高耐食性アモルファス合金
【課題】 優れた耐食性と硬度・低摩擦性を備え、またはさらに溶射による形成能をも備える、工業的利用性の高い高耐食性アモルファス合金を提供する。
【解決手段】 式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
条件−1;a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%
を満たし、30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されているとよい。
【解決手段】 式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
条件−1;a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%
を満たし、30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されているとよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、塩酸や硫酸、王水等の腐食液に対する耐食性に優れた高耐食性アモルファス合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
此れまでに多くの高耐食性アモルファス合金の成分が研究され、論文または特許文献に提示されてきた。提示された高耐食性アモルファス合金は二つに大別され、下記のように金属−金属、または金属−半金属の組み分けになる。
【0003】
1) 金属−金属の場合
例えば、Tu、Nb、2r、Ti−Cr、W、Mo−Ni、Al等の互いに違った金属との組み合わせてアモルファスを作製し、その耐食性能を競ってきた。これらには、特許文献1〜5のように多くの文献がある。
【特許文献1】特開昭61−266549号公報
【特許文献2】特開昭61−210143号公報
【特許文献3】特開平5−105906号公報
【特許文献4】特開平5−222405号公報
【特許文献5】特開2000−144380号公報
【0004】
2) 金属−半金属の場合
例えば、Fe、Cr、Co−V、Nb、Mo、Ta、W、Cu−C、B、P等の組み合わせでアモルファスが作製される。下記の特許文献6〜8のように次第にアモルファスの作製技術が進歩してきた。
【特許文献6】特開平10−265917号公報
【特許文献7】特開平11−71602号公報
【特許文献8】特許第3805601号公報
【0005】
半合金を使ってのアモルファスは、これまでの例では、72Fe−8Cr−13P−7C(数字は原子%)、45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C、50Fe−16Cr−16Mo−13P−7Cの組織のアモルファス合金は優れた耐蝕性を有するとされている。
特許文献8の合金は、Fe(100−a−b−c)−C(a)−TM(b)−(C(1−x)−B(x)−P(y))(c).ただし;TMはV,Nb,Mo,Ta,W,Cuの少なくても一種類以上。a、b、c、x、yはそれぞれ、5原子%≦a≦30原子%、5原子%≦b≦20原子%、10原子%≦c≦35原子%、25原子%≦a+b≦50原子%、35原子%≦a+b+c≦50原子%、0.11≦x≦0.85、0≦y≦0.57で表示される。50K以上の過冷却液体領域と850K以上のガラス遷移温度を兼備した非晶質を体積百分率で50%以上含む、非晶質形成能に優れた高耐食性・高強度Fe−Cr基バルクアモルファス合金である。
上記成分系でFe−Cr基アモルファス合金は、公知のアモルファス合金と同様、溶融状態から公知の片ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フイラメント状、粉粒体状のアモルファス固体を得ることができる。また、大幅にアモルファス形成能が改善されているため、上記の公知の製造方法のみならず、好ましくは、溶融合金を金型に充鎮鋳造することにより0.5mm2以上の断面積の任意の形状のバルクアモルファス合金を得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜5に記載された成分でアモルファスを作製するには、双ロール法、片ロール法、スバッター法、回転波中紡法、アトマイズ法等によって薄帯状、フイラメント状、粉粒体状のものを作製するしかなく、工業用材料としては限られたものとなる。特許文献6〜8の技術による場合にも、アモルファス合金の形成能は十分でなく、大きさや厚さ等の点で工業材料として適したものを簡便に製作できるわけではない。
また、これまでに報告されたアモルファス合金の耐食性については、十分な時間に及ぶ腐食の進行状況が調査されているとは言えなかった。本件発明者らの調査では、腐食液への浸漬が数百時間を越えた時点で急速に腐食が進行し始める例があったため、従来よりも長時間にわたる耐食性試験を通して高耐食性合金を開発する必要がある。
そのほか発明者らは、溶射材料を含む火炎を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することによって、母材表面にアモルファス合金の皮膜を形成する溶射技術をすでに開発している(特開2008−43869号公報等)。そうした技術によると、十分な面積や厚さを有するアモルファス合金を簡便に形成でき、当該合金の工業的利用が大幅に促進される。ただし、母材表面等において温度変化がともなうため、割れや剥離等の生じないアモルファス合金皮膜を溶射によって形成するには、曲げ延性等の特性を当該合金に付与する必要もある。
【0007】
請求項に係る発明は、以上の観点から、長時間の耐食性試験および曲げ強度試験をも併せて実施することにより、優れた耐食性を備え、またはさらに溶射による形成能をも備えるものとして開発した工業的利用性の高い高耐食性アモルファス合金を提供するものである。また、そのようなアモルファス合金であって高硬度・低摩擦のものも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許3805601(特許文献8)の技術によっても、前述の72Fe−8Cr−13P−7C,45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C,50Fe−16Cr−16Mo−13P−7C等のアモルファス形成能(50K以下の過冷却液体状態)の少ないもののアモルファスバルク化の実現化は出来なかった。そこで、たとえ形性能の低い成分系でもアモルファスバルク化が可能な筆者らが開発した溶射火炎冷却法(特許申請済み)を用いて、アモルファスバルク成分系の範囲を広げた。また特許3805601までの技術では本格的な工業用材料としての大きさとか、厚みとか等で使いがっての限界があったために、工業用材料としてのアモルファス合金の利用の広がりが大きくはなかった。そこで今回、開発した成分系で溶射火炎冷却法を使い、これらネックを大幅に改善した。例えば、面としては(例50cm×50cm以上)厚みは(例0.03mm〜3mm)と利用範囲を広げた。これで実際に工業用材料として使用可能かどうかの試験を行った。まず、化学工業材料の分野に的を絞り、溶射アモルファス皮膜を高耐食工業用材料として、化学プラント送酸ポンプの軸にアモルファス皮膜を溶射して実機で検証試験を行った。ここで、初めて、過酷な腐食、摩耗条件下の化学ポンプの軸にコーティングされたアモルファス皮膜合金が、従来の材料ハステロイーC、Ti等に比して5倍以上の耐久性実績を示した。今後は、この成功で、工業用材料として、本発明の溶射用アモルファス合金皮膜成分系が工業用材料として広く使用されていくこととなる。
上述の経過であった。開発段階では最適な溶射アモルファス皮膜の成分系の決める必要があったので、Fe−Cr系を基礎に多種類成分系のアモルファスリボンを作成し、そのリボンの耐食性能を各試薬毎に1000時間の浸漬試験を行った。そして、その中で、優れたれた耐食性の成分系を見いだして溶射アモルファス皮膜とした。そこでは、耐食性能はもとより、溶射皮膜性状(皮膜のミニクラック、一貫孔の程度)の出来を確認した。その結果、耐食性を向上させるCr量が多くなるにつれ、それに比例して皮膜性状が悪くなることが分かった。またCr量が多くなるとリボンの曲げ延性も悪くなることも分かった。そこで初めて、リボンの曲げ延性が良くなると、アモルファス皮膜性状が良くなる関係が分かった。また、リボンの曲げ延性の改善にはNiが優れた性能を発揮することもわかった。その結果を図−5に示す。これにより、必要に応じてNiを使い、最適溶射アモルファス皮膜用成分系を見いだすに至った。
鉄クロム系の高耐食性アモルファス合金は従来の金属材料と違い、少ないCr量でも、不働態皮膜を覆って耐食性を維持する。ところが塩酸においては、塩酸のHイオンに対するMoと高Cr(Cr量(at%)25%以上)でないと不働態皮膜を形成できずに、すぐに腐食してしまう。そこで発明者らは、Cr量(at%)20%でMoありと、Mo無しCr量35%(at%)で半金属はP−C系で、塩酸(濃度35%)に浸漬させると短時間で腐食されるものを、事前に不働態処理を施して塩酸(濃度35%)に浸漬させて耐食性能を確認すると、それは優れた耐食性能であることが分かった。これで、アモルファス合金も、前提条件はあるものの、金属ステンレス同様に事前に不働態処理を行えば耐食性能が向上することが分かった。
【0009】
発明の高耐食性アモルファス合金は、
式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
条件−1;a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%
を満たし、たとえば30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする。なお、不純物(Mn、S等)は全体で0.6重量%以内は混入していてもよい。
そのようなアモルファス合金は、上記のように、腐食液と接触することにより表面に不働態皮膜を形成し、そのために優れた高耐食性を発揮する。なお、高耐食性とは、1000時間の試薬での浸漬で溶失重量が5%以内のものをいう。また、このアモルファス合金は、高硬度(HVが800〜1300)であるうえ低摩擦特性(鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減)を有している。
【0010】
発明の高耐食性アモルファス合金は、
式−2;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−g・B
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、gについて、
条件−2;a=100−b−c−d−gで18%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、16%≦g≦22
を満たし、たとえば30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されているのも好ましい。上述のものにPとCとが含まれているのに対し、このアモルファス合金ではBが含まれる。なお、こちらのアモルファス合金にも、不純物(Mn、S等)は全体で0.6重量%以内は混入していてもよい。これは、粉末溶射ガンの火炎の温度が火口より2/1000(秒)間の間1500度以上の温度が維持されて、ここで不純物を気化したり、母材に完全溶解された状態になり、溶融材料のアモルファス化を邪魔していないからではないかと推察される。
このようなアモルファス合金も、腐食液によっては、上記のように表面に不働態皮膜を形成し、そのために優れた高耐食性を発揮する。ここでも、高耐食性とは、1000時間の試薬での浸漬で溶失重量が5%以内のものをいう。このアモルファス合金も、高硬度(HVが800〜1300)であるうえ低摩擦特性(鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減)を有している。
【0011】
発明の高耐食性アモルファス合金は、とくに、
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、25%≦b≦45%、4%≦c≦10%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦35%、4%≦c≦7%、0%<d≦6%であるのがよい。
塩酸は腐食条件が厳しいので、上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、上記係数b、c、dにしたがってCr、Mo、Niを含有する必要がある。このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、とくに上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。
【0012】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、20%≦b≦45%、0%≦c≦5%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、25%≦b≦26%、4%≦c≦6%、0%<d≦6%であるものも好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことにより、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。
【0013】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦5%、5%≦d≦7%であるものが好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。曲げ延性が高いため、溶射によって母材上に形成する際にも割れたり剥がれたりする可能性が低く、有利である。そして溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0014】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、18%≦b≦22%、4%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦6%、28%≦d≦30%であるのも好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことにより、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。上述のものと同様、溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0015】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、上記の式−1と条件−1とにしたがうもの、または式−2と条件−2とにしたがうものがそのまま使用できる。事前の不働態処理は不要である。
