説明

高耐熱性ポリエステル繊維の製造法

【課題】 着色が少なく耐久性に優れ、かつ通常のポリエステルの融点以上において形態を保持することが可能な高耐熱性ポリエステル繊維の製造法を提供する。
【解決手段】 重合工程では下記一般式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体をポリエステルに共重合し、紡糸後に架橋することを特徴とする高耐熱性ポリエステル繊維の製造法。
【化1】


(Rはヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはその他のエステル形成性置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通常のポリエステルの融点以上において形態を保持することが可能な高耐熱性ポリエステル繊維の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下PETと略称する)に代表されるポリエステル繊維は、その優れた機械的特性及び化学的特性のため、衣料用や産業用等の繊維として幅広く用いられている。またPETやポリブチレンテレフタレート(以下PBTと略称する)の一部を他の成分で置き換えた共重合ポリエステル繊維は、共重合成分や共重合量によって融点や結晶性をはじめとした物理的・化学的性質を様々に変化させることが出来るので、用途に応じてその特性を変化させて利用されている。
【0003】
しかしながら、このようなPET、ポリプロピレンテレフタレート、PBTからなる通常のポリエステル繊維は融点が高くても260℃程度であり、その融点以上では、繊維としての形態を保つことが出来ないため、高温条件下で利用することが出来なかった。
【0004】
このような問題点を解決するために、例えば脂肪族炭素―炭素不飽和結合を有するジオールが共重合された改質ポリエステル繊維をラジカル反応により架橋することによって不融ポリエステル繊維を製造する方法が提案されている(特許文献1)。また、脂肪族不飽和基を有するポリエステル繊維に電子線を照射せしめることによって架橋構造が形成され、ポリエステルの融点以上において形状を保持することを特徴とする繊維が提案されている(特許文献2)。しかしながら、一般に脂肪族炭素―炭素不飽和結合やイソシアネートなどの脂肪族不飽和基を有する化合物は、高温下不安定で着色が著しいうえ、酸化されやすく糸としての耐久性が低い。また、電子線を照射すると、架橋構造が形成されると同時にポリマー自体が劣化し、糸強度が弱くなる。
【0005】
一方、5−ヒドロキシイソフタル酸を共重合したポリエステルは、後加工でシリコーンを付着させる技術が提案されている(特許文献3)。しかしながら、この方法により耐熱性が向上することは開示されていない。また、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部に5−ヒドロキシイソフタル酸を共重合したポリエステルを有し、繊維表面に分子中にグリシジル基を2個以上有するエポキシ化合物が繊維重量の0.1重量%以上存在していることを特徴とする複合糸を熱硬化型バインダー繊維として用いることが提案されているが、この方法では高温下で糸どうしが接着してしまう(特許文献4)。
【特許文献1】特開昭63−54238号公報(実施例)
【特許文献2】特開2006−265745号公報(表1、実施例1〜5,段落番号0042)
【特許文献3】特開2001−98060号公報(参考例1、段落番号0026)
【特許文献4】特開2001−98427号公報(表1、段落番号0036;表2,段落番号0038)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであり、高温下で不安定であったり、酸化されやすい脂肪族炭素―炭素不飽和結合やイソシアネートなどの脂肪族不飽和基を含まないことを特徴とし、着色が少なく耐久性に優れ、かつ通常のポリエステルの融点以上において形態を保持することが可能でかつ高温下でも糸同士が接着することのない高耐熱性ポリエステル繊維の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、本発明に到達した。すなわち、下記一般式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体をポリエステルに6〜50モル%共重合し、紡糸後に式(II)で表される化合物を反応させることを特徴とする高耐熱性ポリエステル繊維の製造法を提供することである。
【0008】
【化1】

【0009】
(Rはヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはその他のエステル形成性置換基を表す。)
【0010】
【化2】

【0011】
(nは0〜10の整数を表し、Xは水酸基、ハロゲン原子またはアセトキシ基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸化されやすい脂肪族炭素―炭素不飽和結合やイソシアネートなどの脂肪族不飽和基を含まないために、従来品に比べ着色が少なく耐久性に優れ、かつ通常のポリエステルの融点以上において形態を保持することが可能な高耐熱性ポリエステル繊維を得ることが出来る。この繊維は衣料・産業用繊維の製造において、染色や耐久性等の問題を改善出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体をポリエステルに6〜50モル%共重合し、紡糸後に式(II)で表される化合物を反応させることを特徴とする高耐熱性ポリエステル繊維の製造法である。
【0014】
本発明において、式(I)で表される化合物として具体的には、5−ヒドロキシイソフタル酸、4−ヒドロキシイソフタル酸およびそれらのジアルキルエステル、ジアリールエステルまたは酸塩化物などがあげられる。なかでも特に式(III)で表される5−ヒドロキシイソフタル酸およびそれらのジアルキルエステル、ジアリールエステルまたは酸塩化物が好ましい。
【0015】
【化3】

