説明

高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜及びそれを用いた燃料電池

【課題】高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用のプロトン交換膜を提供する。
【解決手段】20質量%以上の濃度のメタノール水溶液を燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池用の芳香族炭化水素系ポリマーを含むプロトン交換膜であって、芳香族炭化水素系ポリマーが80〜180℃の軟化開始温度を有し、かつ下記(式1)で表される繰り返し単位を有するポリマーであり、40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が0.5〜30%である高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【化1】


[式中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを、q、n1は1以上の整数を表す。但しn1が2以上の場合、ZはO原子を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、高濃度のメタノール水溶液を燃料として用いるダイレクトメタノール型燃料電池用のプロトン交換膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ダイレクトメタノール型燃料電池は、燃料にメタノールを用いて発電する固体高分子型燃料電池であり、ノート型パソコンや、PDA、携帯電話などをはじめとする携帯用電源としての利用が期待されている。ダイレクトメタノール型燃料電池の構成としては、プロトン交換膜の両面に一対の電極を接合したメンブランエレクトロードアセンブリー(MEA)と呼ばれる構造体を中心として構成されており、片方の電極にメタノール水溶液を、もう一方の電極に空気などの酸化ガスを供給することで燃料電池として動作させることができる。メタノール濃度が濃いほどエネルギー密度が高く、長時間の運転や燃料タンクの小型化が可能であり携帯用電源として優れているものの、高濃度のメタノールを使うと、メタノールがプロトン交換膜を透過しやすく、副反応を起こすので、充分な発電性能が得られない問題がある。
【0003】
MEAに用いるプロトン交換膜は、カチオン交換膜としてプロトン伝導性を有するとともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとして、主にパーフルオロカーボンスルホン酸膜が使用されてきた。しかしながら、パーフルオロカーボンスルホン酸膜はメタノール透過が顕著で、メタノールクロスオーバーによる発電性能の低下が問題である。
【0004】
このため、よりメタノールクロスオーバーが起こりにくいプロトン交換膜の開発が行われており、炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入した高分子プロトン交換膜が広く検討されている(例えば、技術文献1)が、メタノール透過抑止性は充分とはいえず、また電極が剥がれやすい問題など解決すべき課題が残っている。
また、プロトン交換樹脂を多孔質材料に含浸したり、架橋することによって、メタノール透過をさらに抑制する膜開発も行われ、このタイプのプロトン交換膜は、炭化水素系プロトン交換膜よりもさらにメタノール透過を抑止できることで知られている(例えば、技術文献2)が、膜が脆く、電極との接合性も悪いため、ダイレクトメタノール型燃料電池として動作させることは難しい傾向にある。
このように炭化水素系プロトン交換膜あるいは、炭化水素系プロトン交換膜を用いた複合膜あるいは架橋膜においては、性能改善もさることながら、電極との接合性をいかに改善するかが解決すべき課題である。
【0005】
【非特許文献1】Journal of Membrane Science 185 (2001) p.29−39
【非特許文献2】第47回 電池討論会予稿集(2006年)、154−157頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プロトン伝導性の発現に寄与する、スルホン酸基などのカチオン性官能基をポリマー骨格中に含む成分と、プロトン伝導性に寄与しない例えば芳香族骨格からなる疎水性成分を、共重合して形成されるプロトン交換膜において、プロトン伝導性成分の割合を増やすとプロトン伝導性は増すが、それと相関して、メタノールクロスオーバーも増大する。一方、プロトン伝導性成分の割合を減らすとメタノールのクロスオーバーを抑制できるが、プロトン伝導性も低下する。すなわち、プロトンが移動可能なチャンネルもメタノールが移動可能なチャンネルも基本的には親水性部位であるため、両者の間には正の相関が存在する。従って、メタノールの透過を低減させるためには、基本的にメタノール水溶液に対する膨潤を小さく抑える必要がある。
そこで、本発明は、特に高濃度(20質量%以上)のメタノール水溶液を燃料として使用する場合においても、メタノール水溶液に対する耐膨潤性に優れ、かつ電極との接合性にも優れ、高濃度のメタノールでも良好に動作するダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の構造の芳香族炭化水素系プロトン交換ポリマーにおいて、特定のメタノール水溶液に対する面積膨潤率と、ポリマーの軟化開始温度を有するプロトン交換膜を用いると、高濃度のメタノール水溶液を燃料として使用できるダイレクトメタノール型燃料電池を提供できることを見い出したのであり、本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
【0008】
(1)20質量%以上の濃度のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池用の芳香族炭化水素系ポリマーを含むプロトン交換膜であって、芳香族炭化水素系ポリマーが80〜180℃範囲の軟化開始温度を有し、かつ下記(式1)で表される繰り返し単位を有するポリマーであり、プロトン交換膜の40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が0.5〜30%の範囲にあることを特徴とする高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【0009】
【化1】

