説明

高級アルコール合成用の改良コバルトモリブデン−硫化物触媒の作成方法。

本発明は合成ガスからアルコールを生成するコバルト−モリブデン−硫化物触媒の従来の作成方法を改良したものである。ある実施態様では、好ましいコバルト−モリブデン−硫化物触媒組成物を作成する改良した方法を提供している。他の実施態様では、これらの触媒を利用して、合成ガスからエタノール等の少なくとも1のC乃至Cアルコールを生成するプロセスが記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[優先権情報]
本PCT出願は2010年6月28日に出願された米国特許出願番号第12/824,549号、及び2009年6月30日に出願された米国特許仮出願番号第61/221,796号の優先権の利益を主張する。これらの開示は全体を参照することによってここに組み込まれている。
【0002】
本発明は一般的に、合成ガスのエタノール等のアルコール類への化学変換プロセスの分野に関連する。触媒組成物、触媒組成物の作成方法、及び触媒組成物の使用に関連する。
【背景技術】
【0003】
合成ガスは水素(H)と一酸化炭素(CO)の混合物である。原理的には、合成ガスは実際に炭素を含むいかなる材料からでも作成できる。炭素材料としては、一般的に天然ガス、石油、石炭、亜炭などの化石資源;及びリグノセルロースバイオマスや様々な炭素を多く含有する廃棄材料などの再生利用可能資源がある。化石燃料に関連する経済的、環境的及び社会的なコストが増加しているため、再生可能資源を利用して合成ガスを生産するのが望ましい。
【0004】
これらの原材料を合成ガスに変換する様々な技術が存在している。変換アプローチは、ガス化、熱分解、水蒸気改質、及び/又は炭素含有材料の部分酸化を含む1又はそれ以上のステップの組み合わせを利用できる。
【0005】
合成ガスは化学、バイオリファイナリー産業において基本的な中間体であり、幅広い用途を有している。合成ガスはアルカン類、オレフィン、含酸素化合物、及びアルコール類に変換することができ、これらの化学物質はディーゼル燃料、ガソリン、及びその他の液体燃料と混合させるか、そのまま使用できる。同様に、合成ガスも直接燃焼させて熱と電力を生産できる。
【0006】
1920年代以来、特定の触媒を介した反応により合成ガスからエタノールと他のアルコール類の混合物が得られることが知られている(Forzatti et al.,Cat.Rev.−Sci and Eng.33(1−2),109−168,1991)。FischerとTropschは、ほぼ同時期に炭化水素合成触媒が副産物として直鎖アルコール類を合成することを発見した。
【0007】
より最近ではDow Chemical/Union CarbideやInstitut Francais du Petroleが、これらの触媒技術の開発を行っている。Dow ChemicalとUnion Carbideは、共同でモリブデン、二硫化モリブデンに基づいた硫化物混合性のアルコール触媒開発した(Phillips et al.National Renewable Energy Laboratory TP−510−41168,April 2007)。Dow Chemicalに譲渡された米国特許第4,752,623号(StevensとConway)は、合成ガスからの混合アルコール作成用のコバルト−モリブデン−硫化物触媒を開示している。
【0008】
米国特許第4,752,623号とその他関連する特許によるコバルト−モリブデン−硫化物触媒の作成は、まずヘプタモリブデン酸アンモニウムを水に溶解させ、60℃に加熱した後、硫化アンモニウムを添加することでモリブデン酸アンモニウム[NHMoSを生成する。次に、別のコンテナーで酢酸コバルトを溶解させ、これら2つの溶液を、加熱酢酸を収容する第3のコンテナに同時添加して触媒前駆体を沈殿させる。この沈殿物をろ過し、大気中で乾燥させ、500℃で焼成する。この化学反応は特定の望ましくない化合物が溶液に沈殿するため、扱いが難しい。
【0009】
本技術の短所を考慮し、コバルト−モリブデン−硫化物触媒を効率的に作成する改良方法が望まれている。これらの方法は当業者が、これらの触媒を作成し使用して、合成ガスからエタノールなどのアルコール類を商業的に作成できるように、好ましい触媒を合成する間の重要な要因と条件を同定する必要がある。
【発明の概要】
【0010】
一部の変形例において、本発明はコバルト−モリブデン−硫化物の組成物を作成する方法であり:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
を具える。
【0011】
ステップ(i)は、例えば約10乃至80℃から選択される温度で実施できる。一部の実施態様では、二モリブデン酸アンモニウムに含まれるモリブデンのモル数で除したアンモニア水に含まれるアンモニアのモル比は約1.5乃至約1.8など約1.2乃至約2である。
【0012】
ステップ(ii)は、化学量論的に過剰の硫化水素を含んでいてもよい。一部の実施態様では、ステップ(ii)又は(iii)のテトラチオモリブデン酸塩溶液は過飽和である。
【0013】
一部の実施態様は、テトラチオモリブデン酸塩溶液は紫外光−可視光分析で検出不可能の[MoOS2−を含んでいる。他の実施態様は、テトラチオモリブデン酸塩溶液は、更に、非ゼロ量の[MoOS2−を含んでいる。例えば、テトラチオモリブデン酸塩溶液の[MoS2−/[MoOS2−の割合は約5乃至100など、約3乃至100である。
【0014】
一部の実施態様は、ステップ(iii)のCo(II)溶液は酢酸コバルト溶液、硫酸コバルト溶液、又は別のCo(II)溶液である。必要に応じて複数のCo(II)溶液の混合液を利用できる。
【0015】
ステップ(iv)は約2.5乃至3.5など約2乃至5のpHで実施してよい。一部の実施態様ではステップ(iv)は約pH3で実施する。
【0016】
ステップ(v)は、大気中でろ過を含むが、ほぼ不活性な環境の存在下でのろ過が好ましい。
【0017】
選択的に、この方法は、更に、ステップ(v)の後に、水でろ塊を洗浄するステップを具える。洗浄に使用する水量は様々である。一部の実施態様では洗浄に使用した水量がろ塊の体積よりも少なく、他の実施態様では、洗浄に使用した水量が、少なくとも1のろ塊の体積、又は2のろ塊の体積である。好ましくは、洗浄により、洗浄前の硫酸塩の少なくとも95%、より好ましくは99%を除去する。
【0018】
一部の実施態様ではろ塊がステップ(v)と(vi)の間で乾燥しない。ステップ(vi)はろ塊が湿っている間に開始できる。一部の実施態様ではステップ(v)と(vi)の時間が1日よりも短く、好ましくは実質的に不活性な環境を維持する。好ましくはステップ(vi)をステップ(v)の直後に行う。
【0019】