【0016】
(Rはヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはその他のエステル形成性置換基を表す。)
本発明でいうハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表す。なかでも塩素原子、臭素原子を表すのが好ましい。
【0017】
本発明の式(II)で表される化合物としては、こはく酸クロリド、スベロイルクロリド、ドデカン二酸ジクロリドが好ましい。
【0018】
続いて本発明の高耐熱性ポリエステル繊維の製造法について具体的に説明する。
【0019】
式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を通常の熱可塑性ポリエステルに共重合する。この共重合率はジカルボン酸および/またはその誘導体あたり6〜50モル%であるが、好ましくは10〜25モル%、より好ましくは15〜20モル%である。また、この共重合はランダム共重合でもブロック共重合でもよいが、ランダム共重合が好ましい。
【0020】
この式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を共重合したポリエステルは、例えば次の方法によって得られる。すなわち、式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を他のジカルボン酸および/またはその誘導体と混合し、これをジオール成分とエステル化することによって低分子量のオリゴマーを得た後重縮合する方法、式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を他のジカルボン酸および/またはその誘導体とジオール成分とをエステル化して得られた低分子量のオリゴマーに混合し重縮合する方法、あるいは式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を比較的多量、例えば50モル%以上含有するポリエステルと、他の熱可塑性ポリエステルを溶融反応させる方法等で製造される。この際、低分子のオリゴマーを得る段階でジオール成分/ジカルボン酸および/またはその誘導体のモル比は1.0〜15.0が好ましく、1.0〜2.0がより好ましい。またこの段階での反応温度は150〜230℃が好ましく、圧力は常圧下で行うのが好ましい。その後に続く重縮合の段階の反応温度は220〜260℃が好ましく、圧力は常圧から徐々に減圧していき、30分から1時間かけて0.1〜6mmHgまで減圧するのが好ましい。
【0021】
式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体以外の他のジカルボン酸および/またはその誘導体は、芳香族ジカルボン酸類、好ましくはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸等の対称性のよい芳香族ジカルボン酸類を主たる成分とするものが好ましく、なかでもテレフタル酸を主たる成分とするものが好ましい。また、ジオール成分については、脂肪族の直鎖ジオール類、例えばエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール等を主たる成分とするものが好ましく、なかでも1,4−ブタンジオールを主たる成分とするものが好ましい。
【0022】
得られるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリプロピレンテレフタレート共重合体、ポリブチレンテレフタレート共重合体が好ましく、なかでもポリブチレンテレフタレート共重合体がより好ましい。
【0023】
こうして得られる式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体を共重合したポリエステルは結晶性で紡糸が容易であり、場合によってはポリエチレングリコールのような可塑剤を含んでいてもよい。また、固有粘度0.5〜1.1であり、好ましくは0.8〜1.1であり、融点が150〜260℃であるものが紡糸する上で好ましい。
【0024】
上記のポリエステルを紡糸するには、一般的な方法、例えば溶融紡糸が採用される。また、紡糸後必要に応じて延伸することが出来る。なお、紡糸時に加水分解やゲル化をおこす心配があるので、出来るだけ乾燥したチップを用いることや、紡糸温度を出来るだけ低くすること、酸素の混入を防止する等の注意をすることは好ましい方法である。
【0025】
次に、得られた繊維に、式(II)で表される化合物を反応させる。その方法は例えば次の方法による。式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体が共重合されたポリマーからなるポリエステル繊維をアルカリ減量処理した後、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒に浸漬し、そこへ式(II)で表される二価の化合物および塩基を添加して加温する方法、アルカリ減量処理せず、式(II)で表される二価の化合物および塩基の混合溶液を繊維に噴霧した後、窒素雰囲気下、赤外線や加熱ヒーター等の外部熱源により非接触で加熱する方法、またはローラーで圧着加熱する方法等がある。なかでも式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体が共重合されたポリマーからなるポリエステル繊維をアルカリ減量処理した後、ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒に浸漬し、そこへ式(II)で表される二価の化合物および塩基を添加して加温する方法がより好ましい。
【0026】
アルカリ減量処理する場合は、0.1−5wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるのが好ましく、0.1−2wt%の水酸化ナトリウム水溶液を用いるのがより好ましい。その際の水酸化ナトリウム水溶液の量は、繊維重量に対して10〜300倍重量用いるのが好ましく、150〜250倍重量用いるのがより好ましい。またアルカリ減量処理の温度は40〜100℃か好ましく、40〜80℃がより好ましい。アルカリ減量処理の時間としては、0.5〜1.5時間が好ましい。
【0027】
式(II)で表される二価の化合物は式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体成分の1〜20倍モル用いるのが好ましく、5〜15倍モル用いるのがより好ましい。反応濃度はジメチルホルムアミドに対して式(II)で表される二価の化合物の濃度が0.1〜10モル/Lで行うのが好ましく、0.4〜1モル/Lで行うのがより好ましい。用いる塩基としては、有機塩基が好ましく、トリエチルアミン、ピリジン、ジメチルアミノピリジンがより好ましい。用いる塩基の量は過剰に用いるのが好ましく、式(II)で表される化合物の1〜10倍モル用いるのが好ましく、1.5〜3倍モル用いるのがより好ましい。この反応自体は反応前のポリエステルの融点以下の温度でなされる必要があり、50〜100℃で行うのがより好ましい。また、この反応は、反応前のポリエステルの融点以上に加温しても繊維形態が保持されるまで反応させるのが好ましく、30分〜1時間反応させるのがより好ましい。
【0028】
式(II)で表される化合物を反応させることによって、繊維中の分子鎖のうち、共重合成分である式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体のフェノール水酸基、すなわち式(IV)で表される共重合成分のフェノール水酸基が式(V)で表されるように架橋されていることが好ましい。この架橋は分子内であっても分子間であってもよいが、分子間であることが好ましい。
【0029】
【化4】

