説明

高純度シリカ粒子の製造方法

【課題】四塩化珪素の加水分解によって高純度合成シリカ粒子を生成する方法において、加水分解によって生成するゲルから効率よく塩酸を除去して高純度シリカ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】四塩化珪素の加水分解によって生成したシリカと塩酸を含むゲル状物質から高純度のシリカ粒子を製造する方法において、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒によってゲル中の塩酸を置換させた後に該ゲルを乾燥することを特徴とする高純度シリカ粒子の製造方法、好ましくは、有機溶媒としてメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンのいずれかあるいは1種以上の混合物を使用し、70〜150℃で乾燥を行う製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四塩化珪素の加水分解によって高純度合成シリカ粒子を生成する方法において、加水分解によって生成するゲルから効率よく塩酸を除去して高純度シリカ粒子を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度シリカ粒子の製造方法として、四塩化珪素の加水分解による製造方法が知られている。例えば、特開昭62−21708号公報(特許文献1)には、高純度の四塩化珪素を純水に攪拌しながら加えて加水分解させ、生成したゲルを予備乾燥し、これを磨砕した微細粒子を篩分けし、次いで、1400℃まで加熱乾燥して粒度40〜1000μmのシリカ粒子を製造する方法が記載されている。
【0003】
四塩化珪素の加水分解は次式[1]に示される。反応式では、1モルの四塩化珪素に対して、4モルの水が反応し、言い換えると水1リットルに対して14モルの四塩化珪素が反応するはずであるが、実際には、攪拌しながら、四塩化珪素を水に添加すると、水1リットルに対して1モル程度の四塩化珪素を添加した時点で生成物はゲル状になり、これより多くの四塩化珪素を添加することができなくなる。従って、シリカ含有量の少ないゲルになる。また、該ゲルには四塩化珪素の加水分解によって副生する塩酸が含まれている。
【0004】
SiCl4+4H2O → 4HCl+SiO2+2H2O …[1]
【0005】
ゲルから高純度シリカ粒子を回収する方法としては、特許文献1でも採用されている「蒸発による塩酸の除去」が一般的な方法である。しかし、この方法はゲル中のシリカ含有率が低いと、塩酸を蒸発させるためのエネルギーが必要となり、結果、製品コストが非常に高いと云う問題があるうえ、塩酸を蒸発除去する工程は設備からの汚染(錆による)を受け易いと云う問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−21708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高純度シリカ粒子の製造方法における従来の問題を解決したものであり、生産性がよく、加水分解によって生成するゲルから効率よく塩酸を除去して高純度シリカ粒子を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の手段によって上記課題を解決した高純度シリカ粒子の製造方法に関する。
〔1〕四塩化珪素の加水分解によって生成したシリカと塩酸を含むゲル状物質から高純度のシリカ粒子を製造する方法において、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒によってゲル中の塩酸を置換させた後に該ゲルを乾燥することを特徴とする高純度シリカ粒子の製造方法。
〔2〕水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンの何れか、またはこれらの1種以上の混合物を使用する上記[1]に記載する高純度シリカ粒子の製造方法。
〔3〕ゲルを乾燥する温度が70℃〜150℃である上記[1]または上記[2]に記載する高純度シリカ粒子の製造方法。
〔4〕乾燥焼成後のシリカ粒子に含まれるFe濃度が0.1ppm以下である上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する高純度シリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、四塩化珪素の加水分解によって生成したシリカと塩酸を含むゲル状物質から高純度のシリカ粒子を製造する方法において、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒によってゲル中の塩酸を置換させた後に該ゲルを乾燥するので、乾燥に要するコストが安価であり、塩酸の蒸発を伴う乾燥を行う必要がないので、乾燥設備からの汚染の少ない高純度のシリカ粒子を製造することができる。具体的には、Fe濃度0.1ppm以下のシリカ微粒子を得ることができる。
【0010】
従って、本発明の方法によって製造される高純度シリカ粒子は高純度であることが求められる電子材料用石英ガラスの原料として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の製造方法を実施形態に基づいて具体的に説明する。
本発明の製造方法は、四塩化珪素の加水分解によって生成したシリカと塩酸を含むゲル状物質から高純度のシリカ粒子を製造する方法において、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒によってゲル中の塩酸を置換させた後に該ゲルを乾燥することを特徴とする高純度シリカ粒子の製造方法である。
【0012】
本発明の製造方法は、四塩化珪素の加水分解によってゲル状物質(シリカを含有したゲル、以下、ゲルと云う)を生成させ、この生成したゲルには加水分解によって生じたシリカと共に塩酸が含まれるので、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒を加えてゲル中の塩酸とこの有機溶媒とを置換させる。
【0013】
四塩化珪素の加水分解によってゲルを生成させる方法は、例えば、純水を攪拌しながら反応容器を冷却して四塩化珪素を少量づつ添加すればよい。加水分解が進むと溶液がゲル化する。生成したゲルに水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒を加えて攪拌する。
【0014】
本発明の方法において用いる有機溶媒は水相溶性を有し、かつ揮発しやすいものが用いられる。このような有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、あるいはアセトンなどのケトン類の何れか、あるいはこれらの1種以上の混合物を用いることができる。
【0015】
