説明

高純度コロイダルシリカの製造方法

【解決課題】 コロイダルシリカの原料となる珪酸アルカリ水溶液に含まれるCu、Mn、Ni、Fe、Zn、Cr等の金属性不純物の除去効率が高く、且つ低コストの高純度コロイダルシリカの製造方法を提供すること。
【解決手段】 コロイダルシリカ水溶液に、窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤を混合し、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を得るキレート化剤混合工程、及び該キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を、陰イオン交換体に接触させる陰イオン交換体接触工程を有することを特徴とする高純度コロイダルシリカの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、クロマト充填剤、シリカガラス、樹脂用フィラー、研磨組成物等に用いる高純度コロイダルシリカの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、珪酸アルカリを原料として製造されるコロイダルシリカは、触媒担体、クロマト充填剤、シリカガラス、樹脂用フィラー、研磨組成物、ブラウン管製造における蛍光体の接着バインダー、電池中の電解液のゲル化剤および揺変や飛散防止剤、無機接着剤、塗料など様々な用途に用いられてきた。しかし、珪酸アルカリを原料としたコロイダルシリカは、原料の珪酸アルカリ水溶液に含まれる金属性不純物Cu、Mn、Ni、Fe、Zn、Cr等を含有し、触媒担体、クロマト充填剤、シリカガラス、樹脂用フィラー、研磨組成物などの用途では金属性不純物汚染が常に課題として掲げられていた。たとえば、半導体シリコンウエハの研磨加工に用いる研磨組成物では、研磨材中に存在する金属性不純物、特にCuはウエハ内部に深く拡散し、ウエハ品質を劣化させ、ウエハによって形成された半導体デバイスの特性を著しく低下させるという事実が明らかとなっている。そのため金属性不純物の混入を嫌う分野においては、これら金属性不純物を実質的に含まない純度の高いシリカ原料から製造された高価なコロイダルシリカ製品を使用している。
【0003】
珪酸アルカリ水溶液を用いてコロイダルシリカやシリカゲルを製造する工程で不純物を除去する方法は数多く提案されている。例えば特許文献1には、高純度コロイダルシリカの製造方法として、珪酸アルカリ水溶液を純水で希釈した後、H形強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし活性珪酸の水溶液を得、さらに酸を加えて強酸性とした後H形強酸性陽イオン交換樹脂、OH形強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ高純度の活性珪酸とした後、粒子成長させて高純度コロイダルシリカを製造する方法が記載されている。特許文献2には、上記方法の酸と同時にシュウ酸を加えた後、OH形強塩基性陰イオン交換樹脂とH形強酸性陽イオン交換樹脂に接触させる方法が記載されている。特許文献3には、珪酸アルカリ水溶液を純水で希釈した後、H形強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし(活性珪酸の作成)、さらに酸を加えて強酸性とした後、限外ろ過膜を用いて不純物を除去して得られたオリゴ珪酸溶液(高純度の活性珪酸)の一部に、アンモニアまたはアミンを加え加熱を行いヒールゾルを調製し、これに残りのオリゴ珪酸溶液を徐々に滴下し高純度シリカゾルを得る方法が記載されている。特許文献4には、上記同様に酸処理した珪酸アルカリ水溶液を、H形強酸性陽イオン交換樹脂、OH形強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、これにアルカリ金属水酸化物水溶液を加え60〜150℃に加熱することにより安定な水性ゾル生成させ、さらに限外ろ過膜を介して水を除き、次いでH形強酸性陽イオン交換樹脂、OH形強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させ、最後にアンモニアを加えてシリカ以外の多価金属酸化物を実質的に含まない安定な水性シリカゾルを生成する方法が記載されている。いずれの方法も酸性にした珪酸溶液をイオン交換樹脂に接触させて不純物イオンを除去する手段が基本になっている。これは不純金属成分が単なる金属カチオンの形態ではなく、水酸化物、酸化物、アニオン性酸化物、水和カチオン、金属珪酸塩など様々な形態で混在しているため、煩雑な工程が必要となると推定される。
【0004】
また、特許文献5及び6には、活性珪酸にキレート化剤を添加し最終工程でキレート化された不純物を限外濾過で除く方法、キレート樹脂により金属成分を除去した後さらにキレート化剤を添加し最終工程でキレート化された不純物を限外濾過で除く方法が記載されている。
【特許文献1】特開平5−97422号公報 第2頁 特許請求の範囲
【特許文献2】特開平4−231319号公報 第2頁 請求項1
【特許文献3】特開昭61−158810号公報 第1頁 請求項1
【特許文献4】特開平4−2606号公報 第1頁 特許請求の範囲
【特許文献5】特開2001−294417号公報 第1頁 請求項1
【特許文献6】特開2003−89786号公報 第2頁 請求項7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の方法では工程が煩雑に長いばかりでなく、希薄な珪酸液を強酸性にするために大量の酸を使用しなくてはならず、その酸を後工程で除去しなくてはならず、そのアニオン交換法による除去では樹脂の再生にまた数倍のアルカリを必要とし、コスト的に問題がある。特許文献2ではシュウ酸の添加とアニオン交換樹脂の使用が記載されているが、この方法はFe、Alのような3価金属には効果があるが、2価金属Cu、Ni、Znには効果が低く、特にNi、Znには全く効果がない。
【0006】
特許文献5及び6の方法は、キレート化された不純物や余剰のキレート化剤の除去方法が限外濾過のため、必ず微量が排出されずに残るという問題がある。シリカコロイド粒子の限外濾過は、シリカを常に水分散のコロイド状態を保ったまま水相部分を系外に排出する方法のため、不純成分は薄まりながら減っていくが、必ず微量が排出されずに残ることになる。
【0007】
