説明

高温超電導パンケーキコイルおよび高温超電導コイル

【課題】剥離しやすい高温超電導層を有する高温超電導線材を用いて作製した場合でも、超電導特性が劣化しない高温超電導パンケーキコイルおよびこのパンケーキコイルを用いた高温超電導コイルを提供すること。
【解決手段】本発明に係る高温超電導パンケーキコイル1は、金属基板21の表面に中間層22および酸化物超電導層23を順次形成してなるテープ状の高温超電導線材20を用い、この高温超電導線材が巻回されることにより軸方向中心を貫通する空間を有するパンケーキ状に形成されたパンケーキコイル1において、軸方向の1対の端面を構成する巻線側面部12A、12Bの少なくとも一部が、樹脂層30で被覆される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温超電導パンケーキコイルおよび高温超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導コイルは、通常、テープ状の高温超電導線材を巻回して作製される。一般的に、巻回した高温超電導線材には、巻回した形状の保持や真空中での伝熱性の向上のためにエポキシ樹脂等の樹脂が含浸される。
【0003】
近年、高温超電導線材として、第2世代線材とよばれるものが製造されるようになってきた。この第2世代線材は、たとえば、ハステロイ(登録商標)等のテープ状の金属基板上に酸化セリウム等の中間層を形成し、この中間層の上に厚さ数μm程度のイットリウム系等の酸化物超電導層を形成したものである。
【0004】
しかし、この第2世代線材は、酸化物超電導層や中間層が周囲の層から剥離しやすく、この剥離により超電導特性が劣化する。このため、第2世代線材である高温超電導線材を用いて高温超電導コイルを作製する場合に、巻回した高温超電導線材にエポキシ樹脂等の樹脂を含浸すると、樹脂の硬化収縮や冷却時の熱応力により、酸化物超電導層や中間層が周囲の層から剥離しやすいという問題がある。
【0005】
これに対し、たとえば、特許文献1(特開2008−243588号公報)には、高温超電導線材と離形材テープとを共巻きすることにより、コイル内部で剥離力が発生した場合に、離形材テープ部分で剥離させ、高温超電導層に働く剥離力を緩和させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−243588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のように離形材テープを共巻きする方法では、樹脂含浸による硬化収縮や冷却時の熱応力のために高温超電導層に剥離力が働く可能性を完全に取り除くことはできない。このため、特許文献1の方法では、高温超電導線材が剥離力に対して非常に弱い線材である場合には、作製したコイルの特性が劣化するおそれがあるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、剥離しやすい高温超電導層を有する高温超電導線材を用いて作製した場合でも、超電導特性が劣化しない高温超電導パンケーキコイルおよびこのパンケーキコイルを用いた高温超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高温超電導線材が巻回されてパンケーキ状に形成されたパンケーキコイルにおいて、軸方向の1対の端面を構成する巻線側面部の少なくとも一部を樹脂層で被覆すると、超電導特性が劣化しない高温超電導パンケーキコイルが得られることを見出して完成されたものである。
【0010】
本発明に係る高温超電導パンケーキコイルは、上記問題点を解決するものであり、金属基板の表面に中間層および酸化物超電導層を順次形成してなるテープ状の高温超電導線材を用い、この高温超電導線材が巻回されることにより軸方向中心を貫通する空間を有するパンケーキ状に形成されたパンケーキコイルにおいて、軸方向の1対の端面を構成する巻線側面部の少なくとも一部が、樹脂層で被覆されたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る高温超電導コイルは、上記問題点を解決するものであり、前記高温超電導パンケーキコイルを積層し、接続したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る高温超電導パンケーキコイルおよび高温超電導コイルは、剥離しやすい高温超電導層を有する高温超電導線材を用いて作製した場合でも、超電導特性が劣化しない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のパンケーキコイルの第1実施形態を示す図であり、(a)はパンケーキコイルの軸方向に沿って切断した断面図、(b)は(a)の要部拡大断面図、(c)は(b)に示すパンケーキコイルの一部の拡大断面図。
【図2】本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第1変形例の拡大断面図。
