説明

高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材

【課題】成形品の結晶粒の粗大化を抑制し、キャビティの発生を少なくすることができる高温拡管成形用6000系アルミニウム合金中空押出材を提供する。
【解決手段】Mn:0.05〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%とした6000系アルミニウム合金中空押出材に、400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とする高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、二輪車、鉄道車両等のアルミニウム構造部材のように、必要な強度を確保しつつ、複雑な形状が要求される部材に適する高温拡管成形用6000系アルミニウム合金中空押出材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題や急激な原油価格高騰の影響で、自動車や二輪車、鉄道車両等の輸送機器において従来以上の燃費向上が求められている。このような状況のなかで、燃費向上に大きく寄与する車体の軽量化が重要な課題となっており、フレーム等に用いられる中空部材等にアルミニウム合金の適用が広がってきている。
【0003】
従来、アルミニウム中空押出材を所定の形状に一体成形するための加工技術としては、ハイドロフォーミングが主流であった。ハイドロフォーミングは液圧による拡管成形方法で、部材の断面を任意の形状に成形することが出来るという利点を生かし、自動車用構造材を中心に適用の範囲が広がっている。
【0004】
一方で、特開2002−096118号公報、特開2003−103327号公報、特開2005−325444号公報等で示されるように高温で気体によって内圧を負荷してパイプの形状を変えることができる熱間バルジ加工が注目されている。熱間バルジ加工は高温で成形を行うことにより変形抵抗が減少し、材料の伸びが増加するため、常温で成形を行うハイドロフォーミングと比べて拡管率を高くすることが出来る。そのためにより複雑な形状の成形が可能となり、今後の利用拡大が期待されている技術である。
【0005】
ただし、従来のアルミニウム合金を用いた場合、高温加工時に特に加工度が15%を超えるような厳しい加工が行われる部位において、高温加工時に結晶粒の粗大化が発生し、耐食性の低下、疲労強度の低下等の問題が発生する。このような観点から、特開2005−325444号公報で示されているような高温成形時の結晶粒粗大化を防止することができるように改良されたJIS5052合金等の高温加工用のアルミニウム合金が用いられている。
【0006】
しかしながら、JIS5052合金を400℃以上の高温で加工した場合、加工後の材料の調質はO材相当になり、構造部材として適用するためには強度が不足するという問題があった。そのため、必要な強度を確保するためにはパイプの肉厚を厚くする対応が取られることになり、結果的に軽量化効果が小さくなるという問題があった。そのため、高温で加工した場合においても高強度を確保できる材料が必要とされていた。また、高温でこのような拡管率の高い加工を行った場合、キャビティ(空孔)が形成され、成形品の機械的性質、疲労強度が低下するという問題がある。そのため、高温で加工した場合でもキャビティが発生しにくい材料が求められていた。
【0007】
これらの問題点を解決するため、高温で加工した後に人工時効処理を行うことによって成形品の強度を確保できる熱処理型合金である6000系アルミニウム合金の適用が考えられる。6000系アルミニウム合金を用いた高温加工の例として、ブロー成形では特開2001−058221号公報、特開2008−062255号公報等いくつかの特許が提案されている。
【0008】
特に特開2008−062255号公報ではブロー成形時のキャビティ発生が少ない6000系アルミニウム合金が成形温度、歪速度等の成形条件と合わせて提案されているが、高温成形時に問題になる結晶粒粗大化という課題に関する記載はない。また、ブロー成形は成形部に材料供給がなされない張出し成形であるのに対して、熱間バルジ加工は、成形中に軸押しして常に材料を中空材の両端から供給しながら拡管成形を行う。従って、ブロー成形でキャビティ発生を抑えることの出来る成形条件を熱間バルジ加工にそのまま適用してもキャビティの発生を抑えることができない。
【0009】