従って、本発明の課題は、コロイダルシリカの原料となる珪酸アルカリ水溶液に含まれるCu、Mn、Ni、Fe、Zn、Cr等の金属性不純物の除去効率が高く、且つ低コストの高純度のコロイダルシリカの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術における課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、特定のキレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を陰イオン交換体に接触させることにより、コロイダリシリカ表面に吸着している金属性不純物及びコロイダルシリカの分散媒である水に溶解又は水酸化物の形態で分散した金属性不純物を効果的に除去できるので、金属性不純物の含有量が極めて少ない高純度コロイダルシリカを得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、コロイダルシリカ水溶液に、窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤を混合し、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を得るキレート化剤混合工程、及び該キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を、陰イオン交換体に接触させる陰イオン交換体接触工程を有する高純度コロイダルシリカの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果は、コロイダルシリカ表面に吸着している金属性不純物及び、コロイダルシリカの分散媒である水に溶解した金属性不純物を効果的に除去できるところにある。水等の溶媒に分散したコロイダルシリカに存在する金属性不純物は次の3形態(i)コロイダルシリカ粒子内部に封入、(ii)コロイダルシリカ粒子表面に吸着、(iii)分散媒に溶解または水酸化物等の形態で分散、で存在する。
【0011】
(i)コロイダルシリカ粒子内部への金属性不純物の封入は、コロイダルシリカ粒子の形成時に、コロイダルシリカの原料となる活性珪酸水溶液中に含まれる金属性不純物の一部が、コロイダルシリカ粒子に取り込まれるために生じる。(ii)コロイダルシリカ粒子表面への金属性不純物の吸着は、主にコロイダルシリカ粒子の形成後、分散媒である水に溶解している金属性不純物の一部が、コロイダルシリカ粒子表面に吸着されるために生じる。(iii)分散媒に溶解または水酸化物等の形態で分散している金属性不純物は、コロイダルシリカ粒子の形成時及び他の製造工程より混入する。
【0012】
水等の溶媒に分散したコロイダリシリカに存在する上記3形態の金属性不純物のうち、(i)コロイダルシリカ粒子内部に封入された金属性不純物は、粒子内に固溶しているがごとく強固に固定され容易に移動することができない。このため(i)コロイダルシリカ粒子内部に封入された金属性不純物は汚染等の原因になりづらい。一方、(ii)コロイダルシリカ表面に吸着された金属性不純物と(iii)分散媒に溶解または水酸化物等の形態で分散する金属性不純物は、移動が容易で汚染等の原因になりやすい。
【0013】
従って、本発明によれば、(ii)コロイダルシリカ粒子表面に吸着された金属性不純物と(iii)分散媒に溶解または水酸化物等の形態で分散する金属性不純物を効果的に除去することができるので、金属性不純物を実質的に含まない純度の高いシリカ原料から製造されたコロイダルシリカ製品と、実質的に同程度の高純度のコロイダルシリカ製品を安価に提供することを可能とする。すなわち、本発明によれば、原料となる珪酸アルカリに含まれている金属性不純物の含有量が極めて少ない高純度のコロイダルシリカを低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高純度コロイダルシリカの製造方法は、キレート化剤混合工程及び陰イオン交換体接触工程を有する。
【0015】
キレート化剤混合工程は、コロイダルシリカ水溶液に、窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤を混合し、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を得る工程である。
【0016】
キレート化剤混合工程で使用するコロイダルシリカ水溶液は、通常、希釈珪酸アルカリ水溶液を原料として製造される。コロイダルシリカ水溶液の製造方法は公知の、例えば、イオン交換法、解膠法などいずれでも良い。その粒子の形状も真球状以外の細長い形状、繭状、俵状、数珠状であってもよい。最も一般的な方法としてイオン交換法を例にして説明する。
【0017】
希釈珪酸アルカリ水溶液としては、特に制限されないが、通常水ガラス(水ガラス1号〜4号等)と呼ばれる珪酸ナトリウム水溶液を、水で希釈したものが好適に用いられる。水ガラスは、比較的安価であり、且つ容易に手に入れることができる。また、固体のメタ珪酸アルカリを、水に溶解させて珪酸アルカリ水溶液を調製することもできる。メタ珪酸アルカリは晶析工程を経て製造されるため、不純物が少なので、メタ珪酸アルカリを用いることが、コロイダルシリカの純度が高まる点で好ましい。また、希釈珪酸アルカリ水溶液のシリカ濃度は、特に制限されないが、好ましくは3〜10重量%、特に好ましくは4〜7重量%である。
【0018】
そして、希釈珪酸アルカリをH形強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて脱アルカリし、必要に応じて、更にOH形強塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて脱アニオンし、活性珪酸水溶液を調製する。接触条件の詳細は、従来から既に様々な提案があり、本発明ではそれら公知のいかなる条件も採用することができる。
【0019】
次いで、得られた活性珪酸水溶液を用いて、コロイダルシリカ粒子の成長工程を行うことにより、コロイダルシリカ水溶液を得ることができる。この成長工程は、常法に準じて行うことができ、例えばコロイダルシリカ粒子の成長のため、pHが8以上となるようアルカリ剤を添加し、60〜100℃に加熱することにより行うことができる。また、ビルドアップの方法をとり、pHが8以上の60〜100℃の種ゾルに、活性珪酸水溶液を添加していく方法もある。また、希釈珪酸アルカリ水溶液に活性珪酸水溶液を添加していくビルドアップの方法も可能である。アルカリ剤としてはNaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物や、アミン、第4級アンモニウム水酸化物などの有機塩基を使用することができる。またそれらの珪酸アルカリ水溶液を使用することもできる。そして、上記製造方法により得られるコロイダルシリカ水溶液を用いることが、製造効率が良い点で好ましい。ただし、上記のコロイダルシリカ水溶液の製造方法は、一例にすぎず、本発明においては、他の公知いかなる製造方法も採用することができる。