【図3】本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第2変形例の拡大断面図。
【図4】本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第3変形例の拡大断面図。
【図5】本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第4変形例の拡大断面図。
【図6】本発明のパンケーキコイルの第2実施形態を示す図であり、(a)はパンケーキコイルの軸方向に沿って切断した断面図、(b)は(a)の要部拡大断面図、(c)は(a)に示すパンケーキコイルの他の部分の拡大断面図。
【図7】本発明のパンケーキコイルの第3実施形態を示す図であり、(a)はパンケーキコイルの一部を軸方向に沿って切断した斜視図、(b)は(a)に示すパンケーキコイルの要部拡大断面図。
【図8】本発明の高温超電導コイルの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<パンケーキコイル>
図面を参照して本発明に係るパンケーキコイルを説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
図1は、本発明のパンケーキコイルの第1実施形態を示す図である。具体的には、図1(a)は軸方向中心に筒状空間を有するパンケーキ状のパンケーキコイルの軸方向に沿って切断した断面図、図1(b)は図1(a)に示すパンケーキコイルの一部の拡大断面図、図1(c)は図1(b)に示すパンケーキコイルの一部の拡大断面図である。
【0016】
図1(a)に示されるパンケーキコイル1は、テープ状の高温超電導線材20が図1(b)に示すように巻回されることによりパンケーキコイル1の軸方向中心を貫通する空間35を有するパンケーキ状に形成されたコイルである。パンケーキコイル1は、1枚のパンケーキ状に形成されたいわゆるシングルパンケーキコイルである。なお、図1ではシングルパンケーキコイルを図示しているが、本発明は2枚のパンケーキ状に形成されたいわゆるダブルパンケーキコイルとしても良い。
【0017】
パンケーキコイル1は、空間35に面した内周面15と、外周面16と、軸方向の1対の端面を構成するリング状の1対の巻線側面部12A、12Bとを備える。巻線側面部12A、12Bは、巻回された高温超電導線材20と、高温超電導線材20と共巻きされる共巻テープと、の幅方向の両端部が多数集まり、さらに樹脂硬化物層で被覆される等により面状に形成されるものである。
【0018】
高温超電導線材20は、通常、内周面15側から巻き始め、外周面16で巻き終わるように巻回される。以下、高温超電導線材20を巻き始める高温超電導線材20の1ターン目から数ターン目までの部分を巻き始め部17という。また、高温超電導線材20を巻き終わる高温超電導線材20の最後の1ターンから数ターン前までの部分を巻き終わり部18という。さらに、巻回した高温超電導線材20のうち、巻き始め部17と巻き終わり部18とを除いた部分を巻回途中部19という。また、巻き始め部17、巻回途中部19および巻き終わり部18からなる部分を巻線部11という。
【0019】
図1(b)は、巻線部11の一部である巻線部部分110の拡大断面図である。図1(b)に示すように、高温超電導線材20は、隣接するターン間の絶縁のために、通常、共巻テープ50としての絶縁テープ51と共巻きされて巻回される。絶縁テープ51としては、たとえばカプトン等が用いられる。
【0020】
なお、高温超電導線材20がホルマール被覆やカプトン被覆で絶縁処理されている場合は絶縁テープ51は削除することも可能であり、さらに絶縁テープ51の代わりに補強材として金属テープを絶縁被覆して使用することも可能である。
【0021】
図1(a)、(b)に示すように、絶縁テープ51と共巻きされて巻回された高温超電導線材20には、高温超電導線材20の幅方向の一方端からなる巻線側面部12Aと、高温超電導線材20の幅方向の他方端からなる巻線側面部12Bとが形成される。
【0022】
巻線側面部12Aおよび巻線側面部12Bの表面には、樹脂層30が形成される。また、巻線側面部12Aは、樹脂層30および絶縁板45を介して伝熱板40に接続される。
【0023】
樹脂層30は、エポキシ樹脂等の硬化樹脂からなる層である。樹脂層30は、高温超電導線材20と絶縁テープ51とが巻回されたコイルの形状を維持するものである。また、樹脂層30は、高温超電導線材20で発生した熱を、伝熱板40に導く伝熱経路としても作用する。樹脂層30が伝熱経路としても作用することにより、パンケーキコイル1を、真空中でも容易に冷却することができる。
【0024】
樹脂層30は、高温超電導線材20と絶縁テープ51との間には形成されない。このため、パンケーキコイル1の冷却時や電磁力印加時に高温超電導線材20と絶縁テープ51の間を引き離す力Fが働いた場合でもこの剥離力が高温超電導線材20に伝わらないことにより、複層構造の高温超電導線材20の内部の層間が剥離するおそれが実質的にない。
