説明

高炭素薄鋼板およびその製造方法

【課題】0.20〜0.50質量%のCを含有し、安定して優れた加工性と高周波焼入性を有する高炭素薄鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成と、フェライトとセメンタイトからなるミクロ組織とを有し、前記フェライトのうち初析フェライトの鋼組織全体に占める分率が20%以上50%未満であり、鋼板の板厚1/4位置から板厚中心までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dcが0.50〜1.5μmで、鋼板の表面から板厚1/4位置までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dsがds/dc≦0.8を満足することを特徴とする高炭素薄鋼板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炭素薄鋼板、特に0.20〜0.50質量%のCを含有し、加工性と高周波焼入性に優れた高炭素薄鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械構造部品等に使用される高炭素薄鋼板は、種々の形状に加工された後、硬質化のための熱処理を施される場合が多い。このうち、0.2〜0.5質量%のCを含有し、炭化物(セメンタイト)を球状化焼鈍した高炭素薄鋼板は、比較的軟質で、加工性に優れているため、自動車駆動系部品等の板金加工素材として多用されている。大量生産される自動車駆動系部品では、成形加工後に部品を硬質化させるための熱処理として、生産性に優れた高周波焼入が適している。そのため、自動車駆動系部品の素材として、加工性とともに、高周波焼入性にも優れた高炭素薄鋼板が求められており、これまでにも種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、C:0.1〜0.8質量%、S:0.01質量%以下の亜共析鋼からなり、球状化率が90%以上であるようにセメンタイトがフェライト中に分散しており、平均セメンタイト粒径が0.4〜1.0μmである局部延性および焼入性に優れた高炭素鋼板が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、Cを0.2〜0.7質量%含有する鋼に熱間圧延を行い、体積率20%を超えるベイナイト相を有する組織に制御した後、焼鈍を行い、セメンタイトを球状化した組織とする高焼入性高炭素熱延鋼板の製造方法が提案されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、C:0.22〜0.45質量%、Cr:0.01〜0.70質量%、Ti:0.005〜0.050質量%、B:0.0003〜0.0050質量%を含有する鋼からなり、セメンタイトの平均粒径が0.1〜1.0μmで、セメンタイト粒径の標準偏差/セメンタイトの平均粒径の比が1.0以下であることを特徴とする焼入性と伸びフランジ性の優れた高炭素鋼板が提示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-80884号公報
【特許文献2】特開2003-73742号公報
【特許文献3】特開2005-344197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの従来技術には、次に示す問題点がある。
【0008】
特許文献1に記載の中・高炭素鋼板を得るためには、Ac1変態点直下および直上の特定温度範囲における保持を組み合わせた3段階の焼鈍が必要となる。このため、焼鈍時の温度制御が複雑で、最終的に得られる鋼板の特性が不均一になりやすく、安定して優れた加工性や高周波焼入性が得られない。
【0009】
特許文献2に記載の技術は、焼鈍前の熱延鋼板の組織にベイナイトを多量に含有させることが骨子であり、熱延後に120℃/sを超える冷却速度での急冷が広い温度範囲で必要となる。そのため、冷却能力の非常に高い設備がなければ実施できない上、冷却むらの影響を受けやすく、やはり得られる鋼板の特性が不均一になりやすく、安定して優れた加工性や高周波焼入性が得られない。
【0010】
特許文献3に記載の鋼板は、焼入性の確保のために、Bの他、TiとCrの含有を必須としており、広範な鋼種に適用可能な技術ではない上、やはり安定して優れた加工性や高周波焼入性が得られない。
