説明

高活性・浮遊性チタン化合物触媒及びこれを用いる色相良好なポリエステルの製造方法

【課題】チタン化合物、安定剤であるリン化合物以外の溶解助剤などを含有することなく、調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊する性質を有することにより、容器、装置底部に沈殿・堆積・凝結せず取り扱いが簡便で重合活性が高く色相良好なポリマーが得られるポリエステル製造用触媒を提供する。
【解決手段】チタン化合物と下記一般式(1)で表されるリン化合物:


[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に7個以下の炭素原子を有するアルキル基を表す。]との反応生成物であって、反応生成物中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)が2.0以上2.2以下であるポリエステル製造用触媒及びその触媒を用いてテレフタル酸とエチレングリコールを重縮合して得られるポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルの製造用の触媒、及びそれを用いたポリエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、機械的強度、耐熱性、透明性及びガスバリア性に優れており、ジュース、清涼飲料、炭酸飲料などの飲料充填容器の素材をはじめとしてフィルム、シート、繊維などの素材として好適に使用されている。
【0003】
このようなポリエステルは、通常、テレフタル酸などのジカルボン酸と、エチレングリコールなどの脂肪族ジオール類とを原料として製造される。具体的には、まず、芳香族ジカルボン酸類と脂肪族ジオール類とのエステル化反応により低次縮合物(エステル低重合体)を形成し、次いで重縮合触媒の存在下にこの低次縮合物を脱グリコール反応(液相重縮合)させて、高分子量化している。また、場合によっては固相重縮合を行い、さらに分子量を高めている。
【0004】
ポリエステルの製造方法では、重縮合触媒として、従来アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物などが使用されている。しかしながら、アンチモン化合物を触媒として製造したポリエチレンテレフタレートは透明性、耐熱性の点でゲルマニウム化合物を触媒として製造したポリエチレンテレフタレートに劣っている。また、ゲルマニウム化合物はかなり高価であるため、ポリエステルの製造コストが高くなるという問題があった。このため製造コストを下げるため、重縮合時に飛散するゲルマニウム化合物を回収して再利用するなどのプロセスが検討されている。
【0005】
ところでチタンはエステルの重縮合反応を促進する作用のある元素であることが知られており、チタンアルコキシド、四塩化チタン、シュウ酸チタニル、オルソチタン酸などが重縮合触媒として公知であり、このようなチタン化合物を重縮合触媒として利用するために多くの検討が行われており、チタン化合物とモノアルキルホスフェートの反応物を触媒として用いることにより製品ポリマーの品質に関しては従来のチタン触媒使用ポリマーの欠点をほぼ克服した技術も報告されている(例えば特許文献1参照。)。
【0006】
しかしながら、従来のチタン系触媒を重縮合触媒に用いた場合、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物に比べ活性はあるものの、溶媒への溶解性が劣るため、触媒調製後に沈殿し容器、装置底部で堆積・凝結しやすいという問題がある。
【0007】
そのようなチタン触媒の溶媒への不溶性や触媒粒子の沈降性に関して、チタン化合物の加水分解によって得られた固体状チタン触媒をエチレングリコールの他、グリセリンのような溶解助剤、硫酸のような酸成分を添加の上120〜200℃で加熱溶解することによりチタン原子換算で3000〜10000ppmの濃度のエチレングリコール溶液を得る方法が述べられている(例えば特許文献2参照。)。しかし、この方法では固体状チタン触媒を調製するのに加水分解、脱水乾燥など非常に煩瑣な処理工程が必要である上、溶解助剤や酸成分などの余分な添加剤を必要としており、特に飲料充填用容器向けのポリエチレンテレフタレート樹脂を製造する際に充填飲料への溶出やフレーバー性への悪影響が懸念される。
【0008】
また、チタンブトキシドとエチレングリコールの混合液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて黄色透明溶液を得るとしている(特許文献3参照。)。しかしアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の存在はポリエステル樹脂の色相に悪影響を与えることが広く知られており、事実特許文献2で得られているポリエチレンテレフタレートの色相はb値が最低でも3.7と黄色味が極めて強く、特に飲料充填容器の成形材料としては不適切である。
【0009】
側鎖にエーテル結合を有するリン酸エステル化合物とチタン化合物の反応物(例えば特許文献4参照。)、及び側鎖末端にヒドロキシル基を有するリン酸エステル化合物とチタン化合物の反応物(例えば特許文献4参照。)が良好な重合活性を有し、かつ触媒粒子が液中で沈降しにくいという技術を開示している。しかし、これらの方法でも触媒粒子の沈降を完全に抑制できてはいない。
