説明

高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC−MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。

【課題】完全緻密/気密の電解質層を有する高性能固体酸化物燃料電池接合体の電池セルを提供する。
【解決手段】テープキャスティング法により支持基板としての強度を具える厚さの電極層グリーンテープを形成し、同じくテープキャスティング法により緻密/気密を満たす薄さの電解質グリーンテープを形成して両者をラミネート処理によって積層し、さらにこれらに対して対極となる電極層をシルクスクリーン印刷法、パッタリングコーティング法、スピンコーティング法、或いはプラズマ・スプレーコーティング法などの薄膜形成法によって形成し、温度昇降速度0.1〜3℃/min、温度1500℃の条件で5時間焼結して、電池セルとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能固体酸化物形燃料電池接合体に積層する電解質層の製造方法に関し、特にテープキャスティング法と、シルクスクリーン印刷法(Screen printing)、スパッタリングコーティング法(Sputtering coating)、スピンコーティング法(Spin coating)、プラズマ・スプレーコーティング法(Plasma spray Coating)などの薄膜塗布工程を組み合わせて行う薄膜製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油価格の高騰と環境保護意識の抬頭につれて、再生可能エネルギー技術も本世紀で最も重要な発展技術の一つとなっている。高性能固体酸化物燃料電池は高效率、低汚染及びエネルギー多元化を備えたエネルギー発電システムであり、かつ材料組成は簡単で、構造のモジュール化によって持続的安定な発電を提供できるなどの特色に基き、最も発展潜在力のある発電システムである。
【0003】
23をドープしたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を電解質材料にする電解質支持形基板電池(Electrolyte Supported Cell:略称ESC)の作動温度は800〜1000℃であり、その電解質層基板の厚さは150〜300μmであり、これは第一世代の固体酸化物形燃料電池電極接合体(SOFC-MEA)に属する。NiO+YSZを陽極材料にする陽極支持基板電池セル(Anode Supported Cell:略称ASC) の作動温度は650〜800℃であり、その電解質層(主にYSZを材料とし)の厚さは大よそ10μmであり、これは第二世代のSOFC-MEAに属する。NiO+8YSZはASC/ESCの陽極材料で、陰極材料は主にLa0.8Sr0.2MnO3(LSM)およびLa-Sr-Co-Fe-O系ペロブスカイト型酸化物(LSCF)であり、その厚さは30〜60μmである。これと同時に全世界の各研究室において新しい電解質材料および陰極材料の研究開発が進行しており、これら新材料が登場することによりSOFC-MEAの作動温度を500〜700 ℃に下げられることが望まれる。作動温度を下げることによってSOFCのスタック(Stack)に用いられる組立て部品、例えばインターコネクター(Inter-connector)などの構成材料を金属材料からセラミック材料に変えることができる。こうして電池の製造が容易になる上、その機械的強度/安定性/耐久性も向上し、SOFC全体のコストダウン(Cost down)も見込める。この技術の発展について、大学および国家の研究室では材料の研究開発に重点を置き、新世代の材料の開発によって電気抵抗を減少させ、イオン伝導/電気伝導性を増加することによりSOFCの発電能力を向上させることを目指している。
【特許文献1】特開2005−149797号公報
【特許文献2】特開2007−200664号公報
【特許文献3】特開2007−313650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、SOFC-MEAの電解質層を完全緻密な特性とすることにより、電池の作動性・耐久性・安定性を高めることを目標とする。その発明の効果は電池セルの性能試験(Performance test of SOFC-MEA)によって検証できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、本発明はテープキャスティング法に加えて、スパッタリングコーティング法(Sputtering coating)、シルクスクリーン印刷法(Screen printing)、スピンコーティング法(Spin coating)またはプラズマスプレーコーティング法(Plasma spray/Coating)などの薄膜製作工程を適用し、かつ1500℃の温度で5時間焼結を行い、温度昇降の速度率は0.1〜3℃/minという焼結条件をコントロールして、完全緻密な電解質を製作する方法である。
【0006】
陽極支持基板電池セル(Anode Supported Cell:略称ASC)を製造する場合、例えば、テープキャスティング法(tape casting)によって電解質のグリーンテープを成形して、ラミネート処理によりこの電解質グリーンテープを陽極と密着させる。この陽極/電解質の複合グリーンテープを高温焼結工程によって半電池(Half cell)とし、シルクスクリーン印刷法によって陰極層を半電池の電解質層上に塗布して、完全緻密な電解質層を有する陽極支持型固体酸化物燃料電池の電池セルを完成した。
こうして作られたSOFC-MEAは完全緻密/気密な特性を備えているから、燃料(例えばH2)や酸化剤気体(例えばAir)を完全に遮断して、酸素イオンだけ電解質層を通らせて電化学の発電反応を進行させ、その他の化学反応を一切起こらないようにする。これによって発電過程において電池セルの成分及び構造は化学反応によって破壊されることを免れ、理論値の開放電圧(OVC)の運転を維持することができる。この電池セルは、電気性能試験(Performance test of SOFC-MEA)によって高操作性、耐久性、安定性を検証できる。
