説明

高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維

【課題】従来より架橋アクリレート系繊維の白度や耐変色性の改善が図られてきたが、製造コストの上昇が避けられず、特性においても未だ改善の余地があるのが現状である。本発明の目的は、高白度であり、染色や晒しといった後加工などを経ても白度の維持される架橋アクリレート系繊維を提供することにある。
【解決手段】ビニルエステル化合物の共重合組成が1〜20重量%であるアクリロニトリル系共重合体からなるアクリロニトリル系繊維に対して、水加ヒドラジンおよび酸性化合物を含有し、かつ、アルカリ性化合物によってpH13.5〜14に調整した水溶液による処理を施し、次いで酸処理Aを施して得られる高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維に関する。詳細には、高白度であり、過酸化水素などによる晒し処理などの前後における変色が抑制され、かつ、従来に比べて少ない工程数でも得ることができる架橋アクリレート系繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋アクリレート系繊維は優れた吸放湿性、発熱性、消臭性、抗菌性を有し、近年、注目されている。しかし、架橋アクリレート系繊維は該繊維の有するヒドラジン架橋構造により、淡桃色から濃桃色を呈するため、色相が重要視される分野への展開が制限されるという問題点を有しており、繊維の白度を向上させる取り組みがなされてきている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ヒドラジン系化合物による架橋処理の後に酸処理Aを行うこと、アルカリによる加水分解処理の後に酸処理Bを行うこと、を開示し相当に白度の改善を為し得ている。しかし、かかる技術によっても、厳しい白度を要求される分野へ展開できるほどの白度および耐変色性には到達できていない。
【0004】
また、特許文献2では白度を改善する方法として加水分解処理を無酸素雰囲気下で行うことを開示しており、該方法で得られる架橋アクリレート系繊維は製造直後は高白度を有している。しかし、該繊維は染色工程での酸化晒し処理や洗濯を繰り返すことにより着色するため、耐変色性という点に課題を残すものである。
【0005】
さらに、耐変色性の向上については、特許文献3において、還元処理工程を加えることで、酸化晒しや繰り返しの洗濯を経ても着色が抑制されることが開示されているが、強い酸化晒しや経時による繊維の着色までは十分に抑制できないのが現状である。
【0006】
また、上述の特許文献1〜3においては、白度や耐変色性の改善のために製造工程が複雑化してしまい、製造コストの上昇が避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−158040号公報
【特許文献2】特開2000−303353号公報
【特許文献3】特開2002−294556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、従来より架橋アクリレート系繊維の白度や耐変色性の改善が図られてきたが、製造コストの上昇が避けられず、特性においても未だ改善の余地があるのが現状である。本発明の目的は、高白度であり、染色や晒しといった後加工などを経ても白度の維持される架橋アクリレート系繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはかかる課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、原料繊維として特定の共重合組成を有するアクリロニトリル系共重合体からなるアクリロニトリル系繊維を採用し、該繊維に対して、酸性化合物の存在下、特定のpH範囲で水加ヒドラジンによる架橋導入処理を行うことによって、高白度で耐変色性の向上した架橋アクリレート系繊維が得られることを見出した。本発明の目的は、以下の手段により達成される。
【0010】
[1]ビニルエステル化合物の共重合組成が1〜20重量%であるアクリロニトリル系共重合体からなるアクリロニトリル系繊維に対して、水加ヒドラジンおよび酸性化合物を含有し、かつ、アルカリ性化合物によってpH13.5〜14に調整した水溶液による処理を施し、次いで酸処理Aを施して得られる高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
[2]繊維の色が、JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが85以上、aが−1.0以上1.0以下であり、さらに該繊維を下記条件で晒し処理したときの該処理前の繊維の色に対する変色の程度が、aの差において−0.5から0.5の範囲内であることを特徴とする[1]に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
晒し処理条件:水酸化ナトリウムによりpH10に調整した過酸化水素の0.5重量%水溶液に、浴比が1/50となるように繊維を浸漬し、80℃で1時間晒し処理する。
