説明

高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法

【課題】
微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】
高結晶性ナノ銀粒子を含み、且つ水を含まない高結晶性ナノ銀粒子スラリーであって、前記高結晶性ナノ銀粒子は、TEM観察平均粒径DTEMが100nm未満、粒度分布の標準偏差を前記TEM観察平均粒径DTEMで除した変動係数が0.25以下である高結晶性ナノ銀粒子スラリー。非水還元溶媒中に銀塩を溶解して反応液を作製した後、該反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元して、高結晶性ナノ銀粒子を含み且つ水を含まない高結晶性ナノ銀粒子スラリーを作製する高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高結晶性銀粉の製造原料として用いられる高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法に関し、詳しくは、例えば、チップ部品、プラズマディスプレイパネル等の電極や回路を、大幅にファイン化し、高密度及び高精度で且つ高信頼性をもって形成することができる導電性ペースト、特に微細な配線又は薄層で平滑な塗膜等を高密度及び高精度で且つ高信頼性をもって形成することができる導電性ペーストの製造に好ましい、高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品等の電極や回路を形成する方法として、導電性材料である銀粉をペーストに分散させた導電性ペーストを基板に印刷した後、該ペーストを焼成又はキュアリングし硬化させて回路を形成する方法が知られている。しかし、近年、電子機器の高機能化により電子デバイスの小型高密度化が求められており、このため、導電性ペーストの材料である銀粉にも、導電性ペーストとしたときに充填性が良いようにより微細であり、且つ導電性ペーストとしたときに分散性が良いように粒度分布がよりシャープであることが望まれるようになってきている。
【0003】
一方、導電性ペーストが印刷される基板としては、セラミック基板が挙げられるが、ICのパッケージ等の発熱が大きい部分等に問題が生じ易い。具体的には、セラミック基板に導電性ペーストを印刷する場合には、セラミック基板の熱収縮率と印刷した導電性ペーストから生成される銀厚膜の熱収縮率とが一般的に異なるため、焼成時においてセラミック基板と銀厚膜とが剥離したり基板自体が変形したりするおそれがある。このため、セラミック基板の熱収縮率と印刷した導電性ペーストから生成される銀厚膜の熱収縮率とは、なるべく近い値を採るものであることが好ましい。
【0004】
このような焼成時における上記銀厚膜の熱収縮の一因としては、導電性ペースト中の銀粉が焼成時に再結晶を起こすことにあるものと考えられている。すなわち、銀粉は微小な結晶子から構成される多結晶体であり、銀粉を含む導電性ペーストを銀厚膜の形成のために焼成する際に銀粉中の微小な結晶子が再結晶化するため、銀厚膜の生成前後で寸法変化が生じ熱収縮を起こすものと考えられる。このため、熱収縮の少ない銀粉含有導電性ペーストを得るには、結晶子の再結晶化がなるべく生じないように、銀粉中の結晶子径が大きいこと、すなわち結晶性の高いものであることが望ましい。上記のように、導電性ペーストに用いられる銀粉には、微粒で、粒度分布がシャープであり、且つ結晶性が高いものであることが望まれている。
【0005】
これに対し、特許文献1(特開2000−265202号公報)には、硝酸銀結晶を所定温度で加熱溶融した溶融物を噴霧して液滴にし、該液滴を所定温度で熱分解させる銀粉末の製造方法が開示されており、該方法によれば、凝集体でなく、粒子の一つ一つが均一で、粒子径が2μm〜4μmの狭い範囲にある銀粉末が得られる。
【0006】
また、特許文献2(特開2001−107101号公報)には、いわゆる噴霧熱分解法を用いた製造方法であって、所定のアンミン銀錯体水溶液(a)と所定の還元剤水溶液(b)とを、所定条件で混合して銀粒子を還元析出させる高分散性球状銀粉末の製造方法が開示されており、該方法によれば、凝集体でなく、比較的微粒、例えば、D50が1μm〜5μm程度の銀粉末が得られる。
【0007】
【特許文献1】特開2000−265202号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2001−107101号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年は電極や回路を大幅にファイン化するべく導電性ペースト中の銀粉のさらなる微粒化が望まれているため、特許文献1に記載の銀粉末の粒子径が2〜4μmの範囲や、特許文献2に記載の銀粉末のD50が1μm〜5μm程度の範囲のものでは、電極や回路のさらなるファイン化にとって不十分であるという問題があった。また、特許文献1及び特許文献2に記載の銀粉末は、該銀粉末を用いた導電性ペーストをセラミック基板に印刷して焼成すると、銀粉末の再結晶化により銀厚膜の熱収縮が大きいため銀厚膜がセラミック基板の収縮等の差により反りが生じるという問題があった。このように、従来技術においては、微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い銀粉が得られていない。
【0009】