そのため、6000系合金を熱間バルジ加工のような高温拡管加工する場合において、結晶粒の粗大化が起こらず、さらにキャビティの発生が少ない合金の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−096118号公報
【特許文献2】特開2003−103327号公報
【特許文献3】特開2005−325444号公報
【特許文献4】特開2001−058221号公報
【特許文献5】特開2008−062255号公報
【特許文献6】特許第3454638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、成形品の結晶粒の粗大化を抑制し、キャビティの発生を少なくすることができる高温加工用6000系アルミニウム合金中空押出材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題について鋭意研究を重ねた結果、6000系アルミニウム合金中空押出材を高温で加工する場合について、Mn及びCr添加量と結晶粒粗大化及びキャビティ量との間に相関があることを見出し、本発明をなすに至った。すなわち、高温で拡管成形を行う場合、Mn及びCr添加量が少ないと結晶粒が粗大化し、Mn及びCr添加量が多いとキャビティ発生の起点となる金属間化合物が増えるため、成形品内部のキャビティが多くなることを見出し、これに基づき本発明をなすに至った。
【0013】
上記目的を達成すべく、本願記載の第1の発明は、Mn:0.05〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%とした6000系アルミニウム合金中空押出材に、400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とする高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材に関する。
【0014】
また、本願記載の第2の発明は、Mn:0.05〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%とした6000系アルミニウム合金中空押出材に、高温拡管成形前に断面減少率が15%以上の冷間加工を施し、400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材に関する。
【0015】
特開2008−062255号公報には、本発明のアルミニウム合金中空押出材と類似の成分組成のアルミニウム合金が開示されているが、当該公報にはアルミニウム合金にCrを添加することについては何ら言及していない。また、当該方法はアルミニウム合金から成形品を製造する際にブロー成形を用いており、このような観点から、本発明の構成要素である“400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形、いわゆる熱間バルジ加工を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下である”という要件を当然に満足するものではない。
【0016】
また、特開2007−254833号公報及び特開2007−231408号公報にも、本発明のアルミニウム合金中空押出材と類似の成分組成のアルミニウム合金が開示されているが、これらの公報においては電磁成形を用いているため、本発明の構成要素である“400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下である”という要件を何ら開示するものでもないし、示唆するものでもない。
【0017】
さらに、特許第3454638号公報にも、本発明のアルミニウム合金中空押出材と類似の成分組成のアルミニウム合金が開示されているが、これらの公報においては成形品を製造する際に常温バルジ加工を用いているため、本発明の構成要素である“400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下である”という要件を何ら開示するものでもないし、示唆するものでもない。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、成形品の結晶粒の粗大化を抑制し、キャビティの発生を少なくし、成形品の耐食性、機械的性質、疲労強度の低下を抑制できる高温拡管成形用6000系アルミニウム合金中空押出材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の高温拡管成形の一例を示す工程図である。