[式中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn1が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
(2)下記(式2)で表される繰り返し単位を芳香族炭化水素系ポリマー中にさらに有する(1)に記載の高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【0010】
【化2】

[式中、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn2が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
(3)下記(式3)で表される繰り返し単位を芳香族炭化水素系ポリマー中にさらに有する(2)に記載の高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【0011】
【化3】

[式中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを表す。]
【0012】
(4)前記(1)〜(3)のいずれかの高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜を用いた燃料電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜は、特定のポリアリーレンエーテル構造をポリマー骨格の一部として有し、スルホン酸基をポリマー中に有する芳香族炭化水素系ポリマーを含み、かつ芳香族炭化水素系ポリマーの軟化温度が特定の範囲であるポリマーを用いるため、得られるプロトン交換膜は高濃度のメタノール水溶液に対する耐膨潤性に優れるとともに電極との接合性に優れるため、高濃度のメタノールを燃料とする燃料電池のプロトン交換膜として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明におけるプロトン交換膜としては、ポリアリーレンエーテル構造をポリマー骨格の一部として少なくとも有し、かつスルホン酸基もポリマー中に有する芳香族炭化水素系ポリマーを含むことを特徴としており、かつ、芳香族炭化水素系ポリマーの軟化開始温度が80〜180℃の範囲にあり、かつイオン交換膜の40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が0.5〜30%の範囲である事が重要である。
【0015】
本発明における40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率とは、プロトン交換膜の40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する平衡膨潤度を示すものであり、膜厚みが20〜200μmの範囲のもので、5×5cmの大きさの乾燥膜(面積:As)を、40℃、30質量%のメタノール水溶液に2時間浸積した後、膜の面積(Aw)を測定し、下記式を用いて求められるものである。
面積膨潤率(%)=(Aw−As)/As×100(%)
【0016】
面積膨潤性とメタノール透過性の間には相関があり、メタノール水溶液に対する膨潤性が低い膜ほどメタノールのクロスオーバーを低く抑えられる点で有効である。この点において濃度20質量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜としては、40℃、30質量%のメタノールに対する面積膨潤率が0.5〜30%の範囲であることが必要である。面積膨潤率が0.5%よりも小さいと本発明の電極との接合性を改善したプロトン交換膜においても電極との接合が困難となる傾向がある。一方30%を越えるとメタノール透過抑止性が不十分であり、高濃度のメタノール水溶液を用いて発電すると性能低下する傾向にある。特に面積膨潤率としては、1〜15%の範囲である場合が特に良好である。
【0017】
従来のポリアリーレンエーテル構造を有する芳香族炭化水素系ポリマーにおいても、面積膨潤率を低く抑えることができればメタノール透過を低く抑えることが可能ではあるが、電極との接合性が悪くなってしまう問題がある。しかし、本発明の面積膨潤率を持つポリアリーレンエーテル構造およびスルホン酸基を含む芳香族炭化水素系ポリマーを含むプロトン交換膜においては、芳香族炭化水素系ポリマーの軟化開始温度が80〜180℃の範囲にある場合、電極との接合性が良好である。芳香族炭化水素系ポリマーの軟化開始温度が80℃未満の場合は、イオン交換膜の変形が大きくなり、短絡する傾向がある。芳香族炭化水素系ポリマーの軟化開始温度が180℃を越える場合は、電極との接合性が不十分となる傾向がある。軟化開始温度は、最適には90〜160℃の範囲である。
【0018】
本発明のプロトン交換膜を作製するために使用する芳香族炭化水素系ポリマーは、少なくとも前記の(式1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンエーテル構造とスルホン酸基を含むポリマーを含む。好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上含む。(式1)のポリアリーレンエーテル構造を含むことでプロトン交換膜とした際の面積膨潤率を低く抑えることが可能な傾向にあると共に電極との接合性が向上する。
【0019】
スルホン酸基をポリマーに導入する方法としては、例えば(式1)の構造よりスルホン酸基を除いた基本骨格を有するようなポリアリーレンエーテル骨格を持つポリマーに対して、適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族環含有ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0020】
また、(式1)で表されるスルホン酸基を有する芳香族炭化水素系ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種にスルホン酸基あるいはその誘導体を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られたポリマーの熱安定性が高くなるので好ましい。
【0021】
芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミド骨格を含む場合においては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基含有ジアミンを用いてスルホン酸基含有ポリイミド骨格を導入することが出来る。また芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸を使用することによりスルホン酸基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール骨格を導入することが出来る。
【0022】
本発明におけるポリアリーレンエーテル構造とスルホン酸基を含むプロトン交換膜を形成するための芳香族炭化水素系ポリマーは、特に分子中に下記(式1)で表される骨格を含むものが、面積膨潤性と軟化開始温度を制御する上で好ましい。
【0023】
【化4】

