説明

高指向性センサおよびその製造方法

【課題】本発明の目的は、対象物に対して指向性が高く、かつ安定した状態でセンシングすることができると共に、近接と接触を一つのセンサでセンシングすることができる高指向性センサおよびその製造方法を提供することである。
【解決手段】マトリクス内に、コイル状炭素繊維が固定されているとともに、該コイル状炭素繊維の螺旋構造に基づくインダクタンス(L)成分並びにキャパシタンス(C)成分及びレジスタンス(R)成分を有しLCR共振回路として作用するセンサ素子と、前記マトリクスに電気的に接続されている一対の電極とを備え、前記コイル状炭素繊維は、コイル径が20nm〜100μmであるとともにコイル長さが10nm〜50mmであり、マトリクス全体の0.1〜50.0重量%の割合で含有し、かつ配向して固定されていることを特徴とする高指向性センサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近接・接触情報を高精度に検出することが可能なセンサに係り、例えば、人型ロボットや義手・義足の代替皮膚、医療用診断装置の触診や接触・衝突事故防止、乗用・エレベータ用ドアや回転ドアの安全センサ、各種工業の表面性状検査用センサなどに利用可能で、しかも構造が簡単な新規触覚センサに関する。更に詳しくは、コイル状炭素繊維が規則正しく配向されているとともに、高指向性を有するセンサおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人の指は、対象物の形状、温度、表面状態などを認識するための感覚器であり、接触によって様々な情報を収集する。この人間の皮膚感覚は、裸眼では捉えることのできない表面粗さ、柔軟性、質感などを高感度で知覚し、視覚による情報に加えて対象物を認識する際に、重要な情報源としているのである。その皮膚感覚の構造は、表面より、表皮、真皮、皮下脂肪から成り、真皮乳頭の先端にマイスナー小体が、真皮乳頭の付け根にメルケル盤が,真皮内部にルフィニ終末が、皮下脂肪内部にパチニ小体がそれぞれ配置され、種々の外部刺激を感受・識別している。中でも機械的な変形・触圧を検出する機械触覚受容器として重要なのはマイスナー小体で、らせん状軸索構造を有している。
【0003】
これはコイル状炭素繊維(カーボンマイクロコイル)の構造と類似している。本発明者らは、前記皮膚の高度な構造に習って、弾力性樹脂中にコイル状炭素繊維を添加・複合化した高感度触覚センサについて既に提案している(特許文献1)。現在、種々のタイプのセンサが実用化されているが、近接と接触の両方を同時にセンシングするものは殆どなく、コイル状炭素繊維のこの特異的構造を利用した前記センサが、この分野における先駆的存在なのである。
【0004】
既存のセンサとして、例えば圧力(接触)センサは、シリコン半導体でできた受圧部にピエゾ抵抗体が形成され圧力の大きさによって変わる歪抵抗変化を検出する半導体ダイヤフラム型、ダイヤフラムを1つの電極として上下の電極間の容量変化を検出する静電容量型、圧電効果により発生する電圧を検出するもので直接圧力を電圧に変換する圧電型、振動の共振周波数が圧力による歪によって変化することを利用した振動型、円弧状に湾曲したブルドン管が内部の圧力に応じて変形することを利用した純粋に機械的な構造であるブルドン管型などがある。また、近接センサとしては、外部磁界の影響により導体表面に発生する渦電流による磁気損失を検出する誘導型、検出体とセンサの間に生じる静電容量の変化を検出する静電容量型、磁石でスイッチのリード片を動作させる磁気型などがある。しかし、前記の通りいずれも、近接・接触の両方を同時にセンシングするものではない。
【0005】
先に本発明者らの提案したセンサは、コイル状炭素繊維を樹脂中に均一に分散複合化させただけの簡単な構造であり、線状や面状の構造をしているので、医療用診断装置やドアなどの全面センシングが可能で、死角がなく、高感度で、センシング範囲が広いという特徴がある。
【0006】
しかし一方で、医療用診断装置の触診や接触・衝突防止、ドアの挟みこみ防止に使用する際には、単に横方向から接近しただけでセンシングすると、装置やドアの円滑な運用に支障をきたすおそれもあり、センシング角度を小さくして指向性を高めたセンサも必要とされる場面がある。
【特許文献1】特許第4023619号
