説明

高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体およびその製造方法

【課題】切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットとして適用できる、十分な強度、硬度、耐熱性、耐酸化性を有し、高純度で、かつ、低コストの放電加工が可能な、高硬度で導電性のあるダイヤモンド多結晶体及びその製造方法の提供。
【解決手段】高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させた後、これを温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする、ダイヤモンドの最大粒径が5000nm以下、平均粒径が2500nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含む高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法及びこれによって得られた高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンドおよびその製造方法に関するもので、特に切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどに用いられる高硬度・高強度で、耐熱性・耐酸化性に優れるダイヤモンド多結晶体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどに使われるダイヤモンド多結晶体には、焼結助剤あるいは結合剤としてCo、Ni、Feなどの鉄族金属や、SiCなどのセラミックスが用いられている。また、焼結助剤として炭酸塩を用いたものも知られている(特許文献1、特許文献2参照)。これらは、ダイヤモンドの粉末を焼結助剤や結合剤とともにダイヤモンドが熱力学的に安定な高圧高温条件下(通常、圧力5〜8GPa、温度1300〜2200℃)で焼結することにより得られる。一方、天然に産出するダイヤモンド多結晶体(カーボナードやバラス)も知られ、一部掘削ビットとして使用されているが、材質のバラツキが大きく、また産出量も少ないため、工業的にはあまり使用されていない。
【0003】
Coなどの鉄系金属触媒を焼結助剤として得られたダイヤモンド多結晶体中には、用いた焼結助剤が含まれ、これがダイヤモンドの黒鉛化を促す触媒として作用するため耐熱性に劣る。すなわち、不活性ガス雰囲気中でも700℃程度でダイヤモンドが黒鉛化してしまう。また、この焼結助剤とダイヤモンドとの熱膨張率に差があるため、多結晶体内に微細なクラックが入りやすい。さらにダイヤモンド多結晶体のダイヤモンド粒子間にCoなどの金属が連続層として存在するため、多結晶体の硬度や強度などの機械的特性が低下する。耐熱性を上げるために上記の粒界の金属を除去したものも知られており、これにより耐熱温度は約1200℃と向上するが、多結晶体が多孔質となるため強度がさらに大幅に低下する。
【0004】
SiCを結合剤としたダイヤモンド焼結体は耐熱性には優れるが、ダイヤモンド粒同士には結合がないため、強度は低い。また、焼結助剤として炭酸塩を用いたダイヤモンド焼結体は、Co結合剤による焼結体に比べると耐熱性に優れるが、粒界に炭酸塩物質が存在するため、機械的特性は十分とはいえない。
【0005】
一方、ダイヤモンド製造方法として、黒鉛(グラファイト)やグラッシーカーボン、アモルファスカーボンなどの非ダイヤモンド炭素を超高圧高温下で、触媒や溶媒なしに直接的にダイヤモンドに変換させる方法がある。非ダイヤモンド相からダイヤモンド相へ直接変換すると同時に焼結させることでダイヤモンド単相の多結晶体が得られる。たとえば、非特許文献1、[非特許文献2]及び[非特許文献3]には、グラファイトを出発物質として14−18GPa、3000K以上の超高圧高温下での直接変換によりダイヤモンド多結晶体が得られることが開示されている。
【0006】
しかし、いずれの方法でも、14GPa、3000Kを超える超々高圧高温条件が必要であるため製造コストが極めて高くなる。また、ダイヤモンド粒子径が不均一であるため、硬度や強度などの機械的特性が不十分である。それに加えて、この方法で得られるダイヤモンド多結晶体は絶縁体(抵抗率1013Ωcm以上)であるため、放電加工による機械加工が不可能で、加工コストが膨大になるという問題があった。また、ダイヤモンドは空気中およそ700℃以上で酸化してしまうため、工具として用いた場合、特に刃先が高温となる過酷な条件で使用すると、酸化による摩耗や劣化により使用できなくなるという問題もある。
【0007】
また特許文献3には非ダイヤモンド炭素に、ホウ素を含むグラファイトを不活性ガス中で、機械的に粉砕、均一混合して、数十nm以下の超微細もしくは非晶質状としたホウ素含有炭素物質を用いてダイヤモンドに直接変換させる方法が示されている。しかし本発明者らが鋭意研究したところ、この方法では機械的に粉砕した際に使用する超硬材料、例えばタングステンカーバイドなどの不純物が微量ながらも含まれており、マイクロクラックなどの機械的特性を低下させる原因となることがわかった。
【0008】
また特許文献4には、ホウ素粉末または炭化ホウ素粉末を黒鉛に混入し、不活性ガス雰囲気下で2000℃以上の温度で焼成し、不純物を昇華させる方法が記載されている。しかしこの方法では蒸気圧の低い金属不純物の除去が困難であり、高純度な導電性ダイヤモンド焼結体は得られなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−74766号公報
【特許文献2】特開平4−114966号公報
【特許文献3】国際公開第2005/065809号
【特許文献4】特開2002−18267号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】F.P.Bundy J.Chem.Phys.,38(1963)631
【非特許文献2】M.Wakatsuki et.al. Japan.J.Appl.Phys.,11(1972)578−590
