説明

高炉徐冷スラグの処理方法およびその処理装置、ならびに、路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の製造方法

【課題】有害物質の発生を低減しながら、短い時間で利用可能な材料とすることが出来る高炉徐冷スラグの処理方法およびその処理装置を提供する。
【解決手段】高炉徐冷スラグの処理方法であって、高炉徐冷スラグと水とを耐圧容器に収容後、耐圧密閉容器を加温することにより収容された水を150〜300℃の高温高圧水にし、生成した前記高温高圧水と前記高炉徐冷スラグとの接触により前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出する抽出工程(ステップS101〜103)と、前記抽出工程終了後、前記耐圧容器内の高温高圧水を排出する排出工程(ステップS104)と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉で銑鉄を生成する際、副生成物として分離回収される高炉徐冷スラグの処理方法およびその処理装置に関する。加えて、その処理方法にて処理をした高炉徐冷スラグを原料とした、路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高炉徐冷スラグは、路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材として利用されているが、高炉から取り出し、冷却しただけの高炉徐冷スラグをそのままこれら路盤材等に使用すると、スラグ中に含まれる硫黄が雨水等によって溶解し、黄濁水(以下「黄水」という)となって周囲に流出し、環境に悪影響を及ぼすおそれがある。このため、粒状化したスラグを屋外に山積みにして数ヶ月エージングを施した後に出荷しているが、エージングのためには広大な用地を確保するとともに、出荷するまでの管理が必要となっていた。
【0003】
これに対して、スラグからの黄水の発生を防止して処理する技術として、硫黄含有スラグに対して硫黄を固定化する酸化処理の後、スラグ中の未炭酸化カルシウムを炭酸化処理してスラグを固化処理する成形体製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、脱硫スラグを二酸化炭素ガス雰囲気下で900℃以上に加熱することにより、製鋼プロセスで脱硫材として再利用可能にする使用済みスラグの硫黄除去方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、還元スラグに熱水または水蒸気を接触させて、還元スラグ中の硫黄分を加水分解することにより硫黄分を低減する還元スラグの処理方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
また、水蒸気を15〜50体積%含む70℃以上の気体を流速0.03m/min〜30m/minで吹き付ける低硫黄濃度の高炉徐冷スラグの製造方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【0007】
さらにまた、製鋼スラグを装入した圧力容器に加圧水蒸気を供給し、凝縮した熱水および空気混じり蒸気を排出した後、前記製鋼スラグを2〜10kg/cmGの飽和水蒸気雰囲気化で水和反応させる、製鋼スラグのエージング方法が開示されている(例えば、特許文献5および6参照)。
【0008】
また、溶融スラグに酸素を含む気体を吹き付けることにより、溶融スラグ中の硫黄を酸化し、除去する方法が開示されている(例えば、特許文献7〜9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3714229号公報
【特許文献2】特開2008−308754号公報
【特許文献3】特開2008−163391号公報
【特許文献4】特開平9−118549号公報
【特許文献5】特許第3193869号公報
【特許文献6】特開平9−118550号公報
【特許文献7】特開昭55−97408号公報
【特許文献8】特開昭53−90193号公報
【特許文献9】特開昭59−125386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、硫黄含有スラグ中の硫黄分の酸化に少なくとも十数時間〜数日程度の期間を要し、さらに炭酸処理に1日程度の時間を要する。
【0011】
また、特許文献2に記載の方法は、900〜1000℃程度にスラグを加熱する必要があり、エネルギーコストが高くなる。
【0012】
特許文献3および4に記載の方法は、スラグ中の硫黄分の加水分解および酸化処理に数日程度の時間を要するとともに、生成した有害な硫化水素やSOxを大気放出することになり好ましくない。
【0013】
