説明

高純度かつ低臭気性のスクアラン及びその製造方法

【課題】
本発明は、高純度かつ低臭気性のスクアランを容易に製造し得る有用な方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
スクアレンの水素化反応において、前段の低温度での水素化工程及び後段の高温度での水素化工程の2段階の工程で水素化反応を行うことにより、スクアラン中の副生物の生成を抑制することができる。すなわち、前段の低温度での水素化で低沸点成分、中沸点成分及び高沸点成分の発生が抑制されたスクアランが生成し、後段の高温度での水素化で原料スクアレンが低減される。水素化後、活性炭、活性アルミナ等の公知の吸着剤で脱臭処理することにより原料スクアレンおよび低沸点成分が除去され製品が低臭気化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクアレンを水素化しスクアランを製造する方法に関する。詳しくは、スクアレンの水素化反応において反応温度を制御することにより、臭気の発生原因となる副生物である低沸点成分、スクアレン不完全還元物由来の中沸点成分、高沸点成分及び原料スクアレンの含有量が少ないスクアランを製造し、これを更に脱臭処理を行うことにより、臭気がより改善された高純度スクアランを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スクアレンを水素化して得られるスクアランは、優れた酸素供給効果、各細胞への代謝促進効果、安全性から、クリーム、乳液、口紅、ファンデーション、パウダーなどの化粧品、また、医薬用潤滑剤、軟膏、座薬などの医薬品に使用されている。また、その優れた性質により、潤滑油、繊維処理剤、皮革表面改良剤、サイズ剤など工業用にも使用されている。さらに最近では繊維素材炭素複合材料等の新素材分野への応用も提案されている。
【0003】
従来のスクアランの製造方法としては、動植物油脂由来の原料スクアレンを精留などの手法で精製した後、公知の水素化方法で水素化する方法が一般的であった。
公知の水素化方法としては、例えば、Ni担持の珪藻土触媒存在下、水素化反応温度200℃以上で反応させ、反応後得られたスクアランを蒸留する製造方法が開示されている(特許文献1)。
しかし、この従来の製造方法によると、水素化反応時に副生する低沸点成分、スクアレン不完全還元物由来の中沸点成分、高沸点成分等の副生物及び原料スクアレンが、製品スクアランに残存し臭気が発生する場合がある。スクアランの使用用途によっては臭気の発生が好まれないことから、臭気発生原因である原料スクアレンや副生物の含有量の低減が望まれている。
【0004】
スクアランの純度を向上させる方法としては、蒸留行うことにより副生物(低沸点成分、中沸点成分及び高沸点成分)、又は未反応原料スクアレンを除去する方法が知られている(特許文献1)。しかし臭気の原因と考えられるスクアレン及び不完全還元物由来の中沸点成分は製品スクアランと沸点が類似しており、単蒸留では分離が難しい。また高沸点成分は、蒸留以外の分離操作では除去が困難であり、またスクアラン自体の沸点が高いため、より高純度のスクアラン(例えば純度99.9%以上)を得ようとした場合、真空度10―3kPa以下の分子蒸留などの設備対応が必要となり(特許文献2)、コストの面で不利な場合がある。
【0005】
上記の方法の他にスクアランの品質を向上させる製造方法としては、連続式水素化反応装置を使用して水素化反応し、生成物を何回か反応器へ循環させることにより高純度且つ耐候性に優れたスクアランを製造する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、この方法では反応装置に循環ラインを設置し、水素添加するスクアレンに対して3〜20倍のスクアランを循環させる必要があり設備コストや生産性の面から不利である。
【0006】
【特許文献1】特開平07−309785号公報
【特許文献2】特開平11−189553号公報
【特許文献3】特開2000−044496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高純度かつ低臭気のスクアランを容易に製造し得る有用な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、本課題を解決するため鋭意検討を行い、下記の知見を得た。
(1)比較的高い温度でスクアレンの水素化反応をおこなったところ、副生物が生成し、水素化を続けても副生成物は消失しないこと。
(2)比較的低温で反応を続けると、副生物の生成は抑制されるが、原料スクアレンが消失しないこと。原料スクアレンを消失させるためには、高い反応温度が必要であること。