【0016】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、10%≦b≦20%、0%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Moの上記係数b、cが10%≦b≦35%、0%≦c≦7%であり、Niの上記係数dは、10%≦b≦26%であれば6%≦d≦30%、26%≦b≦35%であれば20%≦d≦30%である
ものが好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、上記硫酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。曲げ延性が高いため、溶射によって母材上に形成する際にも割れたり剥がれたりする可能性が低く、有利である。そして溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0017】
濃度が70〜5%の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして上に記載したアモルファス合金において、とくにMoの上記係数cが1%≦c≦2%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0018】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0019】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦45%、0%<c≦10%、0%<d≦30%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0020】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、または16%≦b≦25%、0%<c≦10%、d=0%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0021】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦35%、0%≦c≦10%、6%≦d≦30%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0022】
王水に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、28%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるか、または、35%≦b≦45%、0%<c≦9%、d=0%であるものが好ましい。
王水に対しては、式−2・条件−2のものではほとんど耐食性がなく、式−1および条件−1にしたがう必要がある。なお、事前の不働態処理は不要である。
【0023】
王水に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦45%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0024】
王水に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦35%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0025】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦35%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦35%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦5%、28%≦d≦30%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0026】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−2および条件−2にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0027】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦25%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、2%≦c≦5%、28%≦d≦30%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0028】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−2および条件−2にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【発明の効果】
【0029】
請求項に係る発明によれば、塩酸、硫酸、王水等の各種腐食液に対して優れた耐食性を備える、高硬度・低摩擦のアモルファス合金が提供される。発明者らがすでに開発した、溶射材料を含む火炎を冷却するという溶射技術によって容易に形成できるアモルファス合金も提供され、大きさや厚さ、アモルファス化のための成分上の純度等の点で、工業用材料として好ましいメリットがもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
○はじめに
今回の開発目的は耐食性、耐摩耗性に優れた、工業材料として溶射アモルファス皮膜合金が使用に耐えるレベルにまで技術を完成させるための、アモルファス合金成分と溶射皮膜アモルファス合金成分を決定することである。そのための目標は、
i) 大きな広がり(例えば50cm×50cm以上)があり、厚み(例えば0.03〜3mm)ができること。
ii) 溶射アモルファス皮膜性状が良好なこと。一般溶射皮膜と比較して一貫孔が少なく、表面のミニクラックがないこと。
iii) i)・ii)を満足したアモルファス成分系で実際に溶射して工業材料として、実機使用に耐えられるかの試験で合格すること。
以上を掲げ、化学プラントで最も過酷な腐食と摩耗にさらされる、送酸ポンプの軸に溶射アモルファス皮膜をコーティングして、実機試験を行った結果、従来材(Ti、ハステロイ−C)と比較し5倍も優れた耐久性を示す結果となった。ここではじめて工業用材料としての使用可となった。
上記内容の結果を得るまでの考え方と試験方法を下記に示す。
【0031】
○実験の事前検討とそれに基づいた実験方法と評価基準について
1) アモルファスリボンの性能評価で溶射アモルファスの性能評価が可能かの確認試験
(1)アモルファスリボンとその溶射皮膜特性の確認
i) アモルファスリボンと同一成分での溶射皮膜のアモルファス化の確認
多くの成分系で試験をするに当たり、開発された粉末式溶射ガンと冷却速度(200〜100万度/秒)が同等の性能かどうかの確認試験を行った。そのために、片ロールで作成したアモルファス成分で、溶射ガンにて被膜を作成して、それがアモルファス化しているかのチェック試験を行った。その成分は
・70Fe−10Cr−13P−7C
・81Fe−13B−4Si−2C
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C
で完全にアモルファス化していることを確認。これで溶射法が片ロール方式とほぼ同一の冷却能力を有している事を確認。
ii) アモルファスリボンと同一成分で溶射アモルファス皮膜を作製して、両者の防食性能比較試験を行った。その結果を表−1に示す。防食性能の差はほとんどない。この結果により、アモルファスリボンの性能試験結果をもって、溶射アモルファス皮膜の防食性能と判断した。
【表1】
【0032】
2) 実験での成分設計の考え方
(1)Fe−Cr系を基本のベースとしてFe−Cr−Mo系、Fe−Cr−Mo−Ni系を中心とした。
(2)上記基本形に、Ti,Taを添加してそれぞれ防食性能の変化を調べた。
(3)硫酸、硝酸に対しては、一般に言われているスーパーステンレスの成分系をアモルファス化して、その性能を確認した
(4)これら合金をアモルファス化する為の半金属元素はP−C系とB系の2系とした。
【0033】
3) 試験片のリボン形状設計について
(1)長さ60mm、幅1.5mm、厚み30mμを標準とした。
(2)重量は成分により若干ばらつくが0.012g(測定精度?1/10000g)を標準とした。
【0034】
4) 試験用試薬
(1)次亜塩素酸ソーダ(13%)、塩酸(35%)、硫酸(98%)、硝酸(60%)、王水を基本とした。
(2)希硫酸(5%)は一部のアモルファスで試験を行った。
【0035】
5) 実験方法
(1)上記作成のアモルファスリボンをそれぞれの試薬に入れて一週間毎重量を測定しながら、浸漬累積時間1008時間まで行う。
(2)その間のアモルファスリボンの形状、色の変化を観察
(3)一部アモルファスリボンを不働態処理を施して、その耐食性能の向上を確認、この結果を踏まえ防食性能を評価した。
【0036】
6) 耐食性の評価判定について(一次評価)
今回のアモルファスリボンは厚みが30mμと非常に薄く、しかも腐食は両面から始まる。これを片面からの腐食と考えると厚みは高々15mμとなる。その為に、早い時間での耐食性能結果が分かる。一次評価としての基準評点は1000時間試薬浸漬での溶失比率として、評価基準は次のものとした。
1;5%以内溶失 2;5%超から10%以内の溶失
3;10%超から20%以内の溶失 4;20%超から40%以内の溶失
5;40%超の溶失
7) アモルファスリボンの曲げ延性評価について
溶射したアモルファス皮膜に曲げ延性がないと、アモルファス皮膜にミクロクラックや一貫孔発生が多くなり、また衝撃に弱く、衝撃で溶射母材より皮膜が剥離しやすい事が分かった。そこでアモルファスリボンの延性について基準を設け試験をした。
(例)アモルファスリボンで耐食性能が一番優れている成分系の38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cで溶射皮膜を作成した表面断面写真図−1に示すようにミクロクラック、一貫孔が多く、溶射板を90度曲げると皮膜の半分が剥がれ落ちる。曲げに対しての延性が無いことを示す。片や70Fe−10Cr−13P−7Cでは溶射皮膜は写真のように綺麗である。また90度曲げても皮膜が剥がれることもなかった。これらにより、溶射皮膜性状の悪いものはアモルファスリボンを曲げると直ぐに折れる事実が分かった。そこで、アモルファスリボンの曲げ延性の基準が必要となり、次のような評価基準を作成した。
評価1;角度0度(完全に密着曲げ)で折れず 2;60度曲げで折れず
3;90度曲げで折れず 4;120度曲げで折れず
5;120度曲げで折れる
なお評価の真ん中のものは0.5を付け加えた表示とした。
【0037】
8) 最適アモルファス溶射皮膜の成分系の決定について(二次評価)
皮膜性状については、今後の溶射技術に負うところも多い。現状の実力では最適なアモルファス成分系の条件は防食性能の評価は“1”と曲げ延性評価は“2.5”以下の2条件を共に満足することとした。
【0038】
○試験結果での対薬品用防食アモルファス成分系の特徴と考察
各薬品に対する試験結果は表−2〜表−7に掲げてある。
【0039】
1) 基本的にはFe−Cr系の成分系で不働態皮膜が形成されれば、十分な耐食性がある。そのCr量は(at%)28%以上あればよい。
【0040】
2) 濃塩酸(濃度35%)、フッ酸、希硫酸(濃度70%以下)については、Hイオンによる腐食にはFe−Cr系ではMoが無いと、不働態皮膜ができず、耐えきれない。
【0041】
3) 濃塩酸、フッ酸、希硫酸に対してはMoを入れていかねば、耐食性は得られない。特に活性帯領域でのHイオンの初期腐食時に対して、MoのMoO32+イオンによる不働態皮膜の形成を助ける機能が必要である。そこでのMo量は濃塩酸(濃度35%)では4%〜10%(at%)必要、フッ酸、希硫酸(濃度70%以下)では1〜2%(at%)は必要。またMoを10%(at%)以上入れると必ずしもそれに比例して耐食性は向上しないし、反って若干悪くなる傾向がある。
【0042】
4) 濃塩酸(濃度35%)でFe−Cr系でCr量20%(at%)以上の者はオフラインで不働態処理を行ったものは耐食性に優れて、1000時間での浸漬でも腐食がない。これはCr量(at%)20%以上では不働態皮膜が一旦形成されるとHイオンによる腐食に耐え、不働態皮膜の維持化、補修する能力があることを示す。
【0043】
5) 次亜塩素酸ソーダー(濃度13%)での酸化皮膜について。アモルファス成分系によっては不働態皮膜以外に酸化皮膜を形成し耐食性を向上させている。特にBとNiが組み合うと確実に酸化皮膜が形成されやすい。
【0044】
6) 塩酸等Hイオンのある場合は不働態皮膜形成に時間の短くないと腐食が進む。したがって、上記MoとP−C系による短時間に有効なCrイオンを合金表層に集められる特徴がないと不働態皮膜を形成できない。従って塩酸や王水塔のアモルファス化の半金属はP−C系となる。半合金P−C系は全ての薬品対応に使用できる。
【0045】
7) アモルファス化の半金属のB系は不働態皮膜を短時間で作製する必要のある塩酸、王水、フッ酸には駄目だが、硫酸、硝酸、次亜塩素酸ソーダー、燐酸等には使える。
【0046】
8) 半合金P−B系の試験結果
41Fe−30Cr−6Mo−13P−10Bの成分での試験を行ったが、結果としては硫酸(濃度98%)に対しては合格、それ以外は耐食性能としては評点5と最低であった。
【0047】
9) Fe−Cr系を中心としたアモルファス合金は硬度が高く、いずれも、およそHVで800以上あり耐摩耗性もあり、優れた材料である。表−8、図−8を参照。
【0048】
