説明

高温のPEM型燃料電池における電極侵食の軽減

アノード触媒層と、触媒支持体材料上に配置された触媒層を有するカソード電極(15)とを備えた燃料電池のスタック(11)を含む燃料電池電力設備(10)を作動させる方法は、電力設備の通常作動の際に、スタックの温度について予め決められた最大電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるようにスタックの電圧を調節することを含むことを特徴とする。さらに、前記の調節することは、以下の予め決められた電圧、すなわち、a)触媒支持体材料の腐食が、予め決められた電圧より上では大きいものとなり、スタックの温度で、予め決められた電圧より下では小さいものとなる、予め決められた電圧、および、b)触媒の溶解が、予め決められた電圧より上では大きいものとなり、スタックの温度で、予め決められた電圧より下では小さいものとなる、予め決められた電圧、のうちの低い方にスタックの電圧を調節することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電極の著しい侵食を防止するようにスタック温度の関数としてスタック電圧を調整することを実現することによって、100℃を超えて作動されるPEM型燃料電池における電極の触媒および炭素支持体の腐食が軽減される。電池電圧は、a)電極支持体材料(炭素または他の材料)の著しい腐食を防止するのに関連する電池電圧、およびb)触媒の溶解を防止するのに関連する電池電圧のうちの低い方に保持される。
【背景技術】
【0002】
プロトン交換膜(PEM)型燃料電池は、車両用途として魅力のある特性を有する。燃料電池の温度を調整するためには、燃料電池から流出する冷却材中の過剰な熱の全てを車両のラジエータによって熱除去する必要がある。低温で所定量の熱を連続的に除去するには、高温で同量の熱を除去するより大きなラジエータを必要とする。PEM型燃料電池は一般に65〜80℃で作動するが、この比較的低い作動温度では、車両に過度に大きなラジエータを使用することが必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
約120℃で作動することが意図されている膜が開発中である。しかしながら、白金の溶解度は温度とともに増加し、炭素の腐食速度は、温度とともに指数関数的に増加する。従って、カソード触媒および炭素支持体の劣化は、高温ほどより急激に生じる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の最も重要な特徴は、電極の貴金属触媒および炭素支持体両方の電極侵食の速度を制御する際の電池温度と電池電圧の関係の発見にある。図1に示すように、電極を流れる溶解開始を促進する電流と腐食開始を促進する電流は両方とも、高温になるほど低電圧で生じ、低温になるほど高電圧で生じる。図1は、線より上では炭素腐食が過剰となる電圧の実線と、線より上では白金(例えば)溶解が過剰となる電圧の実線のプロットを含む。点線は、これら2つのうちの低い方を示しており、スタック寿命を延ばすためには超えてはならない電圧である。
【0005】
従って、電極電圧が高く(例えば、水素基準電極に対して約0.85ボルト超を上回る)、同時に、電池温度が高い(例えば、100℃(212°F)以上)場合、電極侵食は著しいものとなる。しかしながら、電圧が高く、温度が低い(例えば、65℃(150°F)程度)場合は、電極侵食はより少ないものとなる。すなわち、電池電圧または電池温度が高い場合、それぞれ同時に電池温度または電池電圧が低くなければ、侵食は著しいものとなる。
【0006】
燃料電池電力設備の通常の作動時には、最大電池電圧は温度の関数として調整される。
【0007】
さらに、特定の特徴は、現在の温度で触媒の溶解が防止されるための予め決められた安全電圧以下にかつ現在の温度で炭素支持体の腐食が防止されるための予め決められた安全電圧以下に実質的になるように燃料電池電圧を調節するように、電力調整装置、バッテリ充電器、または可変補助負荷を作動させることなどによって電圧を制御することにある。この特徴は、アイドリング(電力需要が低いか全くない状態)が頻繁に生じて電池電圧が高くなる車両に使用される電力設備では重要になり得る。
【0008】
他の変形例は、添付の図面に示される例示的な実施例についての以下の詳細な説明に照らしてより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】温度の関数としての触媒および炭素についての最大安全電圧の簡略図。
【図2】特に100℃(212°F)を超えて作動するPEM型燃料電池において、電極侵食を低減するように電池電圧を制御するのに関連した全ての機能を実行できる燃料電池電力設備の様式化した概略ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
燃料電池電力設備10は、約120℃の温度などの100℃を十分に超える温度で作動可能な膜12を有するPEM型燃料電池のスタック11を備える。それぞれの燃料電池は、空気入口マニホールド17および空気排気マニホールド18と流体連通する空気流れ場を備えたカソード15を有する。
【0011】
空気は制御可能な空気送風機23に供給されるが、点線の矢印は、制御装置24からの送風機への制御入力を示している。カソードへの空気の流れをさらに制御するように、ポンプと空気入口マニホールド17の間に任意の制御可能な弁25が配置可能である。排気マニホールド18内の温度センサ27が、電池温度の指示を提供する。温度はさらに、あるいは代替として、図示しないがアノード排気やスタック内、または冷却材出口にあるセンサ28によって監視可能である。
【0012】
