説明

高流動高強度グラウト材

【課題】高い流動性および強度発現性を有するセメント系の高流動高強度グラウト材を提供する。
【解決手段】高流動高強度グラウト材は、2種以上のポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする。高流動高強度グラウト材で使用されるポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い流動性および強度発現性を有するセメント系の高流動高強度グラウト材に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント系のグラウト材は、機械の据付け、逆打ちコンクリートの打継ぎ、コンクリートの劣化部分の補修、プレストレストコンクリート構造物のPCダクトの充填等に使用されている。その構成は、セメント単独或いはセメントと細骨材(更に必要に応じて粗骨材)をベースとするが、用途に応じて各種の添加剤を配合して、補強、止水、保護、安定化させるために使用されることが多い。また耐震補強のため橋脚や窓枠等を鉄板などで囲み、その隙間を充填するために用いられることも多い。このためセメント系のグラウト材には、高い強度特性や下地との接着性だけでなく、狭小空間に十分に充填できるだけの高い流動性が求められる。
【0003】
また、品質管理の観点から、現場に於けるコンクリートの打設だけではなく、二次製品工場で作製したコンクリート製品が導入されてきており、更なる高強度化が要望されてきている。このような高強度のコンクリート製品の固定化や安定化等に使用されるセメント系のグラウト材の性能としては、流動性の他に所要の凝結特性や早期材齢からの強度発現性も求められるようなっている。
このような高い流動性、高い強度特性を得る従来技術として、ポルトランドセメント、シリカフュームを代表とするポゾラン物質、細骨材およびポリカルボン酸系等の減水剤を配合したグラウト材が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。
【0004】
また、超高強度のグラウト材、すなわち、28日における圧縮強度が100N/mmを超えるグラウト材を得るためには、さらに水結合材比を小さくし硬化体の空隙を極力少なくする必要がある。しかしながら、水結合材比を小さくすると、グラウト材の粘性が大きくなり、流動性が低下し、更にはグラウト材の練混ぜにも影響を与えるため、小型で簡便なハンドミキサーの使用を前提とするグラウト材の練混ぜにおいて、適切な減水剤を選択するなどの注意を払う必要がある。一方、水結合材比を小さくし、適切な減水剤を併用した場合においても、硬化後の収縮が顕著になり、ひび割れの発生を促進させるなど、硬化体の物性へ悪影響を与える。
これらの問題を解決する手法としては、高ビーライトのセメントやシリカフュームなどの各種混合材を添加したセメントを使用したり、収縮抑制のために収縮低減剤を添加したり、収縮補償として、膨張材を添加する技術が知られている。
【0005】
また、超高強度のグラウト材を得るための有効な手段として、シリカフュームの添加が挙げられるが、一般的なシリカフューム、すなわちセメント業界で使用されるシリカフュームの約9割を占めるフェロシリコン起源のシリカフュームは、多量の未燃焼カーボンを含むため、未燃焼カーボンが減水剤成分を吸着し、減水剤の効果が大きく低下させる場合がある。その際、減水剤を多量に使用した場合には、凝結時間が遅延するという問題がある(特許文献3)。
【0006】
また、ビーライトセメント等のカルシウムアルミネートが少なく、ビーライトの含有量の多いセメントを使用する方法も知られているが、一般に水和の遅いセメントは、凝結が遅延し、初期の強度発現性が低くなる傾向があるため、施工時の材料分離によって、ひび割れを起こす要因も残している(例えば特許文献4、5参照)。
【0007】
また、グラウト材はセメント単独或いはセメントと細骨材(或いは更に粗骨材)のみの水硬性セメント組成物を水と練り混ぜて打設すると、凝結過程で収縮或いは沈下が生じ、既設部位と充填した材料の間にはがれや空隙が生じたり、充填した材料が沈下したり、或いはひび割れが生じたりする問題が発生する。このため、収縮補償としてアルミニウム粉末などの各種発泡作用のある発泡剤が使用されているが、強度が低下するという問題が生じる場合がほとんどである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−240452号公報
【特許文献2】特開平11−49549号公報
【特許文献3】特開2008−94668号公報
【特許文献4】特開2008−81357号公報
【特許文献5】特開2007−119257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、減水剤を添加しても凝結時間の大きな遅延がなく、良好な強度発現性を有し、且つ、高い流動性と簡便な装置による容易な練混ぜ性能を有する高流動高強度グラウト材(以下、単にグラウト材と略記することもある)を提供するとともに、一般的なシリカフュームでも十分な流動性を確保し、高強度を発現するグラウト材を提供し、更に、低い水結合材比で作製した硬化体の収縮補償を実施した場合にも強度を低下させないグラウト材及び硬化収縮等に伴うひび割れの発生を抑制したグラウト材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく本発明者らが鋭意検討した結果、2種以上のポルトランドセメントを配合することにより、低温度より高温度まで、また初期から長期まで良好な強度発現性を有し、かつ、凝結が著しく遅延することなく高い流動性を持つグラウト材が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明に係る高流動高強度グラウト材(1)は、2種以上のポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(2)は、前記(1)のグラウト材であって、かつポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群から選択されることを特徴とする。