特許文献5および6に記載の方法は、製鋼スラグ中の遊離酸化カルシウム(フリーライム)の水和を目的としたエージング方法であって、該方法による製鋼スラグ中の硫黄除去の可能性については何ら記載されておらず、該方法により黄水の発生を防止できるか否かは明らかではない。
【0014】
また、特許文献7〜9に記載の方法は、溶融したスラグ中に含まれる硫黄についての脱硫方法であり、すでに冷却したスラグには適用できないという問題があった。
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みて考案されたものであり、高炉での銑鉄製造プロセスで発生する高炉徐冷スラグについて、硫化水素やSOxなどの有害物質の大気中への放出を低減しながら、短い時間で利用可能な材料とすることが出来る処理方法およびその処理装置を提供することを目的とする。さらに、この処理方法および処理装置を用いて処理した高炉徐冷スラグを原料とした、黄水の発生を防止する路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法は、高炉徐冷スラグと水とを耐圧容器に収容後、前記耐圧容器を加温することにより収容された水を150〜300℃の高温高圧水にし、生成した前記高温高圧水と前記高炉徐冷スラグとの接触により前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出する抽出工程と、前記抽出工程終了後、前記耐圧容器内の高温高圧水を排出する排出工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法は、上記発明において、前記排出工程は、高温高圧状態を保持しながら前記耐圧容器内の水を排出することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法は、上記発明において、前記抽出工程で使用する高炉徐冷スラグと水との質量比を1:5以上とすることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法は、上記発明において、前記抽出工程は、高炉徐冷スラグを収容する前記耐圧容器に所定温度に調整した高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水を前記耐圧容器内に連続的に供給し、かつ排出させて前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法は、上記発明において、前記排出工程後、前記耐圧容器内に水を供給して前記高炉スラグ表面に残存する高温高圧処理された硫黄分を抽出する再抽出工程を含むことを特徴とする。
【0021】
また、本発明の路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の製造方法は、上記に記載の処理方法にて処理された高炉徐冷スラグを原料として、路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の内少なくとも1種を製造することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理装置は、高炉徐冷スラグを収容する耐圧容器と、前記耐圧容器に水を供給する供給手段と、前記耐圧容器を収容するための蓋部を有し、前記耐圧容器を加温して前記耐圧容器内の水を150〜300℃の高温高圧水とする加熱手段と、前記耐圧容器内の高温高圧水を排出する排出手段と、前記高温高圧水と前記高炉徐冷スラグとを所定時間接触させることにより前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら高温高圧水を前記排水手段から排出するよう制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の高炉徐冷スラグの処理装置は、上記発明において、前記供給手段は、150〜300℃の高温高圧水を生成する加熱手段を備え、前記制御手段は、前記耐圧容器内に前記供給手段から前記高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記供給手段と前記排水手段とにより前記高温高圧水を前記耐圧容器内に連続的に供給し、かつ排出させる制御を行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、硫化水素やSOxなどの有害物質の大気中への排出を低減しながら、短い時間で高炉徐冷スラグを処理し利用可能な材料とすることができる。さらに、本発明により黄水の発生を防止しうる路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材を短い時間で製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る高炉スラグ処理装置の断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1に係る高炉徐冷スラグ処理のフローチャートである。
