説明

高耐熱性β型ゼオライト及びそれを用いたSCR触媒

【課題】水熱耐久処理後における200℃でのNOx還元率が40%以上の耐熱性の高いSCR触媒を提供する。
【解決手段】SiO/Alモル比が20以上30未満であり、結晶子径が水熱耐久処理前で20nm以上、水熱耐久処理前後の結晶子の変化が10%未満であり、なおかつフッ素の含有量が0.1%未満のβ型ゼオライトを用いる。当該β型ゼオライトは炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンを含んでなる反応液から結晶化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着剤や触媒として有用な耐熱性の高いβ型ゼオライト、及び、その製造方法、並びに、その用途を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
β型ゼオライトは特許文献1で初めて開示された12員環細孔を有するゼオライトであり、吸着剤や触媒として広く用いられている。しかし高温で使用する場合、ゼオライト結晶構造の崩壊に伴い触媒性能が低下することがあり、耐熱性の向上が求められている。
【0003】
耐熱性を向上させるためには、SiO/Alモル比を高める方法(特許文献2)、高温でゼオライトを処理する方法(特許文献3)、結晶子径を大きくする方法(特許文献4〜6)、フッ素を用いる方法(特許文献7)などが知られている。
【0004】
例えばゼオライトを用いたSCR触媒(アンモニアを還元剤として用いるNOx還元反応を利用した触媒。SCRは“Selective catalytic reduction”の略)では、水熱耐久処理後の低温活性が高いこと、特に300℃以下での高活性が要求とされている(特許文献8)。SCR触媒では高酸量(低SiO/Alモル比)が必要なため、耐熱性の向上にSiO/Alモル比を高める方法や、骨格からの脱アルミニウムを引き起こす高温処理が利用できない。
【0005】
そこで低SiO/Alモル比で、耐熱性が高く、かつ触媒活性の高いゼオライト、特に、SCR触媒に使用した時の200〜250℃の様な低温で水熱耐久処理後のNOx還元率が高いβゼオライトが求められている。
【0006】
β型ゼオライトの製造法としては、テトラエチルアンモニウムカチオン以外に3級アルカノールアミンを加えて合成することによって、0.1〜3μmの大きな結晶サイズのβ型ゼオライトを合成する方法が開示されている(特許文献9)。しかし、その様な方法で製造されたβゼオライトは水熱耐久性に優れるものではなかった。
【0007】
また構造指向剤(SDAという)にジエチレンテトラミンを含むβ型ゼオライトの合成法が開示されている(特許文献10)。この様な方法によって得られたβ型ゼオライトは一次結晶径が小さいものが得られており、やはり水熱耐熱性の高いものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許3308069号
【特許文献2】特開平9−38485号
【特許文献3】特開2008−80194
【特許文献4】特開平11−228128号
【特許文献5】特公昭63−6487号
【特許文献6】特開2001−58816
【特許文献7】特開2007−76990
【特許文献8】特開2008−81348
【特許文献9】特開平5−201722号
【特許文献10】特表2008−519748
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、吸着性能が高く、且つ、耐熱性の高い新規なβ型ゼオライト、及び、その製造方法、並びに、該ゼオライトを用いたSCR触媒を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者が前項課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、合成反応液中に構造指向剤以外に炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンを加えて結晶化させた場合、SiO/Alモル比が20以上30未満の高酸量を有するβ型ゼオライトにおいて、水熱耐久処理前後で結晶子径の減少率が10%未満の極めて耐熱性の高いβ型ゼオライトが得られることを見出し、その様なβ型ゼオライトを用いたSCR触媒は、低温における触媒性能が高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のβ型ゼオライトのSiO/Alモル比は20以上30未満である。20未満では耐熱性が十分でなく、一般的に耐熱性が高くなる30以上の場合には、触媒反応に必要な酸点が少なくなり、結果として、当該ゼオライトからなるSCR触媒の触媒性能が低下する。
【0012】
本発明でいうSiO/Alモル比は、ICP(プラズマ発光分光分析)装置を用い、試料中のSiとAlの含量を測定して、その値から求める。
【0013】
本発明でいう、電子顕微鏡で観察した時の平均粒子径とは、合成したゼオライトの乾燥粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察し、ランダムに選んだ30個の粒子の径の平均値である。粒子径は方向を決めたフェレー径とした。
【0014】
本発明のβ型ゼオライトは、その結晶子径(SDAを焼成除去後)の水熱耐久処理前で20nm以上であり、特に25nm以上であることが好ましい。
【0015】
