説明

高粘性流体用ディスペンサー

【課題】フィラー粒子を含む高粘性流体を長期に亘って安定的に定量吐出可能であり、且つ、クリーンルーム内でも使用可能なディスペンサーを提供すること
【解決手段】フィラー粒子を含み、25℃における粘度が10〜1000Pa・sの高粘性流体を吐出するためのディスペンサーであって、
前記高粘性流体を収容し、且つ、前記高粘性流体の排出口を有する容器、
前記容器内の前記高粘性流体を押圧して前記排出口から前記高粘性流体を排出可能なプランジャー、及び、
前記プランジャーを駆動するサーボモーター
を備える高粘性流体供給部、並びに、
前記排出口から排出された前記高粘性流体を搬送するための配管、並びに、
前記配管に接続された開閉可能なバルブ、及び、
前記高粘性流体を吐出するための吐出口
を備える高粘性流体吐出部
を備える、ディスペンサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高粘性流体を定量供給可能なディスペンサー、並びに、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の電子デバイスは使用中に発熱するので、高温による電子デバイスの損傷又は性能低下を回避するために、電子デバイスから熱を除去することが必要である。
【0003】
電子デバイスの熱を除去する手法としては、例えば、電子デバイス中の半導体素子等の発熱体からの熱をヒートパイプ、ヒートシンク等の放熱体に伝導することが広く実施されている。そして、発熱体からの熱を放熱体に効率よく伝導するために、発熱体と放熱体の間には、例えば、熱伝導性を有するグリースが塗布される。
【0004】
特開2008−19426号公報、特開2008−274036号公報、及び、特開2007−99821号公報に記載されるように、熱伝導性を有するシリコーングリースは、例えば、シリコーンオイルをベースとして、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の熱伝導性を有する材料からなるフィラー粒子を比較的多量に含んでおり、粘度が高い。また、前記グリースは半導体素子等の微小な発熱体と放熱体との間に正確に少量ずつ塗布される必要がある。したがって、通常、前記グリースは例えばコンピュータ等により制御可能なポンプを備えたディスペンサーを用いて塗布される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−19426号公報
【特許文献2】特開2008−274036号公報
【特許文献3】特開2007−99821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フィラー粒子は比較的硬いために、フィラー粒子を含むシリコーングリースをディスペンサーによって塗布すると、フィラー粒子との摩擦によってディスペンサー内部が容易に摩耗する。したがって、摩耗によってディスペンサーの例えばポンプ部分から前記グリースが短時間のうちに漏洩してしまい、ディスペンサーによるグリースの定量供給が困難になるばかりか、漏洩した前記グリースによってディスペンサーの周囲環境を汚染する不都合がある。そして、そのような汚染が発生する可能性がある機器は電子デバイスの製造が行われるクリーンルーム内では使用することができない。
【0007】
更に、高粘度のシリコーングリースを塗布するために、油圧式駆動機構を有するディスペンサーを使用する場合、油漏れのリスクが常に存在し、環境を汚染するおそれがある。したがって、極めて微量であっても油漏れのリスクが存在する油圧駆動タイプの装置はやはりクリーンルーム内では使用することができない。
【0008】
本発明は、フィラー粒子を含む高粘性流体を長期に亘って安定的に定量吐出可能であり、且つ、クリーンルーム内でも使用可能なディスペンサーを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、フィラー粒子を含み、25℃における粘度が10〜1000Pa・sの高粘性流体を吐出するためのディスペンサーであって、
前記高粘性流体を収容し、且つ、前記高粘性流体の排出口を有する容器、
前記容器内の前記高粘性流体を押圧して前記排出口から前記高粘性流体を排出可能なプランジャー、及び、