【0011】
本発明は、0.20〜0.50質量%のCを含有し、安定して優れた加工性や高周波焼入性を有する高炭素薄鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の目的とする高炭素薄鋼板について鋭意検討した結果、以下のことを見出した。
【0013】
i) フェライトとセメンタイトからなるミクロ組織とし、初析フェライトの鋼組織全体に占める分率と、セメンタイトの粒径およびその板厚方向分布とを制御することにより、安定して優れた加工性と高周波焼入性が得られる。
【0014】
ii) それには、熱間圧延後の鋼板を冷却する際に、高温域を緩冷却後、短時間の急冷却を行う二段階の冷却パターンで冷却することが効果的である。
【0015】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成と、フェライトとセメンタイトからなるミクロ組織とを有し、前記フェライトのうち初析フェライトの鋼組織全体に占める分率が20%以上50%未満であり、鋼板の板厚1/4位置から板厚中心までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dcが0.50〜1.5μmで、鋼板の表面から板厚1/4位置までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dsがds/dc≦0.8を満足することを特徴とする高炭素薄鋼板を提供する。
【0016】
本発明の高炭素薄鋼板では、上記の化学組成に加え、さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.05%、Nb:0.01〜0.05%、V:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%のうちから選ばれた少なくとも一種を含有させることができる。
【0017】
本発明の高炭素薄鋼板は、上記の化学組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延後、25〜50℃/sの平均冷却速度で550〜650℃の一次冷却停止温度まで一次冷却し、次いで、120℃/s以上の平均冷却速度で冷却時間を1s以内として500〜600℃の二次冷却停止温度まで二次冷却して巻取った後、650℃以上Ac1変態点以下の焼鈍温度で焼鈍することにより製造可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、0.20〜0.50質量%のCを含有し、安定して優れた加工性と高周波焼入性を有する高炭素薄鋼板を製造することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の高炭素薄鋼板およびその製造方法の限定理由について、以下に詳述する。
【0020】
(1) 化学組成
以下、成分元素の含有量の単位である%は、質量%を意味するものとする。
【0021】
C:0.20〜0.50%
Cは、焼入後の鋼強度を高めるために必須の元素である。C量が0.20%未満では、機械構造部品として必要な強度が得られない。また、熱間圧延後の冷却時にフェライトが生成しやすく、初析フェライトの面積分率を所定の範囲に制御しにくい。一方、C量が0.50%を超えると、鋼板が焼鈍後も過度に高強度となり鋼板の加工性が低下する上、焼入後の部品の脆化や寸法不良を招く。したがって、Cの含有量は0.20〜0.50%に限定する。好ましくは0.25〜0.45%である。
【0022】
Si:1.0%以下
Siは、鋼を脱酸する作用や焼入後の焼戻軟化抵抗を高める作用を有する。これら作用を得る上では、0.1%以上の含有量とするのが好ましい。しかし、Siの過剰な含有は、鋼板を過度に高強度化したり、鋼板の表面性状を劣化させるので、Siの含有量は1.0%以下に限定する。好ましくは0.5%以下である。
【0023】
Mn:2.0%以下
Mnは、鋼の焼入性を高める作用があり、この作用を得る上では、0.2%以上の含有量とすることが好ましく、さらには0.3%以上の含有量とするのが好ましい。しかし、Mnの過剰な含有は、鋼板の加工性の大幅な低下を招くので、Mnの含有量は2.0%以下に限定する。好ましくは1.0%以下である。
【0024】
P:0.03%以下