【0010】
チタン(IV)−2−エチルヘキソキシドとモノアルキルホスフェートの反応物がエチレングリコール溶液中では浮遊して沈降せず分散性が良く、触媒活性も良好であることが示されている(例えば特許文献6参照。)しかし、この手法ではチタン(IV)−2−エチルヘキソキシドとモノアルキルホスフェートを反応させる際に副生する2−エチルヘキサノールの揮発性がエチレングリコールと同程度であるため、触媒液中に残留したまま重合工程にフィードされ、重合反応で副生し溜去されるエチレングリコール中に残留し、しかも蒸留でも分離されにくく、そのまま回収エチレングリコール中に濃縮される恐れもある。
【0011】
【特許文献1】国際公開第03/008479号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/016467号パンフレット
【特許文献3】国際公開第00/071252号パンフレット
【特許文献4】特開2005−290289号公報
【特許文献5】特開2005−290290号公報
【特許文献6】特開2005−290291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、チタン化合物、安定剤であるリン化合物以外の溶解助剤などを含有することなく、調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊する性質を有することにより、容器、装置底部に沈殿・堆積・凝結せず取り扱いが簡便で高い重合活性を有し、効率よく色相良好なポリエステルを与える製造用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するためにポリエステルの製造に用いられる重縮合触媒について鋭意研究したところ、重縮合触媒として、チタン原子とリン原子とからなる特定の化合物を用いることによって、高い触媒活性で優れた品質のポリエステルを製造できることを見いだして本発明を完成するに至った。即ち上記課題はチタン化合物と下記一般式(1)で表されるリン化合物:
【化1】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に7個以下の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
との反応生成物であって、反応生成物中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)が2.0以上2.2以下であるポリエステル製造用触媒及びその触媒を用いてテレフタル酸とエチレングリコールを重縮合して得られるポリエステルの製造方法によって解決する事ができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によるポリエステル製造用触媒はグリコール中で調製すると、触媒調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊し容器、装置底部で堆積・凝結することが無いので、触媒によれば、従来のポリエステル製造用チタン化合物触媒に比べ、グリコール分散液としての取り扱いが容易である。従って、より効率良くポリエステルを製造することができる。更に本発明の触媒で製造されたポリエステルは、チタン化合物、安定剤であるリン化合物以外の溶解助剤などを含有することないため、飲料充填ボトル用の成形容器の材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル製造用の触媒は、後述するチタン化合物とリン化合物を混合し、反応させる方法により得ることが出来る。しかしながら、本発明の触媒を得る場合、そのチタン化合物とリン化合物の配合比、反応方法、反応条件などの製造方法が適切でないと、十分に反応が起こらず、多くの未反応のチタン化合物や未反応のリン化合物が存在してしまう。
【0016】
以下、本発明のポリエステル製造用の触媒を効率よく反応させ、高い含有率のもの得るための製造方法を説明する。
【0017】
本触媒の合成に用いるチタン化合物としては、チタンテトラアルコキシド及びその縮合体、並びにその他の有機チタン錯体化合物を好ましく挙げる事ができる。具体的にはチタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラフェノラート、ヘキサメチルジチタネート、オクタメチルトリチタネート、ヘキサエチルジチタネート、オクタエチルトリチタネート、ヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネート、ヘキサフェニルジチタネート、オクタフェニルトリチタネート、チタンテトラキスアセチルアセトナート錯体、チタンテトラキス(2,4−ヘキサンジオナト)錯体、チタンテトラキス(3,5−ヘプタンジオナト)錯体、チタンジメトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジエトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジノルマルプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジブトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジヒドロキシビスグリコレート、チタンジヒドロキシビスラクテート、チタンジヒドロキシビス(2−ヒドロキシプロピオネート)、乳酸チタン、チタンオクタンジオレート、チタンジメトキシビストリエタノールアミネート、チタンジエトキシビストリエタノールアミネート、チタンジブトキシビストリエタノールアミネートなどが好ましく挙げられる。