前記プランジャーを駆動するサーボモーター
を備える高粘性流体供給部、並びに、
前記排出口から排出された前記高粘性流体を搬送するための配管、並びに、
前記配管に接続された開閉可能なバルブ、及び、
前記高粘性流体を吐出するための吐出口
を備える高粘性流体吐出部
を備える、ディスペンサーによって達成される。
【0010】
本発明のディスペンサーは前記サーボモーターの回転駆動を直線駆動に変換する変換機構を備えることが好ましい。
【0011】
本発明のディスペンサーは前記プランジャーと前記容器との間にパッキングを備えることが好ましい。
【0012】
本発明のディスペンサーは前記高粘性流体に加わる圧力を検知して前記バルブの開閉及び/又は前記サーボモーターの駆動を制御可能であることが好ましい。特に、前記バルブの開閉及び/又は前記サーボモーターの駆動の制御によって前記高粘性流体の吐出量を制御可能であることが好ましい。
【0013】
前記高粘性流体の1回の吐出量は1〜10gであることが好ましい。
【0014】
本発明のディスペンサーにおいて、前記容器及び/又は前記プランジャーの少なくとも前記高粘性流体と接触する部位が耐摩耗性であることが好ましい。
【0015】
前記フィラー粒子は、金属、無機酸化物、無機窒化物、及び、無機炭化物からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。また、前記フィラー粒子の配合量が高粘性流体の全質量に対して50〜99質量%であることが好ましい。
【0016】
前記高粘性流体はシリコーングリースであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のディスペンサーは、フィラー粒子を含む高粘性流体を長期に亘って安定的に定量吐出可能であり、且つ、クリーンルーム内でも使用することができる。したがって、クリーンルーム内での電子デバイスの製造に本発明のディスペンサーを好適に使用することができる。特に、本発明のディスペンサーは、サーボモーターを用いた正確な電気式駆動制御によって、少量であっても正確に高粘性流体を吐出することができるので、発熱体と放熱体との間に少量の高粘性流体を正確に塗布して、電子デバイス用の放熱構造体を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のディスペンサーの一例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一つの態様はフィラー粒子を含む高粘性流体用のディスペンサーである。
【0020】
フィラー粒子は、熱伝導性を有する材料から構成されることが好ましく、一種類であってもよく、或いは、二種類以上を併用してもよい。前記フィラー粒子を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、金、銀、銅、ニッケル、鉄等の金属;酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の無機窒化物;炭化ケイ素、カーボン、ダイヤモンド等の無機炭化物;及び、これらの混合物が挙げられる。フィラー粒子を構成する材料は無機酸化物が好ましく、酸化アルミニウム、酸化亜鉛等の金属酸化物がより好ましい。
【0021】
前記フィラー粒子の配合量は何ら限定されるものではないが、一般に、配合量が少な過ぎると熱伝導性が低下し、また、配合量が多過ぎると熱伝導性は向上するものの高粘性流体の粘度が増大して作業性が低下するので、フィラー粒子の材質によっても異なるが、高粘性流体の全質量に対して50〜99質量%、好ましくは60〜98質量%、より好ましくは、70〜97質量%、更により好ましくは80〜96質量%である。
【0022】
前記高粘性流体は、25℃における粘度が10〜1000Pa・sであり、好ましくは100〜500Pa・sである。粘度が10Pa・sより低いと液だれが起こりやすく、また、1000Pa・sより高いと吐出性が低下するので流体の取扱性が悪化する。粘度はレオメーターを用いて測定される。
【0023】
前記高粘性流体はグリースの性状を呈することが好ましく、特に、熱伝導性を有するグリースであることが好ましい。そして、前記グリースは、熱線法で測定した25℃における熱伝導率が0.5W/m・K以上であることが好ましく、1.0W/m・K以上がより好ましく、2.0W/m・K以上が更により好ましい。