(3)高い反応温度では原料スクアレンは消失するが、同時に副生物が発生してしまうため、反応を一定の温度以下で反応を進め、その後昇温して反応を完結させる2段階の温度制御で反応を進めることが、スクアラン高純度品を得るために必要なこと。特に前段の反応温度が重要であって、この前段の反応温度で原料転化率95%以上まで水素化を行う2段階反応を用いることで初めて原料及び副生物が実質的に消失することが明かになった。
(4)副生物としては、低沸点物、中沸点物、高沸点成分があり、これらが臭気の主原因と考えられること。なお、本明細書中、及び特許請求の範囲において、臭気の原因と考えられる成分については、後記[0026]〜[0030]において詳述する。
(5)このようにして得られたスクアランは、従来公知の水素化及び精製方法で得られるスクアランと比較しても低臭気であること。
(6)特に、水素化反応によって得られたスクアランを吸着剤を用いて脱臭処理をおこなったものは、臭気の安定性に優れること。
【0009】
本発明は係る知見に基づき完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
【0010】
(項1)
スクアレンを水素化してスクアランを製造するに際し、該水素化反応を、50〜170℃で、原料スクアレンの転化率が95%以上となるまで行う前段工程、及び210〜300℃でGC分析における未反応のスクアレンが0.03面積%以下になるまで反応を行う後段工程の2段階工程で反応を行うことを特徴とする、副生物及び未反応原料のスクアレン含有量が低減された低臭気スクアランの製造方法。
【0011】
(項2)
前段工程の水素化反応温度が60〜150℃であることを特徴とする項1に記載の低臭気スクアランの製造方法。
【0012】
(項3)
水素化反応終了時に、GC測定で、スクアランの純度が99.8面積%以上であって、且つスクアラン中のスクアレンの含有量が0.03面積%以下、低沸点成分の含有量が0.03面積%以下、中沸点成分の含有量が0.09面積%以下及び高沸点成分の含有量が0.05面積%以下であることを特徴とする項1又は2に記載の低臭気スクアランの製造方法。
【0013】
(項4)
項1〜3のいずれかの製造方法で得られたスクアランを、さらに吸着剤を用いて脱臭処理する低臭気スクアランの製造方法。
【0014】
(項5)
前記低臭気スクアランが化粧品用途である項1〜4のいずれかに記載の低臭気スクアランの製造方法。
【0015】
(項6)
前記低臭気スクアランが医薬品用途である項1〜4のいずれかに記載の低臭気スクアランの製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スクアレンを特定の反応温度で水素化する事により、高純度、低臭気性のスクアランを、蒸留工程や特別な反応装置を用いず、容易に工業的に製造することが出来る。本発明の水素化反応によって得られたスクアランを脱臭処理工程を行う事で更に臭気や安定性が改善されたスクアランが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の低臭気スクアランの製造方法は、スクアランを水素化触媒の存在下、低温度での水素化、及び高温度での水素化の2段階で水素化することにより行うことを特徴とする。以下に本発明について詳細に説明する。
【0018】
<スクアレン>
本発明における原料スクアレンは、天然物を原料とするものである。原料の天然物としては、深海ザメ等の魚類、米糠油等の植物、微生物等があり、特に、深海ザメの肝油は、スクアランの原料となるスクアレン含有量が多いために好ましい。本発明の反応原料に用いるスクアレンは高純度且つ水素化反応時の触媒被毒物質の含有量が少ないものが好ましい。本発明に用いる原料スクアレンは工業用に入手できるもの、試薬で入手できるもの、何れのものでもよい。また低純度のスクアレンを、例えば蒸留等の公知の方法で精製して使用してもよい。
【0019】
<触媒>
本発明に使用される触媒は、特に制限はなく、オレフィンへの水素化能力がある接触水素化触媒であれば公知の触媒が使用可能である。具体的には、ニッケル、パラジウム等の金属を単独系で用いてもよいし、助触媒としてコバルト、鉄、銅、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、マグネシウム、カルシウム、バリウム等から選ばれる少なくとも1種の金属との複合系で用いることもできる。また、ラネーニッケルを用いることもできる。
【0020】
上記、水素化触媒として用いるニッケル又はパラジウム等は金属単独でも使用することができるがこれらの金属又は酸化物等を無機質担体に担持させて用いてもよい。係る水素化触媒における金属の担持量としては、得られる触媒重量当たりの金属の重量%として計算して、ニッケル触媒の場合は通常20〜90重量%、好ましくは30〜70重量%の範囲が推奨され、パラジウム触媒の場合0.3〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲が推奨される。