ところで、このような物性の高結晶性銀粉を製造する場合、特許文献1に記載されているような噴霧熱分解法に比べて特許文献2に記載されているような還元法の方が(粒度分布がシャープな銀粉を得易いため好ましい。そこで、還元法により高結晶性銀粉を製造する場合、最終製品である高結晶性銀粉が上記のように微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高いものであるためには、中間体であるナノ銀粒子も、同様に微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高いものであることが好ましい。
【0010】
従って、本発明の目的は、微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる実情において、本発明者は鋭意検討を行った結果、非水還元溶媒中に銀塩を溶解して反応液を作製した後、該反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元すると、微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い高結晶性ナノ銀粒子を含む高結晶性ナノ銀粒子スラリーが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明(1)は、高結晶性ナノ銀粒子を含み、且つ水を含まない高結晶性ナノ銀粒子スラリーであって、前記高結晶性ナノ銀粒子は、TEM観察平均粒径DTEMが100nm未満、粒度分布の標準偏差を前記TEM観察平均粒径DTEMで除した変動係数が0.25以下であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーを提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、本発明(1)において、前記高結晶性ナノ銀粒子は、結晶子径が5nm以上であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーを提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、非水還元溶媒中に銀塩を溶解して反応液を作製した後、該反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元することを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、本発明(3)において、前記非水還元溶媒が、1,2−ジクロロベンゼン、オレイルアミン、トリス−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール及び2,3−ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種のジオール化合物を含むものであることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(5)は、本発明(3)又は本発明(4)において、前記非水還元溶媒が、分散剤としてさらにポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ドデシル硫酸ナトリウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明(6)は、本発明(3)〜本発明(5)のいずれかにおいて、前記マイクロリアクターは、マイクロ流路断面の最小径が1mm以下であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明(7)は、本発明(3)〜本発明(6)のいずれかにおいて、前記マイクロリアクター中の前記反応液の流量が、500μl/min以下であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明(8)は、本発明(3)〜本発明(7)のいずれかにおいて、前記還元温度が、100℃以上であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明(9)は、本発明(3)〜本発明(8)のいずれかにおいて、前記還元時間が、4秒〜10分であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、含まれる高結晶性ナノ銀粒子が微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性が高いため、微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い高結晶性銀粉の製造原料として好適である。また、本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法は、上記本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法)
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法は、まず、非水還元溶媒中に銀塩を溶解して反応液を作製する。本発明で用いられる銀塩としては、例えば、酢酸銀、硝酸銀、酸化銀、炭酸銀等が挙げられる。
【0023】