ゲルに上記有機溶媒を加えて十分に攪拌すると、有機溶媒は水相溶性であるのでゲル中の水分と相溶し、ゲル中に入り込む。このゲルと有機溶媒の混合物に濾過あるいは遠心分離などの固液分離処理を行うと、固形分と塩酸を含む液分に分離する。さらに、この固形分に上記有機溶媒を加えて撹拌し、固液分離を繰り返して行うと、ゲル中の塩酸は次第に有機溶媒によって置換される。固液分離の操作は、液分のpHが中性(pH6〜7)になるまで繰り返すと良い。
【0016】
塩酸を有機溶媒によって置換したゲルを回収して乾燥する。乾燥温度はゲルに含まれる有機溶媒および残存している水分を揮発させる温度であり、例えば、70℃〜150℃が好ましい。乾燥温度が70℃より低いとゲル中の有機溶媒および残存している水分が十分に除去されず、150℃より高いと揮発した有機溶媒が燃焼するようになるので安全上好ましくない。乾燥時間はゲルの処理量に応じて定めればよい。また、乾燥処理は、例えば、回収したゲルを石英ボートに入れ、乾燥炉で70℃〜150℃で所定時間加熱すると良い。
【0017】
乾燥処理によってゲル中の有機溶媒および残存している水分が除去されたシリカ微粒子が得られる。なお、この乾燥したシリカ粒子には有機溶媒および残存している水分が抜けた微細な気孔が存在しているので、高温焼成することによって上記気孔を塞いだり、微粒子表面に残留するOH基を除去する処理を施してもよい。このような処理に必要な焼成温度はシリカの融点付近(1300℃付近)が好ましい。
【0018】
本発明の製造方法によれば、ゲル中に含まれる有機溶媒を蒸発させるために要するエネルギーは塩酸の場合と比較して低いため、塩酸を含む場合よりも低温で乾燥させることができ、製品コストを安価に抑えることができる。
【0019】
また、本発明の製造方法によれば、ゲル中の塩酸を除去した後に乾燥処理するので、塩酸による乾燥設備の腐食を防止することができ、乾燥設備の錆びによる汚染を防止し易いので、シリカ微粒子に含まれるFe濃度を0.1ppm以下に抑制することができる。さらに、乾燥設備の材質として安価なものを選択することができるので、製品コストをさらに安価に抑えることが可能となる。
【0020】
本発明の方法によって製造したシリカ微粒子は、Fe濃度が極めて少なく、高純度であるので電子材料用石英ガラスの原料粉末として好適である。なお、上記電子材料用石英ガラスの原料粉末として用いるシリカ粒子を製造するには、純度99.99%以上の四塩化珪素と比抵抗17.5MΩ・cm以上(25℃)の超純水を用いるとよい。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。製造したシリカ粒子中のFe濃度は、ICP-MS分析によって測定した。
【0022】
〔実施例1〕
純水500gを攪拌しながら四塩化珪素を2g/minの流量で添加した。四塩化珪素を添加している間は反応容器を45℃以下に冷却した。四塩化珪素を97g添加した時点でゲル化し、四塩化珪素をこれ以上添加することができなかった。生成したゲルにアセトン500gを添加してよく攪拌し、3000×gで10分間遠心分離して沈降物を回収した。アセトン添加から遠心分離までの操作を、遠心分離によって生じる上澄みのpHが6〜7になるまで繰り返した。回収したゲルを石英ボートに乗せて、管状炉で90℃×5時間加熱して乾燥した後に、1300℃×48時間加熱して焼成し、シリカ粒子を回収した。この結果を表1に示した。
【0023】
〔実施例2〜3〕
実施例1と同様の方法でゲルを生成した。生成したゲル中の塩酸を表1に示す有機溶媒を用いて置換し、表1の条件に従って乾燥した。それ以外は実施例1と同様にしてシリカ粒子を回収した。この結果を表1に示した。
【0024】
〔比較例1〕
実施例1と同様の方法でゲルを生成した。生成したゲルを有機溶媒で置換することなくそのまま150℃で5時間乾燥した。この結果を表1に示した。
【0025】
〔比較例2〕
比較礼1と同様の方法でゲルを生成した。生成したゲルを有機溶媒で置換することなくそのまま200℃で5時間乾燥し、さらに1300℃で48時間焼成してシリカ粒子を回収した。この結果を表1に示した。
【0026】
表1に示すように、本発明の製造方法(実施例1〜3)によれば、ゲル中の塩酸を有機溶媒で置換しているので乾燥しやすく、乾燥温度は90℃〜150℃で十分であった。一方、比較例1では、ゲル中の塩酸を有機溶媒で置換していないので、乾燥温度150℃で5時間加熱しても不十分であり、未乾燥の状態であった。
【0027】
本発明の製造方法(実施例1〜3)によれば、生成したゲルを乾燥し易いので、設備によるFeの汚染が少なく、シリカ微粒子のFe濃度は0.1ppm未満である。従って、本発明のシリカ微粒子は、電子材料用石英ガラス原料としての純度は十分であった。
【0028】
一方、比較例2に示すように、ゲル中の塩酸を有機溶媒で置換しない場合には、5時間で乾燥状態にするには200℃で加熱する必要があり、本発明の方法より乾燥温度が高くなる。この結果、乾燥設備からの汚染のためか、焼成後のシリカ粒子中のFe濃度は10ppmであり、本発明の方法(実施例1〜3)に比べてFe濃度がかなり高く、電子材料用石英ガラスの原料としては純度が不十分であった。
【0029】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
四塩化珪素の加水分解によって生成したシリカと塩酸を含むゲル状物質から高純度のシリカ粒子を製造する方法において、水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒によってゲル中の塩酸を置換させた後に該ゲルを乾燥することを特徴とする高純度シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
水相溶性を有する易揮発性の有機溶媒として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンの何れか、またはこれらの1種以上の混合物を使用する請求項1に記載する高純度シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
ゲルを乾燥する温度が70℃〜150℃である請求項1または請求項2に記載する高純度シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
乾燥焼成後のシリカ粒子に含まれるFe濃度が0.1ppm以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載する高純度シリカ粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−222157(P2010−222157A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69212(P2009−69212)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】