【0024】
前記高粘性流体がグリースである場合は、前記フィラー粒子等と共にグリースを構成するベースオイルとして、例えば、鉱油系のパラフィン系オイル及びナフテン系オイルが挙げられ、また、合成油系のαオレフィンポリマー又はオリゴマー、ポリアルキレングリコール、ジエステル(二塩基酸エステル)、トリメリット酸エステル、ポリオールエステル、パーフルオロポリエーテル、ポリフェニルエーテル及びシリコーン等が挙げられる。電気絶縁性及び耐熱性の点で、ベースオイルはシリコーンであることが好ましい。したがって、前記高粘性流体は、シリコーンをベースオイルとするシリコーングリースであることが好ましい。
【0025】
このようなシリコーングリースは一般に入手可能であり、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製のSC4471CV、SC4490CV、TC−5021、TC−5022、TC−5351が挙げられる。
【0026】
本発明のディスペンサーは、上記の高粘性流体を吐出するために使用される。すなわち、本発明のディスペンサーは、フィラー粒子を含み、25℃における粘度が10〜1000Pa・s、好ましくは100〜500Pa・sの高粘性流体の吐出用ディスペンサーである。
【0027】
本発明のディスペンサーは、(1)前記高粘性流体を収容し、且つ、前記高粘性流体の排出口を有する容器、前記容器内の前記高粘性流体を押圧して前記排出口から前記高粘性流体を排出可能なプランジャー、及び、前記プランジャーを駆動するサーボモーターを備える高粘性流体供給部、並びに、(2)前記排出口から排出された前記高粘性流体を搬送するための配管、並びに、前記配管に接続された開閉可能なバルブ、及び、前記高粘性流体を吐出するための吐出口を備える高粘性流体吐出部を備える。
【0028】
本発明のディスペンサーは、フィラー粒子を含む高粘性流体を吐出するにあたり、従来のポンプのような回転体の作用により流体を圧送する機構を採用しないことを特徴の1つとしている。
【0029】
回転体を使用する従来のポンプでは、フィラー粒子との接触により、回転体自体、及び、当該回転体のシール部分が急速に摩耗して、前記粘性流体の正確な供給は困難となる。更に摩耗が進むと、ポンプから前記高粘性流体が漏洩して、周囲を汚染してしまう。
【0030】
そこで、本発明のディスペンサーは、高速回転する回転体ではなく、直線運動を行うプランジャーを用いてフィラー粒子を含む高粘性流体を圧送する。これにより、本発明のディスペンサーでは、フィラー粒子を含む高粘性流体と接触する部位がプランジャーの先端周辺に限定される。また、プランジャーは高速回転しないので、高粘性流体とプランジャーとの接触時の両者の相対速度を抑制することができる。したがって、本発明のディスペンサーはフィラー粒子を含む高粘性流体と接触しても摩耗し難く、フィラー粒子による摩耗によって高粘性流体の定量供給が困難となることがない。
【0031】
また、本発明のディスペンサーは、プランジャーを油圧式駆動機構によって操作しないことをも特徴の1つとしている。
【0032】
油圧式に限らず一般に液圧式駆動制御では液体を媒介して力を伝えるので、力の伝達にどうしても僅かに時間差が発生する。また、温度によって液体の粘度等の特性が変化して性能に影響が現れる。したがって、電子デバイスの製造等の高い精度が求められる用途では、油圧式ディスペンサーでは求められる精度での吐出量の制御が困難であり、特に、吐出量が少ない程、一定の吐出量を維持することは極めて困難である。
【0033】
そこで、本発明のディスペンサーではサーボモーターを用いた電気式駆動機構によってプランジャーを駆動制御する。サーボモーターは完全に電気的に駆動制御されるのでプランジャーを極めて正確に駆動できる。したがって、電子デバイスの製造等の用途においても、吐出量が少なくても、高い精度で吐出量をコントロールできる。しかも、油等の液体を使用しないので、本発明のディスペンサーはクリーンルーム内でも使用することができる。また、電気式駆動制御は油圧式駆動制御に比べてエネルギー効率でも優れている。
【0034】