本発明でいう結晶子径は、粉末X線回折におけるβゼオライトのメインピークである、2θ=22.4°付近の(302)面の回折線プロファイルの半値幅からシェラーの式(I)によって求めたものである。
【0016】
結晶子径=K×λ/(β×cosθ)・・・(I)
β=β−β
β=β×π/180
K:定数(0.9)
λ:X線の波長(0.15418nm)
θ:回折角の1/2
β:装置補正後の(302)結晶面ピークの半値幅(rad)
β:装置補正後の(302)結晶面ピークの半値幅(°)
β:(302)結晶面ピークの半値幅実測値(°)
β:標準物質であるSiOから求めた装置補正値(°)
なお半値幅は、2θ=22.4°付近のピークをvoigt関数で近似して波形分離し、更にKα1とKα2の分離を行った後の、Kα1ピークから作図によって求めることができる(FWHM)。
【0017】
本発明のβ型ゼオライトは、熱耐久処理前後で結晶子径の減少率が10%未満であり、特に5%以下のものが好ましい。
【0018】
本発明でいうところの水熱耐久処理は、水蒸気を10容量%含む空気流通下における700℃で20時間の加熱処理である。本発明での水熱耐久処理条件はゼオライトの水熱耐久処理条件として一般的なものであり、特に特殊なものではない。なお、β型ゼオライトに限らず、600℃以上におけるゼオライトに対する熱的なダメージは指数関数的に増大し、本発明の水熱耐久処理は、650℃での100〜200時間以上の処理、800℃での数時間の処理に相当するものである。
【0019】
本発明のβ型ゼオライトは、上記の水熱耐久処理前後で結晶子径が10%未満しか変化しない。ゼオライトの結晶構造が変化していないことを示しており、これが高い耐熱性の原因になっていると思われる。
【0020】
結晶子径の変化は、下式で求められる。
【0021】
結晶子径の変化[%]
={1−(水熱耐久後の結晶子径/水熱耐久前の結晶子径)}×100・・・(2)
本発明のβ型ゼオライトはフッ素の含有量の少ないものが好ましく、特に0.1重量%以下、より好ましくはフッ素を含まないものが好ましい。フッ素を含む場合にも水熱耐久処理による結晶子径の変化が小さい場合があるが、その原因は定かではないが、SCR触媒として用いた場合に低温活性に劣る場合がある。
【0022】
本発明のβ型ゼオライトは、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(n)が水熱耐久処理前に20以上30未満、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(n’)が耐久前より10を超えない(n’<n+10)ことが好ましい。
【0023】
化学分析によるSiO/Alモル比では結晶構造から脱アルミしたものも成分として認知されるが、29Si MAS NMRでは結晶中の骨格SiO/Alモル比を測定することが出来るため、ゼオライトの耐熱性を評価する上で29Si MAS NMRは有効な手段である。
【0024】
ゼオライト骨格中のアルミニウムが水熱処理によって骨格中から脱離する(脱アルミという)と、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比は増大する。
【0025】
本発明のβ型ゼオライトは耐熱性が高いものであり、29Si MAS NMRによる水熱耐久処理前のSiO/Alモル比(n)に対し、水熱耐久処理後SiO/Alモル比(n’)はnより10を超えない(n’<n+10)ものが好ましく、特に7を超えないことが好ましい。水熱耐久処理前後で骨格SiO/Alモル比が10以上増大するβ型ゼオライトは、水熱耐久処理によって脱アルミによって劣化し易いものである。
【0026】
一方、耐熱性が非常に低いβ型ゼオライトでは、構造指向剤を焼成除去した際に既に大量の脱アルミが進行し、その後の水熱耐久処理では骨格SiO/Alモル比の変化が小さい場合がある。このようなβ型ゼオライトでは、水熱耐久処理前の結晶子径が20nm未満、若しくは29Si MAS NMRによる、水熱耐久処理前の骨格SiO/Alモル比が30以上、若しくは水熱耐久処理前後の結晶子径変化が10%以上のものであり、本発明のβ型ゼオライトとは異なる物性を示す。
【0027】
本発明でいう、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比とは、当業者における一般的な方法によって求められる。「ゼオライトの科学と工学」(講談社、2000年発行)61ページに示されるように、以下の数式1で求める。
【0028】
【数1】

【0029】
A:スペクトルのピーク面積
Si(nAl):酸素を介して結合しているAlの数がn個のSi
本発明のβ型ゼオライトでは、Si(1Al)のピーク(即ち酸素を介して結合したAlを有し固体酸として働くSi)は−95〜−105ppm付近に、Si(0Al)のピーク(即ち酸素を介して結合したAlを持たず固体酸としては働かないSi)は−105〜−120ppm付近に観察され、この2ピークから骨格SiO/Alモル比が求められる。n=2〜4のピークは観察されない。
【0030】
次に本発明のβ型ゼオライトの製造法を説明する。
【0031】
β型ゼオライトは、基本的にはシリカ源、アルミ源、アルカリ、構造指向剤(SDA)、水の存在下、水熱合成によって製造することができ、例えば特開平6−287015に記載された方法に従って製造できる。本発明のβ型ゼオライトの原料の比率としては以下の範囲が例示できる。
【0032】
SiO/Alモル比 20〜40
アルカリ/SiOモル比 0〜1
O/SiOモル比 7〜15