【0025】
ここで、複層構造の高温超電導線材20について説明する。図1(c)に示すように、高温超電導線材20は、テープ状の金属基板21の表面に中間層22、酸化物超電導層23および保護層24を順次形成した積層構造を有するとともに、この積層物全体を安定化層25で被覆した複層構造になっている。なお、図1(c)では、保護層24および安定化層25を設けた構成を示したが、本発明で用いられる高温超電導線材20は、保護層24および安定化層25の少なくともいずれかが形成されない構成とすることもできる。
【0026】
金属基板21としては、たとえば、ハステロイ(登録商標)等のニッケル合金、ステンレス等からなるテープが用いられる。
【0027】
中間層22は表面に形成される酸化物超電導層23の酸化物の結晶成長を促進する層である。中間層22としては、たとえば、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化イットリウム等からなる層が用いられる。
【0028】
酸化物超電導層23は超電導を発現する層である。酸化物超電導層23としては、たとえば、イットリウム等の希土類酸化物や、Re123系等の高温超電導材料を主成分とする層が用いられる。
【0029】
保護層24は酸化物超電導層23を保護する層である。保護層24としては、たとえば、銀、金またはこれらの合金からなる層が用いられる。酸化物超電導層23の高温超電導材料は、一般的に他の金属と反応しやすい活性な材料であるため、金、銀、これらの合金等以外の金属と直接接触させると、反応が生じて酸化物超電導層23の性能が低下するおそれがある。保護層24は、酸化物超電導層23の性能低下を防止するものである。
【0030】
安定化層25としては、たとえば銅からなる層が用いられる。この安定化層25は全面を被覆する例を示したが、片面のみに付加する構造でも可能である。
【0031】
樹脂層30は、たとえば、高温超電導線材20と絶縁テープ51とを共巻きして巻回した後に、巻線側面部12Aおよび巻線側面部12Bの所望の部分に樹脂を塗布することにより形成することができる。
【0032】
パンケーキコイル1の作用を説明する。
【0033】
パンケーキコイル1では、高温超電導線材20と絶縁テープ51との間に樹脂層30が形成されない。このため、高温超電導線材20と絶縁テープ51の間を引き離す力Fが働いた場合でも、複層構造の高温超電導線材20の内部の層間が剥離するおそれが実質的にない。
【0034】
パンケーキコイル1によれば、コイル形状が維持され、かつ高温超電導線材20の内部に層間を剥離させる応力が発生しないため、高温超電導線材20を劣化させることなく、また冷却特性が良いパンケーキコイル1が得られる。
【0035】
なお、図1に示すパンケーキコイル1では、巻線側面部12Aおよび巻線側面部12Bの全体に樹脂層30が形成されているが、樹脂層30は、巻線側面部12Aおよび巻線側面部12Bの少なくとも一部を被覆する構成としてもよい。このような構成とすると、樹脂層30に用いる樹脂量を少なくすることができ、パンケーキコイルの製造コストを低コスト化することができる。
【0036】
[第1の実施形態の第1変形例]
図2は、本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第1変形例の拡大断面図である。第1実施形態の第1変形例として示すパンケーキコイル1Aは、外観が第1実施形態として示したパンケーキコイル1と同じであるため、外観を図1に示す。
【0037】
パンケーキコイル1Aは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比較して、高温超電導線材20と絶縁テープ51との共巻きの構造が異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Aとパンケーキコイル1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0038】
パンケーキコイル1Aの高温超電導線材20と絶縁テープ51との共巻きの構造は、図2に示される。図2に示される巻線部部分110Aは、図1に示した巻線部部分110に相当するものである。
【0039】
図2に示すように、巻線部部分110Aでは、高温超電導線材20は1ターンごとに高温超電導線材20の幅方向、すなわち図中上下方向にずれるように巻回される。また、巻線部部分110Aでは、絶縁テープ51も1ターンごとに高温超電導線材20の幅方向にずれるように巻回される。
【0040】
このように高温超電導線材20が1ターンごとに高温超電導線材20の幅方向にずれるように巻回されると、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、高温超電導線材20と樹脂層30との固着面積が増加する。
【0041】
パンケーキコイル1Aによれば、パンケーキコイル1に比べて、コイル形状の維持、伝熱特性をさらに良くすることができる。