これらの中でリン化合物と反応させ本発明の触媒化合物を調製する際に生じるアルコールが重合系内に濃縮される恐れが小さく、かつ安価で経済的に有利なことからチタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド及びそれらの縮合体、すなわちヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネートがより好ましい。
【0018】
さらに本発明のポリエステル製造用触媒においては、このチタン化合物に対し、下記一般式(1)で表されるリン化合物を反応させる必要がある。
【化2】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に7個以下の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
【0019】
つまり上記一般式(1)で表わされるジアルキルホスフェートが好ましい。具体的にはジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジノルマルプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジペンチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジヘプチルホスフェートを挙げる事ができる。アルキル鎖は直鎖状であっても、分岐を有していても良い。
【0020】
これらは、単一種で用いても混合物で用いてもよく、例えば複数種のジアルキルホスフェートの混合物の組合せをあげることができる。実際には経済性、安定性などからジブチルホスフェートが特に好ましい。
【0021】
又、本発明の触媒は、チタン化合物とリン化合物とをグリコールを媒体として加熱することにより製造することが好ましく、その場合反応生成物はグリコール中に懸濁物として得られる。
【0022】
ここでのグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールを例示することができる。触媒の製造に用いるグリコールには、触媒を用いて製造するポリエステルと同じグリコールを使用することが好ましい。
【0023】
触媒を製造する際の反応温度は常温では、反応が不十分であったり、反応に過大に時間を要する問題があるため、通常50℃〜200℃の温度で反応させることが好ましく、反応時間は、1分〜4時間で完結させるのが好ましい。
【0024】
例えば、グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合50℃〜150℃が好ましく、ヘキサメチレングリコールを用いる場合100℃〜200℃が好ましい範囲であり、又、反応時間は、30分〜2時間がより好ましい範囲となる。反応温度が高すぎたり、時間が長すぎると、触媒の劣化が起こるため好ましくない。
【0025】
又、本触媒を製造するに当り、チタン化合物とリン化合物との配合割合(反応生成物中の割合)が、チタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)として2.0以上2.2以下であることが必要である。2.0未満では、未反応チタン化合物の存在しポリマーの色相悪化などの問題が起こり、逆に2.2を超えると、過剰な未反応のリン化合物の存在が多く存在し重合活性の低下が起きる。また「反応生成物」とはそのものが固体である場合だけでなく、反応生成物そのものが溶媒に溶解した溶液状態又は懸濁液状態である場合も含むものである。
【0026】
またこのようにして得られた触媒反応液には、時間経過に伴い触媒粒子が沈殿・凝結することを防ぐと言った安定性を増すために酢酸、プロピオン酸、安息香酸、トルイル酸等の有機カルボン酸化合物を添加しても良い。その濃度は触媒溶液に対して0.1〜5重量%が好ましい。
【0027】
本発明の触媒を使用したポリエステルの製造においては、最終的に得られるポリエステル中に、チタン金属原子換算で、1〜50ppmになる量で触媒として使用するのが好ましく、5〜30ppmになる量で使用するのがさらに好ましい。そして、得られるポリエステル中の金属原子として、チタン、リン以外の金属原子は、金属元素濃度換算で10ppm以下が好ましく、更には5ppm以下が好ましい。
【0028】
なお、上記反応生成物は、重縮合反応時に存在していればよい。このため触媒の添加は、原料スラリー調製工程、エステル化工程、液相重縮合工程等のいずれの工程で行ってもよい。また、触媒全量を一括添加しても、複数回に分けて添加してもよい。
【0029】
