカル効果は、上記のように光熱効果及び光音響効果にも関する。
【0138】
ここで説明する必要がある:1つは、組織に適用された場合に平均温度を上げ、従って、基礎代謝も上げるいかなるエネルギー源の光と熱に関する効果である。この現象も、長い間体の領域に連続して放出する簡略な低出力レーザーを用いて容易に得ることができる。代わりに、光力学効果と相関した熱効果は非常に異なる。この場合、非常にエネルギー値の高い非常に短いパルスを有したパルスレーザー、言い換えるとHILTレーザーを有することが必要になる。照射された組織は、熱効果のため急速に膨張し、次に、1つのパルスと次にパルスとの間で、その後直ちに冷える。この場合でも、熱効果は直ちに機械的エネルギーに変換される。
【0139】
これは、光熱効果とフォトメカニカル効果との関係に関して説明する理由である。しかし、これは、非常に特別のケースにすぎない。従って、同じレーザーが2つの熱効果を有することができ、1つは、光膨張に続いて冷却中の収縮を有した即座の効果であり、もう1つは、治療されている領域の平均温度の上昇を、結果として起こる基礎代謝の上昇を伴い決定する熱蓄積の現象のため、より全体的である。第1の現象はHILTの典型にすぎないが、第2の現象は、体に適用されるエネルギー源全てに共通している。
【0140】
HILTとLLLTとの区別
上記のことを考慮して、HILTは、達成されることになる目的、並びに、前記目的を達成するための作動条件及びパラメータの選択に関してLLLTと比較して区別する。目的が重要である限り、HILTの主な目標は、無痛で非侵襲性の治療システムを用いた非侵襲性再生医療である。HILTの第2の目標は、関節軟骨の傷等の深い傷の治療である。
【0141】
これは、採用された高いピーク出力値;組織内の可能な限り深いレベルでの高エネルギー光子の移動;及び、42℃未満、好ましくは40℃未満の組織温度の制御;のおかげによる、光化学及び光熱効果に加えて、及び、光化学及び光熱効果と組み合わせたHILTのフォトメカニカル効果のおかげで得ることができる。
【0142】
上記の目標は、以下のいくつかの一般的なルールによって達成される。そのルールとは、レーザー放射の透過が深いほど、後のレーザーパルス間の時間は長く、熱放散を可能にする;1レーザーパルスあたりのエネルギー含有量が大きいほど、パルス周波数、すなわち、レーザーパルスが繰り返される周波数は低い;1パルスあたりの出力レベルが高いほど、フルエンスは低い;各パルスのピーク出力が高いほど、パルス幅は短くなる(低デューティサイクル)であろう;一定のスポット領域でのピーク出力が高いほど、放射の興味の対象となる容積は大きくなり、従って、熱蓄積による温度の上昇は小さくなる;1パルスあたりのエネルギーが高いほど、レーザー放射線に対する全被曝時間は短くなる;並びに、レーザー放射線に対する全被曝時間が短いほど、熱蓄積は少なくなる。
【0143】
高いピーク出力及び1パルスあたりの多量のエネルギーによって特徴づけられる大きなパルスは、ランベルト−ベールの法則に従って深い部分に多量のエネルギーを伝達するのに有用である。組織温度の熱上昇は、供給されるエネルギーの量と直接関連がある。治療中にフォトメカニカル効果を達成しながら温度傾向の正確な制御を得るために、以下の値を、組織再生を刺激する方法の例として示すことができる(レーザー放出の種々のパラメータは本願を通して述べられる範囲内で変わり得るということに留意するべきである)。その値とは:
可能な限り高いピーク出力(例えば、少なくとも1KW);
非常に短いパルス幅τ(例えば、1から300マイクロ秒)によって特徴づけられる非常に長い送達時間T(例えば、0.1から1秒間);従って、非常に低いパルス繰り返し周波数(例えば、1から40Hz)、及び、非常に低いデューティサイクル(例えば、0.01%以下);
光がその通過中に経るいかなる散乱にもかかわらず標的に対する優れた光子の伝達を保証する非常に高いパルス及び優れた平均出力(例えば、何十W)を保証することができる、1パルスあたりの高いエネルギー含有量(例えば、0.03から1ジュール);
大きなレーザースポット直径(例えば、10mm);並びに、
0.1から1.0(J/cm3)2のPIF;
である。
【0144】
この方法で送達される高いエネルギーは安全であり、光がついた場合に組織を通じて突然の劇的な容積の膨張を可能にし、光が消された場合に冷却ビート(cooling beat)が続き、その結果、フォトメカニカル効果を生じる。
【0145】
評価研究
動物モデル及びヒトモデル両方に対するin vitro及びin vivoでのHILTを用いて実行した実験的試みは、ピーク強度フルエンス(PIF)のマップを描くことを可能にした。
LLLT 0.00146
HILT
抗炎症効果(vivo) 0.045
軟骨細胞(vitro) 0.246
HCT8(vitro) 0.776
ニワトリの調査(vivo) 0.553
ヒト(vivo) 0.553
第1のヒツジの調査(vivo) 0.566
ウマ/ヒツジの新たな調査 0.879
中毒量、ニワトリの調査(vivo) 1.688
高強度レーザー療法(HILT)は、in vitroでの細胞増殖を刺激する。
【0146】
背景及び目的:
Nd:YAGレーザー放出は、疼痛管理に対して理学療法及びスポーツ医学において広く使用されているが、細胞増殖に対するその効果に関してはほとんど知られていない。低い出力のダイオード(diodic)レーザー放出は、細胞増殖効果を示すが、深刻な変性疾患を治療するよう安全又は効果的に使用することはできない。近年、新たな種類のNd:YAGレーザー放出(HILT、高強度レーザー療法)が考案され、その特徴は、深い所に位置する解剖学的位置まで多量のエネルギーを安全に送達することを可能にする。これは、原則として、変形性関節症のような変性疾患の治療を可能にし得る。この研究の目的は、従って、(a)HILTが細胞増殖効果を有しているかどうかを評価する、(b)どの放出パラメータに対して、この効果を観察することができるか、及び、その効果は観察することができるかどうかを評価する、(c)チロシンキナーゼシグナル経路との相互作用によるものであるかどうかを決定するために評価することであった。
【0147】
材料及び方法:
in vitroで培養したHCT8細胞を、種々の放出パラメータにて、HILT放出で照射し、その増殖速度をODアッセイ及び免疫組織化学的試験を介して決定し、最も一般的な有核細胞周期活性化マーカー(Ki67、PCNA、サイクリンD1)のレベル、及び、増殖因子(IGF I)合成のレベルを決定した。同じ実験を、細胞周期活性化を生じるチロシンキナーゼ経路の選択的阻害剤であるゲニステインで処理したHCT8細胞に対して繰り返した。
【0148】
当該研究に使用されるレーザーシステムは、1064nmの波長、200マイクロ秒のパルス幅、1パルスあたり0,30から150mJのエネルギー、1から40Hzの繰り返し周波数、6mmのスポットサイズ直径を有する。レーザーシステムに対する電源は、230V−50/60Hzである。供給電力は12Aである。
【0149】
1回の治療あたりのレーザーの設定は、以下の:
ピーク強度フルエンス(PIF):0.776;
ピーク強度:2.7kW/cm2;
1パルスあたりのエネルギー:150mジュール;
繰り返し周波数:10Hz;
スポットサイズ直径:5mm;
1パルスあたりのフルエンス:0.759J/cm2;
1回の治療あたりのエネルギー(線量):27−36J;
である。
【0150】
結果:
HILT放出は、所与の放出パラメータでの細胞増殖を誘発することができた。エネルギーの総量及び送達された線量は増殖速度とは相関しなかったけれども、HILTパルス繰り返し周波数、被曝時間、並びに、平均出力は、きわめて重要な役割を果たした。さらに、HILT治療は、ゲニステインによって選択的に阻害された細胞周期マーカーの発現を修復することができた。
【0151】
結論:
HILTは、所与の放出パラメータにて細胞周期の活性化を修復する、及び、細胞増殖を刺激することができる。活性化の機構は、チロシンキナーゼシグナル経路との直接相互作用、又は、おそらくフォトメカニカル細胞刺激によって媒介される別の経路の誘発に依存し得る。アクティブパラメータにて、HILTは、IGF I増殖因子によって媒介された増殖のオートクリン及びパラクリン活性化を刺激する。
【0152】
HILTを使用した硝子軟骨再生in vivo動物モデル
序論:
本実施例において実行した研究の目的は、動物モデルを使用したin vivoでの関節軟骨の再成長を刺激するための新たな非侵襲性方法としてHILTを評価することである。主要な目標は、in vivoでのHILTの安全性及び効果を評価することであった。他の目標は、HILTの軟骨の再成長及び抗炎症効果の評価を含んだ。
【0153】
材料及び方法:
ヒツジは、試験した全ての動物種の中で、ヒトに最も近い基礎代謝率(BMR)を有したため、この研究の動物モデルとしてヒツジを選んだ(R.K.Porter,“Allometry of mammalian cellular oxygen consumption.”CMLS,Cell.Mol.Life Science.58(2001):815−822)。
【0154】
傷の部位として膝蓋骨の大腿骨滑車溝を選んだ。この部位は膝蓋骨によって部分的に覆われ、光は膝蓋骨と大腿骨の空間を通過しなければならない。皮膚と傷の中心との平均距離は、22±1.7mm(内側)及び30±1.5mm(外側)である。組織の内側の光の強度を計算するために、傷と同じ部位にて膝蓋骨の大腿骨滑車溝の骨(死んだヒツジの膝)の中にフォトダイオードを挿入した。データロガーを使用して、熱、光、及び、出力を追跡した。データロガーには、難しい条件での測定を可能にする(フォトダイオード、光ファイバー等)小さなセンサが装備されている。
【0155】
ゼロ時間(T0)にて、肋軟骨下の骨に達する片側の(monolateral)軟骨全層外科的欠損が、膝蓋骨の大腿骨滑車溝に穴(φ=14mm)を開けることによって、60±5kgの重さである10匹の雌の成体ヒツジにおいて生じた。
【0156】
全対象(n=10)が、手術後6日間、抗生物質予防を受けた。手術から一週間後、全対象を2つの群に分け:HILT群は、15のレーザー治療(Tx)を受け、未治療群はレーザーを受けなかった。
【0157】
この研究に使用したレーザーシステムは、1,064nmの波長、50から110マイクロ秒のパルス幅、1パルスあたり200から2000mJのエネルギー、1から10Hzの繰り返し周波数、10mmのスポットサイズ直径を有する。レーザーシステムに対する電源は230V−50/60Hzである。供給電力は12Aである。システム全体で、92cm×33cm×75cmの寸法を有し、80kgの重さである。
【0158】
1回の治療あたりのレーザー設定は、以下の:
ピーク強度フルエンス(PIF):0.566;
ピーク強度:19kW/cm2;
1パルスあたりのエネルギー:2ジュール;
繰り返し周波数:10Hz;
スポットサイズ直径:10mm;
1パルスあたりのフルエンス:2.54J/cm2;
1回の治療あたりのエネルギー(線量):2500J;
モード:スキャニング;
である。
【0159】
各対象は、1週間あたり平均5回の治療で、合計15回の治療を3週間にわたって受けた。治療した傷(HILT群)並びに対照(未治療群及び健常群)に、治療の各ステップ(T/0からT/5)に沿って組織学的解析及び/又は目視検査を受けさせた。
【0160】
HILTの効果を評価するために、外科的欠損の誘発の30日後(T1)、45日後(T2)、90日後(T3)、120日後(T4)、及び、180日後(T5)に傷から回収した試料の組織学的及び免疫組織化学的(IHC)発見を比較した。特に、前記試料を、H&E、サフラニン−O、Alcian Pas、及び、Herovici′s stainで染色した。IL−1□、MMP−9、TIMP−2、COMP、IGF−I、及び、I−II型コラーゲンに特異的なモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を、IHC評価に利用した。
【0161】
結果:
前記欠損領域の巨視的観察は、治療群において、傷の縁から中心部までの新たな組織の進行性の再成長を示した。T1、2、3にて、軟骨細胞増殖の増加及び炎症性因子(IL−1□、MMP−9)の減少を強調することが可能であった。それどころか、未治療群は、深刻な組織炎症を示した。T4及びT5にて、II型コラーゲンの発現の存在に対して、又は、形態的外観に対して硝子様軟骨のいくつかの特徴を有した新たな組織の形成を観察した。Benningoff′s schemeに従って、コラーゲン繊維の空間分布を観察することができた。
【0162】
HILT群は、傷が本質的に変化せずに残った未治療群と比較して、著しい軟骨組織再生(再成長)を有した。T/3から始めて、サフラニンO染色は、健常群と比較してHILT群が軟骨において類似のプロテオグリカン含有量を有し、未治療群が最小のプロテオグリカン染色を有したことを示した。II型コラーゲンの免疫組織化学的検査(IHC)も、健常の軟骨と比較してHILT群が類似のII型コラーゲン含有量を有し、未治療群がII型コラーゲンに対して最小の染色を有したことを示した。軟骨オリゴマー基質蛋白質(COMP)のIHCは、HILT群が未治療群よりも有意に多くのCOMPを有したことを示した。典型的な炎症性マーカー(例えば、IL 1β及びMMP)のIHCは、HILT群が未治療群よりも有意に低いレベルの炎症を有したことを示した。類似の結果をT/4にて得た。さらに、T/4にて、Alcian PAS染色は、健常の軟骨と比較してHILT群が類似のレベルの細胞外基質成分及び前駆物質を有し、未治療群が細胞外基質又は前駆物質に対して最小の染色を有したことを示した。
【0163】
T/5では、HILT群の傷は視覚的及び微視的に完全に治癒し、未治療群の傷は変化しないまま残った。サフラニンO及びAlcian PAS染色は、HILT群における治癒した領域が、正常の軟骨から観察されたものと類似の、大量のプロテオグリカン含有量並びに細胞外基質成分及び前駆物質を有し、未治療群の対応する傷におけるプロテオグリカン及び細胞外基質成分の染色が最小であったことを示した。さらに、I、II、及びIII型コラーゲンの組織化学的染色は、HILT群の治癒した領域において、正常な軟骨から観察されたものと類似のしっかりとした染色を示し、未治療群の対応する傷における染色は最小であったことを示した。
【0164】
治療の各ステージに沿ったCTスキャニングは、未治療群と比較してHILT群における軟骨の再成長を確認した。
【0165】
考察:
炎症性マーカー(例えば、IL 1β及びMMP)の非発現は、HILTが安全で耐容性がよいと立証している。未治療群における炎症性マーカーの過剰発現は、HILTの抗炎症効果の明瞭な証拠である。巨視的画像も微視的画像も、HILTの同化作用効果を明瞭に示している。結果として、HILTは、硝子様軟骨と同じ特徴を有した関節軟骨の生理学的再成長を刺激することができる。
