説明

高温高圧用ベローズバルブ

【課題】より高温高圧の流体に対しても安定して作動し、ベローズからの漏洩や破断の危険性を著しく低減することができるベローズバルブとする。
【解決手段】ベローズ保持部材の流路に内部が連通するようにベローズの開口側端部を溶接部によって密封固定し、ベローズの閉鎖側端部に弁棒を固定し、前記弁棒の端部を弁本体の弁開閉室における弁座に接離可能に配置する。ベローズ保持部材の流路を外部に配置した作動流体圧力調節装置としてのピストンシリンダに連通して内部に作動流体を充填し、ベローズを弁本体のシール室内に伸縮自在に配置する。シール室にロッド周囲の間隙を介して弁開閉室内の被制御流体を導入可能として、シール室内に被制御流体を充填し、ベローズ外部の被作動流体圧力と内部の作動流体圧力をほぼ一定にし、また、ピストンシリンダのピストンの移動により弁棒を移動して弁を開閉する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は高温高圧の流体の流量を調節し、流路を開閉することができる高温高圧用バルブに関し、特にベローズにより制御流体とバルブ作動部とを隔離する高温高圧用ベローズバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より流体の流量を調節し、また流路の開閉を行うバルブは、制御流体が外部に流出することを防止するため多くのシール部材を用いており、特にバルブを作動する弁棒の摺動部分から外部への流体の漏洩を防止するため、ガスケットシール等により密封することが行われている。この種のバルブにおける技術的問題点としては、昇降する弁棒に対するシール方法であった。即ち、螺旋または上下運動を用いて弁棒を昇降し弁座に押し付けてシールする一般的なバルブの場合は、運動する弁棒の摺動部分を通じて外部に流体が漏洩することを防ぐためには、一定以上の変形性のある樹脂などを用いた運動面のシールが必要であった。
【0003】
しかしながらこれらの樹脂では、使用可能な温度範囲に制限があり、200℃を超えるような高温化においてシール性を確保することは極めて困難である。このような樹脂によって弁棒摺動部をシールするバルブを高温流体の流量調整に用いる場合は、長寸法の弁棒および弁箱を用意し、弁座付近では高温の流体が、弁棒のシール部分では常温付近になるように温度差を設けた、首の長いバルブを用いる必要があった。しかしながら、運動面シールにおける僅かの漏洩も許されない場合や、流体全体を高温に保つ必要があるなどの特殊な場合においては、このような首の長いバルブは利用できない。
【0004】
一方で、弁棒の回転運動面シールを必要とせず、完全に流体を封止できる方法としてベローズやダイアフラムを用いたバルブがある。特に原子力発電プラント等で用いるバルブにおいては、高温高圧の放射性物質を含んだ流体の流量を取り扱うため、作動ロッドの摺動部からの漏洩を確実にシールを行うことができるように、例えば特開平9−53751号公報に記載されているような、ベローズによりシールを行うベローズバルブを用いている。これは、弁棒と弁箱の相対運動を、変形が可能なベローズやダイアフラムによって吸収するもので、ベローズまたはダイアフラムと、弁棒および弁箱とのシール方法は、信頼性が高く高温化でも使用可能な、溶接や金属ガスケットを用いることができる利点がある。
【特許文献1】特開平9−53751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、高温高圧の流体を取り扱うバルブとして、弁棒と弁箱との間をベローズによってシールを行うベローズバルブが用いられることが多いが、このようなベローズバルブでは、変形が可能なベローズまたはダイアフラムは、流体の圧力が高い場合、背圧との差圧が大きいと破断する恐れがあり、利用可能な圧力範囲は約300℃で20MPa程度が限度である。それに対して現在は、例えば500℃程度の高温で更に高圧の流体を取り扱う必要が生じており、このような場合にもシール性が高く安全に利用可能なベローズバルブの開発が望まれていた。
【0006】
また、ベローズを用いたバルブは前記のようにシール性が高いものの、ベローズは柔軟性を有するため、流体が高圧になると変形し、安定した作動が行われなくなるほか、ベローズからの漏洩が発生し、さらには破断する可能性が高くなり、重大な事故に結びつく危険性があるため、この点でもより安定して作動するベローズバルブの開発が望まれていた。
【0007】