10) 溶射されたアモルファス皮膜の摩擦係数は、鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減の低摩擦である。アモルファス皮膜の場合、大きな単結晶で粒界が少なく、そこに集まった炭化物、偏析等が少ないためと推察される。図−7を参照。
【0049】
11) 同一成分でのアモルファスリボンと溶射アモルファス皮膜とでは、試薬の耐食試験についてほぼ同様な耐食性能であった。表−1参照。
【0050】
12) 溶射アモルファス皮膜については、図−2に示すX線回析結果のとおり、完全アモルファス化している。
【0051】
13) この溶射アモルファス皮膜成分系の耐食性、高硬度を生かして、化学プラントで腐食と摩耗が一番激しいと言われている箇所の一つで試験を行った。それは化学プラントの送酸ポンプの軸である。ポンプ軸の材料は現在ハステロイ−C、Ti、デンメル−20が使われており、寿命は2〜3ヶ月となっている。この軸にアモルファス皮膜溶射をおこなって、2ヶ月の点検では従来材料の20%の摩耗であった。これで、一般工業材料としてアモルファス溶射皮膜が十分使用できることが証明された。図−10を参照。
【0052】
14) 今回の試験で良好な溶射アモルファス皮膜には至らなかったが、アモルファスリボンの段階で全ての薬品に対しての耐食性評点1をとった成分系は、38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cであった。
塩酸、硫酸、硝酸、王水、次亜塩素酸ソーダ、燐酸、フッ酸の1000時間浸漬に対し、溶質重量が0のものが多かった。今後は溶射技術が向上すれば、この成分系でのウルトラスーパー耐食性工業用材料が出来るであろう。
【0053】
○最適アモルファス皮膜の成分について
1) 一般にFe−Cr系、Fe−Cr−Mo系についてはCr量(at%)25%以上になればなるほど耐食性は向上してくる。しかし、アモルファス皮膜にはミクロクラックや一貫孔発生が多くなり、更に衝撃に弱くなる。良好な溶射アモルファス皮膜とはならない。そこで皮膜に伸び延性を持たすNiを投入すると、上記欠陥が大幅に改善される。従って、皮膜の状況を見ながらNiを投入する。しかし、Niの投入量はある薬品には耐食性能に影響するので、Cr量との耐食性能をチェックしながら決める。その具体的な、各薬品に対してのNi量は各請求項等に表示してある。
【0054】
○個々の試験でのアモルファスリボンの耐食性能と曲げ延性評価
1) 塩酸(濃度35%)について
(1)濃塩酸の腐食原理
H+とCL−に乖離する。2H++2e−→H2のカソード反応で腐食を起こす。また一方、CL−は金属と反応して塩化物を作る。酸素と共存すると酸化膜や不働態皮膜を破壊し、結果として腐食を促進する。それぞれの対応策として、H+にはMoが多いほど耐食性が良好とされる。一方CL−には、Crが多いほど耐食性に良いと言われている。
(2)成分設計
(1)の項の内容を基本にして、表−2の成分系で設計をした
【表2】
(3)耐食性能の結果
試験のアモルファスリボンの成分系の全試験リストとその腐食結果状況は表−1に示した。又その主なアモルファスリボンの成分系での試薬浸漬時間と侵食状況の経年変化を図−1に示した。
基準材料;ハステロイ−Cは1000Hで約50%近く腐食した。(評点5)
i)目標の1000Hの浸漬試験で5%以内腐食に合格した成分系は5成分系と不働態処理を施したもので3成分ある。括弧内は溶失重量%を示す。(一次評価)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(1.5%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(0.8%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(4.2%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ta−13P−7C(1.2%)
不働態処理を施して良好な性能を示したもの。
・45Fe−35Cr−13P−7C(64Hで溶失100%が1000Hで溶失重量0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(72Hで溶失100%が100Hで溶失重量0.8%)である。
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(0%)
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
・25%<Cr<45%で4%<Mo<10%ならば良好な性能発揮。又ここでMo量が10%を超えてくると、かえって耐食性が悪くなる。
・不働態処理をおこなえば、上記成分系でCr量を20%までは下げられる。
・Crの上限量は45%以下とした。理由はアモルファスリボンの延性が落ちて脆くなるためである。
b)Fe−Cr−P−C系について
・Crだけであれば、いかに多くのCr量を投入しても良好な耐食性能は得られない。
・不働態処理を行えば、上記i)の事も考え合わせればCr量は20%以上であれば良好な耐食性能が得られる。
c)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
・25%≦Cr≦26%で4%≦Mo≦6%の前提であれば、0%≦Ni≦6%で性能が若干向上する。それ以上のNi量はかえって耐食性能を悪化させる。但し、耐食性能の向上を求めるのではなく、リボン、皮膜等の延性向上を望むならば、Niは必要となる。
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
Crを35%、Moを7%に固定して、Xを変えてみた。
・XがTi(7%)については耐食性能は悪い。
・XがTa(6%)以下については耐食性能は良い。
【0055】
(4)試験結果に基づく考察と腐食モデルの考察
i)試験結果の考察
今回のアモルファスリボン、皮膜の防食の基本はCrに由る不働態皮膜である。従って、如何に早く不働態皮膜を作成し、傷ついた皮膜を早く修復する事が耐食性能をきめてしまう。上記試験で分かった事実は
a)不働態皮膜を形成する為にCrだけ多く投入しても耐食性は得られない。
b)Cr系(量25%以上)にMoを4%以上入れれば、耐食性は優れた性能となる。
c)Cr系だけのものはそれ単独では耐食性能が無くても、不働態処理を施せば、不働皮膜が出来て、耐食性能は優れたものとなる。但しCr≧20%である。
d)Niの量は6%以上になると耐食性能が悪くなる。
ii)新しい腐食モデルの構築
アモルファスリボンでFe−Mo−Cr系とFe−Cr系の両者を塩酸(35%)溶液に浸漬すると、その防食性能は、Mo成分が有したものは優れたものとなる。又一方Fe−Cr系不働態皮膜形成に大きな役割を果たすCr量を多くしても、その防食性能は決して良くない。その理由は不働態皮膜形成の課程に原因がある。その課程を下記において説明する。
アモルファス表面が塩酸に浸漬されると、その活性帯において、塩酸中のH+イオン濃度が大幅に高くなるためである。それを下式で示す。
溶液は H2O→H++OH− と HCL→H++CL− となる
又アモルファス成分のFe,Crはそれぞれ
Cr3++3CL− →CrCL3・・・(1)
Fe2++2CL− →FeCl2・・(2)
となる。そのためにH+イオンが置き去りとなり濃度が高くなる。こうなるとOH−がH+に比して少なくなり、不働態皮膜形成の下記の反応が出来にくくなる。このことを示す不働態皮膜形成については下記の反応式である。
Cr+3/2・O2+3H+ →Cr3+ 3/2・H2O・・・(3)
Cr3++3OH− → Cr(OH)3・・・(4)
Cr(OH)3 → 1/2・Cr2O3+3/2・H2O・・・(5)
上記式(5)の右辺のCr2O3が不働態皮膜を形成している。
OH−イオンが少ないことは、上記(1)式の反応に比べて(4)式が成り立ちにくくなる。即ち不働態皮膜形成が悪くなる事である。ここで、Fe−Cr系にMoを入れると活性帯での反応は(1)、(2)式までは同じである。ここでMoはCL−イオンと反応せずMoO32+イオンに酸化されて電気泳動によって腐食部に集積する。腐食部(Fe、CrがCL−イオンで腐食された箇所)は酸化性の強いMoO32+の濃縮で不働態皮膜の形成を助ける。そのときにその腐食部の(1)、(2)式の反応は無くなり、(4)式が優先されて、順次不働態皮膜が形成される。これらの概念を図−3に示す。またこれら内容を直接的には証明できないが、図−9(a)〜(c)に塩酸浸漬前と浸漬後の色の濃淡ではあるが、アモルファス合金皮膜界面のX線分析にかけた結果を表示してある。これらの時間はちょうど浸漬直後の活性帯にあたり、腐食が始まり、不働態皮膜が形成される迄の時間帯である。Crが一旦溶け出しており(図(b))、また再び不働態皮膜であろう界面にCrが集積している様がわかる。
iii)不働態皮膜に関する特徴
a)上記反応のためのMoの量も多くはいらず4%〜8%で十分であり、この量を10%以上にすると試験データよりわかるように反って耐食性能は悪くなる。
b)上記反応内容により、Fe−Cr系ではMoが無いまま、Cr量を多くしても耐食性は良くならないことが分かる。その例として、45Fe−35Cr−13P−7Cの成分系の場合がそうである。しかしながら、例えMoが無くてもこの成分系に不働態処理を施して一旦、不働態皮膜を形成させると優れた耐食性を示す。試験結果より、不働態皮膜を形成し、それを維持、補修できるCr量は20%以上である。
【0056】
(5)アモルファス化する為の半金属P−C系とB系の役割
i)P−C系について
P−C系はアモルファス合金の活性溶解を促進し、自らは不働態皮膜の重要成分の酸化クロムの形成を促進させる。このことが耐食性を向上させる。
ii)B系について
B系は自ら不働態皮膜の酸化クロムと共にほう酸酸化クロムとなり、不働態皮膜の重要成分である酸化クロムのクロム量を下げてしまう。そのために不働態化形成能力を下げてしまう。
iii)総合所見
試験結果から分かるようにB系は塩酸においては上記内容のように、不働態皮膜の形成能力が弱く、又事前の不働態処理を施しても、同一理由で耐食性がない。したがって王水には向かない。
【0057】
(6)アモルファスリボンの曲げ性能と耐食性を満足する成分(2次評価)
アモルファスリボンの耐食性と溶射皮膜の優れた成分について。
曲げ延性性能は前述したように、この性能が良いと溶射アモルファス皮膜の性状を良くする。塩酸の耐食性に対してはFe−Mo−Cr系が良いが、Crの量が多ければより耐食性を増す。しかし、表−2、図−4、図−5に示したようにCrの量が多ければそれだけアモルファスの曲げ性と延性は悪くなる矛盾がある。耐食性能の評点1で、曲げ延性の評価点2以下のバランスの良い成分系を示した。;( )は曲げ評点
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7Cを不働態処理したもの(2)
・45Fe−5Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7Cを不働態処理したもの(1.5)
以上3成分であった。これらの成分の特徴は耐食性を考えればCrを増やしたいが、曲げ延性を悪くするので、Cr量上限は25%となっている。曲げ延性を考えて、Niの投入で曲げ性を向上させている。それと共に、そのままの浸漬で耐えられないものは、不働態処理を施して不働態皮膜を形成させて耐食性を向上させている。
【0058】
2)濃硫酸(濃度98%)について
濃硫酸は酸としての性質(電離しにくい為)は弱いが、硫酸イオンは金属と反応し化合物をつくる。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同一成分で試験を行った。その内容は表−3に示している。また硫酸専用のスーパーステンレスの成分系をアモルファス化しての試験も行った。その成分は下記である。
29.5Fe−30Cr−4Mo−15Ni−1.5Cu−13P−7C
【表3】
(2)耐食性性能の結果
試験結果については表−3に示してある。主な成分系の腐食状況の時間変化を図−3に示した。酸化力が弱いこともあり、濃塩酸では目標達成が僅か8成分であったが、15成分も目標達成となった。またスーパーステンレスの成分系も優れた耐食性を示した。基準材料のハステロイ−Cは重量溶失0%であった。
i)目標の1008時間の腐食試験で5%以下の溶失の成分系;(−)は溶失重量%
一次評価は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(0%)
・45Fe−35Cr−13P−7C(2.9%)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(0%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(0%)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(3.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(0.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(0%)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−20B(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(2.8%)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・28Fe−45Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・29.5Fe−30Cr−4Mo−1.5Cu−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Ti−13P−7C(0%)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(0.6%)
以上16成分であった。
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
成分が12%≦Cr≦45%、4%≦Mo≦10%であれば良好な耐食性。
b)Fe−Cr−P−C系について
成分が10%≦Cr≦35%であれば良好な耐食性.
c)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
基本成分が25%≦Cr≦35%、3%≦Mo≦7%の範囲であれば、6%≦Ni≦30%でも良好な耐食性.