SDA/SiOモル比 0.05〜0.3
(炭素数5以上の2級/3級アルキルアミン)/SiOモル比 0.01〜1.0
ここで本発明のβ型ゼオライトを製造するために従来と異なる点は、炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンを用いることである。
【0033】
炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンとしては、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−(2−アミノエチル)ピペラジンなどのエチレンアミン誘導体や、東ソー株式会社製の3級アミン触媒(商品名:TOYOCAT)などを用いることができる。用いることのできるTOYOCATの例としては、TOYOCAT−HPW(メチルヒドロキシエチルピペラジン)、TOYOCAT−ET(ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル)、TOYOCAT−DT(ペンタメチルジエチレントリアミン)、TOYOCAT−NP(トリメチルアミノエチルピペラジン)、TOYOCAT−TE(テトラメチルエチレンジアミン)などが挙げられる。
【0034】
本発明では、炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンを用いることで、アミンを加えない場合に比べて結晶子径が大きく、乾燥後では50nm以上、SDA除去焼成後の水熱耐久処理前で20nm以上の耐熱性が非常に高いβ型ゼオライトが得られる。特に乾燥後の結晶子径は70nm以上が好ましい。
【0035】
ジエチレントリアミンなど炭素数4以下の2級及び/又は3級アルキルアミンでは、結晶子径が小さくなり、水熱耐久処理後の触媒活性が低くなる。
【0036】
本発明の製法では、先に述べた理由によりフッ素含有化合物を使用しないことが好ましい。
【0037】
原料であるシリカ源は、珪酸ソーダ水溶液、沈降法シリカ、コロイダルシリカ、フュームドシリカ、アルミノシリケートゲル、及びテトラエトキシシランなどのシリコンアルコキシドなどを用いることができる。
【0038】
原料であるアルミ源の状態は特に限定されず、金属単体、水溶液、酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、硫酸塩など、いずれの状態であっても構わない。
【0039】
構造指向剤(SDA)としてはテトラエチルアンモニウムカチオンを有するテトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムブロマイドなどを用いることができる。更にはオクタメチレンビスキヌクリジウム、α,α’−ジキヌクリジウム−p−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−m−キシレン、α,α’−ジキヌクリジウム−o−キシレン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、1,3,3,N,N−ペンタメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタン又はN,N−ジエチル−1,3,3−トリメチル−6−アゾニウムビシクロ[3,2,1]オクタンカチオン等が例示される。特にテトラエチルアンモニウムヒドロキシドの水溶液を用いることが好ましい。
【0040】
そして、上記組成の原料混合物を密閉式圧力容器中で、100〜180℃の任意の温度で、十分な時間をかけて結晶化させることで本特許に係るβ型ゼオライトを得ることができる。結晶化終了後、十分放冷し、固液分離、十分量の純水で洗浄し、100〜150℃の任意の温度で乾燥させる。その後400〜650℃の任意の温度で1〜10時間焼成してSDAを除去すると、本発明に係るβ型ゼオライトを得ることができる。
【0041】
本発明のβ型ゼオライトは、鉄や銅の活性金属を担持することによってNOx分解性能を発揮するSCR触媒として用いることができる。
【0042】
本発明のSCR触媒は、上述した本発明のβ型ゼオライトに金属として鉄を含有し、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(m)が水熱耐久処理前に15以上25以下、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(m’)が処理前より10を超えるものであることが好ましい。
【0043】
本発明のβ型ゼオライトは29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(n)が20以上30未満(水熱耐久前)であるが、金属を担持することによりNMRで観測されるモル比は担持前より1〜10低下(水熱耐久前)する。例えば鉄を数重量%担持した場合には約4〜5低下するため、本発明のSCR触媒の骨格SiO/Alモル比(m)は15以上25以下(担持前には20以上30未満)が好ましい。この様に鉄の担持により29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比が低下するのは、SiとFeのスピン相互作用の影響でSiピーク強度が全体的に低下した結果起こるものであり、β型ゼオライトの耐熱性には関係なく生じるものである。
【0044】