次に、本発明の触媒を使用したポリエステルの製造方法について説明する。本発明の触媒を用いて、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、脂肪族グリコールとを重縮合させてポリエステルを製造することができる。
【0030】
(原料)
本発明においては主としてテレフタル酸とエチレングリコールを用いるが、少量の、例えば全ジカルボン酸成分又は全グリコール成分に対して20モル%以下の共重合成分を含んでいてもよい。そのような共重合成分の例として、芳香族ジカルボン酸としては、例えばフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体を用いることができる。脂肪族グリコールとしては、例えばトリメチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ジエチレングリコール、ビス(トリメチレン)グリコール、ビス(テトラメチレン)グリコールを用いることができる。
【0031】
テレフタル酸や上記の芳香族ジカルボン酸とともに、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸など又はそのエステル形成性誘導体を原料として使用することができ、エチレングリコールや上記の脂肪族ジオールとともに、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール、ビスフェノール、ハイドロキノン、2,2−ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン類などの芳香族ジオールなどを原料として使用することができる。さらに、トリメシン酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールメタン、ペンタエリスリトールなどの多官能性化合物を原料として使用することができる。
【0032】
(エステル化工程)
まず、ポリエステルを製造するに際して、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族グリコールをエステル化させる。具体的には、芳香族ジカルボン酸と、脂肪族グリコールとを含むスラリーを調製する。このようなスラリーには芳香族ジカルボン酸1モルに対して、通常1.1〜1.6モル、好ましくは1.2〜1.4モルの脂肪族グリコールが含まれる。このスラリーは、エステル化反応工程に連続的に供給される。
【0033】
エステル化反応は、反応物を自己循環させなから一段で実施する方法又は、2つ以上のエステル化反応器を直列に連結し実施する方法が好ましく、いずれも脂肪族グリコールが還流する条件下で、反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら行う。
【0034】
反応物を自己循環させなから一段で連続的にエステル化を行う場合の反応条件は、通常、反応温度が240〜280℃、好ましくは250〜270℃であり、反応圧力は常圧〜0.3MPaの条件下で行われ、エステル化率が通常90%以上、好ましくは95%以上になるまで反応させることが望ましい。
【0035】
このエステル化工程により、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとのエステル化反応物(オリゴマー)が得られ、このオリゴマーの重合度が4〜10程度である。
上記のようなエステル化工程で得られたオリゴマーは、次いで重縮合(液相重縮合)工程に供給される。
【0036】
(液相重縮合工程)
次に液相重縮合工程において、上記した重縮合触媒の存在下に、エステル化工程で得られたオリゴマーを、減圧下でかつポリエステルの融点以上の温度(通常240〜280℃)に加熱することにより重縮合させる。この重縮合反応では、未反応の脂肪族グリコール及び重縮合で発生する脂肪族グリコールを反応系外に留去させながら行われることが望ましい。
【0037】
重縮合反応は、1槽で行ってもよく、複数の槽に分けて行ってもよい。例えば、重縮合反応が2段階で行われる場合には、第1槽目の重縮合反応は、反応温度が245〜290℃、好ましくは260〜280℃、圧力が100〜1kPa、好ましくは50〜2kPaの条件下で行われ、最終第2槽での重縮合反応は、反応温度が265〜300℃、好ましくは270〜290℃、反応圧力は通常1000〜10Paで、好ましくは500〜30Paの条件下で行われる。そして所望の重合度になったことを、例えばポリエステルの溶融粘度の増加により攪拌翼にかかる攪拌電力エネルギー(負荷)をモニターする事でとらえることができる。これにより所望の重合度(又は平均分子量、固有粘度)になったことを確認する。このようにして、本発明の触媒を用いてポリエステルを製造ずることができる。この重縮合工程で得られるポリエステルは、通常、溶融状態で押出しながら、冷却後、粒状(チップ状)のものを得る。得られたポリエステルの極限粘度IVは0.40〜0.80dL/g、好ましくは0.50〜0.70dL/gであることが望ましい。必要に応じてこの後公知の手法に準じて固相重合を行っても良い。
【0038】
よって本発明による上記の方法は、チタン触媒がグリコール溶媒中で沈殿・凝結することがないので取り扱いが容易であり、簡便かつ効率よくポリエチレンテレフタレートを生産でき非常に有用である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。各実施例、比較例において物性評価は次のように行った。
