説明

高強度Al−Cu−Mg合金押出材およびその製造方法

【目的】溶体化処理を行っても粗大再結晶組織の生成が抑えられ、高強度を得ることを可能とする高強度Al−Cu−Mg合金押出材を提供する。
【構成】Cu:3.0〜6.0%、Mg:0.3〜2.5%、Mn:0.2〜1.0%を含有し、不純物としてのSiを1.0%以下、Feを1.0%以下、Crを0.20%以下、Znを0.25%以下、Tiを0.20%以下に規制し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金の押出材であって、押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度Al−Cu−Mg合金押出材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Al−Cu−Mg合金(2000系アルミニウム合金)は軽量であることから比強度(強度/重量)が高く、輸送機を中心とした構造材に広く用いられている。特にJIS A 2017合金はジュラルミン、JIS A 2024合金は超ジュラルミンとして知られており、航空機を中心とした用途に50年以上に亘って使用されてきた。
【0003】
これらの合金は結晶粒制御のためMnを含有していることから、押出加工によって繊維状組織を得ることが可能である。押出加工によって得られた繊維状組織が製品の状態で維持できれば、高強度を得ることができる。しかし、2000系アルミニウム合金は焼入れ感受性が高いため、プレス焼入れで製造することが困難で、通常の工業生産では押出加工後に調質のための溶体化処理を行っており、その際、押出加工で得られた繊維状組織の安定性が低い場合には、溶体化処理で粗大再結晶組織に変化し、最終製品で得られる強度が低下し、強度が大きくばらついてしまうという問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、溶体化処理を行っても粗大再結晶組織の生成を最小にする製造条件の確立が求められており、従来から手法が提案されている。例えば、Cu:1.5〜6.0%、Mn:0.10〜1.5%、Mg:0.2〜2.0%、Si:0.1〜1.5%、Fe:0.1〜0.5%を含有し、さらにCr+Zrが0.10〜0.3%の範囲になるようにCr:0.04〜0.10%およびZr:0.06〜0.20%を含有し、さらにTi:0.001〜0.20%またはB:0.0001〜0.04%の一方または両者を含み、残部Alおよび不可避不純物からなるアルミニウム合金において、鋳塊の均質化処理における昇温速度および冷却速度を制御し、さらに押出時のビレット加熱温度、押出速度、押出材の温度を制御することにより、粗大再結晶の生成を抑制して高強度を得る手法が提案されている。
【0005】
しかしながら、上記提案の手法においては、Zrの含有を必須としているため、Zrを含有成分としていないJIS A 2017合金やJIS A 2024合金などの既存合金への適用ができない。また、本発明者がZrを含有していないJIS A 2024合金を用いて、上記従来技術の製造条件に従って押出材を作製したところ、押出材の形状によっては粗大再結晶組織の生成を十分に抑制することができず、十分な強度特性を得ることができないことが認められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−000353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、高強度Al−Cu−Mg合金を得るための手法について、試験、検討を行った結果、Al−Cu−Mg合金押出材のミクロ組織において、表面の再結晶組織の厚さを制御し、さらに押出材の繊維状組織領域における集合組織を最適に制御することにより、改善された強度特性を得ることが可能となることを見出した。
【0008】
また、このような組織制御を行うためには、合金成分の最適化、押出前の鋳塊の均質化処理温度および保持時間、均質化処理後の冷却速度、さらに押出加工時のビレット加熱速度および温度ならびに保持時間を最適に制御することが必要であることを見出した。
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その目的は、溶体化処理を行っても粗大再結晶組織の生成が抑えられ、高強度を得ることを可能とする高強度Al−Cu−Mg合金押出材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための請求項1による高強度Al−Cu−Mg合金押出材は、Cu:3.0〜6.0%(質量%、以下同じ)、Mg:0.3〜2.5%、Mn:0.2〜1.0%を含有し、不純物としてのSiを1.0%以下、Feを1.0%以下、Crを0.20%以下、Znを0.25%以下、Tiを0.20%以下に規制し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金の押出材であって