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
Crが35%でMoが7%ではTi,Ta投入は耐食性を大幅に落とす。
e)スーパーステンレス成分は優れた性能を示している。
29.5Fe−30Cr−4Mo−15Ni−1.5Cu−13P−7C(溶失1000時間で0%で評点1)
【0059】
(3)試験結果に基づく耐食性の考察
i)硫酸に対しては基本的には多くの合金成分を投入したものでなく、単純な成分系のFe−Cr−P−C系もしくはFe−Cr−B系で十分である。その成分量は10%≦Cr≦45%であれば良い。
ii)Fe−Cr−Mo−P−C系について
性能は良好である。ここで注意しなければならないことはMoの量である。Moが10%を超えてくると反って耐食性能が悪くなってくることである。
iii)Niについて
Niはアモルファスリボン及び溶射皮膜の曲げ延性を向上させる大事な成分であるので、これを加えて耐食性をおとしたくない。幸い上記のiii)のNi項にあるごとくの成分系では性能劣化にはなっていない。
iv)希硫酸(5%)での性能について
ここで濃硫酸(98%)の評価ばかりでなく、H+イオンが活躍する希硫酸についても耐食性試験をサンプリングをして試験を行った。その結果を表−4に示す。ここでは耐食性能は若干落ちてはいるが、5%溶失目標には十分は性能である。塩酸ほどのH+イオンの強さではないが、それでもこれによる腐食劣化の影響は受けている。これを抑えるためにMoを1%位投入すれば良い。
【表4】
v)硫酸においてのアモルファス化する為の半金属P−C系とB系について
硫酸系では塩酸系のH+イオンが強くない為に、腐食速度が遅くB系の不働態皮膜作成能力で十分である。
【0060】
(4)アモルファスリボンの曲げ性能と耐食性能との両者を満足する成分系(2次評価)
ここで表−3の成分系と図−4の曲げの評価を参考に曲げ評点2.5以下に限定すれば、下記の成分系となる。(−)は曲げ評点。耐食性評価は全て1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(1.5)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−6Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2.5)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−13P−7C(2.5)
以上10成分系である。やはり高Cr系でMo系ではNiを投入したものが多い。
【0061】
3)硝酸(60%)について
硝酸イオンNO3−は強い酸化能力に富み、金属と反応し硝酸塩を作る。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同一性分とした、その成分内容は表−5に示した。また硝酸専用のスーパーステンレスの成分系でもアモルファス化した。その成分は
20Fe−30Cr−3Mo−15Ni−12Si−13P−7C
である。
【表5】
(2)耐食試験の結果
試験結果については表−5に示した。酸化力が強いこともあり、目標達成は硫酸の16成分より13成分に落ちた。またスーパーステンレスの成分系も良好な性能である。ただし、基準材のハステロイ−Cの耐食性能は良くなかった。(評点3)
i)目標の1000時間の耐食試験では5%以下の成分;(−)は溶失重量%
一次評価が1であるもの
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(3.7%)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(0.8%)
・45Fe−25Cr−4Mo−13P−7C(2.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(0.6%)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−20B(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(2.8%)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・26Fe−45Cr−9Mo−13P−7C(3.5%)
・20Fe−30Cr−15Ni−12Si−13P−7C(1.9%)
・32FE−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(0.6%)
以上13成分であった。
【0062】
(3)結果分析
i)Fe−Cr−Mo−P−C系について
Crの量が16%以上で45%以下、Mo量が10%以内であれば、良好な耐食性を示す。ここで、63Fe−12Cr−5Mo−13P−7Cでの溶失量6.7%と、
55Fe−20Cr−5Mo−13P−7Cでも溶失量3.7%との間をMo一定でCrを比例分配するとCr量は16%以上となる。16%≦Cr≦45%、10%≧Moであれば良い。
ii)Fe−Cr−P−C系について
Cr量は、上記と同じように比例計算すると
70Fe−10CR−13P−7Cでも溶失量5.5%と
45Fe−35Cr−13P−7Cでの溶失量0%とで45%≧Cr≧13%で良い。
iii)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
16%≦Cr≦45%、Mo≦10%の範囲ならNi≦30%で良好な耐食性を得る。
iv)Fe−Cr−Mo−X−P−Cについて
XにTi,Taをそれぞれ10%、6%投入したものはかなり耐食性が悪い。
v)スーパーステンレスについて
20Fe−30Cr−3Mo−15Ni−12Si−13P−7Cの溶失重量は1.9%と優れたものであった。(評点1)
(4)試験結果に基づく耐食性の全体考察
i)Crを13%以上投入すれば、Fe−Cr−P−C系の単純成分系で十分な耐食性を確保できる。
ii)Niの投入についてはリボン、皮膜の延性を考える意味で大事であるが、幸い30%以内の投入では耐食性は良好である。
iii)アモルファス化するための半金属P−C系、B系について
塩酸の時と違い、初期腐食スピード(H+イオン)の差があり不働態皮膜の形成時間に余裕がある。その結果P−C系、B系との差が明確でない。どちらでも良い。
【0063】
(5)アモルファスリボンの曲げ性と耐食性の両者を満足する成分系について(2次評価)
ここに表−5の耐食性能と図−7の曲げ評価点を参考にして曲げ評価2.5以下に限定した。(−)は曲げ評点。耐食性能は全て1である。
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・55Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1)
・17Fe−25Cr−3Mo−15Ni−13P−7C(2.5)
以上7成分である。Niの入ったものが多い。
【0064】
4)王水
王水はHNO3+3HCL→NOCL+CL2+2H2Oとなり塩素、塩化ニトロシル塩酸となりTa,イリジュウム、純鉄以外の金属をほとんど溶かす。還元性と酸化性を共に兼ね備えた強力な腐食力を持つ。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同じ成分とした。その成分内容は表−6に示した。
【表6】
(2)耐食試験の結果
試験結果については表−6及び主成分系の腐食時間経過は図−5に示した。腐食力が最も強いと言われているように目標達成は6成分であった。また、基準材のハステロイ−Cの耐食性性能は極度に悪いものであった。(評点5)
i)目標の1000時間の耐食試験で5%以下の溶失成分;(−)は溶失重量%
一次評価1であるもの
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2.2%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(4.7%)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・20Fe−45Cr−9Mo−13P−7C(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0.9%)
以上6成分であった。
【0065】
(3)結果分析
i)Fe−Cr−Mo−P−C系について
35%≦Cr≦45%、6%≦Mo≦9%であれば良好な耐食性を維持できる。
ii)Fe−Cr−P−C系について
Crが35%以上であればCrの単独成分系で優れた性能を発揮できる。ここでCr量10%で19%の溶失とCr量で35%で0%の溶失でCrを比例配分すればCr量は28%以上あれば良い。
iii)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
Niの投入量6%では耐食性能にばらつきがある。一方20%を超えると安定した耐食性を得る。45%≧Cr≧25%、9%≧Mo≧0%、8%≧(1.4×b−29)%、ここでのbはCr量を示す。
iv)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
XにTi.Taを入れてもそう悪くない性能であった。特にTaを入れた場合は耐食性能は5.7%の溶失とまずまずの成績であった。
【0066】
(4)試験結果に基づく耐食性の考察
i)単純な成分系のFe−Cr−P−C系で45%≧Cr≧28%以上であれば十分である。
ii)基本的にNiの投入量を多くしてもFe−Cr−Mo−Ni−P−C系では耐食性を向上させる。
iii)半金属P−C系とB系について
塩酸と硝酸との混酸なので、腐食速度が速く、B系の遅い不働体形成は耐食性が悪い。
(5)アモルファスリボンの曲げ性と耐食性能の両者を満足する成分(2次評価)
ここに表−6の成分と耐食性能評価と図−4の曲げ評価を合わせて合格した成分系を示す。(−)は曲げ評価2以下、耐食性能は1である。
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
以上3成分である。いずれも曲げ性と耐食性でNiの投入となっている。
【0067】
5)次亜塩素酸ソーダ
化学式はNaCLOである。強アルカリ性で腐食性の高い液体である。また酸化力が強くステンレス鋼などの不働態皮膜を破壊し局部腐食をおこす。
1)成分設計
基本的には塩酸と同一とした。その成分内容は表−7に示した。
【表7】
2)耐食試験の結果
試験結果については表−7に示した。目標達成は12成分である。但し、合格成分の中には従来のように侵食されて重量を減らすタイプではなく、不働態皮膜の上に酸化皮膜が覆い、その重量が加わってかえって重量を多くしている成分もある。基準材のハステロイ−Cの溶失重量は0%であった。(評点1)
i)目標の1000時間の耐食試験で5%以下の溶失重量となったもの。(−)は溶失重量%。一次評価は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1.2%)
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(+0.8%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(+3.2%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(+1.1%)
・36Fe−25Cr−4Mo−15Ni−20B(+6.4%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(+11.1%)
・32Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(1.1%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ta−13P−7C(0%)
・36Fe−35Cr−7Ti−13P−7C(0%)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1.3%)
・51Fe−20Cr−3Mo−6Ni−20B(1.0%)
の12成分であった。
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
12%≦Cr≦35%、5%≦Mo≦7%の領域となっているが、明らかにMoの量が多くなってくると、性能が劣化する。これは次亜塩素酸ソーダのCl2がMoと反応してMo化合物を形成するためである。従ってMoが多いと耐食性能が悪くなる。
b)Fe−Cr−P−C系について
Cr量が10%≦Cr≦35%の範囲であれば十分である。
c)Fe−Cr−Mo−Ni系で半金属−P−C系とB系の違いについて
・P−C系について 16%≦Cr≦25%、2%≦Mo≦5%で
Ni量が30%以上でないと耐食性は悪い。
・B系について 20%≦Cr≦25%、3%≦Mo≦4%、6%≦Ni≦30%で
P−C系と違いNi量が少なくても耐食性が良く、しかも酸化皮膜による重量を増やしている。36Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20Bのアモルファス界面を顕微鏡写真を図−6に示しているが、酸化皮膜が2〜5μm全体を覆ってこれが重量を増し、耐食性を維持している。
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
XがTaでは耐食性は良好だがTiは耐食性が悪い。ここでMoを0として、その代わりにTiを入れたものは良好な耐食性である。
【0068】
(3)試験結果に基づく耐食性の考察
i)単純成分系のFe−Cr−P−C系でCr≧10%で十分な性能は確保できる。
ii)Fe−Cr−Mo−P−C系はMo量をMo≦8%とする。そうでないとかえって耐食性能を劣化させる。それはMoとCl2ガスとで化合物をつくり腐食を進めるからである。
iii)NiとB系の組み合わせでFe−Cr−Ni−Bの型が溶射皮膜として最も良さそうである。まず、Niは曲げ延性を向上させる。B系とNiでの組み合わせで酸化皮膜を形成させて耐食性を上げる(図−6参照)。これは、溶射の欠点であるミクロクラック、一貫孔(いずれも1mμ以下)について、この両者とも封孔剤が皮膜の奥まで入りにくい、そこを酸化皮膜で埋め尽くすことが出来る。また表面も保護膜として耐食性を向上させるからである。
【0069】
(4)アモルファスリボンの曲げ延性と耐食性能との両者を満足する成分系について(2次評価)
ここで表−7の成分系の耐食性能と図−4の曲げ評価を参考に、曲げ評点2以下に限定。(−)は曲げ評価点。耐食性評点は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(1.5)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C
・37Fe−25Cr−5Mo−15Ni−20B(2.5)
・51Fe−20Cr−3Mo−6Ni−20B(1.5)
以上8成分である。
【0070】
6)燐酸
塩酸と同一成分で十分である。
【0071】
7)希硫酸
基本的には濃硫酸の成分系でよいが、Moの投入が無いものはMo1〜2%(at%)入れれば良い
【0072】
8)フッ酸
塩酸と同じ成分であれば良い。
【0073】
○アモルファスリボンの曲げ性と溶射皮膜の性状の関係について
1)アモルファスリボンの曲げ性の意味
アモルファスリボンの性能が向上してゆくと、リボンは次第に硬くなり延性を失っていく。すなわち性状がセラミクスに近づいてゆく。このままの成分で溶射皮膜を作成すると、
(1)溶射皮膜の硬度が高すぎ、衝撃に弱くなる。
(2)皮膜自身が金属としてのつながりが弱くなり、割れ感受性が高い。従って表面にミクロクラックの発生や、溶射時の積層間の間があり、密着力が弱くなり、一貫孔も多くなる傾向がある。
【0074】
2)曲げ性と成分の関係
アモルファスリボンの曲げ性評価結果を図−4と分析を図−5に示している。その特徴は