Pは、鋼板の加工性や熱処理後の靱性を低下させるため、Pの含有量は0.03%以下に限定する。好ましくは0.02%以下である。
【0025】
S:0.02%以下
Sは、鋼板の加工性や熱処理後の靱性を低下させるため、Sの含有量は0.02%以下に限定する。好ましくは0.01%以下である。
【0026】
sol.Al:0.08%以下
Alは、鋼の脱酸のために添加される元素であるが、鋼中のsol.Al量が0.08%を超えるような添加は、介在物の増加を招き、鋼板の加工性の低下を招く。そのため、sol.Alの含有量は0.08%以下に限定する。好ましくは0.04%以下である。また、鋼板が高温に保持される場合、鋼中でAlNが形成され、焼入加熱時にオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、焼入性を低める場合がある。特に、鋼板を窒素雰囲気中で高温保持する場合には、雰囲気から鋼中に侵入したNによって上記作用が顕著化しやすい。AlNの形成に起因するこのような焼入性の低下を避けるためにも、sol.Al量は0.08%以下とする必要があり、好ましくは0.04%未満であり、さらにはsol.Al量を0.01%未満とするのが好ましい。
【0027】
N:0.02%以下
Nの多量の含有は、鋼中でAlNを形成して焼入性を低める場合がある。そのため、Nの含有量は0.02%以下に限定する。好ましくは0.01%以下である。
【0028】
残部はFeおよび不可避的不純物とするが、焼入性や焼戻軟化抵抗のさらなる向上のために、さらに、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.05%、Nb:0.01〜0.05%、V:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%のうちから選ばれた少なくとも一種を含有させることができる。このとき、各元素の下限未満の含有量では、その効果が小さく、また、上限を超える含有量では、製造コスト増を招くとともに、鋼板の加工性や熱処理後の靱性を低下させる場合がある。
【0029】
(2) ミクロ組織
相構成:フェライトとセメンタイト
本発明の高炭素薄鋼板では、良好な加工性と焼入性を両立させるために、フェライトとセメンタイトからなるミクロ組織にする。このとき、セメンタイトは球状化されたセメンタイトとし、セメンタイトの球状化率は80%以上であることが望ましい。ここで、セメンタイトの球状化率とは、鋼板の板厚断面に観察されるセメンタイトのうちアスペクト比(長径/短径)が3以下のセメンタイト数の全セメンタイト数に対する比率のことである。
【0030】
初析フェライトの鋼組織全体に占める分率:20%以上50%未満
初析フェライトは、結晶粒内にセメンタイトを実質的に含まない軟質な粒であり、鋼板の加工性向上に寄与する。初析フェライトの鋼組織全体に占める分率が20%未満では、その効果が不十分である。また、初析フェライトの組織全体に占める面積分率が50%以上になると、熱間圧延後のミクロ組織にパーライトやベイナイトなどの第二相が減って、焼鈍後のセメンタイトの分布が不均一になり、高周波焼入性が低下する。そのため、初析フェライトの鋼組織全体に占める分率は20%以上50%未満とする。ここで、初析フェライトとは、熱間圧延後の冷却過程で初晶として析出した実質的にセメンタイトを含まない、すなわち結晶粒内のセメンタイトの分率が1%未満のフェライトのことである。
【0031】
セメンタイトの粒径およびその板厚方向分布:鋼板の板厚1/4位置から板厚中心までの領域におけるセメンタイトの平均粒径dcが0.50〜1.5μm、鋼板の表面から板厚1/4位置までの領域におけるセメンタイトの平均粒径dsがds/dc≦0.8を満足
高周波焼入は、高周波誘導加熱の表皮効果を活用し、鋼の表層部を焼入して硬質化させる場合に施される熱処理である。誘導加熱では数秒程度のごく短時間で急速昇温するので、セメンタイトの分解によるCの再固溶を十分に進めるためには、セメンタイトは微細なほうが望ましい。しかし、セメンタイトの微細化は鋼板の高強度化につながり、加工性を損なう場合がある。それゆえ、高周波焼入での主たる硬質化部である鋼板表層部、すなわち鋼板の表面から板厚1/4位置までの領域では、セメンタイトの平均粒径dsを小さくし、板厚の中央部、すなわち鋼板の板厚1/4位置から板厚中心までの領域では、セメンタイトの平均粒径dcが過度に小さくならないようにする必要がある。このような観点から、dcは0.50〜1.5μmとし、dsはds/dc≦0.8を満足するようにする。ここで、セメンタイトの平均粒径とは、鋼板の板厚断面に観察される個々のセメンタイトの長径と短径の相乗平均値を求め、この相乗平均値を観察されるセメンタイトの全体で相加平均したものである。