、押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項2による高強度Al−Cu−Mg合金押出材は、請求項1において、前記押出材が平坦部を有し、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項3による高強度Al−Cu−Mg合金押出材は、請求項2において、前記平坦部の繊維状組織領域におけるCube方位({001}<100>)の方位密度がランダム方位の10倍以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項4による高強度Al−Cu−Mg合金押出材の製造方法は、請求項1〜3のいずれかに記載の高強度Al−Cu−Mg合金押出材を製造する方法であって、請求項1記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を半連続鋳造法により造塊し、得られた鋳塊を440℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持することにより均質化処理し、均質化処理温度から250℃までを平均冷却速度150℃/h以上で冷却後、室温まで冷却し、再度400℃以上の温度に10分以内で昇温し、保持時間10分以内に熱間押出を行い、その後調質のための熱処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、溶体化処理を行っても粗大再結晶組織の生成が抑えられ、高強度を得ることを可能とする高強度Al−Cu−Mg合金押出材およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による高強度Al−Cu−Mg合金押出材の合金元素の意義および限定理由について説明すると、CuはMgと結合して化合物を形成し、強度を向上させるよう機能する元素であり、その好ましい含有量は3.0〜6.0%の範囲である。3.0%未満では強度が不十分になり、6.0%を超えて含有されると押出加工性が低下する。Cuのさらに好ましい含有範囲は3.2〜5.5%、最も好ましい含有範囲は3.5〜5.0%である。
【0016】
MgはCuと結合して化合物を形成し、強度を向上させるよう機能する元素であり、その好ましい含有量は0.3〜2.5%の範囲である。0.3%未満では強度が不十分になり、2.5%を超えて含有されると押出加工性が低下する。Mgのさらに好ましい含有範囲は0.3〜2.2%、最も好ましい含有範囲は0.4〜1.8%である。
【0017】
Mnは押出材のミクロ組織を制御するのに機能する元素であり、0.2%〜1.0%の範囲で含有することにより、押出材の表層に再結晶組織、内部に繊維状組織の混合組織を形成することができる。0.2%未満では押出材内部に繊維状組織を形成することができず、断面全体が再結晶組織になる。また、1.0%を超えて含有されると、巨大晶出物を生成して延性が低下するなど、材料特性の低下を招く。Mnのさらに好ましい含有範囲は0.3〜0.9%、最も好ましい範囲は0.4〜0.8%である。
【0018】
不純物としては、Si、Fe、Cr、Zn、Tiなどが挙げられる。Si、Fe、Cr、Zn、Tiについては、それぞれ以下の含有量に規制するのが好ましい。Si、Fe、Cr、Zn、Ti以外の不可避不純物元素については、それぞれ0.05%以下に規制するのが好ましい。
Si:1.0%以下
Fe:1.0%以下
Cr:0.20%以下
Zn:0.25%以下
Ti:0.20%以下
【0019】
本発明による高強度Al−Cu−Mg合金押出材は、押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、さらに表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1以下であることが好ましい。
【0020】
本発明によるAl−Cu−Mg合金押出材の表面には、押出加工中にダイスとのせん断により再結晶組織が形成され、その内部に繊維状組織を有する混合組織が形成されるが、表面の再結晶組織の厚さの最大値を押出材の最小厚さの4分の1以下にすることにより、高強度を得ることができる。さらに好ましい表面の再結晶組織の厚さの最大値は押出材の最小厚さの6分の1以下であり、最も好ましい表面の再結晶組織の厚さの最大値は押出材の最小厚さの10分の1以下である。
【0021】
また、本発明による高強度Al−Cu−Mg合金押出材が平坦部を有する場合、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍以上であることが好ましい。Brass方位の方位密度をランダム方位の20倍以上にすることにより、押出材内部の繊維状組織を安定にでき、高強度を得ることができる。
【0022】