したがって、本発明のディスペンサーは、摩耗に強いプランジャーによる圧送、且つ、サーボモーターによる電気式駆動制御を採用することにより、フィラー粒子を含む高粘性流体を長期に亘って安定的に定量吐出可能であり、且つ、クリーンルーム内でも使用することができる。
【0035】
ところで、フィラー粒子を含むグリース等の高粘性流体の圧送には大きな出力が要求されるので、大出力を容易に得ることができる油圧式駆動制御を使用することが通常であるが、本発明のディスペンサーは例えば1〜10g程度の比較的少量の高粘性流体を吐出するので、サーボモーターによる駆動によって十分に吐出力を得ることができる。
【0036】
なお、サーボモーターには回転駆動するものと直線駆動するもの(リニアサーボモーター)が存在する。リニアサーボモーターを使用する場合は、リニアサーボモーターをプランジャーと直結することができるが回転駆動するものについては、サーボモーターの回転駆動を直線運動に変換するための、スクリュージャッキ、ボールネジ等の変換機構を備えることが好ましい。
【0037】
以下、図面を参照しつつ、本発明のディスペンサーの実施の形態を説明する。図1は、本発明のディスペンサーの一例を示す概略図である。
【0038】
図1に示すディスペンサーは、ケーシング1内に、フィラー粒子を含むグリース等の高粘性流体Mを収容する耐圧容器3を備えており、耐圧容器3はその底面近傍に排出口3aを有する。図1の例では排出口3aは1つであるが、排出口は複数存在してもよい。
【0039】
図1に示す例では、耐圧容器3は上端面が開放された円筒形であり、当該上端面から耐圧容器3の内周形状に合致する円筒形の先端部2aを備えたプランジャー2が耐圧容器3内の高粘性流体Mを押圧可能に耐圧容器3内に嵌入している。プランジャー2は上下方向に移動自在となるようにそのシャフト2bがスクリュージャッキ6によって保持されている。なお、シャフト2bは図示しない開口を介してケーシング1の上面を貫通している。
【0040】
スクリュージャッキ6はカップリング5を介して回転駆動タイプのサーボモーター4の回転駆動軸に接続されており、サーボモーター4の回転駆動は当該軸からカップリング5を介してスクリュージャッキ6に伝達可能とされている。サーボモーター4は図示を省略する制御システムによって制御可能とされている。スクリュージャッキ6はサーボモーターの回転駆動を直線駆動に変換してプランジャー2に伝達する変換機構として機能するが当該変換機構としてはスクリュージャッキに限らず、例えば、ボールネジ等を使用してもよい。
【0041】
図1に示す例では、耐圧容器3、プランジャー2、及び、サーボモーター4が高粘性流体供給部Aを構成している。
【0042】
液密性を高めるために、プランジャー2と耐圧容器3との接触部位にはパッキングを設けることが好ましい。パッキングの材質としては特に限定されるものではないが、高粘度流体M中のフィラー粒子との接触による摩耗を防止するために少なくともパッキングの表面は耐摩耗性材料から構成されることが好ましい。
【0043】
耐圧容器3及びプランジャー2の先端部2aはフィラー粒子を含む高粘性流体Mと接触する部分なので、少なくとも耐圧容器3の内周面、及び、先端部2aの表面は耐摩耗性材料から構成されることが好ましい。耐摩耗性材料は特に限定されるものではなく、例えば、高クロム鋼、各種の硬質セラミックス等の公知の耐摩耗性材料を使用することができる。
【0044】
また、図1に示すディスペンサーは、耐圧容器3の排出口3aに接続され、排出口3aから排出された高粘性流体Mを搬送する配管7を有しており、配管7の始端周辺及び終端周辺に配管7内の圧力を測定する圧力計10、11がそれぞれ設置されている。圧力計10、11は上記の図示を省略する制御システムに接続されており、圧力計10、11の測定結果に基づいてサーボモーター4が駆動制御可能とされている。配管7は高粘性流体Mを吐出するノズル9を備えたバルブ8に接続されており、配管7によって搬送された高粘性流体Mはバルブ8及びノズル9を介して吐出可能とされている。なお、バルブ8はノズル9と一体化する必要はなく、配管7の任意の場所に配置することが可能であるが、正確な吐出量制御のためには図1に示すようにノズル9にできるだけ近い位置に設けることが好ましい。
【0045】
図1に示す例では、配管7、バルブ8、及び、ノズル9が高粘性流体吐出部Bを構成している。
【0046】