【図3】図3は、水温と飽和水蒸気圧の関係を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2に係る高炉徐冷スラグ処理装置の断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態2に係る高炉徐冷スラグ処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る高炉徐冷スラグの処理方法およびその処理装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
水を液体状態のまま高温高圧状態、いわゆる亜臨界状態にすると、イオン積が増大し、大きな加水分解作用を持つことはよく知られている。一方、高炉での銑鉄プロセスで発生した高炉徐冷スラグ中には、硫黄、硫化物(硫化カルシウムなど)、亜硫酸塩及びピロ硫酸塩等の硫黄分が含まれる。そして、これら硫黄分は、上記高温高圧水に接触することで加水分解され、主として硫酸塩や亜硫酸塩として高温高圧水中に抽出できることが期待できる。
【0028】
本発明は、高炉での銑鉄プロセスで発生した高炉徐冷スラグを高温高圧水で処理することにより、黄水発生の原因となる硫化物を高温高圧状態の水で抽出し、析出させることなく排出して、高炉徐冷スラグを短い時間で利用可能な材料とすることができると考え本発明を考案するに至った。なお、これ以降の本願明細書において、JIS A 5015「道路用鉄鋼スラグ」に代表される路盤材、JIS A 5011−1「コンクリート用スラグ骨材」に代表される骨材、土工用材および地盤改良材をまとめて、「路盤材等」と呼ぶこともある。
【0029】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る高炉徐冷スラグ処理装置100の断面図である。処理装置100は、高炉徐冷スラグを収容し、高温高圧水と接触させる反応槽としての役割を果たす耐圧密閉容器3と、耐圧密閉容器3に温水を供給する温水供給ライン系5と、耐圧密閉容器3を加熱し、内部の水を高温高圧水とする加熱用ヒーター4と、高温高圧処理後、耐圧密閉容器3内の高温高圧水を排出する処理水排出ライン系6と、各部を制御する制御部12と、を備える。
【0030】
耐圧密閉容器3は、高炉徐冷スラグを容器内に収容するための開閉自在の蓋15を有する。耐圧密閉容器3は、本実施の形態1にかかる高温高圧水処理を行うために、0.5〜30Mpa程度の圧力に耐える構造を有するものとする。さらに、収容された高温高圧水に加えられた圧力を逃さない程度に密閉される構造を有する。耐圧密閉容器3は容器移動用レール1上を自在に移動可能な容器移動用台車2上に載置される。容器移動用レール1は、高炉徐冷スラグの載置・放冷場所と耐熱密閉容器3の加熱用ヒーター4とを結ぶように敷設され、高炉徐冷スラグの載置・放冷場所で高炉徐冷スラグを耐熱密閉容器3に収容後、容器移動用台車2で容器移動用レール1上を移動することにより、加熱用ヒーター4内に耐熱密閉容器3を搬送する。
【0031】
温水供給ライン系5は、耐圧密閉容器3に供給する温水を貯留する温水槽9と、温水槽9内の温水を加熱する加熱用ヒーター7と、温水槽9内の温水の温度を検出する温度センサー8と、耐圧密閉容器3に温水槽9内の温水を送液する送液ポンプ10と、温水供給ライン系5の開閉および供給量を調整する圧力調整弁11と、を備える。本実施の形態では、加熱用ヒーター4の昇温負荷を少なくするため温水供給ライン系5としているが、加熱用ヒーター7を設けず、水を耐熱密閉容器3に供給してもよい。
【0032】
耐圧密閉容器3に供給される高炉徐冷スラグと水と量比は、高炉徐冷スラグを高温高圧水で処理することにより高温高圧水に溶出した化合物が、処理後、たとえば処理水排出中に配管中に析出して配管詰まりの原因とならないよう、水と高炉徐冷スラグの供給量は、質量比で1:5以上とすることが好ましい。また、高炉徐冷スラグを高温高圧水中に確実に浸漬させて、高温高圧処理するために、トータルの仕込み量(高炉徐冷スラグと水との合計量)を、耐圧密閉容器3の容積の5%以上とすることが好ましく、1回当たりの処理量増大のためには、50%以上とすることが好ましい。
【0033】
加熱用ヒーター4は、耐圧密閉容器3を収容するための開閉自在な蓋16と、加熱用ヒーター4内の温度を検出する温度センサー13と、を備える。加熱用ヒーター4は、耐圧密閉容器3内に温水供給ライン系5から供給される温水を高温高圧水とするために、耐圧密閉容器3を所定温度、たとえば、150〜300℃に加熱する。実施の形態1に係る加熱用ヒーター4は、耐熱密閉容器3を収容する構造としているが、耐熱密閉容器3内の水を150〜300℃の高温高圧水とすることが可能であれば、耐熱密閉容器3自体に加熱手段を付加したものとしてもよい。
