説明

高純度rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの製造方法及び高純度rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート

本発明は、最も純粋なrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの製造方法、及び少なくとも98.55%の純度を有する、最も純粋なrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの生成方法、及び少なくとも99.55%の純度でのrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートに関する。
複数薬物−耐性モジュレーターrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート、その生成、及び制癌医薬剤としてのその使用は、この化合物の他の誘導体の他に、EP575890号に記載されている。
【0002】
EP575890号に記載されるrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの製造方法によれば、遊離塩基5−[3−{4−(2,2−ジフェニルアセチル)ピペラジン−1−イル}−2−ヒドロキシプロポキシ]キノリンが最初に、2種の成分エポキシリン(B)(5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリン)及びジフェンピペラジド(C)(N−(2,2−ジフェニルアセチル)ピペラジン)のカップリングにより粗生成物として単離される。
【0003】
この反応は2種の部分的段階を含む。第1に、エポキシレートがヒドロキシキノリン(A)と反応せしめられる。第2段階においては、エポキシリン(B)(5−2,3−エポキシプロポキシ)−キノリン)がジフェンピペラジド(C)(N−(2,2−ジフェニルアセチル)ピペラジン)により開環され;それが第二アルコール(D)を生成する。この反応はエタノール中で生じ;水が反応を触媒する。次に、作業/単離が、アセトン/水からの沈殿及び真空下で60℃での乾燥により行われる。
【0004】
全体の反応は、下記略図から生成される:
【化1】

【0005】
次の段階においては、非常に高価な精製方法が、多くの汚染物をまだ含んでいる(典型的には約80%の粗生成物の純度)、遊離塩基の単離を包含する。遊離塩基が活性炭により処理された後、及びフマレートがメタノールにおいて形成された後、遊離塩基が水酸化ナトリウム溶液による処理により、精製のために再び生成される。次に、最終段階として、反復されたフマレート形成が行われる。2種のフマレート形成は、処理に関し、そしてバッチサイズによってのみ区別される限り、同一である(T. Suzukiなど., J. Med. Chem. (1997) 40,2047) (JP 2000281653号)。遊離塩基粗生成物から出発する場合、この精製順序についての典型的な実験収率は理論率の45%である。
【0006】
この場合、低い収率(最終段階において50%以上の損失)のみならず、また多くの操作能力に結合し、そして従って、高められた費用を生む高価な技術実施がこの方法において欠点である。数週間にわたって部分的にフィルター乾燥されるべき、遊離塩基の非常に不良な濾過能力がこの場合、特に欠点である。
処理が関与する限り、高い費用にかかわらず、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの非常に高い精製必要条件は、この既知の方法に従って完全に満足のゆく態様で非常に達成されるとは限らない。
また、EP575890号に記載される方法は、大規模でのいずれの理想的な結果も提供しない。
【0007】
次の略図は、個々の反応の全体像を提供する:
【化2】

【0008】
本発明の方法により、それらの既知欠点を克服することができることが現在見出されている。本発明の方法においては、エポキシ(B)及びジフェンピペラジド(C)がまず、エポキシドの開環によりカップリングされる。しかしながら、次に、遊離塩基(D)ではなく、むしろ、固体フマル酸が直接的に添加された後、フマレート塩(E)が粗生成物として単離される。
【0009】
従って、本出願の目的は、高純度のrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの生成方法であり、ここで前記方法は、
最初に、
【0010】
a)下記構造式(I):
【化3】

【0011】
で表されるエポキシトレートと、
b)1.0当量の下記式(II):
【化4】

【0012】
で表される5−ヒドロキシキノリン、及び炭酸セシウムとを、適切な溶媒及び温度下で反応せしめ、下記式(III ):
【0013】
【化5】

【0014】
で表される5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリンを形成し、そして次に、前記5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリンと、
【0015】
c)下記式(IV):
【化6】

【0016】
で表されるN−(2,2−ジフェニルアセチル)ピペラジンとを、適切な溶媒及び温度下で反応せしめ、続いて、固体フマル酸を添加し、下記式(V):
【0017】
【化7】