好ましい実施態様では、ステップ(vi)の熱処理は実質的に不活性な環境で乾燥させることを含む。好ましい態様ではステップ(vi)も実質的に不活性な環境で焼成させること含んでいる。乾燥と焼成の両方共で不活性な環境内で行うことが好ましい。
【0020】
熱処理は単一の温度で行なってもよいが、熱処理の様々な段階に複数の温度で行うのが好ましい。熱処理は単一の装置又は複数の装置で行ってよい。
【0021】
本発明の一部の変形例は、ステップ(iv)の乾燥温度での乾燥ステップと、乾燥温度より高い焼成温度での焼成ステップを含んでいる。乾燥温度は例えば約100乃至150℃など約80乃至200℃から選択してよい。焼成温度は約450乃至550℃など約350乃至650℃から選択してよい。
【0022】
一部の実施態様では、焼成時間は約1乃至2時間など約10分乃至4時間から選択される。一部の実施態様では、次いで焼成材料を実質的に不活性な環境中で冷却する。
【0023】
所定の実施態様では、ステップ(vi)は、更に、乾燥温度よりも高く、焼成温度よりも低い中間温度で滞留させるステップを具える。この中間温度は約200乃至300℃など約120乃至350℃である。滞留時間は約2乃至16時間、又は約4乃至8時間など約1乃至24時間である。
【0024】
本発明による焼成材料は、アルカリ又はアルカリ土類から選択される塩基促進剤と結合させてもよく、これによって塩基促進性触媒を作成できる。一部の実施態様は、塩基促進剤はカリウムを含んでいる。
【0025】
ある変形例では、ステップ(vi)の前に、塩基促進剤をろ塊に入れる。これらの変形例の一部の実施態様では、塩基促進剤は水酸化カリウム、炭酸カリウム、シュウ酸カリウム、及び酢酸カリウムから成る群から選択してよい。この塩基促進剤は、固体状でろ塊に添加され、まとめて熱処理にかけられる。
【0026】
塩基促進性触媒はアルコール合成に使用できる。一部の実施態様では、合成ガスを塩基促進性触媒(本明細書に教示する方法で作成した)のもとで反応させてエタノールなどC乃至Cアルコールの合成をしている。
【0027】
一部の実施態様では、アルコール合成は、更に、メタノールの共供給を含んでいる。メタノールは合成ガスと平衡量で共供給される、又は例えば合成ガスとの平衡量以下で共供給してよい。
【0028】
本発明の一部の変形例において、コバルト−モリブデン−硫化物の組成物を作成する方法を提供しており、当該方法は:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
を具え、当該組成物において、コバルトの少なくとも一部と硫黄の少なくとも一部が、コバルト−硫黄結合として存在しており、この結合の硫黄とコバルトのモル比(S:Co)が、少なくとも1.2であり、このS:Coのモル比は、全モリブデンが二硫化モリブデンとして存在していると仮定して計算したものである。
【0029】
一部の実施態様では、S:Coのモル比は、少なくとも2.0など少なくとも1.5である。
【0030】
本発明の一部の変形例はモリブデン、コバルト及び硫黄を含む触媒組成物を提供しており、当該組成物は:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
を具える工程で作成される。
【0031】
一部の実施態様では触媒組成物は密接する二硫化モリブデンと二硫化コバルトを含んでいる。一部の実施態様では、少なくとも一部のコバルトと、少なくとも一部の硫黄がコバルト−硫黄結合として存在しており、本結合の硫黄とコバルトのモル比(S:Co)は、少なくとも1.2であり、好ましくは少なくとも1.5であり、さらに好ましくは少なくとも2.0である。このS:Coのモル比は、当該モリブデンの全てが二硫化モリブデンとして存在している前提で計算し得る。触媒組成物は更にアルカリ又はアルカリ土類から選択される塩基促進物質を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1A】図1Aは、本発明の実施例1における、オキシトリチオモリブデン酸からテトラチオモリブデン酸類への変換を表す紫外光−可視光分光スキャンを示している。
【図1B】図1Bは、図1Aのスキャンの関心領域を示している。
【図2】図2は、本発明の実施例2における、エタノール収量を温度と時間の相関関係として示している。
【図3】図3は、本明細書の実施例2おける、メタノール平衡への接近に応じたタノール生成率を示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本記載によって、当業者は本発明を製造及び使用することが可能であり、現時点において本発明を実施するベストモードを含む本発明の実施態様、変更例、変形例、代替例及び使用について述べている。
【0034】
本明細書と特許請求の範囲においては、単数形「a」「an」及び「the」は、文脈で明確に示されない限り複数形を含んでいる。本明細書中で、特に定義しない限り、ここで使用されている全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって理解されているものと同じ意味を有する。
【0035】
特に明記しない限りは、反応条件、化学量論、成分の濃度など明細書及び特許請求の範囲で使用されているを表現されている全ての数字は、全ての事例で「約」に変更されているものとして解釈すべきである。したがって、これに反する指示がない限り、以下の明細書及び特許請求の範囲に記載された数値パラメータは、少なくとも特定の分析手法に依存して変化しうる近似値である。任意の数値は、本質的には、それぞれの試験測定にみられる標準偏差に必然的に起因する特定のエラーが含まれている。
【0036】
本明細書に使用する「C乃至Cアルコール」とは、これらの化合物の既知の全ての異性体を含むメタノール、エタノール、プロパノール、及びブタノールから選ばれる一種以上のアルコールを意味している。好ましい実施態様は、メタノール及び/又はエタノールへの高い選択性について記載しているが、本発明は、同様にプロパノール及び/又はブタノールへの高い選択性、若しくは多様なアルコールへの選択性の所定の組み合わせた形で実施できる。
【0037】
ここで本発明は、以下の詳細な説明と添付の図面を参照して記載されている。エタノール作成の好ましい実施態様を特徴づけ説明されている。本記載は、本発明の範囲及び精神を限定するものではない。
【0038】
一部の実施態様において、好ましい触媒を合成する第1ステップは、アンモニア水に二モリブデン酸アンモニウム(ADM)を溶解させるステップであり、このアンモニア水のpHは常温で7.5乃至11、好ましくは約9乃至9.5であるか、約60℃でpH7.5乃至8である。様々な変形例では、一般的にこのステップは10℃乃至80℃の範囲で行う。ADM、すなわち[NH[Mo]は4面体と稜架橋8面体のモリブデンを伴う鎖状構造を有しており、商業的に入手可能である(例えばClimax Molybdenum,Iowa,U.S.)。