【非特許文献3】S.Naka et.al. Nature 259(1976)38−39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の従来の技術の問題点を解決するためになされたものであり、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットとして適用できる、十分な強度、硬度、耐熱性、耐酸化性を有し、高純度で、かつ、低コストの放電加工が可能な、高硬度で導電性のあるダイヤモンド多結晶体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のような問題を解決するため鋭意検討を進めた結果、高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させた後、これを温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換させることによって、粒径数千nm以下の粒子が強固に結合し、かつ、導電性のある緻密なダイヤモンド多結晶体が得られることを見出した。
また、本発明者らは、炭素・ホウ素・窒素以外の極微量な不純物も存在することなく、従来の焼結条件よりも圧力、温度が低い焼結条件において、ダイヤモンド粒子が強固に結合し、かつ、導電性のある緻密なダイヤモンド多結晶体が得られることを見出した。
そして、上記のようにして得られたダイヤモンド多結晶体は従来の導電性多結晶体に比べはるかに高硬度かつ高強度で、耐熱性および耐酸化性にも優れ、同時に放電加工が可能であることを見いだした。
本発明は上記の知見に基づいてなされたものであって、以下に記載する通りの高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体及びその製造方法に係るものである。
【0013】
(1)高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させた後、これを温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする、ダイヤモンドの最大粒径が5000nm以下、平均粒径が2500nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含む高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
(2)高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に定着させてから焼結させることを特徴とする(1)に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
(3)高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に定着させ、真空中もしくは不活性ガス中で加熱してアルコールを蒸発させた後、焼結させることを特徴とする(1)又は(2)に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
(4)前記含浸の際、高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をホウ素アルコキシドに浸した容器を減圧し、グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素に含まれた空気とホウ素アルコキシドとを置換する工程を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
(5)前記ホウ素アルコキシドが、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ−n−プロポキシボラン、トリ−i−プロポキシボラン、トリ−i−ブトキシボラン、トリ−n−ブトキシボラン、トリ−sec−ブトキシボラン及びトリ−t−ブトキシボランよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法によって得られた、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が5000nm以下、平均粒径が2500nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含むことを特徴とする、高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
(7)前記ダイヤモンド粒子間のホウ素濃度のバラツキが、ホウ素濃度の最大値が平均値の10倍以下、最小値が平均値の1/10以上であることを特徴とする(6)に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
(8)前記ダイヤモンド多結晶体の比抵抗が1000Ωcm以下である(6)又は(7)に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
(9)硬度が80GPa以上である(6)〜(8)のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
(10)前記ダイヤモンド多結晶体における炭素とホウ素と窒素以外の不純物の濃度が1ppm以下であることを特徴とする(6)〜(9)のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によって得られた本発明のダイヤモンド多結晶体は、機械的特性や熱的安定性、耐酸化性に優れ、かつ、放電加工が可能なレベルの導電性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
まず、本発明のダイヤモンド多結晶体を製造する方法の詳細について述べる。