(1)Crの量が多くなると確実に曲げ性は悪化する。
(2)Moが10%以内だと曲げ性に影響しない。
(3)成分系がFe−Cr−Mo−X−P−CのXにTa,Tiは硬度を確実に上げて曲げ性は悪くなる。
(4)Niは成分系を問わず、確実に曲げ性をよくする。特に図−5に示すごとくNiを入れていくと曲げ性を向上させる。
【0075】
3)求められる曲げ性能と皮膜の関係について
図−1に、“70Fe−10Cr−13P−7C”系でリボン曲げ性評価1の断面写真と“38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C”系でリボン曲げ性評価4の溶射皮膜の断面写真を示している。
38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cの断面写真から分かるように70Fe−10Cr−13P−7Cに比して
(1)表面にミクロクラックが発生している。
(2)縦に小さなクラックが入っている。
評点1と4の差が歴然としている。
溶射皮膜を350mμにした板を90度曲げした時の溶射皮膜の状況は、評点4については、ばらばらと剥がれ落ちる。評点1はクラックは入るものの剥がれない。
【0076】
4)曲げ延性評価による皮膜性状の優れたものの判定
ここでは曲げ評価2以下が適正溶射皮膜の得られるものと判定した。
【0077】
○アモルファス皮膜の防食と皮膜性状とのバランスのとれた評価
2次評価としては防食性能“1”、現在の溶射技術では、曲げ評価は“2.5“以下のものを実用に耐えられる溶射皮膜の成分系とする。今後は溶射技術の向上によって、いずれは曲げ評価“4”まで良好な溶射皮膜を作り上げられる。
【0078】
○工業化のための実機適用試験について
1)工業化のための適正成分系について
70Fe−10Cr−13P−7Cの成分系は対象薬剤を硫酸、硝酸、次亜塩素酸ソーダ、燐酸にすれば優れた耐食性が得られ、アモルファスリボンの曲げ延性も評価1で優れた溶射皮膜も得られている。今回はこれで実機試験を行った。
2)工業化のための具体的な実機例
(1)化学プラントの送酸用ポンプの駆動軸の適用
この部位はポンプモーター動力をインペラーに伝える部分で、軸端部からの酸漏れを防ぐために硬い特殊パッキンがモーター側とインペラー側にそれぞれ付けられている。それが軸の表面をこすり、アブレシングな状態となった上に酸(硫酸、硝酸、燐酸)による腐食が重なり、最も過酷な腐食条件にさらされている。ここの部分は現在化学プラントの腐食のウイークポイントになっている。現在の使用材質はデユリメント−20やハステロイ−C、Tiである。その耐久性は2ヶ月〜3ヶ月である。この軸の軸径はポンプの容量によるが、40〜150mm、長さは40〜250mmであり、その外径に0.25mmの溶射アモルファス皮膜のコーティングをして、実機試験を行った。2ヶ月後の試験結果では図−10に示すようにパッキンに当たる部分の腐食は従来比の1/5以下と優れた性能を示し、長寿命化につながった。現場ではこれらを取り替えるに多額のメンテナンス費用をかけている。更に現在、追加で3基の実機で試験中。これらの結果により、アモルファス皮膜は防食用材料として工業化の道を切りひらいた。今後は封孔材を使い更に耐食性能を上げていく。
(2)化学プラントの攪拌タンクのインペラーでの実機適用
化学プラントの攪拌タンクで混酸(硫酸、硝酸、燐酸)のなかで液を混ぜるためにステンレス316Lのインペラーを使っているが、インペラーの先端は腐食摩耗、根元は応力腐食のために、取替えが11ヶ月(溶失重量62%)となっているが、これに上記アモルファスの表面コーティング(厚み0.35mm)をしたものは、5ヶ月目の点検チックでの結果は溶失重量も2%であり、従来品との差は歴然であった。優れた性能である。
【0079】
前述のように、Fe−Cr系を中心としたアモルファス合金は硬度が高く、耐摩耗性にも優れている。表−8にハステロイ−Cとの硬度比較を示す。
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0080】
発明の利用分野は、高耐食性については化学プラント。高硬度、低摩擦については加工機械等、多くの産業分野で多様な利用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】“70Fe−10Cr−13P−7C”系でリボン曲げ性評価1の断面顕微鏡写真(図(a))と、“38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C”系でリボン曲げ性評価4の溶射皮膜の断面顕微鏡写真(図(b))とを示している。
【図2】高耐食性アモルファス合金のX線回折分析結果を示す線図である。
【図3】アモルファス合金の塩酸における初期腐食モデルを示す図である。
【図4】成分別アモルファスリボンの曲げ強度評点を示す図である。
【図5】アモルファスリボンの曲げ強度と成分との関係を示す図である。
【図6】アモルファスリボンの表面における酸化膜を示す顕微鏡写真である。
【図7】摩耗試験時の摩擦を示す図である。
【図8】アモルファス合金等について摩耗試験機による摩耗度を示す図である。
【図9】アモルファスリボンの表面成分分析結果を示す写真である。
【図10】送酸用ポンプの駆動軸に適用したアモルファス合金等の摩耗状況を示す図および写真である。
【技術分野】
【0001】
請求項に係る発明は、塩酸や硫酸、王水等の腐食液に対する耐食性に優れた高耐食性アモルファス合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
此れまでに多くの高耐食性アモルファス合金の成分が研究され、論文または特許文献に提示されてきた。提示された高耐食性アモルファス合金は二つに大別され、下記のように金属−金属、または金属−半金属の組み分けになる。
【0003】
1) 金属−金属の場合
例えば、Tu、Nb、2r、Ti−Cr、W、Mo−Ni、Al等の互いに違った金属との組み合わせてアモルファスを作製し、その耐食性能を競ってきた。これらには、特許文献1〜5のように多くの文献がある。
【特許文献1】特開昭61−266549号公報
【特許文献2】特開昭61−210143号公報
【特許文献3】特開平5−105906号公報
【特許文献4】特開平5−222405号公報
【特許文献5】特開2000−144380号公報
【0004】
2) 金属−半金属の場合
例えば、Fe、Cr、Co−V、Nb、Mo、Ta、W、Cu−C、B、P等の組み合わせでアモルファスが作製される。下記の特許文献6〜8のように次第にアモルファスの作製技術が進歩してきた。
【特許文献6】特開平10−265917号公報
【特許文献7】特開平11−71602号公報
【特許文献8】特許第3805601号公報
【0005】
半合金を使ってのアモルファスは、これまでの例では、72Fe−8Cr−13P−7C(数字は原子%)、45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C、50Fe−16Cr−16Mo−13P−7Cの組織のアモルファス合金は優れた耐蝕性を有するとされている。
特許文献8の合金は、Fe(100−a−b−c)−C(a)−TM(b)−(C(1−x)−B(x)−P(y))(c).ただし;TMはV,Nb,Mo,Ta,W,Cuの少なくても一種類以上。a、b、c、x、yはそれぞれ、5原子%≦a≦30原子%、5原子%≦b≦20原子%、10原子%≦c≦35原子%、25原子%≦a+b≦50原子%、35原子%≦a+b+c≦50原子%、0.11≦x≦0.85、0≦y≦0.57で表示される。50K以上の過冷却液体領域と850K以上のガラス遷移温度を兼備した非晶質を体積百分率で50%以上含む、非晶質形成能に優れた高耐食性・高強度Fe−Cr基バルクアモルファス合金である。
上記成分系でFe−Cr基アモルファス合金は、公知のアモルファス合金と同様、溶融状態から公知の片ロール法、双ロール法、回転液中紡糸法、アトマイズ法等の種々の方法で冷却固化させ、薄帯状、フイラメント状、粉粒体状のアモルファス固体を得ることができる。また、大幅にアモルファス形成能が改善されているため、上記の公知の製造方法のみならず、好ましくは、溶融合金を金型に充鎮鋳造することにより0.5mm2以上の断面積の任意の形状のバルクアモルファス合金を得ることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜5に記載された成分でアモルファスを作製するには、双ロール法、片ロール法、スバッター法、回転波中紡法、アトマイズ法等によって薄帯状、フイラメント状、粉粒体状のものを作製するしかなく、工業用材料としては限られたものとなる。特許文献6〜8の技術による場合にも、アモルファス合金の形成能は十分でなく、大きさや厚さ等の点で工業材料として適したものを簡便に製作できるわけではない。
また、これまでに報告されたアモルファス合金の耐食性については、十分な時間に及ぶ腐食の進行状況が調査されているとは言えなかった。本件発明者らの調査では、腐食液への浸漬が数百時間を越えた時点で急速に腐食が進行し始める例があったため、従来よりも長時間にわたる耐食性試験を通して高耐食性合金を開発する必要がある。
そのほか発明者らは、溶射材料を含む火炎を噴射するとともに、噴射された火炎を、それが母材に至る前より冷却することによって、母材表面にアモルファス合金の皮膜を形成する溶射技術をすでに開発している(特開2008−43869号公報等)。そうした技術によると、十分な面積や厚さを有するアモルファス合金を簡便に形成でき、当該合金の工業的利用が大幅に促進される。ただし、母材表面等において温度変化がともなうため、割れや剥離等の生じないアモルファス合金皮膜を溶射によって形成するには、曲げ延性等の特性を当該合金に付与する必要もある。
【0007】
請求項に係る発明は、以上の観点から、長時間の耐食性試験および曲げ強度試験をも併せて実施することにより、優れた耐食性を備え、またはさらに溶射による形成能をも備えるものとして開発した工業的利用性の高い高耐食性アモルファス合金を提供するものである。また、そのようなアモルファス合金であって高硬度・低摩擦のものも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
特許3805601(特許文献8)の技術によっても、前述の72Fe−8Cr−13P−7C,45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C,50Fe−16Cr−16Mo−13P−7C等のアモルファス形成能(50K以下の過冷却液体状態)の少ないもののアモルファスバルク化の実現化は出来なかった。そこで、たとえ形性能の低い成分系でもアモルファスバルク化が可能な筆者らが開発した溶射火炎冷却法(特許申請済み)を用いて、アモルファスバルク成分系の範囲を広げた。また特許3805601までの技術では本格的な工業用材料としての大きさとか、厚みとか等で使いがっての限界があったために、工業用材料としてのアモルファス合金の利用の広がりが大きくはなかった。そこで今回、開発した成分系で溶射火炎冷却法を使い、これらネックを大幅に改善した。例えば、面としては(例50cm×50cm以上)厚みは(例0.03mm〜3mm)と利用範囲を広げた。これで実際に工業用材料として使用可能かどうかの試験を行った。まず、化学工業材料の分野に的を絞り、溶射アモルファス皮膜を高耐食工業用材料として、化学プラント送酸ポンプの軸にアモルファス皮膜を溶射して実機で検証試験を行った。ここで、初めて、過酷な腐食、摩耗条件下の化学ポンプの軸にコーティングされたアモルファス皮膜合金が、従来の材料ハステロイーC、Ti等に比して5倍以上の耐久性実績を示した。今後は、この成功で、工業用材料として、本発明の溶射用アモルファス合金皮膜成分系が工業用材料として広く使用されていくこととなる。
上述の経過であった。開発段階では最適な溶射アモルファス皮膜の成分系の決める必要があったので、Fe−Cr系を基礎に多種類成分系のアモルファスリボンを作成し、そのリボンの耐食性能を各試薬毎に1000時間の浸漬試験を行った。そして、その中で、優れたれた耐食性の成分系を見いだして溶射アモルファス皮膜とした。そこでは、耐食性能はもとより、溶射皮膜性状(皮膜のミニクラック、一貫孔の程度)の出来を確認した。その結果、耐食性を向上させるCr量が多くなるにつれ、それに比例して皮膜性状が悪くなることが分かった。またCr量が多くなるとリボンの曲げ延性も悪くなることも分かった。そこで初めて、リボンの曲げ延性が良くなると、アモルファス皮膜性状が良くなる関係が分かった。また、リボンの曲げ延性の改善にはNiが優れた性能を発揮することもわかった。その結果を図−5に示す。これにより、必要に応じてNiを使い、最適溶射アモルファス皮膜用成分系を見いだすに至った。
鉄クロム系の高耐食性アモルファス合金は従来の金属材料と違い、少ないCr量でも、不働態皮膜を覆って耐食性を維持する。ところが塩酸においては、塩酸のHイオンに対するMoと高Cr(Cr量(at%)25%以上)でないと不働態皮膜を形成できずに、すぐに腐食してしまう。そこで発明者らは、Cr量(at%)20%でMoありと、Mo無しCr量35%(at%)で半金属はP−C系で、塩酸(濃度35%)に浸漬させると短時間で腐食されるものを、事前に不働態処理を施して塩酸(濃度35%)に浸漬させて耐食性能を確認すると、それは優れた耐食性能であることが分かった。これで、アモルファス合金も、前提条件はあるものの、金属ステンレス同様に事前に不働態処理を行えば耐食性能が向上することが分かった。
【0009】
発明の高耐食性アモルファス合金は、
式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
条件−1;a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%
を満たし、たとえば30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする。なお、不純物(Mn、S等)は全体で0.6重量%以内は混入していてもよい。
そのようなアモルファス合金は、上記のように、腐食液と接触することにより表面に不働態皮膜を形成し、そのために優れた高耐食性を発揮する。なお、高耐食性とは、1000時間の試薬での浸漬で溶失重量が5%以内のものをいう。また、このアモルファス合金は、高硬度(HVが800〜1300)であるうえ低摩擦特性(鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減)を有している。
【0010】
発明の高耐食性アモルファス合金は、
式−2;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−g・B
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、gについて、
条件−2;a=100−b−c−d−gで18%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、16%≦g≦22
を満たし、たとえば30K以上の過冷却液体領域があり、体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されているのも好ましい。上述のものにPとCとが含まれているのに対し、このアモルファス合金ではBが含まれる。なお、こちらのアモルファス合金にも、不純物(Mn、S等)は全体で0.6重量%以内は混入していてもよい。これは、粉末溶射ガンの火炎の温度が火口より2/1000(秒)間の間1500度以上の温度が維持されて、ここで不純物を気化したり、母材に完全溶解された状態になり、溶融材料のアモルファス化を邪魔していないからではないかと推察される。
このようなアモルファス合金も、腐食液によっては、上記のように表面に不働態皮膜を形成し、そのために優れた高耐食性を発揮する。ここでも、高耐食性とは、1000時間の試薬での浸漬で溶失重量が5%以内のものをいう。このアモルファス合金も、高硬度(HVが800〜1300)であるうえ低摩擦特性(鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減)を有している。