【0039】
モリブデン酸アンモニウム水和物[NH[Mo24]・4HOはモリブデンを中心とした末端縮合と面縮合の擬8面体を含んでいる。固体ADMのモリブデンの半分は4面体(隣接する8面体モリブデンと頂点を共有している)であり、8面体である残り半分のモリブデンは、単に8面体モリブデンと結合末端(面縮合ではない)を共有しているだけであるため、ADMは、[MoS2−を作る硫黄の攻撃に対する「予備活性型」と考えられている。したがって、pHが約9のADM由来の溶液は主に8面体の[MoO2−と[Mo2−を含んでいる。これらの配位不飽和種は硫化物、HS又はHaq種から繰り返し求核型攻撃を受ける傾向がある。仮説によって制限受けることなく、この攻撃はモリブデンの5−配位中間体を生じ、次いでプロトン転移又は酸素の取り込み、脱水が行われる。中間沈殿物が現われないことが好ましい。
【0040】
本発明の好ましい態様では、ADMを使用すると、縮合型へパタモリブデンクラスタを低求核性のモリブデン化合物又はモノマーに蒸分解させる必要がない。このステップの省略は、溶解と沈殿に関する実際の反応速度(例えば、完全に再溶解しない中間沈殿物を避ける)となりADM前駆体は[NHMoS(以下ATTMという)を含む複数の所望のモリブデン−硫化物ターゲットへの反応性前駆体になり得る。
【0041】
溶液中のアンモニア水が不十分な場合、pHは弱酸性になる。この場合、ATTMの溶解度が低下する。更に、低下したpHでは、硫化物の完全な脱プロトン化が困難になる。HSやHSが溶液に残っている場合、[MoO2−から[MoS2−への変換は不完全になる。
【0042】
過剰量のアンモニアも問題を引き起こす。オキシチオモリブデン酸からテトラチオモリブデン酸の最後の硫化反応時には過剰なアンモニアが存在すると考えらえており、アンモニアがトリチオモリブデン酸ジアニオン[MoOS2−と競合してHSができ、これによって、例えば硫酸水素アンモニウム(NHSH)が作られる。過剰量の硫化水素(HS)が存在している場合でも、アンモニアが多すぎる場合は実質的にオキシチオブデートの硫化反応は起こらない(紫外光−可視光分析による)。
【0043】
したがってアンモニアとモリブデン酸塩のモル比は重要なパラメータとみなされる。一部の実施態様では、この第1ステップにおけるアンモニアとモリブデン酸塩のモル比は約1乃至約5から選択され、好ましくは約1.2乃至2、そして更に好ましくは1.6乃至1.7などの約1.5乃至約1.8である。
【0044】
一部の実施態様において、好ましい触媒を合成する第2ステップは、第1ステップで作成したモリブデン酸塩溶液に硫化水素(HS)を添加することであり、これによってATTMを合成する。配位不飽和8面体[MoO2−の優位が、これらの溶液を活性化し、[MoS2−を作る。このATTM溶液は飽和以下、又は飽和付近のATTM濃度である。一部の実施態様において、ATTM溶液は、わずかに過飽和である。発熱反応による熱が有益である。例えば、このような熱は特にpHが低下した後のろ過を容易にする。
【0045】
最後の硫化反応であるオキシチオモリブデン酸からテトラチオモリブデン酸への反応速度は遅いことが知られている。過剰のアンモニアが存在していない場合、過剰のHSを使用することで完全な硫化反応を推進することができる。ただし、本反応でHSが完全に変換されないのであれば、安全面を考慮すると過剰のHSは望ましくない。好ましくは、過剰のHSを導入する際はHSの反応に十分な時間をかける必要がある。この時間は、少なくとも約15分、そして好ましくは、少なくとも約30分(実施例と図1Aと1Bを参照)でよい。
【0046】
過度な待ち時間(例えば1時間以上)は好ましくないが、大気中の酸素は最終的に混合物と反応することができる。また、この反応溶液は一般的に過剰な水である。過度な待ち時間は加水分解を促進し、モリブデン種をオキシチオモリブデン酸に戻すことになる。モリブデン酸塩類すら完全に加水分解し、このプロセス中にHSに変わる。
【0047】
一部の実施態様では、テトラチオモリブデン酸溶液は紫外光−可視光分析では検出不能量の[MoOS2−を含んでいる(例えば、例1参照)。他の実施態様では[MoO2−から[MoS2−への変換が定量されないので、溶液に残っているのは非ゼロ量の[MoOS2−(オキシトリチオモリブデン酸ジアニオン)ということになる。この場合、[MoS2−/[MoOS2−の割合は、10、10、10又は10以下など、無限大以下である。この割合は、所望の中間体を作るためにゼロより大きい必要がある。[MoS2−/[MoOS2−比の例示的範囲は約5乃至100など約3乃至1000である。
【0048】
高アスペクト比の反応槽を使用し、HSをこの反応槽の底に添加できる。高アスペクト比の反応槽の1つの役割は、硫化水素が表面にいく前の溶液を通って実質的な移動をする必要があり、それによってHSの消費効率を高めることにある。好ましい実施態様では、反応槽は高いせん断速度と半径流に適した攪拌機を具えている。HSの小泡の形成は気層から液相へ物質移動抵抗を低下させるため有益である。同様に、HSの滞留時間と変換を高めるには実質的に軸流よりも半径流が有益である。
【0049】
当業者は所望の機能を達成するのに様々な装置を利用し得ることを理解するであろう。例えば反応槽は螺旋型撹拌機、ロータステータ攪拌機、又は他のタイプの混合機を利用し得る。好ましい撹拌機は分散攪拌翼である。反応槽は1以上の整流装置を具えていてもよく、一部の実施態様では、これが物質移動を高める。更に、HSの泡の大きさはマイクロバブル発生装置、高速ガススパージャ及びこれらの類似物によって小さくすることができる。
【0050】
Sの添加は[NHSと比較して有利である。HSが[NHSより有利な点は、一部の実施態様において、使用する水量が少なく、わずかなアンモニア添加量ですむことにある。これにより、ろ過する液量が少なくなり、作業効率の向上につながる。これは同時に、汚水処理システムのストレスを減らし得る。更にHSを使用することで、焼成中のアンモニア放出が減少し、その結果、焼成廃液から除去すべきアンモニアが少なくなる。
【0051】
[NHSへの言及は、本発明の目的にあわせた形式的なものであることに留意すべきである。[NHS溶液は、大量のHSアニオン、すなわち[NH][HS]塩と遊離アンモニア溶液を含み得る。pHと温度に相関した溶液平衡に応じて、有意な量の遊離硫化水素が溶液中に存在できる。
【0052】
Sの添加と、その後の沈殿反応は約15乃至25℃などの室温又は室温付近の温度で行われる。他の実施態様では、このステップを例えば約25乃至75℃の高温で行える。この温度は、HSの添加とその後の沈殿で変化し得る。ある沈殿反応の化学的性質は発熱反応であり、緩やかな温度上昇がおこり得る。