【0166】
本発明は、その例として示す実施形態を参考にして特に示され記載されてきたけれども、付随の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細な記述において種々の変更を本明細書において行うことができるということを当業者は理解するであろう。
【0167】
本出願は、2008年9月16日に出願した米国仮特許出願第61/097,251号、及び、同じく2008年9月16日に出願した米国仮特許出願第61/097,301号に基づく優先権を主張するものである。上記出願の全内容を本出願において援用する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、患者の組織を治療する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーは、発見された時から、広範囲の医療用途に対する従来の臨床方法の代替物として支持されてきた。何年もの間、高出力及び高集束レーザーが、多くの外科技術において組織を切断及び分離するために使用されてきた。さらに最近では、レーザー放射の治療特性及びバイオスティミュレーション特性が発見された。レーザー放射は、細胞分裂、ヘモグロビン、コラーゲン及び他の蛋白質の合成、白血球の活性、マクロファージ細胞の産生、並びに、創傷治癒を含めたいくつかの代謝過程を刺激すると信じられている。この場合、レーザー放射は、細胞活性に対する刺激剤として作用し、それと共に体独自の治癒能力を活性化する。
【0003】
レーザー療法は、急性痛も慢性痛も軽減し、炎症を消散させ、組織修復のスピード、質及び引っ張り強さを上げ、感染を消散させ、並びに、ダメージを受けた神経組織の機能を改善するために使用される場合が多い。この療法は、それらの組織内での治癒を刺激するために、外傷又は傷害に関して狭いスペクトル幅の光の適用に基づいている。レーザービームを用いた治療は無痛性であり、組織において巨視的化学変化もダメージも生じない。
【0004】
現在までに、レーザー効果の根底にある作用の実際の機構は、まだ完全には理解されていない。1つの理論によると、レーザー放射のエネルギーは、植物光合成の反応の連鎖において光の「量子」が取り込まれる方法と類似の方法で自然な工程において取り込まれる。細胞及び組織が自由電荷のある種の蓄えを有し、また、生物、器官、機構、及び組織間での相互接続が上腕骨、神経、及び、化学的調節の機構のみによって決定されないだけでなく、より複雑なエネルギーの接続によっても決定されないように、前記細胞及び組織は特定の生物学的な場によって取り囲まれているという仮定に、別の理論は基づいている。
【0005】
レーザー適用の効果の根底にある基本的な機構の理解の欠如によって、非常に異なる方法で異なる波長を用いたレーザーを使用する、種々の範囲の治療装置及びプロトコルを生じた。いくつかの米国特許品には、レーザー照射による生組織の治療に対するレーザー適用に基づく種々の装置及び方法に対して特許が与えられてきた。それらの特許の間で、全内容を本出願において援用する以下の:Walkerに対する米国特許第4,671,258号;Diamantopoulos等に対する米国特許第4,930,504号;L’Esperance,Jr.に対する米国特許第4,931,053号;Bellingerに対する米国特許第5,445,146号及び第5,951,596号;並びに、Segalに対する米国特許第5,755,752号;が特に関連がある。
【0006】
上記の特許全て、並びに、この分野における大部分の研究が、「低」又は「中」出力レベルでのレーザーの使用に言及している。この種の療法は現在、LLLT(低反応レベルレーザー療法)又はLILT(低強度レーザー療法)に広く言及されている。LLLTに使用される出力領域は、数mWから1,000mWである。
【0007】
LLLTは、種々の医療学問分野において人気の治療になってきている。この療法の使用はいくらか成功しているが、結果はただゆっくりと得られ、一貫性もない。達成される治療効果の程度にはむらがあり、発光波の用量、照射リズム、及び、レーザー源から治療組織の距離に激しく依存している。数分間の適用が、何日という間隔で繰り返され、何ヶ月間か繰り返される場合も多くある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の実施形態は、高強度レーザー療法(HILT)に対する装置及び方法を含む。
【課題を解決するための手段】
【0009】
例として示す方法は、組織にパルスレーザービームを適用するステップを含み、レーザービームは、0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有する。ピーク強度フルエンス(PIF)は:
【0010】
【数1】
によって定義され、Ipはパルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eはパルスのエネルギーであり、τonはパルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、患者上のパルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である。
【0011】
好ましい実施形態において、パルスのピーク出力は400Wから50kWであり;パルスの幅は1マイクロ秒から500マイクロ秒であり;パルスレーザービームのデューティサイクルは0.01%から0.5%であり;治療中の組織上のパルスレーザービームによって形成されるスポットの直径は1ミリメートルから20ミリメートルである。他の実施形態は、PIFが受け入れられる範囲内にとどまるという条件で、別のパラメータの組み合わせを含む場合がある。
【0012】
パルスレーザービームは、経皮的に又は皮膚を通して適用することができる。例えば、患者の皮膚を通して挿入された光ファイバーを介して経皮的に適用することができる。治療中に組織上に形成されたスポットは、約1mmから約20mm、又は、約2.5mmから約20mmの直径を有し得る。スポットの領域は、0.05cm2を超えるものであり得るか、約0.05cm2から3.14cm2までのものであり得る。スポットを明らかにするために使用される光ファイバーは、約300μmから約1.5mmの外径を有することができ、0.6mm又は1.0mmであり得る。光ファイバーに結合された円錐体の放出チップは、約0.35cmから1.00cmの高さ、0.50cmの高さ、又は、0.80cmの高さを有することができ;円錐のチップは、約0.014cm2から約0.54cm2の領域、約0.058cm2の領域、又は、約0.23cm2の領域を有し得る。円錐体のチップ(ハンドプローブ)は、2.5mm以上の直径を有し得る。
【0013】
パルスレーザービームは、患者の皮膚と接触した光チップを用いて経皮的に適用することができる。例として示す光チップは、光ファイバー結合器、及び、該光ファイバー結合器に結合された、組織内の約0.5cmから約10cmの距離にて組織内のスポットにパルスレーザービームを集束させる集束要素を含む。例として示す光チップは、プレキシグラス、プラスチック、又は、強化ガラスから作製することができる。光チップの実施形態は使い捨てできるものであり、密封されたパッケージで届く場合がある。
【0014】
ゲルで少なくとも部分的に覆われた集束要素は、円筒形要素及び曲面を含み得る。円筒形要素は、約3cm長から約4cm長でありえ、約1.5cmから2.5cmの直径を有し、皮膚に対して押し付けて、皮膚と治療される組織間で組織を加圧することができる。曲面は、約2cmの直径及び約10mmから約100mmの曲率の半径を有し得る。
【0015】
ゲルは、パルスレーザービームの波長にて光を透過し、パルスレーザービームの波長での光チップと皮膚との間の光インピーダンスのミスマッチを減らす。ゲルは、光チップと皮膚との接触の領域を滑らかにもする。さらに、パルスレーザービームの適用中に皮膚を冷やす。治療中に皮膚の境界面にて低温を維持するのに寄与するよう、ゲル及び光チップを予め冷やすか又は予め冷蔵することもできる。
【0016】
前記のことは、異なる図を通して類似の参照記号が同じ部分を意味する付随の図面に例示されているように、本発明の例として示す実施例における以下のより特定の説明から明らかになるであろう。図面は、必ずしも縮尺で製図されているわけではなく、代わりに、本発明の実施形態を例示すると同時に強調している。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ピーク強度フルエンス(PIF)対生物学的効果のグラフである。
【図2】当該装置のハンドユニット、並びに、概略図でレーザー源及び制御システムを示している。
【図3A】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図3B】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図3C】図2に示された装置と共に使用するに適した光チップの概略図である。
【図4A】図2に示された装置と共に使用するのに適したスキャン送達システムの概念図である。
【図4B】図2に示された装置と共に使用するのに適したスキャン送達システムの概念図である。
【図5】6つの異なるスポットサイズでの4つの異なる波長の透過率を示したグラフである。
【図6】2つの媒体間の境界面でのレーザー光のフォトメカニカル波又は光音響波への変換を示した概念図である。
【図7】硝子軟骨基質の分子構造を示した概略図である。
【図8】ヒアルロン酸の吸収スペクトルである。
【図9】本発明による高強度レーザー治療中の組織温度の傾向を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
例として示す本発明の実施形態の説明が続く。
【0019】
本明細書において引用された全ての特許、公開特許出願、及び、参考文献の教示は、全内容を本出願において援用する。
【0020】
LLLTを用いて得られた不十分な結果を考慮して、より速く一貫して再生可能な結果を得ることができる、レーザー治療のより効率的な装置及びより良い方法の必要性がある。特に、LLLTは、光化学効果、又は、光化学及び光熱効果のみを生じることができ、それら3つ全てを生じることはできない。パルス放出を使用して、光化学及び光熱効果と共にフォトメカニカル効果を誘発しなくてはならない。
【0021】
非侵襲性の再生医療に対する高強度レーザー療法放射のための療法プロトコル及び関連する装置が、本明細書に提供されている。レーザー療法のための他の類似の方法及び装置が、Cho及びMasottiによって2005年4月5日に出願された米国特許出願第11/099,216号;Cho及びMasottiによって2007年2月9日に出願された米国特許出願第11/704,710号;並びに、Masotti及びFortunaによって2008年9月12日に出願された米国特許出願第12/283,612号;に開示されている。
【0022】
ピーク強度フルエンス(PIF)
HILTは、特定のピーク強度フルエンス(PIF)により特徴づけられたパルスレーザー放出によって、フォトメカニカル効果、光熱効果、及び、光化学効果を誘発することができる。PIFは、パルスの時間及び空間形状についての十分な情報を供給しない平均出力密度よりも優れたパルス放出特徴を定める。ピーク強度(スポット領域に対するピーク出力の比)によって、3D空間分布のアイデアが与えられるが、パルスのエネルギーの量及びその時間分布に関する情報を提供することはできない。フルエンス(スポットサイズによって割られたエネルギーの量)は、時間における光子密度を示しているが、強度、又は、空間における光子密度は与えない。(例えば、同じフルエンスが、異なるピーク出力及びパルス幅τonを有する無数の異なるパルスに共通であり得る)。
【0023】
従って、本発明者等は、空間要素も時間要素も含むPIFを定めるために、パルス放出時間と共にピーク強度を増した。PIFは、
【0024】
【数2】
として表すことができ、以下に記述される3つの要素を含むとして考慮することができる。
【0025】
標的領域内の光の強度を定める第1の要素は、1パルスあたりの二次元エネルギー、Ip・τonであり、Ipは、ピーク強度(Wp/cm2)か又はスポットの表面積(cm2)によって割られたピーク出力(Wp)であり、τonはパルス幅である。
【0026】
第2の要素は、パルスと照射組織との三次元の関係を定める。第2の要素、(Ep/Vks)αは、1パルスあたりのエネルギー、照射組織の容積Vksによって割られたEpであり、αは水の吸収係数である。容積Vksは、レーザーによって放射される球部分の容積の一部、Vks=10.07・r3として近似させることができ、rはスポットサイズの半径である。球の中心座標からスポットの中心までの距離hは、スポットの半径の約三分の2である。
【0027】
比Ep/Vksは波長λに対して考慮するべきであるため、容積Vksは、λに対して変わる水の吸収係数αにほぼ等しい吸収を有して処理することができる。例えば、λ=1064nmにて、α=2.29cm−1であり、λ=980nmにて、α=3.52cm−1である。
【0028】
前記式の第3の要素、τoff/Tは、パルス停止時間又は暗期τoffと全パルス時間T=τon+τoffとの関係を記載している。PIFは、パルスオン時間及びパルスオフ時間の観点から以下の式、
【0029】
【数3】
で書くこともできる。(この関係は、その時間のパルス対パルス時間の比、τon/Tであるパルスデューティサイクルによっても特徴づけることができる)。組織を過熱させることによって熱によるダメージが生じる場合があるため、暗期は、組織温度を維持するために重要である。
【0030】
本発明の一態様は、生理的細胞分化の原因であるフォトメカニカル効果の誘発である。そのフォトメカニカル効果は、所与のスポットサイズに合うよう調整された時間的及び空間的形状のレーザーパルスに対して誘発することができる。パルスの強度が低すぎる場合、フォトメカニカル効果はほとんど又は全くない。
【0031】
パルス強度が高すぎる場合、パルスは組織への毒性があり得る。
【0032】