したがって本発明はより高温高圧の流体に対しても安定して作動し、ベローズからの漏洩や破断の危険性を著しく低減することができる高温高圧用バルブを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ベローズバルブまたはダイアフラムバルブにおいて、ベローズまたはダイアフラムの内側に被作動流体としての1次流体と同圧力の、作動流体としての2次流体を満たすことで、ベローズまたはダイアフラムにかかる差圧を解消し、さらに2次流体の圧力をコントロールすることによって弁棒を昇降駆動しバルブを開閉するものである。また、2次流体に液体金属を用いることにより、1次側の圧力変動に2次側圧力が追随することを可能にし、従来用いられていたベローズまたはダイアフラムの破断の危険性を著しく低減すると同時に、2次側の圧力コントロールを容易に行うことができる。
【0009】
本発明の課題を解決する手段をより具体的に述べると次のようなものである。即ち、本発明に係る高温高圧用バルブは前記課題を解決するため、ベローズ保持部材の流路に内部が連通するようにベローズの開口側端部を溶接して密封固定し、ベローズの閉鎖側端部に弁棒を固定し、前記弁棒の端部を弁本体の弁開閉室における弁座に接離可能に配置し、前記ベローズ保持部材の流路を外部に配置した作動流体圧力調節装置に連通して内部に作動流体を充填し、前記ベローズを弁本体のシール室内に伸縮自在に配置し、前記シール室にロッド周囲の間隙を介して前記弁開閉室内の被制御流体を導入可能として、シール室内に被制御流体を充填し、前記作動流体圧力調節装置による作動流体の圧力調節により弁棒を移動して弁を開閉することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の高温高圧用バルブは、前記高温高圧用バルブにおいて、前記作動流体圧力調節装置はピストンシリンダであり、前記ベローズ内と該ピストンシリンダのシリンダ室とを連通して内部に作動流体を充填し、ピストンシリンダのピストンの移動により前記弁棒を移動可能としたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の高温高圧用バルブは、前記高温高圧用バルブにおいて、前記作動流体として液体金属を用いることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他の高温高圧用バルブは、前記高温高圧用バルブにおいて、前記シール室におけるベローズの内外差圧を所定値にするように作動流体の圧力を設定することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る他の高温高圧用バルブは、前記作動流体圧力調節装置は、弁本体への被作動流体の入口側圧力と作動流体の圧力が一致するように、また弁開度指示に応じた被制御流体の入口側圧力と出口側圧力との差圧が所定値になるように作動流体の圧力を調節することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、軸シールが不可能な高温下においても、またベローズやダイアフラムが破断してしまうような高圧下においても使用可能なバルブが実現できる。このような特殊環境下でのバルブの利用範囲としては、例えば原子力分野などで有効に利用可能である。また、原理的に流体の温度を均一にする必要があるような流体の熱物理的性質に関する計測装置に利用することもでき、例えば等容法やバーネット法といった流体の高温高圧下におけるPVT性質の計測にも役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、より高温高圧の流体に対しても安定して作動し、ベローズからの漏洩や破断の危険性を著しく低減することができる高温高圧用バルブを提供するという課題を、ベローズ保持部材の流路に内部が連通するようにベローズの開口側端部を溶接して密封固定し、ベローズの閉鎖側端部に弁棒を固定し、前記弁棒の端部を弁本体の弁開閉室における弁座に接離可能に配置し、前記ベローズ保持部材の流路を外部に配置した作動流体圧力調節装置に連通して内部に作動流体を充填し、前記ベローズを弁本体のシール室内に伸縮自在に配置し、前記シール室にロッド周囲の間隙を介して前記弁開閉室内の被制御流体を導入可能として、シール室内に被制御流体を充填し、前記作動流体圧力調節装置による作動流体の圧力調節によりピストンシリンダのピストンの移動により弁棒を移動して弁を開閉することにより実現した。
【実施例1】
【0016】
図1にベローズバルブの例として本発明の実施例を示す。図1の例においては、弁本体5の下部に被制御流体としての1次流体が流入する一次流体入口12と1次流体出口13とを設け、この1次流体入口と出口間に弁座10を備えた弁開閉室14を形成している。弁開閉室14には弁棒8の下端部が図中上下動可能に位置しており、弁棒8の下端面が弁座10に接離することによって流路を開閉し、また弁座10から離れる程度によって流量調節も可能としている。