[式1中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn1が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
【0024】
さらに、下記(式2)で表される構造をさらに含有することで、シアノ基の電子的作用により面積膨潤率が抑えられるのでより好ましい。
【0025】
【化5】

[式中、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn2が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
【0026】
また、スルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーにおいては、上記(式1)および(式2)で示される以外の構造単位が含まれていてもかまわない。このとき、上記(式1)または(式2)で示される以外の構造単位は70質量%以下であることが好ましい。70質量%以下とすることにより、ポリマーの特性を活かしたプロトン交換膜とすることができる。特に良好には、50質量%以下である。
【0027】
本発明のプロトン交換膜を形成するための芳香族炭化水素系ポリマーとしては、スルホン酸基含有量が0.3〜1.9meq/gの範囲にあることが好ましい。0.3meq/gよりも少ない場合には、軟化開始温度を本発明の範囲にした場合でも、MEAを作製する時の電極との接合性が悪く、ダイレクトメタノール型燃料電池とした際の内部抵抗が増加する。一方、1.9meq/gよりも大きい場合には、面積膨潤率が大きくなりすぎる傾向が強く、安定に動作させることはできない。なお、スルホン酸基含有量はポリマー組成より計算することができる。より好ましくは0.6〜1.7meq/gである。
【0028】
なお、面積膨潤率を低減させるためにポリマーを架橋したり、フィラーあるいは多孔性素材を含むことはより好ましい傾向にある。架橋・フィラー・多孔性素材による膨潤抑制効果によって、よりメタノール透過が抑えられたプロトン交換膜とすることができる。
【0029】
さらに芳香族炭化水素系ポリマーの分子中に、下記(式3)で表される繰り返し単位を有するプロトン交換膜は、面積膨潤率が抑えられるとともに、強靱性も高いものとなるため好ましい。
【0030】
【化6】

[式3中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを表す。]
【0031】
前記の(式1)および(式2)の繰り返し単位を有するスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系ポリマーは、下記(式4)および(式5)で表される化合物をモノマーとして含む芳香族求核置換反応により重合することができる。
(式4)で表される化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、およびそれらのスルホン酸基が1価カチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。
(式5)で表される化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。
【0032】
【化7】