【特許文献2】特開2007−201641号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、既存の近接・接触センサの指向性を高めることは原理的にも極めて困難である。例えば、半導体ダイヤフラム型の場合、一方向のみの触圧を感知するようにするとセンシング面積を小さくせざるを得ないので必然的に感度が低下してしまう。従って、指向性を高めた場合、ドアー全面にセンシング機能を付与するには多数のセンサを装着しなければならないという問題点が発生する。さらに、制御しようとする医療用診断装置などの動作を停止し、あるいは駆動させるためには、作動時間が必要であるが、既存の近接センサは、一般に10mm以下に接近しないと近接信号を検出しないので、この作動時間を充分に取るためにはセンシング可能な距離を大きくできるものが必要である。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するために成されたもので、その目的とするところは、対象物に対して指向性が高く、かつ安定した状態でセンシングすることができると共に、近接と接触を一つのセンサでセンシングすることができる高指向性センサおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の高指向性センサは、マトリクス内に、コイル状炭素繊維が固定されているとともに、該コイル状炭素繊維の螺旋構造に基づくインダクタンス(L)成分並びにキャパシタンス(C)成分及びレジスタンス(R)成分を有しLCR共振回路として作用するセンサ素子と、前記マトリクスに電気的に接続されている一対の電極とを備え、前記コイル状炭素繊維は、コイル径が20nm〜100μmであるとともにコイル長さが10nm〜50mmであり、マトリクス全体の0.1〜50.0重量%の割合で含有し、かつ配向して固定されていることを特徴とするものである。
【0010】
また、対象物が接近・接触するセンシング面に対して、前記コイル状炭素繊維の螺旋軸が垂直方向に向いていることも特徴の一つである。つまり対象物に対して、このコイル状炭素繊維が垂直に配向されているということである。このような配置にすることにより接触後の圧力を最も感度良く検出できることは無論のこと、コイル状炭素繊維の螺旋構造に基づくインダクタンス成分に対して、対象物(例えば人体)から出ている赤外線の波長(3〜50μ)と共鳴し易くなり、検出感度を向上させることができるからである。
【0011】
さらに、センサに電気的接続を持つ一対の電極のうち、少なくとも一方が、前記センサのコイル状炭素繊維の螺旋軸に対して並行の位置に接続されていることを特徴とする。つまり、電極はセンシング面に対して垂直に接続されていることが好ましいのである。先に本発明者らが提案したコイル状炭素繊維を添加した触覚センサは、該コイル状炭素繊維が特定の方向に配向されていないため、電極の位置がどこであっても大差ないものであるが、配向することによってLCR共振回路の形成に相応しい位置に電極を接続することが望まれるからである。
【0012】
また、本発明の好ましい態様として、センシング面の中心部にコイル状炭素繊維が高濃度で固定されていることを特徴とする。高指向性センサとしての特徴をより顕著に表すことができるからである。
【0013】
前記センサを製造する方法としては、コイル状炭素繊維の表面に強磁性体膜をコーティングする工程、前記コイル状炭素繊維をマトリクス前駆体中に添加し、混合する工程、前記混合物を鋳型内に充填して、該型の上下に強力磁石をセットしたのち、混合物を固化させる工程、固化させたマトリクスに一対の電極を接続する工程、からなる製造方法がある。強磁性体のコーティングによってコイル状炭素繊維が、磁場内で整列され、その状態でマトリクスを固化させて固定し、コイル状炭素繊維が配向されたセンサを得ることができるのである。
【0014】
前記センサの他の製造方法としては、コイル状炭素繊維を合成樹脂またはゴムに分散させる工程、前記コイル状炭素繊維を含む合成樹脂またはゴムを延伸する工程、前記延伸させた合成樹脂またはゴムを100〜500μmの長さに切断する工程、静電植毛法により前記切断物を基材上に垂直に配向させる工程、配向された切断物の周りにマトリクス前駆体を充填してこれを固化し、マトリクス内に固定する工程、マトリクスに一対の電極を接続する工程、からなる製造方法がある。コイル状炭素繊維を含む合成樹脂またはゴムを延伸することによって延伸方向にコイル状炭素繊維が配向したものが得られることを利用したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の高指向性センサは、コイル状炭素繊維をマトリクス中に0.1〜50.0重量%を配向して固定し、電極を接続しただけの極めて簡単な構造であるので、工業的にも生産性の高いものが提供される。またコイル状炭素繊維がセンシング面に対して垂直に配向されているから、触圧に敏感に反応することができ、共振特性も顕著となる。さらに電極の配置を螺旋軸に対して並列に接続することで高感度のLCR共振回路が形成される。なお、コイル状炭素繊維をセンシング面の中央部に集中させることで指向性をより高めることができる。