組織に対する再生効果及び細胞培養に対する細胞増殖効果を得るために、HILTが提供されたパルスは、約0.1(J/cm3)2から約1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンス(PIF)を有する。別の実施形態では、PIFは、0.2(J/cm3)2から0.88(J/cm3)2であり得る。1.0(J/cm3)2を超えるPIFは有毒であり得る。0.1未満のPIFは、抗炎症効果のみを有し得る。これとは対照的に、疼痛管理に使用されるLLLTシステムは、0.0(すなわち、ビームは連続波ビームである)から0.0015(J/cm3)2のPIF、又は、HILTに対するPIFよりも約100から1000分の1のPIFを有する。図1は、PIF(J/cm3)2で表現されるHILTパルスの特徴と実験的試みで観察された生物学的効果との相関性を示すグラフである。各データポイントは、特定の設定において、例えば、ニワトリ、ヒツジ、又はヒトにin vivoで適用されるパルスレーザービームのPIFを表している。各ポイントから延びる垂直線はエラーバーである。水平の点線は、組織再生に対する受け入れ可能なPIFの範囲:0.2(J/cm3)2のすぐ下から1.0(J/cm3)2のすぐ下までを示している。0.1(J/cm3)2より下では、再生効果ではなく抗炎症効果のみがありえ、1.0(J/cm3)2を超えるPIFに対しては、組織毒性効果があり得る。
【0033】
パルスレーザービームのパラメータ
PIFが0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2の範囲内に留まる場合、十分なPIFは、受け入れ可能な値の広い範囲内にあるパルスレーザービームのパラメータを変えることによって達成することができる。パラメータの組み合わせによって、異なる方法で表現することができ、例えば、ピーク強度は、ピーク出力及びスポットサイズという観点からも表現することができる。同様に、パルス繰り返し周波数及びデューティサイクルは、パルス幅及びパルス間の時間によって固定される。
【0034】
短いパルス幅は、組織における熱エネルギーの蓄積を回避することができる。パルスの間に組織に影響を与える熱エネルギーは、次のパルスが到着する前に放散される。このように、組織の温度調節が得られる。従って、本発明の実施形態は、1マイクロ秒から500マイクロ秒のパルス幅を有したパルスレーザービームを利用することができる。同様に、パルスレーザービームは、0.2Hzから100Hzのパルス繰り返し周波数を有する。そのような低い値のパルス周波数は、最適な熱放散を可能にする。
【0035】
デューティサイクルは、T=τ−on+τ−off、すなわちパルスサイクルの合計時間である場合のレーザーパルスにおけるτ−onとTとの比を示している。τ−onは、レーザービームがオンである時間間隔であり、τ−offは、レーザービームがオフである時間間隔である。τ−onの時間間隔が短いほど、デューティサイクルは低い。高い平均出力値と組み合わされた低デューティサイクルは、1パルスあたりに非常に高いピーク出力値を生じる。低デューティサイクルは、後のτ−on期間とτ−on期間との間に十分な時間を可能にし、極度に高いピーク出力値が各τ−on期間に達成されるにも関わらず、その時間の間に、処理した組織から熱を除いて組織ダメージを回避することができる。従って、パルスレーザービームは、0.01%から0.5%のデューティサイクルを有することができる。
【0036】
パルスレーザービームの焦点をぼかして、4から20mmの直径を有した実質的に円形のスポットを生じることができる。あるいは、パルスレーザービームは、5から7mmの直径を有した皮膚上のスポットを有する。例えば軟骨等の治療される組織上の焦点を合わされたスポットの半径は、0.05cm2から3.14cm2のスポット領域に対して、0.12センチメートルから1センチメートルまでであり得る。本発明に従い焦点がぼかされたレーザービームによって生じるこれらのスポットサイズに反して、従来の方法は、本明細書において示唆された低い出力値を有した所望の出力密度を達成するために、焦点を合わせる手段を必要とする。
【0037】
上記のように、パルスレーザービームの強度(W/cm2)は、治療されている体の表面(スポットサイズ)でのレーザービームの出力に関する。表面上のスポットサイズを大きくすることによって、出力密度の減少が結果として生じる。従って、特に、スポットサイズが大きい場合に、治療されている組織及び/又は細胞にフォトメカニカル効果を及ぼすのに適した出力密度を得るために、非常に高い出力のレーザー光が使用されることが好ましい。本発明のさらに別の実施形態によると、パルスレーザービームは、少なくとも35kW;少なくとも1kW;又は、400Wから50kW;のピーク出力を有する。同様に、パルスレーザービームは、1パルスあたり、0.03から10ジュール、より好ましくは、0.2から2ジュールのエネルギーを有する。パルスレーザービームは、5kW/cm2から25kW/cm2のピーク強度も有し得る。
【0038】
特に、慢性退行性症状治療のため等、高いピーク出力レベルが使用される場合に、治療条件の厳しい制御が重要であるということが、上記の記載から明らかになる。ピーク出力は、組織の熱ダメージを回避する必要性とできるかぎり両立できるぐらい高くあるべきである。実際の作動条件は、治療中の患者のフォトタイプ(皮膚色)に強く依存する。本発明のさらなる態様によると、皮膚の温度は、実際の皮膚の温度が制御された状態で保たれるように、連続又は不連続の様式で有利に検出することができる。照射条件は、例えば最も効果的な照射(すなわち、もっとも深い透過力及び最も高い出力レベル)を有するが、それにもかかわらず、例えば40℃又は42℃の皮膚の温度等、閾値温度の値を超えることのないように設定される。
【0039】
これは、(以下で説明される)図2に示されたハンドピース等のハンドピース上に配置される温度センサによって達成することができる。治療中の患者の皮膚色(フォトタイプ)を決定するための光検出器も、ハンドピースに組み合わせることができる。治療中に適切な制御を提供することに加えて、温度センサ及び光検出器は、組織によって吸収されて熱に変換されるか、又は、皮膚によって反射されるエネルギーの量を決定するために有用である。供給源によって放出されて皮膚に衝撃を与える全エネルギーを知ることによって、治療されることになる深くに位置する組織に実際に到達するエネルギーの値を、十分正確に決定することができる。
【0040】
本発明のレーザー光のピーク出力及び平均出力は従来の治療方法に使用されるもの、特に、上記の米国特許に開示されているものよりも大きいということが正しく理解されるべきである。一方、本発明のレーザー光のパルス幅ははるかに短い。
【0041】
HILT器具
本発明は、単一の治療レーザー放射線を生成する第1のレーザー源、レーザーエネルギーをハンドユニットまで運ぶための第1の運搬手段、及び、レーザービームの経路に配置されるレーザービームの焦点をぼかすための光焦点はずし手段を含むレーザー療法のための装置にも関する。
【0042】
好ましい実施形態によると、光焦点はずし手段が配置される排出端の前に、運搬手段は光ファイバーによって形成される。光ファイバーを使用する場合、チップの放出面は、チップ周辺の組織へのダメージを回避するために0.05cm2よりも大きくあり得る。
【0043】
レーザーの光経路が終わり、焦点ずらし手段が配置されるハンドユニットは、治療を受ける患者の表皮から適した距離にてオペレーターが手に持つことができる。しかし、オペレーターにとって使用をより安全及びより容易にするために、ハンドユニットには、好ましい実施形態において、治療が適用されている患者の体から所定の距離にて前記光焦点ずらし手段を持つための距離要素が提供され、最適な距離を決定する及び手動で維持する必要性を回避する。
【0044】
ここでも、装置の使用を容易にするという目的のために、可視域の波長にて放出する第2のレーザー源、該第2の供給源によって生成されたレーザービームをハンドユニットの方向に運ぶための光ファイバー又は同等の手段が提供され得る。この第2のレーザー源はマーカーのみであり、治療特性は有さない。
【0045】
図2において、1は、光ファイバー3によってハンドユニットに接続されたレーザー源を示しており、好ましくは1.064マイクロメートルで放出するNd:YAGレーザーである。ハンドユニットの内側では、光ファイバー3の排出端3Aが、弾性スリーブ7及びクランピングナット9によって固定されている。光ファイバー3の終端3Aに面して配置されているのは、焦点はずし光学部品11、13である。
【0046】
ハンドユニット5は、表面15Aを有するディスタンスピース15が固定された集光端5A内で終わり、表面15Aは、治療が適用されている患者の表皮Eと接触される。この方法で、焦点はずし光学部品11、13は、表皮から所定の距離にて常に保たれる。この方法で、一度固定されると、エネルギーはエネルギー密度によってのみ決定される。
【0047】
可視域の波長にて連続的に放出する第2のレーザー源17は、予備の光ファイバー19、コネクター21、及び、ミキサーによってファイバー3内にレーザービームを導入する。もう1つの手段及び同等のものとして、第2のレーザー源は、2つのレーザービームの同軸の混ぜ合わせのために既知の装置内にレーザービームを送ることができる。同軸で作製された2つのビームは、次に、ファイバー内への導入のために既知の装置に送られる。
【0048】
この様式で治療ゾーンは例示されており、ディスタンスピース15の存在下で、また、これが開いているか又は透明な材料から作製されている場合にもオペレーターは見ることができる。
【0049】
ディスタンスピース15に結合しているのは、抵抗測定装置27に接続された2つの電極23、25である。これは、ハンドユニット5の適用ゾーンの領域内の表皮の抵抗を測定し、測定装置27によって測定された抵抗が低いトリガーポイントの領域内にハンドユニット5がある場合に、レーザー源1が所望の周波数にて及び所望の幅のパルスを放出するようにレーザー源1に対する制御信号をトリガー信号発生装置29によって生成する。
【0050】
供給源1からのレーザー放出の特徴は、以下の通りであり得る。パルスレーザー放出の各期間Tの間、幅τのパルスが生成され、「オフ」間隔が続く。上記のように、パルスの幅と期間Tとの比Dは、レーザー放出のデューティサイクル(D=τ/T)である。ピーク出力はPpで示され、上記のように期間T及びデューティサイクルDを介した1パルスあたりの平均出力Pmに関連づけられる。
【0051】
本発明の実施形態によると、高出力パルスレーザービームは、固体レーザー源、すなわち、ドープ単結晶構造により形成されたレーザー源によって生成される。適した固体レーザー源は、Nd:YAGレーザーである。このレーザーは、十分高い出力のパルスレーザーを放出することができ、本願において関心のある生物学的組織を介して前記の放射線を透過させ、組織再生が必要とされる深さの軟骨構造に達することができるため特に有利な波長である1064nmの放出波長を有している。
【0052】
本発明による特徴を有したパルスは、固体源(例えばNd:YAG)を用いて得られることが好ましい。ダイオードレーザー又はLEDでは物理的に取得可能ではない。半導体レーザー、ランプ、又は、LEDは、本発明による特徴を有したパルスを放出することができない。
【0053】
治療される患者の皮膚上にレーザービームによって生成されるスポットの寸法は、焦点はずし手段の光学的特徴、及び、光焦点はずし手段と皮膚との距離次第である。出力密度、すなわち、表面あたりの出力が限界値であると、スポットの寸法が、治療の方法を特徴づける重要なパラメータである。これは、出力密度が特定の用途に応じて上記で示された範囲内にあるように選択される。
【0054】
光チップ
図3A、3B、及び、3Cは、図2に示されたレーザー源1と共に使用するのに適した光チップ300の透視図及び概略図を示している。図3Aに示されているように、チップ300は、円筒形要素306及び曲面304を含む焦点合わせ要素に接続される光ファイバーカプラ302を含む。曲面304は、カプラ302を出る発散ビーム308を集束ビーム310に変換し、その集束の面は、部分的に、曲面の曲率半径によって決定される。
【0055】
使い捨てであり得る例として示す光チップ300は、透明な固体のプレキシグラスのロッド又は予め成形したプラスチックから作製される。使い捨てではないチップ300は、調節されたガラス又はプラスチックから作製することができる。円筒形要素300は、約2cmの直径及び3〜4cmの長さを有し得る。曲面304は、10mmから100mmの曲率半径を有し得る。カプラは、集束要素と共に完全になるか、又は、集束要素に接続され得る。別のチップ300は、曲面304の代わりにゾーンプレートを使用して発散ビーム308を焦点に集めることができる。
【0056】
図3Bは、シールパッケージ330内の光チップ300の斜視図を示している。シール334は、曲面304の少なくとも一部に被覆されたゲル332が乾燥する又は汚染されるのを防ぐ。好ましいゲル332は、治療波長にて透明であり、例として一般的な超音波ゲルが含まれる。チップ300全体、又は、チップ300のゲルで被覆された部分のみを覆うことができるシール334は、タブ336を引っ張ることによって取り除くことができる。チップ300及びシールパッケージ330は、使用後に処理することができる。
【0057】
図3Cは、光チップ300を使用した軟骨364の経皮的治療の概略図である。光ファイバー3は、カプラ302を介してレーザー源1をチップ300に結合する。チップの曲面304は、ファイバーから軟骨上の治療領域366までの発散ビーム308を焦点に集める。チップの曲率半径、並びに、チップ300と軟骨364との間にある組織362、皮膚360、及び、ゲル332の指数に応じて、組織内の焦点距離は、組織362において0.5cmから約10cmであり得る。
【0058】
ゲル332は、治療波長にて光を透過させ、その結果、チップ300と皮膚360との間のいかなる光インピーダンスの不一致も減らす。ゲル332は、また、皮膚を滑らかにする及び冷やし、熱ダメージを防ぐ。皮膚362は、治療中又は治療前に冷蔵するか又は冷やされたチップ300を用いて冷やすこともできる。
【0059】
スキャニング送達システム
自動又は手動のスキャニング送達システムを使用して、治療領域までパルスレーザービームを効果的及び安全に送達することができる。スキャニングは、レーザーの照射表面積(ハンドピースのスポットサイズ又は光ファイバーの放出面)よりも大きい表面領域を治療するのに有用である。治療領域における各位置での滞留時間等のスキャンパラメータは、所望の線量、パルス期間、及び、パルス繰り返し率によって固定することができる。滞留時間が受け入れ可能な範囲内にあり続ける限り、これらは、過度の加熱又は治療非能率のいかなるリスクであるはずもない。このように、スキャニングも組織温度の制御に寄与する。
【0060】
図4A及び4Bは、患者の膝に渡ってパルスレーザービームをスキャンするための異なるスキャン送達システムを示している。図4Aは、図2に示されているハンドユニット5を用いて膝の上又は膝の中の所定の標的組織を治療するためのポート402を含むブレイシングシステム400を示している。ポート402は、標的にされた領域のみにビームが透過されることも確実にしている。患者は、このシステム400を使用して、医師による直接的な監視もなく患者自身を治療することができる。装具400は、ハンドユニット5内で皮膚と接触していない限りハンドユニット5がビームを放出するのを防ぐフェイルセイフ等、ダメージを引き起こす信号を患者が誤って放出するのを防ぐ安全特徴を取り込むことができる。