【0021】
上記無機質担体としては、通常、水素化触媒の担体に利用される無機物、無機酸化物又はこれらの混合物が使用でき、具体的には、珪藻土、アルミナ、シリカ、グラファイト、マグネシア、チタニア、ゼオライト、モンモリロナイト、アルミナ−シリカ、アルミナ−チタニア、アルミナ−シリカ−マグネシア、カーボン等が例示される。
【0022】
上記、ニッケル、パラジウム等の金属に対してコバルト、鉄、銅、マンガン、クロム、モリブデン、タングステンマグネシウム、カルシウム、バリウムを助触媒として用いる複合系の金属触媒としては、具体的には、ニッケル−コバルト、ニッケル−モリブテン、ニッケル−タングステン、ニッケル−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン、ニッケル−コバルト−モリブテン、ニッケル−コバルト−モリブテン−タングステン、ニッケル−モリブテン−マンガン等が例示される。
【0023】
上記に列挙した触媒の中でも、ニッケル担持触媒が好ましく、該触媒中のニッケル含有量30〜70重量%のものが好適に用いられる。
【0024】
本発明の水素化反応における触媒量は、使用する触媒の種類や触媒性能によって異なるので一律に定めることはできないが、通常の触媒量は、反応器内の全液量に対して、0.1〜10重量%であり、0.1〜3重量%程度がより好ましい。触媒量が0.1重量未満では実用的な反応速度が得られにくく、一方、その触媒量が10重量%を越えると触媒を十分に拡散できなくなることと、濾過工程に負荷がかかり好ましくない場合がある。
【0025】
<反応溶媒>
本発明の水素化反応において、反応溶媒は必須の構成成分ではないが、水素化反応時の際に発熱を抑制する目的や濾過工程時での圧力低減目的のために必要に応じて用いることができる。
【0026】
反応溶媒としては、原料スクアレン及び製品スクアランを溶解し、かつ水素化反応中に安定なものであれば、いずれのものも使用することができる。具体的には、ヘキサノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、シクロヘキサノール等のアルコール系溶媒、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸−n−ブチル等のエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、等の炭酸エステル系溶媒、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン系溶媒等が水素化反応溶媒として例示される。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
反応溶媒を用いる場合、その使用量は、スクアレンに対し、0.1〜90重量部、好ましくは1〜30重量部である。
【0027】
<反応条件>
反応温度及び反応時間
本発明の水素化反応において、副生する低沸点成分、中沸点成分及び高沸点成分の発生を抑制するため、前段反応工程での温度制御が重要である。本発明における反応装置は充分な冷却性能を有し反応熱の制御が容易であるものが推奨される。また本発明の水素化反応においては、反応時に必要に応じて水素の供給量を制御することで反応速度と反応温度を制御する事が可能である。
原料スクアレンが反応系内に多く存在する時、二重結合の分子内移動による異性化反応及び重合反応が起こりやすい。水素化反応時において反応熱の発生から反応温度の制御は困難であるが、適切な反応装置の除熱及び冷却操作を行い、前段の水素化反応を50〜170℃、好ましくは60〜150℃で行うことにより低沸点成分、中沸点成分及び高沸点成分の発生を抑制できる。本発明における前段水素化反応の反応時間は通常0.5〜5時間である。生産性の観点から、低温度での前段反応は、反応時間が短いほうが好ましいが、製品品質の観点から原料転化率95%以上、好ましくは97%以上、より好ましくは99%以上を達成する反応時間まで、前段反応を行うことが好ましい。
【0028】
本発明の水素化反応の後段反応工程における反応温度としては、210〜300℃が好ましく、210〜280℃がより好ましく220〜280℃が特に好ましい。後段の反応温度が210℃より低いと原料スクアレンが消失せず、反応時間が長くなることで生産性が悪くなる。反応が充分進行しなかった場合スクアレンが残存し臭気や安定性といった製品品質に悪影響を及ぼすが、原料を消失させようとして長時間加熱を行う事は、品質に悪影響を与える場合がある。
後段水素化反応の反応時間は通常0.5〜24時間であり、時間が長いほどスクアレン残存量が低減する。製品品質の観点から未反応スクアレンの残存量がGC測定において0.03面積%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.01面積%以下を達成する反応時間まで、後段反応を行うことが好ましい。生産性の観点から反応時間は2〜10時間が好ましい。
