説明

高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置

【課題】増湿器への水分添加の開始後でガスタービン燃焼器に対する過渡的な条件変化が生じた場合に、ガスタービン燃焼器を低NOxで安定して燃焼させる高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法。
【解決手段】燃料を供給する複数の燃料ノズルと燃焼用空気を供給する複数の空気流路とで構成する燃焼部を複数設置し、複数設置された一部の燃焼部に他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成している高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率の設定を、増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件をもとに設定される値から加湿開始後の条件をもとに設定される値へ変化させる際に前記比率変化に一次応答遅れを与えて設定することによってガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御するガスタービン燃焼器の燃料制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高湿分空気利用ガスタービンに搭載する低NOxガスタービン燃焼器を安定に運用する高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
公知例の特開2008−175098号公報には、ガスタービン作動流体(空気)に水分を添加して加湿し、この加湿空気によってガスタービン排ガスの持つ熱エネルギーを回収することで、出力及び効率の向上を図る高湿分ガスタービン発電プラントにおいて、水分添加開始の前後に燃焼器の低NOx性能を確保しつつ火炎の安定性を維持可能にする燃料制御に関する技術が開示されている。
【0003】
一般に、ガスタービン起動時の回転数上昇時には、圧縮機吸込み空気流量や回転体の振動特性が変化するため、定格回転数到達後に比べると外乱により系が不安定になりやすい傾向がある。高湿分ガスタービンプラントにおいても、回転数上昇途中に水分添加を開始するとガスタービンに対して外乱を与えることになるため、起動時の安定性を確保するためには定格回転数到達後の部分負荷状態で水分添加を開始する方が望ましい。
【0004】
一方、ガスタービン燃焼器で発生する窒素酸化物(NOx)は、天然ガスや灯油、軽油等の窒素含有量の少ない燃料を用いる場合、空気中の窒素が酸化されて発生するサーマルNOxが大部分である。サーマルNOxの生成は温度依存性が高いため、一般にこれらの燃料を使用するガスタービンでは、火炎温度の低減が低NOx燃焼法の基本思想である。
【0005】
火炎温度を低減する方策として、燃料と空気を予め混合した後に燃焼させる予混合燃焼が知られている。また、高湿分ガスタービンプラントのように、再生器により燃焼用空気が高温化されている場合には、燃料の自発火を防止しつつ火炎温度を適度に制御して低NOx化を図る必要があり、そのためには、前記特開2008−175098号公報に開示されているように、燃料と空気を多数の小径の同軸噴流としてガスタービン燃焼室に噴出して燃焼させる技術が有効である。
【0006】
このような低NOx化を図るガスタービン燃焼器では、低NOx性能と火炎の安定性を両立させるために燃料流量と空気流量の比である燃空比を所定の範囲に調節することが肝要である。
【0007】
公知例の特開平07−189743号公報には、一般のガスタービンに使用される低NOxガスタービン燃焼器として、ガスタービンの運用にともなう圧縮機入口案内弁の開度変化、大気温度変化、大気圧力変化に起因する空気流量の変化や、燃料温度および燃料発熱量変化に起因する燃料流量の変化に基づいて、ガスタービン燃焼器に供給する燃料流量と空気流量の比を調整する制御装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−175098号公報
【特許文献2】特開平07−189743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】

高湿分ガスタービンプラントで水分添加が開始されると、ガスタービン燃焼器では燃焼空気中の湿分が増加するため、燃料の燃焼熱が湿分に奪われて火炎温度が低下してNOx発生量は減少する。また、水分の添加によってタービン作動流体の流量が増加するため、回転数を一定に保持するために燃料が減少することによっても火炎温度が低下してNOx発生量は減少する。
【0010】
さらにガスタービン燃焼器で燃焼する火炎温度が低下したことにより、再生器での回収熱量が減少するため、燃焼空気温度が低下することによっても火炎温度が低下し、NOx発生量は減少する。
【0011】
このように水分添加が開始されることよって、(1)湿分増加、(2)燃料減少、(3)空気温度低下が同時に進行して火炎温度が低下するため、NOx発生量は減少するが、逆に火炎の安定性は悪くなる。
【0012】
そこで、あらかじめ水分添加を考慮してガスタービン燃焼器に供給する空気配分を設定しておけば、高湿分条件で火炎の吹き消えが生じないようにガスタービン燃焼器の頭部の予混合部または同軸噴流部に供給する空気流量を適切に設定することができる。
【0013】
しかしながら、このようにガスタービン燃焼器に供給する空気配分が設定されたガスタービン燃焼器では、水分添加開始前には上記とは逆に火炎温度が高くなるため、火炎の安定性は確保されるもののNOx発生量は増加する傾向がある。
【0014】
すなわち、高湿分利用ガスタービンにおいては、水分添加開始前後で、ガスタービン燃焼器のNOx生成および火炎安定性に対して大きな条件変化が生ずるため、このような条件変化に対してもガスタービン燃焼器を低NOx化し、安定燃焼する制御手段が求められる。
【0015】
そこで、前記特開2008−175098号公報に開示されたように、個別に燃料が供給される複数の燃焼部を備えたガスタービン燃焼器の一部の燃焼部を他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部(空気流に旋回成分を与える空気孔を備えた燃焼部)で構成し、増湿開始後の所定の間、保炎性に優れた燃焼部における燃焼ガス温度が増湿開始前の燃焼ガス温度以上となるように、保炎性に優れた燃焼部に供給される燃料の比率を大きく設定して燃料を制御すれば、加湿後の燃焼安定性を確保することができる。