【0061】
図4Bは、レーザートランスミッター432を用いたパルスレーザービームの自動送達のためのコンピュータ制御システムの一部を示している。当該システムは、膝の中にある軟骨の領域に送達されるレーザービームの位置及び線量を制御する。トランスミッター432は、プレキシグラス、プラスチック、又は、ガラスから作製することができる透明な球表面430を介して膝の領域の上を横に又は上下に移動することができる。球体430は、治療ビームに対する誤った被曝を防ぐために、治療波長(例えば1064nm)にて吸収し、治療を容易にするために照準ビームの波長(例えば633nm)にて透明であり得る。
【0062】
球体430は、膝の上に位置づけられ、レーザートランスミッターを位置づけるための指標付け参照ポイントを提供する。トランスミッター432が球体430上に適切に位置づけられ、球体430が膝の上に適切に位置づけられると、当該システムを使用し、医師によりプログラムされた治療パラメータに従って、適切な線量を適用することができる。当該システムを、患者による安全な自己治療のために使用することもできる。スキャニング送達システム400もコンピュータ制御システムも、標的にされた組織以外に透過され得るビームを取り除く又は抑制することができる。
【0063】
吸収係数
レーザービームが通過した組織又はレーザー治療を受けさせる容積を取り囲む組織にダメージを与えることなく、レーザービームの透過深度が治療中の患者の体内に深く配置された位置に到達するよう改善されるように、放出パラメータを選択することができる。レーザー放射の深い透過によって、例えば、体内の比較的深い所に位置した軟骨組織の傷のレーザー治療が、周囲の生物学的組織にダメージを与えることなく可能になる。
【0064】
生物学的組織を通って伝わる光は、そのような組織を通り抜ける間にその振幅が指数関数的に減衰するように、ランベルト−ベールの法則に従う。生物学的組織を通るレーザーエネルギーの透過の程度は、組織吸収の係数及びレーザービームのフルエンス(表面あたりのエネルギーの単位:L/cm2)、すなわち、ビームエネルギーの密度次第である。前記フルエンスは、出力密度に照射の時間を掛けることによって与えられる。組織吸収係数は、放射線の波長に応じて変わるパラメータである。従って、生物学的組織内へのレーザービームの透過の程度は、レーザービームの波長及びレーザービームの出力に直接依存し、ビームの出力が高いほど、治療中の組織内への透過の程度も高い。
【0065】
生物学的組織内のレーザービームの透過深度に対するこれらのパラメータの効果における詳細は、K.Doerschel et al.,“Photoablation,”SPIE,Vol.1525 Future Trends in Biomedical Application of Laser(1991),pp.253−278において論議されている。Doerschel et al.(1991)によると、光の光透過深度(x)は、組織吸収の指標(α)に逆比例し、すなわち、x=1/αである。従って、組織吸収係数(α)が高いほど、組織内への透過は低くなる。上記のパラメータに対する透過深度の依存性は、Doerschel et al.の261ページの図9に示されている。吸収係数が高いほど、組織を介した放射線の透過は乏しくなる。
【0066】
表1に示されているように、正常軟部組織に対する吸収係数(α)は、波長(λ)の関数である。1,064nmの波長は、最も低い吸収係数(α=4cm−1)、及び、最も深い透過(2,500μm)を有している。これとは対照的に、Doerschel et al.によって報告されたデータは、CO2レーザー(波長10,600nm)が600cm−1の吸収係数及び非常に低い透過深度を有していることを示している。
【0067】
【表1】
αに対して本明細書において使用されるデータは、K.F.Palmer and D.Williams,“Optical properties of water in the near infrared,”J.Opt.Soc.Am.64,1107−1110(1974)からきている。異なるレーザー源の透過深度に対するさらなる情報は、J.Tuner et al.,Laser Therapy:Clinical Practice and Scientific Background,Prima Books,2002,pages40−43に提示されている。
【0068】
できる限り最良の透過を達成するために、レーザー光放射は、組織発色団によって最小限に吸収されることが好ましく、すなわち、レーザー光の波長は、組織発色団のピーク吸収波長に一致するべきではない。最も重要な発色団には、水、メラニン、ヘモグロビン、オキシヘモグロビン、及び、核酸(DNA)が含まれる。
【0069】
図5は、3.3mmの超優黒質組織を介した透過度対可視及び近赤外線の波長のビームに対するビーム直径のグラフである。透過度における変化は濃い色の皮膚、すなわち、超優黒質の皮膚(アフリカ人の皮膚)を有した被験者において特に重要であるけれども、類似の結果が、例えばヨーロッパ、アフリカ、及び、アジア人の被験者の皮膚等の明るい色のヒトの皮膚に当てはまる。一般に、透過度は、ビーム直径と共に、及び、独立して、波長と共に増す。最大の透過度は、λ=1064nm及び12mmのビーム直径でのビームに対して生じる。この波長は、皮膚、メラニン、及び、皮下脂肪によって部分的にのみ吸収され、最も深い組織(すなわち、関節軟骨)内に進入することが可能である。
【0070】
従って、本発明の一実施形態によると、パルスレーザービームは、0.75から2.5マイクロメートルの波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、0.9から1.2マイクロメートルの波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、1.064マイクロメートルの波長を有している。
【0071】
低い吸収係数によって特徴づけられる種々の波長を採用することができる。従って、本発明の別の実施形態によると、パルスレーザービームは、正常な生物学的軟組織において50cm−1以下の吸収係数(水の吸収係数)を有した波長を有している。あるいは、パルスレーザービームは、正常な生物学的軟組織において15cm−1以下の吸収係数を有した波長を有している。本発明のさらに別の実施形態によると、パルスレーザービームは、少なくとも2mmの透過深度を有している。
【0072】
フォトメカニカル効果
本発明の方法の根底にある1つの重要な態様は、高強度で使用される場合にレーザー光が、レーザー光によって治療されている組織及び/又は細胞に対して治療レベルにてフォトメカニカル効果を有し得ることである。フォトメカニカル効果を用いて、レーザー光のエネルギーの少なくとも一部を、レーザー光によって治療されている組織及び/又は細胞に対する1又は複数の形状の機械的力に変えることができる。そのような機械的力は、治療されている組織及び/又は細胞に対して物理的効果を有し、組織及び/又は細胞の形及び/又はサイズを変化させ、細胞代謝、細胞増殖、細胞分化、従って組織再生を刺激する等の効果を生じることができる。
【0073】
第1の態様によると、適切に焦点をぼやかしたレーザービームを適用し、特にピーク強度フルエンス(PIF)の観点から特定の特徴を有することによって、患者の組織表皮の所与の領域にて、レーザービームは、治療されている組織及び/又は細胞、特に、治療中患者の体内に深く位置する組織及び/又は細胞、例えば軟骨組織に対する光熱及び光化学効果と共にフォトメカニカル効果を有し得る。
【0074】
使用される高いPIFにもかかわらず、高すぎる温度上昇は組織ダメージを生じるため、皮膚レベルでの温度上昇は、生理学的範囲(37〜41℃)に維持されなければならない。この結果を達成するために、本発明に従って、パルスレーザーが使用されることが好ましい。
【0075】
一般的な用語において、生物学的組織との電磁放射の相互作用は、放射線波長及び組織の光学特性次第である。組織の表面に対して直交に向けられたレーザービームは、取り囲む環境(空気)から組織を通過する場合にインピーダンス指標の違いにより、部分的に反射され返される。レーザービームエネルギーの残りの部分は、組織まで及び組織を通って透過され吸収されて、組織内に含まれた種々の化学物質によって何回か拡散される。
【0076】
図6は、どのようにしてパルスレーザービーム602が、音波604、第1の媒体601と第2の媒体603との境界605を生じるかを示した概略図である。パルスレーザービーム602が第2の媒体603に衝撃を与える場合、弾性の圧力波604が第2の媒体603自体において直ちに生じ、表面605から媒体603内に深く伝播する。波604の振幅は、光ビーム602の強度に直接比例し、パルス幅の時間に逆比例する。波の振幅は、第2の媒体603の光の特性(λ)及び物理学的化学的構造次第でもある。以下、
【0077】
【数4】
は、高強度パルスレーザービームによって打たれた組織内に生じる音波の形の関係を記載する式であり、熱拡散係数は、
【0078】
【数5】
であり;寸法係数は、
【0079】
【数6】
であり;Iはレーザーパルス強度であり;ciは比熱であり;βiは線膨張係数であり;Kiは熱伝導率であり;piは密度であり;viは音速であり;αは組織の光吸収係数であり;zは深度であり、tは時間である。
【0080】
入射レーザー光と組織内に生じるフォトメカニカル又は光音響波との関係には:(1)入射光の強度と組織内に生じる機械的波の強度との直接的な関係;及び(2)機械的波の周波数とレーザーのパルス幅(τ)との直接的な関係が含まれる。すなわち、音波の形は、レーザーパルスの形に関連している。機械的波の強度は、(例えば図6の媒体2等の)媒体の光学的、熱的、及び、機械的特徴次第でもあり得る。
【0081】
フォトメカニカル効果の治療価値
高いピーク出力値(例えば、少なくとも1kWのもの)及び高いピーク強度値(例えば、少なくとも1kW/cm2のもの)は、フォトメカニカル効果が治療目的で利用されることを可能にする。フォトメカニカル効果の例としての上記の「光膨張」及び「光収縮」効果は、パルスのピーク出力、パルスデューティサイクル、及び、パルス周波数が適切に選択された場合に、照射を受ける組織におけるある種の細胞外マッサージを実質的に生じ得る。
【0082】
軟骨組織に対するフォトメカニカル効果の限定しない例は、以下において詳細に与えられ、本発明によるパルスレーザービームのフォトメカニカル効果の治療価値の1つの例を与えている。
【0083】
ヒアルロナン(ヒアルロン酸又はヒアルロナートとも呼ばれ;以下、「HA」と呼ばれる)は、結合性の上皮及び神経組織に渡り広く分布された、硫酸化されていないグリコサミノグリカンであり、細胞増殖及び細胞移動に著しく寄与する細胞外基質の主要な成分の一つである。HAは、関節軟骨の重要な成分であり、各細胞(軟骨細胞)の周りをコーティングするものとして関節軟骨に存在する。リンク蛋白質の存在下でアグリカンモノマーがHAに結合する場合、大きな非常に負の電荷をもつ凝集体が形を成す。これらの凝集体は水を吸収し、軟骨のリジリエンス(その圧迫に対する抵抗)の原因である。細胞外基質で豊富であるけれども、HAは、組織流体力学、細胞の移動及び増殖にも寄与し、特にその最も重要な受容体であるCD44を含むもの等、多くの細胞表面受容体相互作用に関与する。HAは、水の容積を粘性の高いゼラチン様の基質にする能力がある。組織に圧縮性を提供することに加えて、プロテオグリカンは、(例えばbFGF等の)ECMへの増殖因子に対する貯蔵所としても役に立つ。ECMに対するいかなるダメージも、従って、結合された増殖因子を解放し、治療工程を開始し得る。プロテオグリカンは必須の細胞膜蛋白質でもありえ、その能力において、細胞増殖及び分化を調節し得る。
【0084】
図7は、細胞外軟骨基質(ECM)におけるHAの分布を、ECMの最も重要な成分の1つとして示している。ECMと軟骨細胞との間に密接な接続が存在すると指摘することは非常に重要である。従って、ECMのいかなる空間的な変形も、機械的刺激として自動的に細胞に伝達される。
【0085】
図8は、HAの光スペクトルを示している。HAの吸収ピークの1つにある適切な波長(例えば1064nmの波長)を有したパルス高強度レーザービームを使用して軟骨組織を治療する場合、ECM内のHA含有量によって選択的に吸収される。この特定のレーザー光のパルス放出を介したこのECM内のHAによる特異的な吸収は、即座の組織膨張、その後の冷却期中の収縮の原因である。この復元可能なECMの空間的変形は、機械的刺激として自動的に細胞に伝達される。
【0086】
骨、軟骨、骨格筋、及び、靱帯を含む筋骨格系は、代謝、細胞骨格系、増殖の速度、及び、発生中の分化の状態における変化を用いてそのような機械的刺激に反応する(Onodera et al.)。軟骨細胞も、その代謝、その分化の状態、及び、その増殖を変えることによって機械的力に反応し、機械的刺激の大きさ、頻度、及び、モードに応じてそれぞれ機械的力に反応する。
【0087】
「インテグリン」を介したECM接着は、異なる種類の間葉系細胞の細胞移動度、代謝、及び、増殖に対して重要であるということが一般的に知られている。インテグリンは、細胞内領域が細胞骨格要素と付随している膜貫通型(α−及びβ−鎖)ヘテロ二量体糖蛋白質のファミリーである。上皮細胞又は間葉系細胞上のインテグリンもECMに結合し;これらの相互作用は細胞付着を合図し、細胞遊走、増殖、又は、分化に影響を与え得る。インテグリン−ECM相互作用は、増殖因子受容体によって使用される同じ細胞内シグナル伝達経路を利用することができ;例えば、インテグリンにより媒介されたフィブロネクチンへの接着は、MAPキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ、及び、プロテインキナーゼC経路の要素をトリガーし得る。この様式で、細胞外機械的力を、細胞内合成及び転写経路に結合させることができる。
【0088】
分化している軟骨細胞はα5β1及びα2β1インテグリンを発現し、成熟した軟骨細胞も、α5β1、α2β1、及び、αvβ5インテグリンを発現する。インテグリンにより媒介された細胞−ECM接着の阻害は、ペレット培養系での胚性間葉系細胞における軟骨形成の分化を高める。一般的に、インテグリンを介した細胞−ECM接着は、低分子量GTPase及びマイトジェン活性化チロシンキナーゼ(MAPK)経路を活性化し、細胞骨格構造を変える。同時に、これらの経路を介したインテグリンの下流シグナル制御は、軟骨細胞内の有力なメカノトランスダクション経路であり得る。実際に、異なる種類の機械的負荷によって、軟骨細胞における細胞外調節キナーゼ経路(ERK−1/2)が活性化され、それは、自由な膨張(free swelling)ではなく軟骨外植片に対する負荷の動的な構成要素である。Takahashi et al.は、拡張性の力がin vivoでのERK−1/2のリン酸化及び核移行を誘発したと示した。従って、細胞−ECM接着は、メカノトランスダクション、及び、後の機械的刺激に対する軟骨細胞の反応において重大な役割を果たし得る。