【図2】本発明の高温拡管成形の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の高温拡管成形の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に沿って説明する。
【0021】
(6000系アルミニウム合金中空押出材)
最初に、本発明の6000系アルミニウム合金中空押出材の成分元素の添加理由及び添加量について説明する。本発明は、6000系アルミニウム合金におけるMnとCrの添加量を限定したものである。なお、組成の数値の単位である%は質量%を表すものとする。
【0022】
<Mnについて>
Mnは、SiやFeとともにAl−Mn−Si系またはAl−Fe−Mn−Si系の微細な金属間化合物を形成するとともに、高温で加工する際に結晶粒の粗大化を抑制する働きを有する。特に後者の作用効果を発現させるためには、Mnの含有量は、0.05〜0.2%である。0.05%未満ではその効果が小さく、0.2%を超えると鋳造中に巨大な金属間化合物を生成し、製品の機械的性質を低下させる原因になるほか、それら金属間化合物が高温で加工する際にキャビティの発生の起点となり、キャビティが増加することになる。なお、結晶粒径微細化効果とキャビティ抑制効果を両立させるより好ましいMnの含有量は、0.1〜0.15%である。
【0023】
<Crについて>
Crは、Mn同様に、高温で加工する際に結晶粒の粗大化を抑制する働きを有する。Crの含有量は、0.05〜0.2%である。0.05%未満ではその効果が小さく、0.2%を超えると鋳造中に巨大な金属間化合物を生成し、製品の機械的性質を低下させる原因になるほか、それら金属間化合物が高温で加工する際にキャビティの発生の起点となり、キャビティが増加することになる。なお、結晶粒径微細化効果とキャビティ抑制効果を両立させるより好ましいCrの含有量は、0.1〜0.15%である。
【0024】
6000系アルミニウム合金は、主要な添加元素としてSi、Cu、Mgを含有し、その他、Fe等の不可避的不純物からなるが、Mn、Cr以外のそれらの元素については、JIS等に示される通常の添加量でよい。参考までに一般的なそれら元素の添加量について説明する。
【0025】
<Siについて>
Siは、Mgと反応してMgSi化合物を形成し、高温拡管成形の後に行われる時効硬化処理によって強度を増大させる。また、MnやFeとともにAl−Mn−Si系またはAl−Fe−Mn−Si系の微細な金属間化合物を形成し、強度向上に寄与する元素である。Siの含有量は、0.2〜1.5%の範囲であり、0.2%未満では上述した効果が小さく、1.5%を超えると、高温での成形性の悪化及び押出性が低下する。
【0026】
<Cuについて>
Cuは、固溶強化により強度を向上させ、また時効硬化を促進する効果がある。また、Cuの含有量は、0.01〜0.5%の範囲であり、0.01%未満ではその効果が小さく、0.5%を超えると、製品の耐食性が劣化する。なお、Cuの含有量は、好ましくは0.1〜0.2%である。
【0027】
<Mgについて>
Mgは、上述したように、Siと反応してMgSi化合物を形成することで時効硬化によって強度を増大させたり、アルミニウム母相中に固溶して固溶強化により強度を向上させたりする効果がある。Mgの含有量は、0.2〜1.5%であり、0.2%未満ではその効果が小さく、1.5%を超えると高温での成形性の悪化及び押出性が低下する。
【0028】
<不可避不純物>
Feはアルミニウム地金中に最も多く含まれる不純物である。0.5%以上含まれる場合、鋳造時に巨大な金属間化合物が形成され拡管成形時の破断の起点となる。従って、Feの含有量は0.5%以下に規制し、望ましくは0.35%以下とする。Fe以外の不純物についても地金等から混入されるため、単体で0.05%以下、総量で0.15%以下とする。
【0029】
(アルミニウム合金中空押出材の製造方法)
次に、アルミニウム合金中空押出材を製造方法について説明する。
【0030】
<溶解、鋳造、均質化熱処理>
溶解、鋳造工程では、上記本発明の成分範囲内に溶解調整されたAl合金溶湯を、半連続鋳造法(DC鋳造法)等の通常の溶解鋳造法を適宜選択して鋳造し、ビレットを製造する。次いで、前記鋳造されたAl合金製ビレットに均質化熱処理を施す。均質化熱処理の温度自体は、常法通り、500℃以上で融点未満の均質化温度が適宜選択される。
