説明

高純度ケイ酸質多孔質ガラス及びその製造方法、並びにシリコン原料、高純度シリカ原料、ガス分離膜、燃料電池材料、溶液濃縮方法

【課題】ケイ酸を少なくとも99重量%超の含有量で含む高純度ケイ酸質多孔質ガラス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超である高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法であって、SiO−Al−B−NaO組成系に、2種以上の2族元素成分とリチウム成分とを少なくとも混合して得られた原料組成物を加熱溶融して母ガラスを作製する第1工程と、前記母ガラスに加熱処理を施して分相する第2工程と、分相された母ガラスに対し酸処理を施しケイ酸以外の成分を溶出する第3工程と、を含むことを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法、及び該製造方法により製造されてなる高純度ケイ酸質多孔質ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度ケイ酸質多孔質ガラス及びその製造方法、並びにシリコン原料、高純度シリカ原料、ガス分離膜、燃料電池材料、溶液濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質ガラスの歴史は古く、1940年代に米国のコーニング社がSiO−B−NaOの3成分組成系の母ガラスからポーラスバイコールガラスを開発したことに始まる(例えば、非特許文献1参照。)。その多孔質ガラスは、SiO2-B2O3-Na2O組成系のガラスに熱処理を行ってガラス固体中でSiOに富む部分とB2O3-Na2Oに富む部分とに相分離させ、次いで酸の溶液に浸漬して酸可溶のB2O3-Na2Oに富む部分を溶解除去する方法で製造される。代表的なものに、VYCOR(登録商標) Brand Porous Glass7930があり、現在は62.7%SiO−26.9%B−6.6%NaO−3.5%Alの基本組成から製造されている(例えば、非特許文献2参照。)。このバイコール多孔質ガラスは管状の成型体も提供され、その化学組成はSiO:96%、B:3%、NaO:0.4%であり、細孔直径が4nm、細孔容積が28%で製品の耐熱性の上限が600℃までとされている(例えば、非特許文献3参照。)。この類似品としてSIGMA−ALDRICH社から50〜75%SiO−10%B−15〜40%NaO組成系から製造されるコントロールドポアガラス(Controlled Pore Glasses)という粒子形状の商品も販売されており、制御可能な細孔直径が4.5nmから400nmの範囲内で、細孔容積は50〜70%の粒子状物が市販されているが、この製品では管状などの成型物は市販されていない。
【0003】
その他、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2Oの4成分組成(例えば、特許文献1、2参照。)、SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgOの5成分組成系の母ガラス組成(例えば、非特許文献4参照。)、5成分系の中のSiOとAlの供給原料に火山灰土壌の「シラス」を用いた、シラス(SiO2-Al2O3)-B2O3-Na2O-K2O-MgO-CaO組成系(例えば、非特許文献5参照。)、シラス-B2O3-Li2O-Na2O-MgO組成系およびシラス-B2O3-Li2O-Na2O-CaO組成系(例えば、非特許文献6参照。)、製品の多孔質ガラス製品に耐アルカリ性を賦与するためにZrOが加えられたSiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系(例えば、特許文献3、非特許文献7参照。)などから、ポーラスバイコールガラスと同様に母ガラスの2次熱処理による成分分離現象、すなわち分相と、分相したガラスの酸溶出処理により多孔質ガラスが製造されている。これらの各組成系から製造される多孔質ガラスの特徴は、2次熱処理の温度と保持時間を調節して、特定の細孔範囲に鋭い細孔分布を有する多孔質体が製造できることである。
【0004】
多孔質ガラス管などの成型物の商品として、例えば、VYCOR(登録商標)のSiO2-Al2O3-B2O3-Na2Oの組成系から直径2〜400nmの範囲内の細孔径のものが製造され(例えば、非特許文献8参照。)、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系からは直径が40nmから20μmの幅広い範囲内の細孔径を持つものが製造されている(例えば、非特許文献7参照。)。粉体としてはSIGMA-ALDRICH社から4.5〜400nmの範囲内の種々細孔径の多孔質ガラスが商品名Controlled Pore Glassとして市販されている(例えば、非特許文献9参照。)。ここに記述したように、従来においては、2nmから40nm間の細孔径を持つ粉体以外の形状の多孔質ガラスはVYCOR(登録商標)Brand Porous Glass7930でのみ実現されていることになり、メソポア領域の細孔分布を持つ多孔質ガラスの成型体を創製することは非常に困難な技術となっている。しかし、そのVYCOR(登録商標)Brand Porous Glass7930の多孔質ガラスでさえ、そのケイ酸含有量が96%程度であり、99重量%超という超高純度ケイ酸質多孔質ガラスは達成されていない。
【0005】
一方、上述のガラス原料に使用された天然の火山灰土壌の「シラス」は、ケイ酸とアルミナを主成分として含有し、ガラス原料として利用可能であることから、シラス(SiO2-Al2O3)-B2O3-Na2O-K2O-CaO のような多成分系のガラス組成で分相を示す組成を特定して開発されたものである。現在、シラス多孔質ガラス(商品名SPG)の母ガラスの組成はシラスを使用しないSiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系へと推移しているが、製造される多孔質ガラスはSiO2-Al2O3あるいはSiO2-Al2O3-ZrO2の組成で、直径が40nmから20μmの細孔径範囲内の商品が提供されている(例えば、特許文献9参照。)。
【0006】
また、シラスを使用して製造された多孔質ガラスの例としては、「シラスを原料にした高ケイ酸質多孔質ガラスの製造」(例えば、非特許文献6、10参照。)の研究がある。この研究ではシラスを原料に使用したSiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-MgO 組成系と、SiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-CaO組成系の母ガラスからケイ酸の含有量が最高値で97.8%となった高ケイ酸質の多孔質ガラスが製造されているものの、99重量%を越すような超高純度ケイ酸質多孔質ガラスは得られていない。また、上記組成系からは直径数百nmから数μmの細孔径のものが製造されたが、成型体およびメソポア領域の細孔を持つ多孔質ガラスの製造には到達していなかった。
【0007】
ところで、シラスのような天然資源を原料に使用する場合にはその採取場所により化学組成が一定しないという問題を有する。例えば、シラス中に含まれる鉄分は著しい分相促進の効果を持つことが明らかにされているので(例えば、非特許文献6参照。)、均一な細孔径分布を持つ多孔質ガラス製品を安定して提供するためには特に原料組成中の鉄分含有量を一定に保つことが重要であった。このように天然原料を使用する場合には原料の化学組成のばらつきなどから発生する種々の困難性があった。
【0008】
多孔質ガラスのケイ酸含有量は、SiO2-B2O3-Na2O組成系、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2O組成系のバイコールガラスで96%とされ(例えば、非特許文献3参照。)、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系から製造される多孔質ガラスは高ケイ酸質ではなく、SiO2-Al2O3の組成あるいはSiO2-Al2O3-ZrO2の組成となっている(例えば、非特許文献7参照。)。
【0009】