【0016】
しかしながら、発明者らが、高湿分ガスタービンのパイロットプラントを用いて、上記のような加湿開始時の燃焼安定性を検証したところ、加湿開始後に増湿器供給水量を一定の条件で保持した場合においても、ガスタービン燃焼器での燃焼の安定性確保に必要な燃料の比率が時間の経過と共に徐々に変化することが分かった。
【0017】
また、その後の試験データ解析によって、上記したような時間の経過と共に生じる燃料の比率の変化は、加湿開始に圧縮空気中の湿分が徐々に増加することに起因するものと推測された。すなわち、加湿状態において増湿器供給水量を一定の条件で保持した場合であっても、圧縮空気中の湿分の増加にはある遅れがあり、この遅れがガスタービン燃焼器での燃焼の安定性や低NOx性に影響する程度の時間スパンおよび変化幅を持つことが判明した。
【0018】
このような圧縮空気中の湿度の変化に対して、前記特開平07−189743号公報に開示されているような制御装置の技術を適用して燃焼の安定性を確保する場合は、圧縮空気中の湿分を計測し、その値を基に燃料流量割合を制御することが考えられる。
【0019】
しかしながら、増湿器出口の空気は飽和条件でかつ100℃前後の高温であり、増湿器出口にセンサーを設置した場合、このセンサーによる湿度計測は誤差が大きくなる可能性がある。また、再生器出口の空気は飽和条件ではないものの450℃〜650℃と高温であり、再生器出口にセンサーを設置した場合、再生器出口のセンサーには高い耐熱性が要求されるという課題がある。
【0020】
本発明の目的は、高湿分空気利用ガスタービンの増湿器への水分添加の開始後でガスタービン燃焼器のNOx生成および火炎安定性に対する過渡的な条件変化が生じた場合に、ガスタービン燃焼器を低NOxで安定して燃焼させることを可能にした高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法は、圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される圧縮空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器であって、前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと燃焼用空気を供給する複数の空気流路とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち一部の燃焼部に他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率の設定を、前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件をもとに設定される値から加湿開始後の条件をもとに設定される値へ変化させる際に前記比率変化に一次応答遅れを与えて設定することによって前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする。
【0022】
また本発明の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法は、圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される圧縮空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器であって、前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと、前記燃料ノズルと同軸となるように空気孔プレートに形成された燃焼用空気を供給する複数の空気孔とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち、空気孔プレートの内周側に位置する燃焼部に空気孔プレートの外周側に位置する他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率の設定を、前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件をもとに設定される値から加湿開始後の条件をもとに設定される値へ変化させる際に前記比率変化に一次応答遅れを与えて設定することによって前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする。
本発明の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置は、圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される燃焼用空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービンであって、前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと燃焼用空気を供給する複数の空気流路とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち一部の燃焼部に他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御装置において、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に燃料を供給する燃料制御装置は、前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率を設定する燃料流量比率設定器と、
前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件および加湿開始後の条件をもとに前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率のバイアス量を設定するバイアス設定器と、前記燃料比率のバイアス量が変化時に1次遅れを発生させる1次遅れ要素と、前記バイアス設定器の出力と前記1次遅れ要素の出力を加算して前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率を算出する加算器を備えて、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする。