【0031】
<押出加工>
上述のようにAl合金ビレットを得た後、このビレットに対して押出加工を行い、目的とする形状及び寸法の押出材を得る。Al合金ビレットに対する押出加工は、例えばポートホール法やマンドレル法などの方法を用いて行うことができる。ただし、マンドレル方式の方が溶着部を有さず、円周方向で均一な成形が可能であるので好ましい。なお、押出材の断面形状は、円形等に限らず、楕円や多角形状とすることができる。
【0032】
<冷間加工>
本発明においては、押出加工によって押出材を得た後、この押出材に対して断面減少率が15%以上の冷間加工を施すことができる。これによって、押出材(素管)の寸法精度が向上し、その後の成形品の寸法精度も向上する。また、冷間加工時に導入された歪を駆動力として、高温で成形する際の加熱で再結晶が起き、成形品の結晶粒径がより微細で均一なものとなる。したがって、以下に説明する高温拡管成形を実施した後においても、成形品の平均結晶粒径を100μm以下にすることができる。これによって、平均結晶粒径が150μm以上において顕著に見られる成形品の肌荒れをも効果的に防止することができる。
【0033】
なお、冷間加工による断面減少率の上限は特に限定されるものではないが、常法によって製造可能な範囲内(例えば80%程度)とすることができる。断面減少率がこの値を超えて増大すると、冷間加工中に破断してしまう可能性がある。
【0034】
断面減少率は、下記式によって導出することができる。
断面減少率(%)=[(冷間加工前の押出材の断面積−冷間加工後の押出材の断面積)/冷間加工前の押出材の断面積]×100
また、冷間加工としては、引抜き、冷間鍛造等を例示することができる。
【0035】
(アルミニウム合金中空押出材の高温拡管成形及び成形品)
上述のようにしてアルミニウム合金中空押出材を製造した後、この押出材に対して高温拡管成形を実施する。
【0036】
<高温拡管成形>
図1〜3は、本発明の高温拡管成形の一例を示す工程図である。最初に、図1に示すように、目的とする成形品を得るための一対の金型11、12を準備する。なお、金型11、12には、目的とする成形品の形状及び大きさに合致するような拡管部11A、12Aが形成されている。
【0037】
次いで、図2に示すように、金型11、12内に上述のようにして得た押出材15を配置し、その後、押出材15を400〜560℃に加熱するとともに、金型11、12を押出材15と同温度に加熱する。次いで、押出材15の両端を軸方向に押し込むと同時に、押出材15の内部に気体を注入して内圧を負荷し、押出材15を拡管成形して、図3に示すような、胴体部に対して両端が狭小化してなる成形品17を得る。
【0038】
なお、図2に示す押出材15及び図3に示す成形品17の形状はあくまで一例であって、押出材15は、断面形状を、円形、楕円や多角形状とすることができ、成形品17は、目的とする用途等に応じて、金型11、12の拡管部11A、12Aを所定の形状とすることにより、任意の形状に製造することができる。
【0039】
押出材15および金型11、12の温度が400℃よりも低いと、気体を注入した際の材料の伸びが小さいため、所望形状の成形品17を得るのが困難となる。一方、押出材15および金型11、12の温度が560℃よりも高いと局部融解が発生し、成形中に破断してしまって、目的とする成形品17を得ることができない。
【0040】
<高温拡管成形品>
以上のようにして高温拡管成形した成形品において、キャビティ面積率(観察面積に対するキャビティの面積の比率)は2%以下とする。2%より多いと成形品の機械的性質や疲労強度が低下してしまう。また、前記成形品の平均結晶粒径は150μm以下とする。150μmより大きいと耐食性や疲労強度が低下し、成形品表面に肌荒れが発生することがある。高温拡管成形前に断面減少率15%以上の冷間加工を施すことにより、高温拡管成形した成形品の平均結晶粒径を100μm以下とすることができる。
【0041】
なお、キャビティ面積率及び平均結晶粒径は小さいほど好ましいが、現状において、キャビティ面積率の下限値は0.03%程度であり、平均結晶粒径の下限値は50μm程度である。但し、これらの下限値は、本発明の範囲を画定するものではなく、その後の、本発明の改良、例えば以下に説明する高温拡管成形方法の技術的進歩等によって、変動するものである。
