説明

高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼

【目的】 希土類金属添加鋼と同等の耐スケール剥離性および電気伝導性を有し、特に固体酸化物型燃料電池の集電部位として最適な希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼を提供する。
【構成】C:0.03質量%以下,
Si:1.5質量%以下(より好ましくは0.5質量%未満),Mn:0.4〜1.5質量%(より好ましくは1.1質量%未満),S:0.0008〜0.0050質量%,
Cr:18〜24質量%,Ni:2質量%以下,Cu:0.1〜1.5質量%,N:0.03質量%以下,Sn:0.05質量%以下,Al:0.10質量%以下,さらに2≦Mn/Nb≦3となるようNb量が調整されており、残部がFeおよび不可避的不純物より、必要に応じMo:0.1〜4.0質量%,W:0.1〜4.0質量%,Ti:0.10質量%未満,Zr:0.10質量%未満,V:0.05〜0.50質量%,Ta:0.05〜0.50質量%,Co:3質量%以下、Ca:0.0005〜0.02質量%,B:0.0002〜0.01質量%である、耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐高温酸化性が要求される用途、中でも特に固体酸化物型燃料電池の集電部材用途として好適な高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油を代表とする化石燃料の枯渇化,CO排出による地球温暖化現象等の問題から、従来の発電システムに替わる新しいシステムの実用化が求められている。新しい発電システム、分散電源あるいは自動車などの動力源として、クリーンな発電システムである燃料電池が注目を浴びている。
【0003】
燃料電池にはいくつかの種類があるが、その中でも固体酸化物型燃料電池(以下、SOFCと称する)は作動温度,エネルギー効率ともに燃料電池の中では最も高く、実用化が有望視されている発電システムである。
SOFCの作動温度は600〜1000℃程度と高く、当初はセラミックスが使用されていた。近年、コストおよび熱疲労特性および耐高温酸化性に優れている金属材料(高Cr,高Ni系オーステナイト系ステンレス鋼)が適用されつつある。
【0004】
SOFCに必要な要求特性は、600〜1000℃の温度域で良好な耐酸化性と電気伝導性(30mΩ・cm以下)、およびセラミックス系の固体酸化物と同等の熱膨張係数(室温〜800℃で13×10−6(1/K)程度)を有することであり、加えて起動停止を頻繁に繰り返す場合は耐熱疲労性,耐スケール剥離性も要求される。
【0005】
高温での耐水蒸気酸化性に優れている高Cr,高Ni系オーステナイト系ステンレス鋼は、熱膨張係数が非常に高く起動・停止が頻繁に行われるような状況では熱膨張・熱収縮が発生し熱変形、スケール剥離およびセラミックス部位との接合部の剥離、損傷などが生じるため、使用できない。一方、フェライト系ステンレス鋼は、熱膨張係数が電解質と同程度であるため、SOFC用材料として最適である。
【0006】
従来、SOFCの集電部位用フェライト系ステンレス鋼の技術としては、例えば下記のような技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−157801号
【特許文献2】特開平10−280103
【特許文献3】特開2003−105503
【特許文献4】特開2003−173795
【特許文献5】特開2004−91923
【特許文献6】特開2005−206884
【特許文献7】特開2005−220416
【特許文献8】特開2005−264298
【特許文献9】特開2005−264299
【特許文献10】特開2005−320625
【特許文献11】特開2006−57153
【特許文献12】特開2007−16297
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献6を除き、耐酸化性の改善には高価な希土類金属(La,Ceなど:以下REMと称する)や、Y,Hfなどの希少金属の添加が必須となっている。これは、鋼のコスト上昇要因となるばかりでなく、貴重な鉱物資源の使用という観点からも好ましくない。しかしながら、これらの元素の添加が耐酸化性を大幅に向上させることもまた事実である。これらの希土類金属や希少金属をともなわずに同等以上の耐酸化性を有するためには、AlまたはSiといった、電気伝導性を損なう元素を添加するしかないのが現状であった。なお、(6)の技術にしても、Mn:1.1質量%以上の添加をともなうため、希土類金属を添加する技術よりも酸化増量が増大し、鋼の耐久寿命低下や終電板として用いた場合には電気伝導性を低下させてしまうという問題があり、加えて鋼の製造性を損ない製造コストの上昇をともなう技術である。このように、希土類金属の添加をともなわず、かつ希土類金属と同等以上の耐酸化性,導電性を確保する知見は見出されていないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来のフェライト系ステンレス鋼をベースとし、高温水蒸気雰囲気に曝される燃料電池の集電部位用材料として、高温での電気伝導性および耐高温酸化性を希土類添加鋼並みのレベルで確保し、かつ希土類金属を使用しないことでコスト低減を図った、特にSOFCの集電板用途に最適なフェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【0010】