【0034】
処理水排出ライン系6は、処理水排出ライン系6の開閉および耐圧密閉容器3内の高温高圧水の排出量を調整する圧力調整弁14を備える。
【0035】
制御部12は、上記各部と電気的に接続され、各部の処理および動作を制御する。制御部12は、加熱用ヒーター4を制御して高温高圧水を精製し、耐圧密閉容器3内の高炉徐冷スラグと高温高圧水とを所定時間接触させた後、耐圧密閉容器3内の高温高圧状態を保持しながら耐圧密閉容器3内の高温高圧水を排出するよう制御する。高温高圧水の排出は、圧力調整弁14により排出量を調整しながら、高温高圧水排出により耐圧密閉容器3内の圧力および温度が低下しないよう加熱用ヒーター4で加熱しながら行う。
【0036】
なお、上述したように、高温高圧水の排出は、耐熱密閉容器3内の高温高圧状態を保持したまま行うことが好ましいが、原料とする高炉徐冷スラグ中に含まれる硫黄の割合が低い場合や、耐圧密閉容器3内への水の供給量が高炉徐冷スラグに対し5倍量以上の場合は、高温高圧処理され高温高圧水に抽出された硫黄分の再析出が少ないため、そのまま耐熱密閉容器3から高温高圧水を排出してもよい。
【0037】
次に、図2を参照して、高炉徐冷スラグの処理フローについて説明する。図2は、本実施の形態1に係る高炉徐冷スラグ処理のフローチャートである。
【0038】
まず、耐圧密閉容器3に高炉徐冷スラグを装入する(ステップS101)。装入する高炉徐冷スラグは、未エージングで、呈色以外はJISA5015の粒度調整鉄鋼スラグ(MS−25)相当とする。あるいは、用途に応じて要求される粒度の最小径に近い粒度に事前に破砕したものを用意する。
【0039】
高炉徐冷スラグを装入した耐圧密閉容器3は、容器移動台車2により容器移動用レール1上を移動して、加熱用ヒーター4内に収容された後、温水供給ライン系5および処理水排出ライン系6と接続される。接続の後、制御部12は、圧力調整弁11を開とし、耐圧密閉容器3内に温水槽9に貯留された温水を送液ポンプ10により所定量供給する(ステップS102)。
【0040】
供給水量は、装入するスラグ量の5倍量以上とすることが望ましい。本発明では、高炉徐冷スラグが含有する硫黄や硫化カルシウム等の硫黄分を高温高圧水処理して処理水側に抽出除去している。スラグ中に含まれる硫化カルシウム等の硫黄分は、高温高圧水処理により加水分解ならびに酸化されて硫酸カルシウムに変換されると推定される。高温高圧水処理により生成した硫酸カルシウムを析出させずに、できるだけ多く処理水側に溶出させることができるように供給水量をスラグ量の5倍量以上とする。ただし、高炉徐冷スラグが含有する硫黄分量が低い場合はこの限りではない。
【0041】
制御部12は、温水供給ライン系5の圧力調整弁11を閉処理した後、加熱用ヒーター4を昇温して、耐熱密閉容器3内の水を150〜300℃までの所定温度の高温高圧水とし、一定時間保持して、高炉徐冷スラグを高温高圧水処理する(ステップS103)。処理時間は、高炉徐冷スラグの粒径や硫黄含有量によって最適な処理時間は変動するが、150〜300℃の高温高圧水処理では、2〜3時間程度で十分処理可能である。また、高温高圧水の水圧は、高温高圧水の上記所定温度における水の飽和蒸気圧以上とする。なお、所定温度における水の飽和蒸気圧の算出方法は、公知の方法や値を用いればよい。図3は、下記式(1)および(2)で示すWagner式により算出した、水温と水蒸気圧との関係を示す図である。図3によれば、水の飽和水蒸気圧はたとえば150℃では0.48MPa、300℃では8.6MPaとなる。これより上記所定温度における水の飽和蒸気圧以上とは、たとえば150℃では0.48MPa以上、300℃では8.6MPa以上となる。
【0042】
ln(p×[kPa]Pc)=(Aτ+Bτ1.5+Cτ+Dτ)/(T/Tc) ・・・
(1)
τ=1−T[K]/Tc ・・・ (2)
上記式(1)および(2)において、A=−7.76451、B=1.45838、C=−2.7758、D=−1.23303、Tc=647.3K、Pc=22120kPA(使用範囲275K〜647.3K)である。
【0043】
高温高圧水処理により、高炉徐冷スラグ中の硫黄分、主として硫化カルシウムは、下記式(3)に示すように、高温高圧水で加水分解および酸化処理されて硫酸カルシウムに変換されるものと推定される。硫酸カルシウムの溶解度は硫化カルシウムの10倍以上であり、高温高圧処理により硫酸カルシウムに変換されることで、水に溶出し易くなり、高炉徐冷スラグからの除去も容易となる。
2CaS+10HO→HSO+CaSO+Ca(OH)+3H ・・・ (3)