[3]酸処理Aの後に、加水分解処理を施し、さらに酸処理Bを施して得られることを特徴とする[1]または[2]に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
[4]前記pH13.5〜14に調整した水溶液による処理と同時、あるいは、該処理と酸処理Aの間において、1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物による処理を施して得られることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
[5]1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物が、1分子中の全アミノ基数としては3以上であって、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする[4]に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
[6]酸性化合物が酢酸であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれかに記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維は、高い白度を有しており、後加工などを経ても繊維の色が変色しにくく、白度が維持されるものである。これにより、高度で多様な機能を有しながら白度の低さや変色のしやすさのために用途展開が制限されていた架橋アクリレート系繊維を、色相を重要視する分野に対しても展開することが可能となる。かかる本発明の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維は多機能化あるいは高機能化の求め続けられる衣料、リビング、建材など様々な分野において極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳述する。本発明に採用するアクリロニトリル系繊維は、ビニルエステル化合物の共重合組成が1〜20重量%、好ましくは5〜15重量%であるアクリロニトリル系共重合体からなるものである。ビニルエステル化合物の共重合組成が1重量%に満たない場合には、最終的に得られる架橋アクリレート系繊維の耐変色性が低下し、20重量%を超える場合には、架橋アクリレート系繊維の吸湿性などの機能が十分に得られない。ビニルエステル化合物としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルなどを挙げることができる。
【0013】
また、アクリロニトリル系共重合体におけるアクリロニトリルの共重合組成としては、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。本発明においては、後述するようにアクリロニトリル系繊維を形成するアクリロニトリル系共重合体のニトリル基とヒドラジン系化合物あるいはアミノ基含有有機化合物を反応させることで繊維中に架橋構造を導入する。架橋構造は繊維物性に大きく影響するものであり、アクリロニトリルの共重合組成が少なすぎる場合には架橋構造が少なくならざるを得なくなり、繊維物性が不十分となる可能性があるが、アクリロニトリルの共重合組成を上記範囲とすることで良好な結果を得られやすくなる。
【0014】
上記のアクリロニトリル系共重合体は、ビニルエステル化合物とアクリロニトリルに加えて、これら以外のビニル系化合物を共重合したものであってもよい。例えば、メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体及びその塩、(メタ)アクリル酸、イタコン酸等のカルボン酸基含有単量体及びその塩、スチレン、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミドなどのビニル系化合物を共重合することができる。
【0015】
また、本発明に採用するアクリロニトリル系繊維は、上述したアクリロニトリル系共重合体を用いて、公知の方法に準じて製造することができる。繊維の形態としては、短繊維、トウ、糸、編織物、不織布等いずれの形態のものでもよく、また、製造工程中途品、廃繊維などでも採用できる。
【0016】
本発明においては、第1工程として、上述したアクリロニトリル系繊維に対して、まず、水加ヒドラジンおよび酸性化合物を含有する水溶液による処理を施す。該処理により、アクリロニトリル系繊維を構成する重合体のニトリル基とヒドラジンが反応し、該重合体の分子内および分子間に架橋構造が形成される。
【0017】
かかる処理においては処理に用いる水溶液中に酸性化合物を共存させるが、このことにより、最終的に得られる繊維の白度が向上し、なおかつ、耐変色性が向上する。かかる酸性化合物としては、蟻酸、酢酸などの有機酸や硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸を用いることができ、なかでも酢酸を用いた場合にはより優れた白度向上や耐変色性向上の効果が得られる。
【0018】