【0089】
細胞増殖及び分化は、強調して作用する少なくとも2つの異なる種類のシグナルを含む。1つは、ポリペプチド増殖因子及び増殖抑制物質等の可溶性分子に由来する。もう1つは、細胞インテグリンと相互に作用するECMの不溶性要素を含む。
【0090】
細胞は、関節軟骨等の最も深い組織に達することができる本発明による高強度レーザー光波長(例えば、1064nm)に対して実質的に透明であるため、本発明による高強度レーザー光は、HAによって選択的に吸収されるレーザー光を機械的力に変えることができ、その力は、ECMに作用することによって、軟骨細胞を機械的に刺激することができる。
【0091】
光熱効果
上記のように、組織透過は、使用される出力に比例し、その結果、強度(W/cm2)又は出力密度に比例し、その結果、ピーク強度フルエンスに比例する。深い組織まで達するために、高い出力値を採用しなくてはならず、同時に、例えば光熱現象により生じる組織ダメージを回避する。
【0092】
パワーレーザーシステムは、短期間でも多量のエネルギーを供給し、治療されている領域を必ず加熱する。組織内で生じる熱は、その組織に伝達されるエネルギーの量に直接相関する。
【0093】
連続して放出するレーザーシステムにおいて、放出出力の増加は、放出されるエネルギーを増やし、時間における出力の積分である。前記エネルギーの一部は、照射された組織において熱に変換される。水中(生物学的組織は水によって主に形成される)での熱の伝播の速度は、組織中での電磁放射線の伝播の速度よりもはるかに遅い。結果として、組織においてレーザーエネルギーにより生じる熱は、温度上昇によって結果として生じる負の効果と共に、治療されている患者の皮膚の下の特定の深さにてたまる。
【0094】
生物学的組織中での熱の拡散距離は、レーザー治療中に熱効果を制御するための重要なパラメータである。そのような距離Lは、L2=4Ktによって与えられ、Kは、熱が伝播する物質の熱拡散率と呼ばれ、熱伝導率、比熱、及び、物質の密度の関数であり;tは、時間である。
【0095】
上記の式から、水に対してK=1.43×10−3であると仮定すると、熱エネルギーは、水中を1秒あたり0.8mmで伝播する。拡散距離Lをレーザー放射線の透過深度に等しいと見積もることによって、緩和時間が以下、trelax=1/4Kx2のように得られ、trelaxは緩和時間であり、Kは組織の熱拡散係数であり、xは透過深度である。
【0096】
1/4cmに等しい透過深度を有するNd:YAGレーザーに対して、及び、Kが0.00143という値(水の値)であると仮定して、緩和時間は312.5秒である。これは、Nd:YAGレーザーを使用して組織内の深い透過深度に達する場合に、かなり長い熱緩和時間が得られることを意味している。これは、治療中の組織においてゆるやかな温度上昇及びゆるやかな熱放散を生じる。そのようなゆるやかな放散は熱蓄積を生じ、結果として治療中の組織においてダメージを生じ得る。
【0097】
上記のように、体内の深くに位置する組織を治療するために、低い水吸収係数によって特徴づけられる波長が使用されることが好ましい(光放射の組織吸収係数が低いほど、その組織透過は良くなる)。これは、例えば関節腔の内側等、体内の深くに光を運ぶことを可能にするけれども、照射される組織において生じる熱放散速度に関して起こりうる問題も生じる(組織中の光の伝播速度が速いほど、誘発される熱が奥底で「閉じ込められて」残り、熱蓄積現象が生じるリスクは大きくなる)。従って、治療中の組織における熱の蓄積及び過度の温度上昇を回避するため、熱が消散するよう、連続するレーザーパルスの間に十分な時間を提供することが必要な場合がある。
【0098】
本質的に、レーザー光は少なくとも部分的に、42℃までの明白な温度上昇によって観察される光膨張効果の原因である熱波に変えられる。τ−off時間の間、急冷があり、(例えば組織等の)媒体は光収縮に移る。光膨張及び光収縮は、それぞれレーザー光から変換された熱の発生及び放散による媒体の膨張及び収縮であり得る。組織はいかなる強烈な変形も経ないため、膨張及び収縮は可逆的である。音波を生じることができ、従って、光音響効果としても知られるこのフォトメカニカル作用は、十中八九、これらのシステムにおいて観察されるミクロン尺度の表面質量輸送を含めた種々様々な奇妙なフォトモーションの発端である。
【0099】
熱蓄積、従って温度上昇に対する影響を有したさらなる重要なパラメータは、治療中の組織の全容積である。照射される表面(すなわち、レーザースポット)及び照射されるエネルギーを一定に維持することによって、1パルスあたりのピーク出力の増加は、照射される容積を増やす。これに対する理由は、高いピーク出力が、組織におけるレーザーの深い透過を引き起こす、従って、レーザーエネルギーを吸収する全容積の増加を引き起こすからである。その透過深度は、レーザー放射の密度レベルが治療効果を及ぼすことができる深度として理解される。
【0100】
等エネルギーの熱力学的変換において、以下の式:Ck=ck×mに従い、熱容量(Ck)によって、対応する容積は異なり、m=体重;及び、ck=各体の特色を示す比熱である。
【0101】
Ck=ΔQ/ΔTであり、Q=エネルギー;及び、T=温度であるため、ck×m=ΔQ/ΔTであり、従って、ΔT=ΔQ/(ck×m)である。
【0102】
上記の式から、同じ量の照射エネルギーは、照射される容積に反比例する温度上昇を引き起こし:照射される容積が大きいほど、温度上昇は小さくなることが明白である。従って、初めて見たときに現れるものに反して、各レーザーパルスのピーク出力の増加によって、組織温度制御の観点から治療の状態が改善される。
【0103】
従って、より上皮及び周囲の組織にダメージを与えることなく、深い組織の効果的な治療を得るために、低いパルス周波数及び短いパルス(すなわち、低デューティサイクル値:短いτ−on時間及び長いτ−off時間)を、1パルスあたりの高いピーク出力値と組み合わせて有したパルスレーザー源が使用されることが好ましいということが認識されてきた。
【0104】
レーザースポットの領域も、散乱の量を最小にしながら可能な限り透過を最大にするために非常に重要である。実験(Zhao,1998)において、スポットサイズの直径を大きくすることによって、散乱角の減少が生じる(スポットの直径が大きいほど、散乱角は小さい)ことが実証されてきた。これによって、より深い透過及び組織におけるより均一な放射線の拡散が生じ、従って、治療効果が増加される。
【0105】
さらに、上記のようにΔT=ΔQ/(ck×m)であるため、同じパルスあたりのエネルギーでは、治療される容積が大きいほど、組織に対する熱の上昇は小さい。特に透過深度が一定の値で維持されることが好ましい場合に、治療される容積を増やすための1つの方法は、スポットサイズを大きくすることである。上記のパラメータを適切に選択することによって、治療される容積における組織温度は、例えば42℃又はそれ以下、好ましくは40度未満等の特定の温度未満に維持される。要求があった場合には、治療中の患者の皮膚の冷却をさらに提供することができる。
【0106】
光化学効果
本発明によるパルス高強度レーザービームは、治療される組織及び/又は細胞に対して光化学効果も有することができる。光化学効果によって、レーザー光内のエネルギーの少なくとも一部が、そのレーザー光により治療されている組織及び/又は細胞によって直接吸収され得る。レーザー光内のエネルギーの直接的な吸収は、治療される組織及び/又は細胞において特定の化学的及び生化学的結果を有することができる。レーザー光で治療されている組織及び/又は細胞によって直接吸収されるエネルギーは、フォトメカニカル効果においてそうであったように機械的力に変えられることはない。
【0107】
レーザー光の光化学効果における1つの限定しない例は、エネルギー閾値を超えて生化学的反応を開始するよう、酵素に運動エネルギーを提供することである。この例は、以下で詳細に説明される。
【0108】
傷ついた生物学的組織に対するレーザー放射の作用方法を完全に理解する及び記載するためには、レーザー療法中に観察される臨床的現象を考慮することがきわめて重要である。臨床的レベル、生化学的レベル、分子生物学関連レベル、及び、物理学的レベルといった少なくとも4つの異なるレベルの調査が考慮されるべきである。
【0109】
実際のところ、生化学的態様の前に物理学的考慮を入れることによって、例えば、10,600nmの放射線(CO2レーザー)の臨床的有効性を生物学的組織に関するその光学的性質と一致させることは可能ではない。従ってこれを前提に、この20年間の文献に報告されているように、レーザーの治療効果:すなわち、抗炎症効果、生体刺激効果、鎮痛性効果、抗浮腫性効果、及び、脂肪分解性効果を第一に考慮することはきわめて重要である。
【0110】
変形性関節症病理学の動物モデルにおいて、本発明による方法の適用によってPCR(反応性蛋白質−C)値の低下が生じることが発見されてきた。これは、IL−6、IL−1β、及び、TNFα等のサイトカインの内分泌の減少によるものである。内分泌は、その生じる生物の中で残る及び作用するよう意図された腺性分泌である。
【0111】
サイトカインにわたり拮抗性効果を有するTGFβ及びIGF−I等の特定の増殖因子に対するレーザーによって誘発される刺激に関しては、前記サイトカインの減少は、これら又は他の起炎性のサイトカインにわたるレーザー作用の直接的効果にそんなにたいしてよるものではない。サイトカインは、広範囲の細胞によって生じる蛋白質のホルモン様因子であり、細胞内メッセンジャーとして作用することによって、多くの異なる生物学的効果を及ぼし、その中には、宿主の炎症性、増殖、及び、細胞分化工程の制御、並びに、免疫反応工程の制御がある。最もよく知られたサイトカインは、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロン、及び、サイトカインである。組織破壊を生じる異化作用工程を活性化する起炎性タイプのサイトカイン、並びに、それどころか再生工程を促進する同化作用のサイトカインも知られている。
【0112】
従って、レーザー放射は、いかなる細胞構造又は(例えば、IL−1β、TNFα,IL−6等の)産物に対していかなる遮断作用も提供しないが、容易に利用可能なエネルギーを用いて、進行中の異化作用工程を逆にすることができる同化作用のサイトカインを促進することができる。
【0113】
この刺激は、内因性のチロシンキナーゼ(tyrosinchinasic)活性を有する細胞受容体に対しても、細胞質内のチロシンキナーゼ(tyrosinchinase)に関する受容体を利用するものに対しても作用することによって実際に起こる。
【0114】
前者のタイプに属することは、原型としてインシュリンを有した受容体のグループである。特に、前記グループは、インシュリン様増殖因子(IGF−I)に対する受容体,変異増殖因子ベータ(TGFβ)に対する受容体、上皮細胞増殖因子(EGF)に対する受容体、及び、血小板由来増殖因子(PDGF)に対する受容体を含む。受容体とホルモンとの相互作用による活性化に続き、細胞増殖に関与する他の分子の活性を調節することが可能である。
【0115】
言い換えると、これらの受容体は、特異的ホルモン(例えばIGF−I)によって活性化されると、細胞活性を直接変えることが可能であるということに関してそのような構造を有する。
【0116】
細胞質内のチロシンキナーゼを利用する第2のグループの受容体は、このグループに、GH、プロラクチン、エリスロポエチンの受容体、及び、多くのサイトカインの受容体が属するため、「GH/サイトカイン」の受容体とも呼ばれる。
【0117】
レーザーは、まず第一に、内因活性を有した(従って、IGF−I、TGFβ、EGF、PDGF因子を増やす)受容体のチロシンキナーゼ活性を好み、第二に、(GH効果を改善することにより)細胞質内のチロシンキナーゼを有したものを好む。
【0118】
レーザーにより生じる作動機構を理解するために、どのようにして酵素システムは機能するかを覚えるに値する。これらは、無機触媒と類似の方法で作動するが、はるかに高い作用の特異性を有する。実際、酵素は下層を選択的に吸着し、その上で作用して、そこと密接に結合するようになる。
【0119】
一度反応すると、酵素により吸着された分子はより弱く結合し、酵素から移動して再び利用可能になる。酵素の主要な目的は(触媒と類似して)、分子が所与の反応サイクルに入るのに必要なトリガー(運動)エネルギーを減らすことであるということを心に留めておくべきである。触媒及び酵素は、従って、エネルギーの要求を減らす、すなわち、分子が反応を開始するのに超えなくてはならないエネルギー閾値を下げる。
【0120】
慢性の感染により誘発されるもの等のストレス状態の下、起炎性のサイトカインの増加が起こり、GHをめぐる競合的干渉と共に細胞質内のチロシンキナーゼ受容体の活性化をもたらす。この現象は、細胞の同化作用の現象が完全に遮断されず、実際は、酵素及びエネルギー競合の現象のため阻止される理由の説明を提供することができる。
【0121】
この状況において、レーザーからの容易に利用可能なエネルギーは、(すでに起炎性のサイトカインにより結合された)細胞質内のものではなく、内因性のチロシンキナーゼ受容体の経路を好み、異化作用経路の代わりに同化作用経路を支持して恒常性細胞尺度を変える(IGF−I)、変異増殖因子ベータ(TGFβ)、上皮細胞増殖因子(EGF)、及び、血小板由来増殖因子(PDGF)等の増殖因子を好む。
【0122】
このレベルにて、レーザーは2つの異なる方法で作動する。
【0123】
直接、化学試薬に作動する:これはおそらく、治療処置の第1の経路であり;実際、慢性及び/又は悪化しやすい炎症の間に、細胞質のチロシンキナーゼの飽和が、同化作用のサイトカイン(GH、IGF−I、TGF等)に大きく勝る起炎性のサイトカイン(IL−1β、TNFα、IL−6等)により誘発された「GH/サイトカイン」の刺激により起こる。この条件の下、レーザー放射により送達された運動エネルギーの利用可能性は、チロシンキナーゼ酵素の不足(起炎性のサイトカインの作用による不足)の場合でも、同化作用のサイトカインにより誘発された代謝反応のサイクルに対する細胞試薬の直接的な利用を好むであろう。ルールとして、酵素作用無しでは、要求されるエネルギーが多すぎる:レーザーはそのようなエネルギーを提供しないため、同化作用反応を活性化することは可能ではない。このモードでは、炎症性の状態により中断された同化作用活性を再び開始する可能性を細胞は有するであろう。レーザーと抗炎症活性を有した薬との本質的な差は、その代謝有効性を再び取り戻し、何も促進することなく(起炎性サイトカインのものを含めた)一部の代謝経路を阻止する抗炎症性薬物とは逆にいかなる活性も遮断しないよう同化作用のサイトカインをレーザーが刺激するという事実にある。どのようにしてTNFαの遮断は進行中の変性現象の減速のみを決定するが、レーザー放射を使用した場合にin vivoで観察することができるものとは逆の、反転傾向は決定しないと留意することは興味深い。TNFαの遮断にもかかわらず、反転傾向の欠如は、他の起炎性サイトカインがチロシンキナーゼに結合することによってその拮抗活性と共に進むことを考慮することによって説明することができる。