【化8】

(ただし、Xは−S(=O)基または−C(=O)基、Yは1価のカチオン種、Zは塩素またはフッ素を示す。)
【0033】
本発明において、上記2,6−ジクロロベンゾニトリルおよび2,4−ジクロロベンゾニトリルは、異性体の関係にあり、いずれを用いたとしても良好なプロトン伝導性、耐熱性、加工性および寸法安定性を達成することができる。その理由としては両モノマーとも反応性に優れるとともに、小さな繰り返し単位を構成することで分子全体の構造をより硬いものとしていると考えられている。
【0034】
上述の芳香族求核置換反応において、上記(式4)及び(式5)で表される化合物とともに各種活性化ジフルオロ芳香族化合物やジクロロ芳香族化合物をモノマーとして併用することもできる。これらの化合物例としては、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0035】
上述の(式1)乃至(式2)で表される構成単位は、上述の(式4)や(式5)で表される化合物とともに、ジオールやジチオールをモノマーとして用いて、芳香族求核置換反応をすることで得ることができる。このようなジオールあるいはジチオールモノマーの例としては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、末端ヒドロキシル基含有ポリフェニレンエーテルオリゴマー、4,4’−チオビスベンゼンチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、4,4’−ビフェニルジチオール、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,8−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)−1,4−ベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)−1,3−ベンゼン、1,6−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,4−ビス(ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(ヒドロキシフェニル)エタン、1,3−ビス(ヒドロキシフェニル)プロパン、1,5−ビス(ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,6−ビス(ヒドロキシフェニル)ヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等があげられるが、この他にも芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオールを使用することもできる。
【0036】
また、これらの芳香族ジオールには、炭素数1〜30の範囲のアルキル基、フェニル基などの芳香族系の置換基、ハロゲン、シアノ基、スルホン酸基およびその塩化合物などの置換基が結合していても良い。アルキル基や芳香族系の置換基にハロゲン、シアノ基、スルホン酸基などの置換基が結合していても良い。置換基の種類は特に限定されることはなく、芳香環あたり0〜2個であることが好ましい。これらジオールあるいはジチオール化合物は、単独で使用することができるが、複数を併用することも可能である。
【0037】
スルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーを芳香族求核置換反応により重合する場合、上記(式4)および(式5)で表せる化合物を含む活性化ジフルオロ芳香族化合物及び/またはジクロロ芳香族化合物とジオールあるいはジチオール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜230℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。
【0038】
反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にし得るものであれば、これらに限定されず使用することができる。芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。
【0039】
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜40質量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5質量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、40質量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。
【0040】
また、本発明のスルホン酸基を含有するポリアリーレンエーテル系ポリマーは、ポリマー対数粘度が0.1以上であることが好ましい。対数粘度が0.1よりも小さいと、プロトン交換膜として成形したときに、膜が脆くなりやすくなる。還元比粘度は、0.3以上であることがさらに好ましい。一方、還元比粘度が5を超えると、ポリマーの溶解が困難になるなど、加工性での問題が出てくるので好ましくない。なお、対数粘度を測定する溶媒としては、一般にN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドなどの極性有機溶媒を使用することができるが、これらに溶解性が低い場合には濃硫酸を用いて測定することもできる。
【0041】
なお、必要に応じて、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、架橋剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、ラジカル防止剤などの各種添加剤や、プロトン交換膜の特性をコントロールするための貴金属、無機化合物や無機―有機のハイブリッド化合物、イオン性液体、などを含んでいても良い。また、可能な範囲で複数のものが混在していても良い。
【0042】