処理に用いる水溶液中の酸性化合物の濃度としては好ましくは0.1eq/L以上、より好ましくは0.3eq/L以上となるようにするのが望ましく、上限については特に制限はないが、過大に添加しても白度向上および耐変色性向上の効果の増大は小さいことから、2.0eq/L以下にするのが望ましい。
【0019】
また、かかる処理に用いる水溶液は、アルカリ性化合物を添加することによってpH13.5〜14に調整しておく。pH13.5未満の場合には、後述する酸処理Aを経ても、十分な白度の繊維が得られにくい。かかるアルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどを挙げることができる。
【0020】
また、かかる処理に用いる水溶液中の水加ヒドラジン濃度は10重量%以上であることが好ましい。上述のように該水溶液は高pHとするので、該処理によって架橋反応とともに加水分解反応が進行し、一部のニトリル基はカルボキシル基に変化する。水加ヒドラジン濃度が10重量%未満である場合には、架橋構造量が少なくなる一方でカルボキシル基量が多くなり、この結果、得られる繊維は水膨潤性が高くなり、繊維物性が低く実用性に欠けるものとなることがある。一方、水溶液中の水加ヒドラジン濃度の上限については、架橋構造量が多くなりすぎると得られる繊維の着色が強くなり、白度の低下を招くことがあるため、30重量%以下、好ましくは25重量%以下とするのが望ましい。
【0021】
上述した第1工程での処理条件としては、上述した水溶液に上述したアクリロニトリル系繊維を浸漬し、50〜120℃、5時間以内で処理する方法などが挙げられる。
【0022】
第1工程の処理を終えた繊維は、次に第2工程として酸処理(該酸処理を「酸処理A」とも言う)を施される。酸処理Aは硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸あるいは蟻酸、酢酸などの有機酸などによる酸処理であり、該処理も最終的に得られる繊維の白度および耐変色性の向上に寄与がある。該処理の処理条件としては、酸濃度0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の水溶液に繊維を浸漬し、50〜120℃で0.5〜10時間処理するといった例を挙げることができる。なお、この処理の前には、繊維を十分に水洗し、残留した薬剤をできるだけ除去しておくことが望ましい。
【0023】
以上のように、上述したアクリロニトリル系繊維に対して、上述の2つの工程を施すことにより本発明の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維を得ることができる。特に第1工程においては、処理に用いる水溶液に酸性化合物を含有させることが高白度、耐変色性に寄与し、加えて該水溶液をpH13.5〜14とすることでより良好な結果が得られるが、このとき、架橋構造のみならず相当量のカルボキシル基を形成することができるため、従来の架橋アクリレート系繊維の製造方法のように別途加水分解処理を施さなくても、架橋アクリレート系繊維の特性を有する繊維とすることが可能である。
【0024】
すなわち、架橋アクリレート系繊維においてカルボキシル基は吸放湿性、吸湿発熱性、消臭性などの特性を発現させる要因であり、一般的には繊維重量に対して1〜12mmol/g、好ましくは3〜10mmol/g、さらに好ましくは3〜8mmol/gのカルボキシル基を形成することが望ましいが、本発明においては別途加水分解処理を施さなくても、上述の2つの工程においてを施すことで、かかる範囲内の量のカルボキシル基を形成することができる。
【0025】
なお、第2工程の酸処理Aにより繊維中のカルボキシル基はH型となるので、従来の架橋アクリレート系繊維と同様に、所望の特性を得るために酸処理A後の繊維を金属塩の水溶液などで処理して、カルボキシル基を金属塩型に変換してもよい。金属塩の種類としては、Li、Na、K、Ca、Mg、Ba、Alなどの水酸化物,ハロゲン化物,硝酸塩,硫酸塩,炭酸塩などが挙げられる。
【0026】
また、より高い吸放湿性能などが求められる場合においては、酸処理Aに引き続いて、加水分解処理を施すことも可能である。かかる加水分解処理により第2工程終了後の繊維中に残存しているニトリル基やアミド基が加水分解され、カルボキシル基量が増加する。なお、アミド基は上述の第1あるいは第2工程の際に、一部のニトリル基から生成される。
【0027】
かかる加水分解処理の処理条件としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などのアルカリ性金属化合物の濃度1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%の水溶液に繊維を浸漬し、50〜120℃で1〜10時間処理するといった例を挙げることができる。なお、形成されるカルボキシル基の対イオンは、使用したアルカリ性金属化合物に対応した金属イオンとなる。
【0028】
ここで、第2工程後に加水分解処理を施す場合には、カルボキシル基量の増加に伴い、繊維の親水性がより高くなるので、繊維物性が低下傾向となる。このため、第1工程において水加ヒドラジン濃度を高めに設定するなどして架橋構造量を多くしておくことが望ましいが、着色が強まることに留意が必要である。