【0124】
間接的に、チロシンキナーゼ(膜、細胞質)に作動する:この場合、レーザーは、その酵素前駆物質を活性化することによって、より多くの量のチロシンキナーゼを利用可能にする。そのようなさらなる量の細胞質内のチロシンキナーゼによって、GH(同化作用のサイトカイン)のパラクリンの役割により誘発される代謝活性の発生が可能になる。
【0125】
要するに、上記の出力強度レベルでのレーザー放射は、第一に、増殖因子の代謝活性を促進することによって最初のバイパス効果を生じる。その後、GHの経路に有用である、より多くの量の細胞質内チロシンキナーゼを利用可能にする。
【0126】
TGFβは、高用量で、変形性関節症現象の起源において重要な役割を有するTNFαに対して拮抗効果を有するということが知られている。IL−1β及びTNFαがグルココルチコイドに対する受容体の利用可能性を増やすという事実も知られている。これらの全てが、炎症慢性の場合に、同化作用の経路ではなく異化作用の経路の方向に生物を向ける、従って、退行性現象を増やすことに寄与する。Lopez Calderon等は、慢性炎症はGHの分泌を阻止し、IGF−Iの血清レベルを変えると記載したin vivoでの実験の結果を報告した(Lopez Calderon A,Soto L.,Martin A I.Chronic inflammation inhibits GH secretion and alters serum insulin−like−growth factor system.Life Science.1999:65(20):2049−60を参照)。
【0127】
生物の恒常性尺度における軸GH−IGF−Iによるいろいろな明確な効果が知られており、前記軸は、カヘキシー(cachexic)又は退行性現象が起こる場合に変わる。
【0128】
レーザー放射は、活性化閾値を超えるのに十分な強度で送達される場合に、いかなるタイプのいかなる「薬理学的妨害物」も誘発することなく、細胞活性を促進することが可能である。実際、遮断効果を用いていくつかの生物学的機能に対して作用することによって望まない副作用を常に生じる(例えば、TNFαは免疫系の深刻な衰弱を誘発する)という事実に抗炎症薬の重要な制限があることが知られている。
【0129】
要するに、レーザーは、容易に利用可能な運動エネルギーを供給することによって、まず第一に、いかなる酵素欠乏にもかかわらず、内因性チロシンキナーゼ活性に対する受容体経路の活性化を好む。この促進は、一連の細胞内及び細胞外現象をトリガーし、それらを改善することによって増殖因子IGF−I、TGF、EGF、PDGFに影響を与える。第二に、細胞質内のチロシンキナーゼの活性化が起こり、軸GH/IGF−Iを修復することによってGHの効果をブーストし、さらに、サイトカインの効果をブーストする。
【0130】
これは、なぜ特定の条件下でレーザーは抗炎症効果を有さないが、免疫系を改善及び維持する起炎性効果を有するかを説明する。
【0131】
レーザー光の光化学効果における別の限定しない例は、(例えばCa2+チャネル及びその細胞下流メッセンジャー等の)分子メッセンジャーの活性化である。この例は、以下で詳細に説明される。
【0132】
細胞が細胞質のCa2+レベルを正確に管理していることは、よく知られている。生理的細胞内Ca2+濃度は、細胞外Ca2+濃度の20,000分の1である。膜貫通電気勾配(−60、−90mV)が存在するため、Ca2+は自発的に細胞に入る傾向がある。細胞膜は、イオンCa2+に対して部分的に多孔質であり、細胞死を回避するために細胞内Ca2+濃度を低く維持するという問題が存在する。従って、その有毒な細胞内Ca2+濃度を回避するために、細胞は、細胞内Ca2+濃度を制御することができる発振行動を仮定する。この機構によって、「化学波」と呼ばれるCa2+波の細胞内伝播が誘発される。これらの化学波は、細胞が浸漬される電磁場発振に対して感受性が高い。従って、これらの化学波は、パルスレーザービームによって送達されるレーザーエネルギーにも感受性が高い。化学波に影響を与えることによって、パルスレーザービームは、細胞内Ca2+濃度に対する効果を有することができ、従って、一連の生化学的及び生物学的結果を有することができる。
【0133】
フォトメカニカル効果と光化学効果の比較
全てのレーザーシステムが、治療されている組織及び/又は細胞に対するフォトメカニカル効果を有するために必要とされるエネルギーを送達することができるけれども、高強度レーザーのみが、治療価値のフォトメカニカル効果を及ぼすことができる。高いピーク出力値(例えば、少なくとも1kWのもの等)及び高いピーク強度値(例えば、少なくとも1kW/cm2のもの等)は、治療されている組織及び/又は細胞に対するフォトメカニカル効果も光化学効果もパルスレーザー光が有するのを可能にし、その組み合わせで、並外れた予想外の治療結果を達成することができる。
【0134】
本発明の実施形態によると、組織再生は、細胞に対してレーザー光子により誘発される直接的な光化学効果と組み合わせて、治療されている組織に対して高い出力のパルスレーザービームにより誘発される前記フォトメカニカル効果を活用することによって高められる。軟骨組織は、組織細胞が含まれる細胞外基質によって特徴付けられる。パルス高強度レーザーにより誘発されるフォトメカニカル効果は、細胞外基質及びそこに含まれる細胞の繰り返される収縮並びに膨張を生じる。この機械的効果は、軟骨形成作用を刺激する。直接的な光化学効果、すなわち、細胞構造体によるレーザー光子からのエネルギーの直接的な吸収は、繊維軟骨組織ではなく健康な硝子軟骨組織が再生されるように細胞分化を制御する。
【0135】
レーザー放射の線量と治療の効率との関係は、レーザーの治療作用にとって重要であると常に考慮されてきた。この事実は、in vitroでの実験に基づき、文献において広く報告されてきた。
【0136】
ネズミの膝関節に対して行われたin vivoでの実験によって、5.8W/cm2の出力密度では活性化閾値を超えるのに十分ではない場合があると示されてきた。(Usuba M,Akai M,Shirasaki Y:Effect of low level laser therapy(LLLT) on viscoelasticity of the contracted knee joint:comparison with whirlpool treatment in rats,Laser Surg Med 1998,vol.22 pp.81−5)。
【0137】
本発明は、組織に対するレーザー放射の「線量」ではなくその強度、すなわち、全治療中に適用された全エネルギーの重要性における驚くべき認識に基づいている。LLLTはフォトメカニカル効果のみを有することができ、光熱効果も有することができる場合もあるため、フォトメカニカル効果だけでなく光化学効果も光熱効果も有する本発明による高強度レーザー療法(HILT)とは概念的に異なる。本発明によるフォトメカニカル効果は、上記のように光熱効果及び光音響効果にも関する。
【0138】
ここで説明する必要がある:1つは、組織に適用された場合に平均温度を上げ、従って、基礎代謝も上げるいかなるエネルギー源の光と熱に関する効果である。この現象も、長い間体の領域に連続して放出する簡略な低出力レーザーを用いて容易に得ることができる。代わりに、光力学効果と相関した熱効果は非常に異なる。この場合、非常にエネルギー値の高い非常に短いパルスを有したパルスレーザー、言い換えるとHILTレーザーを有することが必要になる。照射された組織は、熱効果のため急速に膨張し、次に、1つのパルスと次にパルスとの間で、その後直ちに冷える。この場合でも、熱効果は直ちに機械的エネルギーに変換される。
【0139】
これは、光熱効果とフォトメカニカル効果との関係に関して説明する理由である。しかし、これは、非常に特別のケースにすぎない。従って、同じレーザーが2つの熱効果を有することができ、1つは、光膨張に続いて冷却中の収縮を有した即座の効果であり、もう1つは、治療されている領域の平均温度の上昇を、結果として起こる基礎代謝の上昇を伴い決定する熱蓄積の現象のため、より全体的である。第1の現象はHILTの典型にすぎないが、第2の現象は、体に適用されるエネルギー源全てに共通している。
【0140】
HILTとLLLTとの区別
上記のことを考慮して、HILTは、達成されることになる目的、並びに、前記目的を達成するための作動条件及びパラメータの選択に関してLLLTと比較して区別する。目的が重要である限り、HILTの主な目標は、無痛で非侵襲性の治療システムを用いた非侵襲性再生医療である。HILTの第2の目標は、関節軟骨の傷等の深い傷の治療である。
【0141】
これは、採用された高いピーク出力値;組織内の可能な限り深いレベルでの高エネルギー光子の移動;及び、42℃未満、好ましくは40℃未満の組織温度の制御;のおかげによる、光化学及び光熱効果に加えて、及び、光化学及び光熱効果と組み合わせたHILTのフォトメカニカル効果のおかげで得ることができる。
【0142】
上記の目標は、以下のいくつかの一般的なルールによって達成される。そのルールとは、レーザー放射の透過が深いほど、後のレーザーパルス間の時間は長く、熱放散を可能にする;1レーザーパルスあたりのエネルギー含有量が大きいほど、パルス周波数、すなわち、レーザーパルスが繰り返される周波数は低い;1パルスあたりの出力レベルが高いほど、フルエンスは低い;各パルスのピーク出力が高いほど、パルス幅は短くなる(低デューティサイクル)であろう;一定のスポット領域でのピーク出力が高いほど、放射の興味の対象となる容積は大きくなり、従って、熱蓄積による温度の上昇は小さくなる;1パルスあたりのエネルギーが高いほど、レーザー放射線に対する全被曝時間は短くなる;並びに、レーザー放射線に対する全被曝時間が短いほど、熱蓄積は少なくなる。
【0143】
高いピーク出力及び1パルスあたりの多量のエネルギーによって特徴づけられる大きなパルスは、ランベルト−ベールの法則に従って深い部分に多量のエネルギーを伝達するのに有用である。組織温度の熱上昇は、供給されるエネルギーの量と直接関連がある。治療中にフォトメカニカル効果を達成しながら温度傾向の正確な制御を得るために、以下の値を、組織再生を刺激する方法の例として示すことができる(レーザー放出の種々のパラメータは本願を通して述べられる範囲内で変わり得るということに留意するべきである)。その値とは:
可能な限り高いピーク出力(例えば、少なくとも1KW);
非常に短いパルス幅τ(例えば、1から300マイクロ秒)によって特徴づけられる非常に長い送達時間T(例えば、0.1から1秒間);従って、非常に低いパルス繰り返し周波数(例えば、1から40Hz)、及び、非常に低いデューティサイクル(例えば、0.01%以下);
光がその通過中に経るいかなる散乱にもかかわらず標的に対する優れた光子の伝達を保証する非常に高いパルス及び優れた平均出力(例えば、何十W)を保証することができる、1パルスあたりの高いエネルギー含有量(例えば、0.03から1ジュール);
大きなレーザースポット直径(例えば、10mm);並びに、
0.1から1.0(J/cm3)2のPIF;
である。
【0144】
この方法で送達される高いエネルギーは安全であり、光がついた場合に組織を通じて突然の劇的な容積の膨張を可能にし、光が消された場合に冷却ビート(cooling beat)が続き、その結果、フォトメカニカル効果を生じる。
【0145】
評価研究
動物モデル及びヒトモデル両方に対するin vitro及びin vivoでのHILTを用いて実行した実験的試みは、ピーク強度フルエンス(PIF)のマップを描くことを可能にした。
LLLT 0.00146
HILT
抗炎症効果(vivo) 0.045
軟骨細胞(vitro) 0.246
HCT8(vitro) 0.776
ニワトリの調査(vivo) 0.553
ヒト(vivo) 0.553
第1のヒツジの調査(vivo) 0.566
ウマ/ヒツジの新たな調査 0.879
中毒量、ニワトリの調査(vivo) 1.688
高強度レーザー療法(HILT)は、in vitroでの細胞増殖を刺激する。
【0146】
背景及び目的:
Nd:YAGレーザー放出は、疼痛管理に対して理学療法及びスポーツ医学において広く使用されているが、細胞増殖に対するその効果に関してはほとんど知られていない。低い出力のダイオード(diodic)レーザー放出は、細胞増殖効果を示すが、深刻な変性疾患を治療するよう安全又は効果的に使用することはできない。近年、新たな種類のNd:YAGレーザー放出(HILT、高強度レーザー療法)が考案され、その特徴は、深い所に位置する解剖学的位置まで多量のエネルギーを安全に送達することを可能にする。これは、原則として、変形性関節症のような変性疾患の治療を可能にし得る。この研究の目的は、従って、(a)HILTが細胞増殖効果を有しているかどうかを評価する、(b)どの放出パラメータに対して、この効果を観察することができるか、及び、その効果は観察することができるかどうかを評価する、(c)チロシンキナーゼシグナル経路との相互作用によるものであるかどうかを決定するために評価することであった。
【0147】
材料及び方法:
in vitroで培養したHCT8細胞を、種々の放出パラメータにて、HILT放出で照射し、その増殖速度をODアッセイ及び免疫組織化学的試験を介して決定し、最も一般的な有核細胞周期活性化マーカー(Ki67、PCNA、サイクリンD1)のレベル、及び、増殖因子(IGF I)合成のレベルを決定した。同じ実験を、細胞周期活性化を生じるチロシンキナーゼ経路の選択的阻害剤であるゲニステインで処理したHCT8細胞に対して繰り返した。
【0148】
当該研究に使用されるレーザーシステムは、1064nmの波長、200マイクロ秒のパルス幅、1パルスあたり0,30から150mJのエネルギー、1から40Hzの繰り返し周波数、6mmのスポットサイズ直径を有する。レーザーシステムに対する電源は、230V−50/60Hzである。供給電力は12Aである。
【0149】
1回の治療あたりのレーザーの設定は、以下の:
ピーク強度フルエンス(PIF):0.776;
ピーク強度:2.7kW/cm2;
1パルスあたりのエネルギー:150mジュール;
繰り返し周波数:10Hz;
スポットサイズ直径:5mm;