一方、天然資源のシラスを原料に使用した、シラス-B2O3-Li2O-Na2O-CaO組成系において、ケイ酸含有量97.8%の多孔質ガラスが製造されているが(例えば、非特許文献6参照。)、ケイ酸含有量が98%を超える多孔質ガラスは製造されていない。また、高ケイ酸質組成の多孔質ガラスについては、これまでにケイ酸含有量が98〜99重量%の多孔質ガラスが製造されているが(例えば、非特許文献1、11参照。)、市販されてはいないし、99重量%を超すような多孔質ガラスは工業原料として市場にはない。
【0010】
他方、現在、火力発電などで放出された大気中の二酸化炭素等の温室効果ガスの濃度上昇に伴う地球温暖化の重要な環境問題があり、その対応策の一環として太陽電池発電が世界的に普及しはじめている。これまで、太陽電池は使用済みのシリコン半導体を再利用して製造されていたが、太陽電池用シリコンの需要が増加したことにより使用済み半導体から提供できるシリコン量では不足するようになって、原料のシリコンが世界的に逼迫している(例えば、非特許文献12参照。)。
【0011】
シリコンは、一般的にケイ石を炭素とともに1800℃程度の高温で溶融還元し、98%程度のシリコンとした後、ハロゲン化して分別蒸留するシーメンス法などにより一層純粋化されて多結晶シリコンとされる。この多結晶シリコンは冶金的方法で高純度に精製されて製造され、単結晶シリコンなどとして各種半導体や太陽電池に使用される(例えば、非特許文献13参照。)。世界的な需要の増加でシリコンの生産国から日本国内への入手が非常に困難となっている状況を踏まえ、国内の太陽電池製造企業ではシリコンを使わない化合物半導体での太陽電池製造も模索されている。しかし、地球規模で資源量が多く、かつエネルギー変換効率が優れるシリコン半導体を使用する太陽電池が将来にわたって世界的な主流であることには変わりは無い。従って、日本国も国内においてシリコンを自給できる体制を築くことが必須である。シリコン原料には一般的にケイ酸含有量の高い白ケイ石などが使用されるが、ケイ石は構造が緻密な固体構造のものが多く、硬くて、適当なサイズへの粉砕にコストがかかる。また粉砕物の炭素による還元溶融反応には高温と長時間を要している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第2,221,09号明細書
【特許文献2】米国特許第3,843,341号明細書
【特許文献3】特開2006−193341号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】“ガラスハンドブック”作花、境野、高橋 編 朝倉書店 (1975)、東京 p1036
【非特許文献2】http//www.chemistry.wust.edu/~gelb/cpg.html
【非特許文献3】VYCOR(登録商標)glass code 7930カタログ
【非特許文献4】R.Maddison & P.W.McMillan, Glass Technology, 21(1980) 297
【非特許文献5】中島忠夫、清水正高 セラミックス 21 (1986) 408
【非特許文献6】国府俊則、都城工業高等専門学校研究報告 第17号、(1982)p35−47
【非特許文献7】久木崎雅人、宮崎県工業技術センター 第1回工・農学連携を進める講演会用紙集 2005 p2〜3
【非特許文献8】http//www.chemistry.wust.edu/~gelb/cpg.html
【非特許文献9】SIGMA-ALDRICH社 Controlled Pore glassesカタログ
【非特許文献10】国府俊則、浅野真弘 都城工業高等専門学校研究報告 第18号、(1983)p23−29
【非特許文献11】T.H.Elmer &M.E.Norderburg,VIIth.Intern. Cong.Glass,(1965) Brussels
【非特許文献12】河本 洋、奥和田 久美、Science & Technology Trends January 2007 feature article 020
【非特許文献13】“シリコンLSIと化学” 伴 保隆 著 大日本図書 1993 東京
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来の技術に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、ケイ酸を99重量%超の含有量で含み、耐熱性が高く、隔膜あるいは分離膜等の用途において、含有する不純物による副反応を極力回避できる高純度ケイ酸質多孔質ガラスを提供することにある。
また、本発明の別の目的は、ケイ酸を99重量%超含む多孔質ガラスを製造できる高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法を提供することにある。
本発明の別の目的は、該高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用したシリコン原料、高純度シリカ光学材料やクオーツ発振子原料となる高純度シリカ原料、ガス分離膜、燃料電池材料、溶液濃縮方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、SiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-MgO組成系とSiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-CaO組成系の成分とを複合し、細孔径の制御範囲とケイ酸含有量を改良するため鋭意研究を推進し、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-Na2O-Li2Oの少なくとも7成分を主要なガラス組成とする母ガラス組成を選定した。なお、この母ガラス組成はSiO2-Al2O3源として天然資源のシラスを使用する場合、シラスの化学組成を考慮してその含有率1%未満の微量成分を除けば、ガラス組成としては、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-K2O-Na2O-Li2Oとなっている。そして、製品として得られる多孔質ガラスのケイ酸含有量を99重量%超に高めるとともに、2nm以下のマイクロポア領域、及び2nmから100nmの範囲のメソポア領域の細孔径を持つ多孔質ガラス成型物の提供を可能にした。
【0016】
前記課題を解決する手段は以下の通りである。
(1)ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超であることを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【0017】
(2)ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法であって、
SiO−Al−B−NaO組成系に、2種以上の2族元素成分とリチウム成分とを少なくとも混合して得られた原料組成物を加熱溶融して母ガラスを作製する第1工程と、
前記母ガラスに加熱処理を施して分相する第2工程と、
分相された母ガラスに対し酸処理を施しケイ酸以外の成分を溶出する第3工程と、
を含むことを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0018】
(3)前記第1工程の後、前記第2工程を経ることなく前記第3工程を実行することを特徴とする前記(2)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0019】
(4)前記2族元素成分として、マグネシウム成分と、カルシウム成分とを用いることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0020】
(5)前記2族元素成分として、さらに、バリウム成分を用いることを特徴とする前記(4)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0021】
(6)前記原料組成物に代え、SiO−Al−B−NaO−KO−CaO−ZrO組成系に、リチウム成分を少なくとも混合して得られた原料組成物を用いることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0022】
(7)前記原料組成物として、シラスに、ホウ素成分と、リチウム成分と、2種以上の2族元素成分とを少なくとも加えてなるガラス原料を用いることを特徴とする前記(2)又は(3)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0023】