【0016】
コイル状炭素繊維の添加量、形状、コイル径、コイル長さ、マトリクス樹脂の種類、センサの厚みなどを制御することにより、種々のセンシング特性のものが得られる。またこのセンサは、接近センシング機能と接触センシング機能の両方を兼ね備えており、前記の各種パラメータを制御することにより、接近・接触センシングのいずれか一方を他方より高機能化したセンサや、感度を制御したり、検出範囲を大きくすることもできる。
【0017】
コイル状炭素繊維を固定するマトリクスは軟質樹脂から硬質樹脂まで幅広く選択することができるので、成形性、加工性に優れ、用途に応じて微小化、薄膜化、大容量化、線状化、多角形化、円・球径化などが可能であり、表面に凹凸を設けたり、縞状に模様を形成することによりデザイン性の高いセンサを提供することもできるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明について添付図面に基づいて具体的に説明する。
図1に示すように本発明の一実施形態のセンサ10は、平板状のマトリクス内に複数のコイル状炭素繊維11が、整然と配列され、両端には銅等の金属材料により側面の枠体を形成するように一対の電極12が接続されている。コイル状炭素繊維は、その螺旋軸がセンシング面に対して垂直に、かつ互いに等間隔に配置されている。配置の態様は必ずしもこのような整然と配置されるものだけでなく、粗密がランダムに分散しているものであってもよいが、基本的に各コイル状炭素繊維の螺旋軸はセンシング面に対して垂直に向けられていることが望ましい。
【0019】
コイル状炭素繊維は、どのような製法で製造されたものであってもよいが、例えば触媒活性化CVD(化学気相成長)法等により得られる。この気相成長法は、Ni粉末触媒を塗布したグラファイト基板上に、チオフェン又は硫化水素を不純物として含有するアセチレン、水素ガス、アルゴンを流入させ、600〜3000℃に加熱して、気相中でアセチレンを分解してコイル状炭素繊維を得る方法である。この方法により得られるコイル状炭素繊維は非晶質であり、その大半が繊維の中心部分まで微細な炭素粒が詰まった状態で形成されている。また、一部には中空状に形成されたものも観察される。
【0020】
前記方法により得られるコイル状炭素繊維は、コイルの直径が20nm〜100μmであり、コイルの長さは10nm〜50mmである。コイルの直径が20nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、100μmを超えるとコイル状炭素繊維により構成されているセンサ素子が大きくなるために、センサとしたときの小型化にとって好ましくない。またコイル長さが10nm未満であるとインダクタンス成分としての機能を充分に発揮し難くなる。一方、コイル長さは50mmを超えて形成しても良く、センサの厚みに合わせて適当な長さに裁断すればよい。さらに、炭素繊維の繊維の直径は好ましくは1nm〜10μmである。繊維の直径が1nm未満では、コイル状炭素繊維の製造が困難であり、10μmを超えると、コイルの直径を前記範囲に設定することが困難になるからである。なお繊維は断面が真円のものに限らず、楕円形、矩形、不定形になっていてもよい。また、マトリクス内に配列されているコイル状炭素繊維は、コイルの直径がそれぞれ異なるものであっても良いし、同じものであってもよい。
【0021】
このコイル状炭素繊維は、1本の炭素繊維で螺旋構造を形成するものや、2本の炭素繊維で二重螺旋構造を形成するものが知られており、さらに炭素繊維の巻き方向には、螺旋軸を中心として右巻きと左巻きがあるため、合計4種類の形態のいずれかの形態を有している。本発明では一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