【0029】
かかる加水分解処理を施された繊維は、続いて酸処理(該酸処理を「酸処理B」とも言う)を施してもよい。酸処理Bは上述の酸処理Aと同様に、硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸あるいは蟻酸、酢酸などの有機酸などを用いて行うことができ、繊維の白度および耐変色性の向上に寄与がある。処理条件としては、酸濃度0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の水溶液に繊維を浸漬し、50〜120℃で0.5〜10時間処理するといった例が挙げられる。ここで、酸処理Bにより繊維中のカルボキシル基はH型となるので、上述したのと同様にして、金属塩の水溶液などで処理して、カルボキシル基を所望の金属塩型に変換してもよい。
【0030】
さらに、上記の加水分解処理と酸処理Bの間で還元処理を施すと得られる架橋アクリレート系繊維の白度を向上させることができる。使用する還元処理剤としてはハイドロサルファイト塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜硝酸塩、二酸化チオ尿素、アスコルビン酸塩からなる群より選ばれた1種類または2種類以上を組み合わせた薬剤などを挙げることをできる。また、処理条件としては、薬剤濃度0.5〜5重量%の水溶液に、50℃〜120℃で30分間〜5時間被処理繊維を浸漬するといった例が挙げられる。
【0031】
また、白度および耐変色性の向上に関しては、第1工程の前に、あるいは、第1工程と同時に、もしくは、第1工程と第2工程の間において、1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物による処理を施すことが有効である。すなわち、かかる処理では1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物とニトリル基との間で架橋構造が形成されるので、繊維物性を維持しながら発色の原因となるヒドラジン架橋構造の量を減らすことが可能となる。
【0032】
かかるアミノ基含有有機化合物の具体例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、ラウリルイミノビスプロピルアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−ブチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンなどが挙げられる。
【0033】
かかるアミノ基含有有機化合物の中でも、1分子中の全アミノ基数が3以上であって、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることがより好ましい。全アミノ基数が3以上であれば、形成された架橋構造中に1個のアミノ基が残存し、該アミノ基を反応性染料の染着座席や酸性ガスの吸着サイトなどに利用することができる。
【0034】
また、かかる構造を有するアミノ基含有有機化合物はニトリル基との反応速度が速く、100℃以下の処理温度でも短時間で反応できるので、圧力容器を必要とせず、コスト的に有利で好ましい。さらに、かかる構造を有するアミノ基含有有機化合物の場合、1分子中の全アミノ基数が2以下のアミノ基含有有機化合物に比べて得られる繊維をより白度の高いものにできる。なお、ここで言う炭素数とは、アミノ基を直接結ぶ炭素の数のことであって、分岐鎖や置換基などの炭素の数は含まない。
【0035】
かかるアミノ基含有有機化合物としては、3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、N−メチル−3,3’−イミノビス(プロピルアミン)、ラウリルイミノビスプロピルアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロピレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−ブチレンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,4−ブチレンジアミン、1,4−ビス(3−アミノプロピル)ピペラジンなどを例示することができる。
【0036】
アミノ基含有有機化合物による処理の具体的な処理条件としては、アミノ基含有有機化合物濃度1重量%以上の水溶液中、50〜150℃、好ましくは80℃〜150℃で30分〜48時間処理する条件を挙げることができる。特に、アミノ基含有有機化合物として、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものを採用する場合には、50〜150℃、30分〜4時間で処理することができる。
【0037】
上述のようにして得られる本発明の架橋アクリレート系繊維は高白度および優れた耐変色性を有するものであるが、特に、繊維の色については、JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが85以上、aが−1.0以上1.0以下であることが望ましい。
【0038】