本発明において非水還元溶媒とは、銀塩を溶解可能で且つ銀イオンに対し還元剤として作用する溶媒であって水を含まない溶媒をいう。非水還元溶媒としては、例えば、1,2−ジクロロベンゼン、オレイルアミン、トリス−(2−エチルヘキシル)ホスフェート(TOP)、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール及び2,3−ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種のジオール化合物を含むものが挙げられる。このうち、1,2−ジクロロベンゼン、オレイルアミン、トリス−(2−エチルヘキシル)ホスフェートは、銀イオンの還元性を高めると共に、生成する高結晶性ナノ銀粒子が凝集し難くなるため好ましい。また、エチレングリコールは、銀塩の溶解性及び銀イオンの還元性が高くなるため好ましい。
【0024】
また、非水還元溶媒は、必要により、還元剤として、クエン酸水素二アンモニウム等を配合してもよい。還元剤を添加すると、還元性を高めることかできるため好ましい。
【0025】
また、非水還元溶媒は、必要により、分散剤としてさらにポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ドデシル硫酸ナトリウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。非水還元溶媒がさらに分散剤を含むと、後述の反応液中で還元され析出した結晶性ナノ銀粒子が無秩序に成長して凝集することを抑制することができ、一次粒子同士が凝集していないという意味での分散性に優れた高結晶性銀粉を得ることができるため好ましい。分散剤は、例えば、非水還元溶媒と共に混合し、攪拌することにより、非水還元溶媒に溶解させることができる。
【0026】
非水還元溶媒と分散剤とを混合する場合、非水還元溶媒に対する分散剤の配合割合は、非水還元溶媒1lに対し、通常5g〜100g、好ましくは15g〜50gである。上記配合割合が、該範囲内にあると、高結晶性ナノ銀粒子を作製し易くなり、この結果大きな結晶子径を有する高結晶性銀粉を得易くなるため好ましい。一方、上記配合割合が、非水還元溶媒1lに対し100gを超えると、銀イオンの還元反応が起こり難くなるためあまり好ましくない。
【0027】
反応液は、非水還元溶媒中に銀塩を溶解して得られる。非水還元溶媒中に銀塩を溶解する方法としては特に限定されないが、例えば、攪拌した状態の非水還元溶媒中に銀塩を投入して溶解させる方法が挙げられる。なお、反応液の調製の際、すなわち、銀塩を溶解させる状態では、銀イオンの還元反応が進行しないようになるべく低温、例えば、30℃以下に維持することが好ましい。
【0028】
反応液中、非水還元溶媒に対する銀塩の配合割合は、非水還元溶媒1lに対し、通常1g〜100g、好ましくは1g〜50gである。上記配合割合が、該範囲内にあると、高結晶性ナノ銀粒子を作製し易くなり、この結果大きな結晶子径を有する高結晶性銀粉を得易くなるため好ましい。一方、上記配合割合が、非水還元溶媒1lに対し1g未満であると、銀粉の生産性が低下し易いためあまり好ましくない。また、上記配合割合が、非水還元溶媒1lに対し100gを超えると、高結晶性銀粉が互いに凝集し易くなるという意味で高結晶性銀粉同士の分散性が低下し、また、高結晶性銀粉がマイクロリアクターの反応流路の壁面に付着し易くなるためあまり好ましくない。
【0029】
本発明では、反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元する。ここでマイクロリアクターについて、図1を用いて説明する。図1は、代表的なマイクロリアクターの模式的な斜視図である。マイクロリアクター1は、基板6に、流路入口2a、2b、流路入口2a及び2bからの流路が統合される流路接合部3、マイクロ流路4及び流路出口5がこの順番で形成され、さらに基板6と蓋部7とが接合されることにより、流路入口2a、2b及び流路出口5以外が外界から遮断された連続した流路を有する構造の反応器である。このマイクロリアクター1を用いると、流路入口2a又は2bのいずれか又は両方から導入された原料X及び/又はYを、マイクロ流路4内で反応させ、生成物Zを流路出口5から取り出すことができる。
【0030】
マイクロリアクター1の材質は、マイクロ流路内を流れる物質に対して耐薬品性、耐熱性等を有するものであればよく特に限定されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル樹脂(PMMA)等が挙げられる。このうち、ポリテトラフルオロエチレン又はアクリル樹脂は、マイクロ流路等の加工が容易であるため好ましい。
【0031】
マイクロ流路4の断面形状は、特に限定されものでなく、例えば、円状、楕円状、矩形状等のいずれであってもよい。このうち、円状であると、被反応物及び反応物がマイクロ流路内を流れ易く、反応がマイクロ流路内の断面方向で均一に起こり易いため好ましく、また、矩形状であると、フラットエンドタイプのマイクロドリルを用いることで簡単に作製することができるため好ましい。なお、マイクロ流路4の断面形状が円状、楕円状等であるためにマイクロドリルを用いて加工することができない場合であっても、例えば、エッチング等を行うことによりこれらの形状のマイクロ流路を形成することは可能である。
【0032】
本発明で用いられるマイクロリアクターは、マイクロ流路断面の最小径が1mm以下、好ましくは500μm以下である。マイクロ流路断面の最小径が該範囲内にあると、反応液が層流で流れるため、特有のシャープな粒度分布を有する銀粒子が得られ易く、この結果最終製品である高結晶性銀粉が微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性が高くなり易いため好ましい。一方、マイクロ流路断面の最小径が1mmを超えると、流路内に乱流が発生し、最終製品である高結晶性銀粉の粒度分布がブロードになり易いためあまり好ましくない。