【0044】
高温高圧水処理の後、耐圧密閉容器3から処理水を排出する(ステップS104)。制御部12は、圧力調整弁14を調整して高温高圧水の排出量を制御しながら、耐圧密閉容器3内の圧力および温度が低下しないよう加熱用ヒーター4の加熱を制御する。なお、高炉徐冷スラグ中の硫黄分の割合が低い場合や、耐圧密閉容器3内への水の供給量が高炉徐冷スラグに対し5倍量を越える場合は、高温高圧処理され高温高圧水に抽出された硫黄分の再析出が少ないため、加熱用ヒーター4による加熱を行わずに耐熱密閉容器3から高温高圧水を排出してもよい。
【0045】
高温高圧水排出の後、耐熱密閉容器3内で高炉スラグを乾燥させる(ステップS105)。高温高圧水の排出を高温高圧状態を保持したまま行なうことにより、耐熱密閉容器3内に残存する水量は低く、また温度も高いため乾燥時間が短縮される。
【0046】
上記のフローにより処理された高炉徐冷スラグは、呈色を示さないのに加え、粒度分布や膨張特性も処理前の特性と変化がなく、JISA5015の粒度調整鉄鋼スラグ(MS−25)として、好適に使用される。
【0047】
さらに、以上説明した処理方法にて処理した高炉徐冷スラグは、JIS A 5015の「道路用鉄鋼スラグ」に代表される「路盤材」、JIS A 5011−1の「コンクリート用スラグ骨材」に代表される骨材、土工用材および地盤改良材といった用途に用いることができる。これら路盤材等とする場合は、本実施の形態にて処理済の高炉徐冷スラグを原料とし、その後公知の方法にて製造すればよい。本発明により製造された路盤材等は、黄水の発生を効果的に防止することができる。
【0048】
本実施の形態では、JIS A 5015の粒度調整鉄鋼スラグ(MS−25)として使用するために事前に粒度調整を行ったが、高温高圧水は、非常に高い流動性と浸透性を有するため、原料となる高炉徐冷スラグを粉状に粉砕することなくスラグ塊内部にまで浸透して反応することが可能である。通常入手可能な0〜40mmスラグに対して本発明を適用した場合でも、JIS A 5015の呈色判定試験において、呈色なしであることが確認された。
【0049】
(実施の形態2)
本実施の形態2にかかる高炉徐冷スラグの処理方法および処理装置は、高炉徐冷スラグと高温高圧水との接触処理を、高温高圧水を直接耐圧容器に連続的に供給しながら、排出するフロー処理とする。本実施の形態2は、高温高圧水の高炉徐冷スラグに対する供給比を大きくすることが出来るので、路盤材等の原料とした場合に黄水の発生をより確実に防止する高炉徐冷スラグ処理を可能とする。
【0050】
図4は、本発明の実施の形態2に係る高炉徐冷スラグ処理装置200の断面図である。以下、実施の形態1にかかる処理装置100と異なる点のみ説明する。
【0051】
処理装置200は、温水供給ライン系5のかわりに、高温高圧水供給ライン系20を備える。高温高圧水供給ライン系20は、水を貯水する貯水槽21と、供給される水を高温高圧水に変換するコイル23と、コイル23を加熱して高温高圧水を生成させる加熱用ヒーター4と、コイル23を介して密閉耐圧容器3に高温高圧水を送液する送液ポンプ22と、を備える。
【0052】
コイル23は、耐圧密閉容器3を加熱する加熱用ヒーター4内に収容され、送液ポンプ22により送液された水は、コイル23を循環している間に加熱され、高温高圧水に変換される。送液ポンプ22は、所望の高温高圧水を、コイル23を介して耐圧密閉容器3内に供給するために、所望する圧力以上の最大使用圧力を有するものを使用する。なお、本実施の形態2では、1の加熱用ヒーター4でコイル23と耐圧密閉容器3とを加熱しているが、別の加熱源を備えていてもよい。
【0053】
制御部24は、各部の処理および動作を制御するとともに、高温高圧水供給ライン系20により耐圧密閉容器3内に高温高圧水を所定量供給した後、耐圧密閉容器3内の高温高圧状態を保持しながら、高温高圧水供給ライン系20と処理水排水ライン系6とにより高温高圧水を耐圧密閉容器3内に連続的に供給し、排出するよう制御する。
【0054】
次に、図5を参照して、実施の形態2に係る高炉徐冷スラグの処理について説明する。図5は、本実施の形態2に係る高炉徐冷スラグ処理のフローチャートである。
【0055】
まず、耐圧密閉容器3に高炉徐冷スラグを装入する(ステップS201)。装入する高炉徐冷スラグは、実施の形態1と同様に、未エージングで、呈色以外はJISA5015の粒度調整鉄鋼スラグ(MS−25)相当とする。あるいは、用途に応じて要求される粒度の最小径に近い粒度に事前に破砕したものを用意する。
【0056】
高炉徐冷スラグを装入した耐圧密閉容器3を加熱用ヒーター4内に収容した後、高温高圧水供給ライン系20および処理水排出ライン系6と接続する。接続の後、制御部24は、加熱用ヒーター4により耐圧密閉容器3およびコイル23の温度を150〜300℃の所定温度に調整する(ステップS202)。