次にβ型ゼオライトに鉄を担持したSCR触媒では、水熱耐久後の29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(m’)は水熱耐久前(m)より大きくなるが、その傾向はβ型ゼオライトそのものとは異なる傾向を示す。即ち、鉄を担持したSCR触媒では、水熱耐久性が高いものほど水熱耐久後の29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比の増大幅が大きく、特に耐久前(m)より耐久後(m’)の方が10を超える(m’>m+10)ことが好ましく、特に15を超える(m’>m+15)ことが好ましい。
【0045】
この様な現象が起こる原因は必ずしも定かではないが、以下の様に説明される。
【0046】
先に説明した様に、Feの存在は29Si MAS NMRのSiのピーク面積を小さくするが、スピン相互作用の大きさは原子間の距離に反比例することから、鉄含有時にピーク面積が大きく減少するほど、FeとSiの距離は近いことを示している。水熱耐久処理により鉄が凝集(触媒活性としては劣化)すると、その様な鉄が存在した近傍のSiのNMR吸収スペクトルは増大する。なおSCR反応は、酸点と金属の働きによって反応が進行するものであるため、触媒活性に寄与するのは主に酸点に隣接する金属原子である。つまり、活性な鉄種はSi(0Al)ではなくSi(1Al)近傍に存在するものである。
【0047】
ここで本発明の水熱耐久性に優れるSCR触媒は、鉄の凝集がSi(1Al)の周辺では起き難く(即ち、耐久後も触媒活性に寄与する凝集していない鉄がSi(1Al)の周辺に多く存在)、Si(0Al)の周辺のみで生じるものである。そのため、水熱処理によって(1)式におけるSi(0Al)のピーク面積のみが増大し、Si(1Al)のピーク面積は相対的に減少する。
【0048】
この様に、NMRスペクトルに影響する金属が存在しない場合には、NMRによる骨格SiO/Alモル比の変化は脱アルミが生じているかどうかの指標となるが、NMRスペクトルの吸収に影響する金属(特に鉄)が存在する場合には、NMRによる骨格SiO/Alモル比の変化は触媒活性に影響するSi(1Al)近傍の鉄の状態(凝集の有無)を示す指標となり得るのである。
【0049】
従って、本発明のSCR触媒は、金属として鉄を含有し、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(m)が水熱耐久処理前に15以上25以下、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(m’)が30を超え50以下、特に35以上であることが好ましい。
【0050】
本発明のβ型ゼオライトは、水熱耐久処理後の200℃でのNOx還元率が40%以上のSCR触媒として用いることができる。
【0051】
本発明におけるSCR触媒のNOx(窒素酸化物)還元率とは、一酸化窒素とアンモニアが1:1の混合ガス(夫々200ppm)、酸素10容量%、残り窒素ガスによる処理ガスを1.5リットル/分で、処理ガス/触媒容量比1000/分で触媒と接触させた場合のNOx低減率で定義されるものである。本発明のNOx還元条件は、通常SCR触媒のNOx還元性を評価する一般的な条件の範疇であり、特に特殊なものではない。
【0052】
本発明のSCR触媒は、β型ゼオライトに周期律表の8〜11族の元素群から少なくとも一種の金属を担持したものである。好ましくは鉄、コバルト、パラジウム、イリジウム、白金、銅、銀、金の群から選ばれる一種以上、更に好ましくは鉄及び/又は銅を担持したものが好ましい。さらに希土類金属、チタン、ジルコニアなどの助触媒成分を付加的に加えることもできる。
【0053】
活性金属種の担持方法は特に限定されないが、イオン交換法、含浸担持法、蒸発乾固法、沈殿担持法、物理混合法等を採用することができる。金属担持に用いる原料も硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、錯塩、酸化物、複合酸化物など可溶性/不溶性のものがいずれも使用できる。
【0054】
金属の担持量は限定されないが0.1〜10重量%、特に1〜7%の範囲が好ましい。
【0055】
本発明のSCR触媒は、シリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルガイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライトが例示できる。
【0056】
本発明のSCR触媒は、窒素酸化物を含む該排ガスを接触させることにより、排ガス浄化することができる。
【0057】
本発明で浄化される窒素酸化物は、例えば一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、一酸化二窒素、及びそれらの混合物が例示される。好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素である。ここで本発明が処理可能な排ガスの窒素酸化物濃度は限定されるものではない。
【0058】
また該排ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよく、例えば炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物、水が含まれていても良い。具体的には、本発明の方法ではディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー、ガスタービン等の多種多様の排ガスから窒素酸化物を浄化することができる。