【0042】
[第1の実施形態の第2変形例]
図3は、本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第2変形例の拡大断面図である。第1実施形態の第2変形例として示すパンケーキコイル1Bは、外観が第1実施形態として示したパンケーキコイル1と同じであるため、外観を図1に示す。
【0043】
パンケーキコイル1Bは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比較して、表面に絶縁材が用いられて絶縁処理された高温超電導線材20と共巻テープ50との共巻きの構造が異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Bとパンケーキコイル1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0044】
パンケーキコイル1Bの高温超電導線材20と共巻テープ50との共巻きの構造は、図3に示される。図3に示される巻線部部分110Bは、図1に示した巻線部部分110に相当するものである。
【0045】
図3に示すように、巻線部部分110Bでは、共巻テープ50は高温超電導線材20よりも幅が狭いものになっている。
【0046】
このように共巻テープ50が高温超電導線材20よりも幅が狭いものであると、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、高温超電導線材20と樹脂層30の固着面積が増加する。
【0047】
パンケーキコイル1Bによれば、パンケーキコイル1に比べて、コイル形状の維持、伝熱特性をさらに良くすることができる。
【0048】
なお、図3に示す巻線部部分110Bでは、共巻テープ50を用いたが、共巻きテープ50に代えて、または共巻テープ50に加えて、補強を目的とする金属テープを用いてもよい。金属テープを用いると、パンケーキコイル1Bの強度が高くなる。補強を目的とする金属テープとしては、ニッケル基合金や銅等からなる金属テープが用いられる。
【0049】
[第1の実施形態の第3変形例]
図4は、本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第3変形例の拡大断面図である。第1実施形態の第3変形例として示すパンケーキコイル1Cは、外観が第1実施形態として示したパンケーキコイル1と同じであるため、外観を図1に示す。
【0050】
パンケーキコイル1Cは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比較して、さらに金属テープ52も加えて共巻きにした点が異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Cとパンケーキコイル1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0051】
パンケーキコイル1Cの高温超電導線材20と絶縁テープ51と金属テープ52との共巻きの構造は、図4に示される。図4に示される巻線部部分110Cは、図1に示した巻線部部分110に相当するものである。
【0052】
図4に示すように、巻線部部分110Cでは、隣接する高温超電導線材20、20間に絶縁テープ51と金属テープ52とが配置され、高温超電導線材20、絶縁テープ51および金属テープ52が共巻きされている。また、絶縁テープ51と金属テープ52は、高温超電導線材20より幅が広いものになっている。金属テープ52としては、ニッケル基合金よりも熱伝導率の良い材質、例えば銅等からなる金属テープが用いられる。
【0053】
パンケーキコイル1Cは、このように高温超電導線材20、絶縁テープ51および金属テープ52を共巻きしているため、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、金属テープ52内を介して高温超電導線材20を効率的に冷却することができるとともに、コイル形状の維持を強固にすることができる。
【0054】
パンケーキコイル1Cによれば、パンケーキコイル1に比べて、高温超電導線材20の冷却効率が良く、コイル形状の維持が良好である。
【0055】
また、パンケーキコイル1Cは、巻線前に金属テープ52をはんだ付けなどの方法により高温超電導線材20に取り付けておくと金属テープ52と高温超電導線材20との間の伝熱性が向上し、冷却特性をさらに向上させることができる。
【0056】
[第1の実施形態の第4変形例]
図5は、本発明のパンケーキコイルの第1実施形態の第4変形例の拡大断面図である。第1実施形態の第4変形例として示すパンケーキコイル1Dは、外観が第1実施形態として示したパンケーキコイル1と同じであるため、外観を図1に示す。
【0057】