【0011】
発明の高耐食性アモルファス合金は、とくに、
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、25%≦b≦45%、4%≦c≦10%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦35%、4%≦c≦7%、0%<d≦6%であるのがよい。
塩酸は腐食条件が厳しいので、上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、上記係数b、c、dにしたがってCr、Mo、Niを含有する必要がある。このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、とくに上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。
【0012】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、20%≦b≦45%、0%≦c≦5%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、25%≦b≦26%、4%≦c≦6%、0%<d≦6%であるものも好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことにより、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。
【0013】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦5%、5%≦d≦7%であるものが好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。曲げ延性が高いため、溶射によって母材上に形成する際にも割れたり剥がれたりする可能性が低く、有利である。そして溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0014】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、18%≦b≦22%、4%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦6%、28%≦d≦30%であるのも好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことにより、上記塩酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。上述のものと同様、溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0015】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、上記の式−1と条件−1とにしたがうもの、または式−2と条件−2とにしたがうものがそのまま使用できる。事前の不働態処理は不要である。
【0016】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、10%≦b≦20%、0%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Moの上記係数b、cが10%≦b≦35%、0%≦c≦7%であり、Niの上記係数dは、10%≦b≦26%であれば6%≦d≦30%、26%≦b≦35%であれば20%≦d≦30%である
ものが好ましい。
このようなアモルファス合金であれば、事前に不働態処理を施すことなく、上記硫酸等の腐食液に対して高耐食性を発揮する。曲げ延性が高いため、溶射によって母材上に形成する際にも割れたり剥がれたりする可能性が低く、有利である。そして溶射により、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0017】
濃度が70〜5%の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして上に記載したアモルファス合金において、とくにMoの上記係数cが1%≦c≦2%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0018】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0019】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦45%、0%<c≦10%、0%<d≦30%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0020】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、または16%≦b≦25%、0%<c≦10%、d=0%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0021】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1と条件−1とにしたがうか、または式−2と条件−2とにしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦35%、0%≦c≦10%、6%≦d≦30%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0022】
王水に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、28%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるか、または、35%≦b≦45%、0%<c≦9%、d=0%であるものが好ましい。
王水に対しては、式−2・条件−2のものではほとんど耐食性がなく、式−1および条件−1にしたがう必要がある。なお、事前の不働態処理は不要である。
【0023】
王水に対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦45%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0024】
王水に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦35%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0025】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦35%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦35%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦5%、28%≦d≦30%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0026】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−2および条件−2にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。
【0027】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−1および条件−1にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦25%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、2%≦c≦5%、28%≦d≦30%であるものが好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【0028】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金としては、
上記の式−2および条件−2にしたがうとともに、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%であるものも好ましい。事前の不働態処理は不要である。なお、前述のものと同様、溶射によって、ミニクラックや一貫孔の少ない、衝動に強い良好な皮膜が形成される。
【発明の効果】
【0029】
請求項に係る発明によれば、塩酸、硫酸、王水等の各種腐食液に対して優れた耐食性を備える、高硬度・低摩擦のアモルファス合金が提供される。発明者らがすでに開発した、溶射材料を含む火炎を冷却するという溶射技術によって容易に形成できるアモルファス合金も提供され、大きさや厚さ、アモルファス化のための成分上の純度等の点で、工業用材料として好ましいメリットがもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
○はじめに
今回の開発目的は耐食性、耐摩耗性に優れた、工業材料として溶射アモルファス皮膜合金が使用に耐えるレベルにまで技術を完成させるための、アモルファス合金成分と溶射皮膜アモルファス合金成分を決定することである。そのための目標は、
i) 大きな広がり(例えば50cm×50cm以上)があり、厚み(例えば0.03〜3mm)ができること。
ii) 溶射アモルファス皮膜性状が良好なこと。一般溶射皮膜と比較して一貫孔が少なく、表面のミニクラックがないこと。
iii) i)・ii)を満足したアモルファス成分系で実際に溶射して工業材料として、実機使用に耐えられるかの試験で合格すること。
以上を掲げ、化学プラントで最も過酷な腐食と摩耗にさらされる、送酸ポンプの軸に溶射アモルファス皮膜をコーティングして、実機試験を行った結果、従来材(Ti、ハステロイ−C)と比較し5倍も優れた耐久性を示す結果となった。ここではじめて工業用材料としての使用可となった。
上記内容の結果を得るまでの考え方と試験方法を下記に示す。
【0031】
○実験の事前検討とそれに基づいた実験方法と評価基準について
1) アモルファスリボンの性能評価で溶射アモルファスの性能評価が可能かの確認試験
(1)アモルファスリボンとその溶射皮膜特性の確認
i) アモルファスリボンと同一成分での溶射皮膜のアモルファス化の確認
多くの成分系で試験をするに当たり、開発された粉末式溶射ガンと冷却速度(200〜100万度/秒)が同等の性能かどうかの確認試験を行った。そのために、片ロールで作成したアモルファス成分で、溶射ガンにて被膜を作成して、それがアモルファス化しているかのチェック試験を行った。その成分は
・70Fe−10Cr−13P−7C
・81Fe−13B−4Si−2C
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C
で完全にアモルファス化していることを確認。これで溶射法が片ロール方式とほぼ同一の冷却能力を有している事を確認。
ii) アモルファスリボンと同一成分で溶射アモルファス皮膜を作製して、両者の防食性能比較試験を行った。その結果を表−1に示す。防食性能の差はほとんどない。この結果により、アモルファスリボンの性能試験結果をもって、溶射アモルファス皮膜の防食性能と判断した。
【表1】
【0032】
2) 実験での成分設計の考え方
(1)Fe−Cr系を基本のベースとしてFe−Cr−Mo系、Fe−Cr−Mo−Ni系を中心とした。
(2)上記基本形に、Ti,Taを添加してそれぞれ防食性能の変化を調べた。
(3)硫酸、硝酸に対しては、一般に言われているスーパーステンレスの成分系をアモルファス化して、その性能を確認した
(4)これら合金をアモルファス化する為の半金属元素はP−C系とB系の2系とした。
【0033】
3) 試験片のリボン形状設計について
(1)長さ60mm、幅1.5mm、厚み30mμを標準とした。
(2)重量は成分により若干ばらつくが0.012g(測定精度?1/10000g)を標準とした。
【0034】
4) 試験用試薬
(1)次亜塩素酸ソーダ(13%)、塩酸(35%)、硫酸(98%)、硝酸(60%)、王水を基本とした。
(2)希硫酸(5%)は一部のアモルファスで試験を行った。
【0035】
5) 実験方法
(1)上記作成のアモルファスリボンをそれぞれの試薬に入れて一週間毎重量を測定しながら、浸漬累積時間1008時間まで行う。
(2)その間のアモルファスリボンの形状、色の変化を観察
(3)一部アモルファスリボンを不働態処理を施して、その耐食性能の向上を確認、この結果を踏まえ防食性能を評価した。
【0036】
6) 耐食性の評価判定について(一次評価)
今回のアモルファスリボンは厚みが30mμと非常に薄く、しかも腐食は両面から始まる。これを片面からの腐食と考えると厚みは高々15mμとなる。その為に、早い時間での耐食性能結果が分かる。一次評価としての基準評点は1000時間試薬浸漬での溶失比率として、評価基準は次のものとした。
1;5%以内溶失 2;5%超から10%以内の溶失
3;10%超から20%以内の溶失 4;20%超から40%以内の溶失
5;40%超の溶失
7) アモルファスリボンの曲げ延性評価について
溶射したアモルファス皮膜に曲げ延性がないと、アモルファス皮膜にミクロクラックや一貫孔発生が多くなり、また衝撃に弱く、衝撃で溶射母材より皮膜が剥離しやすい事が分かった。そこでアモルファスリボンの延性について基準を設け試験をした。
(例)アモルファスリボンで耐食性能が一番優れている成分系の38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cで溶射皮膜を作成した表面断面写真図−1に示すようにミクロクラック、一貫孔が多く、溶射板を90度曲げると皮膜の半分が剥がれ落ちる。曲げに対しての延性が無いことを示す。片や70Fe−10Cr−13P−7Cでは溶射皮膜は写真のように綺麗である。また90度曲げても皮膜が剥がれることもなかった。これらにより、溶射皮膜性状の悪いものはアモルファスリボンを曲げると直ぐに折れる事実が分かった。そこで、アモルファスリボンの曲げ延性の基準が必要となり、次のような評価基準を作成した。
評価1;角度0度(完全に密着曲げ)で折れず 2;60度曲げで折れず
3;90度曲げで折れず 4;120度曲げで折れず
5;120度曲げで折れる
なお評価の真ん中のものは0.5を付け加えた表示とした。
【0037】
8) 最適アモルファス溶射皮膜の成分系の決定について(二次評価)
皮膜性状については、今後の溶射技術に負うところも多い。現状の実力では最適なアモルファス成分系の条件は防食性能の評価は“1”と曲げ延性評価は“2.5”以下の2条件を共に満足することとした。
【0038】
○試験結果での対薬品用防食アモルファス成分系の特徴と考察
各薬品に対する試験結果は表−2〜表−7に掲げてある。
【0039】
1) 基本的にはFe−Cr系の成分系で不働態皮膜が形成されれば、十分な耐食性がある。そのCr量は(at%)28%以上あればよい。
【0040】
2) 濃塩酸(濃度35%)、フッ酸、希硫酸(濃度70%以下)については、Hイオンによる腐食にはFe−Cr系ではMoが無いと、不働態皮膜ができず、耐えきれない。
【0041】
3) 濃塩酸、フッ酸、希硫酸に対してはMoを入れていかねば、耐食性は得られない。特に活性帯領域でのHイオンの初期腐食時に対して、MoのMoO32+イオンによる不働態皮膜の形成を助ける機能が必要である。そこでのMo量は濃塩酸(濃度35%)では4%〜10%(at%)必要、フッ酸、希硫酸(濃度70%以下)では1〜2%(at%)は必要。またMoを10%(at%)以上入れると必ずしもそれに比例して耐食性は向上しないし、反って若干悪くなる傾向がある。
【0042】
4) 濃塩酸(濃度35%)でFe−Cr系でCr量20%(at%)以上の者はオフラインで不働態処理を行ったものは耐食性に優れて、1000時間での浸漬でも腐食がない。これはCr量(at%)20%以上では不働態皮膜が一旦形成されるとHイオンによる腐食に耐え、不働態皮膜の維持化、補修する能力があることを示す。
【0043】
5) 次亜塩素酸ソーダー(濃度13%)での酸化皮膜について。アモルファス成分系によっては不働態皮膜以外に酸化皮膜を形成し耐食性を向上させている。特にBとNiが組み合うと確実に酸化皮膜が形成されやすい。
【0044】
6) 塩酸等Hイオンのある場合は不働態皮膜形成に時間の短くないと腐食が進む。したがって、上記MoとP−C系による短時間に有効なCrイオンを合金表層に集められる特徴がないと不働態皮膜を形成できない。従って塩酸や王水塔のアモルファス化の半金属はP−C系となる。半合金P−C系は全ての薬品対応に使用できる。
【0045】
7) アモルファス化の半金属のB系は不働態皮膜を短時間で作製する必要のある塩酸、王水、フッ酸には駄目だが、硫酸、硝酸、次亜塩素酸ソーダー、燐酸等には使える。
【0046】
8) 半合金P−B系の試験結果
41Fe−30Cr−6Mo−13P−10Bの成分での試験を行ったが、結果としては硫酸(濃度98%)に対しては合格、それ以外は耐食性能としては評点5と最低であった。
【0047】
9) Fe−Cr系を中心としたアモルファス合金は硬度が高く、いずれも、およそHVで800以上あり耐摩耗性もあり、優れた材料である。表−8、図−8を参照。
【0048】
10) 溶射されたアモルファス皮膜の摩擦係数は、鉄系、ステンレス系等とセラミックスとの無潤滑摩擦においての摩擦係数、と同じ条件でのアモルファス合金摩擦係数、を比較をして25%減の低摩擦である。アモルファス皮膜の場合、大きな単結晶で粒界が少なく、そこに集まった炭化物、偏析等が少ないためと推察される。図−7を参照。
【0049】
11) 同一成分でのアモルファスリボンと溶射アモルファス皮膜とでは、試薬の耐食試験についてほぼ同様な耐食性能であった。表−1参照。
【0050】
12) 溶射アモルファス皮膜については、図−2に示すX線回析結果のとおり、完全アモルファス化している。
【0051】
13) この溶射アモルファス皮膜成分系の耐食性、高硬度を生かして、化学プラントで腐食と摩耗が一番激しいと言われている箇所の一つで試験を行った。それは化学プラントの送酸ポンプの軸である。ポンプ軸の材料は現在ハステロイ−C、Ti、デンメル−20が使われており、寿命は2〜3ヶ月となっている。この軸にアモルファス皮膜溶射をおこなって、2ヶ月の点検では従来材料の20%の摩耗であった。これで、一般工業材料としてアモルファス溶射皮膜が十分使用できることが証明された。図−10を参照。
【0052】
14) 今回の試験で良好な溶射アモルファス皮膜には至らなかったが、アモルファスリボンの段階で全ての薬品に対しての耐食性評点1をとった成分系は、38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cであった。
塩酸、硫酸、硝酸、王水、次亜塩素酸ソーダ、燐酸、フッ酸の1000時間浸漬に対し、溶質重量が0のものが多かった。今後は溶射技術が向上すれば、この成分系でのウルトラスーパー耐食性工業用材料が出来るであろう。
【0053】
○最適アモルファス皮膜の成分について
1) 一般にFe−Cr系、Fe−Cr−Mo系についてはCr量(at%)25%以上になればなるほど耐食性は向上してくる。しかし、アモルファス皮膜にはミクロクラックや一貫孔発生が多くなり、更に衝撃に弱くなる。良好な溶射アモルファス皮膜とはならない。そこで皮膜に伸び延性を持たすNiを投入すると、上記欠陥が大幅に改善される。従って、皮膜の状況を見ながらNiを投入する。しかし、Niの投入量はある薬品には耐食性能に影響するので、Cr量との耐食性能をチェックしながら決める。その具体的な、各薬品に対してのNi量は各請求項等に表示してある。
【0054】
○個々の試験でのアモルファスリボンの耐食性能と曲げ延性評価
1) 塩酸(濃度35%)について
(1)濃塩酸の腐食原理
H+とCL−に乖離する。2H++2e−→H2のカソード反応で腐食を起こす。また一方、CL−は金属と反応して塩化物を作る。酸素と共存すると酸化膜や不働態皮膜を破壊し、結果として腐食を促進する。それぞれの対応策として、H+にはMoが多いほど耐食性が良好とされる。一方CL−には、Crが多いほど耐食性に良いと言われている。
(2)成分設計
(1)の項の内容を基本にして、表−2の成分系で設計をした
【表2】
(3)耐食性能の結果
試験のアモルファスリボンの成分系の全試験リストとその腐食結果状況は表−1に示した。又その主なアモルファスリボンの成分系での試薬浸漬時間と侵食状況の経年変化を図−1に示した。
基準材料;ハステロイ−Cは1000Hで約50%近く腐食した。(評点5)
i)目標の1000Hの浸漬試験で5%以内腐食に合格した成分系は5成分系と不働態処理を施したもので3成分ある。括弧内は溶失重量%を示す。(一次評価)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(1.5%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(0.8%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(4.2%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ta−13P−7C(1.2%)
不働態処理を施して良好な性能を示したもの。
・45Fe−35Cr−13P−7C(64Hで溶失100%が1000Hで溶失重量0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(72Hで溶失100%が100Hで溶失重量0.8%)である。
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(0%)
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
・25%<Cr<45%で4%<Mo<10%ならば良好な性能発揮。又ここでMo量が10%を超えてくると、かえって耐食性が悪くなる。
・不働態処理をおこなえば、上記成分系でCr量を20%までは下げられる。
・Crの上限量は45%以下とした。理由はアモルファスリボンの延性が落ちて脆くなるためである。
b)Fe−Cr−P−C系について
・Crだけであれば、いかに多くのCr量を投入しても良好な耐食性能は得られない。
・不働態処理を行えば、上記i)の事も考え合わせればCr量は20%以上であれば良好な耐食性能が得られる。
c)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
・25%≦Cr≦26%で4%≦Mo≦6%の前提であれば、0%≦Ni≦6%で性能が若干向上する。それ以上のNi量はかえって耐食性能を悪化させる。但し、耐食性能の向上を求めるのではなく、リボン、皮膜等の延性向上を望むならば、Niは必要となる。
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
Crを35%、Moを7%に固定して、Xを変えてみた。
・XがTi(7%)については耐食性能は悪い。
・XがTa(6%)以下については耐食性能は良い。
【0055】
(4)試験結果に基づく考察と腐食モデルの考察
i)試験結果の考察
今回のアモルファスリボン、皮膜の防食の基本はCrに由る不働態皮膜である。従って、如何に早く不働態皮膜を作成し、傷ついた皮膜を早く修復する事が耐食性能をきめてしまう。上記試験で分かった事実は
a)不働態皮膜を形成する為にCrだけ多く投入しても耐食性は得られない。
b)Cr系(量25%以上)にMoを4%以上入れれば、耐食性は優れた性能となる。
c)Cr系だけのものはそれ単独では耐食性能が無くても、不働態処理を施せば、不働皮膜が出来て、耐食性能は優れたものとなる。但しCr≧20%である。
d)Niの量は6%以上になると耐食性能が悪くなる。
ii)新しい腐食モデルの構築
アモルファスリボンでFe−Mo−Cr系とFe−Cr系の両者を塩酸(35%)溶液に浸漬すると、その防食性能は、Mo成分が有したものは優れたものとなる。又一方Fe−Cr系不働態皮膜形成に大きな役割を果たすCr量を多くしても、その防食性能は決して良くない。その理由は不働態皮膜形成の課程に原因がある。その課程を下記において説明する。
アモルファス表面が塩酸に浸漬されると、その活性帯において、塩酸中のH+イオン濃度が大幅に高くなるためである。それを下式で示す。
溶液は H2O→H++OH− と HCL→H++CL− となる
又アモルファス成分のFe,Crはそれぞれ
Cr3++3CL− →CrCL3・・・(1)
Fe2++2CL− →FeCl2・・(2)
となる。そのためにH+イオンが置き去りとなり濃度が高くなる。こうなるとOH−がH+に比して少なくなり、不働態皮膜形成の下記の反応が出来にくくなる。このことを示す不働態皮膜形成については下記の反応式である。
Cr+3/2・O2+3H+ →Cr3+ 3/2・H2O・・・(3)
Cr3++3OH− → Cr(OH)3・・・(4)
Cr(OH)3 → 1/2・Cr2O3+3/2・H2O・・・(5)
上記式(5)の右辺のCr2O3が不働態皮膜を形成している。
OH−イオンが少ないことは、上記(1)式の反応に比べて(4)式が成り立ちにくくなる。即ち不働態皮膜形成が悪くなる事である。ここで、Fe−Cr系にMoを入れると活性帯での反応は(1)、(2)式までは同じである。ここでMoはCL−イオンと反応せずMoO32+イオンに酸化されて電気泳動によって腐食部に集積する。腐食部(Fe、CrがCL−イオンで腐食された箇所)は酸化性の強いMoO32+の濃縮で不働態皮膜の形成を助ける。そのときにその腐食部の(1)、(2)式の反応は無くなり、(4)式が優先されて、順次不働態皮膜が形成される。これらの概念を図−3に示す。またこれら内容を直接的には証明できないが、図−9(a)〜(c)に塩酸浸漬前と浸漬後の色の濃淡ではあるが、アモルファス合金皮膜界面のX線分析にかけた結果を表示してある。これらの時間はちょうど浸漬直後の活性帯にあたり、腐食が始まり、不働態皮膜が形成される迄の時間帯である。Crが一旦溶け出しており(図(b))、また再び不働態皮膜であろう界面にCrが集積している様がわかる。
iii)不働態皮膜に関する特徴
a)上記反応のためのMoの量も多くはいらず4%〜8%で十分であり、この量を10%以上にすると試験データよりわかるように反って耐食性能は悪くなる。
b)上記反応内容により、Fe−Cr系ではMoが無いまま、Cr量を多くしても耐食性は良くならないことが分かる。その例として、45Fe−35Cr−13P−7Cの成分系の場合がそうである。しかしながら、例えMoが無くてもこの成分系に不働態処理を施して一旦、不働態皮膜を形成させると優れた耐食性を示す。試験結果より、不働態皮膜を形成し、それを維持、補修できるCr量は20%以上である。
【0056】
(5)アモルファス化する為の半金属P−C系とB系の役割
i)P−C系について
P−C系はアモルファス合金の活性溶解を促進し、自らは不働態皮膜の重要成分の酸化クロムの形成を促進させる。このことが耐食性を向上させる。
ii)B系について
B系は自ら不働態皮膜の酸化クロムと共にほう酸酸化クロムとなり、不働態皮膜の重要成分である酸化クロムのクロム量を下げてしまう。そのために不働態化形成能力を下げてしまう。
iii)総合所見
試験結果から分かるようにB系は塩酸においては上記内容のように、不働態皮膜の形成能力が弱く、又事前の不働態処理を施しても、同一理由で耐食性がない。したがって王水には向かない。
【0057】
(6)アモルファスリボンの曲げ性能と耐食性を満足する成分(2次評価)
アモルファスリボンの耐食性と溶射皮膜の優れた成分について。
曲げ延性性能は前述したように、この性能が良いと溶射アモルファス皮膜の性状を良くする。塩酸の耐食性に対してはFe−Mo−Cr系が良いが、Crの量が多ければより耐食性を増す。しかし、表−2、図−4、図−5に示したようにCrの量が多ければそれだけアモルファスの曲げ性と延性は悪くなる矛盾がある。耐食性能の評点1で、曲げ延性の評価点2以下のバランスの良い成分系を示した。;( )は曲げ評点
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7Cを不働態処理したもの(2)
・45Fe−5Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7Cを不働態処理したもの(1.5)
以上3成分であった。これらの成分の特徴は耐食性を考えればCrを増やしたいが、曲げ延性を悪くするので、Cr量上限は25%となっている。曲げ延性を考えて、Niの投入で曲げ性を向上させている。それと共に、そのままの浸漬で耐えられないものは、不働態処理を施して不働態皮膜を形成させて耐食性を向上させている。
【0058】
2)濃硫酸(濃度98%)について
濃硫酸は酸としての性質(電離しにくい為)は弱いが、硫酸イオンは金属と反応し化合物をつくる。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同一成分で試験を行った。その内容は表−3に示している。また硫酸専用のスーパーステンレスの成分系をアモルファス化しての試験も行った。その成分は下記である。
29.5Fe−30Cr−4Mo−15Ni−1.5Cu−13P−7C
【表3】
(2)耐食性性能の結果
試験結果については表−3に示してある。主な成分系の腐食状況の時間変化を図−3に示した。酸化力が弱いこともあり、濃塩酸では目標達成が僅か8成分であったが、15成分も目標達成となった。またスーパーステンレスの成分系も優れた耐食性を示した。基準材料のハステロイ−Cは重量溶失0%であった。
i)目標の1008時間の腐食試験で5%以下の溶失の成分系;(−)は溶失重量%
一次評価は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(0%)
・45Fe−35Cr−13P−7C(2.9%)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(0%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(0%)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(3.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(0.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(0%)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−20B(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(2.8%)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・28Fe−45Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・29.5Fe−30Cr−4Mo−1.5Cu−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Ti−13P−7C(0%)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(0.6%)
以上16成分であった。
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
成分が12%≦Cr≦45%、4%≦Mo≦10%であれば良好な耐食性。
b)Fe−Cr−P−C系について
成分が10%≦Cr≦35%であれば良好な耐食性.
c)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
基本成分が25%≦Cr≦35%、3%≦Mo≦7%の範囲であれば、6%≦Ni≦30%でも良好な耐食性.