【0020】
また、キレート化剤混合工程で使用するコロイダルシリカ水溶液は、市販の製品形態のコロイダルシリカであっても、あるいは、市販の製品形態のコロイダルシリカを純水等で希釈したものであってもよい。
【0021】
コロイダルシリカ水溶液中のシリカ濃度は、0.1〜50重量%、好ましくは2〜40重量%である。また、コロイダルシリカ水溶液のpHは、2〜12、好ましくは3〜10である。また、コロイダルシリカ水溶液中のシリカの平均粒子径は、5〜500nm、好ましくは5〜100nmである。
【0022】
キレート化剤混合工程で使用されるキレート化剤としては、窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤であって、金属の多座配位子として金属と結合し、陰イオン錯体を形成するものであれば、本発明の効果を損なわない限り、任意のものを用いることができる。キレート化剤としては、分子中にイミノ二酢酸骨格を構造の一部に有する化合物又は水溶性の有機リン酸が好ましい。
【0023】
金属イオンに配位結合する能力を持っている原子(ドナー原子)には、窒素原子、酸素原子、燐原子、硫黄原子等があるが、これらのドナー原子のうち、窒素原子は、Cu、Mn、Ni、Fe、Znのような3d軌道に電子を持つ金属イオンと強い配位結合を形成することができる。また、ニトリロトリメチレンホスホン酸のようにN−C−P構造をもつと、さらに配位結合が強くなる。
【0024】
キレート化剤としては、具体的には、例えば、(1)エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、(2)ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、(3)ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸(DHEDDA)、(4)ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、(5)トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、(6)ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIMDA)、(7)1,3−プロパンジアミン四酢酸(1,3−PDTA)、(8)ニトリロ三酢酸(NTA)、(9)ジピコリン酸、(10)ニトリロトリメチレンホスホン酸(NTP)若しくは(11)ヒドロキシエタンジホスホン酸、又はこれらの誘導体若しくはこれらの塩が挙げられる。(1)〜(11)の塩としては、具体的には、例えば、(1a)エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二アンモ二ウム、エチレンジアミン四酢酸三アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸四アンモニウム、(2a)ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三アンモニウム、(3a)ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸二ナトリウム、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸二アンモニウム、(4a)ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五アンモニウム、(5a)トリエチレンテトラミン六酢酸六ナトリウム、トリエチレンテトラミン六酢酸六アンモニウム、(6a)ヒドロキシエチルイミノ二酢酸二ナトリウム、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸二アンモニウム、(10a)ニトリロトリメチレンホスホン酸四ナトリウム、ニトリロトリメチレンホスホン酸五ナトリウム、(11a)ヒドロキシエタンジホスホン酸三ナトリウム、ヒドロキシエタンジホスホン酸四ナトリウム等が挙げられる。また、キレート化剤は、結晶水を含むものであっても、無水物であってもよい。また、キレート化剤は、1種単独又は2種類以上の併用であってもよく、併用する場合、任意の割合で用いることができる。
【0025】
キレート化剤は、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液中で、金属性不純物である金属イオン(以下、不純物金属イオンと記載する。)の多座配位子として、不純物金属イオンと結合し、陰イオン錯体を形成するが、そのためには、キレート化剤が不純物金属イオンの陽電荷を満たしてなお余りある陰電荷を有することが必要である。従って、キレート化剤の陰電荷の価数は、2以上であることが好ましく、3以上であることが、多価の不純物金属イオンとの反応で電荷が中和され難く、金属性不純物の除去効果が高い点で特に好ましく、4以上であることが更に好ましい。
【0026】
ただし、キレート化剤と不純物金属イオンは1対1で結合するとは限らず、2対1等、1の不純物金属イオンに対して、2以上のキレート化剤が配位する場合もあるので、キレート化剤の価数とキレート化剤の不純物金属イオンの除去性能の関係は一概には定まらない。
【0027】
本発明で使用されるキレート化剤の量は、コロイダルシリカ水溶液に含まれる金属性不純物の量をもとにして決定できるが、コロイダルシリカ水溶液の原料となる珪酸アルカリ水溶液の種類により異なり、使用量の範囲は特に限定することはできない。キレート化剤が混合されるコロイダルシリカ水溶液中のシリカ1kgに対してのキレート化剤の混合量は、珪酸アルカリ水溶液に含まれる金属不純物のうちAlは格段と量が多いのでこれを除去するかどうかでも、使用量は大きく異なる。Alを対象にしない場合にはシリカ1kgに対して0.5mmol(ミリモル)が最小量であり、Alも対象にする場合にはシリカ1kgに対して20mmolが最小量である。金属性不純物の除去効果を高める場合には、金属性不純物の量の1〜5倍当量まで添加することが好ましい。従って目安となる使用量の範囲は、キレート化剤が混合されるコロイダルシリカ水溶液中のシリカ1kgに対して0.5〜100mmolである。
【0028】
キレート化剤を添加する方法としては、予めコロイダルシリカ水溶液を攪拌下、キレート化剤を添加することが好ましい。また、キレート化剤をコロイダルシリカ水溶液に添加した後、攪拌等を行い、キレート化剤及び不純物金属イオンを接触させる。そして、接触により、キレート化剤及び不純物金属イオンの陰イオン錯体が形成される。