(8)前記ガラス原料にさらにナトリウム成分を加えることを特徴とする前記(7)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0024】
(9)前記原料組成物に、さらに、遷移金属元素成分を加えることを特徴とする前記(2)〜(8)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【0025】
(10)前記(2)〜(9)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法により製造されてなることを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【0026】
(11)細孔径が実質的に2nm以下であるマイクロポアを有することを特徴とする前記(10)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【0027】
(12)細孔径が2〜100nmの領域にあるメソポアを有することを特徴とする前記(10)に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【0028】
(13)前記(10)〜(12)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなるシリコン原料。
【0029】
(14)前記(10)〜(12)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる高純度シリカ原料。
【0030】
(15)前記(10)〜(12)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなるガス分離膜。
【0031】
(16)前記(10)〜(12)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる燃料電池材料。
【0032】
(17)前記(10)〜(12)のいずれかに記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる溶液濃縮方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、ケイ酸を99重量%超の含有量で含み、耐熱性が高く、隔膜あるいは分離膜等の用途において、不純物による副反応を極力回避できる高純度ケイ酸質多孔質ガラスを提供することができる。
また、本発明によれば、ケイ酸を99重量%超含む多孔質ガラスを製造できる高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法を提供することができる。
さらに、同時に、細孔径が2nm以下のマイクロポアの細孔を持つマイクロポア多孔質ガラス、および2nm〜100nmのメソポア細孔の範囲内で任意の細孔分布に調節された細孔径を持つメソポア多孔質ガラスを提供することができる。
さらに、本発明によれば、不純物を含む天然のケイ酸原料や無尽蔵に存するシラスから太陽電池用の多結晶シリコン製造用の原料として利用できる高純度ケイ酸質多孔質ガラスが提供され、高純度シリカ系光学材料やクオーツ発振子の合成原料などとなる高純度シリカ原料としても利用可能な材料が提供される。
さらに、本発明によれば、マイクロポアおよびメソポアなどのナノサイズの細孔径を持つ多孔質ガラスにおいては、燃料電池用の燃料電池電極および電解質隔膜などの燃料電池材料、燃料電池用の燃料ガスの改質分離膜(ガス分離膜)、気体状分子(ガス)の分離濃縮、アルコールの濃縮、大気中の超微細物質の分離隔壁などへ効果的に利用される。
一方、原料に混合されるリチウムと溶融性の良いシラスを原料に使用することの相乗効果により、1400℃以下でのガラス溶融が可能となり、工業的に低コストで多孔質ガラスが提供される。加えて原料の枯渇を懸念する必要もまずなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造工程における第1工程から第3工程に至る過程を示す概念図である。
【図2】実施例6において製造した多孔質ガラスの水銀圧入法で測定した細孔分布をグラフで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の実施形態は以下に述べる通りであるが、必ずしもこれに限定されるものではない。多くの処理方法については、多孔質ガラス製造に用いられる汎用の方法および条件が利用できる。
【0036】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法は、ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法であって、SiO−Al−B−NaO組成系に、2種以上の2族元素成分とリチウム成分とを少なくとも混合して得られた原料組成物を加熱溶融して母ガラスを作製する第1工程と、前記母ガラスに加熱処理を施して分相する第2工程と、分相された母ガラスに対し酸処理を施しケイ酸以外の成分を溶出する第3工程と、を含むことを特徴としている。
また、本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、上記本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法により製造されてなる高純度ケイ酸質多孔質ガラスである。すなわち、ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスである。
【0037】
本発明は、特定組成の原料ガラスを用いて、超高純度のケイ酸質多孔質ガラスを得る。さらに所定の条件を設定することで、例えば2nm以下のマイクロポア領域や、2〜100nmのメソポア領域の細孔を有する、99重量%超のケイ酸含有高純度多孔質ガラスを得ることができる。これらの高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、(1)ケイ酸含有量が99重量%超であること、(2)100nm以下のメソポア領域の細孔径の細孔分布が調節できること、(3)40〜60%程度の大きな細孔容積(ポロシティ)を有すること、(4)出発原料の溶融温度が低く、工業的に低コストで製造できること、(5)本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを用いて得られる製品は耐熱性に優れること、等の優れた特性を有し、当該分野で大いに望まれていた原料素材である。
【0038】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスについて、4nm以上の細孔の細孔径分布と細孔容積(ポロシティー)はポロシメーターによる水銀圧入法で測定して得られる。また、比表面積および4nm以下の細孔分布はチッ素吸着法による比表面積測定装置を使用して得られる。
【0039】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、既存の多孔質ガラスの原料組成物として用いられているSiO2-Al2O3-B2O3-Na2O組成系に、少なくとも2種の2族元素の成分と、アルカリ金属成分たるリチウム成分とを加えてなる原料組成物を出発原料として用いることによって製造される。
なお、以下において、「成分」とは、例えば、「リチウム成分」の場合、リチウム酸化物や炭酸リチウムなどを含む概念であり、他の元素の場合も同様である。
【0040】
前記2族元素の成分としては、マグネシウム成分、カルシウム成分、バリウム成分が好適に用いられ、特に、2種用いる場合には、マグネシウム成分及びカルシウム成分が好ましく、3種用いる場合には、カルシウム成分、マグネシウム成分に加え、バリウム成分を用いることが好ましい。これらの場合の組成は、前者は、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-Li2O-Na2O組成系であり、後者は、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-BaO-Li2O-Na2O組成系である。