出発物質としては極めて高純度で微細なグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素を用いる。非ダイヤモンド状炭素にはグラッシーカーボン、アモルファスカーボン、フラーレン、ダイヤモンドライクカーボン等が含まれる。純度としては99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることより好ましい。微細なグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素の平均粒径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。さらには、非晶質な状態のものであることがより好ましい。たとえば10μmを超えるような粗大なグラファイト粒子があると、直接変換後のダイヤモンドも粗粒化し、組織が不均一となる(応力集中サイトが多くなって機械的強度が低下する)ため、好ましくない。
【0016】
前記の出発物質である非晶質もしくは微細なグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素を液体であるホウ素アルコキシドを収容した容器に入れてホウ素アルコキシド中に浸し、グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させる。
上記のようにして得られた、非晶質もしくは微細なホウ素含有グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素を、高純度な不活性ガス雰囲気中で、MoやTaなどの金属カプセルに充填する。
【0017】
次いで、上記カプセルを超高圧高温発生装置を用いて、温度1500℃以上で、かつダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力で所定時間保持することで、前記の非晶質もしくは微細なホウ素含有グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素はダイヤモンドに直接変換され、同時に焼結される。このとき、添加したホウ素は、ダイヤモンド結晶粒子の格子サイトに取り込まれ、ダイヤモンド多結晶体はP型半導体となって導電性が生じる。その結果、微細で粒径の揃ったダイヤモンド粒子が強固に結合した極めて緻密で均質な組織の導電性ダイヤモンド多結晶体が得られる。上記のように、焼結助剤や触媒の添加無しにグラファイトを直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させているので、従来法で得られるダイヤモンド多結晶体のように焼結助剤や触媒が不純物として含まれることがない。
【0018】
本発明において液体であるホウ素アルコキシドを用いるのは、ホウ素アルコキシドを用いることでグラファイト粒子のごく細部まで拡散し、ホウ素が不均一に分布することを抑制することができるからである。さらに、ホウ素アルコキシドは半導体材料として用いられるほど極めて不純物が少ないため、従来の製造方法では得られない高純度で、その結果高硬度で高強度の緻密なダイヤモンド多結晶体を得ることができる。
【0019】
上記の製造方法においては、含浸の際、グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をホウ素アルコキシドに浸した容器を減圧し、グラファイトに含まれた空気とホウ素アルコキシドを置換する手順を含むことが好ましい。単に含浸させただけではグラファイト中に含まれる空気がホウ素アルコキシドの拡散を阻害するが、この手順により空気を除去して拡散を促進し、ホウ素濃度の均一性を高めるからである。
【0020】
上記の製造方法においては、高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に定着させてから焼結させるのが好ましい。加水分解することによりホウ酸アルコキシドがグラファイト粒子の周囲でホウ酸に分解、定着し、ホウ素濃度の均一性を高めるからである。
【0021】
また、上記の製造方法においては、高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に定着させ、真空中もしくは不活性ガス中で加熱してアルコールを蒸発させた後、焼結させることが好ましい。これにより分解したホウ素アルコキシドのうちのアルコール成分が蒸発し、ダイヤモンドの異常成長が抑制されるからである。
上記の加水分解させる条件としては大気もしくはArと水蒸気を含み、湿度90%以上に保たれた環境に1時間以上、好ましくは24時間以上置いてホウ素アルコキシドを加水分解することが好ましく、また、アルコールを蒸発させる雰囲気は真空中もしくは不活性ガス中であり、加熱温度は65℃以上169℃以下であることが好ましい。169℃を超えると加水分解されたホウ素化合物が融解して部分的に凝集し、最終的に合成されるダイヤモンド多結晶体のホウ素濃度分布が不均一になるためである。
【0022】
ホウ素アルコキシドとしては、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ−i−プロポキシボラン、トリ−n−プロポキシボラン、トリ−i−ブトキシボラン、トリ−n−ブトキシボラン、トリ−sec−ブトキシボラン、トリ−t−ブトキシボラン等を使用することができる。これらの半導体プロセスでも用いられる材料は極めて不純物濃度が低いため、得られるダイヤモンド焼結体からは炭素・ホウ素・窒素以外の不純物が極めて少なく、ホウ素の不均一な拡散を防ぎ、ダイヤモンドの異常成長やマイクロクラックの発生を抑制し、焼結体の強度を高めることができるからである。
【0023】
上記の好ましい製造方法を採用した具体的な製造方法を工程順に述べると次の通りである。
1)高純度(99.9%以上)で微細(10μm以下)のグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素を準備する工程。
2)グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をホウ素アルコキシドを収容した容器に入れてホウ素アルコキシド中に浸し、グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させる工程。