以上に示したポリマーを、押し出し、圧延またはキャストなど任意の方法でプロトン交換膜とすることができる。中でも適当な溶媒に溶解した溶液から成形することが好ましい。この溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミドなどの非プロトン性極性溶媒や、メタノール、エタノール等のアルコール類や、エーテル類、ケトン類または、それらと水の混合溶媒から適切なものを選ぶことができるがこれらに限定されるものではない。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。溶液中の化合物濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。溶液中の化合物濃度が0.1質量%未満であると良好な成形物を得るのが困難となる傾向にあり、50質量%を超えると加工性が悪化する傾向にある。
【0043】
溶液から成形体を得る方法は従来から公知の方法を用いて行うことができる。プロトン交換膜を成形する手法として最も好ましいのは、溶液からのキャストであり、キャストした溶液から上記のように溶媒を除去してプロトン交換膜を得ることができる。
溶媒の除去は、乾燥によることがプロトン交換膜の均一性の観点からは好ましい。また、化合物や溶媒の分解や変質を避けるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することもできる。また、溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。
【0044】
キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、10〜2500μmであることが好ましい。より好ましくは50〜1500μmである。溶液の厚みが10μmよりも薄いとプロトン交換膜としての形態を保てなくなる傾向にあり、2500μmよりも厚いと不均一なプロトン交換膜ができやすくなる傾向にある。
【0045】
溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。例えば、アプリケーター、ドクターブレードなどを用いて一定の厚みにしたり、ガラスシャーレなどを用いてキャスト面積を一定にして溶液の量や濃度で厚みを制御することができる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜を得ることができる。例えば、加熱する場合には最初の段階では低温で行い、後に昇温させる方法がある。また、水などの非溶媒に浸漬する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておくなどして化合物の凝固速度を調整することができる。
【0046】
本発明のプロトン交換膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、プロトン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には3〜200μmであることが好ましく、5〜150μmであることがさらに好ましい。プロトン交換膜の厚みが3μmより薄いとプロトン交換膜の取扱が困難となり燃料電池を作製した場合に短絡等が起こる傾向にあり、200μmよりも厚いとプロトン交換膜が頑丈となりすぎ、ハンドリングが難しくなる傾向にある。また本発明においては、プロトン交換膜として記載したが、中空糸状に加工することも好ましい形であり、加工に際しては公知の処方を利用できる。
【0047】
最終的に得られたプロトン交換膜を使用する場合、膜中のイオン性官能基は一部金属塩になっているものを含んでいても良いが、適当な酸処理により酸型のものに変換した形が好ましい。この際、プロトン交換膜のプロトン伝導率は1.0×10−3S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導率が1.0×10−3S/cm以上である場合には、そのプロトン交換膜を用いた燃料電池において良好な出力が得られる傾向にあり、1.0x10−3S/cm未満である場合には燃料電池の出力低下が起こる傾向にある。
【0048】
なお、メタノールクロスオーバーを防ぐ意味では、メタノール透過速度として、0.1〜1.8mmol/m/sの範囲にあることが好ましく、より好適には、1.5mmol/m/sよりも小さいことが望ましい。
【0049】
本発明において電極とプロトン交換膜の接合方法としては、特に限定されるものではなく、ホットプレス法などの公知の手法を用いることができる。一般的に、プロトン交換膜の両面に電極を接合することによって、MEAを得ることができる。燃料電池用の電極の構成については特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。ホットプレスによる電極とプロトン交換膜との接合方法は、電極とプロトン交換膜を積層した状態で、熱・圧力・温度を印可することによって接合する手法であり、広く用いられている公知の技術である。
【0050】
プロトン交換膜は、膜の両面に電極が接合されるが、電極としては、ガス拡散層と触媒層を含む2層以上の層からなる形態が一般的であり、触媒層がプロトン交換膜上に形成されており、その外側にガス拡散層が配置されるのが通常である。ここで触媒の種類や電極に使用されるガス拡散層の種類や接合方法などは特に限定されるものではなく、公知のものが使用でき、また公知の技術を組み合わせたものも使用できる。
【0051】
電極に使用する触媒としては、耐酸性と触媒活性の観点から適宜選出できるが、白金族系金属およびこれらの合金や酸化物が特に好ましい。例えばカソードに白金または白金系合金,アノードに白金または白金系合金や白金とルテニウムの合金を使用すると高効率発電に適している。複数の種類の触媒を使用していても良く、分布があっても良い。電極中の空孔率は特に制限されるものではない。触媒層中に触媒と一緒に混在させるプロトン伝導性樹脂の種類・量なども特に制限されるものではない。またフッ素系結着剤に代表される疎水性化合物の含浸など、ガス拡散層および触媒層のガス拡散性をコントロールするための手法なども好適に利用できる。
【0052】
電極をプロトン交換膜に接合する技術において、両者の界面に大きな抵抗が生じないようにすることが重要であり、また膜の膨潤収縮や、ガス発生の機械的な力によって剥離や電極触媒の剥落が生じないようにすることも重要である。この接合体の作製方法としては、従来から燃料電池における電極−膜接合方法の公知技術として知られている手法、例えば電極でプロトン交換膜を挟み込んだ後、プレスして接着する方法が有効に用いられる。電極としては、ガス拡散層上に触媒を塗布したものやテフロン(登録商標)等のフィルム状に触媒を塗布したものが用いられる。後者の場合、別途作製したガス拡散層と重ね合わせる手法が一般的である。さらには、触媒インクを膜にスプレーやインクジェット等で析出させてから、ガス拡散層と重ね合わせる手法などが好適に用いられる。