また、前記原料組成物としては、シラスに、ホウ素成分と、リチウム成分と、必要に応じてナトリウム成分と、2種以上の2族元素成分とを少なくとも加えてなるガラス原料を用いることができる。つまり、シラスは例えば後記表4に示すような成分組成であるが、当該組成に、欠落成分であるホウ素成分とリチウム成分とを加え、さらに不足成分であるナトリウム成分と2族元素成分とを補足添加することで、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-Li2O-MgO-CaO組成系とすることができる。なお、シラスの産地によってはナトリウム成分が十分に含まれている場合があり、その場合はナトリウム成分の補足添加は不要である。
【0041】
また、前記原料組成物に代え、SiO2-Al2O3-B2O3-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系に、リチウム成分を少なくとも混合して得られた原料組成物を用いることも好ましい。この場合の組成は、SiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-K2O-CaO-ZrO2組成系である。
【0042】
これらの多孔質ガラス成分(原料組成物)を用いて、一般的な多孔質ガラス製造の工程と同様に、溶融した原料ガラスを2次熱処理による分相とそれに引き続く酸溶出処理の工程を経ることで、99重量%超のケイ酸含有量で、実質的に2nm以下のマイクロポア領域の細孔径を持つ超高純度の多孔質ガラス、あるいは2〜100nmのメソポア領域の細孔径を持ち、同様のケイ酸含有率を有する超高純度の多孔質ガラスを得ることができる。
【0043】
さらに、具体例を一例挙げると、過去に研究されたシラスを用いた上記のSiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-MgO組成系、及びSiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-CaO組成系の組成系において、各々の組成には含まれなかった成分のMgO、及びCaOをLi2Oと複合して加える。そして、化学組成的にはSiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-K2O-Na2O-Li2O-Fe2O3となるような組成系の母ガラスを選定し、製品として得られる多孔質ガラスのケイ酸含有量を99重量%超に高めるとともに、実質的に2nm以下のマイクロポア領域、及び2〜100nmの範囲のメソポア領域の細孔径を持つことを特徴とする多孔質ガラス成型物の提供を可能にする。すなわち、本発明ではケイ酸含有量が99重量%を超える高純度ケイ酸質多孔質ガラスの成型体を市場に提供することを可能にする。
本発明で提供される99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは光学材料、クオーツ発振子およびシリコン半導体などの原料としても有効に利用できる。
【0044】
本発明の多孔質ガラスにおいては、原料ガラス組成として、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-Li2O-Na2O組成系よりなる7成分のガラス組成系にKO、他の2族元素の酸化物、及び金属元素酸化物などを加えた8成分以上のガラス組成系としてもよい。また、本発明は、火山噴出物性の土壌(我が国では南九州等に無尽蔵に分布する火山灰土壌「シラス」)を原料に使用することを可能とするという意味でも画期的な発明である。勿論、SiOを主体とし、種々の元素を含有する天然のケイ酸含有資源もシラス同様に利用できる。特に、シラスを原料に使用した、例えば、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-K2O-Na2O-Li2O-Fe2O3組成系となる原料混合物は、火山性ガラス質を含むことで溶融性の良好なシラスの特徴と酸化リチウムの溶融促進効果とが相乗するためかまだその機構は明らかではないが、ガラス原料の溶融温度および粘性が著しく低下するという特徴を持つので、本発明を実施するためには、工業的な意味で優れて好ましいガラス原料となる。すなわち、通常の多孔質ガラス製造用の原料組成系の溶融温度が1400℃以上の高温を要するのに比べ、より低温の1300℃以下の温度で溶融される。従って、工業的に低コストの多孔質ガラス製造方法が提供できるとともに、1300℃で低粘性の溶融物となることを利用して溶融物をノズルから噴出し、スプレーして冷却する方法等により容易に球形微粒子のガラスを提供する等、生産工程の選択肢を広げることも可能にする。
【0045】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、上述のように、細孔径として実質的に2nm以下のマイクロポア領域の細孔径を持つもの、あるいは2〜100nmのメソポア領域の細孔径を持つものを製造可能である。ここで、「実質的に2nm以下」において「実質的に」とは、分相したガラスの酸溶出処理により鉄分の着色を伴ってガラス中の酸可溶性成分が溶出除去されて高純度ケイ酸質多孔質ガラスが得られるのであるが、一般的に行なわれるチッ素吸着による細孔分布測定法および水銀圧入による細孔分布測定法によっては、2nm以上の細孔の存在が確認されない。従って、存在する細孔径は2nm以下であり、上記の測定法では測定できない領域であるところの0.5nm以下の細孔径も含む細孔分布となっていることを意味する。
【0046】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは管状等に製作可能であり、例えば上質の高純度ケイ酸ガラスとして知られるVYCOR(登録商標) Brand Porous Glass7930よりも大きな細孔容積である40〜60%を持ち、特に高ケイ酸質であることの材料特性に基づいて耐熱性に優れている。VYCOR(登録商標)Brand Porous Glass7930の最高使用温度が600℃であるのに比べて、本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、1000℃で12時間の保持後においても50%の細孔容積を持ち、高温においてその大きな細孔容積を維持できることも特徴とする。
【0047】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、その多孔質構造により固体内部のSiO2についても固体外側に露出したSiO2とほぼ同じように還元反応を受け、効率的に還元反応が進行しやすい。また、フッ酸の溶液に短時間で容易に溶解するので、SiF4を形成させてから純粋化あるいは還元を行う工程を実施することも可能と考えられる。さらに、本発明で提供される高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、二酸化ケイ素(SiO2)の沸点が化学便覧に2950℃とされているのに対し、現時点でその沸点あるいは昇華温度は正確には測定されてはいないが、2000℃付近の温度で昇華した場合もあるので、例えば、高純度ケイ酸質多孔質ガラスを粉体あるいはゾル状で高温のプラズマ炎中に導入し、その高温で昇華させ、昇華と同時あるいはその後に還元するという新規なシリコン製造工程を実施することも可能と考えられる。
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは上述のシリコンの原料のほかに高純度シリカ系光学材料やクオーツ発振子の合成原料などの高純度シリカ原料としても利用することが可能である。高純度シリカは、原料をフッ化水素酸に溶解するなどの方法で製造したケイ素のフッ化物を経由する方法(米国特許第1,859,988号明細書、米国特許第1,959,749号明細書)および、ケイ素をフッ化アンモニウムと反応させて珪フッ化アンモニウムを経由する方法などで製造されている(ヨーロッパ特許第337,712号明細書、特開平3-218914号公報)。本発明では天然資源のシラスを原料にして、特許公開平3-218914の珪フッ化アンモニウムを経由する方法において、アルミナを高い含有率で含むような原料を処理して得られた高純度シリカと比べ、それと同等以上の高純度でシラス由来の高純度シリカを提供できる。
【0048】