【0007】
完全緻密(Fully dense)且つ気体透過率ゼロ(Zero gas leakage rate)、あるいは気密性(Air tight)の電解質(電解質の材料は8YSZ/GDC/YDC/LSGMなど)を有する平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC- MEA)、即ち電池セル(Unit cell)を製造するステップは以下のとおりである。
【0008】
ステップ1:テープキャスティング法によって平板型SOFC-MEAの陽極および電解質(材料はYSZ、GDC、YDC、SmDC、LSGMなどがある)のグリーンテープ(Green tapes)を成形し、ラミネート処理により両者を積層して電解質グリーンテープの層厚が5〜300μm、及び陽極グリーンテープの層厚が600〜1200μmのSOFCのグリーンテープ半電池(Half cell)を得る。この半電池を1200°C〜1600°Cの温度(1400℃〜1500°Cが最適)で数時間(3時間以上)の焼結を行い、第一段階のセラミック半電池が得られる。電子顕微鏡(SEM)で半電池のマイクロ構造(Microstructure)の解析を行い、電解質層のマイクロ構造が無孔質状態であって完全緻密(Fully dense)な状態に達したことを確認した。
【0009】
ステップ2: 完成した半電池の電解質層上に、シルクスクリーン印刷法によって多孔質(Porous)の陰極層(材料は一般的にLSMかLSCFなど)を形成して、1200°Cで3時間の仮焼を行い、SOFC-MEAを完成する。
【0010】
なお、上記方法は、完全緻密(Fully dense)/気密性(Air-tight)の電解質層を有するSOFC-MEAを製造する方法であり、ステップ1およびステップ2の概要を図一に示す。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製法によって得られた平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC- MEA)は、その電解質層が完全緻密(Fully dense)/気密性(Air-tight)を具えているため、電気抵抗が小さく、イオン伝導/電気伝導性を向上することによりSOFCの発電能力を向上することができる。
【0012】
本発明について代表的な例を示しさらに具体的に説明する。これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何等制限されるものではない。
【0013】
[実施例]
ステップ1:完全緻密/気密の電解質層(材料は8YSZ/ GDC/ LSGM)の固体酸化物型燃料電池接合体(SOFC-MEA)の電池セル(Unit Cell)を作るには、まず50wt% NiO+50wt% 8YSZ(8mol.% Yttria-Stablized Zirconia)の粉末及び気孔形成剤(Pore former)として所要量の石墨(Graphite)などで基本材料スラリーを調整し、適当な比率の溶剤(アルコール/ブタノン)、分散剤(トリエタノールアミン)、可塑剤(ポリエチレングリコール/フタル酸ジブチル)、及び粘着剤(ポリエチレンブチラール)をボールミルによって混合させて均一化し、テープキャスティング法によって電極グリーンテープを作り、更にラミネート処理に通して厚さ1000μm、サイズ5×5 cm2〜10×10cm2の陽極基板グリーンテープ(Anode Green Substrate)を完成する。
【0014】
ステップ2:電解質層の材料としてYSZ、GDC、LSGM、SDC、又はYDC粉末を上記ステップ1の陽極材料と同様に溶剤、分散剤、可塑剤及び粘着剤をボールミルによって均一に混合してスラリーを調整し、テープキャスティング法によって電解質グリーンテープの薄膜(5〜300μm)を作成し、ステップ1で作成した電極グリーンテープにラミネート処理によって密着して積層させ、SOFCのグリーンテープ半電池(Half cell)を構成し、1200°C〜 1600°C間(1400°C〜1500℃が最適)で数時間(3時間以上)の焼結を行うことによって、第一段階のセラミック半電池を得る。
このようにして形成した半電池を、走査型電子顕微鏡(SEM)でマイクロ構造(Microstructure) を解析し、電解質層が無孔質(Open pore free)のマイクロ構造状態であることを確認した。図二に示したように、電解質層の厚さは約20μmで、すでに完全緻密な構造を達成して、気密性を備えており、SOFC-MEAの電解質層に必須の要求は満たされている。残存する極かな閉塞性の細孔は、気体透過率に影響を与えない。
【0015】
ステップ3:電解質層が気密であることをさらに確認するため、ステップ2で得られた半電池の気体透過率を測定し、気体透過率は1×10-6 L/cm2/sec以下であって、この電解質層が完全緻密であることが確認された。この完全緻密な電解質層の半電池はHC-fdと称する。
【0016】
ステップ4:HC-fd電解質層の上に、シルクスクリーン印刷法によって、LSM材料で多孔質の陰極層を形成し、更に1200 °C、/3 hrsの焼結工程を行った。焼結温度昇降の速度は3°C/minでよいが、これに限定されない。
以上により、高い作動性能のSOFC-MEA (Unit cell)を完成した。この電池セルのマイクロ構造のSEM像を図二に示す。完成したSOFC-MEAに対して電気性能試験を行った結果を図三に示す。この結果からOCV (1.037~1.016V)はすでに理論値に達しており、電力密度も150 mW/ cm2を上回っていることが分かる。
本発明は、支持基板となる陽極又は陰極層をテープキャスティング法によって形成することにより支持強度を得るために必要な厚さにし、
これに対して電解質層は、これらの支持強度を具えた電極層にラミネートして積層することにより、気密性を確保するために必要な厚さであって、かつ酸素イオンの透過に適した薄さとすることができる。