【0053】
一部の実施態様において、好ましい触媒を合成する第3ステップは、ATTM溶液に酢酸コバルト(II)溶液を添加することであり、これによって第1沈殿物が素早く生じる。この第1沈殿物はCoMoS、[NH[MoCoS]、CoS及び/又は通常の分析で検出できる他の化合物を含む。この沈殿反応は、残りの液体の成分を変えることがある。得られた懸濁液は沈殿物と溶解種の両方を含む。当業者には、このステップで、硫酸コバルトなどの(限定するものでない)他のコバルト塩を利用できることが自明である。
【0054】
この第1沈殿物は全ての反応混合物と比較して、より多くのコバルトを含む。理論的に制限されることなく、この沈殿物は溶液中の過剰なHSやHSにより生じていると推定される。第1沈殿物は所定の好ましい触媒組成物のX線分析によって観察できる結晶性の二硫化コバルトのもとでありうる。結晶性の二硫化コバルト相は、それ自体に触媒活性はないが、触媒支持体及び/又は高分散の二硫化モリブデン晶子の硫黄源を提供する。
【0055】
一部の実施態様において、好ましい触媒を合成する第4ステップでは、上述の第3ステップの懸濁液を他の反応槽に添加し、同時に硫酸(好ましくは濃硫酸)を加える。安全上の理由から混合液を撹拌することが重要である。更なる沈殿反応によって好ましくは第1沈殿を実質的に含む第2沈殿物ができる。この沈殿物は、好ましくはpH2乃至5の範囲、更に好ましくは3乃至3.5の範囲で行われる。硫酸(又は他の酸)のもうひとつの役割は、中程度の酸性条件にあるATTMの沈殿物が、容易にろ過できる粒径の大きな沈殿物になることである。中程度の酸性条件は沈殿粒子の成長を促進する。ある実施態様では最終pHを約3にすることで本技術分野で周知の製造装置を用いて容易にろ過できる粗大な沈殿物ができる。
【0056】
使用し得る適切なフィルター装置は、回転真空濾過機、高圧ガス濾過機(例えばPneumaPress(登録商標)filters)、カートリッジ濾過機、膜濾過機などの当業者に周知な装置を含むがこれらに限定するものではない。ある変形例では、ろ過桟及び/又は遠心分離機など他の分離装置を導入している。
【0057】
Wangらによれば、[NH[MoS]と硫酸を反応させてMoSを作ることができる(“アンモニウムテトラチオモリブデン酸溶液の酸化による二硫化モリブデンの合成”Mater.Sci.Lett.,vol.6,494−496,1996)。ChangとChanによればMoSはS2−とS2−の両方の種を含むアモルファスな化合物でありMo(S)(S)として調整できる(“赤外およびラマン分光によるアモルファス三硫化モリブデン及び不完全結晶型二硫化モリブデンの研究”J.Catal,vol.72,139−148,1981)。
【0058】
一部の実施態様では、好ましい触媒を合成する第5ステップは、上述の第4ステップで作成した溶液をろ過することである。母液から迅速に沈殿物を取り除いて、母液の低pHによって生じる金属の浸出を妨ぐことが好ましい。沈殿物は、大気中、又はほぼ不活性な環境などのその他の環境でろ過できる。好ましくは、乾燥したろ塊は不安定で自然発火性であるため、ろ塊は後述するステップ6の前に完全に乾燥させるべきでない。熱処理(後述する)前の洗浄とろ過後にろ塊に残留している余分な水分は、酸素と沈殿物の間のバリアとして機能することで沈殿物の全体的な酸化を妨げる。したがって、湿ろ塊は、取扱いの簡便さ提供をしている。
【0059】
ろ塊は、水及び/又は他の溶剤で洗浄できる。洗浄に使用する水の量は、湿ろ塊1つの体積よりも小さく、湿ろ塊の1又は2つ分、若しくは2つ分よりも大きいなど様々である。一部の実施態様では、硫酸塩(SO2−)の濃度があらかじめ定められた濃度より下がるまで、又は90%、95%、又は99%といった所定の割合の硫化物が取り除かれるまで洗浄を行う。カリウム(アルコール合成の促進剤)を加えた後に硫化カリウムが形成されないように、ろ塊から硫化物をほぼ洗い流すことが好ましい。硫化カリウムKSOはアルコール合成の低品質な促進剤であることが知られている。
【0060】
「実質的に不活性」とは、反応性ガス(例えばO)がある場合に、測定可能な副反応を生じさせないようにする十分な量又は濃度の不活性ガス(例えばN、Ar、He、CO、及びこれらの同等物)を含む環境を意味する。もちろん、一部の実施態様では「実質的に不活性な環境」は完全に不活性な環境を意味し得るが、少なくとも1分子の反応性ガスがほとんど常に存在していると認識されている。
【0061】
好ましい実施態様では、好ましい触媒を合成する第6ステップは第5ステップの湿ろ塊を、熱処理することである。本明細書で用いているように「熱処理」とは、乾燥と焼成を含む。熱処理を行う間に、水、アンモニア、及び硫化水素を含む揮発性成分は除去される。熱力学的に平衡状態で完全な除去が予測されたとしても実際はこれらの揮発性種を完全に除去できないと考えられる。
【0062】
一部の実施態様では、湿ろ塊の乾燥と焼成は単一又は連続的なステップで行うことができる。好ましい変形例では、乾燥と焼成の両方を実質的に不活性な環境で行うことで中間生成物の酸素への暴露を防ぐ。このような不活性乾燥/焼成により、合成ガスからC乃至Cアルコールを生成する改良触媒を作成できることが経験的に知られている。焼成は、この材料へのダメージを避けるため不活性環境で行うべきである。
【0063】
更に、ろ塊は最短の保存期間で乾燥と焼成を行うのが好ましい。最短保存期間とは、1週間以内、好ましくは2日以内、更に好ましくは1日以内、そして最も好ましくは、実質的にろ過の直後である。
【0064】
熱処理は窒素又は他のガスの流入下で行ってよく、様々な温度と時間を熱処理に用いることができる。温度は一般的に、処理を行う材料を収納する槽や容器に適用する温度(一般的には外部加熱)の平均を意味する。
【0065】
一部の実施態様では、第1温度は、乾燥すなわち水分の除去に関連する温度である。乾燥温度は約120℃といった約80℃乃至150℃から選択できる。一般的に、この材料の温度は、通常水がなくなった時に上昇し、気化熱に向かうより、より高熱で固体材料を更に加熱できる。
【0066】
選択的に、この温度は、第2の中間温度に上がり、この材料をしばらくの間(滞留時間)その温度で維持する。この材料は滞留時間前に乾燥していることが好ましいが、これは必須ではない。中間温度は、例えば約250℃といった、約200乃至300℃など、約100乃至400℃から選択される。滞留時間は、例えば4、8、12又は16時間など約1乃至24時間又はそれ以上の時間から選択されるが、この温度は例示にすぎない。滞留時間は一晩(例えば約12乃至18時間)を超えてよく、資源の効率化になる。本明細書の実施例2を参照すると、250℃又はそれ以上といった比較的高い中間温度と組み合わせて比較的短い滞留時間、例えば8時間、又はそれ以下とすることが好ましい。