多孔質ガラスの用途は分離膜や触媒担体など多岐に亘っているが、耐熱性が高く、ナノポアやメソポア領域の細孔を持つ本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、シリコン原料、ガス分離膜、燃料電池用電極隔膜および電極、気体状分子(ガス)の分離濃縮、アルコールの濃縮、大気中の超微細物質の分離隔壁などへ効果的に利用される。ガス分離膜としては、本発明が細孔径が2nm以下のマイクロポア領域の細孔径範囲で制御し得るナノサイズの精密技術によるものであることに加え、特にその耐熱性が有効に作用して、燃料電池用の改質燃料ガスの製造および改質ガス成分からの水素ガスの分離、あるいは種々の混合ガスから特定ガス成分を分離する分離膜として利用される。燃料電池材料としては、特開2007-184201号公報に開示されているように、高純度ケイ酸質多孔質ガラスの絶縁性と、多孔質ガラスの内部細孔表面を化学修飾することで導入されたプロトン伝導性とを組み合わせ、更にアノード触媒電極とカソード触媒電極を金属蒸着法やメッキ法でプロトン伝導性の多孔質ガラス表面に形成し、これらで構成される形式の燃料電池に利用される。この場合、本発明の多孔質ガラスが持つ50%程度の大きな細孔容積がプロトン移動に有効に作用する。また、その耐熱性は燃料電池の耐久性を向上させるほか、表面を金属酸化物等でコートして高温作動タイプの燃料電池の隔膜として利用し得る。
【0049】
また、メソポアの多孔質ガラスはその細孔に閉じ込められた超臨界流体が特殊な挙動を示すことが測定されており、今後さらに特殊な利用用途が出現する可能性を持つ。一方、50nmから数μmの細孔径の多孔質ガラスは均一な液滴粒子径を持つエマルジョンの製造や、各種気体のナノバブル製造に利用され、酸素富化水の製造や殺菌用オゾン水製造などに有効に利用され得る。
他方、本発明によると、天然資源のシラスからケイ酸含有量が99重量%を超える高純度ケイ酸質多孔質ガラスが提供されるので、本発明は多孔質ガラスを提供する目的のほかに、無尽蔵の不純物を含むケイ酸含有の天然資源からシリコン半導体の出発原料となる高純度シリカ(ケイ酸)を製造する方法としても優れている。
【0050】
以下、本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法における各工程について説明する。
【0051】
[第1工程(出発原料と熱溶融処理)]
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法における第1工程は、既述のようにガラス原料を混合して得られた原料組成物を高温で溶融し、その後冷却してガラス化し、多孔質ガラスの母ガラスを製造する工程である。ガラス原料混合物を容器中に入れ、1200℃〜1400℃の温度に1〜数時間加熱保持して溶融し、所定の加熱時間の後に冷却して母ガラスが製造される。冷却の方法は多種多様であるが、例えば、溶融物を水中にゆっくり投入してガラスカレットとする方法、溶融物を500〜600℃の定温の空間にスプレー噴霧して冷却し粉体ガラスを製造する方法、管状に成形しながら空冷する方法などがある。
【0052】
母ガラスの組成は基本的にはSiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-Na2O-Li2Oの7成分組成系であるが、天然物を原料に用いる場合には、さらにカリウム成分や遷移金属類成分などもその組成系に組み込まれ、また、溶融性調節のために必要に応じてバリウム成分を加えることもできる。
ケイ酸(SiO)源としては、SiOの単体あるいはケイ素の化合物、ケイ砂、ケ イ石、珪藻土、廃ガラス、および、シラスや長石などのケイ酸を含有する天然物を利用することもできる。
アルミニウム源としては、アルミナや水酸化アルミニウムが利用可能であるが、原料にシラスなどの天然物を使用する場合にはその天然物原料からガラス中に加わる。
ホウ素源としては酸化ホウ素、ホウ酸などのホウ素の化合物を使用する。Mg、Caなどの2族元素についてはそれぞれの酸化物あるいは炭酸塩などの化合物が使用できる。NaO、KOおよびLiOなどのアルカリ金属酸化物については一般的には炭酸塩を使用するが、他のアルカリ金属化合物も使用できる。
【0053】
本発明において、ガラス原料を混合して得られる原料組成物の組成比は、例えば、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-Li2O-Na2O組成系の場合、SiO2が42.0〜50.0重量%、Al2O3が6.5〜8.5重量% B2O3が22.0〜30.0重量%、MgOが4.0〜6.5重量%、CaOが4.0〜6.5重量%、Li2Oが0.2〜3.5重量%、Na2Oが1.5〜3.5重量%が好ましく、SiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-BaO-Li2O-Na2O組成系の場合、SiO2が42.0〜50.0重量%、Al2O3が6.5〜8.5重量% B2O3が22.0〜30.0重量%、MgOが4.0〜6.5重量%、CaOが4.0〜6.5重量%、BaOが0.5〜1.5重量%、Li2Oが0.2〜3.5重量%、Na2Oが1.5〜3.5重量%が好ましく、SiO2-Al2O3-B2O3-Li2O-Na2O-K2O-MgO-CaO-ZrO2組成系の場合、SiO2が42.0〜50.0重量%、Al2O3が6.5〜8.5重量% B2O3が22.0〜30.0重量%、MgOが4.0〜6.5重量%、CaOが4.0〜6.5重量%、Li2Oが0.2〜3.5重量%、Na2Oが1.5〜3.5重量%、K2O が1.0〜2.0重量%、ZrO2が0.5〜1.5重量%が好ましい。
【0054】
一方、既述したように、従来は、シラスのような天然資源を原料に使用する場合には原料の化学組成のばらつきなどから発生する種々の問題があったが、本発明において、シラスを原料に使用したSiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-K2O-Na2O-Li2O-Fe2O3の組成系においては、原料組成から入る鉄分が細孔径に大きな影響を与えることがなく、むしろ、後述するように、分相ガラスの酸溶出工程の進行状況を把握管理するために有効に利用される。
【0055】
[第2工程(2次熱処理)]
高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造における第2工程は、一般的には、母ガラス中の成分の相分離(分相)を引き起こす2次熱処理の工程であり、本工程は後述するように省略することもできる。高温での溶融状態では組成的に均一な混和状態となっており、その状態から急冷却されてガラス化されるので、母ガラスは、一般的には、ガラス全体に渡って均一の構造を持った相分離の無い均質ガラスとして得られる。均質な構造を持つ母ガラスをそのガラスのガラス転移点より少し高温の温度下に置くと、ガラス内部において自発的な成分の移動が起こり、SiOを主とする部分とそれ以外の成分で構成されている部分の2相に分かれる。このような現象は相分離あるいは分相と呼ばれる。多孔質ガラスを製造できる場合の分相構造は、SiOを主とする部分とそれ以外の成分との2相がスピノーダル構造と言われる微細で複雑な絡み合い状態の構造となっている。スピノーダル構造に分相したガラスは後述する酸溶出処理(第3工程)によって、SiOを主とする酸に溶けない部分を多孔質骨格として残しながらそれ以外の部分が溶出除去される。分相構造は2次熱処理温度がガラス転移点の温度より高温側で高ければ高いほど、また保持時間が長ければ長いほど発達し、酸溶出処理後において分相構造の発達に比例して大きな細孔径を与えることが知られている。
【0056】
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造工程において、第2工程(2次熱処理)を省くことができる。つまり、第1工程の後、第2工程を経ることなく第3工程を実行することで本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスが得られる。すなわち、本発明においては、ガラス転移点付近の温度で一定時間の加熱処理を行わなくても高純度ケイ酸質多孔質ガラスを製造することができ、このことは極めて高い工業的な利点である。
例えば、溶融温度から水中に投入することで急冷却して製造した母ガラスについて、2次熱処理を行わずに酸溶出処理を行うことによって、2nm以下のミクロポアを持つ高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造できる。このことは、水中に投入する急冷過程において既に母ガラスの分相が起こっていることを示唆する。本発明に係る母ガラス溶融物の粘性は、一般的な多孔質ガラスの母ガラスの溶融物の粘性と比べるとかなり低く流動性に富んでいる。この低粘性に基づいてガラス中の成分の移動がより容易に起こることが、急冷過程において微細な分相構造を形成する原因となっているものと考えられるが、定かではない。この場合の多孔質ガラスは、酸溶出処理前に含まれていたガラス中の鉄分が溶出されているとともに、99重量%超のケイ酸質組成となっているので、可溶性成分の溶出痕としての微細細孔を有することは明白である。