また、支持基板となる陽極又は陰極層に対する陰極又は陽極層はスクリーン印刷法などの薄膜形成法により形成することによって、通気性を得るに必要な薄い層とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の高性能固体酸化物燃料電池接合体(電池セル)に完全緻密な電解質を製作する方法の一実施例の簡易説明図。
【図2】本発明の薄膜形成法と焼結条件によって得られた固体酸化物燃料電池の断面構造のSEMマイクロ構造分析図。(A):全電池截面、(B):プラス極截面、(C):マイナス極截面、(D):電解質表面。
【図3】本発明の高性能固体酸化物燃料電池接合体(電池セル)を用いた固体酸化物燃料電池の電気性能試験結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板型固体酸化物形燃料電池膜電極接合体を製造する方法であって、
(a) テープキャスティング法によってSOFCの電極及び電解質のグリーンテープをそれぞれ作製し、
(b) 電極グリーンテープ上に電解質グリーンテープを重ねて、真空雰囲気中で加圧するラミネート処理によってSOFCのグリーンテープの半電池を作成し、
(c)上記bで形成した半電池グリーンテープを温度昇降速度0.1〜3℃/min 、1200〜1600oCで3〜6時間の仮焼を行う高温焼結によって半電池基板(HC-fd)とし、
(d)上記HC-fdの電解質層上にシルクスクリーン印刷法によって上記電極に対する電極層を形成し、1200°Cで約3時間、焼結の温度昇降速度3℃/minの焼結工程を経て電池セルを完成する、
(a)〜(d)の各工程からなることを特徴とする高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項2】
上記電解質の材料としてYSZ、GDC、LSGM、SDC、又はYDCの内のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項3】
前記(a)工程のSOFCの電極としての陽極材料は、YSZ+NiO、GDC+NiO、LSGM+NiO、SDC+NiO、又はYDC+NiOから選択した1種であり、電解質材料はYSZ、GDC、LSGM、SDC、又はYDCから選択して1種であることを特徴とする、請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料形電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項4】
前記の(a)の工程において、SOFCの電極グリーンテープとしての陽極中の触媒作用をするNiOと電解質との重量百分率は30〜60 wt%であることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項5】
前記の(a)の工程において、SOFCの電極グリーンテープとしての陽極中の触媒作用物質がNiOであることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項6】
前記の(b)において、電極グリーンテープ上に電解質薄膜グリーンテープを積層又は電解質グリーンテープ上に電極薄膜グリーンテープ層を積層することを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項7】
前記の(b)において、電極層にSOFC電解質層を形成するラミネート処理の条件は、加圧力が13.7〜147.5MPa(2,000〜21,500psi)、温度が50〜100°C、真空度1.3×10―4Pa(1〜10-6torrs)であることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項8】
前記の(c)において、半電池の焼結条件は1500°C、5時間とすることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項9】
前記の(d)において、HC-fdの電解質層上に陰極層を形成する薄膜製作工程としてシルクスクリーン印刷法、スパッタリングコーティング法、プラズマ・スプレーコーティング法、又はスピンコーティング法によることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項10】
前記の(d)において、焼結温度昇降速度は3oC/min、焼結条件は1200°Cで3時間であることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項11】
前記の(d)において、HC-fdの電解質層上にシルクスクリーン印刷法によって形成する陰極層の材料は、LSM、又はLSCFであることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項12】
前記の(d)において、HC-fdの電解質層上にシルクスクリーン印刷法によって形成する陰極層の厚さは30〜50μmであることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。
【請求項13】
前記の(c)において、走査型電子顕微鏡(SEM)により半電池のマイクロ構造を検定して電解質層の緻密性を判定し、または気体透過率測定器によって気体透過率が1×10-6 L/cm2/sec以下であることを判断して、次の工程に進めることを特徴とする請求項1記載の高性能固体酸化物形燃料電池膜電極接合体(SOFC-MEA)に積層する完全緻密な電解質層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−218126(P2009−218126A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−61916(P2008−61916)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(599171866)行政院原子能委員會核能研究所 (37)
【Fターム(参考)】