また本発明の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置は、圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される燃焼用空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービンであって、前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと、前記燃料ノズルと同軸となるように空気孔プレートに形成された燃焼用空気を供給する複数の空気孔とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち、空気孔プレートの内周側に位置する燃焼部に空気孔プレートの外周側に位置する他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御装置において、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に燃料を供給する燃料制御装置は、前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率を設定する燃料流量比率設定器と、前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件および加湿開始後の条件をもとに前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率のバイアス量を設定するバイアス設定器と、前記燃料比率のバイアス量が変化時に1次遅れを発生させる1次遅れ要素と、前記バイアス設定器の出力と前記1次遅れ要素の出力を加算して前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率を算出する加算器を備えて、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高湿分空気利用ガスタービンの増湿器への水分添加の開始後でガスタービン燃焼器のNOx生成および火炎安定性に対する過渡的な条件変化が生じた場合に、ガスタービン燃焼器を低NOxで安定して燃焼させることを可能にした高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置を備えた高湿分空気利用ガスタービンの構成を示すシステム系統図。
【図2】本発明の第1実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置が適用されるガスタービン燃焼器に設けられた燃料ノズルの構成図。
【図3】図2に示したガスタービン燃焼器の燃料ノズルの空気孔プレートを示す正面図。
【図4】第1実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置による高湿分空気利用ガスタービンシステムの運転方法の一例を表す制御特性図。
【図5】本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を止めた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図。
【図6】本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を働かせた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図。
【図7】本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を止めた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの加湿停止時の制御方法の一例を表す特性図。
【図8】本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を働かせた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの加湿停止時の制御方法の一例を表す特性図。
【図9】本発明の第1実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置の構成を示す制御ブロック図。
【図10】本発明の第2実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置の構成を示す制御ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施例である高湿分空気利用ガスタービンに設置されるガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置について図面を引用して以下に説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1実施例である高湿分空気利用ガスタービンに設置されるガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置について図1乃至図9を用いて説明する。
【0027】
図1は本発明の第1実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置が適用される高湿分空気利用ガスタービンの全体構成を表すシステム系統図である。
【0028】
図1において、本実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御装置が適用される発電用の高湿分空気利用ガスタービンは、空気を圧縮する圧縮機1と、圧縮機1で圧縮した圧縮空気と燃料とを燃焼して高温の燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器2と、ガスタービン燃焼器2で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービン3と、圧縮機1で圧縮した圧縮空気を加湿する増湿器4と、増湿器4で加湿した空気を前記タービン3から排出される排ガスによって加熱して前記ガスタービン燃焼器2に燃焼用空気として供給する再生熱交換器5を備えており、前記タービン3の出力により発電機20を回転させ電力を得ている。
【0029】
ガスタービン燃焼器2は、燃焼器ケーシング7、及び燃焼器カバー8の内部に格納されている。ガスタービン燃焼器2の上流端中央には燃料ノズル9があり、その下流には、未燃の空気と既燃の燃焼ガスを隔てる概略円筒状の燃焼器ライナ10がある。