各燃料電池は、アノード29を有しており、アノード29は、この実施例では二重経路構成を有するように示されている。水素供給源31は、工業等級の水素(またはそれより良い)タンクとすることができ、または、少量の特に害のない気体と共に微量のCOおよびCO2を有することがある改質物気体の形態で水素を供給するのに適した気体清浄装置を備えた改質器とすることができる。水素供給源31は、遠隔計測圧力調整器32に水素を供給することができ、遠隔計測圧力調整器32は、燃料入口/出口マニホールド35の入口側34へと燃料入口導管33内を流れる水素の圧力を制御する。スタック11の電気負荷が増加すると、アノード内の水素の圧力、従って、圧力調整器32における水素の圧力が低下することになるので、圧力調整器32が開いて付加的な水素を燃料電池に供給することになる。一方、負荷が減少すると、過剰の水素が存在することになるので、圧力調整器32は、燃料電池に供給されている水素の量を減少させることになる。
【0013】
燃料流れ場の第1の経路部分を通過した後で、燃料は、燃料 方向転換マニホールド38内で方向転換し、燃料電池の第2の経路部分を通過して、燃料入口/出口マニホールド35の燃料出口部分39へと流れる。出口の燃料は、制御可能な燃料ポンプ41へと流れて、燃料再循環気体を燃料入口導管33に供給する。排気燃料はパージ弁43にも接続され、パージ弁43は、再循環気体中の窒素やその他の気体の量を低減するように燃料排気を排出する。
【0014】
燃料電池の温度を制御するように、また、いくつかの構成では、燃料電池電力設備10の冷却材の貯蔵量を調整するのを助けるようにスタック11内に冷却材通路48が設けられる。
【0015】
空気流れ場プレートおよび燃料流れ場プレートが中実である場合、冷却材通路は、燃料電池の群間に配置された冷却器プレート内に設けることができる。多孔質かつ親水性の水輸送プレートを用いる構成では、冷却材通路は、反応物気体流れ場プレートの裏面内または裏面間に設けることができる。
【0016】
冷却材通路48の出口と入口の間で、制御可能な冷却材ポンプ51と、制御可能なファン54および制御可能なバイパス弁55を有するラジエータ53と、脱イオン装置57を通過する流れを制限する流量絞り58を有する脱イオン装置57と、蓄積装置60と、冷却材圧力制御弁61とが相互に接続される。スタック冷却材水は、グリコールと熱交換することも可能であり、次いでグリコールがラジエータ内で冷却されることになる。
【0017】
冷却材通路出口と冷却材通路入口の間での冷却材部材の相互接続を定義する上述の句は本願では、本願でなされたいずれかの表現に記載された明示の順番とは異なる相対的な順番で冷却材部材を相互接続することも含むように定義される。
【0018】
燃料電池スタックの電力出力は、カソード65からライン66を通るとともにアノード68からライン67を通って一対のスイッチ69、70へと導かれ、一対のスイッチ69、70は、図示されている位置に設定された場合は、スタックを電力調整装置72に接続し、電力調整装置72は次いで、電気負荷73に供給する。一般に電力調整装置は、DCを、負荷73に必要とされる三相ACと相関係にある三相ACに変換する。しかしながら、電力調整装置は、スタック上の負荷を別な仕方で制御するように制御装置24によって制御可能である。
【0019】
図に示されているものとは反対の位置にスイッチ69、70を調節すると、スタックは可変補助負荷75に接続されることになり、可変補助負荷75は、燃料電池電力設備の停止および始動の処理を助けるように、また、本願の他の場所で記載されるような温度の関数として電圧を制御するように制御装置によって調節可能である。始動、停止、および電圧制御について別々の補助負荷を設けることもできる。
【0020】
電圧センサ77が、出力ライン66、68間に接続される。電圧は、触媒の溶解速度や、炭素または以下に記載するものなどのような他の触媒支持体材料の腐食速度を変化させる電圧/温度関係の決定および制御において最も重要である。一実施例では、大きな負荷での電力設備の通常作動の際に、冷却材温度および冷却材流量は、実質的に一定となるように、あるいは、電池電圧の関数として変化する(電圧が高いほど、水温が低くなる)ように制御される。制御装置は、バイパス弁55を開にすることによってラジエータ53を通過しない冷却材の量を調節することができる。これによって、冷却材の温度を上昇させることができる。一方、制御装置は、ファン54にラジエータ53内の冷却材を冷却させることができ、あるいは、ファンを停止させることができる。このように、冷却材の温度は、制御装置24によって制御される。制御装置は、冷却材ポンプ51の速度を制御することで冷却材の流量を制御することもできる。
【0021】
制御装置は、制御装置によって冷却材の温度および流量を電池電圧の関数として変化させることになるモードを実現しようとする場合、電圧センサ77に応答してちょうど今記載されたパラメータのうちの1つまたは複数のパラメータを調節することで、冷却材によって電池に供給される冷却量が、温度センサ27によって決定される電池温度の関数となるようにする。しかしながら、それは、(適切なスタック作動について以外の)温度の制御というより電圧の制御のようである。
【0022】
電池電圧および温度の関数として電極侵食の量を低減するために、本実施例では、電池電圧は、1つまたは複数の電池温度センサによって示される温度について予め決められた最大電池電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるように通常作動の際に調節される。電圧の調節は、結果としてスタックの現在の温度についての所望の電圧となる性能曲線に沿った点に電流密度を設定するように、カソード流れ場を通過する空気流の体積を調節することによって、または電気負荷を調節することによって達成される。制御装置は、電流を調節して電池電圧を制御するように増幅器などの回路を用いて、一般に動的になり得る、可変補助負荷75を調節することによって所望の電池電圧を達成することができる。あるいは、可変補助負荷は、単なる抵抗とすることができる。電圧は、適切な速度でバッテリ(またはスーパーキャパシタ)を充電することによっても制御可能である。