【0057】
以上のような原理で母ガラスの分相が起こるので、一般的には、2次熱処理の温度と加熱時間を調節することで細孔径の制御を行うことができるが、過度の高温での2次熱処理は酸溶出が不可能な液滴構造の分相を生じたり、成分の結晶化を生じたりして多孔質ガラス製造に不適となる。
具体的には、細孔径の制御は、一般的な多孔質ガラスと同様に、相分離を起こすための熱処理の温度と保持時間とを規定することにより行うことができる。本発明に係る原料組成系のガラスのガラス転移点は500℃〜550℃付近にあり、500℃以上の温度(例えば、570℃)で一定時間(例えば、1〜12時間)等温加熱することによって、特に、2nmから100nmのメソポア領域において、特定の細孔径範囲にシャープな細孔分布を持つ高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造される。メソポア領域の細孔を持つ多孔質ガラスは「VYCOL(登録商標),米国コーニング社」多孔質ガラスでは実現されているとはいえ一般的には製造が非常に困難な技術領域にある。
一方、2nm以下のマイクロポア領域にシャープな細孔分布を持つ高純度ケイ酸質多孔質ガラスは、1300℃〜1400℃の原料溶融物を、例えば、500℃〜550℃付近に温度制御された空間に噴出し、一定時間(例えば、1秒〜数時間)で当該定温空間を通過させる方法でガラス化し、そのガラスについて直接酸溶出処理を実行することにより細孔径をコントロールして製造される。
【0058】
また、本発明では、粉体の多孔質ガラスを製造する場合において、母ガラス溶融物が低粘性であることにより、溶融物をスプレー噴霧する方法で冷却して粉体母ガラスを製造する方法が実施可能である。シリコンの原材料などとして高ケイ酸質の多孔質ガラスを製造する場合には、粒子径が小さいほど酸溶出処理が早く終了するので、工業的に有利である。
しかし、マイクロポアやメソポア領域の細孔径の精密な制御を行うためにはガラス転移点よりやや高い温度で一定時間の定温保持を行う方が適切である。
【0059】
[第3工程(酸溶出処理)]
本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法の第3工程は酸溶出処理の工程である。酸溶出には一般的には水で希釈した鉱酸を使用し、例えば、0.5〜1.0モル/Lの塩酸水溶液中に2次熱処理が終了した母ガラスを浸漬し、処理溶液を攪拌するかあるいは液を流動させて可溶性の部分を完全に溶出除去する。つまり、相分離したガラスを鉱酸の溶液に浸漬して酸可溶性部分を溶解すると、ケイ酸以外のAl、B、MgO、CaO、KO、NaO、LiO、及び遷移金属元素酸化物などの各成分はほぼ完全に溶解除去されてケイ酸骨格が残り、SiOの含有量が99重量%超に高められた高純度ケイ酸質多孔質ガラスが得られる。
【0060】
第3工程において、母ガラスに酸を接触させる方法としては、上述の母ガラスを酸溶液に浸漬する方法の他、例えば、母ガラスに酸溶液を吹き付ける方法、又は母ガラスに酸溶液を塗布する方法等が挙げられ、特に、酸溶液に浸漬する方法が好ましい。
【0061】
使用する鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、あるいはこれらを混合した混酸を好適に使用することができ、その濃度は、例えば、0.2〜1.0モル/Lとすることができる。
【0062】
酸溶出処理工程における本発明の特徴は、不純物として原料中に存在する遷移金属元素類あるいはガラス原料中に意図的に加えられる遷移金属元素類が母ガラスおよび相分離後のガラスに遷移金属特有の着色を与えるが、それらは酸溶出処理において溶出除去されるので、着色の有無を観察することで酸溶出処理の進行状況を視覚的に確認できる効果を持つことである。例えば、母ガラス中に遷移金属類として鉄などが含まれていると酸溶出処理中の溶出液が黄色に着色するので酸溶出の終了時点が把握できる。すなわち、酸溶出溶液を新しく取り替えて溶出処理を行う場合において、残留しているガラス質が無色あるいは純白であり、溶出処理中の溶液に着色が認められなければ酸可溶性の成分はほぼ完全に溶出されていると判断される。その他、例えばシラスを原料に用いた場合、シラス中に含まれていた鉄分が母ガラスに薄い緑色の着色を与え、相分離後のガラスから溶出される際に鉄イオンに起因する黄色の着色を溶出液に与える。多孔質ガラスから酸可溶の成分が溶出除去されている場合、酸溶出液は無色となり、生成する多孔質ガラスも無色あるいは純白色となるので、酸溶出処理の進行状況を視覚的に明確に把握できる。このように、ガラス原料に微量存在する遷移金属元素類は母ガラスおよび相分離後のガラスに着色を与え、程度が酸溶出処理の進行状況を効果的に示すという特徴を有する。
【0063】
また、一般的に、数nm以下の非常に小さな細孔径を持つ多孔質ガラスは成型物の酸処理工程においてひび割れを生じることが多く、製品化において大きな困難性を与えるが、本発明に係る組成では、酸溶出処理工程において溶出痕である細孔内に生成するゲル質が一般的な多孔質ガラスの場合より減少しているため、酸処理工程後の乾燥時などにひび割れを生じることが少なく、効率よく成型物の製品を得ることができる。これは多孔質ガラスを色々な成形体に加工しようとするとき、有用な機能の一つとなる。なお、高温の熱処理を行うことで細孔壁に生成しているシラノール基(Si−OH基)の脱水縮合反応を行わせて、耐水性や耐アルカリ性、および機械的強度を一層向上させることができる。
【0064】
一般的な多孔質ガラスの製造工程ではこの第3工程に引き続いて、細孔中に精製したゲルを溶解して除くアルカリ処理が行われる。例えば、SiO2-B2O3-Na2OやSiO2-Al2O3-B2O3-Na2Oの組成系から製造される多孔質ガラスは酸溶出処理後の細孔内部にコロイド状のケイ酸を生成しており、アルカリ処理でこの部分を除去しなければならないことが多い。酸で除去された内部細孔にこのようなコロイド状ケイ酸を有するので、これらの組成系から製造される多孔質ガラスは耐水性や耐アルカリ性に欠けるのが一般的である。この問題点は上述したZrOを加えた組成系とすることで解決されるが、本発明で製造される高純度ケイ酸質多孔質ガラスでは、細孔内部にコロイド状のケイ酸の堆積は少ないため、堆積したコロイドの除去のためのアルカリ処理工程を必要とせずに加熱処理するだけで十分な耐水性と強度を有する多孔質ガラスが得られる。このことは処理工程を減らせるという意味において画期的である。なお、コロイド状のケイ酸の堆積が少ない理由については、これまでの母ガラスには使用されていないリチウムの効果があるものと推定されるが、これらの考えに捉われるものではない。
【0065】
以上のように、本発明の多孔質ガラスは必ずしもアルカリ処理を行う必要はなく、高温熱処理を行うことで、特定の範囲だけに細孔径分布を示す多孔質ガラスが得られる。もちろん、所望によりアルカリ処理を採用しても構わないが、工業的にはアルカリ処理を加えずに次工程に進める方が利点が多い。
【0066】
以上、第1工程から第3工程に至る本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造工程の概念図を図1に示す。
【0067】
<溶液濃縮方法>
本発明の溶液濃縮方法は、既述の本発明の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなることを特徴としている。
例えば、2nm以下のマイクロポア領域の細孔を持つ多孔質ガラスにエチル基(CH3CH2-)あるいはメチル基(CH-)等を導入して表面を改質する。これをカラム等に充填し、例えばアルコールを含む溶液を通過させて多孔質ガラス中にアルコールを保持させる。次いでその充填物をアルコールの沸点以上の温度に加熱して蒸留することによりアルコールを濃縮回収する。この方法はアルコールを含む発酵溶液等を直接単蒸留した後さらに高濃度に精留する方法と比較して低コストの回収法となる。
【実施例】
【0068】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0069】
[実施例1〜2]