【実施例1】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。なお、本発明の合金組成はMn、Crに発明の特徴がある。表1にその他の元素の測定値も示されているが、これらにより本願発明の技術的範囲が制限されるものではない。
【0043】
表1に示す組成の合金ビレットを、半連続鋳造法により作製し、その後565℃にて4時間の均質化処理を行った。このビレットを500℃に加熱し、マンドレル押出により押出速度5m/分にて押出し、外径95mm、肉厚3.5mmの円筒状の素管を作製した。この素管を温度500℃に加熱し、予め同じく500℃に加熱した金型(図1)に装着した後、素管の両端部をOリングでシールし、両端を軸方向に押し込むと同時に管内部に気体を注入し、内圧を付与させることによって素管の拡管成形を行った(図2及び図3)。なお、拡管成形後の製品について、以下の評価を実施した。
【0044】
1.平均結晶粒径の測定
拡管成形後の拡管部から試験片を切出し、平均結晶粒径の測定を実施した。具体的には、管の厚さ方向及び円周方向の2方向の試験片を用い、交線法により求めたそれぞれの結晶粒径の平均値をさらに平均して平均結晶粒径とした。その結果を表2に示した。なお、試験片を切り出した部位の拡管成形による板厚減少率は50%であった。
【0045】
2.キャビティ面積率の測定
拡管成形後の拡管部から試験片を切出し、光学顕微鏡にて撮影した写真を画像解析し、測定面積(本実施例の場合1mm)内のキャビティの面積を測定し、測定面積に対するキャビティの面積の比をキャビティ面積率として求めた。その結果を表2にキャビティ面積率(%)として示した。なお、試験片を切り出した部位の拡管成形による板厚減少率は50%であった。
【0046】
3.機械的性質
熱間成形後の拡管成形品について、180℃×6hの人工時効処理を行った後、拡管部からJIS5号引張試験片を切り出し、引張試験を行った。
【0047】
4.肌荒れ
成形品の結晶粒径が部分的或いは全体的に大きい場合、目視によって成形品表面に凹凸が確認できるようになり、一般的に肌荒れと言われている。特に外観部品として利用される場合、肌荒れが無いことが望ましい。肌荒れの評価については、成形品に肌荒れが全く見られない場合を○、拡管加工の際の加工度の高い部分等一部に肌荒れが見られる場合を△、表面全体が肌荒れしている場合を×と判定した。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表2に示す評価結果の説明を簡単に行う。Mn量あるいはCr量が多い発明例2、7、8(合金No.B、G、H)に関しては、平均結晶粒径も比較的小さく、肌荒れの発生は全く見られない。また、キャビティ面積率も総て2%以下である。発明例1、3〜6、9(合金No.A、C、D、E、F、I)に関しては、Mn量あるいはCr量が少ないため、平均結晶粒径は比較的大きく、一部で肌荒れが見られるが、キャビティの発生量は非常に少ない。これに対して、Mn、Cr含有量が本発明範囲より少ない比較例10〜12、14(合金No.J、K、L、N)ではキャビティ面積率は低いが、結晶粒の粗大化が発生し、本発明の範囲外となっている。特にMn、Crともに添加していない合金Lについては結晶粒粗大化が最も大きくなった。一方、Mn、Cr添加量を本発明範囲より多くした比較例13、15(合金No.M、O)では結晶粒径は細かいが、キャビティ面積率が高く、本発明の範囲外となっている。
【実施例2】
【0051】
次いで、表1に示す合金A及び合金Iのビレットを、半連続鋳造法により作製し、その後565℃にて4時間の均質化処理を行った。このビレットを500℃に加熱し、マンドレル押出により押出速度5m/分にて押出し、さらに種々の断面減少率で引抜加工を行い、最終的に外径95mm、肉厚3.5mmの円筒状の素管を製造した。この素管を温度500℃に加熱し、予め同じく500℃に加熱した金型(図1)に装着した後、素管の両端部をOリングでシールし、両端を軸方向に押し込むと同時に管内部に気体を注入し、内圧を付与させることによって素管の拡管成形を実施した(図2及び図3)。なお、拡管成型後の成形品について、実施例1と同様の方法で平均結晶粒径を測定し、肌荒れを評価した。また、素管及び拡管成形後の成形品の寸法精度として、偏肉(偏肉=管肉厚の周方向の最大値−管肉厚の周方向の最小値)の測定を実施した。
【0052】
【表3】

【0053】