本発明に係る高流動高強度グラウト材(3)は、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(4)は、前記(3)のグラウト材であって、かつ普通ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントが、質量比で7:3乃至3:7であることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(5)は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(6)は、前記(5)のグラウト材であって、かつ普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、質量比で7:3乃至3:7であることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(7)は、普通ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(8)は、前記(7)のグラウト材であって、かつ普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、質量比で2〜4:2〜4:2〜4であることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(9)は、前記(1)〜(8)のグラウト材であって、かつ水結合材比が20重量%以下で練り混ぜられることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(10)は、前記(1)〜(9)のグラウト材であって、更にシリカフューム及び/又はフライアッシュを添加してなることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(11)は、前記(1)〜(10)のグラウト材であって、かつ水結合材比が20重量%以下でも高い流動性が得られる減水剤を用いた高流動高強度グラウト材であって、減水剤が、平均付加モル数の異なる2種のポリアルキレングリコールビニルエーテルと不飽和カルボン酸との共重合体であることを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(12)は、前記(1)〜(11)のグラウト材であって、かつ更にスルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物およびニトロソ化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の発泡剤を含有することを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(13)は前記(1)〜(12)のグラウト材であって、かつ発泡剤の配合量が内割りで0.01重量%〜0.1重量%含有することを特徴とする。また本発明に係る高流動高強度グラウト材(14)は、前記(1)〜(13)のグラウト材であって、かつ乾燥収縮低減剤を内割りで0.1重量%〜5重量%含有することを特徴とする。さらにまた本発明に係る高流動高強度グラウト材(15)は、前記(1)〜(14)のグラウト材であって、かつ膨張材を内割りで1重量%〜3重量%、消泡剤を内割りで0.1重量%〜0.5重量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、普通、中庸熱、早強ポルトランドセメント2種以上のポルトランドセメントを配合することにより、それぞれのポルトランドセメントを単独で使用する場合に比較して、特に流動性、凝結特性、強度発現性において優れた性能を示す。またポゾラン物質であるシリカフュームやフライアッシュを添加することにより、更に優れた性能を発揮するものである。
また本発明特定の減水剤(重量平均分子量20,000〜30,000のポリエチレングリコールビニルエーテルと不飽和カルボン酸の共重合体であり、該共重合体中にポリエチレングリコールの平均付加モル数の異なる2種のポリエチレングリコールビニルエーテルを共存することを特徴とする減水剤)を使用することにより、極めて低い水結合材比においても高い流動性を示し、練混ぜ性能が大幅に改善され、ハンドミキサーやグラウトミキサーのような比較的に簡便な装置で十分に練混ぜが可能となる。
また、本発明特定の発泡剤を使用することにより、強度の低下が小さく、既設部位と充填した材料の間のはがれや空隙、充填した材料の沈下、或いはひび割れの発生を抑制することが可能となる。
また、本発明特定の発泡剤、乾燥収縮低減剤、膨張材及び消泡剤を使用することにより、さらにひび割れ抵抗性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態についてさらに詳細に説明する。
本発明で使用できる結合材は、通常の水硬性セメントや各種混合材であり、特に限定されるものではない。例えば、ポルトランドセメント、混合セメントやその他セメントであり、また、高炉やゴミ溶融におけるスラグ、石灰石微粉末、フライアッシュ、シリカフューム、膨張材などが挙げられる。