また、本実施例の高湿分ガスタービンでは、圧縮機1入口のガスタービン吸い込み空気100に水300を噴霧する吸気噴霧装置11を備えている。水噴霧後の空気101(大気圧)を圧縮機1で圧縮した高圧空気102は、増湿器4において水分を添加され加湿空気103となる。空気の加湿方法としては、濡壁塔或いは増湿塔による加湿が知られている。
【0030】
増湿器4で水分を添加された加湿空気103は、再生熱交換器5に導かれ、ガスタービン排気ガス107(タービン出口低圧燃焼ガス)との熱交換により加熱されて、再生器通過後の高温空気104となり燃焼器ケーシング7へと注入される。
【0031】
燃焼器ケーシング7内での空気は、燃焼器ライナ10の外側の概して環状の空間を通って燃焼器頭部へ向かって流れ、途中燃焼器ライナ10の対流冷却に使用される。また、その一部(105)は燃焼器ライナ10に設けられた冷却孔から燃焼器ライナ内へ流入し、フィルム冷却に使用される。残りの空気(36)は、後述する空気孔32から燃焼器ライナ10内に流入し、燃料ノズル31から噴出される燃料とともに燃焼に使用され、高温の燃焼ガス106となってタービン3へと送られる。
【0032】
タービン3を出た低圧のガスタービン排気ガス107は再生熱交換器5で熱回収された後、給水加熱器12、水回収装置13を経て、排気ガス108として排気塔14から排気される。また、燃焼排ガス中の水分は途中の水回収装置13で回収する。本図では、水回収の方式として煙道に水を噴霧し、ガス中の水分を凝集、落下させて回収する方式となっている。
【0033】
タービン3で得られた駆動力はシャフト21を通じて圧縮機1及び発電機20に伝えられる。駆動力の一部は圧縮機1において空気の加圧に用いられる。また、発電機20で駆動力を電力に変換する。
水回収装置13及び増湿器4の底部から回収した水は、水回収装置13への噴霧水あるいは増湿器4への加湿水として再利用する。
【0034】
高湿分ガスタービン発電プラントの出力である発電量MWは、燃料流量調整弁(211、212)の開閉により制御する。一方、空気への加湿量は増湿器4への加湿水量を調整弁311で制御する。
【0035】
図2は本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置が適用されるガスタービン燃焼器2に備えられた燃料ノズル9の構造を示した部分拡大図である。
ガスタービン燃焼器2を構成する燃焼器カバー8の燃料ノズルヘッダ30に多数の燃料ノズル31が取り付けられており、それらの各ガスタービン燃焼器2に対応した空気流路をそれぞれ形成する多数の空気孔32を備えた空気孔プレート33が、サポート34を介して燃焼器カバー8に取り付けられた構造となっている。
【0036】
一対の燃料ノズル31と空気孔32はほぼ同心状に配置されており、中央に燃料噴流35、その周囲に空気36の同軸噴流を多数形成することができる。この同軸噴流構造により、空気孔32内では燃料−空気は未混合であるため、高湿分ガスタービンの様に燃焼空気が高温であっても、燃料の自発火は発生せず、空気孔プレート33を溶損するようなことなく、信頼性の高いガスタービン燃焼器2にすることができる。
【0037】
また、このような小さな同軸噴流を多数形成することにより、燃料と空気の界面が増加し混合が促進するため、NOxの発生量を抑制することができる。かくして、高湿分ガスタービンに前記ガスタービン燃焼器2を採用した場合においても低NOx化と安定燃焼を両立することが可能となる。
【0038】
図3は本実施例のガスタービン燃焼器2を構成する空気孔プレート33を燃焼器下流側から見た正面図である。本実施例のガスタービン燃焼器2において、多数の空気孔32(および、図示されていないが空気孔32と対を成す燃料ノズル31)は空気孔プレート33の半径方向内周側から半径方向外周側にかけて環状の空気孔列が同心状に8列配置されている。
【0039】
前記ガスタービン燃焼器2の燃焼部を形成するバーナは、中心側の4列(第1列〜第4列)が第1群(F1)の燃焼部を形成するF1バーナ、第5列が第2群(F2)の燃焼部を形成するF2バーナ、その外側の2列(第6、7列)が第3群(F3)の燃焼部を形成するF3バーナ、最外周(第8列)が第4群(F4)の燃焼部を形成するF4バーナとそれぞれ群分けされており、図2に示した様に、F1バーナ〜F4バーナのそれぞれの群ごとにヘッダ30に設けたフランジ(41〜44)を通じて燃料が燃料ノズル31から供給できる様に燃料系統が群分けして配設されている。
【0040】
このような燃料系統の群分け構造を採用することにより、ガスタービン燃焼器2に供給する燃料流量変化に対して燃料供給する燃料ノズルの本数を段階的に変化させる燃料ステージングが可能となり、ガスタービン部分負荷運転時におけるガスタービン燃焼器2の燃焼安定性が高まるとともに低NOx化が可能となる。
【0041】
さらに中央の4列(F1)の燃焼部を形成するF1バーナを構成する空気孔プレート33の空気孔32はピッチ円接線方向に角度(図3中のα°、本実施例では15°としている)を持った斜め穴に形成することで、この空気孔32を流下する空気流全体に旋回をかけ、生じる循環流によって火炎を安定化させている。
【0042】
F1バーナの外周側に配設したF2バーナ〜F4バーナは、中央のF1バーナの燃焼熱によって火炎が安定化される。したがって、高湿分ガスタービンにおいて加湿が開始され、燃焼用空気の湿分が増加する際には、ガスタービン燃焼器2のF1バーナに供給する燃料流量を増加させ、局所的に高温な部分を設けることで、F1火炎の燃焼安定性が向上する。
【0043】
F1燃料の増加分、F2バーナ以降のバーナの燃料流量は減少するが、これらの火炎はF1バーナの燃焼熱によって火炎が安定化されているため、バーナ全体として、燃焼安定性が確保される。
【0044】
本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御装置によるガスタービン燃焼器2の運転方法について図4に示した高湿分空気利用ガスタービンシステムの運転方法の一例を表す制御特性図を参照して説明する。
【0045】
図4の横軸は起動開始からの時刻、縦軸は上から回転数、発電量、増湿器供給水量、全体の燃料流量、燃焼ガス温度、F1バーナ〜F4バーナに燃料を供給する各燃料系統の個別燃料流量(F1流量〜F4流量)を模式的に表したものである。
【0046】
また、期間aは起動から定格回転数に達するまでの回転数昇速期間、期間bはガスタービン起動中の増負荷期間、期間cは起動終了後の負荷追従運転期間をそれぞれ表す。また、増負荷期間bは前半の水分無添加期間b1と水分添加期間b2に分かれている。