【0053】
本発明のダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜は、20質量%以上の高濃度のメタノール水溶液に対する耐膨潤性に優れるのみならず、電極との接合性に優れるため、燃料電池に組み込まれたMEAは、長時間にわたって良好な状態を維持できる。メタノール濃度が低い場合は、エネルギー密度が低く、また大きな電池となってしまうことが問題となるため、本発明の場合のように、メタノール水溶液の濃度は、20質量%よりも高いことが好ましく、より好ましくは30質量%以上である。なおメタノール水溶液の濃度が60質量%を超えると、メタノールの酸化反応がスムーズに起こらなくなるため好ましくない。
【0054】
また、燃料電池に使用されるセパレータの種類や、空気に代表される酸化ガスの流速・供給方法・流路の構造などや、運転方法、運転条件、温度分布、燃料電池の制御方法などは特に限定されるものではない。ただしダイレクトメタノール型燃料電池の供給方法によっては、燃料タンクに供給するメタノール水溶液の濃度は20質量%よりも濃いが、装置に希釈メカニズムを設けることによって、MEAに供給されるメタノール水溶液の濃度としては、20質量%よりもかなり希釈した形で供給可能である。しかしながら、本発明のダイレクトメタノール型燃料電池においては、濃度20質量%のメタノール水溶液を直接MEAに供給できるため、システムが簡素化され、燃料電池の高エネルギー密度化と小型化の実現に寄与することができる。
【実施例】
【0055】
以下に本発明の実施例を示すが本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、本発明で用いた評価法・測定法は、以下のとおりである。
<プロトン交換膜の膜厚>
プロトン交換膜の厚みは、PEACOCK DIGITAL GAUGE MODELD−10SとDIGITAL COUNTERを組み合わせて測定することにより求めた。室温が20℃で湿度が50±5RH%にコントロールされた測定室内で24時間以上静置したプロトン交換膜を5×5cmの大きさに切断したサンプルに対して、20箇所の厚みを測定し、その平均値を膜厚とした。
【0056】
<イオン交換容量(酸型)>
イオン交換容量(IEC)としては、イオン交換膜に存在する酸型の官能基量を測定した。まずサンプル調整として、サンプル片(5×5cm)を80℃のオーブンで窒素気流下2時間乾燥し、さらに乾燥窒素ガスで満たしたグローブボックスで30分間放置冷却した後、乾燥質量を測定した(Ws)。次いで、200mlの密閉型のガラス瓶に、200mlの1mol/Lの濃度の塩化ナトリウム-超純水溶液と秤量済みの前記サンプルを入れ、密閉したまま、室温で24時間攪拌した。次いで、溶液30mlを取り出し、10mMの水酸化ナトリウム水溶液(市販の標準溶液)で中和滴定し、滴定量(T)より下記式を用いて、IECを求めた。
IEC(meq/g)=10T/(30Ws)×0.2
(Tの単位:ml Wsの単位:g)
【0057】
<面積膨潤率>
プロトン交換膜の面積膨潤率の測定は、<イオン交換容量(酸型)>の項で調整方法を示した乾燥状態にあるサンプルの正確な面積(As)を測定した。次いで、サンプルを密閉型のガラス瓶に入れた200mlの40℃、30質量%のメタノール水溶液に2時間撹拌しながら浸積した。その後、ガラス瓶を水冷することによって、25℃までメタノール水溶液の温度を下げた。次いでサンプルをガラス瓶から取り出し、直ぐにメタノール水溶液で膨潤したサンプルの面積(Aw)を測定し、下記式を用いて面積膨潤率を求めた。
面積膨潤率(%)=(Aw−As)/As×100(%)
【0058】
<プロトン伝導率>
プロトン伝導率σは次のようにして測定した。自作測定用プローブ(ポリテトラフルロエチレン製)上で幅10mmの短冊状膜試料の表面に10mm間隔で、4本の白金線(直径:0.2mm)をそれぞれ平行となるように押しあて、上からテフロン(登録商標)板で抑えることによって固定した後、25℃に調整した超純水中に試料をプローブとを一緒に浸積し、白金線間の交流インピーダンスをSOLARTRON社1250FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。極間距離を10mmから40mmまで10mm間隔で変化させて測定し、極間距離と抵抗測定値をプロットした直線の勾配Dr[Ω/cm]から下記式により膜と白金線間の接触抵抗をキャンセルして算出した。
σ[S/cm]=1/(膜幅×膜厚[cm]×Dr)
【0059】
<メタノール透過速度およびメタノール透過係数>
プロトン交換膜のメタノール透過速度およびメタノール透過係数は、以下の方法で測定した。25℃に調整した5モル/リットルの濃度のメタノール水溶液(メタノール水溶液の調整には、市販の試薬特級グレードのメタノールと超純水(18MΩ・cm)を使用。)に24時間浸漬したプロトン交換膜をH型セルに挟み込み、セルの片側に100mlの5モル/リットルの濃度のメタノール水溶液を、他方のセルに100mlの超純水を注入し、25℃で両側のセルを撹拌しながら、プロトン交換膜を通って超純水中に拡散してくるメタノール量をガスクロマトグラフにより測定することで算出した(プロトン交換膜の面積は、2.0cm)。なおセルの撹拌速度は撹拌速度の影響によってメタノール透過性が変化しない速度で撹拌した。なお具体的には、超純水を入れたセルのメタノール濃度変化速度[Ct](mmol/L/s)より以下の式を用いて算出した。
メタノール透過速度[mmol/m/s]
=(Ct[mmol/L/s]×0.1[L])/2×10−4[m
メタノール透過係数[μmol/m/s]
=メタノール透過速度[mmol/m/s]×膜厚[m]×1000
【0060】
<軟化開始温度の測定>
高分子電解質膜の軟化開始温度は次のようにして測定した。幅5mmの短冊状の試料をユービーエム社製動的粘弾性測定装置(型式名:Rheogel−E4000)にチャック間距離14mmとなるようにセットし、乾燥窒素気流下で試料を4時間乾燥させた後、引張モードで周波数10Hz、歪み0.7%、窒素気流中、測定温度25〜250℃まで、昇温速度2℃/分で温度を上昇させながら貯蔵弾性率(E‘)と損失弾性率(E“)を求め、次式よりTan−δを求めた。2℃毎の測定ステップで測定した。