本発明で使用するポルトランドセメントは、JIS R 5210に規定されるポルトランドセメントであり、普通、中庸熱、低熱、早強、超早強、耐硫酸塩ポルトランドセメントである。より望ましくは、普通、中庸熱、早強、低熱ポルトランドセメントの4種類であり、以下、単に、普通、中庸熱、早強或いは低熱と略記することもある。
【0014】
本発明の普通ポルトランドセメントと中庸熱ポルトランドセメントを含むことを特徴とする高流動高強度グラウト材では、普通ポルトランドセメント単独では十分な練混ぜ性能や流動性が得られない水結合材比が20重量%以下の条件においても練り混ぜることができるようになる。その上、中庸熱ポルトランドセメント単独では、高い減水剤量に起因する、初期強度の低下及び凝結の遅延が懸念されるが、普通ポルトランドセメント単独で使用した場合と遜色なく良好な物性を示すようになる。更には、それぞれのポルトランドセメントの配合比は普通:中庸熱=3:7から7:3の間が良く、特に配合比が1:1の場合が最もそれぞれのポルトランドセメントの特性を損なうことなく良好な性能を示す。減水剤量は結合材重量に対して、0.4重量%〜2.2重量%が好ましい。30℃付近での使用が最も良好な流動性を発揮することができる。
【0015】
さらに本発明の普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを含むことを特徴とする高流動高強度グラウト材では、早強ポルトランドセメント単独では十分な練混ぜ性能や流動性が得られない水結合材比が20重量%以下の条件においても練り混ぜることができるようになる。その上、普通ポルトランドセメント単独では、低温度で使用した場合に生じる初期強度の低下及び凝結の遅延に関しても問題なく、良好な凝結性能及び初期強度を示す。更に、それぞれのポルトランドセメントの配合比は普通:早強=3:7から7:3の間が良く、特に配合比が1:1の場合が最もそれぞれのポルトランドセメントの特性を損なうことなく良好な性能を示す。減水剤量は結合材重量に対して0.6重量%〜2.4重量%が好ましい。5℃でも良好な流動性及び凝結性状を発揮することができる。
【0016】
本発明の普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントを含むことを特徴とする高流動高強度グラウト材では、早強ポルトランドセメント単独では十分な練混ぜ性能や流動性が得られない水結合材比が20重量%以下の条件においても練り混ぜることができるようになる。その上、普通ポルトランドセメント単独の場合に比べ、低温度で使用した場合でも初期強度及び凝結性状が良好である。また、中庸熱ポルトランドセメントを使用することにより長期の強度発現性も単独の場合より大きな値となる。更には、それぞれのポルトランドセメントの配合比は普通:早強:中庸熱=2〜4:2〜4:2〜4の場合が最もそれぞれのポルトランドセメントの特性を損なうことなく良好な性能を示す。減水剤量は結合材重量に対して0.6重量%〜2.4重量%が好ましい。20℃付近での使用が最も良好な性能を発揮することができる。
【0017】
本発明において使用可能な細骨材としては、粒径5.0mm以下の川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂、スラグ骨材などが使用でき、ポルトランドセメント100重量部に対して30〜200重量部配合され、より好ましくは、50〜150重量部である。該細骨材量が200重量部を超えるとポルトランドセメント量、シリカフューム量が低下することとなり、安定的な高流動性、高強度が得られない。
【0018】
本発明で使用可能なシリカフュームは、特に限定されるものではないが、BET比表面積で5〜30m/gのものが使用できる。上記シリカフュームの高流動高強度グラウト材への配合量は、グラウト材に要求されるワーカビリティー、強度、耐久性などの所望の性能を付与する量であり、ポルトランドセメント100重量部に対し、3〜30重量部であって、5〜20重量部がより好ましい。配合量が3重量部未満では十分なベアリング効果が発揮できずグラウト材の流動性が低下する。また30重量部を超えると極端に流動性が低下したり、乾燥収縮が大きくなる場合がある。
【0019】
本発明で使用するフライアッシュは、特に限定されるものではなく、JIS規格品や分級フライアッシュ等が使用できる。上記フライアッシュの高流動高強度グラウト材への配合量は、グラウト材に要求されるワーカビリティー、強度、耐久性などの所望の性能を付与する量であり、ポルトランドセメント100重量部に対し、3〜10重量部であり、5〜8重量部がより好ましい。配合量が3重量部未満では十分な流動性改善効果が発揮できずグラウト材の流動性が低下する。また10重量部を超えると強度が低下する。フライアッシュを使用した場合の高流動高強度グラウト材は特に30℃以上の環境温度での使用が望ましく、流動性、強度発現性ともに良好な物性を示す。
【0020】
さらに、上記のフライアッシュ及びシリカフュームを同時に使用することにより、優れた流動性及び強度発現性を発揮する高流動高強度グラウト材を提供できる。特に30℃以上での長期強度発現性に優れている。
【0021】
さらに、高流動高強度グラウト材に十分な練り混ぜ性能や流動性を得るための減水剤は、ポリカルボン酸系共重合体を含有する減水剤を使用することが好ましく、更には、特許文献、特開平6−191918号公報、特開2000−191356号公報、特開2002−187755号公報、特開2003−128738号公報に記載の共重合体を含有する減水剤、又は、以下の繰り返し単位(A)、(B)からなるか、または(A)、(B)、(C)からなり、重量平均分子量が5,000〜50,000である共重合体(I)が好ましく、
(A)のモル比率が10〜50%であって、(A)は下式で表される1種若しくは2種であって、
【化1】