1パルスあたりのフルエンス:0.759J/cm2;
1回の治療あたりのエネルギー(線量):27−36J;
である。
【0150】
結果:
HILT放出は、所与の放出パラメータでの細胞増殖を誘発することができた。エネルギーの総量及び送達された線量は増殖速度とは相関しなかったけれども、HILTパルス繰り返し周波数、被曝時間、並びに、平均出力は、きわめて重要な役割を果たした。さらに、HILT治療は、ゲニステインによって選択的に阻害された細胞周期マーカーの発現を修復することができた。
【0151】
結論:
HILTは、所与の放出パラメータにて細胞周期の活性化を修復する、及び、細胞増殖を刺激することができる。活性化の機構は、チロシンキナーゼシグナル経路との直接相互作用、又は、おそらくフォトメカニカル細胞刺激によって媒介される別の経路の誘発に依存し得る。アクティブパラメータにて、HILTは、IGF I増殖因子によって媒介された増殖のオートクリン及びパラクリン活性化を刺激する。
【0152】
HILTを使用した硝子軟骨再生in vivo動物モデル
序論:
本実施例において実行した研究の目的は、動物モデルを使用したin vivoでの関節軟骨の再成長を刺激するための新たな非侵襲性方法としてHILTを評価することである。主要な目標は、in vivoでのHILTの安全性及び効果を評価することであった。他の目標は、HILTの軟骨の再成長及び抗炎症効果の評価を含んだ。
【0153】
材料及び方法:
ヒツジは、試験した全ての動物種の中で、ヒトに最も近い基礎代謝率(BMR)を有したため、この研究の動物モデルとしてヒツジを選んだ(R.K.Porter,“Allometry of mammalian cellular oxygen consumption.”CMLS,Cell.Mol.Life Science.58(2001):815−822)。
【0154】
傷の部位として膝蓋骨の大腿骨滑車溝を選んだ。この部位は膝蓋骨によって部分的に覆われ、光は膝蓋骨と大腿骨の空間を通過しなければならない。皮膚と傷の中心との平均距離は、22±1.7mm(内側)及び30±1.5mm(外側)である。組織の内側の光の強度を計算するために、傷と同じ部位にて膝蓋骨の大腿骨滑車溝の骨(死んだヒツジの膝)の中にフォトダイオードを挿入した。データロガーを使用して、熱、光、及び、出力を追跡した。データロガーには、難しい条件での測定を可能にする(フォトダイオード、光ファイバー等)小さなセンサが装備されている。
【0155】
ゼロ時間(T0)にて、肋軟骨下の骨に達する片側の(monolateral)軟骨全層外科的欠損が、膝蓋骨の大腿骨滑車溝に穴(φ=14mm)を開けることによって、60±5kgの重さである10匹の雌の成体ヒツジにおいて生じた。
【0156】
全対象(n=10)が、手術後6日間、抗生物質予防を受けた。手術から一週間後、全対象を2つの群に分け:HILT群は、15のレーザー治療(Tx)を受け、未治療群はレーザーを受けなかった。
【0157】
この研究に使用したレーザーシステムは、1,064nmの波長、50から110マイクロ秒のパルス幅、1パルスあたり200から2000mJのエネルギー、1から10Hzの繰り返し周波数、10mmのスポットサイズ直径を有する。レーザーシステムに対する電源は230V−50/60Hzである。供給電力は12Aである。システム全体で、92cm×33cm×75cmの寸法を有し、80kgの重さである。
【0158】
1回の治療あたりのレーザー設定は、以下の:
ピーク強度フルエンス(PIF):0.566;
ピーク強度:19kW/cm2;
1パルスあたりのエネルギー:2ジュール;
繰り返し周波数:10Hz;
スポットサイズ直径:10mm;
1パルスあたりのフルエンス:2.54J/cm2;
1回の治療あたりのエネルギー(線量):2500J;
モード:スキャニング;
である。
【0159】
各対象は、1週間あたり平均5回の治療で、合計15回の治療を3週間にわたって受けた。治療した傷(HILT群)並びに対照(未治療群及び健常群)に、治療の各ステップ(T/0からT/5)に沿って組織学的解析及び/又は目視検査を受けさせた。
【0160】
HILTの効果を評価するために、外科的欠損の誘発の30日後(T1)、45日後(T2)、90日後(T3)、120日後(T4)、及び、180日後(T5)に傷から回収した試料の組織学的及び免疫組織化学的(IHC)発見を比較した。特に、前記試料を、H&E、サフラニン−O、Alcian Pas、及び、Herovici′s stainで染色した。IL−1□、MMP−9、TIMP−2、COMP、IGF−I、及び、I−II型コラーゲンに特異的なモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を、IHC評価に利用した。
【0161】
結果:
前記欠損領域の巨視的観察は、治療群において、傷の縁から中心部までの新たな組織の進行性の再成長を示した。T1、2、3にて、軟骨細胞増殖の増加及び炎症性因子(IL−1□、MMP−9)の減少を強調することが可能であった。それどころか、未治療群は、深刻な組織炎症を示した。T4及びT5にて、II型コラーゲンの発現の存在に対して、又は、形態的外観に対して硝子様軟骨のいくつかの特徴を有した新たな組織の形成を観察した。Benningoff′s schemeに従って、コラーゲン繊維の空間分布を観察することができた。
【0162】
HILT群は、傷が本質的に変化せずに残った未治療群と比較して、著しい軟骨組織再生(再成長)を有した。T/3から始めて、サフラニンO染色は、健常群と比較してHILT群が軟骨において類似のプロテオグリカン含有量を有し、未治療群が最小のプロテオグリカン染色を有したことを示した。II型コラーゲンの免疫組織化学的検査(IHC)も、健常の軟骨と比較してHILT群が類似のII型コラーゲン含有量を有し、未治療群がII型コラーゲンに対して最小の染色を有したことを示した。軟骨オリゴマー基質蛋白質(COMP)のIHCは、HILT群が未治療群よりも有意に多くのCOMPを有したことを示した。典型的な炎症性マーカー(例えば、IL 1β及びMMP)のIHCは、HILT群が未治療群よりも有意に低いレベルの炎症を有したことを示した。類似の結果をT/4にて得た。さらに、T/4にて、Alcian PAS染色は、健常の軟骨と比較してHILT群が類似のレベルの細胞外基質成分及び前駆物質を有し、未治療群が細胞外基質又は前駆物質に対して最小の染色を有したことを示した。
【0163】
T/5では、HILT群の傷は視覚的及び微視的に完全に治癒し、未治療群の傷は変化しないまま残った。サフラニンO及びAlcian PAS染色は、HILT群における治癒した領域が、正常の軟骨から観察されたものと類似の、大量のプロテオグリカン含有量並びに細胞外基質成分及び前駆物質を有し、未治療群の対応する傷におけるプロテオグリカン及び細胞外基質成分の染色が最小であったことを示した。さらに、I、II、及びIII型コラーゲンの組織化学的染色は、HILT群の治癒した領域において、正常な軟骨から観察されたものと類似のしっかりとした染色を示し、未治療群の対応する傷における染色は最小であったことを示した。
【0164】
治療の各ステージに沿ったCTスキャニングは、未治療群と比較してHILT群における軟骨の再成長を確認した。
【0165】
考察:
炎症性マーカー(例えば、IL 1β及びMMP)の非発現は、HILTが安全で耐容性がよいと立証している。未治療群における炎症性マーカーの過剰発現は、HILTの抗炎症効果の明瞭な証拠である。巨視的画像も微視的画像も、HILTの同化作用効果を明瞭に示している。結果として、HILTは、硝子様軟骨と同じ特徴を有した関節軟骨の生理学的再成長を刺激することができる。
【0166】
本発明は、その例として示す実施形態を参考にして特に示され記載されてきたけれども、付随の特許請求の範囲に含まれる本発明の範囲から逸脱することなく、形態及び詳細な記述において種々の変更を本明細書において行うことができるということを当業者は理解するであろう。
【0167】
本出願は、2008年9月16日に出願した米国仮特許出願第61/097,251号、及び、同じく2008年9月16日に出願した米国仮特許出願第61/097,301号に基づく優先権を主張するものである。上記出願の全内容を本出願において援用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の組織を治療するための方法であって、
0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有したパルスレーザービームを前記組織に適用するステップを含み、前記ピーク強度フルエンスは、
【数7】
によって定義され、Ipは前記パルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eは前記パルスのエネルギーであり、τonは前記パルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、前記患者上の前記パルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、前記パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である、方法。
【請求項2】
前記パルスのピーク出力が、400Wから50kWである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルスの幅が、1マイクロ秒から500マイクロ秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザービームのデューティサイクルが、0.01%から0.5%である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、2.5ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの面積が、約0.05平方センチメートルから約3.14平方センチメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記パルスのピーク出力が400Wから50kWであり、前記パルスの幅が1マイクロ秒から500マイクロ秒であり、前記パルスレーザービームのデューティサイクルが0.01%から0.5%であり、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記パルスレーザービームが皮膚を通して適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記パルスレーザービームが経皮的に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記パルスレーザービームが、前記患者の皮膚を通して挿入された光ファイバーを介して経皮的に適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パルスレーザービームを適用するステップが、前記患者の皮膚と接触する光チップを介して前記組織まで前記パルスレーザービームを送達するステップを含み、前記光チップが:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記光チップが、前記組織において約0.5cmから約10cmの距離にて前記組織内のスポットに前記パルスレーザービームの焦点を合わせる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記パルスレーザービームの波長での前記光チップと前記皮膚との光インピーダンスの不一致を減らすために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記光チップと前記皮膚との接触の領域を滑らかにするために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記パルスレーザービームの適用中に前記皮膚を冷却するために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記光チップを前記皮膚に対して押し付けることによって、前記皮膚と治療される前記組織の間の組織を加圧するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
予め冷却した光チップを用いて前記皮膚を冷却するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記パルスレーザービームを適用した後に前記光チップを処分するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
患者の組織を治療するための装置であって:
0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有したパルスレーザービームを生じるパルスレーザー源であり、前記ピーク強度フルエンスは、
【数8】
によって定義され、Ipは前記パルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eは前記パルスのエネルギーであり、τonは前記パルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、前記パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である、パルスレーザー源;及び
前記パルスレーザービームを前記患者の組織に適用するための適用ユニット;
を含む装置。
【請求項21】
前記パルスのピーク出力が、400Wから50kWである、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記パルスの幅が、1マイクロ秒から500マイクロ秒である、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記パルスレーザービームのデューティサイクルが、0.01%から0.5%である、請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項25】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、2.5ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの面積が、約0.05平方センチメートルから約3.14平方センチメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項27】
前記パルスのピーク出力が400Wから50kWであり、前記パルスの幅が1マイクロ秒から500マイクロ秒であり、前記パルスレーザービームのデューティサイクルが0.01%から0.5%であり、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項28】