【0059】
本発明のSCR触媒は還元剤の存在下で窒素酸化物を浄化するものである。
【0060】
還元剤としては該排ガス中に含まれる炭化水素、一酸化炭素、水素等を還元剤として利用することができ、更に適当な還元剤を排ガスに添加して共存させて用いられる。排ガスに添加される還元剤は特に限定されないが、アンモニア、尿素、有機アミン類、炭化水素、アルコール類、ケトン類、一酸化炭素、水素等が挙げられ、特に窒素酸化物の浄化効率をより高めるためには、特にアンモニア、尿素、有機アミン類が用いられる。
【0061】
これらの還元剤の添加方法は特に限定されず、還元成分をガス状で直接添加する方法、水溶液などの液状を噴霧し気化させる方法、噴霧熱分解させる方法等を採用することができる。これらの還元剤の添加量は、十分に窒素酸化物が浄化できるように任意に設定することができる。
【0062】
本発明の窒素酸化物の浄化方法において、SCR触媒と排ガスを接触させる際の空間速度は特に限定されないが、好ましい空間速度は体積基準で500〜50万hr−1、更に好ましくは2000〜30万hr−1である。
【発明の効果】
【0063】
本発明が提供するβ型ゼオライトは、耐熱性が高く、低いSiO/Alモル比を有しているために高酸量であり、SCR触媒として用いた場合に水熱耐久性に優れ、特に低温でのNOx還元性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1で得られた鉄担持前のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた鉄担持後のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図3】比較例2で得られた鉄担持前のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを示す図である。
【図4】比較例2で得られた鉄担持後のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを示す図である。
【実施例】
【0065】
以下本発明を実施例で説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<水熱耐久処理条件>
温度:700℃
時間:20時間
ガス中水分濃度:10容量%
ガス流量/ゼオライト容量比:100倍/分
<X線回折装置の測定条件>
装置:マックサイエンス社製MXP3VII
X線源:CuKα=1.5405オングストローム
加速電圧:40kV
管電流:30mA
走査速度:2θ=0.02deg/sec
サンプリング間隔:0.02deg
発散スリット:1deg
散乱スリット:1deg
受光スリット:0.3mm
モノクロメータ使用
ゴニオ半径:185mm
29Si MAS NMRの測定条件>
装置:Varian NMRS−400
前処理:相対湿度80%にて一晩水和処理
共鳴周波数:79.4MHz
パルス幅:π/6
測定待ち時間:10秒
積算回数:1500回
回転周波数:10.0kHz
シフト標準:TMS
鉄の含有量によってピーク強度に変化が生じることが考えられる。異なる条件での比較を避けるため、29Si MAS NMRの測定においてはFe金属の含有量は2〜3wt%とする。
<SCR触媒のNOx還元評価条件>
処理ガス組成 NO 200ppm
NH 200ppm
10vol%
O 3vol%
残り 窒素バランス
処理ガス流量 1.5リットル/分
処理ガス/触媒容量比 1000/分
【0066】
実施例1
テトラエチルオルトシリケート、アルミニウムイソプロポキシド、水酸化テトラエチルアンモニウム(以下TEAOH)水溶液、アミン(ペンタメチルジエチレントリアミン、東ソー株式会社製TOYOCAT−DT)を混合し、室温で撹拌することでエタノールを蒸発させた。水と種晶(東ソー製HSZ930NHA)を加え、反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.16TEAOH:0.3アミン:10HOとした。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、600℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0067】
実施例2
無定形シリカ粉末(東ソーシリカ製、製品名ニップシールVM−3)、水酸化アルミニウム、TEAOH水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アミン(ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、東ソー株式会社製TOYOCAT−ET)、水、種晶(東ソー株式会社製β型ゼオライト、製品名HSZ930NHA)を加え、十分に攪拌混合した。反応混合物のモル組成は、SiO:0.03Al:0.20TEAOH:0.05NaOH:0.3アミン:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、550℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0068】
実施例3