【0017】
弁棒8は弁本体5に形成した案内孔15によって図中上下方向の摺動が案内され、上端部はシール室16内に延びており、このシール室16内に収容したベローズ6の下端面17に溶接部7で固定している。シール室16の上部は弁本体5に嵌合したベローズ保持部材2により封止され、この封止部には金属ガスケット4を設けて確実なシールを行っている。ベローズ6の上端開口部18は、シール室16に面したベローズ保持部材2の下面19に対してベローズ溶接部3で固定している。ベローズ6はシール室16内面に近接して伸縮可能としている。
【0018】
シール室16内には弁開閉室14側から弁棒8と案内孔15との間を通って進入する高温高圧の1次流体9が充満しており、したがってベローズ6は外側からこの1次流体9の入口側圧力を受けている。ベローズ6の内部21には作動流体としての流体金属からなる2次流体1を充填しており、2次流体1はベローズ保持部材2から突出した管22内の管路23に接続する配管24を介して、作動流体圧力調節装置11としてのピストンシリンダにおけるシリンダ室30と連通している。流体金属としては種々のものを用いることができるが、例えば水銀あるいはガリウム等を用いることもできる。
【0019】
ピストンシリンダは内部にシリンダ室30を形成するシリンダ25と、シリンダ25内で摺動するピストン26とから構成され、ピストン26にはロッドを備えており、このロッド27は図示されないコントロール部で制御されて所定の移動を行うように駆動装置で駆動される。それにより、ピストン26が図中左方に駆動されると、シリンダ室24内の2次流体1は配管24を介してベローズ6内部に移動し、弁棒8を図中下方に移動し、弁の閉方向の作動、及び全閉時の密封加圧作動を行う。逆に、ピストン26が図中右方に駆動されると、弁の密封解除作動、及び弁棒8の図中上方への移動による弁の所定量の開放作動を行う。
【0020】
上記のような構成により弁棒8の周囲における弁案内孔15との間のシールを行う必要がなくなり、また、1次流体9は、ベローズ溶接部3及び金属ガスケット4によって密閉された空間の中にあり、高温環境下でも漏洩することがない。また、ベローズ6は薄肉の構造であるが、1次流体9と2次流体1の圧力がバランスしているため破断の危険性は極めて小さく、また破断の危険性が少ない分だけベローズを薄肉として、応答性を向上することも可能となる。
【0021】
更に、2次流体1として前記のような水銀やガリウム等の液体金属を用いると、その圧縮率が極めて小さいために、1次流体9側に大きな圧力変動があった場合も、2次流体1の体積をほとんど変えずに同じ圧力に追随することができる。したがって2次流体の注入または排出を行う作動流体圧力調節装置部分には、図示するような単純なピストンシリンダを用いれば十分であり、また配管長を長くとることができるため、遠隔操作も容易に実現できる。
【0022】
前記のような基本構成からなる本発明によるベローズバルブにおいては、例えば図2に示すように構成することにより、容易に組み立て製造を行うことができる。即ち図2に示す例においては、ベローズ6の下端面17に弁棒8を溶接部7で溶接した状態で、このベローズ6の上端開口部18の周囲部分をベローズ保持部材2の下面19に溶接部3で溶接しており、それによりベローズ保持部材2にはベローズ6と弁棒8が一体化した状態で予めベローズ組立体24として組み立て製造しておくことができる。
【0023】
図示の例においてはベローズ保持部材2の上部外周には雄ねじ25を設け、前記ベローズ組立体24を弁本体5に形成した嵌合部26に嵌合するとき、ロッド8を案内孔15に嵌入し、ベローズ6はシール室16内に挿入される。最終的に雄ねじ25を嵌合部26の上部内周に設けた雌ねじ27に螺合し、ベローズ保持部材2の下面19を弁本体5の段部28に設けた金属シール29に圧接することによって確実なシールを行わせる。
【0024】
この状態でベローズ保持部材2の上部に形成した管継手部31に金属製の管22を螺合し、管端をシール32に圧接させることによって確実なシールを行う。上記のような構造を採用することにより、ロッド8をベローズに確実に溶接し、またベローズをベローズ保持部材下面に確実に且つ容易に溶接することができ、シール性を確保することができる。
【0025】
図1に示す基本構成からなる本発明によるベローズバルブにおいては、例えば図3に示すような作動システムによって作動することができる。即ち図3に示す例においては、作動流体圧力調節装置11としてのピストンシリンダにおけるピストン26のロッド27を、駆動制御装置33により往復動可能とし、それによりシリンダ25内でピストン26を往復動し、シリンダ室30の容積を可変としている。