表3に示す評価結果の説明を行う。発明例16〜23は、拡管成形前に断面減少率が15%以上の冷間加工を付与した発明例であり、平均結晶粒径は総て100μm以下となっており、肌荒れの発生は全く見られない。また、表3には特に示していないが、通常の押出管の偏肉は0.5mm程度である。それに対して、15%以上の冷間加工を実施することによって、素管偏肉、成形品偏肉も小さくなり、寸法精度に優れていることが分かる。これに対して、拡管成形前に断面減少率が15%以下の冷間加工を付与した比較例25〜27は、成形品の一部に肌荒れの発生が見られる。さらに素管偏肉あるいは成形品偏肉も0.15mmを超えている。特に、比較例26は素管の偏肉が悪く、拡管成形時に両端のシール部分から内圧負荷時に漏れが発生し、拡管成形が出来なかった。さらに、拡管成形前に断面減少率が85%の冷間加工を付与した比較例24は、引抜加工中に破断が発生してしまい、素管を作製することが出来なかった。
【実施例3】
【0054】
次いで、表1に示す合金Aのビレットを、半連続鋳造法により作製し、その後565℃にて4時間の均質化処理を行った。このビレットを500℃に加熱し、マンドレル押出により押出速度5m/分にて押出し、断面減少率15%および50%で引抜加工を行い、最終的に外径95mm、肉厚3.5mmの円筒状の素管を製造した。この素管を表4に示すような種々の温度に加熱し、同様に種々の温度に加熱された金型(図1)に装着した後、素管の両端部をOリングでシールし、両端を軸方向に押し込むと同時に管内部に気体を注入し、内圧を付与させることによって素管の拡管成形を実施した(図2及び図3)。
【0055】
なお、拡管加工後の成形品について、目的とする形状及び寸法の成形品が得られた場合を○で評価し、目的とする形状及び寸法の成形品が得られない場合を×で評価した。
【0056】
【表4】

【0057】
表4に示す評価結果の説明を行う。発明例28〜34は、高温拡管成形時の素管及び金型の温度が400℃〜560℃であり、総ての場合において目的とする形状及び寸法の成形品が得られていることが分かる。一方、比較例35、37は、高温拡管成形時の円筒管または金型温度が400℃未満であり、材料の伸びが小さいため、所望形状の成形品が得られていない。また、比較例36、38は、高温拡管成形時の円筒管または金型の温度が560℃を超えており、局部融解の発生により、成形中に破断が生じてしまい、目的とする成形品を得ることができない。
【0058】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、成形品の結晶粒の粗大化を抑制し、キャビティの発生を少なくし、成形品の耐食性、機械的性質、疲労強度の低下を抑制できるため、自動車、二輪車、鉄道車両等のアルミニウム構造部材のように、必要な強度を確保しつつ、複雑な形状が要求される部材に適する熱間加工用6000系アルミニウム合金中空押出材が得られ、産業上顕著な効果を奏すものである。
【符号の説明】
【0060】
11、12:金型
11A、12A:拡管部
15:拡管成形前の押出管(素管)
17:拡管成形後の成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn:0.05〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%とした6000系アルミニウム合金中空押出材に、400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が150μm以下であることを特徴とする高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材。
【請求項2】
Mn:0.05〜0.2質量%、Cr:0.05〜0.2質量%とした6000系アルミニウム合金中空押出材に、高温拡管成形前に断面減少率が15%以上の冷間加工を施し、400〜560℃の温度範囲で高温拡管成形を施した成形品のキャビティ面積率が2%以下であり、かつ前記成形品の平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする高温拡管成形性に優れた6000系アルミニウム合金中空押出材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−195912(P2011−195912A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65146(P2010−65146)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】