3)ホウ素アルコキシドを含浸させたグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素の入った容器を減圧してグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に残留した空気とホウ素アルコキシドとを置換する工程。
4)ホウ素アルコキシドを含浸したグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をArと水蒸気を含み、湿度90%以上に保たれた環境に1時間以上、好ましくは24時間以上置いてホウ酸アルコキシドを加水分解し、ホウ素化合物をグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素中に定着させる工程。
5)真空中もしくは不活性ガス中で65℃以上169℃以下で加熱してアルコールを蒸発させる工程
6)上記5)の工程で得られたホウ素含有グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をMoやTaなどの金属カプセルに充填し、このカプセルを超高圧高温発生装置を用いて、温度1500℃以上で、かつダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力で所定時間保持してグラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をダイヤモンドに直接変換すると同時に焼結する工程。
【0024】
次に本発明の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体について述べる。
本発明の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体は、多結晶体を構成するダイヤモンド粒子の最大粒径が5000nm以下であり、ダイヤモンド粒子の平均粒径が2500nm以下であり、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含む。
上記の構成により、硬度、強度、耐熱性、優れ、同時に放電加工が可能なダイヤモンド多結晶体とすることができる。
【0025】
ダイヤモンド粒子の最大粒径を5000nm以下とし、平均粒径を2500nm以下に制御することにより、硬度、強度の低下を防ぎ、かつホウ素濃度のバラツキを均一にすることができる。
また最大粒径は100nm以下、平均粒径50nm以下であることが好ましい。このことにより、焼結体の強度を高め、加工時に欠けなどの不良が少ないダイヤモンド多結晶体とすることができる。
【0026】
ダイヤモンド粒子内のホウ素の濃度は、10ppmより少ないと、充分な導電性が得られず放電加工が困難になる。また、1000ppmを超えると、ダイヤモンド多結晶体中にBCなどの非ダイヤモンド相が析出し、焼結体の機械的性質が低下する。
また粒子間のホウ素濃度のバラツキの程度は、ホウ素濃度の最大値がホウ素濃度の平均値の10倍以下であり、ホウ素濃度の最小値がホウ素濃度の平均値の1/10以上とすることが好ましい。これにより硬度、強度、耐熱性の均一性が上がり、マクロな機械的性質が向上するためである。
ダイヤモンド多結晶体の比抵抗は1000Ωcm以下であることが好ましい。比抵抗が1000Ωcm以下であると放電加工を効率的に行うことができるからである。
ダイヤモンド多結晶体中のホウ素の含有量が10ppm以上で、電気抵抗がおよそ1000Ωcm以下となり、放電加工が可能な導電性を示す。
【0027】
ダイヤモンド多結晶体の硬度は切削工具等としての用途の観点から80GPa以上であることが好ましく、110GPa以上であることがより好ましい。
また、炭素とホウ素と窒素以外の不純物の濃度が1ppm以下であることが好ましい。このことにより、ホウ素の不均一な拡散を防ぎ、ダイヤモンドの異常成長やマイクロクラックの発生を抑制し、焼結体の強度を高めることができるからである。
【0028】
上記したように、本発明のダイヤモンド多結晶体を構成する粒径は最大粒径5000nm以下で平均粒径2500nm以下であり、好ましくは最大粒径が100nm以下で平均粒径50nm以下であり、非常に微細かつ均質な組織を有する。このため、この多結晶体は、硬度が80GPa以上、場合によっては110GPa以上と、ダイヤモンド単結晶を超える硬さを持つ。
【0029】
本発明のダイヤモンド多結晶体は金属触媒や焼結助剤がほぼ完全に排除されているため、たとえば真空中1400℃でも、グラファイト化や微細クラックの発生が見られない。また、ホウ素を不純物として含むため、大気中で加熱すると表面に酸化ホウ素の保護膜が形成され、耐酸化性が向上する。さらに、導電性があるため、放電加工による研磨、切断加工が可能であり、砥石を用いた機械加工に比べ、製品作製コストを大きく削減することができる。したがって、本発明のダイヤモンド多結晶体は、特性的に切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットなどとして非常に有用であるばかりでなく、低コストで製造、加工が可能である。
【実施例】
【0030】
本発明を実施例及び比較例を挙げることによってより詳細に説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
測定方法は以下の通りである。
【0031】
<平均粒径>
本発明における原料黒鉛焼成体中のグラファイト粒子及びダイヤモンド多結晶体中のダイヤモンド焼結粒子のD50粒径(平均粒径)は透過型電子顕微鏡により倍率10〜50万倍で写真撮影像を元にして画像解析を実施することで得られる。
以下にその詳細方法を示す。
まず、透過型電子顕微鏡で撮影した撮影像をもとに多結晶体を構成する結晶粒の粒径分布を測定する。具体的には、画像解析ソフト(例えば、Scion Corporation社製、ScionImage)を用いて、個々の粒子を抽出し、抽出した粒子を2値化処理して各粒子の面積(S)を算出する。そして、各粒子の粒径(D)を、同じ面積を有する円の直径(D=2√(S/π))として算出する。
次に、上記で得られた粒径分布をデータ解析ソフト(例えば、OriginLab社製Origin、Parametric Technology社製Mathchad等)によって処理し、D50粒径を算出する。