また、耐変色性については、水酸化ナトリウムによりpH10に調整した過酸化水素の0.5重量%水溶液に、浴比が1/50となるように繊維を浸漬し、80℃で1時間晒し処理した後の繊維を処理前の繊維と比較したときの変色の程度がaの差において−0.5から0.5の範囲内であることが望ましい。
【0039】
本発明の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維は、高白度および耐変色性を有する一方で、従来の架橋アクリレート系繊維に比べて少ない工程数で製造することができ、コスト低減に寄与するものである。また、該繊維は従来の架橋アクリレート系繊維と同様に吸放湿性、発熱性、消臭性、抗菌性などの機能を有するものであり、例えば、吸放湿性に関して言えば、本発明の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維は従来の架橋アクリレート系繊維と同様、20℃、65%RH雰囲気下での飽和吸湿率を10重量%以上、さらには20重量%以上とすることが可能である。なお、20℃、65%RH雰囲気下での飽和吸湿率の上限については、繊維物性の観点から60重量%未満であることが望ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の部及び百分率は、断りのない限り重量基準で示す。なお、カルボキシル基量、飽和吸湿率、L、aおよび耐変色性試験は以下の方法による。
【0041】
(1)カルボキシル基量
十分乾燥した繊維試料約1gを精秤し(W1[g])、これに200mlの1mol/l塩酸水溶液を加え30分間放置したのちガラスフィルターで濾過し水を加えて水洗する。この処理を3回繰り返したのち、濾液のpHが5以上になるまで十分に水洗する。次にこの試料を200mlの水に入れ1mol/l塩酸水溶液を添加してpH2にした後、0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液で常法に従って滴定曲線を求める。該滴定曲線からカルボキシル基に消費された水酸化ナトリウム水溶液消費量(V1[ml])を求め、次式によって全カルボキシル基量を算出する。
カルボキシル基量[mmol/g]=0.1×V1/W1
【0042】
(2)飽和吸湿率
繊維試料約5.0gを熱風乾燥器で105℃、16時間乾燥して重量を測定する(W2[g])。次に該繊維試料を温度20℃、65%RHに調節した恒温恒湿器に24時間入れる。このようにして吸湿した繊維試料の重量を測定する(W3[g])。以上の測定結果から、次式によって算出する。
飽和吸湿率[%]=(W3−W2)/W2×100
【0043】
(3)Lおよびa
カード機にて解繊した繊維試料4.0gを回転式測色セル(35mlの透明円筒セル)に充填し、東京電色社製色差計TC−1500MC−88型(D65光源)にて、60回/分の割合で回転させながら測色する。この測定を3回繰り返し、Lおよびaの平均値を求める。
【0044】
(4)耐変色性
繊維試料と該繊維試料に上述した晒し処理を施した後の繊維のそれぞれについてaの平均値を求め、Δa=(晒し処理後のaの平均値)−(晒し処理前のaの平均値)を算出する。
【0045】
[実施例1]
アクリロニトリル90%、酢酸ビニル10%からなるアクリロニトリル系共重合体10部を48%のロダンソーダ水溶液90部に溶解した紡糸原液を、常法に従って紡糸、延伸した後、乾球/湿球=120℃/60℃の雰囲気下で乾燥、湿熱処理して単繊維繊度0.9dtexの原料繊維を得た。
【0046】
該原料繊維を、15%水加ヒドラジン水溶液に酢酸を1eq/Lとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH13.5に調整した架橋導入処理用水溶液に浸漬し、110℃、3時間の条件で架橋導入処理を施し、水洗を行った。得られた繊維を8%硝酸水溶液に浸漬し、100℃、1時間の条件で酸処理Aを施し、次いで、得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH6.5とし、カルボキシル基をナトリウム塩型とし、実施例1の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例1において、酢酸の代わりに蟻酸を用いること以外は同様にして、実施例2の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、架橋導入処理用水溶液として15%水加ヒドラジン水溶液を水酸化ナトリウムでpH13.5に調整した水溶液を用いること以外は同様にして、比較例1の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表1に示す。比較例1では酸性化合物を用いておらず、白度および耐変色性の劣る繊維となった。
【0049】
【表1】

【0050】
[実施例3]
実施例1において、架橋導入処理用水溶液のpHを13.9に調整すること以外は同様にして、実施例3の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、架橋導入処理用水溶液のpHを13.0に調整すること以外は同様にして、比較例2の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表2に示す。比較例2では、架橋導入処理用水溶液のpHが低く、白度および耐変色性の劣る繊維となった。