【0033】
なお、本発明においてマイクロ流路断面の最小径とは、マイクロ流路4の流れ方向に垂直方向の断面の最小長さであり、マイクロ流路の断面形状が円状であれば直径、楕円状であれば短径、矩形状であれば短い方の辺すなわち例えば幅や高さの長さ、それ以外の形状であれば実質的に最小となる部分の長さを意味する。
【0034】
また、本発明で用いられるマイクロリアクターとしては、図示しないが、マイクロリアクター全体を管状物で形成したものを用いることもできる。該管状物としては、例えば、内部に上記マイクロ流路を有するポリテトラフルオロエチレンチューブが挙げられる。このような装置を採用すると、ポリテトラフルオロエチレンチューブをオイルバスに浸漬する長さを調整することにより反応時間の調整を容易にすることができると共にマイクロリアクターが低コストのものになるという長所がある。
【0035】
本発明では、上記反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元して、高結晶性ナノ銀粒子を含み且つ水を含まない高結晶性ナノ銀粒子スラリーを作製する。反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元する方法としては、例えば、マイクロ流路4内の反応液をヒーター等で所定温度に加熱する方法が挙げられる。
【0036】
上記還元反応を起こさせる還元温度としては、通常100℃以上、好ましくは140℃〜180℃、さらに好ましくは150℃〜180℃である。該還元温度が該範囲内にあると、反応液中の銀イオンの還元反応が比較的ゆっくり進行して高結晶性ナノ銀粒子が高い結晶性を維持しながら成長し、この結果、高結晶性銀粉の結晶子径が大きくなり易いため好ましい。
【0037】
一方、上記還元温度が100℃未満であると、反応時間がかかり過ぎたり反応が進行しなくなったりするおそれがあるためあまり好ましくなく、また、上記還元温度が高すぎると、ナノ銀粒子の結晶子径が十分に大きくなり難いためあまり好ましくない。なお、本発明では、銀イオンの還元反応がマイクロリアクター1の微小なマイクロ流路4内で行われるため、熱交換の効率が極めて高く、急激な加熱又冷却が容易であり、還元温度の温度制御を容易に行うことができる。
【0038】
上記還元反応を起こさせる還元時間としては、通常4秒〜10分である。還元時間が短すぎるとナノ銀粒子が十分に成長しないおそれがあるためあまり好ましくなく、また、還元時間が長すぎるとナノ銀粒子が成長しすぎるおそれがあるためあまり好ましくない。
【0039】
また、マイクロリアクター中の前記反応液の流量は、通常500μl/min以下、好ましくは100μl/min〜400μl/minである。該流量が該範囲内にあると、マイクロ流路4内の反応液の流れが層流を形成して、得られる高結晶性ナノ銀粒子の粒径を小さくし且つ結晶性を高くし易いため好ましい。
【0040】
一方、上記流量が500μl/minを超えると、マイクロ流路4内の反応液は流れが乱流を形成して還元反応の速度の制御が困難になり、高結晶性銀粉の粒径及び結晶子径が後述の適度な範囲から外れ易いためあまり好ましくない。また、上記流量が少なすぎると、マイクロ流路4内の反応液は層流を成すが、マイクロ流路4外内の温度勾配が小さすぎて反応液中の銀イオンの還元反応の速度の制御が困難になり、高結晶性銀粉の粒径及び結晶子径が後述の適度な範囲から外れ易いためあまり好ましくない。反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元すると、高結晶性ナノ銀粒子を含み且つ水を含まない本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーが得られる。
【0041】
本発明では、上記のようなマイクロ流路を有するマイクロリアクターを用いて反応液中の銀イオンを還元するため、マイクロ流路内の反応液の流速を適切な範囲になるように制御して反応液の流れを層流にしてマイクロ流路内における反応液の温度勾配を適切化することにより、銀イオンの還元反応のような反応速度の速い反応の制御を、還元温度や還元時間等を制御することで正確に行うことが可能になる。これにより、TEM観察平均粒径DTEMが後述の適切な範囲内にあり且つ結晶性の高い高結晶性ナノ銀粒子を含む高結晶性ナノ銀粒子スラリーを得ることができ、該高結晶性ナノ銀粒子を種結晶としてさらに銀イオンを還元すれば、微粒で、粒度分布がシャープで、結晶性の高い高結晶性銀粉を得ることができるようになる。
【0042】
(本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリー)
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、例えば、上記本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法により得られるものであって、特定の高結晶性ナノ銀粒子を含み且つ水を含まないものである。ここで、水を含まないとは、高結晶性ナノ銀粒子の分散媒が水を含まないことをいう。