Tan−δ=E“/E‘
温度上昇を開始しても、Tan−δの変化は小さいが、一定温度を超えるとTan−δが急激に立ち上がり、その後ピークを示す凸型のカーブを描く。この測定においてTan−δの立ち上がり温度を軟化開始温度と定義し、Tan−δのピークをガラス転移温度とした。具体的なTan−δの立ち上がり温度は、縦軸にTan−δを対数目盛りでプロットし、横軸に温度をプロットした図において、Tan−δ立ち上がり前のプラトー領域の接線と、立ち上がり後に傾きが直線となる部分の接線とが交わる温度とした。
【0061】
<発電特性>
デュポン社製20%ナフィオン(登録商標)溶液に、市販の54%白金/ルテニウム触媒担持カーボンと、少量の超純水およびイソプロパノールを加え、均一になるまで撹拌し、触媒ペーストを調製した。この触媒ペーストを、ガス拡散層となる疎水化を施した東レ社製カーボンペーパー(TGPH−090)に白金の付着量が2.1mg/cmになるようにアプリケーターを用いて均一に塗布・乾燥して、アノード用の触媒層付きガス拡散層を作製した。
また、同様の手法で、白金/ルテニウム触媒担持カーボンに替えて市販の40%白金触媒担持カーボンを用いて、疎水化した前記カーボンペーパー上に電極触媒層を形成することで、カソード用の触媒層付きガス拡散層を作製した(1.0mg−白金/cm)。
上記2種類の触媒層付きガス拡散層の間に、プロトン交換膜を、触媒層が膜に接するように挟み、ホットプレス機により3分間加圧、加熱することにより、MEAを作製した。プレス圧力と温度は種々変更し、発電特性が最も良かった条件をそれぞれの膜の標準MEA条件とした。
発電特性の比較は、最適化したホットプレス条件で作製したMEAの発電性能とした。MEAはElectrochem社製の評価用燃料電池セルに組み込んでセル温度60℃で、アノードに55℃の33質量%の濃度のメタノール水溶液をカソードに乾燥空気をそれぞれ供給しながら、電流密度0.1A/cmで放電試験を行った際の電圧を調べた。測定は、運転開始後、80時間後の値を代表値として評価した。また電流密度0.1A/cmにおいて電流遮断法(100μs)により測定される電池の抵抗を測定し、比較した。
【0062】
<実施例1>
3,3’−ジスルホン酸ナトリウム−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(略号:S−DCDPS)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)、4,4’−ビフェノール(略号:BP)、1,6−ヘキサンジチオール(略号: HDT)、炭酸カリウム、をモル比15:85:50:50で合計10gとなるよう調整し、そこに乾燥したモレキュラーシーブ3−A 6.5gを200ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。100mlのN−メチル−2−ピロリドン(略号:NMP)を入れて、150℃で30分撹拌した後、反応温度を195−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて水中にストランド状に沈殿させた。
得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄した後、乾燥した。ポリマー濃度15%となるようNMPに溶解し、ホットプレート上ガラス板にアプリケーターを用いてキャストして、80℃で1.0時間、150℃で0.5時間加熱した後、窒素雰囲気の150℃のオーブン中で1時間乾燥し、ガラス板からフィルムを剥離した。
得られたフィルムは室温の純水に1日浸漬した後、2mol/Lの硫酸水溶液に2時間浸漬した。その後、洗浄水が中性になるまでフィルムを純水で洗浄し、空気中に放置して乾燥して、イオン交換膜を得た。
得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。また、動的粘弾性測定結果から求めた軟化開始温度は、110℃±5℃であった(図1)。
【0063】
<実施例2>
S−DPDPS、DCBN、BP、HDTのモル比を15:85:75:25に変えた以外は、実施例1に従い実施例2のプロトン交換膜を作製した。得られたプロトン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。また動的粘弾性測定結果から求めた軟化開始温度は、168±5℃であった。
【0064】
<実施例3>
BP及びHDTに換えて、末端ヒドロキシル基含有フェニレンエーテルオリゴマー(略号:DPE)(大日本インキ社製SPECIANOL DPE−PL、ロットC106)(フェニレンエーテルモノマーの繰り返し単位として、n=1〜7の成分を含む混合物。平均組成はn=4.0)を用い、S−DPDPSとDCBNとDPEがモル比で23:77:100となるように変えた以外は、実施例1に従い実施例3のプロトン交換膜を作製した。 得られたプロトン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。また、動的粘弾性測定結果から求めた軟化開始温度は、143±5℃であった。
【0065】
<比較例1>
S−DCDPS、BP、及びDCBNを、S−DCDPSとDCBNとBPのモル数が20:80:100となるように重合することによって比較例1のプロトン交換膜を作製した。
得られたプロトン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。動的粘弾性を測定したが、250℃以下の温度では軟化開始温度を示さなかった。
【0066】
<比較例2>
S−DCDPS、DCBN、DPEのモル比を28:72:100となるに変えた以外は、実施例3に従い、比較例2のプロトン交換膜を作製した。
得られたプロトン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。動的粘弾性測定結果より求めた軟化開始温度は、147±5℃であった。
【0067】
<比較例3>
DuPont社製ナフィオン(登録商標)117膜をプロトン交換膜として手に入れた状態で使用した。評価を行った結果を表1に示す。動的粘弾性測定結果より求めた軟化開始温度は、62±5℃であった。
【0068】
【表1】