【0029】
また、コロイダルシリカ水溶液に、キレート化剤を混合する前、混合する際又は混合した後に、過酸化水素等の酸化剤又はアスコルビン酸等の還元剤を添加することができる。同種の金属性不純物であっても、イオンの価数が異なると、該キレート化剤との結合性が異なることがあり、十分に金属性不純物の除去効果が得られない場合がある。そこで、酸化剤又は還元剤を添加することにより、同種の金属性不純物については、イオンの価数を同じにすることができ、そのことにより該金属性不純物の除去効果が高まる。すなわち、該酸化剤又は該還元剤を併用することが、金属性不純物の除去効果が高まる点で好ましい。該酸化剤又は還元剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくはコロイダルシリカ水溶液中のシリカ1kgに対して、0.5〜10mmolである。
【0030】
また、コロイダルシリカ水溶液がアルカリ性の場合、又はキレート化剤を混合することにより、コロイダルシリカ水溶液がアルカリ性になる場合、キレート化剤を混合する前に又混合した後に、酸を添加してpHを酸性にすることが、水酸化物等の形態で存在する金属性不純物のイオン化を促進させるので、金属性不純物の除去効率が高まる点で好ましい。酸としては、塩酸、硝酸、硫酸のような無機酸であれば特に制限されず、任意に選択することができる。酸根であるアニオンは、後述する陰イオン交換体との接触により、除去することができる。また、コロイダルシリカ水溶液にキレート化剤を混合する前に、コロイダルシリカ水溶液をH形陽イオン交換樹脂と接触させ、陽イオンを除去することによりpHを酸性にすることも好ましい。
【0031】
キレート化剤を混合したコロイダルシリカ水溶液は、次の工程に移る前に少なくとも30分間攪拌を続け、キレート化剤と不純物金属イオンとの接触を充分にすることが好ましい。この操作により、不純物金属イオンとキレート化剤の陰イオン錯体が形成される。
【0032】
次に、このようにして得られるキレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を、陰イオン交換体に接触させる陰イオン交換体接触工程を行なう。なお、接触条件の詳細は、従来から既に様々な提案があり、本発明ではそれら公知のいかなる条件も採用することができる。
【0033】
陰イオン交換体としては、特に制限されず、例えば、ハイドロタルサイト、ハイドロカルマイト等の無機化合物、陰イオン交換膜、陰イオン交換樹脂等が挙げられる。これらのうち、強塩基性陰イオン交換樹脂及び弱塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。また、陰イオン交換体は、イオン交換基の対イオン種が水酸イオン(OH)であるOH形が好ましいが、目的に応じて、対イオン種が、塩化物イオン(Cl)であるCl形、硝酸イオン(NO)であるNO形、酢酸イオン(CHCOO)であるCHCOO形等を、適宜に選定することができ、また、それらを2以上を組み合わせることもできる。また、キレート化剤を混合する前に又混合した後に酸を添加している場合は、OH形のイオン交換体を用い、酸根のアニオンを除去することができる。
キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を、陰イオン交換体に接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液に、強塩基性陰イオン交換樹脂若しくは弱塩基性陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌する方法、又は強塩基性陰イオン交換樹脂若しくは弱塩基性陰イオン交換樹脂が充填されているカラムに、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を通過させる方法が挙げられる。なお、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液に、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌する方法の場合は、例えば、攪拌後、適当なメッシュサイズの篩に、コロイダルシリカ水溶液及び陰イオン交換樹脂の混合物を通過させることにより、強酸性陰イオン交換樹脂又は弱酸性陰イオン交換樹脂を、接触後のコロイダルシリカ水溶液から分離することができる。
【0034】
このように、キレート化剤をコロイダルシリカ水溶液に混合することにより、キレート化剤を、コロイダルシリカ粒子表面に吸着されている不純物金属イオン及び分散媒である水に溶解又は水酸化物等の形態で分散している不純物金属イオンと結合させて陰イオン錯体を形成させ、次いで、生成する陰イオン錯体を、陰イオン交換体に接触させることにより、陰イオン交換体に捕捉させて除去することができるので、コロイダルシリカ粒子表面に吸着されている金属性不純物及び分散媒である水に溶解又は水酸化物等の形態で分散している金属性不純物の含有量が極めて少ない高純度コロイダルシリカ水溶液を得ることができる。
【0035】
コロイダルシリカ粒子表面に吸着されている金属性不純物及び分散媒中に含有されている金属性不純物の量は、例えば、以下の方法により測定することができる。(i)高純度コロイダルシリカ水溶液がアルカリ性の場合は、6%硝酸で中和したものに、高純度コロイダルシリカ水溶液が酸性の場合は、中和をせず、そのまま高純度コロイダルシリカ水溶液に、6%硝酸を、添加後の硝酸の濃度が0.2mol/kgとなるまで、攪拌しながら添加する。(ii)次いで、純水を添加し、シリカ濃度が4.0重量%となるように調整する。(iii)純水の添加後、1時間放置し、限外濾過を行い濾水を採取する。(iv)採取した濾水中の金属性不純物の量をICP質量分析装置により分析する。
【0036】
また、本発明のキレート化剤混合工程又は陰イオン交換体接触工程を行う際の温度は、特に制限されないが、通常0〜100℃、好ましくは5〜60℃である。
【0037】
上記陰イオン交換体接触工程を行って得られる高純度コロイダルシリカ水溶液は、濃縮工程が施される。濃縮工程は、所望のシリカ濃度となるまでコロイダルシリカ水溶液中の水分を除去し、コロイダルシリカの濃縮を行う工程である。そして、濃縮工程を行うことにより、所望のシリカ濃度の高純度コロイダルシリカを得ることができる。濃縮を行う方法としては、特に限定されないが、加熱により水分を蒸発させる方法、又は限外濾過により水分を除去する方法が好ましい。
【0038】