図1に示すディスペンサーを用いて高粘度流体Mを吐出する場合は、まず、耐圧容器3内に高粘度流体Mを供給する。図1に示す例では、プランジャー2を上方に引き上げて耐圧容器3の上端面を開放して図示しない供給手段からフィラー粒子を含む高粘度流体Mを耐圧容器3内に供給する。なお、耐圧容器3内に供給口を設け、当該供給口より高粘度流体Mを耐圧容器3内に供給してもよい。この場合は、前記上端面を開放する必要がないので、高粘度流体Mへの外界からの汚染物質の混入のおそれを回避することができる。
【0047】
次に、図示を省略する前記制御システムからの信号によりサーボモーター4を駆動させ、プランジャー2を耐圧容器3内に押込み、耐圧容器3内の高粘性流体を押圧する。これにより、高粘性流体Mは耐圧容器3の排出口3aから配管7に排出される。そして、排出口3aから排出された高粘性流体Mは配管7内を圧送され、バルブ8を介してノズル9から吐出される。
【0048】
配管7内の高粘性流体Mの圧力は圧力計10、11によって検知され、前記制御システムに伝達される。図1に示す例では、前記制御システムに伝達された情報に基づいて、サーボモーター4及び/又はバルブ8が駆動制御される。例えば、バルブ8が開いている間は高粘性流体Mの圧力低下を補償するためにサーボモーター4の回転数を増大してプランジャー2の押圧力を増大させる一方で、バルブ9が閉じている間はサーボモーター4の回転数を減少させてプランジャー2の押圧力を減少させることにより、バルブ8が開放されている間の高粘度流体Mの圧力を目標値に維持して、吐出量を一定に制御することができる。これによって、ノズル9からの高粘性流体Mの吐出量を極めて正確に制御することができる。ノズル9からの高粘性流体Mの1回当たりの吐出量は特に限定されるものではないが、1〜10gが好ましく、1〜5gであってもよい。
【0049】
なお、耐圧容器3及び/又は配管7に温度計を設置し、高粘性流体Mの温度を検知して、検知結果に基づいてサーボモーター4の回転及び/又はバルブ8の開閉を制御してもよい。
【0050】
既述したとおり、本発明のディスペンサーはクリーンルーム内で使用することができるので、クリーンルーム内で行われる上記の各種放熱構造体を備えた電子デバイスの製造に好適に使用することができる。
【0051】
特に、本発明のディスペンサーは、サーボモーターを用いた正確な電気式駆動制御によって、少量であっても長期に亘って正確に高粘性流体を吐出することができるので、電子デバイス用途に求められる高い精度で放熱構造体を製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に例証するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1]
図1に示すディスペンサーを使用して熱伝導率2.9W/mKのシリコーングリース(東レ・ダウコーニング株式会社製のTC−5351)を間欠的に一定量ずつ吐出した。レオメーター(TAインスツルメンツ社製のAR550)を用いて、ジオメトリー:直径20mmのパラレルプレート、ギャップ:200μm、シェアレイト:10.0(1/s)の条件で粘度を測定したところ、このシリコーングリースの25℃における粘度は318Pa・sであった。
【0054】
具体的には、サーボモーター4を駆動してプランジャー2によって耐圧容器3内のシリコーングリースを押圧しつつ、バルブ8を15秒開放して、その間にノズル9から吐出されるグリースの吐出重量を測定して、吐出安定性を評価した。シリコーングリースの吐出は4000回行われた。結果を表1に示す。
【表1】

【0055】
その後、500時間経過時点まで吐出を行ったが、ディスペンサーの高粘度流体供給部においてグリースの漏れ等の問題は確認されなかった。
【0056】
[比較例1]
図1において、高粘度流体供給部をペールポンプ(タイヨーテクノ株式会社製)に変更した以外は実施例1で使用したディスペンサーを使用して、実施例と同様にシリコーングリースの吐出量の経時変化を評価した。評価開始から300時間経過後にペールポンプのシャフトからのシリコーングリースの漏れが顕著となり、475時間後には漏れが大量となった。シャフト並びにシャフト近傍のパッキングを分析したところ、両方とも、かなりの摩耗が発生していた。
【0057】
[比較例2]