○触媒中のチタン原子、リン原子濃度
乾燥した触媒サンプルを走査型電子顕微鏡(日立計測器サービス株式会社製S570型)にセットし、これに連結したエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(XMA、株式会社堀場製作所製EMAX−7000)を用いて触媒のチタン原子及びリン原子濃度を求めた。
○極限粘度(IV)
ポリエステル0.6gをo−クロロフェノール50cc中に加熱溶解した後、一旦冷却させ、その溶液をウベローデ式粘度計を用いて35℃の温度条件で測定した溶液粘度から算出した。
○色相(Col)
粒状のポリマーサンプルを160℃×90分乾燥機中で熱処理し、結晶化させた後、カラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した
○ジエチレングリコール(DEG)含有量
サンプルをヒドラジンにて分解し、ガスクロマトグラフィー(GC)にて測定した。
○末端カルボキシル(COOH)数
ポリマーサンプルを粉砕して精秤した後ベンジルアルコールに溶解し、水酸化カリウムによる中和滴定により求めた。それをポリエステル単位重量当たりの数値に換算した。
○オリゴマーの重合度
エステル化工程によって得られたエステル化反応物の試料をサンプリングし、Mauriceらの方法[Anal.Chim.Acta,22,p363(1960)]によりカルボキシル末端基量を測定した。次にヒドロキシル末端基量は試料をヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、この溶液について13C−NMRを用いて定量した。さらに両方の末端基量から数平均分子量を求め、重合度に換算した。
【0040】
[実施例1]
エチレングリコール525.6重量部とジブチルホスフェート6.0重量部を入れて混合攪拌した中に、チタンテトラブトキシドのエチレングリコール溶液68.4重量部(チタン原子の濃度で1重量%、安定剤として酢酸を1重量%添加)をゆっくり添加し、徐々に昇温して100℃の温度で1時間攪拌保持したのち、得られた懸濁液を室温まで放冷した(この溶液中でチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)は2.0である。以下、この溶液を「TD2触媒液」と略す)。この液100mLを100mLメスシリンダーに採取し240時間静置しても、液中に触媒粒子は浮遊、分散したままで、底部に沈殿・凝結はしなかった。以下、このチタン/リン反応化合物を含む溶液をTD2触媒液と称する。
【0041】
一方、予め225部のポリエステルオリゴマーが滞留する反応器内に、攪拌下、窒素雰囲気で255℃、常圧下に維持された条件下に、179部の高純度テレフタル酸と95部のエチレングリコールとを混合して調製されたスラリーを一定速度で供給し、反応で発生する水とエチレングリコールを系外に留去ながら、エステル化反応を4時間し反応を完結させた。この時のエステル化率は、98%以上で、生成されたポリエステルオリゴマーの重合度は、約5〜7であった。
【0042】
このエステル化反応で得られたオリゴマー225部を重縮合反応槽に移し、重縮合触媒として、TD2触媒液を1.8部(テレフタル酸成分に対してチタンが4×10−3モル%相当の量)投入した。引続き系内の反応温度を250から275℃、又、反応圧力を常圧から60Paにそれぞれ段階的に上昇及び減圧し、反応で発生する水,エチレングリコールを系外に除去しながら重縮合反応を行った。
【0043】
重縮合反応の進行度合いを、系内の攪拌翼への負荷をモニターしなから確認し、所望の重合度に達した時点で、反応を終了した。その後、系内の反応物を吐出部からストランド状に連続的に押出し、冷却,カッティングして、約3mm程度の粒状ペレットを得た。この時の重縮合反応時間は、124分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.509dL/g、DEG含有量が1.20wt%、Col−b値が0.6と色相良好であった。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、触媒化合物を調製する際のエチレングリコールを525.0重量部、ジブチルホスフェート量を6.62重量部として触媒化合物液中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)を2.2とする以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間は、128分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.514dL/g、DEG含有量が1.16wt%、b値が0.0と色相良好だった。
【0045】
[比較例1]
エチレングリコール175.7重量部とモノブチルホスフェート1.5重量部を入れて混合攪拌した中に、チタンテトラブトキシド22.8重量部(チタン原子の濃度1重量%)をゆっくり添加し、徐々に昇温して100℃の温度で1時間攪拌保持したのち、得られた懸濁液を室温まで放冷した。この液100mLを100mLメスシリンダーに採取し120時間静置したところ液面から95mLの容積部分に上澄みが生じて底部5mLの容積の部分に触媒粒子は沈殿し凝結しており、液を振り混ぜてもこの凝結物は再度分散しなかった。