限外濾過膜について説明する。限外濾過膜が適用される分離は対象粒子が1nmから数ミクロンであるが、溶解した高分子物質をも対象とするため、ナノメータ域では濾過精度を分画分子量で表現している。限外濾過により水分を除去する方法では、分画分子量15000以下の限外濾過膜を好適に使用することができる。この範囲の膜を使用すると1nm以上の粒子は分離することが出来る。更に好ましくは分画分子量3000〜15000の限外濾過膜を使用する。3000未満の膜では濾過抵抗が大きすぎて処理時間が長くなり不経済であり、15000を超えると、精製度が低くなる。膜の材質はポリスルホン、ポリアクリルニトリル、焼結金属、セラミック、カーボンなどがあり、いずれも使用することができるが、耐熱性や濾過速度などからポリスルホン製が使用しやすい。膜の形状はスパイラル形、チューブラー形、中空糸形などあり、いずれも使用することができるが、中空糸形がコンパクトで使用しやすい。 限外濾過によりシリカ濃度が10〜60重量%となるように濃縮するのがよい。
【0039】
濃縮工程により得られるコロイダルシリカは、キレート化剤混合工程及び陰イオン交換体接触工程により得られる高純度コロイダルシリカ水溶液を濃縮したものなので、コロイダルシリカ粒子表面に吸着されている金属性不純物及び分散媒である水に溶解又は水酸化物等の形態で分散している金属性不純物の含有量が極めて少ない。
【0040】
また、本発明の高純度コロイダルシリカの製造方法は、市販の製品形態となったコロイダルシリカに適用することもできる。この場合、市販の製品形態となったコロイダルシリカを適宜希釈して、キレート化剤を混合し、必要に応じてpH調整剤、酸化剤、還元剤等を添加し、1時間以上攪拌熟成を行い、陰イオン交換体に接触させればよい。また、本発明の高純度コロイダルシリカの製造方法を、コロイダルシリカのユースポイントで実施することもできる。
【0041】
本発明の製造方法により得られる高純度コロイダルシリカは、金属性不純物の含有量が極めて少量であるため、触媒担体、クロマト充填剤、シリカガラス、樹脂用フィラー、研磨組成物等に有用である。
【0042】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0043】
(実施例1〜18)
(コロイダルシリカ水溶液の製造)
表1記載のシリカ濃度及び物性を有するコロイダルシリカ希釈水溶液に、表2〜4記載のキレート化剤及び表中に記載があるものについては添加剤(アスコルビン酸)を、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して、表2〜4記載の濃度となるよう添加した。キレート化剤及び添加剤を添加後、1時間攪拌放置し、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を、予めアンモニア水によって再生したOH形陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ社製)100mlが充填されたカラム(以下、OH形陰イオン交換樹脂カラムと記載する。)に通し、高純度コロイダルシリカ水溶液を得た。なお、キレート化剤としては、エチレンジアミン四酢酸(以下、EDTAと記載する。)、ジエチレントリアミン五酢酸(以下、DTPAと記載する。)、又はニトリロトリメチレンホスホン酸(以下、NTPと記載する。)のそれぞれに、純水と水酸化テトラメチルアンモニウム(以下、TMAOHと記載する。)を加えて作成した、エチレンジアミン四酢酸二テトラメチルアンモニウム(以下、EDTA・2TMAと記載する。)、ジエチレントリアミン五酢酸五テトラメチルアンモニウム(以下、DTPA・5TMAと記載する。)、又はニトリロトリメチレンホスホン酸四テトラメチルアンモニウム(以下、NTP・4TMAと記載する。)の0.2mol/kgのキレート化剤溶液を使用した。また、添加後のキレート化剤濃度は、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対するモル数である。
【0044】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に、6%硝酸を添加して中和した。次いで、更に、6%硝酸を、添加後の硝酸の濃度が0.2mol/kgとなるまで、攪拌しながら添加した。次いで、純水を添加して、いずれの試料も、シリカ濃度が4.0重量%となるように調整した。純水の添加後、1時間放置した後、限外濾過を行い濾水を採取した。採取した濾水中のCu、Mn、Ni、Fe、Znの含有率をICP質量分析装置により分析した。その結果を表2〜4に示す。また、表1中のコロイダルシリカ希釈水溶液A〜Dについても、同様にして金属性不純物の含有率を測定した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
(比較例1)
(キレート化剤の混合)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aに、EDTA・2TMAを、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して20mmol/kgとなるように添加し、1時間攪拌放置して、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を得た。
【0050】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、上記のようにして得られたキレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液とする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示した。
【0051】
(比較例2)
(キレート化剤の混合)
EDTA・2TMAに代え、DTPA・5TMAする以外は、比較例1と同様の方法で行い、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を得た。
【0052】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、上記のようにして得られたキレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液とする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示した。
【0053】
(比較例3)
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、コロイダルシリカ希釈水溶液Aとする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示した。