【0067】
乾燥と選択的な滞留の後、材料を焼成する。焼成温度は例えば約500℃であり、約450乃至550℃など350乃至650℃の範囲から選択できる(例2を参照)。焼成時間は、焼結といった熱的破損に注意しながら、例えば約1時間、約2時間、又はそれ以上でよい。焼成は、ろ塊に含まれる成分の実際の融点よりも低い温度で行わなくてはならない。過剰な焼成条件は、沈殿物に存在する種の好ましくない不要な結晶化を引き起こすこともある。焼成は(例えば)炉内の回転式レトルトなど任意の適切な装置で行う。焼成は乾燥で使用したものと同じ装置又は異なる装置で行うことができる。
【0068】
代替的に、熱処理に単一温度を選択できる。この温度は、例えば約200乃至600℃から選択できる。熱源(例えば炉)に関連する一定の温度を用いたとしても熱処理は水を除去して行われ、発熱性又は吸熱性の様々な構造変化の下におこなわれているため、材料の表面温度及び/又は内部温度は様々に変化しうることがわかっている。
【0069】
焼成後、窒素などの不活性ガス下で焼成材料を冷ますのが好ましい。一部の実施態様では、焼成材料の取り出しは実質的に不活性な大気中で行うのが好ましい。
【0070】
現在、前述の合成ステップは、硫黄/金属比が高い触媒前駆体を生成することができ、このような組成はエタノールやその他のアルコール生産用に好ましいと考えられいる。本明細書に列挙した6つのステップによる所定の実施態様では、最終組成物は二硫化コバルト1分子につき2分子の二硫化モリブデンの均質混和物を含む。
【0071】
より一般的には、本発明の方法は、合成ガスから少なくとも1のC乃至Cアルコールを含む生成物への変換を触媒するコバルト、モリブデン及び硫黄を含む触媒組成物の合成に適しており、ここでは少なくとも一部のコバルトと一部の硫黄はコバルト−硫黄結合として存在しており、この結合の硫黄とコバルトのモル比(S:Co)は、少なくとも1.2である。このS:Coのモル比は、全てのモリブデンが二硫化モリブデンとしての組成物中に存在していると仮定して硫黄をモリブデンに割り当ててて、選択的に元素状の硫黄成分を差し引いた後に計算できる。所望であれば、S:Coは、3Nの塩酸中に溶けている硫黄を差し引いた後に計算してもよい。この特許は一部の実施態様において、このS:Coのモル比は少なくとも1.5、少なくとも2.0、又は約2.0と4.0の間である。
【0072】
本方法により生成できる組成物は、2008年9月4日に出願し同時係属中の米国特許出願第12/204,543号又は2010年4月29日に出願した米国特許出願第12/769,850号に記載及び/又は主張されている触媒を少なくともいくらか含む。本明細書の全趣旨を参照することによってここに組み込まれている。
【0073】
本発明の他の実施態様では、この触媒組成物がC乃至Cアルコールを生成するリアクタ中で使用されている。触媒組成物はカリウムなどのアルカリ又はアルカリ土類金属の「塩基促進剤」を結合されていない状態で又は結合させた状態で含む触媒組成物へ改変することが好ましい。このような塩基促進剤の特徴は、メタノールより大きいアルコール類への選択性を高めることである。一部の実施態様では、少なくとも1の塩基促進剤はバリウム、ストロンチウム、スカンジウム、及びイットリウムから成る群から選択される。一部の実施態様では、少なくとも1の塩基促進剤はランタノイド金属から選択される。塩基促進剤は、例えば乾燥状態で磨り潰す等の既知の任意の手段で組み込んでよい。
【0074】
本発明の所定の変形例において、1又はそれ以上の塩基促進剤を乾燥と焼成前に湿ろ塊に組み込んでいる。例えば上記列挙した第5ステップの後であるが、第6ステップの前に、湿ろ塊をペレット状、粉末状、その他の所定の形状で、固体の水酸化カリウムと混合できる。次いで、この混合材料を本発明の方法したがって熱処理する。この方法によって作成した促進触媒は、例えば乾燥混合によって作成した触媒と比べて、同様の活性と選択性(アルコール類への)を持ち得ることが確認されている。
【0075】
メタノール、エタノール又はメタノールとエタノールの両方が所望のアルコール産物になり得る。いくつかの変形例においては、エタノールが所望の産物であり、メタノール共供給はエタノールに対する選択性と収量を増加させるのに有効である。共供給するメタノールは新生又は再生メタノールでよい。これらの実施態様は、本発明に従って作成される所定の触媒組成物はメタノール/合成ガス平衡法でエタノールの収量を高めることができるという認識を前提にしている。メタノールを共供給することで、リアクタより低温で作動させて同じ又はより高いエタノール収量を達成できる。低温にすることで直接的な炭化水素の合成を抑制するだけでなく、アルコールが炭化水素へ還元されることを抑制し、これによってエタノールへの選択性を高まる。一部の実施態様では、メタノール共供給は合成ガス供給とおおよそ平衡量、又は平衡量の25乃至75%など平衡量以下でよい。
【0076】
この触媒は粉末、ペレット、顆粒、ビーズ、押出成形物及びその他の形状をとり得る。触媒担体は選択的に用いられ、この担体はペレット、球、モノリシックチャネル等の任意の物理的形状をとりうる。担体は活性金属種と共沈殿する;又は、担体は触媒金属種で処理して、そのまま又は前述の形状にして使用する;または前述の形状にして、次いで触媒種で処理してもよい。
【0077】
触媒担体を使用する本発明の実施態様では、この担体は、好ましくは大容積のメソ細孔を有する炭素を多く含有する材料であることが好ましく(必須ではないが)、更に、高摩擦抵抗のものが好ましい。使用できる炭素担体のひとつは、酸と塩基媒体中で化学的不活性であると共に広い表面積を有するSibunit活性炭素(Boreskov Inst of Catalysis,Novosibirsk,Russia)である(Simakova et al,Proceedings of SPIE−Volume 5924,592413,2005)。触媒担体としてSibunit炭素を使用する例は米国特許第6,617,464号(Manzer)で見られる。
【0078】
初期触媒を充填し、活性化する前は、初期触媒は不活性環境下で保存するのが好ましい。実際は空気への暴露を完全に遮断するのは困難である。好ましい実施態様では6時間未満、より好ましくは3時間未満、そして、最も好ましくは1時間未満、初期触媒を空気に暴露する。
【0079】
一部の実施態様では、合成ガスからアルコールを生成する効果的な条件には、約0.2乃至4.0、好ましくは約0.5乃至2.0、さらに好ましくは約0.5乃至1.5のモル比の水素/一酸化炭素(H/CO)の供給を伴っている。これらのモル比は、所定の実施態様を示しており、限定するものではない。4より大きく0.2より小さく5、10、又はそれより大きなH/COの供給比で作用することが可能である。H/COの高い比率は、合成ガスからアルコールへのリアクタが作動する前の、広範囲の水蒸気形成及び/又は水性ガスシフトを伴って生じることはよく知られている。