また、平坦部の繊維状組織領域におけるCube方位({001}<100>)の方位密度がランダム方位の10倍以上であることがより好ましく、前記のBrass方位と相まって、Cube方位密度をランダム方位の10倍以上にすることにより、押出材の再結晶温度を上昇させ、押出材内部の繊維状組織をさらに安定させ、一層の高強度を得ることができる。Brass方位({011}<211>)とCube方位({001}<100>)の方位密度は、均質化処理後の冷却速度と熱間押出時のビレット加熱条件を最適に組み合わせることにより、それぞれ好ましい範囲に制御することができる。
【0023】
つぎに、本発明による高強度Al−Cu−Mg合金押出材の製造方法について説明する。まず、前記所定の組成を有するAl−Cu−Mg合金鋳塊を半連続鋳造法により造塊し、得られた鋳塊を均質化処理して押出用ビレットとする。均質化処理は鋳塊を440℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持することにより行うのが好ましい。均質化処理温度あるいは均質化処理時間が下限未満の場合、Mn系化合物の析出が不十分になるため、押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1を超えてしまい、強度低下が生じる。なお、均質化処理時間は、実用上、48時間以下とするのが好ましい。
【0024】
また、押出材が平坦部を有する場合、均質化処理温度あるいは均質化処理時間が下限未満では、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍未満になり、さらにCube方位({001}<100>)の方位密度もランダム方位の10倍未満になり、繊維状組織の安定性が低下して、強度低下が起こる。
【0025】
均質化処理温度が上限を超えると、Al−Cu−Mg合金鋳塊が溶解してしまう。均質化処理されたビレットは、均質化処理温度から250℃までを平均冷却速度150℃/h以上で冷却後、室温まで冷却することが好ましい。均質化処理温度から250℃までの平均冷却速度が150℃/h未満の場合には、冷却中にCuおよびMgの析出が起こることで固溶元素量が低下し、押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1を超えてしまうために強度低下が生じる。
【0026】
押出材が平坦部を有する場合、均質化処理温度から250℃までの平均冷却速度が150℃/h未満では、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍未満になるとともに、Cube方位({001}<100>)の方位密度もランダム方位の10倍未満になり、繊維状組織の安定性が低下して強度低下が起こる。均質化処理温度から250℃までのさらに好ましい冷却速度は250℃/h以上であり、均質化処理温度から250℃までの最も好ましい冷却速度は400℃/h以上である。
【0027】
均質化処理後、冷却されたビレットは、再度400℃以上の温度に10分以内で昇温し、保持時間10分以内に熱間押出を行うのが好ましい。加熱温度が400℃未満の場合や、昇温時間が10分を超えた場合、または保持時間が10分を超えた場合には、押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1を超えてしまうために強度低下が生じ、さらに押出材が平坦部を有する場合には、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍未満になるとともに、Cube方位({001}<100>)の方位密度もランダム方位の10倍未満になり、強度低下が生じる。
【0028】
熱間押出後、調質のための熱処理が行われる。調質の種類は用途によって選定されるが、好適な調質はT3、T4、T6、T7、T8、T9である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明し、本発明の効果を実証する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施形態を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
実施例1
表1に示す組成を有するアルミニウム合金(合金A〜Gの組成)の鋳塊(直径150mm)を半連続鋳造法により造塊し、得られた鋳塊を450℃で5時間均質化処理し、均質化処理温度から250℃までを48分で冷却(平均冷却速度250℃/h)し、引き続き室温まで冷却して押出用ビレットとした。
【0031】
得られたビレットを誘導加熱炉で昇温時間5分で450℃に加熱し、3分間の保持を行った後、熱間押出により厚さ6mm、幅100mmの板状押出材を作製した。このとき、ダイス出側の押出速度を3m/minとした。得られたアルミニウム合金押出材を昇温速度50℃/hで480℃まで昇温し、480℃の温度で60分間の保持を行った後、20〜30℃の水中に焼入れを行い、さらに190℃で8時間の人工時効処理を行うことによりT6調質材とし、試験材1〜7を得た。
【0032】
【表1】