【0029】
反応圧力
本発明の水素化反応は、常圧〜30MPaの反応圧力で行うことができる。反応圧力は高圧であるほど反応性が高く望ましいが、設備コストの点からは2〜10MPaが好ましい。
【0030】
反応方式
本発明に使用する水素化反応装置としては、回分反応方式又は連続反応方式の装置を使用することができる。回分反応方式の場合、2段階の昇温により1バッチで前段、後段の水素化を行う方法が例示される。連続反応方式の場合、直列に2本以上の反応塔を備えた反応装置にて前段、後段の水素化を行う方法が例示される。
【0031】
水素流量
本発明の水素化反応は、水素流通系でも実施することができる。回分式の場合、水素ガスの空塔線速度としては、0.1〜10cm/秒が好ましく、より好ましくは0.3〜3cm/秒である。固定床式の場合水素ガスの空塔線速度としては、2〜40cm/秒が好ましく、より好ましくは8〜25cm/秒である。懸濁床式の場合、水素ガスの空塔線速度としては、2〜20cm/秒が好ましく、より好ましくは3〜6cm/秒である。空塔線速度が小さい場合反応率が低く、一方、大きい場合は触媒が高濃度になりすぎる傾向が見られる。
【0032】
<スクアラン>
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアランの純度(後述する条件におけるガスクロマトグラフィー(GC)測定より算出。)は、通常99.80面積%以上であって、製品品質の観点からは、99.90面積%以上がより好ましく、99.95面積%以上が特に好ましい。
スクアランの臭気や安定性を悪化させる主な原因となる成分として下記(1)〜(4)に示す成分が考えられる。製品品質の観点からスクアランの純度が上記の純度であることに加えて、下記(1)〜(4)で表される成分の含有量が夫々規定値以下であることが好ましい。
(1)低沸点成分
(2)中沸点成分
(3)原料スクアレン
(4)高沸点成分
ただし、スクアランの純度が高く、上記(1)〜(4)の成分の含有量が低い分析結果(GC測定)を示すサンプルにおいて、臭気や安定性に差が生じる場合がある。これは、上記(1)〜(4)以外の、GC測定において検出限界以下である微量成分の影響が考えられるが、上記(1)〜(4)の成分の方が微量成分よりも臭気や安定性に対する影響が大きいと考えられる。
【0033】
上記、(1)低沸点成分とは、後述のガスクロマトグラフィー測定条件において、スクアランよりも低沸点側の保持時間に観測される成分であって、水素化反応時に分子鎖が切断されて低分子量化した成分を表す。
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアラン中の低沸点成分の含有量は、水素化反応終了時にGC測定において、通常0.03面積%以下であるが、0.02面積%以下であることが好ましい。
【0034】
上記、(2)中沸点成分とは、後述のガスクロマトグラフィー測定条件において、スクアランと原料スクアレンの間の保持時間にピークが観測されるスクアレン不完全還元物及び異性化反応物を表す。該スクアレン不完全還元物とは、スクアランの分子骨格上に1〜5の不飽和二重結合を持つものである。スクアレン不完全還元物は分子内に付加反応が起こりにくい位置に二重結合を有するため、スクアレンと比べて水素化反応が進行しにくく、異性化反応などの予期せぬ副反応をおこしやすい。該異性化反応物とは、スクアレン不完全還元物の異性化によって生じた副生物でありスクアレン不完全還元物と近接したピーク保持時間に観測される。
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアラン中の中沸点成分の含有量は、水素化反応終了時にGC測定において、通常0.09面積%以下であって、0.05面積%以下であることが好ましく、0.03%以下であることがより好ましい。
【0035】
上記、(3)スクアレンは、後述のガスクロマトグラフィー測定条件において、中沸点成分の後(高沸点側)の保持時間にピークが観測される。スクアレンが未反応のままスクアランに残存すると臭気の発生原因となる。
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアラン中の未反応原料(スクアレン)の含有量は水素化反応終了時にGC測定において0.03面積%未満が好ましく0.02面積%以下であることがより好ましく、0.01面積%以下であることが特に好ましい。
【0036】
上記、(4)高沸点成分は、少なくとも2つ以上のスクアレン同士、スクアレンとスクアレン不完全還元物、又は不完全還元物同士が反応し高分子されたものであって、後述のガスクロマトグラフィー測定条件において、スクアレンよりも後(高沸点側)の保持時間にピークが観測される。