【0052】
【表2】

【0053】
[実施例4]
実施例1において、アクリロニトリル系共重合体の組成をアクリロニトリル85%、酢酸ビニル15%とすること以外は同様にして、実施例4の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表3に示す。
【0054】
[実施例5]
実施例1で得られた原料繊維を、25%水加ヒドラジン水溶液に酢酸を1eq/Lとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH13.5に調整した架橋導入処理用水溶液に浸漬し、110℃、3時間の条件で架橋導入処理を施し、水洗を行った。得られた繊維を8%硝酸水溶液に浸漬し、100℃、1時間の条件で酸処理Aを施し、水洗を行った。次いで、得られた繊維を5%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、100℃、1時間の条件で加水分解処理を施し、水洗を行った。次に、5%硝酸水溶液に浸漬し、100℃、1時間の条件で酸処理Bを施し、水洗を行った。次いで、得られた繊維を水に浸漬し、水酸化ナトリウムを添加してpH6.5とし、カルボキシル基をナトリウム塩型とし、実施例5の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表3に示す。
【0055】
[実施例6]
実施例1において、架橋導入処理を100℃、45分間の条件で行うこと、および、酸処理Aの前に、3%3,3’−イミノビス(プロピルアミン)水溶液を用いて、110℃、2時間の条件で処理を行い、水洗すること以外は同様にして、実施例6の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表3に示す。
【0056】
[比較例3]
実施例1で得られた原料繊維を、15%水加ヒドラジン水溶液に酢酸を1eq/Lとなるように添加し、水酸化ナトリウムでpH13.5に調整した架橋導入処理用水溶液に浸漬し、110℃、3時間の条件で架橋導入処理を施し、水洗を行うことで、比較例3の架橋アクリレート系繊維を得た。該繊維を評価した結果を表3に示す。比較例3では酸処理Aを行っておらず、白度および耐変色性の劣る繊維となった。
【0057】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルエステル化合物の共重合組成が1〜20重量%であるアクリロニトリル系共重合体からなるアクリロニトリル系繊維に対して、水加ヒドラジンおよび酸性化合物を含有し、かつ、アルカリ性化合物によってpH13.5〜14に調整した水溶液による処理を施し、次いで酸処理Aを施して得られる高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
【請求項2】
繊維の色が、JIS−Z−8729に記載の表示方法において、Lが85以上、aが−1.0以上1.0以下であり、さらに該繊維を下記条件で晒し処理したときの該処理前の繊維の色に対する変色の程度が、aの差において−0.5から0.5の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
晒し処理条件:水酸化ナトリウムによりpH10に調整した過酸化水素の0.5重量%水溶液に、浴比が1/50となるように繊維を浸漬し、80℃で1時間晒し処理する。
【請求項3】
酸処理Aの後に、加水分解処理を施し、さらに酸処理Bを施して得られることを特徴とする請求項1または2に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
【請求項4】
前記pH13.5〜14に調整した水溶液による処理と同時、あるいは、該処理と酸処理Aの間において、1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物による処理を施して得られることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
【請求項5】
1分子中の1級アミノ基数が2以上であるアミノ基含有有機化合物が、1分子中の全アミノ基数としては3以上であって、アミノ基間を炭素数が3以上のアルキレン基で結合した構造を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。
【請求項6】
酸性化合物が酢酸であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の高白度耐変色性架橋アクリレート系繊維。

【公開番号】特開2010−216051(P2010−216051A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−67328(P2009−67328)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】