【0054】
(比較例4)
(陰イオン交換体接触工程)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aを、予めアンモニア水によって再生した実施例1で用いたOH形陰イオン交換樹脂カラムに通した。
【0055】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、上記のようにして得られたOH形陰イオン交換樹脂カラムに通した後のコロイダルシリカとする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示す。
【0056】
(比較例5)
(キレート化剤の混合、並びにコロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aに代えて、コロイダルシリカ希釈水溶液Bとする以外は、比較例2と同様の方法で行った。その結果を表5に示した。
【0057】
(比較例6)
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、コロイダルシリカ希釈水溶液Bとする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表5に示した。
【0058】
(比較例7)
(陰イオン交換体接触工程、並びにコロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aに代え、コロイダルシリカ希釈水溶液Bとする以外は、比較例4と同様の方法で行った。その結果を表6に示した。
【0059】
(比較例8)
(キレート化剤の混合、並びにコロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aに代え、コロイダルシリカ希釈水溶液Dとし、、EDTA・2TMAを、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して20mmol/kgとなるように添加することに代え、DTPA・5TMAを、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して1mmol/kgとなるように添加する以外は、比較例1と同様の方法で行った。その結果を表6に示した。
【0060】
(比較例9)
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、コロイダルシリカ希釈水溶液Dとする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表6に示した。
【0061】
(比較例10)
(陰イオン交換体接触工程、並びにコロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
コロイダルシリカ希釈水溶液Aに代え、コロイダルシリカ希釈水溶液Dとする以外は、比較例4と同様の方法で行った。その結果を表6に示す。
【0062】
(比較例11)
(キレート化剤の混合)
コロイダルシリカ希釈水溶液Dに、DTPA・5TMAを、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して1mmol/kgとなるように添加し、更に、アスコルビン酸を、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して2mmol/kgとなるように添加し、1時間攪拌放置して、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を得た。
【0063】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、上記のようにして得られたキレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液とする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表6に示した。
【0064】
(比較例12)
(キレート化剤の混合)
コロイダルシリカ希釈水溶液Dに、シュウ酸を、添加後の濃度が、コロイダルシリカ希釈水溶液中のシリカ1kgに対して20mmol/kgとなるように添加し、1時間攪拌放置して、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を得た。
【0065】
(陰イオン交換体接触工程)
上記のようにして得られたキレート化剤を含有するコロイダルシリカ希釈水溶液を、予めアンモニア水によって再生した実施例1で用いたOH形陰イオン交換樹脂カラムに通し、コロイダルシリカ水溶液を得た。
【0066】
(コロイダルシリカ粒子表面及び分散媒中の金属性不純物の含有量の測定)
実施例1で得られた高純度コロイダルシリカ水溶液に代えて、上記のようにして得られたOH形陰イオン交換樹脂カラムに通した後のコロイダルシリカとする以外は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を表6に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
【表6】

【0069】
(実施例1〜18と比較例1〜12の結果の説明)
実施例1〜4は、一次粒子径20nm、pH10.2の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例の手順でOH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、高純度コロイダルシリカ水溶液を作成した。OH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させた実施例1〜4の高純度コロイダルシリカ水溶液のCu、Mn、Ni、Fe、Znの分析結果と、キレート化剤の添加及び陰イオン交換体接触工程を全く行なわなかった比較例3の分析結果の比較から、実施例1〜4では、Cu、Mn、Ni、Fe、Znが極めて良好に除去されており、コロイダルシリカ水溶液が極めて良好に精製されていることがわかった。
【0070】
実施例5及び6は、一次粒子径22nm、pH3.1の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例の手順でOH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、高純度コロイダルシリカ水溶液を作成した。OH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させた実施例5及び6の高純度コロイダルシリカ水溶液のCu、Mn、Ni、Fe、Znの分析結果と、キレート化剤の添加及び陰イオン交換体接触工程を全く行なわなかった比較例6の分析結果の比較から、実施例5及び6では、Cu、Mn、Ni、Fe、Znが極めて良好に除去されており、コロイダルシリカ水溶液が極めて良好に精製されていることがわかった。すなわち、酸性の条件でも本発明の効果を奏することがわかった。