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアラン中の高沸点成分含有量は、水素化反応終了時、通常0.05面積%以下であるが、0.02面積%以下であることが好ましい。
【0037】
<脱臭後処理>
本発明のスクアランの製造方法によって得られるスクアランは純度が高く臭気の原因となる成分が少ないものであるが、これを、吸着剤を用いて脱臭処理を行う事により、更に臭気及び安定性に優れたスクアランを得ることができる。
吸着剤を使用した脱臭処理方法としては、特に限定されず公知な方法が使用される。例えば、処理槽に反応液及び吸着剤を投入し、攪拌処理する方法、固定床吸着材層に反応液を通液するような方法が例示される。好ましくは、攪拌機を備えた処理槽にて、窒素気流下又は減圧下にて、攪拌混合することにより吸着処理した後、濾過、蒸留などにより吸着剤を除去することにより脱臭処理する方法である。吸着剤の種類、吸着処理温度、吸着処理時間、吸着処理時の圧力(減圧又は加圧条件)は、反応後のスクアラン純度に応じて適宜選択できる。
【0038】
吸着処理の温度としては、常温〜120℃の範囲が例示されるが、吸着能力及び設備の観点から50〜100℃が好ましい。吸着処理温度が低いと充分な吸着能力が発揮されない場合があり、100℃より高い温度で吸着処理をする事は設備の面でコストがかかり不利な場合がある。吸着処理時間は所望の製品純度を達成できる範囲であれば特に限定されないが、操作性の観点から10分〜5時間であり、10分〜1時間がより好ましい。
【0039】
本発明に使用される吸着剤としては、公知の活性炭、活性アルミナ、活性白土、活性シリカ、ハイドロタルサイトなどが例示され市販されているものでよい。これらの吸着剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明の吸着剤の使用量は、使用する吸着剤の種類や性能によって異なるので一律に定めることはできないが、通常は、水素化反応後の全液量に対して、0.1〜10重量%が好ましく、0.5〜5重量%程度が特に好ましい。使用量が0.1重量未満だと脱臭効果が十分でなく、一方、その使用量が10重量%を越えると吸着剤を十分に拡散できなくなることや、濾過工程に負荷がかかる場合がある。
【0041】
上記活性シリカとは、公知の方法で製造されたものでよく、ほぼ純粋な無定形シリカに、鉄、アルミニウム、チタン、カルシウム、ナトリウム又はジルコニウムなどの無機酸化物をシリカ100重量部に対して0〜50重量部含有していてもよい。活性シリカの粒径は、3〜2000μmが好ましい。
【0042】
上記活性アルミナとは、公知の方法で製造されたものでよく、例えば、水酸化アルミニウムを焼成して得ることができる。マグネシウム又はケイ素、ナトリウム、炭素などのをアルミニウム100重量部に対して10〜50重量部含有していてもよい。活性アルミナの粒径は3〜2000μmが好ましい。
【0043】
上記活性炭としては、公知の方法で製造されたものでよく、例えば、石炭を焼成して得られる。亜鉛、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム、鉄、アルミニウム、チタン又はジルコニウムなどの無機酸化物を炭素100重量部に対して0〜50重量部含有していてもよい。活性炭の粒径は3〜2000μmが好ましい。
【0044】
上記ハイドロタルサイトとしては、公知の方法で製造されたものでよく、例えば酸化マグネシウムとγ−アルミナの混合物又は硝酸マグネシウムと硝酸アルミニウムとの混合物を焼成して得られる。亜鉛、ナトリウム、カルシウム、鉄、チタン又はジルコニウムなどをマグネシウムとアルミニウム100重量部に対して0〜50重量部含有していてもよい。ハイドロタルサイトの粒径は3〜2000μmが好ましい。
【0045】
上記活性白土としては、公知の方法で製造されたものでよく、例えば鉄酸化物を1〜30%含有した粘度鉱物を焼成して得られる。活性白土はマグネシウム、カルシウム、アルミニウム、シリカなどの無機酸化物を70〜99%含有している。活性白土の粒径は3〜2000μmが好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。尚、水素化転化率及び純度はガスクロマトグラフィー分析で測定し、結果を表1に示した。臭気評価はパネラーによる官能試験で測定し、結果を表2に示した。各物性値は下記に示す方法によって測定した。
【0047】
<GC純度(%):ガスクロマトグラフィー(GC)分析>
以下の条件で、反応粗物及び製品スクアランのGC分析を行った。
装置:SHIMADZU GC−2010
カラム:DB-1701(GLサイエンス社製) 0.25mm×30m 0.25μm
カラム温度:250℃(定温)
流量:1ml/min.