【0033】
試験材1〜7について、以下の方法に従い、ミクロ組織観察、結晶方位密度測定(Brass方位({011}<211>)およびCube方位({001}<100>)の密度測定)、引張試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0034】
ミクロ組織観察:試験材から長さ10mmのミクロ組織観察用試験片を切断、採取し、さらに切断後の試験片の幅がそれぞれ20mmになるように、幅方向に試験片を5分割して、全ての試験片を押出方向に垂直な面が観察面になるよう、熱硬化樹脂に樹脂埋めを行い、耐水研磨紙で粗研磨を行った後、アルミナ粉末で仕上げ研磨し、ケラー氏液でエッチングを行ってミクロ組織観察用試料を得た。各試料について、光学顕微鏡にて押出材表面の再結晶組織の厚さが最大になっている位置を確認して、50倍の組織写真を撮影し、表面の再結晶組織の厚さの最大厚さを測定した。
【0035】
結晶方位密度測定:試験材の幅中央部から長さ20mm、幅20mmの試験片を切断、採取し、厚さ方向に垂直な面が測定面になるよう面削を行った後、耐水研磨紙で厚さが3mm(元板厚の1/2)になるまで1200番まで研磨し、硝酸、塩酸、フッ酸をそれぞれ2:6:1の比率で混合したマクロ腐食液で10秒間の腐食を行ってX線回折用試験片を作製した。各試験片について、X線反射法で極点図を作成し、球面調和関数による級数展開法で三次元方位解析を行い、ODF(Orientation Distribution Function)により、Brass方位({011}<211>)およびCube方位({001}<100>)の方位密度をランダム比で測定した。なお、級数展開次数は22次とする。
【0036】
引張試験:試験材の幅中央部からJIS Z 2201に示された5号試験片を成形し、常温で10mm/分のクロスヘッド速度で引張試験を行い、引張強さ、耐力、伸びを測定した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2にみられるように、本発明に従う試験材1〜7は、何れも押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、さらに表面の再結晶組織の厚さの最大値が1500μm以下(押出材の最小厚さの4分の1以下)、Brass方位密度のランダム方位比が20以上、Cube方位密度のランダム方位比が10以上であり、高い強度特性を示した。
【0039】
実施例2
実施例1の合金AおよびBの鋳塊について、表3に示す条件で、均質化処理および熱間押出のための加熱を行った後、熱間押出により厚さ6mm、幅100mmの板状押出材を作製した。このとき、ダイス出側の押出速度を3m/minとした。得られたアルミニウム合金押出材を実施例1と同一条件でT6調質材とし、試験材8〜15を得た。試験材8〜15について、実施例1と同一の方法でミクロ組織観察、結晶方位密度測定、引張試験を行った。試験結果を表4に示す。なお、表4において下線を付したものは本発明の範囲を外れていることを示すものである。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表4にみられるように、本発明に従う試験材10〜13は、何れも押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、さらに表面の再結晶組織の厚さの最大値が1500μm以下(押出材の最小厚さの4分の1以下)、Brass方位密度のランダム方位比が20以上、Cube方位密度のランダム方位比が10以上であり、高い強度特性を示した。
【0043】
また、試験材8、9、14、15は何れもCube方位密度のランダム方位比が10未満ではあるが、押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、さらに表面の再結晶組織の厚さの最大値が1500μm以下(押出材の最小厚さの4分の1以下)、Brass方位密度のランダム方位比が20以上であり、高い強度特性を示した。
【0044】
実施例3
実施例1の合金A〜Gの鋳塊について、450℃で5時間の均質化処理を行い、均質化処理温度から250℃までを48分で冷却(平均冷却速度250℃/h)し、引き続き室温(20〜30℃)まで冷却して押出用ビレットとした。得られたビレットを誘導加熱炉で昇温時間5分で450℃に加熱し、3分間の保持を行った後、熱間押出により直径15mmの丸棒形状の押出材を作製した。このとき、ダイス出側の押出速度を7m/minとした。
【0045】
得られたアルミニウム合金押出材を昇温速度50℃/hで480℃まで昇温し、480℃の温度で60分間の保持を行った後、20〜30℃の水中に焼入れを行い、さらに190℃で8時間の人工時効処理を行うことによりT6調質材とし、試験材16〜22を得た。試験材16〜22について、それぞれ以下の方法でミクロ組織観察および引張試験を行った。なお、形状が丸棒であるため、結晶方位密度測定は行わなかった。試験結果を表5に示す。
【0046】
ミクロ組織観察:試験材から長さ10mmのミクロ組織観察用試験片を切断、採取し、押出方向に垂直な面が観察面になるよう、熱硬化樹脂に樹脂埋めを行い、耐水研磨紙で粗研磨を行なった後、アルミナ粉末で仕上げ研磨し、ケラー氏液でエッチングを行ってミクロ組織観察用試料を得た。各試料について、光学顕微鏡で50倍の組織写真を撮影し、表面の再結晶組織の最大厚さを測定した。
【0047】
引張試験:試験材からJIS Z 2201に示された4号試験片を成形し、常温で10mm/分のクロスヘッド速度で引張試験を行い、引張強さ、耐力、伸びを測定した。
【0048】
【表5】