図1において、プランジャー2の駆動手段をサーボモーター4から油圧シリンダに変更した以外は実施例1で使用したディスペンサーを使用して、実施例1と同様にしてシリコーングリースの吐出量の経時変化を評価した。結果を表2に示す。
【表2】

【0058】
実施例に比べて比較例2では、吐出初期においてさえ、吐出量のばらつきが大きいことが分かる。したがって、油圧による駆動系を使用して高粘度のシリコーングリースを正確に定量供給することは困難である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のディスペンサーは、例えば、クリーンルーム内での電子デバイスの製造に好適に使用することができる。特に、半導体素子等の発熱体と、ヒートパイプ又はヒートシンク等の放熱体との間に熱伝導性のグリースが存在するタイプの放熱構造体を含む電子デバイスの製造に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ケーシング:2 プランジャー:3 耐圧容器:4 サーボモーター:5 カップリング:6 スクリュージャッキ:7 配管:8 バルブ:9 ノズル:10、11 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラー粒子を含み、25℃における粘度が10〜1000Pa・sの高粘性流体を吐出するためのディスペンサーであって、
前記高粘性流体を収容し、且つ、前記高粘性流体の排出口を有する容器、
前記容器内の前記高粘性流体を押圧して前記排出口から前記高粘性流体を排出可能なプランジャー、及び、
前記プランジャーを駆動するサーボモーター
を備える高粘性流体供給部、並びに、
前記排出口から排出された前記高粘性流体を搬送するための配管、並びに、
前記配管に接続された開閉可能なバルブ、及び、
前記高粘性流体を吐出するための吐出口
を備える高粘性流体吐出部
を備える、ディスペンサー。
【請求項2】
前記サーボモーターの回転駆動を直線駆動に変換する変換機構を備える、請求項1記載のディスペンサー。
【請求項3】
前記プランジャーと前記容器との間にパッキングを備える、請求項1又は2記載のディスペンサー。
【請求項4】
前記高粘性流体に加わる圧力を検知して前記バルブの開閉及び/又は前記サーボモーターの駆動を制御する、請求項1乃至3のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項5】
前記バルブの開閉及び/又は前記サーボモーターの駆動の制御によって前記高粘性流体の吐出量を制御する、請求項1乃至4のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項6】
前記高粘性流体の1回の吐出量が1〜10gである、請求項1乃至5のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項7】
前記容器及び/又は前記プランジャーの少なくとも前記高粘性流体と接触する部位が耐摩耗性である、請求項1乃至6のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項8】
前記フィラー粒子が、金属、無機酸化物、無機窒化物、及び、無機炭化物からなる群から選択される少なくとも1種からなる、請求項1乃至7のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項9】
前記フィラー粒子の配合量が高粘性流体の全質量に対して50〜99質量%である、請求項1乃至8のいずれかに記載のディスペンサー。
【請求項10】
前記高粘性流体がシリコーングリースである、請求項1乃至9のいずれかに記載のディスペンサー。

【図1】
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【公開番号】特開2011−179468(P2011−179468A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46768(P2010−46768)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000110077)東レ・ダウコーニング株式会社 (338)
【Fターム(参考)】