【0047】
本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御装置によるガスタービン燃焼器2の運転方法においては、まず、制御装置400からの指令によって燃料流量が比較的少ない着火および昇速時はガスタービン燃焼器2の軸心側に位置するF1バーナのみを燃焼させて運転(すなわち図2の燃料系統201のみに燃料を供給)し、定格回転数無負荷条件付近まで昇速させる。このF1バーナの単独燃焼を今後の説明では1/4モードと呼ぶことにする。
【0048】
次にそれ以降の負荷上昇過程(期間b)では、ガスタービン燃焼器2のF1バーナの外周側に設置したF2バーナに燃料を投入して、F1+F2で運転する。すなわち、燃料系統201及び202に燃料を供給し、制御装置400からの指令によってこれらの燃料系統201及び202にそれぞれ設置された流量制御弁211及び212の開度を調節することにより各燃料流量を制御する。このときを2/4モードと呼ぶことにする。
【0049】
次に、さらにガスタービン燃焼器2のF2バーナの外周側に設置したF3バーナに燃料を投入する燃料系統203に燃料を供給し、F3バーナに着火した状態を3/4モードと呼ぶ。ここまでの過程では高湿分空気利用ガスタービンの増湿器4には水分が添加されていない(b1)。すなわち図1に示した高湿分空気利用ガスタービンの増湿器4に供給する水の流量を調節する増湿器給水弁311は全閉であり、増湿器バイパス弁312の開度によって再生熱交換器5の下流側に設置された給水過熱器12を流れる水量が制御されている。
【0050】
また、この間の燃料流量増加は、ガスタービンの起動計画に定められた負荷上昇率に従ってガスタービン発電量が増加する様に、流量制御弁211、212及び213の開度を調節することによってF1バーナ、F2バーナ、F3バーナに供給する燃料流量が制御される。また、F1バーナ、F2バーナ、F3バーナに供給する各燃料系統201乃至203の燃料流量配分は、ガスタービン燃焼器2の燃焼が安定しかつ生成するNOxが最小となる様に定められた比率で供給される。
【0051】
本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御装置においては、この3/4モードで高湿分空気利用ガスタービンの増湿器4への水分添加を開始する。加湿開始指令により増湿器給水弁311が開き、開度に応じた流量の給水が増湿器4へと注入される。同時に、増湿器バイパス弁312は、給水過熱器12を流れる水量が所定の値となるよう制御されながら、開度を減少し最終的には全閉状態となる。
【0052】
その後は増湿器給水弁311の開度を制御することで、給水過熱器12を流れる水量が所定の値となるよう調整される。
【0053】
このとき、ガスタービンの起動計画に定められた負荷上昇率に従ってガスタービン発電量が増加する様に、ガスタービン燃焼器2に供給する燃料流量が制御される。そのうち、F1バーナに供給する燃料は、ガスタービン燃焼器2の燃焼の安定性確保に主要な役割を担うため、加湿開始前に対して加湿開始後には、全燃料流量に対するF1バーナに供給する燃料流量の比率が大きくなるように設定される。
【0054】
発電量またはタービン排ガス温度が所定の量に達した時点で、高湿分ガスタービンの起動が完了し、その後は、負荷の増減に合わせて燃料流量が増減することで負荷追従する(期間c)。高負荷運転時においては、主としてガスタービン燃焼器2の最外周に設置されたF4バーナの燃料流量を増減させて対応する。
【0055】
このときF4バーナに供給する燃料と空気の混合気は、F1〜F3バーナの燃焼ガスと混合して高温になるため、燃料の酸化反応が進行し、高い燃焼効率を得ることができる。
【0056】
また燃焼完結後の温度をNOx生成が顕著となる温度(おおよそ1600℃)以下になるよう空気配分が設定されているため、F4バーナからのNOx発生をほとんど零とする燃焼が可能となる。またF4バーナに投入した燃料がごくわずかでも反応が完結するため、連続的な燃料切り換えが可能となり、運用性が向上する。
【0057】
図5に示した特性図は、本実施例のガスタービン燃焼器2に設けた燃料制御装置400を構成する一次遅れ要素405の機能を止めた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図を示すものである。
【0058】
図5の横軸は加湿開始指令からの経過時間である。図1に示す燃料制御装置400から加湿開始指令が発せられると、増湿器給水弁311が開き、開度に応じた流量の給水が増湿器4へと注入される。
【0059】
その時間は図5中にTで示した時間であり、弁の応答速度によるが、数十秒から1分程度の時間である。このとき増湿器給水弁311の弁開度または増湿器4に注入される水量測定値をもとにF1バーナに供給する燃料流量のバイアス量であるF1バイアス量を決定することができ、その変化の時間はやはりTとなり、数十秒から1分程度の時間である。
【0060】
ところで、発明者らの検証試験によれば、増湿器4への供給水量が一定となった後も、圧縮空気中の湿分は、図5中の点線のように徐々に増加して、やがて一定の値に落ち着くことが分かった。それまでの時間はおおよそ10分から15分程度であり、この湿分増加の遅れを1次遅れと見ると、その時定数τは数分(3分から6分の間)のオーダーであった。
【0061】
この間、すなわち圧縮空気中の湿分が一定の値に落ち着くまでの10分から15分程度の間は、増湿器4への供給水量から求められるF1バーナに供給する燃料のF1バイアス量が、湿分から求められる適度なF1バイアス量よりも多くなるため、燃焼安定性は確保されるもののNOx生成量が多くなる状況となる。
【0062】
そこで、本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御方法および燃料制御装置においては、燃料制御装置400に設置した一次遅れ要素405によって増湿器4への供給水量から求めたF1バイアス量に1次応答遅れを与えることによって、図6に本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を働かせた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図として示したように、F1バイアス量の変化は空気中湿分の変化と同様な挙動を示すように改善され、本実施例のガスタービン燃焼器2を低NOxかつ安定燃焼可能なF1バイアス量に近づけることができ、よってNOx生成量を抑えつつ燃焼安定性を確保するガスタービン燃焼器2が得られる。