【0057】
耐圧密閉容器3およびコイル23の温度を調整後、高温高圧水供給ライン系20により耐圧密閉容器3内に高温高圧水を所定量供給する(ステップS203)。貯留槽21に貯留された水は、送液ポンプ22によりコイル23に送液され、所定温度に調整されたコイル23内を循環することにより高温高圧水に変換された後、耐圧密閉容器3内に供給される。
【0058】
制御部24は、高温高圧水供給ライン系20により耐圧密閉容器3内に高温高圧水を所定量供給した後、高温高圧水供給ライン系20により耐圧密閉容器3内に高温高圧水を続けて供給しつつ、処理水排水ライン系6の圧力調整弁14を調整して耐圧密閉容器3から排出するよう制御する。制御部24は、送液ポンプ22と圧力調整弁14とを調整制御することにより、耐圧密閉容器3内の圧力と温度を保持して、収容する高炉徐冷スラグを高温高圧水処理する(ステップS204)。処理時間は、高炉徐冷スラグの粒径や硫黄含有量、ならびに供給する高温高圧水量によっても変動するが、150〜300℃の高温高圧水処理では、2〜3時間程度で十分処理可能である。
【0059】
高温高圧水処理の後、耐圧密閉容器3から処理水を排出する(ステップS205)。制御部24は、送液ポンプ22を停止の後、耐圧密閉容器3内の圧力および温度が低下しないよう加熱用ヒーター4の加熱を制御しながら、耐圧密閉容器3内の高温高圧水を処理水排出ライン系6から排出する。実施の形態2では、高温高圧水を耐圧密閉容器3に連続的に供給・排出するフロー処理としているため、高温高圧水中に抽出された硫黄分が高温高圧水とともに処理水排出ライン系6から連続的に排出されている。このため、排出する高温高圧水中の硫黄分濃度は実施の形態1に比較して非常に小さい値となる。したがって、高温高圧水で処理後、処理水を排出する前に常圧まで圧力が低下しても硫黄分の再析出が少なく、常圧とした後処理水を排出することとしてもよい。
【0060】
高温高圧水排出の後、耐熱密閉容器3内で高炉スラグを乾燥させる(ステップS206)。高温高圧水の排出を、高温高圧状態を保持したまま行なうことにより、耐熱密閉容器3内に残存する水量は低く、また温度も高いため乾燥時間が短縮される。
【0061】
実施の形態2では、高温高圧水の供給と排出を同時に行なうことでフロー処理とすることにより高温高圧水の供給量を大きく設定することができるため、耐圧密閉容器3内への高炉徐冷スラグの初期装入量を実施の形態1に比して大きく設定することが可能となり、時間当たりの処理量を大きくすることができる。また、高炉徐冷スラグに対する高温高圧水量比を大きくすることが容易であるため、硫黄分の除去を確実に行うことが可能となる。
【0062】
さらに、以上説明した処理方法にて処理した高炉徐冷スラグは、JIS A 5015の「道路用鉄鋼スラグ」に代表される「路盤材」、JIS A 5011−1の「コンクリート用スラグ骨材」に代表される骨材、土工用材および地盤改良材といった用途に用いることができる。これら路盤材等とする場合は、本実施の形態にて処理済の高炉徐冷スラグを原料とし、その後公知の方法にて製造すればよい。本発明により製造された路盤材等は、黄水の発生をより効果的に防止することができる。
【実施例】
【0063】
耐圧容器内に粒径を2mm以下に調整した高炉徐冷スラグ(硫黄含有率0.50%)と、高炉徐冷スラグの5倍量の水を収容し、耐圧容器を密閉した後、75〜300℃に調整したエアオーブン内で6時間保持した。所定時間後、耐圧容器をエアオーブンから取り出し、放冷し、耐圧容器内の水を5Bのろ紙にてろ過し、スラグは常温で静置させて乾燥した。高温高圧処理後のスラグについて、JIS A 5015−1992道路用鉄鋼スラグ、附属書1の鉄鋼スラグの呈色判定試験方法に従って呈色試験を実施し、呈色の有無を判定した。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、処理温度100℃までは呈色ありと判定され、黄水発生の原因である硫黄の除去が不十分であることが伺えるが、150℃を超える高温高圧水で高炉徐冷スラグを処理することにより、呈色がなくなることが認められた。
【0066】