【0030】
【化5】

【0031】
(式中、nは0〜10までの整数を表す)
得られる繊維形態としてはフィラメントであることが好ましい。なお、ここでいうフィラメントとは糸どうしが接着することなく長手方向に連続である糸のことをいう。
【実施例】
【0032】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
(1)ポリマーの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)ポリマーのカルボキシル末端基量
オルソクレゾールを溶媒として、25℃で0.02規定のNaOH水溶液を用いて、自動滴定装置(平沼産業社製、COM−550)にて滴定して測定した。
(3)融点(Tm)、昇温時結晶化温度(Tc)、ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(TA Instruments:Modulated DSC 2090)にて昇温速度16℃/minにて測定した。
(4)不溶化の判定
ヘキサフルオロイソプロパノール(以下、HFIPと略す。)に5分間浸漬したのち濾過し、糸が回収されれば不溶、回収されなければ溶解と判定。
(5)膨潤率
HFIPに糸を5分間浸漬させ、浸漬前の糸の長さに対する浸漬後の糸の長さの割合を測定した。
(6)不融化の判定
サンプルパンに糸を2本以上束ねて入れ、示差熱熱天秤・質量同時測定装置(Seiko Instruments Inc.:EXSTAR6000・TG/DTA6200)にてTG/DTA測定をおこなった。昇温速度は10℃/minで300℃または350℃まで昇温後、サンプルを室温まで放冷し、回収したサンプルパン中の糸の接着箇所が0カ所であることを不融、1カ所以上接着しているものの糸形態を保っている場合を融着、完全に糸の形態が失われるほど融解している場合を完全溶融と判定。その結果、少なくとも300℃まで昇温しても不融のものを高耐熱性ポリエステル繊維とした。
【0033】
参考例1
メカニカルスターラー、温度計、精留塔を備えた5Lの三口フラスコへ、高純度テレフタル酸(三井化学社製)1133gと1,4−ブタンジオール(BASF社製)1227gのスラリーを供給し、供給終了後150℃まで昇温する。150℃に達したら、テトラブトキシチタン(日本曹達社製)の10wt%1,4−ブタンジオール溶液を7.5mL加えたのち、徐々に220℃まで昇温した。フラスコ内容物が透明になり、留出液の温度が85℃を下回ったら反応終了とし、吐出して低分子のオリゴマーを得た。
【0034】
実施例1
参考例1で得た低分子のオリゴマー255gに、式(I)で表される化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルエステル(Aldrich社製)を61g(ジカルボン酸成分総量の20モル%に相当)、1,4−ブタンジオール(BASF社製)52g、テトラブトキシチタンの0.05g/mLの1,4−ブタンジオール溶液を6.4mL、リン酸の0.1g/mLの1,4−ブタンジオール溶液を0.54mL加えて、225℃窒素雰囲気下で30分撹拌したのち、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を225℃〜250℃まで30分かけて徐々に昇温し、その後250℃で反応させた。この際、圧力は4mmHgまで60分かけて下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は1時間20分であった。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.885、カルボキシル末端基48.2、融点(Tm)174℃、昇温時結晶化温度(Tc)103℃、ガラス転移温度(Tg)49℃であった。
【0035】
得られたポリマーチップを窒素雰囲気下105℃で12時間乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から紡出した。
【0036】
得られた紡出糸1.19gを1wt%水酸化ナトリウム水溶液238gに50℃1時間浸漬したのち水洗し、熱風乾燥機110℃で1時間乾燥した。こうしてアルカリ減量した糸1.14gをジメチルホルムアミド20mLに浸漬し、そこへ式(II)で表される化合物としてこはく酸クロリド1.58g、ピリジン2mLを加えて50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液から糸を取り出し、ジメチルホルムアミドで洗浄後、水洗した。こうして得られた糸はHFIPに不溶であり、その時の膨潤率は233%であった。また、この糸をTg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察したところ、いずれの温度であっても一本一本互いに接着せず糸形状が保たれており、不融であることを確認した。
【0037】
実施例2
実施例1で得た紡出糸1.15gを1wt%水酸化ナトリウム水溶液230gに50℃1時間浸漬したのち水洗し、熱風乾燥機110℃で1時間乾燥した。こうしてアルカリ減量した糸1.10gをジメチルホルムアミド20mLに浸漬し、そこへ式(II)で表される化合物としてスベロイルクロリド2.07g、ピリジン2mLを加えて50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液から糸を取り出し、ジメチルホルムアミドで洗浄後、水洗した。こうして得られた糸はHFIPに不溶であり、その時の膨潤率は167%であった。また、この糸をTg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察した。その結果、300℃まで昇温した時は一本一本互いに接着せず糸形状が保たれており、不融であることを確認した。一方、350℃まで昇温した時は糸が融着されていることを確認した。