【0032】
(3) 製造条件
熱間圧延の仕上温度:Ar3変態点以上
本発明の高炭素薄鋼板は、上記の化学組成を有する鋼片をAr3変態点以上の仕上温度で熱間圧延して所望の板厚の鋼板とされる。このとき、仕上温度がAr3変態点未満では、圧延組織の残存する不均一なミクロ組織が形成され、焼鈍後にも不均一なミクロ組織が引き継がれ、焼入性が低下する。そのため、仕上温度はAr3変態点以上とする。
【0033】
なお、Ar3変態点は、例えば、オーステナイト温度域からの冷却過程における熱収縮曲線の測定により、曲線の変化点から求めることができる。また、化学成分の含有量から概算することもできる。
【0034】
熱間圧延後の一次冷却:25〜50℃/sの平均冷却速度で550〜650℃の冷却停止温度まで冷却
熱間圧延後は、直ちに、25〜50℃/sの平均冷却速度で550〜650℃の冷却停止温度まで一次冷却する必要がある。これは、平均冷却速度が25℃/s未満では初析フェライトが多量に生成し、50℃/sを超えると十分な量の初析フェライトが得られず、上記のような所望の初析フェライトの量とすることができなくなるためである。また、冷却停止温度が650℃を超えると、熱間圧延後のミクロ組織が粗大化しやすく、焼鈍後に所望のミクロ組織が得られにくくなり、550℃未満ではベイナイトやマルテンサイトといった硬質相が生成し、鋼板が過度に高強度化して巻取時の巻形状や操業性が悪化したり、鋼板形状が悪化して冷却むらを引き起こす場合がある。
【0035】
一次冷却後は、次の二次冷却開始までの待機時間が長いとフェライト変態が進行し、初析フェライトが多量に生成しやすくなる。また、変態発熱や鋼板内部からの復熱により、鋼板の表面温度の再上昇が過度に大きくなりやすい。そのため、一次冷却後二次冷却開始までの時間は3s以内とするのが望ましく、1s以内とするのがより望ましい。
【0036】
熱間圧延後の二次冷却:120℃/s以上の平均冷却速度で冷却時間を1s以内として500〜600℃の冷却停止温度まで冷却
一次冷却後の鋼板は、120℃/s以上の平均冷却速度で1s以内に500〜600℃の冷却停止温度まで冷却して巻取られる。
【0037】
一般的な注水による冷却の場合、500〜600℃の温度域は、膜沸騰から核沸騰への遷移が始まる領域となるため、鋼板の冷却むらが発生しやすい。このような温度域では、平均冷却速度が120℃/s以上となるように核沸騰主体の条件で強制水冷すると、鋼板の冷却むらが発生しにくくなり、鋼板特性の変動を小さく抑えることができる。平均冷却速度が240℃/s以上の強制水冷であればより好ましい。また、1s以内のごく短い二次冷却時間で強制水冷することにより、冷却後の鋼板表層部では、第二相としてラメラー間隔の狭いパーライトあるいはベイナイトが形成され、鋼板板厚中央部ではラメラー間隔のやや広いパーライトが形成され、焼鈍後には上記のような所望のセメンタイトの平均粒径およびその板厚方向分布が得られる。二次冷却時間が1sを超える場合には、冷却後の板厚方向の温度分布が均一化しやすく、所望のセメンタイトが得にくくなる。好ましい二次冷却時間は0.5s以内である。こうした効果は、鋼板が厚い場合、特に板厚が3mm以上の場合に、より顕著である。また、冷却停止温度が600℃を超える場合には、冷却後に粗大なパーライトが生成しやすくなり、焼鈍後に所望のセメンタイトが得られない。一方、冷却停止温度が500℃未満の場合には、ベイナイトやマルテンサイトといった硬質相が多量に生成し、鋼板が過度に高強度化して巻取時の巻形状や操業性が悪化する。また、焼鈍後のセメンタイトが過度に微細化し、鋼板の加工性を低下させる場合もある。
【0038】
焼鈍温度:650℃以上Ac1変態点以下
二次冷却後巻取られた鋼板は、酸洗またはショットブラスト等の処理によって表層の酸化スケールを除去した後、セメンタイトの球状化を図るために焼鈍する。このとき、焼鈍温度が650℃未満では、セメンタイトの球状化が速やかに進行せず、また、Ac1変態点を超えると、焼鈍中にオーステナイトが生じて、焼鈍後にパーライト、すなわち球状化されていないセメンタイトが混在し、鋼板の加工性や焼入性が低下する。よって、焼鈍温度は650℃以上Ac1変態点以下の範囲に限定する。好ましくは680℃以上(Ac1変態点-5℃)以下である。