【0043】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、これに含まれる高結晶性ナノ銀粒子のTEM観察平均粒径DTEMが通常100nm未満、好ましくは5nm〜50nmである。スラリー中の高結晶性ナノ銀粒子のTEM観察平均粒径DTEMが上記範囲内にあると、得られる高結晶性銀粉が、微粒になり易いため好ましい。本発明においてTEM観察平均粒径DTEMとは、TEM(透過型電子顕微鏡)観察して測定される粒径(TEM観察粒径)の平均値を意味する。
【0044】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、粒度分布の標準偏差を前記TEM観察平均粒径DTEMで除した変動係数(標準偏差/DTEM)が通常0.25以下、好ましくは0.15以下である。該変動係数が該範囲内にあると、得られる高結晶性銀粉の粒度分布がシャープになり易いため好ましい。本発明において粒度分布の標準偏差とは、TEM観察粒径の標準偏差を意味する。
【0045】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、結晶子径が通常5nm以上、好ましくは10nm以上である。該結晶子径が該範囲内にあると、得られる高結晶性銀粉の結晶性が高くなり易いため好ましい。本発明において結晶子径とは、TEM観察して測定される結晶子径の平均値を意味する。
【0046】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、これに含まれる銀粒子が単結晶粒子であると好ましい。本発明において単結晶粒子とは、面欠陥のない単結晶の粒子のみならず、面欠陥を有する単結晶の粒子をも含む概念を意味する。面欠陥を有する単結晶の粒子としては、例えば、輪座五連双晶等の五連双晶の粒子等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、高結晶性ナノ銀粒子のTEM観察平均粒径DTEMが上記範囲内にあり、結晶性が非常に高く、且つ水を含まないスラリーであるため、高結晶性銀粉の製造原料として好適である。
【0048】
上記本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、例えば、そのままビヒクルと混合し適宜溶媒を加熱等で除去することにより電子回路や電極の作製用インキ等として使用することができる。また、本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーは、例えば、チップ部品、プラズマディスプレイパネル、ガラスセラミックパッケージ、セラミックフィルター等の電極や回路形成用導電性ペーストの原料である高結晶性銀粉の製造原料として使用することができる。また、本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法によれば、本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリーを効率的に製造することができる。
【0049】
以下に実施例を示すが、本発明はこれらに限定されて解釈されるものではない。
【実施例1】
【0050】
実施例1で用いるマイクロリアクターとして、以下の仕様のマイクロ流路を有するキャピラリをオイルバスに浸漬したものを用いた。キャピラリへの試料の注入はシリンジポンプを用いて行った。
マイクロ流路の材質 :ポリテトラフルオロエチレン
マイクロ流路の断面形状 :円形
マイクロ流路の断面の直径 :500(μm)
マイクロ流路の全長 :2(m)
【0051】
50mg(0.3mmol)の酢酸銀を、1,2−ジクロロベンゼン25ml及びオレイルアミン2.5ml からなる溶媒と混合して反応液を得た。
該反応液を、シリンダポンプを用いてマイクロリアクターに、流速が157μl/minになるように連続的に注入した。次に、オイルバスの温度及びオイルバスに浸漬するキャピラリの長さを調整し、マイクロ流路内の反応液が170℃に5分間保たれるようにした。
キャピラリの出口より、反応液中の銀イオンが還元されてスラリー状となった高結晶性ナノ銀粒子スラリーを回収した。該高結晶性ナノ銀粒子スラリー中に含まれる高結晶性ナノ銀粒子の濃度は1.18g/lであった。
次に、該高結晶性ナノ銀粒子スラリーにエタノールを添加してナノ銀粒子を凝集させ、遠心沈降操作を行ってナノ銀粒子と溶媒とを分離した後、ナノ銀粒子をトルエンに再分散させた。さらに、同様の操作を繰り返して洗浄を行い、最終的に銀ナノ粒子をトルエンに分散させたスラリーを得た。
トルエン中の高結晶性ナノ銀粒子について、TEM観察平均粒径DTEM、標準偏差、変動係数及び結晶子径を下記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。また、トルエン中の高結晶性ナノ銀粒子のTEM写真を図2に示し、TEM観察粒径の粒度分布のグラフを図3に示す。
【0052】
(TEM観察平均粒径DTEM及び標準偏差の測定方法並びに変動係数の算出方法):
日本電子株式会社製透過電子顕微鏡JEM−4000EXを用いて試料粒子を加速電圧400kVでTEM観察し、試料粒子の粒径(TEM観察粒径)を測定した。測定は、各試料について1視野分(100個程度)行い、その平均値をTEM観察平均粒径DTEMとした。また、TEM観察粒径の測定値からTEM観察粒径の標準偏差を求め、該標準偏差をDTEMで割って変動係数を求めた。
(結晶子径の測定方法):
フィリィップス株式会社製X線回折装置PW1820を用いて、X線源CuKα、印加電圧30kV、印加電流20A、ステップ角度0.05°、タイムコンスタント5秒の条件で測定したデータからScherrerの式を用いて結晶子径を算出した。