(ここで、R、Rはそれぞれ独立に水素またはメチル基を、R、RはC1〜4のアルキレン基を、OAはC2又は3のオキシアルキレン基を、x、yはそれぞれ独立に0または1を、zは6〜60を表す。)
(B)のモル比率は30〜90%であって、下式(B−1)又は(B−2)で表されるいずれか1種若しくは2種であって、
(B−1)
【化2】

(ここで、Rは水素またはCOOYを、Rは水素又はメチル基を、Yは水素又はC1〜8の脂肪族炭化水素を表す。)
(B−2)
【化3】

(ここでAは酸素またはNRを表し、Rは水素、C1〜20のアルキル基、C6〜20のアリール基、スルホニル基、又はスルファニル基のいずれかを表す。)
(C)のモル比率は0〜20%であって、下式で表され、
【化4】

(ここで、Rは水素又はメチル基を、pは0,1,2を、qは0又は1を表す。ただしp、qの少なくともいずれか一方は0である。R10はC1〜4のアルキル基、又はC1〜4のヒドロキシアルキル基を、Sは水素、メチル基、又はCOOR11を表し、R11は水素、C1〜4のアルキル基、又はC1〜4のヒドロキシアルキル基を表す。)
かつ(A)、(B)、(C)のモル比率は合計100%であることを特徴とする。
【0022】
また本発明に係る共重合体(I)は、繰り返し(A)のZが6〜20(Z1)の範囲にあるものと、20〜60(Z2)の範囲にあるものの2種類以上からなり、ぞれぞれのモル比が20:80〜80:20であることを特徴とする。
【0023】
さらに本発明の共重合体(I)は、(A)と、(B)と(C)との総量のモル比率(A):((B)+(C))が、1:1〜1:4の範囲であることを特徴とする。
【0024】
また本発明の共重合体(I)は、(B−2)の比率が(B)全体に対して50モル%以下であることを特徴とする。
【0025】
また本発明においては使用可能な発泡剤としては、セメント組成物中における反応により窒素ガスを発生する物質として、スルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物およびニトロソ化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の発泡剤を含有することにより、上記の高流動高強度グラウト材の強度を低下させることなく、収縮を補償することが可能となる。高流動高強度グラウト材に対する発泡剤の望ましい添加量は、内割で0.01重量%〜0.1重量%であり、更に望ましい添加量としては内割で0.04重量%〜0.06重量%である。また高流動高強度グラウト材の流動性により、添加量の調整を行うことが必要な場合についても当業者であれば適宜選択することは容易である。
【0026】
また本発明において使用可能な乾燥収縮低減剤としては、グリコールエーテル系、低分子エチレンオキサイド系、プロピレンオキサイド共重合体系、ポリエーテル系、低級アルコール系のアルキレンオキサイド付加物等及び粉末状のネオペンチルグリコールが挙げられる。これらを適量高流動高強度グラウト材に含有させることによりひび割れの原因である硬化体の収縮を低減することができる。高流動高強度グラウト材に対する乾燥収縮低減剤の望ましい添加量は、内割で0.1重量%〜5重量%であり、更に望ましい添加量は高流動高強度グラウト材に対して内割で0.3重量%〜3重量%の程度であることが好ましい。5重量%を超える場合は強度を著しく損なう可能性がある。
【0027】
また、本発明では、通常公知の膨張材及び消泡剤を添加することにより、ひび割れ性能を更に向上させることができる。膨張材としては、石灰系やカルシウムサルホアルミネート系を例示でき、具体的には、エクスパン(商品名 太平洋マテリアル社製)、DENKA CSA(商品名 電気化学工業社製)及び生石灰等が使用できる。添加量としては高流動高強度グラウト材に対して内割で1重量%〜3重量%の範囲であることが好ましい。1重量%未満では、ほとんど効果がみられない一方、3重量%を超える場合は流動性が低下し作業性が損なわれる可能性が高い。