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を混合して粒状無定形アルミノケイ酸塩を得た。該無定形アルミノケイ酸塩、TEAOH水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アミン(テトラエチレンペンタミン)、水、種晶(東ソー株式会社製β型ゼオライト、製品名HSZ930NHA)を加え、十分に攪拌混合した。反応混合物のモル組成は、SiO:0.03Al:0.20TEAOH:0.05NaOH:0.3アミン:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、550℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0069】
実施例4
珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を混合して粒状無定形アルミノケイ酸塩を得た。該無定形アルミノケイ酸塩、TEAOH水溶液、水酸化カリウム水溶液、アミン(トリエチレンテトラミン)、水、種晶(東ソー株式会社製β型ゼオライト、製品名HSZ930NHA)を加え、十分に攪拌混合した。反応混合物のモル組成は、SiO:0.03Al:0.14TEAOH:0.05KOH:0.3アミン:10HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、550℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0070】
比較例1
特開2008−81348号の実施例1に従い、珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を用い粒状無定型アルミノ珪酸塩を得た。次に反応混合物の組成が、SiO:0.05Al:0.67TEAF:11HOとなるように混合し、さらに当該組成物100部に対して0.36部の種晶(東ソー株式会社製β型ゼオライト:商品名HSZ940NHA)を加え、オートクレーブ中、155℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリーは、洗浄し、110℃で乾燥した。(TEAF:水酸化テトラエチルフルオライド)当該乾燥粉末を、600℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。F含有量は0.17%であった。
【0071】
比較例2
特開2008−81348号の実施例3に従い、珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を用い粒状無定型アルミノ珪酸塩を得た。反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.30TEAOH:0.10KOH:9.9HOとし、合成温度を150℃、種晶に東ソー製HSZ930NHAを用いた以外は比較例1と同様の処理をした。
【0072】
比較例3
特開2008−81348号の実施例5に従い、珪酸ソーダ水溶液、硫酸アルミニウム水溶液を用い粒状無定型アルミノ珪酸塩を得た。反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.07TEABr:0.13TEAOH:9.9HOとし、合成温度を150℃、種晶に東ソー製HSZ930NHAを用いた以外は比較例1と同様の処理をした(TEABr:臭化テトラエチルアンモニウム)。
【0073】
比較例4
特開2008−81348号の実施例7に従い、テトラエチルオルトシリケート、アルミニウムイソプロポキシド、TEAOHを混合し、室温で撹拌することでエタノールを蒸発させた。水と種晶を加え、反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.16TEAOH:10HOとした。合成温度を150℃、種晶に東ソー製HSZ930NHAを用いた以外は比較例1と同様の処理をした。
【0074】
比較例5
テトラエチルオルトシリケート、アルミニウムイソプロポキシド、TEAOH水溶液、アミン(トリエタノールアミン)を混合し、室温で撹拌することでエタノールを蒸発させた。水と種晶(東ソー製HSZ930NHA)を加え、反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.16TEAOH:0.3アミン:10HOとした。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、600℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0075】
比較例6
テトラエチルオルトシリケート、アルミニウムイソプロポキシド、TEAOH水溶液、アミン(ジエチレントリアミン)を混合し、室温で撹拌することでエタノールを蒸発させた。水と種晶(東ソー製HSZ930NHA)を加え、反応混合物の組成を、SiO:0.034Al:0.16TEAOH:0.3アミン:10HOとした。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、600℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0076】
比較例7
米国特許3308069号の実施例6に従い、NaAlO、水、無定形シリカ粉末(東ソーシリカ製、製品名ニップシールVM−3)、TEAOH水溶液を用い、種晶は用いなかった。反応混合物の組成は、SiO:0.025Al:0.62TEAOH:0.1NaOH:20HOであった。この反応混合物をステンレス製オートクレーブに密閉し、150℃で攪拌しながら加熱して結晶化させた。結晶化後のスラリー状混合物を固液分離し、十分量の純水で洗浄し、110℃で乾燥した。当該乾燥粉末を、600℃で2時間焼成し、β型ゼオライトを得た。