【0046】
[比較例2]
実施例1において、触媒化合物を調製する際のエチレングリコールを526.20重量部、ジブチルホスフェート量を5.40重量部として触媒化合物液中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)を1.8とする以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間は、113分であった。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.520dL/g、DEG含有量が1.28wt%、Col−b値が1.6と黄色味が強かった。
【0047】
[比較例3]
実施例1において、触媒化合物を調製する際のエチレングリコールを524.69重量部、ジブチルホスフェート量を6.91重量部として触媒化合物液中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)を2.3とする以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間が非常に遅く201分を要した。又、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.510dL/g、DEG含有量が1.22wt%、Col−b値は0.2だった。
【0048】
[比較例4]
実施例1において、触媒化合物を調製する際のエチレングリコールを522.4重量部、ジブチルホスフェートではなくリン酸ジオクチル(ジオクチルホスフェート)を9.25重量部として触媒化合物液中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)を2.0とする以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間が非常に遅く210分を要した上、得られたポリエチレンテレフタレートは、IVが0.376dL/gと非常に低くポリマーとして実用性が無いものであった。なおこのポリエチレンテレフタレートでDEG含有量が1.20wt%、Col−b値は0.2だった。
【0049】
[比較例5]
実施例1において、触媒化合物を調製する際のエチレングリコールを524.4重量部とし、ジブチルホスフェートではなくリン酸ジフェニル(ジフェニルホスフェート)を7.18重量部とする以外は同様に操作を行った。この時、沈殿は生成せず触媒均一な溶液になった。この時の重縮合反応時間は120分と良好だったが、得られたポリエチレンテレフタレートはCol−bが1.6と色相が悪化した。IVは0.517dL/g、DEG含有量が1.32wt%だった。
【0050】
[比較例6]
実施例1において、事前にチタン、リン反応物を調製せず、チタンテトラブトキシドのエチレングリコール溶液(チタン原子の濃度で1重量%、安定剤として酢酸を1重量%添加)をテレフタル酸成分に対してチタンが4×10−3モル%相当の量、ジブチルホスフェートをリンがチタンの2倍モルになる量を投入する以外は同様に操作を行った。この時の重縮合反応時間は113分と良好だったが、得られたポリエチレンテレフタレートはCol−bが2.5と色相が悪化した。IVは0.520dL/g、DEG含有量が1.46wt%だった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によるポリエステル製造用触媒はグリコール中で調製すると、触媒調製後はグリコール溶媒表面付近に浮遊し容器、装置底部で堆積・凝結することが無いので、触媒によれば、従来のポリエステル製造用チタン化合物触媒に比べ、グリコール分散液としての取り扱いが容易で、重合活性も高く、より効率良く色相良好なポリエステルを製造することができる。更に本発明の触媒で製造されたポリエステルは、チタン化合物、安定剤であるリン化合物以外の溶解助剤などを含有することないため、飲料充填ボトル用の成形容器の材料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン化合物と下記一般式(1)で表されるリン化合物:
【化1】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に7個以下の炭素原子を有するアルキル基を表す。]
との反応生成物であって、反応生成物中のチタン原子に対するリン原子のモル比率(リン原子/チタン原子)が2.0以上2.2以下であるポリエステル製造用触媒。
【請求項2】
請求項1記載の触媒を用いてテレフタル酸とエチレングリコールを重縮合して得られるポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2008−174582(P2008−174582A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6929(P2007−6929)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】