また、さらに加熱処理を施すことにより、非晶質のコイル状炭素繊維をグラファイト化(六方晶系)することができる。加熱条件としては、ヘリウム又はアルゴンなどの不活性雰囲気下で、処理温度を700〜3000℃、好ましくは1500〜3000℃、最も好ましくは2000〜3000℃である。また処理時間は、0.1〜100時間、好ましくは1〜20時間、最も好ましくは3〜10時間である。このような処理を経ることにより、グラファイト層において炭素繊維を構成する炭素粒が規則正しく配列されることにより磁場の変動などを検知する際に生じる電気抵抗の変動が著しくなるために、共振特性が顕著となる。すなわちLCR共振回路におけるR成分などの変動が顕著となるので、センサの検出感度を向上させることができる。
【0023】
なお、前記方法以外にもコイル状炭素繊維の製造方法としては、遷移金属触媒を設けた基板上に5b族化合物または6b族化合物よりなる不純物ガスと炭素原料ガスを600〜900℃の温度下において反応領域に静磁場を与えながら熱分解させて製造する方法(特開平11−124740号公報)や、鎖状飽和炭化水素などを原料として400〜900℃の温度範囲で、0.3〜60.0MPaの絶対圧力範囲で、触媒として遷移金属と酸化物半導体を共存させて製造する方法(特開2004−352592号公報)、インジウム・スズ・鉄系触媒を用いることを特徴とする方法(特開2004−261630号公報)などがあり、これらの製造方法により得られるコイル状炭素繊維を用いることも勿論可能である。
【0024】
こうして得られたコイル状炭素繊維は、図2に示すようにマトリクス内でインダクタンス(L)成分、キャパシタンス(C)成分、レジスタンス(R)成分を有するLCR共振回路として作用するセンサ素子を形成する。そして、コイルは磁力線の変化を受けて、ファラデーの法則によりコイルの両端に電圧を生じさせる。この誘導起電力によりコイル状炭素繊維に誘導電流が流れ、磁力線は電気エネルギーに変換される。コイル状炭素繊維は電磁波と強い相互作用を示すので、これがLCR共振回路に強い影響を及ぼし、種々の検出が可能となるのである。また、一つの回路に生じる誘導起電力の大きさはその回路を貫く磁界の変化の割合に比例するので、検出される対象物がどのようなものであるかを特定することもできるのである。
【0025】
一方、センサに圧力(すなわち接触圧など)が加えられたときにはコイル状炭素繊維の伸縮に伴って内部ひずみ量が変化し、単位長さあたりのコイルの巻き数も変化して交番電磁界が変調され、コイル内を流れる電流値も変化し、LCRパラメータが変化する。すなわちLC成分は増加し、R成分は減少する。したがって、センサに刺激が加えられた場合に、図2に示すLCR回路間で複合共振的共鳴が起こると考えられる。この電気的LCR複合共振は、機械的に微小バネで結ばれたバネ質点系の振動で置き換えて考えることができる。共振あるいは振動モードは、加えられた刺激の種類により変化するので、刺激の種類の識別が可能である。
【0026】
さらに、マトリクスが誘電体により形成されてキャパシタンス(C)成分を有するものであるときには、各センサ素子の相互間に存在するマトリクスはコンデンサとして作用する。そして、マトリクス内に配置されたセンサ素子の相互間に存在するマトリクスを介して互いに接続されることにより、複合共振回路である電気的等価回路として構成され、センサ素子全部をまとめて一つのLCR共振回路として作用することができる。
【0027】
マトリクスは、配列されている各センサ素子同士を物理的に保持・固定するとともに、各センサ素子同士ならびに電極およびセンサ素子を電気的に接続するということができる。マトリクスはセンサ素子を構成するコイル状炭素繊維よりも導電性が低く、材質の具体例としてはシリコーン樹脂等の合成樹脂材料、フェライト等の非導電性磁性材料、シリカ等のセラミックス材料、天然ゴム等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上が組み合わされてマトリクスを構成してもよい。これらのうち、接近・接触センシングの観点から弾性体であるシリコーン樹脂が好ましい。シリコーン樹脂は前記のようにコンデンサとして作用することにより、コンデンサの静電容量を増大させることができ、LCR共振回路の静電容量の調整の幅を大きくすることができるからでもある。
【0028】
図3には、センサ全体の構成が概略で示してある。各電極はマトリクス13に電気的に接続されるとともに導線17の一端がそれぞれ接続され、各導線の他端には増幅回路14を介して電源15及びオシロスコープ等の測定器16が取り付けられている。電源から電流が増幅回路、導線および電極を介してマトリクス内に通電され、マトリクス内での電圧等の変動が増幅回路により増幅されるとともに測定器により検知されるようになっている。