〜純粋原料組成系での実施例〜
化学試薬を原料に使用した純粋原料組成系において、ケイ酸含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを製造できた実施例1及び2の7成分系組成を表1に示し、各実施例の原料に対し2次加熱(分相熱処理)及び酸溶出処理を行って製造した多孔質ガラスの化学組成(酸化物組成)を表2に示す。なお、2次加熱は、575℃で12時間行った。また、酸溶出処理においては、酸として、1.0モル/Lの塩酸水溶液を使用し、その酸の中に2時間撹拌浸漬した。
なお、製造される多孔質ガラスのケイ酸含有量は分相条件(2次熱処理の温度と時間)により変動し、同じ原料組成から多孔質ガラスを製造したとしても母ガラスの分相が進むとそのケイ酸の含有量は低下する傾向にあった。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
[比較例1〜4]
<純粋原料組成系での比較例>
次に、ケイ酸含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを製造できなかった組成例を表3に示す。 表3に示した組成は、比較例1と2については実施例1と2に類似した組成からそれぞれ酸化リチウムを除いた組成であり、比較例3はバイコール(登録商標)多孔質ガラスの母ガラスに類似した組成、比較例4はE-glass と呼ばれる5成分系の組成(( R.Maddison & P.W.McMillan, Glass Technology, 21(1980) 297)に類似した組成である。これらの組成の母ガラスについては、従来の一般的な製造工程により多孔質ガラスを製造することが可能であったが、ケイ酸含有量99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスについては製造できなかった。
【0073】
【表3】

【0074】
以上の実施例1〜2、及び比較例1〜2より、ケイ酸含有量99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを得るに当たり、原料ガラス組成中の酸化リチウムは必須成分であることが分かる。
【0075】
[実施例3〜6]
<シラスを原料に使用した実施例>
次に、シラスを原料に使用した実施例について説明する。南九州に分布するシラスの化学組成は産地によりかなり変動することが黒岩忠春氏の調査報告(日本鉱業会誌、91, 1052 (1975))にまとめられている。従って、シラスをガラス原料に使用する場合には、あらかじめ蛍光X線分析等によりその組成分析を行い、含有される物質(酸化物)の重量%、あるいはmol%を明らかにして使用することが必要である。使用する原料の化学分析を行いあらかじめその組成を把握することにより、シラスに限定されず、種々のケイ酸含有の天然の素材を本発明に利用することが可能である。原料に用いる一つの天然素材において不足している化学成分については、他の素材あるいは化学試薬で補足すればよい。本発明で使用したシラスの化学組成について重量%を表4に示す。
なお、シラスの化学組成の分析は蛍光X線法によりケイ酸、アルミニウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどの含有量を測定した。
【0076】
【表4】

【0077】
このシラスを使用して本発明の99重量%超のケイ酸を含有する高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造された実施例3〜6の原料組成を表5に示し、シラス中の各種化学成分を考慮して算出した原料組成物中に含まれる酸化物のmol%による化学組成を表6に示す。シラスを原料に使用する組成系ではSiO2-Al2O3-B2O3-MgO-CaO-K2O-Na2O-Li2Oの8成分組成系に遷移金属の酸化鉄が加わった9成分の母ガラスとなっている。つまり、シラスに含まれていなかった、リチウム成分と、ホウ素成分を試薬を用いて加え、シラスに含まれる成分量だけでは量的に不足するナトリウム成分、マグネシウム成分、カルシウム成分についてはそれらの炭酸塩などの試薬を用いて補充した。実施例3及び4の組成からは、高温の溶融物を水中にゆっくり流し込んで冷却して製造した母ガラスの水砕カレットについて、それぞれ2次熱処理を行わずに、1.0モル/Lの塩酸水溶液を使用して直接酸溶出処理することで、99重量%超のケイ酸を含有する高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造された。
実施例5及び6においては、それぞれの母ガラスのガラス転移点は515℃〜540℃付近にあり、それらのガラス転移点より少し高温側、例えば540℃〜570℃の範囲内の温度で12時間程度の2次熱処理を行って製造し、ケイ酸含有量が99重量%超となった高純度ケイ酸質多孔質ガラスが得られた。
【0078】
【表5】

【0079】
【表6】

【0080】
これらの実施例3〜6の組成から製造された多孔質ガラスの化学分析の結果を表7に示す。なお、化学組成の分析は蛍光X線法によりケイ酸、アルミニウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどの含有量を測定し、ホウ素とリチウムについては多孔質ガラスをフッ酸に溶解後希釈してICP(発光分光分析)により測定した。なお、アルミニウム、鉄、カルシウム、マグネシウム、ナトリウムなどの含有量についてはICPによっても確認した。
表7中に示した実施例3と4については2次熱処理を行わない工程で製造した多孔質ガラスである。これらの多孔質ガラスはチッ素吸着法による細孔分布の測定により2nm以下の非常に微細な分相構造を発達させていることが分かるので、この超微細構造の中から酸に可溶の成分がほぼ完全に溶かし出されることによりケイ酸含有量が99.9重量%以上に高められた高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造されるものと考えられる。
一方、2次熱処理を行って製造した実施例5及び6の多孔質ガラスの場合には、熱処理の温度が高くなるにつれてホウ素やアルミニウムの残存量が増加する傾向が認められたが、表7中に示したように、実施例5の組成で550℃―12時間の2次熱処理、実施例6の組成で560℃―12時間の2次熱処理をそれぞれ行って製造した多孔質ガラスはケイ酸含有量は99.5%を上回っていた。また、いくつかの原料組成では600℃―12時間の2次熱処理を行って製造した多孔質ガラスについてもケイ酸含有量が99.0重量%超の化学組成であった。
【0081】
【表7】

【0082】
[比較例5〜8]
<シラスを原料に使用した比較例>
次に、シラスを使用した原料組成で、本発明の99重量%超のケイ酸を含有する高純度ケイ酸質多孔質ガラスが製造されなかった比較例5〜8を表8に示す。比較例5〜7は国府、浅野により、都城工業高等専門学校研究報告 第18号、(1983)p23−29に記載されている組成に類似させた原料組成である。これらの原料組成において、比較例5では、酸化リチウムが含まれておらず、比較例6〜8は酸化ナトリウムが含まれていない。また、比較例5〜7では、2族元素が1種のみしか含まれていない。これらの組成から製造した母ガラスについて、同研究報告と同じ条件の2次熱処理を行って多孔質ガラスを製造した。同研究報告によると、比較例5に対応する例については690℃-12時間、比較例6に対応する例については720℃-12時間、比較例7に対応する例は600℃-40時間でそれぞれ2次熱処理(分相処理)が行われており、比較例5〜7についてはそれらと同じ条件で2次熱処理を行った。また、比較例8については実施例6に比べるとシラスの使用量が0.9%多いだけの類似組成であるが、600℃-12時間の2次熱処理を行った。次いで、それぞれ1.0モル/Lの塩酸水溶液を使用して酸溶出処理を行った。
これら比較例5〜8の組成から上述した条件の2次熱処理を行って製造した多孔質ガラスはいずれもそのケイ酸含有量は99%未満であった。なお、高ケイ酸質多孔質ガラスを製造するためには、酸溶出処理後の洗浄も重要な条件である。ここで示した高純度ケイ酸質多孔質ガラスを製造できなかった組成例においては、高純度ケイ酸質多孔質ガラスを製造できた組成例の場合よりも多くの回数の洗浄操作を行って最終的な多孔質ガラスを得ている。
【0083】