【実施例2】
【0053】
オイルバスに浸漬するキャピラリの長さを調整してマイクロ流路内の反応液が170℃に7分間保たれるようにした以外は実施例1と同様にして、キャピラリの出口より、反応液中の銀イオンが還元されてスラリー状となった高結晶性ナノ銀粒子スラリーを回収した。該高結晶性ナノ銀粒子スラリー中に含まれる高結晶性ナノ銀粒子の濃度は1.18g/lであった。
次に、該高結晶性ナノ銀粒子スラリーについて、実施例1と同様の操作を行って、銀ナノ粒子をトルエンに分散させたスラリーを得た。
トルエン中の高結晶性ナノ銀粒子について、実施例1と同様にして諸特性を測定した。測定結果を表1に示す。
また、トルエン中の高結晶性ナノ銀粒子のTEM写真を図4に示し、TEM観察粒径の粒度分布のグラフを図5に示す。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法は、例えば、そのままビヒクルと混合し適宜溶媒を加熱等で除去することにより電子回路や電極の作製用インキ等に利用することができ、その製造を効率的に行うことができる。また、本発明に係る高結晶性ナノ銀粒子スラリー及びその製造方法は、例えば、チップ部品、プラズマディスプレイパネル、ガラスセラミックパッケージ、セラミックフィルター等の電極や回路形成用導電性ペーストの原料である銀粉の原料に利用することができ、その製造を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、代表的なマイクロリアクターの模式的な斜視図である。
【図2】図2は、実施例1で得られた高結晶性ナノ銀粒子のTEM写真である。
【図3】図3は、実施例1で得られた高結晶性ナノ銀粒子のTEM観察平均粒径DTEMの粒度分布のグラフである。
【図4】図4は、実施例2で得られた高結晶性ナノ銀粒子のTEM写真である。
【図5】図5は、実施例2で得られた高結晶性ナノ銀粒子のTEM観察平均粒径DTEMの粒度分布のグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 マイクロリアクター
2a、2b 流路入口
3 流路接合部
4 マイクロ流路
5 流路出口
6 基板
7 蓋部
X、Y 原料
Z 生成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高結晶性ナノ銀粒子を含み、且つ水を含まない高結晶性ナノ銀粒子スラリーであって、
前記高結晶性ナノ銀粒子は、TEM観察平均粒径DTEMが100nm未満、粒度分布の標準偏差を前記TEM観察平均粒径DTEMで除した変動係数が0.25以下であることを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリー。
【請求項2】
前記高結晶性ナノ銀粒子は、結晶子径が5nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリー。
【請求項3】
非水還元溶媒中に銀塩を溶解して反応液を作製した後、該反応液中の銀イオンをマイクロリアクター中で還元することを特徴とする高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記非水還元溶媒が、1,2−ジクロロベンゼン、オレイルアミン、トリス−(2−エチルヘキシル)ホスフェート、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール及び2,3−ブタンジオールからなる群より選択される少なくとも1種のジオール化合物を含むものであることを特徴とする請求項3に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記非水還元溶媒が、分散剤としてさらにポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ドデシル硫酸ナトリウム及びヘキサメタリン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記マイクロリアクターは、マイクロ流路断面の最小径が1mm以下であることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記マイクロリアクター中の前記反応液の流量が、500μl/min以下であることを特徴とする請求項3〜請求項6のいずれか1項に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記還元温度が、100℃以上であることを特徴とする請求項3〜請求項7のいずれか1項に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。
【請求項9】
前記還元時間が、4秒〜10分であることを特徴とする請求項3〜請求項8のいずれか1項に記載の高結晶性ナノ銀粒子スラリーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−124787(P2006−124787A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−315775(P2004−315775)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(504403046)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】