【0029】
例えば、電源は、増幅回路、導線および電極を介してマトリクスに常時一定の電流を通電させる。電源電流は直流でも交流でもよく、交流電流のときには周波数は例えば100Hz〜30MHzであり波形は時に限定されない。増幅回路はマトリクスでの電圧の変動等を測定器によって検知することができる強度にまで増幅させる。この増幅回路は例えば1μV程度の微小電圧変動を検知することができ、外部から受ける電気ノイズの影響を低減させることができるとともに増幅回路自身が発生する電気ノイズが小さいものが好ましい。微弱な触圧による電圧変動等を外部からの電気ノイズ等に影響されることなく検知し増幅させることができるからである。
【0030】
ところで、コイル状炭素繊維は、その外周面に導電性の物質よりなるコーティング層が形成されていることが好ましい。この場合、コイル状炭素繊維の導電性を向上させることができるからである。コイル状炭素繊維は、マトリクス内で均一に配置されるだけであり、各コイル状炭素繊維の一本一本を導線によって接続する訳ではない。従って、マトリクス内に電極を通して電流を流す際のマトリクス全体の抵抗を下げることができるからである。導電性の物質の具体例としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マンガン等の金属又はそれらの化合物や合金等が挙げられる。これらは単独で、または二種以上を組み合わせてコーティング層を形成することもできる。
【0031】
以下に、本発明のセンサを製造する方法のうち、コイル状炭素繊維の表面に強磁性体膜をコーティングする工程、前記コイル状炭素繊維をマトリクス前駆体中に添加し、混合する工程、前記混合物を鋳型内に充填して、該型の上下に強力磁石をセットしたのち、混合物を固化させる工程、固化させたマトリクスに一対の電極を接続する工程、からなる製造方法について説明する。この製造方法は簡単に言えば、強磁性体のコーティングによってコイル状炭素繊維が、磁場内で整列され、その状態でマトリクスを固化させて固定し、コイル状炭素繊維が配向されたセンサを得るというものである。この方法を採用する場合には、前記コーティング層の成分として強磁性体となる成分が選択される。具体的には、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、マンガン、及び希土類元素など、及びそれらの化合物として、フェライト、マンガン−フェライト化合物、バリウム−フェライト化合物など、またはそれらの合金として、ニッケル−ホウ素合金、ニッケル−リン合金、コバルト−ホウ素合金、コバルト−リン合金などが挙げられる。なお、希土類元素としては、ネオジウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウムなどが挙げられる。これらは単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0032】
上述のコーティング層の形成については、コイル状炭素繊維に対して、1〜50重量%に設定されるのが好ましく、層厚は0.01〜5μm、より好ましくは0.1〜200nmである。前記範囲未満では、コーティング層の形成の目的(導電性の向上、強磁性体としての機能付与)が充分に達成できず、前記範囲を超える場合には、コーティング層の形成に時間を費やしセンサの製造効率の低下やコストアップに繋がるおそれがある。
【0033】
前記コーティング層の形成方法としては、無電解メッキ法、電解メッキ法、真空蒸着法やスパッタリング法等の物理的蒸着法、化学的蒸着法、溶射法、塗装法、浸漬法、微細粒子を機械的に固着させるメカノケミカル法から選択される一つの方法により形成される。コーティング層をコイル状炭素繊維の外周面に均一に形成させるために無電解メッキ法を採用するのが好ましい。
【0034】
ここでは無電解メッキ法によりコーティング層を形成する方法について説明する。まず、コイル状炭素繊維をトリクロロエチレンで洗浄した後、それを塩化第1スズの塩酸水溶液に所定時間浸漬し、さらにそれを蒸留水で洗浄する。次いで、洗浄後のコイル状炭素繊維を塩化パラジウム−塩酸水溶液に投入し、コイル状炭素繊維の外周面を活性化させた後、蒸留水で洗浄する。次に、外周面が活性化されたコイル状炭素繊維を所定濃度のメッキ液に投入し、攪拌しながら所定温度まで加熱する。その結果、コイル状炭素繊維の外周面にコーティング層が形成される。
【0035】