本発明に係るフェライト系ステンレス鋼の化学組成は、以下のとおりである。
請求項1に記載の発明は、C:0.03質量%以下, Si:1.5質量%以下,Mn:0.4〜1.5質量%,P:0.01質量%以下,S:0.0008〜0.0050質量%, Cr:14〜24質量%,Ni:2質量%以下,Cu:0.1〜1.5質量%,N:0.03質量%以下,Sn:0.05質量%以下,Al:0.1質量%未満,O:100ppm以下,さらに質量比で2≦(Mn/Nb)≦3となるようNb量が調整されており、残部がFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする、高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼である。
請求項2に記載の発明は、請求項1の成分に加え、Mo:0.1〜4.0質量%,W:0.1〜4.0質量%,Ti:0.10質量%未満,Zr:0.10質量%未満,V:0.05〜0.50質量%,Ta:0.05〜0.50質量%,Co:2質量%以下の1種または2種以上を含む、請求項1に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼である。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の成分に加え、Ca:0.0005〜0.02質量%,B:0.0002〜0.01質量%の1種又は2種以上を含む請求項1または2に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼である。
請求項4に記載の発明は、Si添加量が0.5質量%未満である請求項1〜3に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼である。
請求項5に記載の発明は、固体酸化物型燃料電池の集電部位用であることを特徴とする請求項1〜4に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼である。
【発明の効果】
【0011】
以上に説明したように、本発明のフェライト系ステンレス鋼は、高温で良好な耐酸化性および電気伝導性を有することが特徴であり、特にSOFC集電部位用材料として最適である。このことにより、SOFCの性能および耐久性の向上が見込まれ、商品化および一般家庭への普及が促進されるとともに、環境問題の改善にもつながるものと期待される。また、本用途に限らず耐酸化性が要求される用途であれば汎用的に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】1000℃,100時間の酸化試験後に超音波洗浄を施した供試材のスケール剥離量を、鋼中のS濃度で整理した図
【発明を実施するための形態】
【0013】
燃料電池の高温水蒸気雰囲気(600〜1000℃)に曝されると、酸化が容易に進行するのに加えて、導電部の電気抵抗が増大し、燃料電池の機能を損なう。加えて起動−停止を頻繁に繰り返す場合、酸化量の増大のみではなく、生成したスケールが剥離することで導電部の電気伝導度を損ない、装置の寿命低下につながる。これらのことがフェライト系ステンレス鋼を集電板へ適用する上で大きな問題となる。
【0014】
フェライト系ステンレス鋼は鋼材の線膨張係数が酸化スケールの線膨張の値に近く、生成した酸化スケールが比較的剥離しにくい鋼材である。しかし、1000℃近い高温,もしくは長時間の使用においては、フェライト系ステンレス鋼といえども加熱−冷却にともないスケール剥離が生じる。
フェライト系ステンレス鋼のスケール剥離の要因を種々検討した結果、1000℃近傍で酸化させた場合、酸化物中に発生した空孔が酸化物/母材界面に集積しボイドを形成することが最も大きな要因であると考えられた。また、さらにS濃度が高い場合は皮膜/合金界面にSが偏析濃化し皮膜の密着性を下げるのも複合要因として考えられた。
【0015】