パンケーキコイル1Dは、図3に第1実施形態の第2変形例として示したパンケーキコイル1Bに比較して、絶縁テープ51を共巻テープ53に代えた点で異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Dとパンケーキコイル1Bとで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0058】
パンケーキコイル1Dの高温超電導線材20と共巻テープ53との共巻きの構造は、図5に示される。図5に示される巻線部部分110Dは、図1に示した巻線部部分110に相当するものである。
【0059】
図5に示すように、巻線部部分110Dでは、共巻テープ53は高温超電導線材20よりも幅が狭いものになっている。
【0060】
共巻テープ53は、室温の20℃から極低温の4Kまで冷却しても厚さ方向の熱収縮率が1%以下であるとともに、厚さ方向に力Pを加え厚みを1%以上変形させても復元力を有する材料からなる。共巻テープ53としては、第1実施形態の第3変形例として示したパンケーキコイル1Cに用いた金属テープ52と同様なものが用いられる。
【0061】
共巻テープ53の巻回時に予圧縮力Pをかけると、得られるパンケーキコイル1Dは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、コイル形状の維持、伝熱特性がさらに良くなる。
【0062】
パンケーキコイル1Dによれば、室温から超電導コイルの運転温度である極低温まで冷却した場合でも、高温超電導線材20と共巻テープ53との間に隙間が生じることがなく、コイル形状の維持、伝熱特性をさらに良くすることができる。
【0063】
なお、図5に示す巻線部部分110Dでは、共巻テープ50として熱収縮率が小さい共巻テープ53を用いたが、共巻テープ53に代えて、樹脂層30の樹脂よりも室温の20℃から極低温の4Kまでの熱収縮率が小さい材料を用いても同様の効果が得られる。このような材料としては、ガラス繊維強化型樹脂テープが挙げられる。
【0064】
[第2の実施形態]
図6は、本発明のパンケーキコイルの第2実施形態を示す図である。具体的には、図6(a)は軸方向中心に筒状空間を有するパンケーキ状のパンケーキコイルの軸方向に沿って切断した断面図、図6(b)は図6(a)に示すパンケーキコイルの一部の拡大断面図、図6(c)は図6(a)に示すパンケーキコイルの他の一部の拡大断面図である。
【0065】
第2実施形態として示すパンケーキコイル1Eは、外観が第1実施形態として示したパンケーキコイル1と同じである。
【0066】
パンケーキコイル1Eは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比較して、巻き始め部17および巻き終わり部18における高温超電導線材20と絶縁テープ51との共巻きの構造が異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Eとパンケーキコイル1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0067】
図6(b)は、パンケーキコイル1Eの巻き始め部17の巻線部部分110Eの拡大断面図である。図6(c)は、パンケーキコイル1Eの巻回途中部19の巻線部部分110Eの拡大断面図である。なお、図示しないが、パンケーキコイル1Eの巻き終わり部18の巻線部部分は、巻き始め部17の巻線部部分と同じ構造になっている。
【0068】
図6(c)に示すように、パンケーキコイル1Eの巻回途中部19の巻線部部分190Eにおける高温超電導線材20と絶縁テープ51との共巻きの構造は、図1に示したパンケーキコイル1の巻線部部分110の構造と同じである。
【0069】
しかし、図6(b)に示すように、パンケーキコイル1Eの巻き始め部17の巻線部部分170Eにおいては、高温超電導線材20と絶縁テープ51との共巻きの構造は、190Eの構造と異なる。
【0070】
すなわち、巻き始め部17の巻線部部分170Eにおいては、巻線側面部12Aおよび巻線側面部12Bの表面の樹脂層30に加え、共巻きされた高温超電導線材20と絶縁テープ51との間にも樹脂の硬化物からなるテープ間樹脂層31が形成される。また、巻き終わり部18の巻線部部分も、巻き始め部17の巻線部部分170Eと同様の構造になっている。テープ間樹脂層31の形成に用いる樹脂としては、たとえば、樹脂層30の形成に用いる樹脂と同じものが挙げられる。
【0071】
テープ間樹脂層31を形成する方法としては、たとえば、高温超電導線材20と絶縁テープ51とを共巻きして巻回する時に、樹脂を塗布する方法が挙げられる。
【0072】
このようにテープ間樹脂層31を形成すると、巻き終わり部18および巻き始め部17において高温超電導線材20と絶縁テープ51とが巻きほぐれしにくくなる。なお、巻き終わり部18および巻き始め部17は周囲との境界であることから拘束力が弱くなる。このため、高温超電導線材20と絶縁テープ51との間にテープ間樹脂層31を形成しても、高温超電導線材20と絶縁テープ51とを剥離させようとする熱応力は小さくて済む。
【0073】