こうして強磁性体膜をコーティングしたコイル状炭素繊維をマトリクス前駆体に添加する。マトリクス前駆体とは、コイル状炭素繊維を混合する際には、液状(低粘度が好ましい)であって、均一に混合後、適当な鋳型に充填して室温または加熱等により固化し、コイル状炭素繊維を機械的に固定するものであり、例えば、1液型または2液型のシリコーンゴムを用いることができる。1液型の室温硬化型シリコーンゴムとしては、例えば、反応性ポリシロキサン、シリカ等の充填剤、加水分解可能な基(アセトキシ基、アルコキシ基、ケトキシム基等)を有する多官能シラン化合物等の架橋剤、硬化触媒、その他添加剤等からなるもので、空気中の湿気で硬化反応が起こるタイプを使用することができる。一方、2液型の室温硬化型シリコーンゴムとしては、例えば、末端に官能基をもったポリジオルガノシロキサン(ベースポリマー)と3官能以上のシラン又はシロキサン等の架橋剤からなる主剤と硬化触媒等からなる硬化剤を使用前に一定の割合で混合して使用するタイプを用いることができる。より具体的には、信越シリコーン製の2液型RTV(Room Temperature Vulcanizing)ゴム、商品名:KE103が好適である。
【0036】
マトリクス前駆体に配合するコイル状炭素繊維の量は、0.1〜50.0重量%であり、近接センシングを高感度で行うためには0.1〜50重量%、好ましくは1.0〜5.0重量%であり、接触センシングを高感度で得るためには、1.0〜20.0重量%、好ましくは2.0〜10重量%の範囲である。コイル状炭素繊維の含有量が0.1重量%未満では、含有量が少なすぎてセンサとしての感度が低下するおそれがあり、50.0重量%を超えると、粘度が増加して成形性が悪くなり、また成形品が硬くなる結果、感度は増加せず添加するだけコイル状炭素繊維の浪費となるからである。
【0037】
マトリクス前駆体とコイル状炭素繊維を所望の割合で均一に混合したのち、前記混合物を所望の鋳型内に充填して、該型の上下に強力磁石をセットしたのち、混合物を固化させる。混合時にはコイル状炭素繊維がランダムな方向を向いているが、外部磁場の作用によりこれを一定方向に配向させることができるのである。
【0038】
ここで本発明のセンサの指向性発現のメカニズムについて説明する。コイル状炭素繊維は、基本的に非晶質であるが、触媒表面から析出した超微炭素粒層は繊維軸に対して30−40°傾いた“へリングボーン”構造をしている。このas-grown コイル状炭素繊維を2500〜3000℃で熱処理すると、この非晶質層はグラファイト構造として発達する(前述の通り)。このグラファイト層は、螺旋軸方向を向いている。コイル状炭素繊維がセンサ素子としてマトリクス内における電界の印加により、周囲の空間に空間電界を形成する。またコイル端面からは螺旋軸方向に微弱な磁界が発生している。コイル状炭素繊維のグラファイト層には、センサ素子に印加された電界により多量の電子がチャージされ、その開放方向は螺旋軸を向いており、コイル側面方向には非常に少ない(K. Yamamoto, T. Hirayama, M. Michiko, S. Yang and S. Motojima, Ultraspectroscopy, 106(4-5), 314-319(2006). )。従って、コイル状炭素繊維をセンシング面に垂直に配向させると、空間電界はセンシング面方向に選択的に発生し、センシング面に対して水平方向にはごくわずかしか発生しない。すなわち空間電界の指向性が得られる。近接センサ信号は、導電体がセンサに近づいた際の空間電界の変化(特にキャパシタンス成分)として捕らえられる。従って、コイル状炭素繊維をセンシング面に垂直に配向させることにより、近接信号の指向性が強められることになる。
【0039】
こうしてコイル状炭素繊維を配向させて固定したマトリクスを、鋳型内より取り出して、図1に示すようにコイル状炭素繊維が配向している螺旋軸に対して並列に電極を取り付けセンサを製造する。このとき電極の取り付け位置が螺旋軸に対して並列であれば、センサとして有効な面積を最大限に確保することができるのである。
【0040】
次に、本発明の高指向性センサの別の製造方法について説明する。
具体的には、コイル状炭素繊維を合成樹脂またはゴムに分散させる工程、前記コイル状炭素繊維を含む合成樹脂またはゴムを延伸する工程、前記延伸させた合成樹脂またはゴムを100〜500μの長さに切断する工程、静電植毛法により前記切断物を基材上に垂直に配向させる工程、配向された切断物の周りにマトリクス前駆体を充填してこれを固化し、マトリクス内に固定する工程、マトリクスに一対の電極を接続する工程、からなる製造方法である。