【0069】
以上より、本発明の実施例1〜3のプロトン交換膜においては、メタノール透過性が低く、濃度20%以上のメタノールを燃料として運転するダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜として適している。また組み立てた燃料電池の電池抵抗は小さく、電極と良好に接合できていることが分かる。
【0070】
一方、比較例1のプロトン交換膜はプロトン伝導率も高く、かつメタノール透過性は抑制されたプロトン交換膜ではあるが、電池に組み込んで評価すると電池抵抗が著しく高く、電池の電圧は低いものであった。これは軟化開始温度が高いために電極との間で接合が上手くいっていないためであると考えられる。なお、同様の発電を、より低温で低濃度のメタノールを用いて行ったところ、電池性能には特に問題は観察されなかった。メタノール濃度と発電温度の上昇により、電極とプロトン交換膜の界面に問題が発生したものと考えられる。よって、実施例の発明は、よりダイレクトメタノール型燃料電池として過酷な運転条件でも使用できることが分かる。
また、比較例2のプロトン交換膜は、軟化開始温度は適切であり、電池とした時の抵抗値は低く抑えられているものの、面積膨潤率が高く、メタノールを通しやすいために、燃料電池とした際の性能は低いものであった。
また、比較例3のプロトン交換膜は、比較例2と比べても面積膨潤率が高く、メタノール透過が著しく高いために、電池性能は低いものであった。
以上より、本発明のプロトン交換膜は、濃度20質量%以上のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池に適したプロトン交換膜であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のプロトン交換膜は、高濃度のメタノール水溶液を燃料とするダイレクトメタノール型燃料電池用に好適なプロトン交換膜であり、燃料電池の高エネルギー密度化と小型化の実現に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明におけるプロトン交換膜の軟化開始温度を、Tan−δと温度との関係図からを求めた測定例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20質量%以上の濃度のメタノール水溶液を燃料として使用するダイレクトメタノール型燃料電池用の芳香族炭化水素系ポリマーを含むプロトン交換膜であって、芳香族炭化水素系ポリマーが80〜180℃範囲の軟化開始温度を有し、かつ下記(式1)で表される繰り返し単位を有するポリマーであり、プロトン交換膜の40℃、30質量%のメタノール水溶液に対する面積膨潤率が0.5〜30%の範囲にあることを特徴とする高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【化1】

[式中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、Z1はO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn1が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
【請求項2】
下記(式2)で表される繰り返し単位を芳香族炭化水素系ポリマー中にさらに有する請求項1に記載の高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【化2】

[式中、ZはO又はS原子のいずれかを、Zは、O原子、S原子、−C(CH−基、−C(CF−基、−(CH)q−基、シクロヘキシル基のいずれかを表し、q、n1は1以上の整数を表す。但しn2が2以上の場合、ZはO原子を表す。]
【請求項3】
下記(式3)で表される繰り返し単位を、芳香族炭化水素系ポリマー中にさらに有する請求項2に記載の高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜。
【化3】

[式中、Xは−S(=O)−基又は−C(=O)−基を、YはH又は1価の陽イオンを、ZはO又はS原子のいずれかを表す。]
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの高濃度ダイレクトメタノール型燃料電池用プロトン交換膜を用いた燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2008−146976(P2008−146976A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−331675(P2006−331675)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】