【0063】
以上は、加湿開始時の挙動についての説明であるが、本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御方法および燃料制御装置は加湿停止時に適用すると、より大きな効果が得られる。
【0064】
次に加湿停止時に適用する本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御方法および燃料制御装置について図7および図8を用いて説明する。
【0065】
図7に示した特性図は、本実施例のガスタービン燃焼器2に設けた燃料制御装置400を構成する一次遅れ要素405の機能を止めた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図を示すものである。
【0066】
図7の横軸は加湿停止指令からの経過時間である。図1に示す燃料制御装置400から加湿開始指令が発せられると、図1の増湿器バイパス弁312が開き、開度に応じた流量の給水が水回収器14へと注入される。同時に増湿器給水弁311の開度が減少し、増湿器4へ注入される水量が減少する。
【0067】
その時間は図7中にTで示した時間であり、加湿開始時に図5で示したTと同等の数十秒から1分程度の時間である。このとき増湿器給水弁311の弁開度または増湿器に注入される水量をもとにF1バーナに供給する燃料流量のバイアス量であるF1バイアス量を決定することができ、その変化の時間はやはりTとなり、数十秒から1分程度の時間である。
【0068】
ところで、図5および図6における説明と同様に、増湿器4への供給水量がゼロとなった後も、圧縮空気中の湿分は、図7中の点線のように徐々に減少して、やがて加湿開始前の一定の値に落ち着く。そのため、圧縮空気中の湿分が一定の値に落ち着くまでの間は、F1バイアス量が湿分から求められる適度なF1バイアス量よりも少なくなることから、燃焼安定性が失われる状況となる。
【0069】
そこで、本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御方法および燃料制御装置においては、制御装置400に設置した一次遅れ要素405によって増湿器4への供給水量から求めたF1バイアス量に1次応答遅れを与えると、図8に本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置の機能を働かせた場合の高湿分空気利用ガスタービンシステムの制御方法の一例を表す特性図として示したように、空気中湿分から求められる最適値に近づけることができるため、本実施例のガスタービン燃焼器2をNOx生成量を抑えつつ燃焼安定性を確保することができる。
【0070】
上記した構成の本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置を用いない場合、加湿開始時はNOx生成量は多くなるものの火炎安定性は保たれるため、火炎消失によるガスタービントリップは生じる恐れは無いが、加湿停止時は火炎安定性が損なわれるため、火炎消失によるガスタービントリップに至る可能性もある。上記した構成の本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置によれば、このような状況も解決することができるため、特に加湿停止時に適用すると効果が大きい。
【0071】
図9は本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御装置400の制御ブロックの一例を示したものである。
【0072】
本実施例であるガスタービン燃焼器2の燃料制御装置400は、減算器401と、燃料流量制御器402と、燃料流量比率設定器403と、F1バイアス設定器404と、1次遅れ要素405と、加算器406と、実燃料制御器407を備えている。
【0073】
そして前記燃料制御装置400では、予め定められた発電量増加率に従うように与えられた負荷指令MWDと実際の発電量MWの差を減算器401で求め、この減算器401で求めた負荷指令MWDと実際の発電量MWの差に基づいて燃料流量制御器402でガスタービン燃焼器2に供給する燃料流量指令値410を演算する。
【0074】
燃料流量制御器402で演算した燃料流量指令値410に基づいて燃料流量比率設定器403でガスタービン燃焼器2に設置されたF1バーナ〜F4バーナに供給する燃料の各燃料流量比率(411〜414)をそれぞれ演算する。
【0075】
次に、高湿分空気利用ガスタービンシステムの増湿器4に供給する供給水量の計測値415に基づいて、F1バイアス設定器404によってガスタービン燃焼器2に設置されたF1バーナに供給する燃料にバイアスするF1バイアス416を演算する。
【0076】
F1バイアス設定器404で演算したF1バイアス416に基づいて1次遅れ要素405でF1バイアス(遅れ)417を演算し、このF1バイアス(遅れ)417と前記燃料流量比率設定器403で演算した燃料流量比率(411)との和を加算器406で演算して、前記加算器406で演算したF1バイアス(遅れ)417と燃料流量比率(411)との和を実燃料制御器407に入力するように構成している。
【0077】
実燃料制御器407では、F1バーナ〜F4バーナの各燃料流量比率(411〜414)および燃料流量指令値410で演算した燃料流量指令値410を入力し、F1〜F4各燃焼系統の流量または弁開度(211〜214)をそれぞれ演算して出力して、前記ガスタービン燃焼器2に設置されたF1バーナ〜F4バーナに供給する燃料の流量を調節する燃料流量制御弁211〜214の弁開度を制御するように構成している。
【0078】
かくして、図9に示した制御ブロックを備えた燃料制御装置400によって、図6および図8の制御特性図に示したF1バイアス量を演算することが可能となる。
【0079】
本実施例のガスタービン燃焼器2の燃料制御装置400においては、F1バイアス設定器404の入力415として、増湿器4に供給する増湿器供給水量415の計測値の例を示したが、増湿器4に給水する供給水量制御弁311の開度信号でも代用できる。この場合は供給水量制御弁311の弁前後の圧力条件の変動によって流量実測値の場合と比べると精度は劣るが、増湿器供給水量415を計測する流量計が不要となるため、制御系が簡便となる。あるいは、より簡便に実施するため、加湿開始指令を入力値とすることも考えられる。
【0080】