スプリット:1/50
インジェクション温度:300℃
ディテクション温度:300℃
検出器:FID
【0048】
<転化率:GC分析>
下記計算式に基づき、スクアレン水素化反応の転化率を算出した。
転化率(%)=100−(原料スクアレンGC面積%)

【0049】
<臭気測定1:官能試験>
実施例1〜7、比較例1〜5で得られたスクアランの臭気レベルを、10人のパネラーにより以下の5段階の基準で評価し、評価点の平均値で表した。1:臭気は感じられない 2:臭気がやや感じられる 3:臭気が感じられる 4:臭気がはっきりと感じられる 5:強い臭気が感じられる

【0050】
<臭気測定2製品の加熱安定性評価:官能試験>
実施例1〜7、比較例1〜5で得られたスクアランを60℃のオーブンに入れて1ヶ月放置し、放置後の臭気レベルを評価した。10人のパネラーにより以下の5段階の基準で評価し、評価点の平均値で表した。1:臭気は感じられない 2:臭気がやや感じられる 3:臭気が感じられる 4:臭気がはっきりと感じられる 5:強い臭気が感じられる。
【0051】
実施例1
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、冷却水による反応温度制御を行い、反応温度120℃(反応温度実測値120±5℃)、反応圧力5MPaの条件下で2時間水素化を行った。(この前段反応終了時点でサンプリングを行い、GC分析により、原料転化率が、99.85%であることを確認した)。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、280℃に昇温したのち、5MPaの条件下で3時間水素化を行った(後段水素化)。
反応終了後、触媒を濾別することにより148gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.99面積%、中沸点成分0.01面積%、低沸点成分及び高沸点成分は検出限界以下)を得た。
得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0052】
実施例2
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、冷却水による反応温度制御を行い、反応温度150℃(反応温度実測値150±5℃)、反応圧力5MPaの条件下で2時間水素化を行った(この前段反応終了時点でサンプリングを行い、GC分析により、原料転化率は、99.0%以上であることを確認した)。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、300℃に昇温したのち、5MPaの条件下で3時間水素化を行った(後段水素化)。反応終了後、触媒を濾別することにより148gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.96面積%、中沸点成分0.02面積%、高沸点成分0.02面積%、低沸点成分は検出限界以下)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0053】
実施例3
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、パラジウム触媒(5%パラジウム/アルミナ(エヌ・イー・ケムキャット社製 ED−50))0.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、80℃、5MPaの条件下で2時間水素化を行った(この前段反応終了時点でサンプリングを行いGC分析により原料転化率が99.0%以上であることを確認した)。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、230℃に昇温したのち、5MPaの条件下で3時間水素化を行った(後段水素化)。反応終了後、触媒を濾別することにより148gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.98面積%、中沸点成分0.02面積%、低沸点成分及び高沸点成分は検出限界以下)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0054】
比較例1
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、120℃、5MPaの条件下で5時間水素化を行った。反応終了後触媒を濾別することにより得られた濾液のスクアラン純度は99.80%であった(歩留98%、低沸点成分0.01面積%、原料スクアレン0.15面積%、中沸点成分0.04面積%、高沸点成分検出限界以下)。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0055】
比較例2
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、冷却水による反応温度制御を行い、反応温度120℃、反応圧力5MPaの条件下で2時間水素化を行った(この前段反応終了時点でサンプリングを行い、GC分析により、原料転化率は、99%以上であることを確認した)。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、190℃に昇温したのち、5MPaの条件下で5時間水素化を行った(後段水素化)。
反応終了後、触媒を濾別することにより148gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.88面積%、中沸点成分0.02面積%、スクアレン0.08面積%、高沸点成分0.01面積%、低沸点成分0.01面積%)を得た。
得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。

【0056】
比較例3
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、180℃、5MPaの条件下で5時間水素化を行った。反応終了後触媒を濾別することにより得られた濾液のスクアラン純度は98.61%であった(歩留98%、低沸点成分0.01面積%、中沸点成分1.15面積%、スクアレン0.08面積%、高沸点成分0.15面積%)。得られた濾液を、スルーザーパックが充填された内径30mm、高さ500mmの精留塔で、真空度0.1mmHg、ボトム液温度200〜300℃、還流比10で蒸留することにより、精製スクアラン(歩留93%、純度99.95面積%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