【0071】
実施例7及び8は、一次粒子径40nm、pH9.8の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例9は、一次粒子径82nm、pH10.0のコロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例の手順でOH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、高純度コロイダルシリカ水溶液を作成した。OH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させた実施例7〜9の高純度コロイダルシリカ水溶液のCu、Mn、Ni、Fe、Znの分析結果と、キレート化剤の添加及び陰イオン交換体接触工程を全く行なわなかった比較例9の比較から、実施例7〜9では、Cu、Mn、Ni、Fe、Znが極めて良好に除去されており、コロイダルシリカ水溶液が極めて良好に精製されていることがわかった。すなわち、コロイダルシリカ水溶液中の一次粒子径が大きくなっても、本発明の効果を奏することがわかった。
【0072】
実施例10は、一次粒子径82nm、pH10.0〜10.1の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例1、3、5、7及び9に比べ、EDTA・2TMAの添加量を減らし、実施例の手順でOH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、高純度コロイダルシリカ水溶液を作成した。実施例11及び12は、実施例1、3、5、7及び9に比べEDTA・2TMAの添加量を減らすと同時に、添加剤としてアスコルビン酸を添加した。OH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させた実施例10〜12の高純度コロイダルシリカのCu、Mn、Ni、Fe、Znの分析結果と、キレート化剤の添加及び陰イオン交換体接触工程を全く行なわなかった比較例9との比較から、実施例10〜12では、EDTA・2TMAの添加量を減らしても、Cu、Mn、Ni、Fe、Znが極めて良好に除去されており、コロイダルシリカ水溶液が極めて良好に精製されていることがわかった。また、アスコルビン酸を併用した場合、Feの除去効果が更に一段と向上した。
【0073】
実施例13〜15は、一次粒子径82nm、pH10.0〜10.1の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、実施例2、4、6及び8に比べ、DTPA・5TMAの添加量を減らし、実施例の手順でOH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、高純度コロイダルシリカ水溶液を作成した。実施例16及び及び18は、実施例2、4、6及び8に比べ、DTPA・5TMAの添加量を減らすと同時に、添加剤としてアスコルビン酸を添加した。OH形陰イオン交換樹脂カラムを通過させた実施例13〜17の高純度コロイダルシリカのCu、Mn、Ni、Fe、Znの分析結果と、キレート化剤の添加及び陰イオン交換体接触工程を全く行なわなかった比較例9との比較から、実施例13〜17では、DTPA・5TMAの添加量を減らしても、Cu、Mn、Ni、Fe、Znが極めて良好に除去されており、コロイダルシリカ水溶液が極めて良好に精製されていることがわかった。また、アスコルビン酸を併用した場合、Feの除去効果が更に一段と向上した。
【0074】
実施例18ではホスホン酸系のNTP・4TMAをキレート化剤に使用した。実施例14の結果と、同等であった。
【0075】
比較例1、2、8及び11は、pH10付近の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、キレート化剤を添加した後1時間攪拌を行ったが、陰イオン交換樹脂との接触を行わなかった。陰イオン交換樹脂との接触を行わない比較例1、2、8及び11では、コロイダルシリカ水溶液中のCu、Mn、Ni、Fe、Znが除去されていなかった。この結果より、陰イオン交換樹脂と接触させることが必須であることがわかった。
【0076】
比較例4及び10は、一次粒子径20nm、pH10.2の市販コロイダルシリカをシリカ濃度5重量%に希釈し、キレート化剤を添加せず1時間攪拌を行い、陰イオン交換樹脂カラムを通過させ、コロイダルシリカ水溶液を作成した。比較例4及び10では、コロイダルシリカ水溶液中のCu、Mn、Ni、Fe、Znが除去されていなかった。この結果より、キレート化剤の添加が必須であることがわかった。
【0077】
比較例5、6及び7は、pH3.1の市販コロイダルシリカを用いた試験である。比較例5はキレート化剤を添加したが陰イオン交換樹脂と接触を行わなかった。比較例6はキレート化剤を添加せず、陰イオン交換樹脂との接触を行わなかった。比較例7はキレート化剤を添加せず、陰イオン交換樹脂カラムを通過させた。比較例5、6及び7では、コロイダルシリカ水溶液中のCu、Mn、Ni、Fe、Znが除去されていなかった。コロイダルシリカ水溶液が酸性の条件にあってもキレート化剤の添加及び陰イオン交換樹脂と接触させることが必須であることがわかった。
【0078】
比較例12はキレート化剤としてシュウ酸を添加した試験である。Feの除去については効果が見られるものの、他の金属性不純物の除去については、各実施例と比較すると著しく劣った結果であった。
【0079】
(実施例19)
コロイダルシリカ製造工程での本発明の実施形態の例を示す。
【0080】
脱イオン水216kgにJIS3号珪酸ソーダ(SiO:28.8重量%、NaO:9.7重量%、HO:61.5重量%)40kgを加えて均一に混合し、シリカ濃度4.5重量%の希釈珪酸ソーダを作成した。この希釈珪酸ソーダのCu、Mn、Ni、Fe、Znの含有率はそれぞれ8.1μg/kg、22.5μg/kg、20.3μg/kg、1940μg/kg、12.6μg/kgであった。これを希釈珪酸ソーダ中のシリカ1kg当たりの含有率、すなわち、SiO成分に対比した含有率μg/kg−SiOで示すと、Cu、Mn、Ni、Fe、Znの含有率はそれぞれ180μg/kg−SiO、500μg/kg−SiO、450μg/kg−SiO、43000μg/kg−SiO、280μg/kg−SiOとなる。