パンケーキコイル1Eによれば、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、コイル形状の維持特性をさらに良くすることができる。
【0074】
なお、図6には巻き終わり部18および巻き始め部17にテープ間樹脂層31が形成された例を示したが、巻き終わり部18および巻き始め部17のいずれかのみにテープ間樹脂層31が形成される構成とすることもできる。巻き終わり部18および巻き始め部17のいずれかのみにテープ間樹脂層31が形成される構成とすると、製造コストを低くすることができる。
【0075】
[第3の実施形態]
図7は、本発明のパンケーキコイルの第3実施形態を示す図である。具体的には、図7(a)は軸方向中心に筒状空間を有するパンケーキ状のパンケーキコイルの一部を軸方向に沿って切断した斜視図、図7(b)は図7(a)に示すパンケーキコイルの一部の拡大断面図である。
【0076】
第3実施形態として示すパンケーキコイル1Fは、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比較して、巻き始め部17の内周に巻き始め枠61、および巻き終わり部18の外周に巻き終わり枠62を設けた点、および巻線部11Fの軸方向を被覆する1対の絶縁板45、45を設けた点で異なり、他の点は同様である。このため、パンケーキコイル1Fとパンケーキコイル1とで同じ構成には、同じ符号を付し、作用についての説明を省略または簡略化する。
【0077】
図7(b)は、パンケーキコイル1Fの巻き始め部17の巻線部部分170Fの拡大断面図である。
【0078】
図7(a)に示すように、巻き始め枠61は、略リング状に形成された絶縁体部63と、絶縁体部63の一部に設けられた電極部64とからなる。
【0079】
図7(b)に示すように、巻き始め枠61は、巻き始め部17の高温超電導線材20の最内周のターンに隣接して設けられている。
【0080】
巻き始め枠61の絶縁体部63は、高温超電導線材20の巻き始め部17を保護するとともに高温超電導線材20を電気的に絶縁するものである。絶縁体部63の材質としては、たとえばFRP等が用いられる。
【0081】
巻き始め枠61の電極部64は、巻き始め部17の高温超電導線材20と導通する部材である。電極部64の材質としては、たとえば銅が用いられる。
【0082】
また、巻線部11Fの軸方向にある1対の表面には、1対の絶縁板45、45が設けられている。
【0083】
さらに、パンケーキコイル1Fは、図示しないが、巻き終わり枠62にも巻き始め枠61と同様な形状、機能の略リング状に形成された絶縁体部とこの絶縁体部の一部に設けられた電極部とを備える。
【0084】
このように巻き始め枠61および巻き終わり枠62を設けると、図6に第2実施形態として示すパンケーキコイル1Eのようにテープ間樹脂層31を形成しなくても、巻き始め部17および巻き終わり部18の高温超電導線材20の巻回形状を強く保持することができる。
【0085】
パンケーキコイル1Fによれば、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1に比べて、コイル形状をさらに良く維持することができる。
【0086】
なお、図7には巻き始め枠61および巻き終わり枠62が設けられた例を示したが、巻き始め枠61および巻き終わり枠62のいずれかのみを設ける構成とすることもできる。巻き始め枠61および巻き終わり枠62のいずれかのみを設ける構成とすれば、製造コストを低くすることができる。
【0087】
<高温超電導コイル>
図8は、本発明の高温超電導コイルの断面図である。
【0088】
高温超電導コイル2は、図1に第1実施形態として示したパンケーキコイル1を積層し、パンケーキコイル1、1間を電気的に接続したものである。
【0089】
積層方向に隣接するパンケーキコイル1、1同士は、図8に示すように巻き始め部17から引き出された高温超電導線材20または巻き終わり部18から引き出された高温超電導線材20が、接続部70で接続される。これにより、複数個のパンケーキコイル1は電気的に直列に接続されている。また、各パンケーキコイル1に取り付けられた伝熱板40は、パンケーキコイル1の外部に延設されている。この伝熱板40は、パンケーキコイル1の外部に延設されているため、高温超電導コイル2の効率的な冷却が可能である。
【0090】
高温超電導コイル2によれば、コイル形状が維持されかつ高温超電導線材20の内部に層間を剥離させる応力が発生しないとともに、冷却特性が良い。
【0091】
なお、図8にはパンケーキコイル1を積層した例を示したが、本発明の高温超電導コイルは、パンケーキコイル1に代えて、パンケーキコイル1A〜1Fを用いた構成としてもよい。得られた高温超電導コイルは、積層されたパンケーキコイルの特長を備えるものになる。
【0092】
また、上記第1から第3の実施形態においては通常のパンケーキコイルを例として示したがレーストラック形状のパンケーキコイルにおいても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0093】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F パンケーキコイル