以上の比較例5〜7は、原料ガラス組成に、酸化リチウム、酸化ナトリウム、及び2種の2属元素のうち、少なくともいずれか1種が含まれておらず、ケイ酸含有量99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを得るに当たり、原料ガラス組成中に、酸化リチウム、酸化ナトリウム、及び2種の2属元素をすべて含有させることが重要であることが分かる。
【0084】
【表8】

【0085】
<高純度ケイ酸質多孔質ガラスの細孔構造>
次に、各実施例で製造した多孔質ガラスの細孔構造の測定結果を表9に示す。比表面積については島津―マイクロメリティクス社製のアサップ2000型細孔測定装置を使用してチッ素吸着法により測定し、同装置によりメソポア領域とマイクロポア領域それぞれの細孔分布も評価した。
水銀圧入法によるポロシティ(細孔容積)と細孔分布は島津―マイクロメリティクス社製オートポアIV 9520型で測定した。
比表面積は2次熱処理を行うことなく製造した多孔質ガラスにおいて500〜650m/gの大きな値を示した。この場合の平均細孔径は2nm以下のマイクロポア領域の細孔径分布が主であった。また、これらの多孔質ガラスのケイ酸の高純度や鉄分の除去状況を考えると、測定に使用される窒素分子が侵入できないような0.5nm以下の細孔も存在するものと推定される。一方、2次熱処理を行って製造した多孔質ガラスは、母ガラスの組成および2次熱処理の温度によって分相の進行状態が異なるので、比表面積や細孔分布は母ガラス組成や2次熱処理の条件により変化した。表9に示した実施例では比表面積が50〜350m/gの多孔質ガラスが得られているが、本発明で製造される多孔質ガラスの比表面積の範囲はこの範囲に限定されるものではない。水銀圧入で測定される範囲の細孔分布は一般的に最小径4nmが測定限界とされている。本発明の実施例においては細孔分布のメディアン径が4nm〜115nmの間の値の多孔質ガラスが製造されているので、一般的には4nmから50nmとされるメソポア領域の細孔径を持った多孔質ガラスが製造できることが分かる。
【0086】
【表9】

【0087】
<細孔径の制御>
次に特に実施例6の母ガラスについて、540℃、560℃、580℃、600℃の各温度でそれぞれ12時間保持の2次熱処理を行って製造した多孔質ガラスの水銀圧入法で測定した細孔分布を図2に示す。図2に示した結果は、1つの母ガラス組成から出発し、2次熱処理の温度と時間を調節することによって、細孔径分布が5〜100nmの範囲内の特定のメディアン径付近でかなり精密に制御された多孔質ガラスが提供できることを示す。この実施例6の組成からは管状に成型した多孔質ガラスを得ることが可能であった。したがって、本発明の多孔質ガラスにおいては、メソポアの領域において、特定の細孔分布範囲あるいは特定のメディアン値を有する多孔質ガラスが、必要に応じて成形品として提供できというこれまでにない特徴を有する。
【0088】
<高純度ケイ酸質多孔質ガラスの耐熱性>
次に、本発明で製造される多孔質ガラスの耐熱性について説明する。実施例4〜6の組成から600℃-12時間の2次熱処理を行って製造した多孔質ガラスそれぞれについて、BET法による比表面積と水銀圧入法によるポロシティをあらかじめ測定し、その多孔質ガラスを白金容器に入れて電気炉中で900℃、1000℃、1100℃の各温度にそれぞれ12時間加熱保持し、放冷後の比表面積とポロシティ(細孔容積)を測定して耐熱性を調査した。その結果を表10に示す。VYCOR(登録商標)glass code 7930のカタログによるとその耐熱温度は600℃とされている。本発明の多孔質ガラスは1100℃で12時間の加熱保持においては比表面積が半分程度に減少しているが、900〜1000℃で12時間の加熱においては比表面積とポロシティともに変化が無くこれらの温度下において耐熱性を有することが分かる。この耐熱性はケイ酸含有量が特別に高くなったことに基づいていると考えられ、高温仕様の燃料電池隔膜、高温条件でのガスの改質分離膜、高温での気体状分子の分離濃縮等に有効に利用できる。
【0089】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超であることを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【請求項2】
ケイ酸(SiO)の含有量が99重量%超の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法であって、
SiO−Al−B−NaO組成系に、2種以上の2族元素成分とリチウム成分とを少なくとも混合して得られた原料組成物を加熱溶融して母ガラスを作製する第1工程と、
前記母ガラスに加熱処理を施して分相する第2工程と、
分相された母ガラスに対し酸処理を施しケイ酸以外の成分を溶出する第3工程と、
を含むことを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記第1工程の後、前記第2工程を経ることなく前記第3工程を実行することを特徴とする請求項2に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記2族元素成分として、マグネシウム成分と、カルシウム成分とを用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項5】
前記2族元素成分として、マグネシウム成分と、カルシウム成分とに加え、さらに、バリウム成分を用いることを特徴とする請求項4に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項6】
前記原料組成物に代え、SiO−Al−B−NaO−KO−CaO−ZrO組成系に、リチウム成分を少なくとも混合して得られた原料組成物を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項7】
前記原料組成物として、シラスに、ホウ素成分と、リチウム成分と、2種以上の2族元素成分とを少なくとも加えてなるガラス原料を用いることを特徴とする請求項2又は3に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項8】
前記ガラス原料にさらにナトリウム成分を加えることを特徴とする請求項7に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項9】
前記原料組成物に、さらに、遷移金属元素成分を加えることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスの製造方法により製造されてなることを特徴とする高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【請求項11】
細孔径が実質的に2nm以下であるマイクロポアを有することを特徴とする請求項10に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【請求項12】
細孔径が2〜100nmの領域にあるメソポアを有することを特徴とする請求項10に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラス。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなるシリコン原料。
【請求項14】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる高純度シリカ原料。
【請求項15】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなるガス分離膜。
【請求項16】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる燃料電池材料。
【請求項17】
請求項10〜12のいずれか1項に記載の高純度ケイ酸質多孔質ガラスを利用してなる溶液濃縮方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−195612(P2010−195612A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39866(P2009−39866)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(598162078)
【出願人】(594084952)
【出願人】(504178661)
【Fターム(参考)】