比較例4
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、180℃、5MPaの条件下で2時間水素化を行った。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、280℃に昇温したのち、5MPaの条件下で3時間水素化を行った(後段水素化)。反応終了後、触媒を濾別することにより得られた濾液のスクアラン純度は98.61%(低沸点成分0.02面積%、中沸点成分1.21面積%、高沸点成分0.16面積%)であった。上記操作2回により得られた濾液を、スルーザーパックが充填された内径30mm、高さ500mmの精留塔で、真空度0.1mmHg、ボトム液温度200〜300℃、還流比10で蒸留することにより、精製スクアラン(歩留92%、純度99.95面積%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。

【0058】
比較例5
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、250℃、5MPaの条件下で2時間水素化を行った。反応終了後、触媒を濾別することにより得られた濾液のスクアラン純度は97.79%(低沸点成分0.03面積%、中沸点成分1.86面積%、高沸点成分0.32面積%)であった。上記操作2回により得られた濾液を、スルーザーパックが充填された内径30mm、高さ500mmの精留塔で、真空度0.1mmHg、ボトム液温度200〜300℃、還流比10で蒸留することにより、精製スクアラン(歩留93%、純度99.95面積%)を得た。スクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
比較例6
電磁攪拌機を備えた500mlのステンレス製オートクレーブにスクアレン(Aldrich社製)(Aldrich社製)150g、ニッケル触媒(49〜52%ニッケル/珪藻土(日揮化学社製 N−103))1.5gを仕込み、系内を水素で置換した後、攪拌しながら、冷却水による反応温度制御を行い、反応温度120℃(反応温度実測値120±5℃)、反応圧力5MPaの条件下で2時間水素化を行った。この時、水素の供給を途中で止めることにより、反応を制御し原料スクアレンが残存している状態で後段反応に移行した(前段反応終了時点でサンプリングを行い、GC分析により、転化率は、85.49%であることをGC分析により確認した)。続いて水素をパージすることにより系内圧力を3MPaに下げ、280℃に昇温したのち、5MPaの条件下で3時間水素化を行った(後段水素化)。
反応終了後、触媒を濾別することにより148gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.70面積%、低沸点成分0.02面積%、中沸点成分0.20面積%、高沸点成分0.08面積%検出限界以下)を得た。
得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。

【0060】
実施例4
電磁攪拌機を備えた100mlフラスコに、実施例1で得られたスクアラン30gと活性炭(武田薬品工業社製「強力白鷺」) 0.3gを仕込み、系内を窒素で置換し、60℃、常圧の条件下で2時間脱臭処理を行った(脱臭処理)。攪拌終了後、活性炭を濾別することにより29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.99面積%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0061】
実施例5
実施例1で得られたスクアランを、活性炭に代えてハイドロタルサイト(協和化学工業社製「キョーワード700」)を使用した以外は、実施例4と同様の方法で脱臭工程を行い、29.8gのスクアラン(歩留98%、GC純度99.98%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示す。
【0062】
実施例6
実施例1で得られたスクアランを、活性炭に代えて活性白土(水澤化学工業社製「ミズカエース#600」)を使用した以外は実施例4と同様の方法で脱臭工程を行い、29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.98%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示した。
【0063】
実施例7
実施例1で得られたスクアランを、活性炭に代えて活性アルミナ(協和化学工業社製キョーワード200)を使用した以外は実施例4と同様の方法脱臭工程を行い、29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.99%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示した。
【0064】
実施例8
実施例1で得られたスクアランを、活性炭に代えてに活性シリカ(Aldrich社製シリカ−アルミナ)を使用した以外は実施例4と同様の方法で脱臭工程を行い、29.8gのスクアラン(歩留98%、GC純度99.98%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示した。
【0065】
実施例9
電磁攪拌機を備えた100mlフラスコに、実施例2で得られたスクアラン30gと活性炭(武田薬品工業社製「強力白鷺」) 0.3gを仕込み、系内を窒素で置換し、60℃、常圧の条件下で2時間攪拌し脱臭処理を行った。攪拌終了後、活性炭を濾別することにより29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.98%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0066】
実施例10