これらの要因に対しては、従来希土類金属や、Y,Hfなどの希少金属の添加により改善されてきた。これらの元素が耐スケール剥離性を改善する機構についてはいくつか提案されているが、特にボイド発生に関しては酸化物中の空孔を吸収しボイド発生を抑制する効果があると考えられており、事実REMを添加した鋼を1000℃近傍で酸化させた場合、無添加鋼と比較してスケール界面に生成するボイドが著しく減少する。このことにより高温での耐酸化性,特にスケール密着性が向上することに加え、さらにはSOFCの集電部位においては酸化スケール/母材界面のボイド生成が抑制されることで高温での電気伝導性が改善されるという効果も得られる。しかしながら、希土類金属添加に関しては上述するような問題点があるため、希土類金属添加を行わずにREM添加鋼並みの耐スケール剥離性を有する方法について検討を行ってきた。その結果、以下のとおり『MnとNbの複合添加』という本発明の知見を得るに至った。
【0016】
本発明で検討しているフェライト系ステンレス鋼の場合、Crが内側(またはCrの単一層として)に層状に形成される。Crの皮膜と母材界面に、Crで発生した空孔を吸収する内部酸化物を形成する酸化物の層を形成させることが出来れば、ボイドの生成を抑制することが可能である。MnはCrの皮膜と母材との界面にMnもしくはMnOといった酸化物を形成することで、母材界面に拡散してくる空孔を吸収しボイド発生を抑制させているものと推察される。また、あわせてSの皮膜/母材界面への偏析濃化も抑制する効果もあるものと考えられる。
【0017】
しかし、その一方でMnは鋼の酸化速度(スケール厚み)を増大させ、鋼の耐久寿命を低下させるばかりでなく、スケール厚み増大による応力増加で耐スケール剥離性向上効果,電気伝導性向上効果をキャンセルしてしまうことがあり、単独添加ではその効果を十分に発揮させることが難しい。そこで、Cr皮膜と母材との界面で酸化物として共存できる元素と複合添加させることでMn添加による耐スケール剥離性を十分に発揮させる必要がある。その元素としては酸化速度を低下させる効果があり、かつ酸化物形成により導電性を損なわないものである必要があり、本発明者らの鋭意検討の結果、Nbとの複合添加が効果的であるとの結論に至った。Nbにはその作用メカニズムは不明であるが(酸化物中のCr濃度の向上,C,N固定による効果,酸化物/母材界面での酸化物層形成などが考えられる)、質量比で(Mn/Nb)≦3となるよう添加することにより、Mn添加による酸化量増大を抑制する効果がある。ただし、(Mn/Nb)<2では酸化物/母材界面にNbまたはより低次のNb系酸化物が層状に生成する。このNbはCrおよび母材との線膨張係数差が大きいため、生成したスケールは剥離しやすいものになる。すなわち、(Mn/Nb)の値として、2(Mn/Nb3となるよう狭い範囲で調整することで、REM添加に匹敵する耐スケール剥離性を有し、かつ良好な電気伝導度を有することを見出し、本発明に至った。
【0018】
さらに、本発明におけるフェライト系ステンレス鋼の成分・組成を次のように定めた。
C、N:0.03質量%以下
高温強度,特にクリープ特性を改善する成分であるが、フェライト系ステンレス鋼に過剰添加すると加工性,低温靱性を著しく低下させる。また、Ti,Nb等のいわゆる安定化元素との反応によって炭窒化物を生成しやすく、高温強度の改善に有効なこれらの元素の固溶量を減少させる。したがって、本成分系ではC,N含有量は少ない程好ましく、共に上限を0.03質量%以下に設定した。
【0019】
Si:1.5質量%以下
Cr系酸化物の安定化に有効な合金成分であり、耐水蒸気酸化性の向上に有効な成分である。しかし、1.0質量%以上を超える過剰量のSiが含まれると、酸化スケールと母材との界面に電気抵抗の高いSiOの酸化物層を形成し、耐スケール剥離性および電気伝導度を低下させる。また、低温靱性を損ない鋼表面に疵が生成しやすくなるなど、製造性も低下する。好ましくは0.5質量%未満である。
【0020】
Mn:1.5質量%以下
フェライト系ステンレス鋼のスケール剥離性を向上させる成分であるが、1.5質量%を超える過剰量のMnが含まれると鋼材が硬質化し、加工性,低温靱性が低下する。なお、酸化増量および接触抵抗値の増大を抑制するためには1.1質量%未満であることが好ましい。
【0021】
P:0.01質量%以下
熱間加工性,加工性,溶接性および耐酸化性を低下させる元素であり可能な限り低減させることが好ましい。本発明では0.01質量%以下とする。
【0022】
S:0.0008〜0.0050質量%以下
熱間加工性,耐溶接高温割れ性に悪影響を及ぼす成分であり、異常酸化の起点にもなる。そのため、S含有量は可能な限り低くすることが望ましい。特に本発明では耐スケール剥離性を改善することを目的とするため、上限は0.0050質量%と、通常のフェライト系ステンレス鋼よりも更に低く設定する。ただし、S濃度が0.0008質量%未満であれば本発明のMn/Nb添加量の範囲を外れても耐スケール剥離性はある程度改善される。その一方で、鋼材の極低硫化には製鋼工程での多大な精錬時間と多量の脱硫材を使用するため製造コストの大幅な上昇につながり好ましくない。