【0080】
実施態様において、アルコール合成には約1:1のH/CO比が好ましく、炭素質の工業原料の部分酸化を利用できる。他の反応物がない状態では、供給原料の化学量論に応じて、炭素質原料の部分酸化は1:1に近い比率のH/COを生成する傾向にある。
【0081】
ある実施態様では、比較的低いH/CO比が望まれる場合、逆水−ガスシフト反応(H+CO→HO+CO)は水素を消費し、H/CO比を低下させるのに潜在的に使用される。一部の実施態様ではアルコール合成、又はその他で発生した二酸化炭素を改質装置にリサイクルさせてアルコール合成リアクタに入るH/CO比を低下させることができる。合成ガスをアルコールに変換する前に、他の化学的方法や分離法を用いることでH/CO比を調整できることは自明である。例えば、ある市販の膜システムは合成ガスから水素を選択的に分離して、これによりH/CO比を低下させることができることが知られている。
【0082】
一部の実施態様では、合成ガスからアルコール生成する効果的な条件として約200乃至400℃のリアクタ温度と;好ましくは約250乃至350℃;そして、約20乃至500atm好ましくは約50乃至200atm又はそれ以上のリアクタ圧力がある。一般的に、リアクタ圧力の増加に伴い生産性が向上する。これらの範囲外の温度と圧力を使用し得る。
【0083】
一部の実施態様では、合成ガスからアルコールを生成する有効な条件に、約0.1乃至10秒好ましくは0.5乃至2秒の平均リアクタ滞留時間がある。「平均リアクタ滞留時間」は実際の作動条件下での滞留時間分布の平均である。触媒空間時間(Catalyst space times)又は触媒接触時間も当業者が計算でき、一般的にこれらの時間は同様に約0.1乃至10秒の範囲内であり、これらの時間よりも確実に長くも短くも制御できることが目的である。
【0084】
一般的に、触媒の形状(ジオメトリー)、H/CO比、温度、圧力、滞留時間(又は供給率)、又はその他のリアクタ技術関連のパラメータは、経済的なプロセスを提供するように選択される。これらのパラメータ又は、本発明に不可欠なものとして考えられておらず、当業者が特定の物質に対する選択性を最適化する様々な反応条件を試みる中にある。
【0085】
生成物の選択性は炭素原子ベースで計算できる。「炭素−原子選択性」とは全生成物のトータルモルに対する特定の物質のモルの比を意味し、その種中の炭素数で計測される。この定義は反応によるモル数の変化を説明している。一般生成物Cxj、Hyj、Ozjへの選択性Sは、

であり、ここでFはx個の炭素原子を含有する種jのモル比であり、この総量は本反応で生成された全炭素含有種(Cx i、Hy i、Oz i)全部にわたる。一部の実施態様では、全生成物が同定され、測定され、個々の選択性の和は1である(プラスマイナスは分析誤差)。他の実施態様において、1又はそれ以上の生成物が退出流から同定されず、この選択性は実際にどの生成物が同定されたか、又はこれに変えてCOの変換に基づいている。
【0086】
本発明の様々な実施態様において、リアクタからの生成物流はメタノールに対して約10乃至60%又はそれ以上、及びエタノールに対しては約10乃至50%又はそれ以上の反応選択性により特徴づけられる。リアクタからの生成流は例えばC3+アルコール類に対して25%までの反応選択性があり、非アルコール型酸化物であるアルデヒド、エステル、カルボン酸、及びケトンに対して10%までである。これらの他の酸化物には例えば、アセトン、2−ブタノン、酢酸メチル、酢酸エチル、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸、プロパン酸、酪酸を含んでよい。
【実施例1】
【0087】
この実施例1は溶液中のオキシチオモリブデン酸からテトラチオモリブデン酸種への例示的な変換の紫外光−可視光検出を示す。
【0088】
図1Aは約200乃至600nmの放射波長における紫外光−可視光スペクトルを示している。図1Bは図1Aの特に対象となる320−470nmの波長を強調したものである。図1Bは、溶液中のオキシチオモリブデン酸種が38分強で消失したことを示し、この時間内に完全にまたはほぼ完全にオキシチオモリブデン酸からテトラチオモリブデン酸に変換したことを示唆している。
【0089】
約396nmにピークがないことに加え、図1Aは約468nm、約317nm及び約242nm(機器解像度あたりの変動が±1.5nm)にATTMに関する3つの吸収帯を示している。
【実施例2】
【0090】
この実施例2ではコバルト−モリブデン−硫化物沈殿物の前駆体粉末を形成するコバルト−モリブデン−硫化物沈殿物の乾燥と焼成に関連する実験効果について実験計画方法論を適用し統計的に評価した。
【0091】
本実験は、8時間と16時間の乾燥滞留時間と共に120℃、185℃及び250℃の乾燥温度を完備要因に含んでいる。乾燥後、約500℃で約1時間焼成を行って前駆体粉末を生成し、次いでカリウムを用いて最終コバルト/モリブデンン/硫黄/カリウム触媒粉末の形成を促進する。次いで、最終コバルト/モリブデン/硫黄/カリウム触媒を310℃、1270psig、約3900GHSv、及びH/CO比=1.6(供給物に7%メタン(CH)と7%二酸化炭素(CO)の供給を含む)の試験リアクタに入れ、試験を行って実験反応を生成する。
【0092】
本実験結果は、より高い乾燥温度と短い滞留時間が一般的に良好であることを示唆している。炭化水素類(メタンなど)の生成の低下は、約130℃より低い温度で乾燥させることで、又は乾燥温度が130℃を超えている場合は滞留時間を最短化することで達成し得る。
【0093】
乾燥温度を最大化し、滞留時間を最短化することでエタノールとメタノールの生成を良好にできる。本研究の制約の範囲内では、250℃で8時間の乾燥が好ましい。図2は、温度と時間に対するエタノールの収量応答を示しており、この応答面は本実施例の実験データから構築されている。この結果は、同様にC乃至Cアルコール生成には250℃以上のより高い温度及び/又は8時間以下のより短い滞留時間での乾燥すらも望ましいであろうということを示唆している。
【0094】
図3は、本実施例において、エタノール生成率(1グラムのCo/Mo/Sあたりの1時間あたりのエタノールの分子量)が、関連する条件の予測平衡値のパーセンテージとしたメタノール平衡への接近と非常によく相関していることを示している。
【実施例3】
【0095】
実施例3では、説明のために本発明の所定の変形例を行っている。
【0096】