【0038】
実施例3
実施例1で得た紡出糸1.15gを1wt%水酸化ナトリウム水溶液230gに50℃1時間浸漬したのち水洗し、熱風乾燥機110℃で1時間乾燥した。こうしてアルカリ減量した糸をジメチルホルムアミド20mLに浸漬し、そこへ式(II)で表される化合物としてドデカン二酸ジクロリド2.62g、ピリジン2mLを加えて50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液から糸を取り出し、ジメチルホルムアミドで洗浄後、水洗した。こうして得られた糸はHFIPに不溶であり、その時の膨潤率は169%であった。また、この糸をTg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察した。その結果、300℃まで昇温した時は一本一本互いに接着せず糸形状が保たれており、不融であることを確認した。一方、350℃まで昇温した時は糸が融着されていることを確認した。
【0039】
実施例4
参考例1で得た低分子のオリゴマー270gに、式(I)で表される化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルエステル(Aldrich社製)を46g(ジカルボン酸成分総量の15モル%に相当)、1,4−ブタンジオール(BASF社製)40g、テトラブトキシチタンの0.05g/mLの1,4−ブタンジオール溶液を6.4mL、リン酸の0.1g/mLの1,4−ブタンジオール溶液を0.54mL加えて、225℃窒素雰囲気下で30分撹拌したのち、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を225℃〜250℃まで30分かけて徐々に昇温し、その後250℃で反応させた。この際、圧力は3.5mmHgまで60分かけて下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は1時間7分であった。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.897、カルボキシル末端基45.3、融点(Tm)186℃、昇温時結晶化温度(Tc)79℃、ガラス転移温度(Tg)45℃であった。
【0040】
このポリマーチップを窒素雰囲気下105℃で12時間乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から吐出し、200m/分の速度で引取った。
【0041】
こうして得た糸0.41gを1wt%水酸化ナトリウム水溶液82gに50℃、1時間浸漬したのち水洗し、熱風乾燥機110℃で1時間乾燥した。こうしてアルカリ減量した糸0.41gをジメチルホルムアミド3.1mLに浸漬し、そこへ式(II)で表される化合物としてこはく酸クロリド248mg、ピリジン0.31mLを加えて50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液から糸を取り出し、ジメチルホルムアミドで洗浄後、水洗した。こうして得られた糸はHFIPに不溶であり、その時の膨潤率は184%であった。さらに、この糸をTg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察した。その結果、300℃まで昇温した時は一本一本互いに接着せず糸形状が保たれており、不融であることを確認した。一方、350℃まで昇温した時は糸が融着されていることを確認した。
【0042】
比較例1
参考例1で得た低分子のオリゴマー300gに、式(I)で表される化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルエステル(Aldrich社製)を15g(ジカルボン酸成分総量の5モル%に相当)、1,4−ブタンジオール(BASF社製)13g、テトラブトキシチタンの0.05g/mL1,4−ブタンジオール溶液を6.4mL、リン酸の0.1g/mL1,4−ブタンジオール溶液を0.54mL加えて、225℃窒素雰囲気下で30分撹拌したのち、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を225℃〜250℃まで30分かけて徐々に昇温し、その後250℃で反応させた。この際、圧力は4mmHgまで60分かけて下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は1時間25分であった。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.888、カルボキシル末端基44.1、融点(Tm)212℃、昇温時結晶化温度(Tc)49℃であった。
【0043】
このポリマーチップを窒素雰囲気下105℃で12時間乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から吐出し、200m/分の速度で引取った。
【0044】