本実施例によれば、高湿分空気利用ガスタービンの増湿器への水分添加の開始後でガスタービン燃焼器のNOx生成および火炎安定性に対する過渡的な条件変化が生じた場合に、ガスタービン燃焼器を低NOxで安定して燃焼させることを可能にした高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置が実現できる。
【実施例2】
【0081】
次に、本発明の第2実施例である高湿分空気利用ガスタービンに設置されるガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置について図10を用いて説明する。
【0082】
本実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置は先の第2実施例であるガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置と基本的な構造は共通しているので、両者に共通した構成は説明を省略し、相違する部分についてのみ以下に説明する。
【0083】
図10は本発明の第2実施例である高湿分空気利用ガスタービンに設置されるガスタービン燃焼器の燃料制御装置について示しており、図9に示した第1実施例のガスタービン燃焼器の燃料制御装置400と異なる点は、燃料制御装置400を構成する1次遅れ要素405に入力する時定数418を算出するために、むだ時間要素420、減算器408及び時定数設定器409を更に設けた点にある。
【0084】
図9に示した第1実施例のガスタービン燃焼器3の燃料制御装置400においては、燃料制御装置400に設置した1次遅れ要素405に入力する時定数418は一定の値であった。この値は、例えば試運転時に得られたデータをもとに予め選定し、常に一定値で使用することもできる。
【0085】
しかしながら、増湿器4への給水流量の変化が比較的大きい加湿開始前後のような場合と、加湿開始後の負荷運転時の水量変動のように増湿器4への給水流量の変化が比較的小さい場合では、最適な時定数も異なることになる。
【0086】
そこで本実施例のガスタービン燃焼器3の燃料制御装置400においては、増湿器4に供給する給水を計測した給水流量計測値415の時間変化量を減算器408で計算するが、そのために、計測した給水流量計測値415から、むだ時間要素420を経由させた給水流量計測値415を減算器408で減算することで給水流量計測値415の時間変化量を計算し、この減算器408で計算した給水流量計測値415の時間変化量の値に基づいて時定数設定器409によって最適な時定数418を演算して1次遅れ要素405の入力とするものである。
【0087】
1次遅れ要素405ではこの時定数418を用いて、前記F1バイアス設定器404によって演算したガスタービン燃焼器2のF1バーナに供給する燃料にバイアスするF1バイアス416に対して1次遅れ要素を加えたF1バイアス417を演算して前記加算器406に出力するように構成されている。
【0088】
以上説明した構成を備えた本実施例のガスタービン燃焼器3の燃料制御装置400においては、第1実施例のスタービン燃焼器3の燃料制御装置400について述べたような、加湿前後の増湿器4への給水流量の変化が大きい場合に、低NOxで安定なガスタービン燃焼器を提供するだけでなく、加湿開始後の負荷運転時の水量変動のように増湿器4への給水流量の変化が比較的小さい場合においても、ガスタービン燃焼器3のF1バイアスの変化を湿分変化に追従させることが可能となり、ガスタービン燃焼器3の燃焼状態を常に安定に保持できる。
【0089】
本実施例によれば、高湿分空気利用ガスタービンの増湿器への水分添加の開始後でガスタービン燃焼器のNOx生成および火炎安定性に対する過渡的な条件変化が生じた場合に、ガスタービン燃焼器を低NOxで安定して燃焼させることを可能にした高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法および燃料制御装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0091】
1:圧縮機、2:ガスタービン燃焼器、3:タービン、4:増湿器、5:再生熱交換器、7:燃焼器ケーシング、8:燃焼器カバー、9:燃料ノズル、10:燃焼器ライナ、11:吸気噴霧装置、12:給水加熱器、13:水回収装置、14:排気筒、20:発電機、21:シャフト、30:燃料ヘッダ、31:燃料ノズル、32:空気孔、33:空気孔プレート、34:サポート、35:燃料噴流、36:空気噴流、41:F1燃料フランジ、42:F2燃料フランジ、44:F4燃料フランジ、100:ガスタービン吸い込み空気(大気圧)、101:水噴霧後の吸い込み空気(大気圧)、102:圧縮空気、103:再生器前低温高湿空気、104:再生器通過後高温高湿空気105:ライナ冷却空気、106:高温燃焼ガス、107:タービン出口低圧燃焼ガス、108:排気筒排気ガス、200:燃料、201:F1燃料、202:F2燃料、203:F3燃料 、204:F4燃料、210:燃料遮断弁、211:F1燃料制御弁、212:F2燃料制御弁、213:F3燃料制御弁、214:F4燃料制御弁、300:圧縮機吸気噴霧水、301:増湿器給水、310:圧縮機吸気噴霧水量制御弁、311:増湿器給水量制御弁、312:増湿器バイパス弁、401、408:減算器、402:燃料流量制御器、403:燃料流量比率設定器、404:F1バイアス設定器、405:1次遅れ要素、406:加算器、407:実燃料制御器、409:時定数設定器、410:燃料流量指令値、411:F1燃料比率、412:F2燃料比率、413:F3燃料比率、414:F4燃料比率、415:増湿器供給水量、416:F1バイアス、417:F1バイアス(補正)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される圧縮空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器であって、
前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと燃焼用空気を供給する複数の空気流路とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち一部の燃焼部に他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、