【0049】
表5にみられるように、本発明に従う試験材16〜22は、何れも押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、さらに表面の再結晶組織の厚さの最大値が3750μm以下(押出材の最小厚さの4分の1以下)であり、高い強度特性を示した。
【0050】
比較例1
表6に示す組成を有するアルミニウム合金(合金H〜Mの組成)の鋳塊(直径150mm)を半連続鋳造法により造塊し、実施例1と同一条件で均質化処理および熱間押出のための加熱を行って厚さ6mm、幅100mmの板状押出材を作製した。得られたアルミニウム合金押出材を実施例1と同一条件でT6調質材とし、試験材23〜28を得た。試験材23〜28について、実施例1と同一の方法でミクロ組織観察、結晶方位密度測定、引張試験を行った。試験結果を表7に示す。なお、表6〜7において、本発明の範囲を外れたものには下線を付した。
【0051】
【表6】

【0052】
【表7】

【0053】
表7に示すように、試験材23はCu量が少ないため強度が低く、試験材24はCu量が多いため、押出加工で割れが発生して、試験材を作製できなかった。試験材25はMg量が少ないため強度が低く、試験材26はMg量が多いため、押出加工で割れが発生して、試験材を作製できなかった。
【0054】
試験材27はMn量が少ないため、押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1(1500μm)を超え、Brass方位密度がランダム方位に対して20倍未満になり、さらにCube方位密度がランダム方位比に対して10倍未満になったため強度が低下した。試験材28はMn量が多いため延性が低下した。
【0055】
比較例2
実施例1の合金Bの鋳塊について、表8に示す条件で、均質化処理および熱間押出のための加熱を行った後、熱間押出により厚さ6mm、幅100mmの板状押出材を作製した。このとき、ダイス出側の押出速度を3m/minとした。得られたアルミニウム合金押出材を実施例1と同一条件でT6調質材とし、試験材29〜34を得た。試験材29〜34について、実施例1と同一の方法でミクロ組織観察、結晶方位密度測定、引張試験を行った。試験結果を表9に示す。なお、表8〜9において、本発明の範囲を外れたものには下線を付した。
【0056】
【表8】

【0057】
【表9】

【0058】
表9に示すように、試験材29は均質化処理温度が低く、試験材30は均質化処理の保持時間が短く、試験材31は均質化処理後の250℃までの平均冷却速度が小さく、試験材32は加熱の昇温時間が長く、試験材33は加熱温度が低く、試験材34は加熱の保持時間が長いため、いずれも押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1(1500μm)を超えてしまうとともに、Brass方位密度がランダム方位に対して20倍未満になり、さらにCube方位密度がランダム方位に対して10倍未満になったため、強度が低下した。
【0059】
比較例3
実施例1の合金Bの鋳塊について、表10に示す条件で、均質化処理および熱間押出のための加熱を行った後、熱間押出により直径15mmの丸棒形状の押出材を作製した。このとき、ダイス出側の押出速度を7m/minとした。得られたアルミニウム合金押出材を実施例1と同一条件でT6調質材とし、試験材35〜40を得た。試験材35〜40について、実施例3と同一の方法でミクロ組織観察および引張試験を行った。試験結果を表11に示す。なお、表10〜11において、本発明の範囲を外れたものには下線を付した。
【0060】
【表10】

【0061】
【表11】

【0062】
表11に示すように、試験材35は均質化処理温度が低く、試験材36は均質化処理の保持時間が短く、試験材37は均質化処理後の250℃までの平均冷却速度が小さく、試験材38は加熱の昇温時間が長く、試験材39は加熱温度が低く、試験材40は加熱の保持時間が長いため、いずれも押出材表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1(3750μm)を超えてしまい、強度が低下した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu:3.0〜6.0%、Mg:0.3〜2.5%、Mn:0.2〜1.0%を含有し、不純物としてのSiを1.0%以下、Feを1.0%以下、Crを0.20%以下、Znを0.25%以下、Tiを0.20%以下に規制し、残部Alおよび不可避不純物からなる組成を有するアルミニウム合金の押出材であって、押出材表面に再結晶組織を有し、その内部に繊維状組織を有する混合組織からなり、表面の再結晶組織の厚さの最大値が押出材の最小厚さの4分の1以下であることを特徴とする高強度Al−Cu−Mg合金押出材。
【請求項2】
前記押出材が平坦部を有し、平坦部の繊維状組織領域におけるBrass方位({011}<211>)の方位密度がランダム方位の20倍以上であることを特徴とする請求項1記載の高強度Al−Cu−Mg合金押出材。
【請求項3】
前記平坦部の繊維状組織領域におけるCube方位({001}<100>)の方位密度がランダム方位の10倍以上であることを特徴とする請求項2記載の高強度Al−Cu−Mg合金押出材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の高強度Al−Cu−Mg合金押出材を製造する方法であって、請求項1記載の組成を有するアルミニウム合金鋳塊を半連続鋳造法により造塊し、得られた鋳塊を440℃以上500℃以下の温度で1時間以上保持することにより均質化処理し、均質化処理温度から250℃までを平均冷却速度150℃/h以上で冷却後、室温まで冷却し、再度400℃以上の温度に10分以内で昇温し、保持時間10分以内に熱間押出を行い、その後調質のための熱処理を行うことを特徴とする高強度Al−Cu−Mg合金押出材の製造方法。

【公開番号】特開2010−196112(P2010−196112A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41820(P2009−41820)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】