説明

高性能熱電材料インジウム−コバルト−アンチモンの製造方法

本発明は、1.0を超える性能指数ZTの化学式InCoSb12(0<x<1)の熱電組成物の調製方法およびその方法により製造された組成物に関する。本方法は、a)インジウムと、コバルトとアンチモンとの粉末を混合して、0.006〜0.030原子パーセントのインジウム、0.242〜0.248原子パーセントのコバルトおよび0.727〜0.745原子パーセントのアンチモンの粉末の混合物を形成する工程と、b)前記粉末の混合物を含有する炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、c)炉を約1〜5C/分で、室温から590℃〜620℃まで加熱し、炉を590℃〜620℃で10〜14時間保持する工程と、d)炉を約1〜5C/分で、665℃〜685℃に更に加熱し、炉を665℃〜685℃で30〜40時間保持して第1の固体を形成する工程と、e)第1の固体を粉砕して第2の粉末を形成する工程と、f)第2の粉末を第2の固体へプレスする工程と、g)第2の固体を含有する炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、h)炉を約1〜5C/分で、室温から665℃〜685℃まで加熱し、炉を665℃〜685℃で1〜8時間保持する工程とを含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、0.2を超える性能指数(figure of merit)の化学式InCoSb12(0<x<1)の熱電組成物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電材料は、冷却装置、加熱装置および発電装置のような品目の製造に用いられている。これらの熱電材料は、大きなゼーベック係数を有していて、後述するように、高導電率だが低熱伝導率を有しているのが望ましい。熱電変換材料の性能は、「性能指数(ZT)」で表される。現在最良の熱電材料のZTは約1.0である。
【0003】
アカイら、(非特許文献1)には、固相反応の後ホットプレスにより製造されるインジウムドープコバルトアンチモニドについて記載されている。
【0004】
これに対し、本発明の方法は、1〜15%の水素および85〜99%のアルゴン混合粉末を焼成し炉を冷却するものである。か焼した粉末を再粉砕して、ディスクへとプレスし、675℃で4時間同じ水素/アルゴン混合物中で焼成する。この手順の結果、1.0を超えるZTの材料が得られる。
【0005】
【非特許文献1】第17回熱電国際会議議事録(Proceedings of the 17th International Conference on Thermoelectrics)1998年、105〜108
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
a)インジウムと、コバルトとアンチモンとの粉末を混合して、0.006〜0.030原子パーセントのインジウム、0.242〜0.248原子パーセントのコバルトおよび0.727〜0.745原子パーセントのアンチモンの粉末の混合物を形成する工程と、
b)前記粉末の混合物を含有する炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、
c)炉を約1〜5C/分で、室温から590℃〜620℃まで加熱し、炉を590℃〜620℃で10〜14時間保持する工程と、
d)炉を約1〜5C/分で、665℃〜685℃に更に加熱し、炉を665℃〜685℃で30〜40時間保持して第1の固体を形成する工程と、
e)第1の固体を粉砕して第2の粉末を形成する工程と、
f)第2の粉末を第2の固体へプレスする工程と、
g)第2の固体を含有する炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、
h)炉を約1〜5C/分で、室温から665℃〜685℃まで加熱し、炉を665℃〜685℃で1〜8時間保持する工程とを含んでなる方法である。
【0007】
本発明はまた、上述した方法により製造された組成物でもある。
【0008】
本発明は更に、0.7を超える性能指数ZTの組成物である。
【0009】
本発明は、更に、上述した組成物を含んでなる冷却装置、加熱装置または発電装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、化学式InCoSb12(0<x<1)の金属間熱電組成物の調製方法を提供する。これらの化合物は、300K〜600Kの温度範囲で、CoSbより低電気抵抗、低熱伝導率および高ゼーベック係数を有している。この結果、600Kで性能指数が0.2(x=0)から1.2(x=0.2)に改善される。