こうして得た糸1.04gを1wt%水酸化ナトリウム水溶液208gに50℃1時間浸漬したのち水洗し、熱風乾燥機110℃で1時間乾燥した。こうしてアルカリ減量した糸1.04gをジメチルホルムアミド2.7mLに浸漬し、そこへ式(II)で表される化合物としてこはく酸クロリド217mg、ピリジン0.27mLを加えて50℃で1時間撹拌した。反応終了後、反応液から糸を取り出し、ジメチルホルムアミドで洗浄後、水洗した。こうして得られた糸はHFIPに溶解し、Tg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察した。その結果、いずれの温度でも糸が融着されていることを確認した。
【0045】
比較例2
参考例1で得た低分子のオリゴマー255gに、式(I)で表される化合物として5−ヒドロキシイソフタル酸ジメチルエステル(Aldrich社製)を61g(ジカルボン酸成分総量の20モル%に相当)、1,4−ブタンジオール(BASF社製)52g、テトラブトキシチタンの0.05g/mL1,4−ブタンジオール溶液を6.4mL、リン酸の0.1g/mL1,4−ブタンジオール溶液を0.54mL加えて、225℃窒素雰囲気下で30分撹拌したのち、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を225℃〜250℃まで30分かけて徐々に昇温し、その後250℃で反応させた。この際、圧力は4mmHgまで60分かけて下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は1時間20分であった。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.885、カルボキシル末端基48.2、融点(Tm)174℃、昇温時結晶化温度(Tc)103℃、ガラス転移温度(Tg)49℃であった。
【0046】
得られたポリマーチップを窒素雰囲気下105℃で12時間乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から紡出した。
【0047】
この紡出糸はHFIPに溶解した。また、Tg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察したところ、いずれの温度でも糸が融解し、全く糸形状が保たれておらず完全溶融であることを確認した。
【0048】
比較例3
参考例1で得た低分子のオリゴマー315gに、テトラブトキシチタンの0.05g/mL1,4−ブタンジオール溶液を9.4mL、リン酸の0.1g/mL1,4−ブタンジオール溶液を0.54mL加えて、反応系を減圧して反応を開始した。反応器内を225℃〜250℃まで30分かけて徐々に昇温し、その後250℃で反応させた。この際、圧力は4mmHgまで60分かけて下げた。所定の攪拌トルクとなった時点で反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリマーのペレットを得た。なお、減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は1時間30分であった。得られたポリマーの固有粘度(IV)は0.910、カルボキシル末端基36.8、融点(Tm)224℃であった。
【0049】
こうして得たポリマーチップを窒素雰囲気下105℃で12時間乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から紡出した。この糸はHFIPに溶解した。また、Tg/DTA測定で300℃および350℃まで昇温した後、回収したサンプルパン中を観察したところ、いずれの温度においても糸が融解し、全く糸形状が保たれておらず完全溶融であることを確認した。
【0050】
【表1】

【0051】
5−OH−IPA : 5−ヒドロキシイソフタル酸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体をポリエステルに6〜50モル%共重合し、紡糸後に式(II)で表される化合物を反応させることを特徴とする高耐熱性ポリエステル繊維の製造法。
【化1】

(Rはヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはその他のエステル形成性置換基を表す。)
【化2】

(nは0〜10の整数を表し、Xは水酸基、ハロゲン原子またはアセトキシ基を表す。)
【請求項2】
式(I)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体が式(III)で表されるジカルボン酸および/またはその誘導体である請求項1記載の高耐熱性ポリエステル繊維の製造法。
【化3】

(Rはヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、またはその他のエステル形成性置換基を表す。)
【請求項3】
ポリエステルがポリブチレンテレフタレートである請求項1または2に記載の高耐熱性ポリエステル繊維の製造法。
【請求項4】
繊維形態がフィラメントであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高耐熱性ポリエステル繊維の製造法。

【公開番号】特開2008−214827(P2008−214827A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56831(P2007−56831)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】