本発明は希土類金属元素無添加で、かつ0.0008質量%以上のSを含有した通常のフェライト単相ステンレス鋼と同等の製造コストを有するステンレス鋼財においても場合でもその効果が現れることを特徴としており、その意味で下限を0.0008質量%とする。
【0023】
Cr:14〜24質量%
ステンレス鋼に必要な耐食性,耐酸化性,電気伝導性を付与するうえで必要な合成成分である。600℃〜1000℃での耐酸化(特に耐スケール剥離性)および良好な電気伝導性を確保するためには、14質量%以上,好ましくは18質量%以上のCrが必要である。24質量%を超えるCrの添加は、フェライト系ステンレス鋼の加工性,低温靱性および475℃脆化感受性を低下させるため、上限を24質量%とした。
【0024】
Ni,Co:いずれも2質量%以下
フェライト系ステンレス鋼の熱延板靭性および低温靭性を改善する元素であるが、多量の添加は相の安定性を損ない、また鋼の硬化を伴う。従い上限を2質量%に設定する。
【0025】
Cu:0.1〜1.5質量%
Cuは固溶または析出強化により高温強度,熱疲労特性、高温での電気伝導性および鋼の低温靭性を向上させる。この効果は0.1質量%以上の添加により顕著になるが、過剰量のCuが含まれると鋼材が過度に硬質化するので、上限を1.5質量%に設定した。
【0026】
Sn:0.05質量%以下
鋼の加工性,特に切削性を向上させる元素であり、特にせん断加工や切削加工を行う用途に関しては0.05質量%を上限として含有させることができる。好ましくは0.001〜0.03質量%である。0.05質量%を超えて添加すると製造性が低下する。
【0027】
Mo:0.1〜4.0質量%,W:0.1〜4.0質量%
MoおよびWは固溶強化により高温強度および耐熱疲労特性を向上させるため、特に熱疲労特性が考慮される部位においては、必要に応じて添加される。また、これらの元素は初期酸化過程において良好なCrを生成させる作用があり、その結果鋼が異常酸化するまでの時間を長時間側にシフトさせる効果もある。特にSOFCの集電板を考慮した場合、質量%でCr+2.5*(Mo+1/2W)の値が22以上になるよう添加することが好ましい。なお、過剰量のMo,Wが含まれると鋼材が過度に硬質化するので、上限を3.0質量%に設定した。
【0028】
Ti:0.10質量%未満,Zr:0.1質量%未満,V:0.05〜0.50質量%,Ta:0.05〜0.50質量%
いずれも必要に応じて添加される成分であり、固溶または析出強化によりフェライト系ステンレス鋼の高温強度を更に向上させる。しかし、過剰量のTi,Zr,VおよびTaが含まれると鋼材が過度に硬化する。また、TiはMnと競合して内部酸化物を形成しMn添加の効果を損なうため、Zrは熱間加工性を著しく低下させるためいずれも上限を0.1質量%未満とし,VおよびTaは0.05〜0.50質量%に設定した。
【0029】
Al:0.10質量%未満
Alは脱酸材として使用されるのみでなく、表面にAlの酸化皮膜を形成させるため、耐高温酸化性を著しく向上させるという側面もあるが、その一方で加工性・溶接性を低減させるのみでなく、集電板の電気伝導度も損なうなどマイナス要因の方が大きいため、本発明では0.10質量%未満に低減した。
【0030】
Ca:0.0005〜0.01質量%
必要に応じて添加される成分であり、Sを固定することでフェライト系ステンレス鋼の耐酸化性を更に向上させる。0.0005%以上で添加効果が顕著になる。しかし、過剰量のCaが含まれると鋼材が過度に硬化し、製造時に表面疵が生じやすくなり製造コストの上昇を招くので、上限を0.01質量%に設定した。
【0031】
B:0.0002〜0.01質量%
ステンレス鋼の熱間加工性および耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて添加される。過剰添加は逆に熱間加工性および鋼表面の表面性状を低下させるため、上限を0.01質量%とした。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
表1の成分・組成をもつ各種フェライト系ステンレス鋼を30kg真空溶解炉で溶製し、インゴットに鍛造した。インゴットを粗圧延した後、熱延,焼鈍酸洗,冷延,仕上焼鈍を経て板厚1.5mmの冷延焼鈍材を製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
各フェライト系ステンレス鋼から25mm×35mmに切り出し、最終仕上条件として湿式研磨により#400の番手で研磨仕上を施した試験片で、大気中で1000℃,100時間の酸化試験を実施した。
耐酸化性の評価は、試験後の酸化試験片を室温のエチルアルコール中で5分間の超音波洗浄(超音波洗浄器として、アスワン(株)USクリーナー,US−1Rを使用)を実施し乾燥機で1時間乾燥させた後、超音波洗浄後の単位体積あたりの重量から酸化試験後の単位体積あたりの重量(酸化試験時に剥離したスケールを含む重量)を差し引くことでスケール剥離量を評価した。