【0011】
熱電は、熱電変換装置、すなわち、ゼーベック効果による電力およびペルチェ効果による冷却の生成に関連する科学技術である。熱電変換材料の性能は、式ZT=σST/κ(式中、σ、S、κおよびTは、それぞれ導電率、ゼーベック係数、熱伝導率および絶対温度である)で表されるZT(性能指数)で評価される。大きなゼーベック係数、高導電率であるが低熱伝導率である材料が必要とされる。
【0012】
BiTeの合金のような現在最良の熱電材料のZTは1に近い。それは、コンプレッサベースの冷却装置に比べると、約10%という乏しいカルノー効率で操作される。ガラスのように熱の伝導は乏しいが、ケイ素のように電子(または正孔)を比較的良好に伝導する半導体構造において、熱伝導率を減少することによって熱電効率を大幅に改善することができる。熱導電率の減少は、原子の1つもしくはそれ以上が、サイズの大きな「原子ケージ」に弱く結合した3元系または4元系半導体を作成することによって行うことができる。ケージ原子の「ガタツキ」が、熱伝達フォノンを効率的に散乱し、熱伝導率に寄与する格子を大幅に減じ、同時に、骨格原子が良好な導電性を維持する。かかる構造としては、発電用途について最も見込みのある新規な熱電材料の一つして現れたスクッテルダイトが一例として挙げられる。
【0013】
本発明の組成物は、以下の手順により合成することができる。Co、SbおよびInの高純度粉末を化学量論比で完全に混合する。出発材料の混合した粉末を、アルミニウムるつぼに入れ、これをアルミナボートに入れる。純粋Sb材料を含有する他のるつぼもまたボートに入れてSbの蒸発を補う。Sb含有るつぼをガス入口に向かうようにして、ボートを石英反応器に挿入する。粉末を約610℃で12時間、5%Hと95%Arのガス混合物下で675℃で36時間か焼する。か焼粉末を再粉砕し、直径12.8mm/厚さ1〜2mmのディスクにプレスする。ディスクを同じガス混合物下で675℃で4時間焼結する。か焼および焼結工程の両方において、室温からか焼または焼結温度までの加熱速度は約240℃/時である。所望の反応時間後、試料を室温まで炉で冷却する。粉末X線回折データによれば、本発明のInCoSb12(0<x<1)相は全て、立方Im−3構造で結晶化されるということが示された。
【0014】
電気抵抗は、以下の製造手順に従って、カリフォルニア州マウンテンビューのMMRテクノロジーズ(MMR Technologies of Mountainview,CA)より市販されているファンデアポウ(Van Der Pauw)技術により300K〜600Kで測定する。銀塗料を用いて鉛をペレットに取り付けた。同じ温度範囲でゼーベック係数を測定する。ペレットを銀電極間に配置して、互いに電気的に分離する。1つの電極を抵抗発熱体により加熱して、各温度設定点で5〜10度ケルビン変化する熱勾配を試料に発現させる。試験アセンブリをAr下で温度制御されたオーブンに配置する。オハイオ州クリーブランドのケスレーインスツルメンツ(Keithley Instruments,Cleveland,OH)製ケスレー(Keithley)181ナノボルトメーターで、生じた電圧を測定する。測定されたゼーベック係数はn−型伝導を示す負である。1mmまたは2mm金スパッタグラファイトコートパイレックス(Pyrex)ガラスの参照材料により、ネッチュレーザーマイクロフラッシュ(Netzsch Laser Microflash)で熱伝導率を求めた。この計器は、マサチューセッツ州バーリントンのネッチュインスツルメンツ社(Netzsch Instruments Inc.,Burlington,MA)製である。
【0015】
n−型InCoSb12(0<x<1)のような熱電材料を用いると、CeFeCoSb12またはLaFeCoSb12のようなp−型熱電材料と組み合わせて熱電冷却装置、加熱装置または発電装置を製造することができる。熱電冷却装置において、熱電材料は、一般的に、セラミックスのような材料の2枚のプレート間に装着される。1枚のプレートは冷却される領域に位置している。もう一方のプレートは、熱を拒絶する場所に位置している。適切な極性の電流が、熱電材料を通過して、所望の位置を冷却する。電流の極性を逆にすると、前に冷却されたプレートが加熱され、熱を拒絶するプレートが冷却される。発電装置のような熱電装置を用いるために、熱電材料を2枚のプレート間に再び装着する。1枚のプレートは高温源に露出し、第2のプレートは低温に維持する。電力は、温度勾配のある熱電材料の側部を通した電気接触から得られる。