ステップ1では、二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させている。アンモニアが化学量論的に15%過剰に存在する反応である。
[Mo2−+2NH+HO→2[MoO2−+2[NH
モリブデン濃度は0.3モル濃度である。
【0097】
ステップ2では、HS/モリブデンは4.2±0.1のモル比のモリブデン酸アンモニウムをHSと反応させてテトラチオモリブデン酸アンモニウムに変換している。
【0098】
ステップ3では、溶解限界(約1モル溶液)で酢酸コバルト(II)・4水和物を調整している。
【0099】
ステップ4では、酢酸コバルトをテトラチオモリブデン酸溶液に添加している。初期沈殿物が形成されるが、一部のチオモリブデン酸は溶液中に残り、結果としてコバルト−モリブデン−硫黄懸濁液ができる。
【0100】
ステップ5では、コバルト−モリブデン−硫黄懸濁液を沈殿槽へ吸い出して沈殿反応を終了させている。この槽は、当初は2%v/vの硫酸溶液で満たされている。この当初硫酸溶液の量は、ろ過する液体の総量の約8%である。同時に濃硫酸をコバルト−モリブデン−硫黄懸濁液に沈殿槽に添加している。この酸性沈殿反応の間に硫化水素が変化する。この沈殿反応を通してpHは2.5乃至3.0の範囲に維持されている。
【0101】
ステップ6では、沈殿物をろ過し、洗浄することで約2kgの材料を得ている。焼成前に2リットルの蒸留水で1回洗うことで洗浄を行っている。
【0102】
ステップ7では、湿ろ塊を乾燥させ、次いで約500℃で約1時間焼成しており、両工程を窒素下で行っている。
【0103】
ステップ8では、焼成材料を完成触媒にする更なる処理を行うために窒素下で梱包した。
【0104】
この詳細な説明では、複数の実施態様と非限定的実施例に関して本発明を理解し実施することができるように説明をしている。ここに記載された特徴と利点の全てを提供していない他の実施態様は、本発明の精神と範囲から逸脱することなく利用することができる。本発明は、本明細書に記載の方法とシステムの日常的な実験と最適化が組み込まれている。このような変更及び変形は特許請求の範囲によって定義されている発明の範囲内であると考えられる。
【0105】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願は、各刊行物、特許、又は特許出願を具体化し個別化して記載されているかのように、これら全体を参照することによって本明細書に組み込まれている。
【0106】
上記の方法とステップは特定の順序で発生する特定の事象を示し、当業者は、所定のステップの順序は変更される可能性があり、そのような変更は本発明の変形例に従っていることを認識すべきである。さらに、ステップの一部は順番に実行されるだけでなく並列処理で同時に実行できる。
【0107】
したがって、添付の特許請求の範囲に記載されている発明の開示、又は同等の精神内にある発明の変形である限り、同様にそれらの変形も包含していることを意図するものである。本発明は、請求書で主張されている範囲に限定されるものする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト−モリブデン−硫化物組成物を作成する方法であって:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
を具えており、
ステップ(vi)は前記ろ塊を実質的に不活性な環境で乾燥させて乾燥材料を作成するステップと、当該乾燥材料を焼成して前記焼成材料を作成するステップとを具えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、ステップ(i)は、前記二モリブデン酸アンモニウムに含まれるモリブデンのモル数で除した、前記アンモニア水に含まれるアンモニアのモル数比は、約1.2乃至約2から選択されることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記比が、約1.5乃至約1.8から選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、ステップ(ii)が、前記[MoS2−を生成するように化学量論的に過剰の前記硫化水素を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、ステップ(ii)、又はステップ(iii)の前記テトラチオモリブデン酸溶液が、過飽和であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記テトラチオモリブデン酸溶液が、更に、非ゼロ量の[MoOS2−を含んでいることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記前記テトラチオモリブデン酸溶液中の[MoS2−/[MoOS2−比が、約5乃至約100の間にあることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、ステップ(iii)の前記Co(II)溶液が、コバルト酢酸溶液であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、ステップ(iii)の前記Co(II)溶液がコバルト硫酸溶液であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、ステップ(v)が、大気中でろ過するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法において、ステップ(v)が、実質的に不活性な環境下でろ過するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法が、更に、ステップ(v)の後、前記ろ塊を水で洗浄するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記洗浄が洗浄前に存在する硫酸塩の少なくとも99%を除去することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法において、前記ろ塊がステップ(v)と(vi)の間で乾燥させないことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法において、ステップ(vi)が、前記乾燥材料を実質的に不活性な環境中で焼成するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法が、更に、前記焼成材料を実質的に不活性な環境中で冷却するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1に記載の方法において、ステップ(vi)をステップ(v)の直後に実行することを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1に記載の方法が、更に、前記焼成材料をアルカリ又はアルカリ土類から選択される塩基促進剤と結合させて塩基促進性触媒を作成するステップ具えることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法において、前記塩基促進剤が水酸化カリウム、炭酸カリウム、シュウ酸カリウム、及び酢酸カリウムから成る群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法において、前記塩基促進剤がステップ(vi)の前に前記ろ塊に組み込まれることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項20に記載の方法において、前記塩基促進剤が前記ろ塊に固体で添加され、次いで、前記ろ塊と前記塩基促進剤がまとめてステップ(vi)に供されることを特徴とする方法。
【請求項22】
コバルト−モリブデン−硫化物組成物を作成する方法であって:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
を具え、
ステップ(vi)が、約80乃至200℃から選択される乾燥温度で乾燥するステップと、約350乃至600℃から選択される焼成温度で焼成するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項22に記載の方法において、前記乾燥温度が、約100乃至150℃から選択されることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項22に記載の方法において、前記焼成温度が、約450乃至約550℃から選択されることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法において、前記焼成が、約10分乃至約4時間から選択される時間行われることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法において、前記焼成時間が、約1乃至2時間から選択されることを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項22に記載の方法において、前記乾燥と焼成が同じ装置で実行されることを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項22に記載の方法において、ステップ(vi)が、更に、前記乾燥温度より高く焼成温度より低い中間温度で滞留させるステップを具え、前記滞留が約1乃至24時間で実行されることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、前記中間温度が、約120乃至350℃から選択されることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法において、前記中間温度が、約200乃至300℃から選択されることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項28に記載の方法において、前記滞留時間が、約2乃至16時間から選択されることを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法において、前記滞留時間が、約4乃至8時間から選択されることを特徴とする方法。
【請求項33】
少なくとも1のC乃至Cアルコールを生成する方法であって:
(i)二モリブデン酸アンモニウム[NH[Mo]をアンモニア水に溶解させてモリブデン酸塩溶液を作成するステップと;
(ii)硫化水素を前記モリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて[MoS2−含むテトラチオモリブデン酸塩溶液を生成するステップと;
(iii)Co(II)溶液を前記テトラチオモリブデン酸塩溶液の少なくとも一部と結合させて懸濁液中に第1沈殿物を形成するステップと;
(iv)硫酸を少なくとも一部の前記懸濁液と結合させて第2沈殿物を形成するステップと;
(v)前記第2沈殿物をろ過するステップであって、このろ過によって前記第2沈殿物中の水の一部を取り除き、ろ塊を作成するステップと;及び
(vi)前記ろ塊を熱処理し、コバルト、モリブデン及び硫黄を含む焼成材料を作成するステップと;
(vii)前記焼成材料をアルカリ又はアルカリ土類から選択される塩基促進剤と結合させて塩基促進性触媒を作成するステップと;及び
(viii)前記塩基促進性触媒を用いて合成ガスを反応させて少なくとも1のC乃至Cアルコールを生成するステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法において、前記少なくとも1のC乃至Cアルコールが、エタノールであることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法が、更に、前記合成ガスと平衡量のメタノールを共供給するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項33に記載の方法が、更に、前記合成ガスと平衡する量より少ないメタノールを共供給するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項33に記載の方法において、ステップ(vi)が、実質的に不活性な環境中で前記ろ塊を乾燥させて前記乾燥材料を作成するステップと、次いで前記乾燥材料を焼成して前記焼成材料を作成するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項33に記載の方法において、ステップ(vi)が、約80乃至200℃から選択される乾燥温度で乾燥させるステップと、約350乃至650℃から選択される焼成温度で焼成するステップとを具えることを特徴とする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−532011(P2012−532011A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−517840(P2012−517840)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/040290
【国際公開番号】WO2011/008513
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(594066006)アルベマール・コーポレーシヨン (155)
【Fターム(参考)】