【0035】
図1に示すように、本発明鋼はいずれもスケール剥離量が0.3mg/cm2を下回り、参考鋼のREM添加鋼と同等の耐スケール剥離性を示した。一方、比較鋼のうち、Mn/Nbの値が2を下回ったものはS濃度が0.008質量%以上になるといずれも0.3mg/cm2を大幅に上回る結果となった。
【0036】
[実施例2]
実施例1のとおり製造したフェライト系ステンレス鋼のいくつかを切り出し、最終仕上条件として湿式研磨により#400の番手で研磨仕上を施し、800℃での電気抵抗率を測定した。
電気抵抗率の測定は、板厚1.5mm,20mm×20mmに加工した試験片を用い、この試験片を両側から、半径9mmのランタンストロンチウムマンガン(La0.6−Sr0.4−Mn)製固体酸化物の円板にPtペーストを塗布して挟み込み、当該挟み込み測定試料の上下に電流供給用の白金電極を配置した。さらに試験片とランタンストロンチウムマンガン(La0.6−Sr0.4−Mn)製固体酸化物円板の接触面の面圧が2kg/cmとなるように白金電極上に荷重をかけ、この状態で大気中で900℃に昇温し2時間保持させて焼結処理したのちに大気中で1000℃,100時間保持した。その後800℃に降下、1時間保持した後にそのままの状態、すなわち800℃で電気抵抗Aを測定した。具体的には白金電極間に10mAの定電流を流して、試験片を挟み込んだランタンストロンチウムマンガン(La0.6−Sr0.4−Mn)製固体酸化物間の電位差を測定し、電気抵抗に換算した。更に測定値を(A×(0.9×0.9×3.14))÷2と計算することで接触抵抗の値を求めした。接触抵抗の値が50mΩ・cm以下を○とし、50mΩ・cmを超える電気抵抗率のものを×として、電気伝導性を評価した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2に示すように、(S≧0.0008質量%の)REM無添加鋼の中では、本発明鋼である2≦(Mn/Nb)≦3を満足する鋼のみが良好な接触抵抗値を示した。特に、(Mn/Nb)>3となるB−1鋼は実施例1に示すように耐スケール剥離性こそ良好であったが、酸化増量が増大したことで接触抵抗の値が50mΩ・cmを上回ってしまい、目標未達となった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、SOFCの集電部材として最適であるが、その用途以外にも水蒸気酸化雰囲気に曝される高温機器用途であれば広幅に適用できるものであり、そのような用途への幅広い適用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.03質量%以下,
Si:1.5質量%以下,Mn:0.4〜1.5質量%,P:0.01質量%以下,S:0.0008〜0.0050質量%, Cr:14〜24質量%,Ni:2質量%以下,Cu:0.1〜1.5質量%,N:0.03質量%以下,Sn:0.05質量%以下,Al:0.1質量%未満,O:100ppm以下,さらに質量比で2≦(Mn/Nb)≦3となるようNb量が調整されており、残部がFeおよび不可避的不純物よりなることを特徴とする、高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項2】
請求項1の成分に加え、Mo:0.1〜4.0質量%,W:0.1〜4.0質量%,Ti:0.10質量%未満,Zr:0.10質量%未満,V:0.05〜0.50質量%,Ta:0.05〜0.50質量%,Co:2質量%以下の1種または2種以上を含む、請求項1に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
請求項1または2の成分に加え、Ca:0.0005〜0.02質量%,B:0.0002〜0.01質量%の1種又は2種以上を含む請求項1または2に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項4】
Si添加量が0.5質量%未満である請求項1〜3に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。
【請求項5】
固体酸化物型燃料電池の集電部位用であることを特徴とする請求項1〜4に記載の高温での耐酸化性に優れた希土類金属無添加のフェライト系ステンレス鋼。

【図1】
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【公開番号】特開2011−174152(P2011−174152A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40264(P2010−40264)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】