また本発明において使用可能な消泡剤については、通常公知のアルコール系、エーテル系、脂肪酸エステル系、リン酸エステル系、シリコン系等が使用できる。高流動高強度グラウト材中の気泡の増大は、強度低下を招くだけではなく、初期の膨張に対して負の要素を持っており、これらの消泡剤を併用して高流動高強度グラウト材の空気量として3容積%以下に押さえることが望ましい。消泡剤の添加量としては、高流動高強度グラウト材に対して内割で0.05重量%〜1.0重量%が適量で最も好ましい添加量は高流動高強度グラウト材に対して内割で0.07重量%〜0.7重量%である。
【0028】
本発明ではその他に通常公知の増粘剤、防錆剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、ベントナイトなどの粘土鉱物、及びハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等の各種添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。本発明の高流動高強度グラウト材の各材料の混合方法は特に限定されるものではなく、それぞれの材料を現場施工時に混合してもよく、またあらかじめ所定の配合で全量もしくは一部が計量混合されていても良い。
【0029】
本発明の高流動高強度グラウト材を水と混練する方法については特に限定されるものではない。ハンドミキサー、パン型ミキサー、一般的に使用されるグラウトミキサーや二軸ミキサー等汎用のミキサーが使用可能である。さらに、現場での簡便性の観点からは、ハンドミキサーやグラウトミキサーが望ましい。
【0030】
以下に本発明の実施例を挙げ、さらに詳しく本発明を説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下の実験で使用した材料、測定方法は次の通りである。
・使用材料
セメント:早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランド
セメント、低熱ポルトランドセメント 市販品
シリカフューム:シリカフューム粉末(BASFジャパン株式会社 比表面積25m
g)
フライアッシュ:「JIS A 6201コンクリート用フライアッシュ」(市販品 中
部電力株式会社)
膨張材:DENKA CSA#20(市販品 電気化学工業株式会社)
収縮低減剤:テトラガード21AS(市販品 太平洋セメント社 低級アルコールのアル
キレンオキシド付加物)
消泡剤:シリコン系消泡剤
発泡剤1:アルミニウム粉末 市販品
発泡剤2:ベンゼンスルホニルヒドラジド系発泡剤(市販品:永和化成工業株式会社)
減水剤A:レオビルドSP8HU(市販品 BASFポゾリス株式会社 ポリカルボン酸
エーテル系)
減水剤B:重量平均分子量が約25,000で、ポリエチレングリコールの平均付加モル
数が9と42.5のポリエチレングリコールビニルエーテルとアクリル酸と無
水マレイン酸との共重合体を含む減水剤
細骨材:天然珪砂(山形県産)(密度2.66g/cm、粗粒率1.6)
【0032】
・測定方法
流動性:JIS R 5201−1997「セメントの物理試験」で使用されるフローコ
ーンを用いて、コーンを引き上げた後の広がりを測定した。
凝結時間:JIS A 6204−2000「コンクリート用化学混和材 付属書(規定
)コンクリートの凝結試験方法により測定した。
圧縮強度:JSCE−G 505−1999「円柱供試体を用いたモルタルまたはペース
トの圧縮強度試験方法」に準じた。
【0033】
(実験No.1−1〜1−22)
表1に示す割合で、普通ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメント及びその他の材料をあらかじめ混合した高流動高強度グラウト材を練り混ぜ、その物性について試験した。高流動高強度グラウト材の配合はそれぞれ水結合材比=20重量%,18重量%,16重量%として実験した。高速ハンドミキサー(1300rpm)を使用して練り混ぜた。
【表1】

