説明

高耐衝撃性変性ポリアミド6T樹脂組成物、その製造法および該組成物製造用二軸押出機

【課題】耐衝撃性および伸張性に優れるポリアミド6T樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)変性ポリアミド6T樹脂と(B)無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン共重合体(MAH−g−EPR)または無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン−ジエン共重合体(MAH−g−EPDM)を(A):(B)=50:50〜95:5の重量比で混合して得られる樹脂組成物であって、MAH−g−EPR相またはMAH−g−EPDM相に球状変性ポリアミド6Tのドメインがミクロンサイズ分散していることを特徴とする変性ポリアミド6T樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性と伸張性に優れるポリアミド6T樹脂組成物とその製造法および該組成物製造用二軸押出機に関する。
【背景技術】
【0002】
変性ポリアミド6T樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性などに優れているため、自動車用部品、機械・構造部品などの用途に使用されてきたものの、耐衝撃性や伸張性が不足するものがあり、用途や利用分野が制限されている。
ポリアミド系樹脂の耐衝撃性を改良するための技術としては、ポリアミド系樹脂にエチレン−不飽和カルボン酸無水物を配合した組成物(特許文献1)、及びエチレン−α−オレフィン共重合体とα、β−不飽和カルボン酸無水物系共重合体とから得られるエチレン−α−オレフィン共重合体組成物にポリアミド樹脂を加えた組成物(特許文献2)がある。しかしながら、これらの組成物の耐衝撃性および伸張性は必ずしも満足行くものではなかった。
【特許文献1】米国特許第5919865号明細書
【特許文献2】特開昭62−74943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、耐衝撃性および伸張性に優れるポリアミド6T樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
斯かる実情に鑑み、本発明者らは、変性ポリアミド6T樹脂に関して前記問題点を解決するため鋭意研究を行ったところ、変性ポリアミド6T樹脂を主成分とし、これに無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン共重合体(MAH−g−EPR)または無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン−ジエン共重合体(MAH−g−EPDM)を混合し、変性ポリアミド6Tのドメインをミクロンサイズ分散させた樹脂組成物が、耐衝撃性および伸張性に優れることを見出し本発明を完成した。
【0005】
即ち、本発明は、(A)変性ポリアミド6T樹脂と(B)無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン共重合体(MAH−g−EPR)または無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン−ジエン共重合体(MAH−g−EPDM)とを(A):(B)=50:50〜95:5の重量比で混合して得られる樹脂組成物であって、MAH−g−EPR相またはMAH−g−EPDM相に球状変性ポリアミド6Tのドメインがミクロンサイズ分散していることを特徴とする変性ポリアミド6T樹脂組成物を提供するものである。
【0006】
また、本発明は、 前記(A)成分と(B)成分を、噛み合い型同方向回転二軸押出機に付し反応押出を行うことを特徴とする該樹脂組成物の製造方法を提供するものである。
【0007】
更に、本発明は、該樹脂組成物を製造するための噛み合い型同方向回転二軸押出機であって、長径比が40以上であり、混練性エレメントより構成される一つの溶融ゾーンと複数の混練分散ゾーンからなるスクリュ構成を有する噛み合い型同方向回転二軸押出機を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の変性ポリアミド6T樹脂組成物は、(A)成分の末端のアミノ基と(B)成分の酸無水物基が直接反応することによって(A)相と(B)相との界面の親和性が強くなることにより、耐衝撃性と伸張性が向上する。
また、本発明のポリアミド6T樹脂組成物のモルフォロジーは、(B)相中に球状の(A)成分のドメインがミクロンに分散しており、さらに、(A)成分のドメイン相の界面に(B)成分の反応基が植え付けられるという特徴がある。
従って、本発明の変性ポリアミド6T樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性に加え、耐衝撃性および伸張性にも優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明に用いる(A)成分の変性ポリアミド6T樹脂組成物は、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合物を主成分とする樹脂組成物であり、市販されているものを用いることができる。市販品としては、例えば、三井化成工業株式会社製;アーレンAE4200、AE4200N、AE2230、A315、A335、A350等が挙げられる。
また、(B)成分の無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン共重合体(MAH−g−EPR)は、市販されているものを用いることができる。市販品としては、例えば、三井化成工業株式会社製;タフマーMA8510、MP0610、MP0620、MH7007、MH7010、MM7020等が挙げられる。また、無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン−ジエン共重合体(MAH−g−EPDM)は、市販のEPDMと無水マレイン酸(MAH)を100/1.0〜2,0の重量比で二軸押出機を用いて混練押出して得られる。ただし、混練物にグラフト反応の開始剤[1,3-ビス(t-ブチル-パーオキシイソプロピル)ベンゼン]を1〜2%入れる必要がある。ここで、EPDM中のジエン成分は、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンまたは1,4ヘキサジエンが好ましい。
【0010】
(A)成分と(B)成分の重量比は、耐衝撃性および伸張性の観点から(A):(B)=50:50〜95:5であり、60:40〜90:10が好ましく、更に70:30〜90:10が好ましい。