【0023】
本願の方法は、炭素以外の触媒支持体材料上に支持された触媒層を有する燃料電池と共に使用可能である。これらの触媒支持体材料としては、チタン、タンタル、ニオブ、イットリウム、モリブデン、インジウム、およびスズの酸化物や、イットリウム、モリブデン、インジウム、スズ、鉄、チタン、およびタンタルのリン酸塩が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池のスタック(11)を備えた燃料電池電力設備(10)を作動させる方法であって、該スタック(11)は、電力出力(65、67)と、入口および出口を有する冷却材通路(48)とを備え、各燃料電池は、膜電極アッセンブリと、アノード燃料流れ場プレートと、カソード空気流れ場プレートとを備え、膜電極アッセンブリは、アノード触媒層と、触媒支持体材料上に配置された触媒層を有するカソード電極との間に配置された高分子プロトン交換膜(12)を備え、アノード燃料流れ場プレートは、膜電極アッセンブリのアノード側に配置され、カソード空気流れ場プレートは、膜電極アッセンブリのカソード側に配置され、電力設備はさらに、
スタック電圧センサ(77)と、
スタック温度センサ(27、28)と、
水素含有燃料をアノード流れ場プレートに供給する供給源(31)と、
酸化剤をカソード流れ場プレートに供給する酸化剤供給源(23)と、
電力出力と負荷(73)との間に接続された電力調整装置(72)と、
電力設備制御装置(24)と、
を備え、
電力設備の通常作動の際に、スタックの温度について予め決められた最大電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるようにスタックの電圧を調節する、
ことを含むことを特徴とする、燃料電池電力設備(10)を作動させる方法。
【請求項2】
さらに、前記の調節することは、予め決められた電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるようにスタックの電圧を調節することを含み、電極侵食は、前記予め決められた電圧より上では大きく、スタックの温度で、前記予め決められた電圧より下では小さいことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記の調節することは、以下の予め決められた電圧、すなわち、
a)触媒支持体材料の腐食が、予め決められた電圧より上では大きいものとなり、スタックの温度で、予め決められた電圧より下では小さいものとなる、予め決められた電圧、および、
b)触媒の溶解が、予め決められた電圧より上では大きいものとなり、スタックの温度で、予め決められた電圧より下では小さいものとなる、予め決められた電圧、
のうちの低い方にスタックの電圧を調節することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記の調節することは、スタック上の電気負荷(75)を調節することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
さらに、制御装置(24)が、スタック温度センサ(27、28)に応答して負荷(75)を調整することで、スタック電圧センサ(77)によって示されるスタックの電圧を、前記予め決められた最大電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるようにすることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
さらに、前記の調節することは、補助負荷(77)を流れる電流を調節することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
さらに、前記の調節することは、可変抵抗(77)を流れる電流を調節することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
さらに、前記の調節することは、電気貯蔵装置内への電流を調節することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
さらに、酸化剤供給源(23)は、制御可能であり、
前記の調節することは、スタックの電圧を制御するようにカソード流れ場への酸化剤の流れを調整することを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項10】
さらに、制御装置(24)が、スタック温度センサ(27、28)に応答して酸化剤の流れ(23)を調整することで、スタック電圧センサ(77)によって示されるスタックの電圧を、前記予め決められた最大電圧に実質的に等しいかそれより小さくなるようにすることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
さらに、電力設備は、電気出力と負荷(73)との間に接続された電力調整装置(72)を備え、
前記の調節することは、スタック(11)上の負荷を調節するように電力調整装置(72)を作動させる(24)ことを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2013−503438(P2013−503438A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526695(P2012−526695)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/US2009/004892
【国際公開番号】WO2011/025469
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(500477447)ユーティーシー パワー コーポレイション (138)
【Fターム(参考)】