以下に記載する実施例、比較例では透過型電子顕微鏡として日立製作所製H−9000を用いた。
<硬度>
硬度測定はヌープ圧子を用いて測定荷重を4.9Nとして実施した。
【0032】
[実施例1]
粒径0.8〜9μm、純度99.95%以上のグラファイト粉末をホウ素アルコキシドを入れた容器に移してホウ素アルコキシド中に浸した。含浸条件および合成条件を表1に示す。表1には、容器を減圧してグラファイト中に残留した空気とホウ素アルコキシドとを置換する工程、これをArと水蒸気を含み湿度90%以上に保たれた環境に置いてホウ素アルコキシドを加水分解する工程、Arガス中で加熱して残留したアルコールを蒸発させる工程の条件についても記載している。これをグローブボックス中でMoカプセルに充填、密封した。
このMoカプセルを超高圧発生装置を用いて、表1に示す種々の圧力、温度条件で30分処理した。
得られた試料の生成相をX線回折により同定し、TEM観察により構成粒子の粒径を調べた。また、強固に焼結している試料については、表面を鏡面に研磨し、その研磨面での硬さをマイクロヌープ硬度計で測定した。実験の結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示された結果から、ホウ素アルコキシドを含浸したグラファイトを出発物質とすると、比較的マイルドな高圧高温条件で、ダイヤモンドに変換焼結し、得られた多結晶体の硬度は、従来のCoバインダーの焼結体(60〜80GPa)よりはるかに高く、ダイヤモンド単結晶(90〜115GPa)と同等もしくはそれ以上であることがわかる。また不純物濃度を測定した結果、Mg、Al、Ti、V、Cr、Fe、Ni、W、いずれの元素においても1ppm以下の濃度となった。また、ホウ素添加量が10ppm以上の多結晶体は導電性を示し、電気伝導度は、1000Ωcm以下で、放電加工が可能なレベルであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のダイヤモンド多結晶体は、十分な強度、硬度、耐熱性、耐酸化性を有し、高純度、高硬度で、かつ低コストの放電加工が可能な導電性を有するため、切削バイトや、ドレッサー、ダイスなどの工具や、掘削ビットとして好適に適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させた後、これを温度1500℃以上で、ダイヤモンドが熱力学的に安定である圧力条件下で、焼結助剤や触媒の添加無しに直接的にダイヤモンドに変換させると同時に焼結させることを特徴とする、ダイヤモンドの最大粒径が5000nm以下、平均粒径が2500nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含む高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項2】
高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイト中に定着させてから焼結させることを特徴とする請求項1に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項3】
高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素にホウ素アルコキシドを含浸させ、水蒸気を含む環境で加水分解させ、ホウ素化合物をグラファイト中に定着させ、真空中もしくは不活性ガス中で加熱してアルコールを蒸発させた後、焼結させることを特徴とする請求項1または2に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項4】
前記含浸の際、高純度グラファイトもしくは非ダイヤモンド状炭素をホウ素アルコキシドに浸した容器を減圧し、グラファイトに含まれた空気とホウ素アルコキシドとを置換する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項5】
前記ホウ素アルコキシドが、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ−n−プロポキシボラン、トリ−i−プロポキシボラン、トリ−i−ブトキシボラン、トリ−n−ブトキシボラン、トリ−sec−ブトキシボラン及びトリ−t−ブトキシボランよりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法によって得られた、実質的にダイヤモンドのみからなる多結晶体であって、ダイヤモンドの最大粒径が5000nm以下、平均粒径が2500nm以下で、ダイヤモンド粒子内にホウ素を10ppm以上1000ppm以下含むことを特徴とする高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項7】
前記ダイヤモンド粒子間のホウ素濃度のバラツキが、ホウ素濃度の最大値が平均値の10倍以下、最小値が平均値の1/10以上であることを特徴とする請求項6に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項8】
前記ダイヤモンド多結晶体の比抵抗が1000Ωcm以下である請求項6又は7に記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項9】
硬度が80GPa以上である請求項6〜8のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。
【請求項10】
前記ダイヤモンド多結晶体における炭素とホウ素と窒素以外の不純物の濃度が1ppm以下であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の高硬度導電性ダイヤモンド多結晶体。


【公開番号】特開2012−66979(P2012−66979A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214869(P2010−214869)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】