【0026】
図3に示す駆動制御装置33においては1次流体入口12側の圧力P1を入力して1次流体の圧力状態を検出するとともに、1次流体出口13側圧力P2を入力し、両圧力の差圧から弁の開度を検出可能とする。また、管路24内の圧力P3を検出して2次流体の圧力状態を監視し、特に1次流体入口の圧力P1との差圧が所定の圧力差状態になっているかを監視する。また弁の開度を制御するため、弁開度指示値34を入力し、この指示値にしたがってロッド27を駆動し、前記のように2次流体の圧力調節によって弁棒8を上下動し、弁の開度を所定の状態になるように制御する。弁棒8の上下動による弁の開度の状態は、前記のように1次流体入口12の圧力P1と1次流体出口13の圧力P2の差圧によって監視し、フィードバック制御することができる。
【0027】
以上のような構成により、1次流体9が非常に高温・高圧になっても、漏洩がなく、ベローズ6の破断の危険性も極めて小さいバルブを得ることができ、しかも安定した弁の開閉作動を行わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
上記のような本発明は、高温高圧の流体を取り扱う例えば原子力分野などで有効に利用可能であるが、そのほか、例えば等容法やバーネット法のような、高温高圧下におけるPVT性質の計測のように、原理的に流体の温度を均一にする必要があるような流体の熱物理的性質に関する計測装置に有効に利用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例の基本構成を示す断面図である。
【図2】同実施例における分解図である。
【図3】同実施例における駆動制御装置を用いた作動システムを示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 2次流体
2 ベローズ保持部材
3 ベローズ溶接部
4 金属ガスケット
5 弁本体
6 ベローズ
7 溶接部
8 弁棒
9 1次流体
10 弁座
11 作動流体圧力調節装置
12 1次流体入口
13 1次流体出口
14 弁開閉室
15 案内孔
16 シール室
17 下端面
18 上端開口部
19 下面
21 内部
22 管
23 管路
24 配管
25 シリンダ
26 ピストン
27 ロッド
28 段部
29 シール
30 シリンダ室
31 管継手部
32 シール
33 駆動制御装置
34 弁解度指示値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベローズ保持部材の流路に内部が連通するようにベローズの開口側端部を溶接して密封固定し、
ベローズの閉鎖側端部に弁棒を固定し、
前記弁棒の端部を弁本体の弁開閉室における弁座に接離可能に配置し、
前記ベローズ保持部材の流路を外部に配置した作動流体圧力調節装置に連通して内部に作動流体を充填し、
前記ベローズを弁本体のシール室内に伸縮自在に配置し、
前記シール室に前記弁開閉室内の被制御流体を導入可能として、シール室内に被制御流体を充填し、
前記作動流体圧力調節装置による作動流体の圧力調節により弁棒を移動して弁を開閉することを特徴とする高温高圧用バルブ。
【請求項2】
前記作動流体圧力調節装置はピストンシリンダであり、前記ベローズ内と該ピストンシリンダのシリンダ室とを連通して内部に作動流体を充填し、
ピストンシリンダのピストンの移動により前記弁棒を移動可能としたことを特徴とする請求項1記載の高温高圧用バルブ。
【請求項3】
前記作動流体として液体金属を用いることを特徴とする請求項1記載の高温高圧用バルブ。
【請求項4】
前記シール室におけるベローズの内外差圧を所定値にするように作動流体の圧力を設定することを特徴とする請求項1記載の高温高圧用バルブ。
【請求項5】
前記作動流体圧力調節装置は、弁本体への被作動流体の入口側圧力と作動流体の圧力が一致するように、また弁開度指示に応じた被制御流体の入口側圧力と出口側圧力との差圧が所定値になるように作動流体の圧力を調節することを特徴とする請求項1記載の高温高圧用バルブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−162256(P2009−162256A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339737(P2007−339737)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】