また、本発明において、ミクロンサイズ分散とは、透過型電子顕微鏡観察により(A)成分が(B)成分中にナノサイズ分散していて、好ましくは、平均粒径が20〜30μmとのことである。
【0011】
本発明の変性ポリアミド6T樹脂組成物は、前記(A)成分と(B)成分を混合し、噛み合い型同方向回転二軸押出機に付し反応押出を行うことにより製造することが好ましい。噛み合い型同方向回転二軸押出機によれば、(B)成分相に球状の(A)成分のドメインがミクロンサイズ分散したものが容易に得られる。
ここで用いる噛み合い型同方向回転二軸押出機は、長径比が40以上のものが好ましく、特に50〜80、更に70〜80が好ましい。
また、噛み合い型同方向回転二軸押出機は、混練性エレメントより構成される一つの溶融ゾーンと複数の混練分散ゾーンからなるスクリュ構成を有するものが好ましい。
すなわち、上流側に供給される(A)成分のペレットと(B)成分のペレットの混合物を溶融させるための溶融分散ゾーンと、(A)成分融体を(B)成分融体中に分散するための複数の混練分散ゾーンを有するスクリュ構成を有するものが好ましい。ここで混練分散ゾーンは、4〜6個が好ましい。また、場合によって反応押出時間の延長を図るため、少なくとも一つの混練分散ゾーンに少なくとも1つのシールリングを取り付けることができる。
【0012】
本発明の噛み合い型同方向回転二軸押出機の一例を図1に示す。
図1中、aは噛み合い型同方向回転二軸押出機の外観を示す図であり、bはその中のスクリュを示す図である。この図の噛み合い型同方向回転二軸押出機は、1つの溶融分散ゾーンとn個の混練分散ゾーンを有する。
溶融分散ゾーンには、主にせん断力の強い混練性エレメント(例えば、ディスク幅がL/D≧1.5の直交ニーデングディスク)を用い、混練分散ゾーンには、主にせん断力が弱く分散性の良いエレメント(例えば、ディスク幅がL/D=0.5のニーデングディスク)を使うスクリュ構成になっている。
【0013】
反応押出は、好ましくは温度320〜338℃、更に好ましくは、325〜335℃で行う。また、スクリュ回転数は、80〜200rpmが好ましく、特に80〜150が好ましい。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
70kg(70重量部)の変性ポリアミド6T樹脂(三井化成工業株式会社製;アーレンAE4200)のペレットと30kg(30重量部)のMAH−g−EPR(三井化学株式会社製;タフマーMA8510)のペレットをミキサー(川田製作所社製SMV−20)で混合した後、長径比55の二軸押出機(日本製鋼社製TEX30α)を用いて337℃の加工温度とスクリュ回転数100rpmで溶融混練して反応押出を行い、ペレタイザー(日本製鋼所社製LNS−150R)でペレット試料を得た。この試料のモルフォロジーを図2、3に示す。
【0015】
本発明のポリアミド6T樹脂組成物のモルフォロジーは、図2の電顕写真に示すようにミクロンに観察すると、マレイン酸グラフとEPR相中には球状の変性ポリアミド6Tのドメインが分散しており、さらに図2の局部を拡大した図3から見れば、球状変性ポリアミド6Tのドメイン相の中に小さい黒い粒があるという特徴がある。図3は島成分(変性ポリアミド6T)の界面に反応性マレイン酸グラフトEPRの反応基が植え付けられ、この界面で両性分の反応により生成した直径十数nm程度のミセルがより小さい多数島成分として取り込まれることを示している。
また、この様にして得たポリアミド6T樹脂組成物のペレットを、除湿乾燥機120℃で5時間乾燥した後、射出機で成形した。
この射出成型法により得たサンプルの機械特性の測定を行った。その測定結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
以上の測定結果から分かるようにポリアミド6T樹脂組成物のシャルピー衝撃強さと引張破断伸度は純ポリアミド6T材料のそのものに比べ、それぞれ3倍と4倍向上した。
かように、実施例1の組成物は、MAH−g−EPR相にポリアミド6Tがナノサイズで分散しており、かつMAH−g−EPRの微粒子がナノサイズのポリアミド6T相内にも分散しているというナノサイズの二重分散構造を有するポリアロイである。これによって、両相間の接触面積が大きい状態で、MAH−g−EPRの酸無水物基がナノサイズのポリアミド6Tと反応しているので、本発明品は耐衝撃性が高く、伸張性に優れると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】噛み合い型同方向回転二軸押出機の一例を示す図である。
【図2】変性ポリアミド6T樹脂組成物の透過型電顕写真である。
【図3】変性ポリアミド6T樹脂組成物の透過型電顕写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)変性ポリアミド6T樹脂と(B)無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン共重合体(MAH−g−EPR)または無水マレイン酸変性エチレン−ポリプロピレン−ジエン共重合体(MAH−g−EPDM)とを(A):(B)=50:50〜95:5の重量比で混合して得られる樹脂組成物であって、MAH−g−EPR相またはMAH−g−EPDM相に球状変性ポリアミド6Tのドメインがミクロンサイズ分散していることを特徴とする変性ポリアミド6T樹脂組成物。
【請求項2】
前記EPDM中のジエン成分が、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエンまたは1,4ヘキサジエンであることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)成分と(B)成分を、噛み合い型同方向回転二軸押出機に付し反応押出を行うことを特徴とする請求項1または2記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の樹脂組成物を製造するための噛み合い型同方向回転二軸押出機であって、長径比が40以上であり、混練性エレメントより構成される一つの溶融ゾーンと複数の混練分散ゾーンからなるスクリュ構成を有する噛み合い型同方向回転二軸押出機。
【請求項5】
少なくとも一つの混練分散ゾーンに少なくとも1ペアのシールリングを取り付けた構成である請求項4記載の噛み合い型同方向回転二軸押出機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37508(P2010−37508A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205086(P2008−205086)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】