電磁攪拌機を備えた100mlフラスコに、実施例3で得られたスクアラン30gと活性炭(武田薬品工業社製「強力白鷺」) 0.3gを仕込み、系内を窒素で置換し、60℃、常圧の条件下で2時間攪拌し脱臭処理を行った。攪拌終了後、活性炭を濾別することにより29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.99%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0067】
比較例7
電磁攪拌機を備えた100mlフラスコに、比較例1で得られたスクアラン30gと活性炭(武田薬品工業社製「強力白鷺」) 0.3gを仕込み、系内を窒素で置換し、60℃、常圧の条件下で2時間脱臭処理を行った(脱臭処理)。攪拌終了後、活性炭を濾別することにより29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.80%)を得た。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った。結果を表2に示す。
【0068】
比較例8
比較例2で得られたスクアランを用いた以外は、比較例7と同様の方法で脱臭工程を行い29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.89%)。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示した。
【0069】
比較例9
比較例3で得られたスクアランを用いた以外は、比較例7と同様の方法で脱臭工程を行い29.8gのスクアラン(歩留99%、GC純度99.96%)。得られたスクアランの臭気試験及び安定性試験を行った結果を表2に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
反応のGC分析結果をまとめた表1から明らかなように、本願発明明細書の実施例1〜3に記載の方法で得られたスクアランは反応後の純度(GC測定)が99.9面積%以上であり、純度が高いものであることがわかる。
一方、本願発明のような二段階反応ではなく、低い温度で一段階で反応を行った場合には、比較例1のように、(120℃で水素化反応を実施)原料スクアレンが残存している。また比較的高い反応温度で一段階で水素化を行った比較例3(180℃で水素化反応を実施)或いは、比較例5(250℃で水素化反応を実施)では、低沸点成分、中沸点成分、高沸点成分等が副生し、高純度のスクアランを得られていない。
また、二段階反応であっても、比較例2(120℃で前段水素化反応、190℃で後段水素化反応を実施)のように、後段の反応温度が低い場合、反応の進行が遅く原料スクアレンが消失しにくい。反応を進行させるために反応時間を長くすることで副生物が発生し品質に悪影響を与えている。比較例3のように、前段反応の温度が本願発明の規定より高い場合(前段180℃)では、低沸点成分、中沸点成分、高沸点成分が副生する。
また、比較例6において明らかなように、充分な原料転化率を達成するまで前段の水素化反応を行わない場合、後段の水素化反応において副生物が発生し品質に悪影響を与えている。
【0073】
また、臭気及び安定性をまとめた、表2から明らかなように、本願発明の製造方法で得られた高純度のスクアランは、低臭気である。さらに、実施例4〜10のように、さらに脱臭処理を行ったものは、臭気の安定性に優れている。
他の製造方法で得られたスクアランは、実施例と比較して純度が低く、臭気が劣る。比較例2の様に比較的高純度のサンプルであっても(GC純度99.88面積%)臭気及び安定性が劣る結果を得た。また比較例3、4、5及び9のように、純度の低いものを精留工程を行い高純度にしても臭気特性は劣り、また、本願発明と同様に吸着処理を行っても臭気及び安定性が比較例のスクアランよりも劣ることが明かである(比較例7〜9)。
臭気や安定性を悪化させる原因として、原料スクアレン、低沸点成分、中沸点成分、高沸点成分の影響が大きいと考えられるが、GC測定では検出が困難な微量成分も影響していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の製造方法で得られたスクアランは、臭気がきわめて少なく、そのままで、あるいは他の成分と配合して、化粧料や医薬品として使用される。具体的な化粧料の例としては、いわゆる医薬部外品と称するものも含まれ、整髪料、育毛料、養毛剤、乳液、クリーム、口紅、ファウンデーション、アイシャドー、入浴剤、歯みがき、うがい薬等が挙げられる。具体的な医薬品の例としては、各種治療用クリームおよび軟膏、貼付剤、消毒剤組成物等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクアレンを水素化してスクアランを製造するに際し、該水素化反応を、50〜170℃で、原料スクアレンの転化率が95%以上となるまで行う前段工程、及び210〜300℃でガスクロマトグラフィー分析における未反応のスクアレンが0.03面積%以下になるまで反応を行う後段工程の2段階工程で反応を行うことを特徴とする、副生物及び未反応原料のスクアレン含有量が低減された低臭気スクアランの製造方法。
【請求項2】
前段工程の水素化反応温度が60〜150℃であることを特徴とする請求項1に記載の低臭気スクアランの製造方法。
【請求項3】
水素化反応終了時に、ガスクロマトグラフィー分析で、スクアランの純度が99.80面積%以上であって、且つスクアラン中のスクアレンの含有量が0.03面積%以下、低沸点成分の含有量が0.03面積%以下、中沸点成分の含有量が0.09面積%以下及び高沸点成分の含有量が0.05面積%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低臭気スクアランの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの製造方法で得られたスクアランを、さらに吸着剤を用いて脱臭処理する低臭気スクアランの製造方法。
【請求項5】
前記低臭気スクアランが化粧品用途である請求項1〜4のいずれかに記載の低臭気スクアランの製造方法。
【請求項6】
前記低臭気スクアランが医薬品用途である請求項1〜4のいずれかに記載の低臭気スクアランの製造方法。

【公開番号】特開2008−13477(P2008−13477A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−185612(P2006−185612)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】