【0077】
比較例8
反応混合物の組成を、SiO:0.02Al:0.62TEAOH:0.1NaOH:20HOとした以外は、比較例7と同様の処理をした。
【0078】
(鉄担持)
実施例、比較例のβ型ゼオライトそれぞれにFe(NO・9水和物の水溶液を用いてFe金属を3重量%担持し、500℃で空気焼成した。
【0079】
実施例、比較例のβ型ゼオライトのSiO/Alモル比、結晶子径、電子顕微鏡で観察した時の平均粒子径、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比を表1に示した。乾燥品は110℃乾燥後、水熱耐久処理前は焼成後の値である。
【0080】
また、実施例1で得られた鉄担持前のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを図1に示し、その鉄担持後のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを図2に示した。
【0081】
比較として、比較例2で得られた鉄担持前のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを図3に示し、その鉄担持後のβ型ゼオライトの29Si MAS NMRスペクトルを図4に示した。
【0082】
各図面において、符号1は水熱処理前の29Si MAS NMRスペクトルを示し、符号2は水熱処理後の29Si MAS NMRスペクトルを示す。なお図1から図4の縦軸の縮尺は全て同じである。
【0083】
(SCR触媒性能評価)
β型ゼオライトにFe金属を3重量%担持したSCR触媒を水熱耐久処理し、SCR触媒評価を行った。結果を表2に示す。
【0084】
本発明のβ型ゼオライトを用いたSCR触媒では、水熱耐久処理後において、比較例のβゼオライトを用いた場合に比べて高いNOx還元性能を示した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【符号の説明】
【0087】
1:水熱処理前
2:水熱処理後
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のβ型ゼオライトは、耐熱性が高く、高酸量であるため、それを用いたSCR触媒も水熱耐久性に優れ、特に低温でのNOx還元性に優れる。自動車からの排ガス中に含まれているNOx除去触媒として高い性能を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Alモル比が20以上30未満であり、水熱耐久処理前の結晶子径が20nm以上、水熱耐久処理前後の結晶子の変化が10%未満であり、且つ、フッ素の含有量が0.1重量%以下であるβ型ゼオライト。
【請求項2】
29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(n)が水熱耐久処理前に20以上30未満、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(n’)が耐久前より10を超えない(n’<n+10)ことを特徴とする請求項1に記載のβ型ゼオライト。
【請求項3】
電子顕微鏡で観察した時の平均粒子径が0.35〜0.50μmである請求項1又は請求項2に記載のβ型ゼオライト。
【請求項4】
炭素数5以上の2級及び/又は3級アルキルアミンを含んでなる反応液から結晶化する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のβ型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のβ型ゼオライトに周期律表の8〜11族の元素群から選ばれる少なくとも一種の金属を含んでなるSCR触媒。
【請求項6】
周期律表の8〜11族の元素群から選ばれる少なくとも一種の金属が鉄及び/又は銅を含んでなる請求項5に記載のSCR触媒。
【請求項7】
金属として鉄を含有し、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(m)が水熱耐久処理前に15以上25以下、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(m’)が処理前より10を超える(m’>m+10)ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のSCR触媒。
【請求項8】
金属として鉄を含有し、29Si MAS NMRによる骨格SiO/Alモル比(m)が水熱耐久処理前に15以上25以下、なおかつ水熱処理後の骨格SiO/Alモル比(m’)が30を超え50以下である請求項7に記載のSCR触媒。
【請求項9】
水熱耐久処理後の200℃でのNOx還元率が40%以上である請求項5乃至請求項8のいずれかに記載のSCR触媒。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−70450(P2010−70450A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183620(P2009−183620)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】