【0039】
焼鈍温度に保持する時間については、10時間以上であれば、概ねセメンタイトの球状化を達成できる。望ましくは20〜40時間である。焼鈍後の鋼板には、鋼板の形状矯正あるいは表面性状調整のため、必要に応じて調質圧延を施すことができる。
【0040】
なお、Ac1変態点は、例えば、常温からの加熱過程における熱膨張曲線の測定により、曲線の変化点から求めることができる。また、化学成分の含有量から概算することもできる。
【0041】
本発明で用いる高炭素鋼の溶製には、転炉または電気炉どちらも使用可能である。溶製された鋼は、連続鋳造あるいは造塊後の分塊圧延により鋼片(スラブ)とされる。鋼片には、必要に応じて、スカーフィング等の手入を施すことができる。熱間圧延前の鋼片は、製造設備の能力に応じて、所定の仕上温度が確保できる温度に加熱すればよい。連続鋳造された鋼片を常温まで冷却することなく直接あるいは短時間の加熱後に熱間圧延してもよい。また、バーヒーターやエッジヒーターのような誘導加熱装置により、熱間圧延途中の鋼片を加熱することも可能である。
【実施例】
【0042】
表1に示す化学組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼片A〜Mを、表2に示す熱延条件にて板厚5.0mmの熱延鋼板とした後、酸洗により鋼板表層のスケールを除去し、同じく表2に示す焼鈍条件にて窒素雰囲気中で焼鈍し、鋼板1〜24を得た。なお、表中のAr3変態点およびAc1変態点は、以下の式により化学成分の含有量から算出して求めた。
Ar3変態点(℃)=910-203[C]1/2+44.7[Si]-30.0[Mn]-11.0[Cr]+31.5[Mo]-15.2[Ni]
Ac1変態点(℃)=727-29.1[Si]-10.7[Mn]+16.9[Cr]-16.9[Ni]
ただし、[C],[Si],[Mn],[Cr],[Mo],[Ni]は、それぞれC,Si,Mn,Cr,Mo,Niの含有量(質量%)。
【0043】
各鋼板から小片を採取し、高周波誘導加熱にて900℃まで急速加熱し、1s間保持後水焼入した高周波焼入後のサンプルを作製した。そして、焼鈍後の各鋼板からミクロ組織調査用のサンプルを採取し、鋼板の板厚断面における初析フェライトの分率およびセメンタイトの平均粒径(ds、dc)を測定した。また、焼鈍後および高周波焼入後のサンプル表面のロックウェル硬さを測定し、加工性と焼入性を評価した。なお、自動車駆動系部品等の機械構造部品素材としての鋼板に求められる加工性としては、焼鈍後の硬さがHRB≦85であること、焼入性としては、高周波焼入後の硬さがHRC≧40であることが最低限必要であるとした。
【0044】
ここで、初析フェライトの分率とセメンタイトの平均粒径は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を鏡面研磨し、ナイタールまたはピクラールで腐食した後、表層部、板厚1/8位置、板厚1/4位置、板厚3/8位置、板厚中央部の各位置を走査型電子顕微鏡にて1000〜5000倍の倍率で組織観察し、次のようにして求めた。なお、表層部、板厚1/8位置、板厚1/4位置、板厚3/8位置は、鋼板の表裏両面側からの各位置について観察した。
初析フェライトの分率:ナイタール腐食後の組織観察から、結晶粒内部にセメンタイトを実質的に含まないフェライトの鋼組織全体に占める面積分率(面積率)を上記5位置にて画像解析により求め、それらを相加平均して求めた面積率を分率とした。
セメンタイトの平均粒径:ピクラール腐食後の組織観察から、個々のセメンタイトの長径と短径の相乗平均値を個々のセメンタイトの粒径とし、観察視野内にあるセメンタイトの相乗平均値を相加平均して求めた。このとき、厚さ方向で板厚1/4位置から板厚中心までの領域のセメンタイトの平均粒径dcは、板厚1/4位置、板厚3/8位置、板厚中央部にあるセメンタイトを用い、また、厚さ方向で表面から板厚1/4位置までの領域のセメンタイトの平均粒径dsは、表層部、板厚1/8部、板厚1/4部にあるセメンタイトを用いて計算した。
【0045】