【0081】
次いで、希釈珪酸ソーダを、予め塩酸によって再生したH形強酸性陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR120B、オルガノ社製)120Lが充填されたカラムに通して脱アルカリし、シリカ濃度3.8重量%でpH2.8の活性珪酸水溶液300kgを得た。この活性珪酸水溶液中のCu、Mn、Ni、Fe、Znの含有率は変化しておらず、陽イオン交換樹脂との接触では、これら金属性不純物は除去されなかった。
【0082】
次いで、その活性珪酸水溶液の一部の38kgを反応器に仕込み、5%NaOH水溶液によってpHを8.0とし、95℃に加熱して1時間この温度を保った後、残部の262kgの活性珪酸水溶液を反応器に20時間をかけて添加した。添加中は、液温を95℃に保ち、また、5%NaOH水溶液を30分おきに添加し、pHを10に保った。全ての活性珪酸水溶液の添加終了後、95℃で1時間保ち、粒子成長させ、コロイダルシリカ水溶液を得た。
【0083】
得られたコロイダルシリカ水溶液に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム二水塩(以下、EDTA−2Na)粉末を77g加えて溶解し、液温が50℃になるまで、8時間放冷した。この時、EDTA−2Naの添加量はコロイダルシリカ水溶液中のシリカ1kgに対して19mmolであった。
【0084】
次いで、コロイダルシリカ水溶液を、予め5%NaOH水溶液によって再生したOH形陰イオン交換樹脂(アンバーライトIRA−410、オルガノ社製)40Lが充填されたカラムに通して、キレート化剤と金属性不純物が結合した錯体と余剰のキレート化剤を除去し、高純度コロイダルシリカ水溶液を得た。
【0085】
次いで、分画分子量10000の中空糸形限外濾過膜(マイクローザUFモジュールSLP−3053、旭化成社製)を用いて、ポンプ循環送液により、高純度コロイダルシリカ水溶液の加圧濾過を行い、シリカ濃度30%の高純度コロイダルシリカを約38kg得た。この高純度コロイダルシリカ中のシリカの粒子径は16nmであり、高純度コロイダルシリカ中のシリカ1kg当たりのCu、Mn、Ni、Fe、Znの含有率はそれぞれ70μg/kg、300μg/kg、100μg/kg、31000μg/kg、180μg/kgであった。
【0086】
実施例19により得られた高純度コロイダルシリカは、コロイダルシリカ粒子表面に吸着した金属性不純物及び分散媒中に含まれていた金属性不純物が除去されたため、金属性不純物の含有量が極めて低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ水溶液に、窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤を混合し、キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を得るキレート化剤混合工程、及び該キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を、陰イオン交換体に接触させる陰イオン交換体接触工程を有することを特徴とする高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項2】
前記窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤が、イミノ二酢酸骨格を有する化合物又は水溶性の有機リン酸であることを特徴とする請求項1記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項3】
前記窒素原子又は燐原子を有するキレート化剤が、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、1,3−プロパンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸、ジピコリン酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸若しくはヒドロキシエタンジホスホン酸又はこれらの誘導体若しくはこれらの塩であることを特徴とする請求項1記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項4】
前記陰イオン交換体が、強塩基性陰イオン交換樹脂又は弱塩基性陰イオン交換樹脂であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項5】
前記コロイダルシリカ水溶液中のシリカ濃度が、0.1〜50重量%であり、前記コロイダルシリカ水溶液のpHが、2〜12であり、且つ前記コロイダルシリカ水溶液中のシリカの平均粒子径が、5〜500nmであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項6】
前記キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液と前記陰イオン交換体の接触を、前記キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液に、前記強塩基性陰イオン交換樹脂又は前記弱塩基性陰イオン交換樹脂を添加し、攪拌することにより行うこと特徴とする請求項4又は5記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。
【請求項7】
前記キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液と前記陰イオン交換体の接触を、前記強塩基性陰イオン交換樹脂又は前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が充填されているカラムに、前記キレート化剤を含有するコロイダルシリカ水溶液を通過させることにより行うことを特徴とする請求項4又は5記載の高純度コロイダルシリカの製造方法。




【公開番号】特開2006−45022(P2006−45022A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230610(P2004−230610)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【特許番号】特許第3659965号(P3659965)
【特許公報発行日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】