【0018】
で表される粗rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートを形成し、そして次に、
d)このようにして形成された前記粗rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート(V)を単離し、そしてメタノール及び塩化メチレンから成る溶媒混合物に溶解し、活性炭により処理し、そして次に、カラム材料としてシリカゲルを用いて、圧力フィルターを通して濾過し、そしてこのようにして得られた純粋なrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート(V)を、適切なアルコールから結晶化することを特徴とする。
【0019】
反応は好ましくは、35〜60℃の範囲の温度で行われる。
適切な溶媒は、例えばアセトン、メチル−イソブチルケトン、等、アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、等、アミド、例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−ピロリドン、等である。
既知方法に比較して、本発明の方法を通して単離される段階c)の粗rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートはすでに、90〜96%の劇的に高められた純度を示す。
【0020】
段階d)に包含される精製段階は好ましくは、MeOH/MeCl2(3:7の比(v:v))から成る溶媒混合物において行われる。
Norit SX Plusが好ましくは、活性炭として使用される。
シリカゲルの量は好ましくは、出発材料に関する量の3倍である。
工程d)における結晶化の温度は好ましくは、0℃である。
精製段階d)のための典型的な実験収率は、理論値の84%である。
【実施例】
【0021】
実施例rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの生成
A)窒素下で、44.2gの5−ヒドロキシ−キノリン及び151.9gの炭酸セシウムを、560mlのアセトンと一緒に室温で添加し、そして60℃の浴温度で30分間、攪拌する。
【0022】
50℃の内部温度で、153.3gのジクロロメタンに溶解された、73.0gの5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリンを添加する。攪拌を50℃で2時間、続ける。バッチを50℃で濾過する。フィルター残渣(無機塩)を、50℃に加熱されたアセトン560mlにより再洗浄する。次に、85.4gのN−(2,2−ジフェニル−アセチル)ピペラジンを添加し、そしてそれを、真空下で40℃の浴温度での蒸発により、最終重量の374gに濃縮する。次に、374gのVE水を添加し、そしてそれを40℃で2時間、攪拌する。次に、255gのアセトン及び201gのVE水を添加する。そのバッチを室温に冷却し、そして固体形でのフマル酸89.1gを添加する。それを、60℃の浴温度で60分間、攪拌し、そして次に0℃で2時間攪拌する。次に固体を吸い上げ、150mlの氷冷却されたメタノールにより再洗浄する。フィルター残渣を、真空下で60℃で乾燥する。
収率:理論値の65〜85%。
【0023】
B)56.0gのこのようにして得られたrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートを、窒素下で及び室温で、5.6gの活性炭、Norit SX plus, 672mlのメタノール及び1008mlのジクロロメタンと共に混合する。生成される懸濁液を、75℃の浴温度で、還流温度に加熱し、そして還流下で30分間、維持する。40℃の内部温度で、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートを、溶液にする。次に、浴を、300%シリカゲルを通して温−濾過し、そしてシリカゲルを、168mlのメタノール及び392mlのジクロロメタンから成る混合物560mlにより、室温RTで再洗浄する。
【0024】
その溶液を、40℃の浴温度及び400mバールの初期減圧下での蒸発により、517mlの最終体積に濃縮する。最終減圧は、350mバールである。蒸留された体積は、その体積差異(約1.7L)にほぼ対応する。404mlのメタノールを添加し、その結果、最終体積は921mlに達する。その溶液を0℃に冷却し、それにより、生成物を沈殿せしめる。生成される懸濁液を0℃で2時間、攪拌し、そして次に、紙フィルターを通して濾過する。フィルター残渣を、56.0mlの氷冷却されたメタノールにより洗浄する。フィルター残渣を60℃で乾燥し、そして100mバールでの減圧下で10時間、乾燥する。
収量(補正されていない):47.29g(実験値の84.45%)
純度:99.65%(HPLC、100%方法)。
【0025】
【表1】

【0026】
この結果から、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート(V)の合計収量は、50%以上、高められ得ることが見出され得る。
この結果から、本発明の方法により、必要な非常に高い純度が達成され得、これにより、技術的費用が同時に非常に低められ得ることがまた見出され得る。反応の間に形成される汚染物(VU)1−4が完全に回避され得ることがまた注目され得る。
既知の方法及び本発明の方法に従って生成される供給原料の比較が下記表に示されている。
【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
従って、本発明の目的は、98.54%以上の純度でのrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートである。
さらに、本発明の目的はまた、少なくとも98.55%の純度、特に少なくとも99.55%の純度、特に少なくとも99.65%の純度、及び少なくとも99.84%の純度でのrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートである。
【0030】
本発明の方法は、方法−技術規模に基づいてのrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの生成のために特に適切である。従って、本発明の方法により、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートが、最初に、記載される純度で1000g以上の量で生成され得る。
【0031】
本発明の目的はまた、汚染物として、0.1%以下、好ましくは0.01%以下の少なくとも1つの個々の汚染物(VU1−VU11)を含んで成る、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートである。
従来の精製方法、たとえばクロマトグラフィー、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、イオン交換装置、等により、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートは、本発明の純度で生成され得ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートの製造方法であって、最初に、
a)下記構造式(I):
【化1】

で表されるエポキシトレートと、
b)1.0当量の下記式(II):
【化2】

で表される5−ヒドロキシキノリン、及び炭酸セシウムとを、適切な溶媒及び温度のもとで反応せしめ、下記式(III ):
【化3】

で表される5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリンを形成し、そして次に、前記5−(2,3−エポキシプロポキシ)−キノリンと、
c)下記式(IV):
【化4】

で表されるN−(2,2−ジフェニルアセチル)ピペラジンとを、適切な溶媒及び温度のもとで反応せしめ、続いて、固体フマル酸を添加し、下記式(V):
【化5】

で表される粗rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレートを形成し、そして次に、
d)このようにして形成された前記粗rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート(V)を単離し、そしてメタノール及び塩化メチレンから成る溶媒混合物に溶解し、活性炭により処理し、そして次に、カラム材料としてシリカゲルを用いて、圧力フィルターを通して濾過し、そしてこのようにして得られた純粋なrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート(V)を、適切なアルコールから結晶化する、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
溶媒としてアセトンが使用される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記反応が、35〜65℃の範囲の温度で行われる請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記シリカゲルの量が、出発材料に関する量の3倍である請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記工程(d)における結晶化の温度が、0℃である請求項1記載の方法。
【請求項6】
98.54%以上の純度での、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項7】
少なくとも98.55%の純度での、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項8】
少なくとも99.55%の純度での、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項9】
少なくとも99.65%の純度での、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項10】
少なくとも99.84%の純度での、rac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項11】
1000g以上の量での請求項6〜10のいずれか1項記載のrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項12】
汚染物として0.1%の以下の少なくとも1つの個々の汚染物(VU1−VU11)を含んで成る請求項6〜10のいずれか1項記載のrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。
【請求項13】
0.01%以上の少なくとも1つの個々の汚染物(VU1−VU11)を含んで成る請求項6〜10のいずれか1項記載のrac−1−{4−[2−ヒドロキシ−3−(5−キノリルオキシ)プロピル]−ピペラジン−1−イル}−2,2−ジフェニルエタン−1−オン・フマレート。

【公表番号】特表2006−525256(P2006−525256A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505231(P2006−505231)
【出願日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004277
【国際公開番号】WO2004/099151
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(300049958)シエーリング アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】