結果を表3に示す。本発明の鋼板(鋼板No.1,2,3,7,8,11,14,15,16,21)は、高周波焼入後にCの含有量に応じた表面硬さが得られており、高周波焼入性に優れた高炭素鋼板となっている。一方、比較例である鋼板No.4,5,6は、同一の成分組成を有する鋼板No3に比べ、鋼板No.4,5は高周波焼入後の表面硬度が低く焼入性に劣り、鋼板No.6は焼鈍後表面硬度が大きく加工性に劣る。また、鋼板No.9,10は、同一の成分組成を有する鋼板No.8に比べ、鋼板No.9は焼鈍後表面硬度が大きく加工性に劣り、鋼板No.10は高周波焼入後の表面硬度が低く焼入性に劣る。さらに、鋼板No.12,13は、同一の成分組成を有する鋼板No.11に比べ高周波焼入後の表面硬度が低く焼入性に劣り、焼鈍後表面硬度が大きく加工性に劣る。比較例である鋼板No.17,18,19は、同一の成分組成を有する鋼板No.16に比べ、鋼板No.17,18は高周波焼入後の表面硬度が低く焼入性に劣り、鋼板No.19は焼鈍後表面硬度が大きく加工性に劣る。同じく、鋼板No.20は、鋼板No.16に比べ、焼鈍後表面硬度が大きく加工性に劣り、かつ、高周波焼入後の表面硬度が低く焼入性に劣る。鋼板No.22は、C含有量が本願発明の範囲よりも少なく、高周波焼入後の表面硬度がHRC≧40を満足しない。また、鋼板No.23は、C含有量が本願発明の範囲よりも多く、焼鈍後の表面硬度がHRB≦85を満足しない。また、鋼板No.24は、sol.Al量が本願発明の範囲よりも多く、C含有量が同レベルの発明例である鋼板No.3、鋼板No.8に比べ、高周波焼入後の表面硬度が低く、焼入性に劣ることがわかる。
【0046】
上記したように、本発明の鋼板は、高周波焼入後にCの含有量に応じた表面硬さが得られており、高周波焼入性に優れた高炭素鋼板となっている。一方、比較例の鋼板は、類似した化学組成を有する発明例の鋼板に比べて、焼鈍後の硬さが高く加工性に劣っていたり、高周波焼入後の硬さが低く高周波焼入性に劣っている。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.20〜0.50%、Si:1.0%以下、Mn:2.0%以下、P:0.03%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.08%以下、N:0.02%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成と、フェライトとセメンタイトからなるミクロ組織とを有し、前記フェライトのうち初析フェライトの鋼組織全体に占める分率が20%以上50%未満であり、鋼板の板厚1/4位置から板厚中心までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dcが0.50〜1.5μmで、鋼板の表面から板厚1/4位置までの領域における前記セメンタイトの平均粒径dsがds/dc≦0.8を満足することを特徴とする高炭素薄鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.1〜1.0%、Ti:0.01〜0.05%、Nb:0.01〜0.05%、V:0.01〜0.05%、B:0.0005〜0.0050%のうちから選ばれた少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1に記載の高炭素薄鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化学組成を有する鋼片を、Ar3変態点以上の仕上温度で熱間圧延後、25〜50℃/sの平均冷却速度で550〜650℃の一次冷却停止温度まで一次冷却し、次いで、120℃/s以上の平均冷却速度で冷却時間を1s以内として500〜600℃の二次冷却停止温度まで二次冷却して巻取った後、650℃以上Ac1変態点以下の焼鈍温度で焼鈍することを特徴とする高炭素薄鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2012−241216(P2012−241216A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110917(P2011−110917)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】