前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率の設定を、前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件をもとに設定される値から加湿開始後の条件をもとに設定される値へ変化させる際に前記比率変化に一次応答遅れを与えて設定することによって前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法。
【請求項2】
圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される圧縮空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器であって、
前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと、前記燃料ノズルと同軸となるように空気孔プレートに形成された燃焼用空気を供給する複数の空気孔とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち、空気孔プレートの内周側に位置する燃焼部に空気孔プレートの外周側に位置する他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、
前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率の設定を、前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件をもとに設定される値から加湿開始後の条件をもとに設定される値へ変化させる際に前記比率変化に一次応答遅れを与えて設定することによって前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法において、
前記加湿開始前の条件と前記加湿開始後の条件の変化の度合いに応じて前記一次遅れの時定数を設定することを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御方法。
【請求項4】
圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される燃焼用空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービンであって、
前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと燃焼用空気を供給する複数の空気流路とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち一部の燃焼部に他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御装置において、
前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に燃料を供給する燃料制御装置は、
前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率を設定する燃料流量比率設定器と、
前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件および加湿開始後の条件をもとに前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率のバイアス量を設定するバイアス設定器と、
前記燃料比率のバイアス量が変化時に1次遅れを発生させる1次遅れ要素と、前記バイアス設定器の出力と前記1次遅れ要素の出力を加算して前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率を算出する加算器を備えて、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置。
【請求項5】
圧縮機と、圧縮機で圧縮された圧縮空気を用いて燃料を燃焼し燃焼ガスを発生させるガスタービン燃焼器と、ガスタービン燃焼器で発生した燃焼ガスによって駆動されるタービンと、圧縮機で圧縮されて前記ガスタービン燃焼器に供給される燃焼用空気を加湿する増湿器と、増湿器に供給する水を前記タービンから排気した排ガスで加熱する再生熱交換器を備えた高湿分空気利用ガスタービンであって、
前記ガスタービン燃焼器は、燃料を供給する複数の燃料ノズルと、前記燃料ノズルと同軸となるように空気孔プレートに形成された燃焼用空気を供給する複数の空気孔とで構成する燃焼部を複数設置し、前記複数設置された燃焼部のうち、空気孔プレートの内周側に位置する燃焼部に空気孔プレートの外周側に位置する他の燃焼部よりも保炎性に優れた燃焼部を形成しているガスタービン燃焼器の燃料制御装置において、
前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に燃料を供給する燃料制御装置は、
前記保炎性に優れた燃焼部に燃料を供給する燃料比率を設定する燃料流量比率設定器と、
前記増湿器による圧縮空気への加湿開始前の条件および加湿開始後の条件をもとに前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率のバイアス量を設定するバイアス設定器と、
前記燃料比率のバイアス量が変化時に1次遅れを発生させる1次遅れ要素と、前記バイアス設定器の出力と前記1次遅れ要素の出力を加算して前記保炎性に優れた燃焼部に供給する燃料比率を算出する加算器を備えて、前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に供給する燃料の流量割合を制御することを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置において、
前記ガスタービン燃焼器の複数の燃焼部に燃料を供給する燃料制御装置は、前記加湿開始前の条件と前記加湿開始後の条件の変化の度合いを入力として、前記一次遅れの時定数を出力する時定数設定器を更に備えていることを特徴とする高湿分空気利用ガスタービン用のガスタービン燃焼器の燃料制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−36778(P2012−36778A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175979(P2010−175979)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)