表1より普通ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントと最大粒径が5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材は、普通ポルトランドセメント単独の場合に比べ大きな流動性を示すことが分かった。特にポルトランドセメントの配合比が普通:中庸熱=3:7から7:3の間では比較例よりも10%程度大きなフローの値となった。凝結性能についても中庸熱ポルトランドセメント単独もしくは普通ポルトランドセメントの配合比が小さい場合には、始発時間が10時間以上かかったが、本発明に係る高流動高強度グラウト材は凝結の遅延を抑制した。
なお本実施例では最も特徴的な物性を示す30℃の実験を示したが環境温度はこれに縛られるものではない。
【0034】
(実験No.2−1〜2−22)
表2より普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントと最大粒径が5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材は、普通ポルトランドセメント単独の場合に比べ大きな流動性を示すことがわかった。特にポルトランドセメントの配合比が普通:早強=3:7から7:3の間では、比較例よりも20%程度大きなフローの値となった。凝結性能についても普通ポルトランドセメント単独もしくは早強ポルトランドセメントの配合比が小さい場合には、始発時間が13〜14時間かかったが、本発明に係る高流動高強度グラウト材では良好な凝結時間であった。
本実施例では最も特徴的な物性を示す5℃の実験を示したが環境温度はこれに縛られるものではない。
【表2】

【0035】
(実験No.3−1〜3−4)
表3より普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントと最大粒径が5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材は、それぞれのポルトランドセメント単独の場合に比べ大きな流動性を示すことがわかった。凝結性能についてもそれぞれのポルトランドセメント単独の場合と遜色の無い値を示した。また長期の材齢91日では最も高い圧縮強度を示した。
本実施例では20℃の実験例を載せたが環境温度はこれに縛られるものではない。
【表3】

【0036】
(実験No.4−1〜4−6)
表4よりそれぞれのポルトランドセメントと最大粒径5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材にシリカフュームを添加することにより、流動性が改善されていることがわかった。また長期強度についても改善された。
【表4】

【0037】
(実験No.5−1〜5−6)
表5よりそれぞれのポルトランドセメントと最大粒径が5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材にフライアッシュを添加することにより、流動性が改善されていることがわかった。また高温での長期強度も改善された。
【表5】