【0041】
コイル状炭素繊維の製造方法については前記と同様であるが、外部磁場を使用しないので、強磁性体膜をコーティングする必要がない。この方法では、均一に分散されたコイル状炭素繊維を含む合成樹脂またはゴムを延伸することで、コイル状炭素繊維が配向された樹脂またはゴムの繊維状物を得る。この繊維状物を適当な長さに切断し、短繊維としたのち電極板上に置き、植毛させたい物と電極板に高電圧を印加する。そうすると高電圧により植毛させたい物と電極板との間に電界が発生し、短繊維に分極がおこる。その結果、短繊維の電荷が植毛させたい物に引きつけられて付着する。この方法により付着した短繊維の周りにマトリクス前駆体を充填してこれを固化し、マトリクス内に固定するのである。
【0042】
この方法で、使用される合成樹脂またはゴムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリイミド、ポリサルホン、ポリエーテルケトン、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴムなどが挙げられる。さらに、可塑剤、充填剤、有機繊維、無機繊維、セルロース、安定剤、着色剤などを必要に応じて添加してもよい。またコイル状炭素繊維を均一に分散させるために有機溶剤や水を添加することもできる。
【0043】
この方法の利点は、コイル状炭素繊維が他の合成樹脂またはゴムの繊維状物内に固定されているから、ある程度の纏まりとして操作することができる点である。従って、この方法によれば、例えばセンサとして構成した場合に、センシング面の中心部にはコイル状炭素繊維濃度の高いものを、その周囲にはコイル状炭素繊維濃度が低いものを選択的に配置することも容易である。このような構成のセンサはより指向性の高いものとして、容易に提供することができる。
【0044】
また、コイル状炭素繊維はその製造過程において基板から上方向に延びるように形成されるので、これに直接マトリクス前駆体を流し込み固化させることによっても製造することができる。このような直接的な方法は簡便性に優れるものの、マトリクス内での均一性、コイル状炭素繊維の配合量などの調整において、前記方法よりも劣るものである。
【0045】
(実施例)以下、実施例及び比較例により、前記実施形態をさらに具体的に説明する。
コイル状炭素繊維として、コイル長さが0.5〜1.0mm、コイル径が3〜8μmのものを二液型RTVゴム(商品名:KE103;信越シリコン製)中に1.0重量%添加して、厚さ1mm、縦横10mmの正方形の平板状のセンサを得た。センサ内のコイル状炭素繊維の配向状態は金属顕微鏡の観察により決定し、配向度として示した。すなわち、添加したコイル状炭素繊維の全本数に対して、センシング面に対して螺旋軸が垂直方向に配向しているコイル状炭素繊維の本数の割合でしめした。
【0046】
前記センサに対して、配向度および角度依存性と、近接信号の増幅率Gp(下式)との関係を調べた。その結果を表1に示す。なお、角度依存性は、図4に示すようにセンサ10の端部20より上方に延ばした垂線からの左右方向への傾きθを示している。
【0047】
【数1】

【0048】
【表1】

【0049】
表1からわかるように、センサ内で垂直に配向させると、近接信号増幅率の広がり角度は20°以下となることがわかる。一方、従来の無配向(配向度=0)では、90°でも近接信号が観察される。従って、コイル状炭素繊維を配向させることにより、近接信号の指向性が格段に向上することがわかる。
【0050】
次に、接触センシングについて同じ試料を用いて試験を行った。方法としては、センシング面に1.0gfの荷重を印加したときのインダクタンスの値を測定し、無配向のときを1.0としたとき、配向度の違いによりインダクタンス値がどの程度増加するかを表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
表2からわかるように、接触センシングについては、無配向の場合より5倍の感度の向上が認められた。
【0053】
(インピーダンス変化)
前記無配向のセンサと、配向度100のセンサ10に対して、物体22を様々な角度θに位置させたとき(概略図は図5に示す)の、コイルのインピーダンス変化を図6および7に示す。この図から明らかなように、本発明のコイル状炭素繊維を配向させたもの(図7)は、θが0°付近で顕著なピークを示すことが認められ、一方、無配向のセンサ(図6)は、θが0°でピークを示すことは同様であるが、180°の方向に対してインピーダンス変化が認められる。