2 高温超電導コイル
11、11F 巻線部
110、110A、110B、110C、110D、170F 巻線部部分
12A、12B 巻線側面部
15 内周面
16 外周面
17 巻き始め部
170E 巻き始め部部分
18 巻き終わり部
19 巻回途中部
190E 巻回途中部部分
20 高温超電導線材
21 金属基板
22 中間層
23 超電導層
24 保護層
25 安定化層
30 樹脂層
31 テープ間樹脂層
35 空間
40 伝熱板
45 絶縁板
50 共巻テープ
51 絶縁テープ
52 金属テープ
53 共巻テープ
P 予圧縮力
61 巻き始め枠
62 巻き終わり枠
63 絶縁体部
64 電極部
70 接続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板の表面に中間層および酸化物超電導層を順次形成してなるテープ状の高温超電導線材を用い、この高温超電導線材が巻回されることにより軸方向中心を貫通する空間を有するパンケーキ状に形成されたパンケーキコイルにおいて、
軸方向の1対の端面を構成する巻線側面部の少なくとも一部が、樹脂層で被覆されたことを特徴とする高温超電導パンケーキコイル。
【請求項2】
前記樹脂層の表面に、伝熱部材が固着されたことを特徴とする請求項1記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項3】
前記高温超電導線材は、1ターンごとに高温超電導線材の幅方向にずれるように巻回されたことを特徴とする請求項1記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項4】
前記高温超電導線材は、共巻テープと共巻きして巻回したことを特徴とする請求項1記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項5】
前記共巻テープは、厚さ方向に1%以上変形させても復元力を有する材料からなることを特徴とする請求項4記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項6】
前記共巻テープは、熱収縮率が前記樹脂層よりも小さい材料からなることを特徴とする請求項4記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項7】
前記共巻テープは、前記高温超電導線材よりも幅が狭いことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項8】
前記共巻テープは、前記高温超電導線材よりも幅が広い金属テープであることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項9】
前記共巻テープは、前記高温超電導線材よりも幅が広い絶縁テープおよび金属テープを含むことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項10】
前記高温超電導線材と金属テープとは、電気的に接続した後に巻回したことを特徴とする請求項8または9記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項11】
前記筒状空間に面した内周面近傍の巻き始め部および外周面近傍の巻き終わり部の少なくともいずれかにある高温超電導線材のターンは、隣接する高温超電導線材のターンとの間に樹脂が含浸されたものであることを特徴とする請求項1記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項12】
前記筒状空間に面した内周面近傍の巻き始め部および外周面近傍の巻き終わり部の少なくともいずれかに、前記巻き始め部または前記巻き終わり部を固定する枠体が取り付けられたことを特徴とする請求項1記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項13】
前記枠体は、略リング状の絶縁体部と、この絶縁体部の一部に形成され前記高温超電導線材と電気的に接続された電極と、を有することを特徴とする請求項12記載の高温超電導パンケーキコイル。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の高温超電導パンケーキコイルを積層し、接続したことを特徴とする高温超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−267887(P2010−267887A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119307(P2009−119307)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】