高温高圧水の加水分解作用が最も大きくなるのは、水のイオン積が最大になる200〜250℃付近であり、250℃を大幅に超える加熱処理は、設備やエネルギーの面で負荷を与えるとともに、加水分解により生成したと考えられる硫酸塩の溶解度を低下させ、スラグへの硫酸塩残存量が大きくなるおそれがある。また、水の臨界点である374℃、22.1Mpaを超えると水の誘電率も大きく低下するため、加水分解により生成したと考えられる、イオン性物質であるチオ硫酸イオンやオルト硫酸イオンなどの硫黄酸化物イオンの溶解が困難となる。さらに圧力及び温度が大きくなるほど装置構成も大掛かりな設備が必要となるため、実用的には300℃以下の高温高圧水での処理とすることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明の高炉徐冷スラグの処理方法および処理装置は、他の製鋼プロセスで発生するスラグにも使用することができる。さらに、本発明に係る処理方法または処理装置にて処理した他の製鋼プロセスで発生するスラグを原料として、路盤材等を製造する際にも使用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1 容器移動用レール
2 容器移動用台車
3 耐圧密閉容器
4、7 加熱用ヒーター
5 温水供給ライン系
6 処理水排出ライン系
8、13 温度センサー
9 温水槽
10、22 送液ポンプ
11、14 圧力調整弁
12、24 制御部
15、16 蓋
20 高温高圧水供給ライン系
21 貯水槽
23 コイル
100、200 処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉徐冷スラグと水とを耐圧容器に収容後、前記耐圧容器を加温することにより収容された水を150〜300℃の高温高圧水にし、生成した前記高温高圧水と前記高炉徐冷スラグとの接触により前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出する抽出工程と、
前記抽出工程終了後、前記耐圧容器内の高温高圧水を排出する排出工程と、
を含むことを特徴とする高炉徐冷スラグの処理方法。
【請求項2】
前記排出工程は、高温高圧状態を保持しながら前記耐圧容器内の高温高圧水を排出することを特徴とする請求項1に記載の高炉徐冷スラグの処理方法。
【請求項3】
前記抽出工程に使用する高炉徐冷スラグと水との質量比を1:5以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高炉徐冷スラグの処理方法。
【請求項4】
前記抽出工程は、高炉徐冷スラグを収容する前記耐圧容器に所定温度に調整した高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水を前記耐圧容器内に連続的に供給し、かつ排出させて前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出することを特徴とする請求項1また2に記載する高炉徐冷スラグの処理方法。
【請求項5】
前記排出工程後、前記耐圧容器内に水を供給して前記高炉スラグ表面に残存する高温高圧処理された硫黄分を抽出する再抽出工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の高炉徐冷スラグの処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の処理方法にて処理された高炉徐冷スラグを原料として、路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の内少なくとも1種を製造することを特徴とする路盤材、骨材、土工用材および地盤改良材の製造方法。
【請求項7】
高炉徐冷スラグを収容する耐圧容器と、
前記耐圧容器に水を供給する供給手段と、
前記耐圧容器を加温して前記耐圧容器内の水を150〜300℃の高温高圧水とする加熱手段と、
前記耐圧容器内の高温高圧水を排出する排出手段と、
前記高温高圧水と前記高炉徐冷スラグとを所定時間接触させることにより前記高炉徐冷スラグ中の硫黄分を前記高温高圧水中に抽出後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら高温高圧水を排水処理手段から排出するよう制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする高炉徐冷スラグの処理装置。
【請求項8】
前記供給手段は、150〜300℃の高温高圧水を生成する加熱手段を備え、
前記制御手段は、前記耐圧容器内に前記供給手段から前記高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記供給手段と前記排水手段とにより前記高温高圧水を前記耐圧容器内に連続的に供給し、かつ排出させる制御を行なうことを特徴とする請求項7に記載の高炉徐冷スラグの処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−246302(P2011−246302A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119740(P2010−119740)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】