前記適用ユニットが、皮膚を通して前記パルスレーザービームを適用するよう構成される、請求項20に記載の装置。
【請求項29】
前記適用ユニットが、前記パルスレーザービームを経皮的に適用するよう構成される、請求項20に記載の装置。
【請求項30】
前記患者の皮膚を通して挿入されるよう構成された光ファイバーをさらに含む、請求項27に記載の装置。
【請求項31】
光チップをさらに含み、前記光チップが:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含む、請求項20に記載の装置。
【請求項32】
前記光チップが、前記組織において約0.5cmから約10cmの距離にて前記組織内のスポットに前記パルスレーザービームの焦点を合わせる、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記集束要素が、円筒形要素及び曲面を含む、請求項31に記載の装置。
【請求項34】
前記円筒形要素が、約3cm長から約4cm長であり、約1.5cmから約2.5cmの直径を有する、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記曲面が、約1.5cmから約2.5cmの直径、及び、約10mmから約100mmの曲率半径を有する、請求項33に記載の装置。
【請求項36】
前記集束要素を少なくとも部分的に覆うゲルをさらに含む、請求項31に記載の装置。
【請求項37】
前記ゲルが、前記皮膚と前記光チップとの光インピーダンスの不一致を減らす、請求項36に記載の装置。
【請求項38】
前記光チップが予め冷却される、請求項31に記載の装置。
【請求項39】
前記光チップがプレキシグラスを含む、請求項31に記載の装置。
【請求項40】
前記光チップが使い捨てである、請求項31に記載の装置。
【請求項41】
レーザー療法のための使い捨てのチップであって:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含み、該集束要素がゲルにおいて少なくとも部分的に覆われている、使い捨てのチップ。
【請求項42】
前記集束要素が、組織において約0.5cmから約10cmの焦点距離を有する、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項43】
前記集束要素が、円筒形要素及び曲面を含む、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項44】
前記円筒形要素が、約3cm長から約4cm長であり、約1.5cmから約2.5cmの直径を有する、請求項43に記載の使い捨てのチップ。
【請求項45】
前記曲面が、約1.5cmから約2.5cmの直径、及び、約10mmから約100mmの曲率半径を有する、請求項43に記載の使い捨てのチップ。
【請求項46】
前記集束要素がプレキシグラスを含む、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項47】
前記ゲルが、前記皮膚と当該使い捨てのチップとの光インピーダンスの不一致を減らす、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項48】
当該使い捨てチップの少なくとも一部を囲むシールパッケージと組み合わせた請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項1】
患者の組織を治療するための方法であって、
0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有したパルスレーザービームを前記組織に適用するステップを含み、前記ピーク強度フルエンスは、
【数7】
によって定義され、Ipは前記パルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eは前記パルスのエネルギーであり、τonは前記パルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、前記患者上の前記パルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、前記パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である、方法。
【請求項2】
前記パルスのピーク出力が、400Wから50kWである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記パルスの幅が、1マイクロ秒から500マイクロ秒である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記パルスレーザービームのデューティサイクルが、0.01%から0.5%である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、2.5ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの面積が、約0.05平方センチメートルから約3.14平方センチメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記パルスのピーク出力が400Wから50kWであり、前記パルスの幅が1マイクロ秒から500マイクロ秒であり、前記パルスレーザービームのデューティサイクルが0.01%から0.5%であり、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記パルスレーザービームが皮膚を通して適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記パルスレーザービームが経皮的に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記パルスレーザービームが、前記患者の皮膚を通して挿入された光ファイバーを介して経皮的に適用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記パルスレーザービームを適用するステップが、前記患者の皮膚と接触する光チップを介して前記組織まで前記パルスレーザービームを送達するステップを含み、前記光チップが:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記光チップが、前記組織において約0.5cmから約10cmの距離にて前記組織内のスポットに前記パルスレーザービームの焦点を合わせる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記パルスレーザービームの波長での前記光チップと前記皮膚との光インピーダンスの不一致を減らすために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記光チップと前記皮膚との接触の領域を滑らかにするために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記パルスレーザービームの適用中に前記皮膚を冷却するために、前記集束要素又は前記皮膚にゲルを適用するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記光チップを前記皮膚に対して押し付けることによって、前記皮膚と治療される前記組織の間の組織を加圧するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
予め冷却した光チップを用いて前記皮膚を冷却するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記パルスレーザービームを適用した後に前記光チップを処分するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
患者の組織を治療するための装置であって:
0.1(J/cm3)2から1.0(J/cm3)2のピーク強度フルエンスを有したパルスレーザービームを生じるパルスレーザー源であり、前記ピーク強度フルエンスは、
【数8】
によって定義され、Ipは前記パルスレーザービームのパルスのピーク強度であり、Eは前記パルスのエネルギーであり、τonは前記パルスの幅であり、τoffはパルス間の幅であり、rは、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されたスポットの半径であり、αは、前記パルスレーザービームの波長λでの吸水係数(cm−1)である、パルスレーザー源;及び
前記パルスレーザービームを前記患者の組織に適用するための適用ユニット;
を含む装置。
【請求項21】
前記パルスのピーク出力が、400Wから50kWである、請求項20に記載の装置。
【請求項22】
前記パルスの幅が、1マイクロ秒から500マイクロ秒である、請求項20に記載の装置。
【請求項23】
前記パルスレーザービームのデューティサイクルが、0.01%から0.5%である、請求項20に記載の装置。
【請求項24】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項25】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が、2.5ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項26】
前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの面積が、約0.05平方センチメートルから約3.14平方センチメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項27】
前記パルスのピーク出力が400Wから50kWであり、前記パルスの幅が1マイクロ秒から500マイクロ秒であり、前記パルスレーザービームのデューティサイクルが0.01%から0.5%であり、前記組織上の前記パルスレーザービームによって形成されるスポットの直径が1ミリメートルから20ミリメートルである、請求項20に記載の装置。
【請求項28】
前記適用ユニットが、皮膚を通して前記パルスレーザービームを適用するよう構成される、請求項20に記載の装置。
【請求項29】
前記適用ユニットが、前記パルスレーザービームを経皮的に適用するよう構成される、請求項20に記載の装置。
【請求項30】
前記患者の皮膚を通して挿入されるよう構成された光ファイバーをさらに含む、請求項27に記載の装置。
【請求項31】
光チップをさらに含み、前記光チップが:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含む、請求項20に記載の装置。
【請求項32】
前記光チップが、前記組織において約0.5cmから約10cmの距離にて前記組織内のスポットに前記パルスレーザービームの焦点を合わせる、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記集束要素が、円筒形要素及び曲面を含む、請求項31に記載の装置。
【請求項34】
前記円筒形要素が、約3cm長から約4cm長であり、約1.5cmから約2.5cmの直径を有する、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記曲面が、約1.5cmから約2.5cmの直径、及び、約10mmから約100mmの曲率半径を有する、請求項33に記載の装置。
【請求項36】
前記集束要素を少なくとも部分的に覆うゲルをさらに含む、請求項31に記載の装置。
【請求項37】
前記ゲルが、前記皮膚と前記光チップとの光インピーダンスの不一致を減らす、請求項36に記載の装置。
【請求項38】
前記光チップが予め冷却される、請求項31に記載の装置。
【請求項39】
前記光チップがプレキシグラスを含む、請求項31に記載の装置。
【請求項40】
前記光チップが使い捨てである、請求項31に記載の装置。
【請求項41】
レーザー療法のための使い捨てのチップであって:
光ファイバーカプラ;
該光ファイバーカプラに結合される集束要素;
を含み、該集束要素がゲルにおいて少なくとも部分的に覆われている、使い捨てのチップ。
【請求項42】
前記集束要素が、組織において約0.5cmから約10cmの焦点距離を有する、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項43】
前記集束要素が、円筒形要素及び曲面を含む、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項44】
前記円筒形要素が、約3cm長から約4cm長であり、約1.5cmから約2.5cmの直径を有する、請求項43に記載の使い捨てのチップ。
【請求項45】
前記曲面が、約1.5cmから約2.5cmの直径、及び、約10mmから約100mmの曲率半径を有する、請求項43に記載の使い捨てのチップ。
【請求項46】
前記集束要素がプレキシグラスを含む、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項47】
前記ゲルが、前記皮膚と当該使い捨てのチップとの光インピーダンスの不一致を減らす、請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【請求項48】
当該使い捨てチップの少なくとも一部を囲むシールパッケージと組み合わせた請求項41に記載の使い捨てのチップ。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2012−502677(P2012−502677A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526512(P2011−526512)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061976
【国際公開番号】WO2010/031777
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511068083)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2009/061976
【国際公開番号】WO2010/031777
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511068083)
【Fターム(参考)】
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