【実施例】
【0016】
実施例1〜7
実施例1〜7のInCoSb12の組成物を以下の手順を用いて作成した。各実施例について、適切な量の出発金属In、CoおよびSbを化学量論比に従って秤量し、めのう乳ばちで完全に混合した。出発材料の2グラムの試料サイズについてのグラム量を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
各実施例において、混合した粉末を約610℃で12時間、5%Hと95%Arのガス混合物下で675℃で36時間か焼し、炉を室温まで冷却した。か焼した粉末を再粉砕し、直径12.8mm/厚さ1〜2mmのディスクにプレスした。ディスクを同じガス混合物下で675℃で4時間焼結し、熱伝導率測定に用いた。約1.5×1.5×7mmのサイズのバーを低効率およびゼーベック係数測定のために切断した。
【0019】
X線粉末回折パターンを記録したところ、データによれば全ての試料が立方Im−3構造で結晶化されたことを示した。300〜600Kの温度範囲で測定されたゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率を、図1、2および3にそれぞれ示す。計算されたZT値を図4に示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】様々なインジウム濃度レベルについて300〜600Kの温度範囲で測定されたゼーベック係数を示す。
【図2】様々なインジウム濃度レベルについて300〜600Kの温度範囲で測定された電気抵抗を示す。
【図3】様々なインジウム濃度レベルについて300〜600Kの温度範囲で測定された熱伝導率を示す。
【図4】様々なインジウム濃度レベルについて300〜600Kの温度範囲で計算された性能指数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)インジウムと、コバルトとアンチモンとの粉末を混合して、0.006〜0.030原子パーセントのインジウム、0.242〜0.248原子パーセントのコバルトおよび0.727〜0.745原子パーセントのアンチモンの粉末の混合物を形成する工程と、
b)前記粉末の混合物を含有する炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、
c)前記炉を約1〜5C/分で、室温から590℃〜620℃まで加熱し、前記炉を590℃〜620℃で10〜14時間保持する工程と、
d)前記炉を約1〜5C/分で、665℃〜685℃に更に加熱し、前記炉を665℃〜685℃で30〜40時間保持して第1の固体を形成する工程と、
e)前記第1の固体を粉砕して第2の粉末を形成する工程と、
f)前記第2の粉末を第2の固体へプレスする工程と、
g)前記第2の固体を含有する前記炉を通して1〜15原子パーセントの水素および85〜99原子パーセントのアルゴンを含んでなるガス組成物を流す工程と、
h)前記炉を約1〜5C/分で、室温から665℃〜685℃まで加熱し、前記炉を665℃〜685℃で1〜8時間保持する工程と
を含んでなる方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により製造されたInCoSb12(0<x<1)を含んでなる組成物。
【請求項3】
0.7を超える性能指数ZTのInCoSb12(0<x<1)を含んでなる組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の組成物から製造された成分を含んでなる熱電冷却装置。
【請求項5】
請求項2または3に記載の組成物から製造された成分を含んでなる熱電発電装置。
【請求項6】
請求項2または3に記載の組成物から製造された成分を含んでなる熱電加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−523998(P2007−523998A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544084(P2006−544084)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/041710
【国際公開番号】WO2005/057673
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】