【0054】
以上のように簡単な構成により、センサが製造できるので、工業的にも生産性の高いものが提供される。またコイル状炭素繊維がセンシング面に対して垂直に配向されているから、触圧に敏感に反応することができ、共振特性も顕著となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の高指向性センサは、人型ロボットや義手・義足の代替皮膚、医療用診断装置の触診や接触・衝突事故防止、乗用・エレベータ用ドアや回転ドアの安全センサ、各種工業の表面性状検査用センサなどに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明のコイル状炭素繊維が形成するLCR複合共振回路モデルである。
【図3】本発明のセンサシステムを示す概略図である。
【図4】本発明のセンサシステムの角度依存性を調べるための試験系を示す概略図である。
【図5】センサに対して、物体を様々な角度に位置させたときのインピーダンス変化を調べる概略図である。
【図6】図5に示す試験の結果、無配向のセンサが示すインピーダンス変化である。
【図7】図5に示す試験の結果、本発明のコイル状炭素繊維が配向されたセンサが示すインピーダンス変化である。
【符号の説明】
【0057】
10 センサ
11 コイル状炭素繊維
12 電極
13 マトリクス
14 増幅回路
15 電源
22 対象物体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス内に、コイル状炭素繊維が固定されているとともに、該コイル状炭素繊維の螺旋構造に基づくインダクタンス(L)成分並びにキャパシタンス(C)成分及びレジスタンス(R)成分を有しLCR共振回路として作用するセンサ素子と、前記マトリクスに電気的に接続されている一対の電極とを備え、
前記コイル状炭素繊維は、コイル径が20nm〜100μmであるとともにコイル長さが10nm〜50mmであり、マトリクス全体の0.1〜50.0重量%の割合で含有し、かつ配向して固定されていることを特徴とする高指向性センサ。
【請求項2】
コイル状炭素繊維の螺旋軸がセンシング面に対して垂直方向で、均一な密度に配向されていることを特徴とする請求項1記載の高指向性センサ。
【請求項3】
一対の電極のうちの少なくとも一方が、前記コイル状炭素繊維の螺旋軸に対して並行に接続されていることを特徴とする請求項1または2に記載の高指向性センサ。
【請求項4】
センシング面の中心部にコイル状炭素繊維が高濃度で固定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高指向性センサ。
【請求項5】
コイル状炭素繊維の表面に強磁性体膜をコーティングする工程、
前記コイル状炭素繊維をマトリクス前駆体中に添加し、混合する工程、
前記混合物を鋳型内に充填して、該型の上下に強力磁石をセットしたのち、混合物を固化させる工程、
固化させたマトリクスに一対の電極を接続する工程、
からなる高指向性センサの製造方法。
【請求項6】
コイル状炭素繊維を合成樹脂またはゴムに分散させる工程、
前記コイル状炭素繊維を含む合成樹脂またはゴムを延伸する工程、
前記延伸させた合成樹脂またはゴムを100〜500μの長さに切断する工程、
静電植毛法により前記切断物を基材上に垂直に配向させる工程、
配向された切断物の周りにマトリクス前駆体を充填してこれを固化し、マトリクス内に固定する工程、
マトリクスに一対の電極を接続する工程、
からなる高指向性センサの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−229261(P2009−229261A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75443(P2008−75443)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜20年度、文部科学省、地域科学技術振興施策、委託研究(知的クラスター創成事業、岐阜・大垣地域ロボティック先端医療クラスター)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(399054000)シーエムシー技術開発 株式会社 (23)
【Fターム(参考)】