【0038】
(実験No.6−1〜6−6)
表6よりそれぞれのポルトランドセメントと最大粒径が5mm以下である細骨材及び減水剤Aを含む高流動高強度グラウト材にフライアッシュ及びシリカフュームを添加することにより、より一層の流動性が改善されていることがわかった。また高温での長期強度も大きく改善された。
【表6】

【0039】
(実験No.7−1〜7−12)
表7より水結合材比が20重量%の配合条件においては、減水剤A,B何れの減水剤を使用した場合でも、高い流動性が得られた。しかし、水結合材比が16重量%の配合条件においては、減水剤Aを使用した場合には必ずしも十分な流動性が得られず、減水剤Bを使用した場合には十分な流動性が得られた。
【表7】

【0040】
膨張率は土木学会基準「充てんモルタルのブリーディング率および膨張率試験方法(容器方法)(JSCE−F 542−1999)」により測定した。
(実験No.8−1〜8−4)
表8より発泡剤Bを使用した場合の方が初期膨張を同じにしても強度が高いことがわかった。
【表8】

【0041】
以下に乾燥収縮低減剤(グリコールエーテル系収縮低減剤 市販品)、を添加した高流動高強度グラウト材の乾燥収縮率を「JHS416長さ変化試験」により測定した結果を示した。表9に示すように添加した場合の収縮率は小さくなることが分かった。また収縮率の小さいと言われている低熱セメントと比較しても、収縮率を小さく出来た。また大きな強度低下も生じないことが分かった。
【表9】

【0042】
膨張材(市販品:電気化学工業社製)および消泡剤(シリコン系)を添加した高流動高強度グラウト材の乾燥収縮率を「JHS416長さ変化試験」により測定しその結果を測定した。表10に示すように添加した高流動高強度グラウト材の空気量や収縮率は小さくなった。
【表10】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のセメント系高流動高強度グラウト材は、超高強度グラウト材として施工でき、超高強度コンクリートの補修や補強が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする、高流動高強度グラウト材。
【請求項2】
ポルトランドセメントが、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項3】
普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする、高流動高強度グラウト材。
【請求項4】
普通ポルトランドセメント及び中庸熱ポルトランドセメントが、質量比で7:3乃至3:7であることを特徴とする、請求項3に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項5】
普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする、高流動高強度グラウト材。
【請求項6】
普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、質量比で7:3乃至3:7であることを特徴とする、請求項5に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項7】
普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び減水剤を含むことを特徴とする、高流動高強度グラウト材。
【請求項8】
普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントが、質量比で2〜4:2〜4:2〜4であることを特徴とする、請求項7に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項9】
水結合材比が20重量%以下で練り混ぜられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項10】
更に、シリカフューム及び/又はフライアッシュを添加してなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項11】
水結合材比が20重量%以下でも高い流動性が得られる減水剤を用いた高流動高強度グラウト材であって、減水剤が、平均付加モル数の異なる2種のポリアルキレングリコールビニルエーテルと不飽和カルボン酸との共重合体であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項12】
更にスルホニルヒドラジド化合物、アゾ化合物およびニトロソ化合物からなる群から選ばれた1種又は2種以上の発泡剤を含有することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項13】
発泡剤の配合量が内割りで0.01重量%〜0.1重量%含有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項14】
更に乾燥収縮低減剤を内割りで0.1重量%〜5重量%含有することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。
【請求項15】
更に膨張材を内割りで1重量%〜3重量%、消泡剤を内割りで0.1重量%〜0.5重量%含有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の高流動高強度グラウト材。

【公開番号】特開2011−102222(P2011−102222A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258433(P2009−258433)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(503343336)コンストラクション リサーチ アンド テクノロジー ゲーエムベーハー (139)
【氏名又は名称原語表記】Construction Research & Technology GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.−Albert−Frank−Strasse 32, D−83308 Trostberg, Germany
【Fターム(参考)】