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
Crが35%でMoが7%ではTi,Ta投入は耐食性を大幅に落とす。
e)スーパーステンレス成分は優れた性能を示している。
29.5Fe−30Cr−4Mo−15Ni−1.5Cu−13P−7C(溶失1000時間で0%で評点1)
【0059】
(3)試験結果に基づく耐食性の考察
i)硫酸に対しては基本的には多くの合金成分を投入したものでなく、単純な成分系のFe−Cr−P−C系もしくはFe−Cr−B系で十分である。その成分量は10%≦Cr≦45%であれば良い。
ii)Fe−Cr−Mo−P−C系について
性能は良好である。ここで注意しなければならないことはMoの量である。Moが10%を超えてくると反って耐食性能が悪くなってくることである。
iii)Niについて
Niはアモルファスリボン及び溶射皮膜の曲げ延性を向上させる大事な成分であるので、これを加えて耐食性をおとしたくない。幸い上記のiii)のNi項にあるごとくの成分系では性能劣化にはなっていない。
iv)希硫酸(5%)での性能について
ここで濃硫酸(98%)の評価ばかりでなく、H+イオンが活躍する希硫酸についても耐食性試験をサンプリングをして試験を行った。その結果を表−4に示す。ここでは耐食性能は若干落ちてはいるが、5%溶失目標には十分は性能である。塩酸ほどのH+イオンの強さではないが、それでもこれによる腐食劣化の影響は受けている。これを抑えるためにMoを1%位投入すれば良い。
【表4】
v)硫酸においてのアモルファス化する為の半金属P−C系とB系について
硫酸系では塩酸系のH+イオンが強くない為に、腐食速度が遅くB系の不働態皮膜作成能力で十分である。
【0060】
(4)アモルファスリボンの曲げ性能と耐食性能との両者を満足する成分系(2次評価)
ここで表−3の成分系と図−4の曲げの評価を参考に曲げ評点2.5以下に限定すれば、下記の成分系となる。(−)は曲げ評点。耐食性評価は全て1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(1.5)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−6Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2.5)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−13P−7C(2.5)
以上10成分系である。やはり高Cr系でMo系ではNiを投入したものが多い。
【0061】
3)硝酸(60%)について
硝酸イオンNO3−は強い酸化能力に富み、金属と反応し硝酸塩を作る。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同一性分とした、その成分内容は表−5に示した。また硝酸専用のスーパーステンレスの成分系でもアモルファス化した。その成分は
20Fe−30Cr−3Mo−15Ni−12Si−13P−7C
である。
【表5】
(2)耐食試験の結果
試験結果については表−5に示した。酸化力が強いこともあり、目標達成は硫酸の16成分より13成分に落ちた。またスーパーステンレスの成分系も良好な性能である。ただし、基準材のハステロイ−Cの耐食性能は良くなかった。(評点3)
i)目標の1000時間の耐食試験では5%以下の成分;(−)は溶失重量%
一次評価が1であるもの
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(3.7%)
・45Fe−25Cr−10Mo−13P−7C(0.8%)
・45Fe−25Cr−4Mo−13P−7C(2.9%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(0.6%)
・37Fe−25Cr−3Mo−15Ni−20B(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(0%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ni−13P−7C(2.8%)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・26Fe−45Cr−9Mo−13P−7C(3.5%)
・20Fe−30Cr−15Ni−12Si−13P−7C(1.9%)
・32FE−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(0.6%)
以上13成分であった。
【0062】
(3)結果分析
i)Fe−Cr−Mo−P−C系について
Crの量が16%以上で45%以下、Mo量が10%以内であれば、良好な耐食性を示す。ここで、63Fe−12Cr−5Mo−13P−7Cでの溶失量6.7%と、
55Fe−20Cr−5Mo−13P−7Cでも溶失量3.7%との間をMo一定でCrを比例分配するとCr量は16%以上となる。16%≦Cr≦45%、10%≧Moであれば良い。
ii)Fe−Cr−P−C系について
Cr量は、上記と同じように比例計算すると
70Fe−10CR−13P−7Cでも溶失量5.5%と
45Fe−35Cr−13P−7Cでの溶失量0%とで45%≧Cr≧13%で良い。
iii)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
16%≦Cr≦45%、Mo≦10%の範囲ならNi≦30%で良好な耐食性を得る。
iv)Fe−Cr−Mo−X−P−Cについて
XにTi,Taをそれぞれ10%、6%投入したものはかなり耐食性が悪い。
v)スーパーステンレスについて
20Fe−30Cr−3Mo−15Ni−12Si−13P−7Cの溶失重量は1.9%と優れたものであった。(評点1)
(4)試験結果に基づく耐食性の全体考察
i)Crを13%以上投入すれば、Fe−Cr−P−C系の単純成分系で十分な耐食性を確保できる。
ii)Niの投入についてはリボン、皮膜の延性を考える意味で大事であるが、幸い30%以内の投入では耐食性は良好である。
iii)アモルファス化するための半金属P−C系、B系について
塩酸の時と違い、初期腐食スピード(H+イオン)の差があり不働態皮膜の形成時間に余裕がある。その結果P−C系、B系との差が明確でない。どちらでも良い。
【0063】
(5)アモルファスリボンの曲げ性と耐食性の両者を満足する成分系について(2次評価)
ここに表−5の耐食性能と図−7の曲げ評価点を参考にして曲げ評価2.5以下に限定した。(−)は曲げ評点。耐食性能は全て1である。
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・55Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1)
・17Fe−25Cr−3Mo−15Ni−13P−7C(2.5)
以上7成分である。Niの入ったものが多い。
【0064】
4)王水
王水はHNO3+3HCL→NOCL+CL2+2H2Oとなり塩素、塩化ニトロシル塩酸となりTa,イリジュウム、純鉄以外の金属をほとんど溶かす。還元性と酸化性を共に兼ね備えた強力な腐食力を持つ。
(1)成分設計
基本的には塩酸と同じ成分とした。その成分内容は表−6に示した。
【表6】
(2)耐食試験の結果
試験結果については表−6及び主成分系の腐食時間経過は図−5に示した。腐食力が最も強いと言われているように目標達成は6成分であった。また、基準材のハステロイ−Cの耐食性性能は極度に悪いものであった。(評点5)
i)目標の1000時間の耐食試験で5%以下の溶失成分;(−)は溶失重量%
一次評価1であるもの
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2.2%)
・38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(4.7%)
・16Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(0%)
・20Fe−45Cr−9Mo−13P−7C(0%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(0.9%)
以上6成分であった。
【0065】
(3)結果分析
i)Fe−Cr−Mo−P−C系について
35%≦Cr≦45%、6%≦Mo≦9%であれば良好な耐食性を維持できる。
ii)Fe−Cr−P−C系について
Crが35%以上であればCrの単独成分系で優れた性能を発揮できる。ここでCr量10%で19%の溶失とCr量で35%で0%の溶失でCrを比例配分すればCr量は28%以上あれば良い。
iii)Fe−Cr−Mo−Ni−P−C系について
Niの投入量6%では耐食性能にばらつきがある。一方20%を超えると安定した耐食性を得る。45%≧Cr≧25%、9%≧Mo≧0%、8%≧(1.4×b−29)%、ここでのbはCr量を示す。
iv)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
XにTi.Taを入れてもそう悪くない性能であった。特にTaを入れた場合は耐食性能は5.7%の溶失とまずまずの成績であった。
【0066】
(4)試験結果に基づく耐食性の考察
i)単純な成分系のFe−Cr−P−C系で45%≧Cr≧28%以上であれば十分である。
ii)基本的にNiの投入量を多くしてもFe−Cr−Mo−Ni−P−C系では耐食性を向上させる。
iii)半金属P−C系とB系について
塩酸と硝酸との混酸なので、腐食速度が速く、B系の遅い不働体形成は耐食性が悪い。
(5)アモルファスリボンの曲げ性と耐食性能の両者を満足する成分(2次評価)
ここに表−6の成分と耐食性能評価と図−4の曲げ評価を合わせて合格した成分系を示す。(−)は曲げ評価2以下、耐食性能は1である。
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−13P−7C(2)
・18Fe−35Cr−7Mo−20Ni−13P−7C(2)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
以上3成分である。いずれも曲げ性と耐食性でNiの投入となっている。
【0067】
5)次亜塩素酸ソーダ
化学式はNaCLOである。強アルカリ性で腐食性の高い液体である。また酸化力が強くステンレス鋼などの不働態皮膜を破壊し局部腐食をおこす。
1)成分設計
基本的には塩酸と同一とした。その成分内容は表−7に示した。
【表7】
2)耐食試験の結果
試験結果については表−7に示した。目標達成は12成分である。但し、合格成分の中には従来のように侵食されて重量を減らすタイプではなく、不働態皮膜の上に酸化皮膜が覆い、その重量が加わってかえって重量を多くしている成分もある。基準材のハステロイ−Cの溶失重量は0%であった。(評点1)
i)目標の1000時間の耐食試験で5%以下の溶失重量となったもの。(−)は溶失重量%。一次評価は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1.2%)
・45Fe−35Cr−13P−7C(0%)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(+0.8%)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(+3.2%)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(+1.1%)
・36Fe−25Cr−4Mo−15Ni−20B(+6.4%)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(+11.1%)
・32Fe−35Cr−7Mo−13P−7C(1.1%)
・32Fe−35Cr−7Mo−6Ta−13P−7C(0%)
・36Fe−35Cr−7Ti−13P−7C(0%)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C(1.3%)
・51Fe−20Cr−3Mo−6Ni−20B(1.0%)
の12成分であった。
ii)結果分析
a)Fe−Cr−Mo−P−C系について
12%≦Cr≦35%、5%≦Mo≦7%の領域となっているが、明らかにMoの量が多くなってくると、性能が劣化する。これは次亜塩素酸ソーダのCl2がMoと反応してMo化合物を形成するためである。従ってMoが多いと耐食性能が悪くなる。
b)Fe−Cr−P−C系について
Cr量が10%≦Cr≦35%の範囲であれば十分である。
c)Fe−Cr−Mo−Ni系で半金属−P−C系とB系の違いについて
・P−C系について 16%≦Cr≦25%、2%≦Mo≦5%で
Ni量が30%以上でないと耐食性は悪い。
・B系について 20%≦Cr≦25%、3%≦Mo≦4%、6%≦Ni≦30%で
P−C系と違いNi量が少なくても耐食性が良く、しかも酸化皮膜による重量を増やしている。36Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20Bのアモルファス界面を顕微鏡写真を図−6に示しているが、酸化皮膜が2〜5μm全体を覆ってこれが重量を増し、耐食性を維持している。
d)Fe−Cr−Mo−X−P−C系について
XがTaでは耐食性は良好だがTiは耐食性が悪い。ここでMoを0として、その代わりにTiを入れたものは良好な耐食性である。
【0068】
(3)試験結果に基づく耐食性の考察
i)単純成分系のFe−Cr−P−C系でCr≧10%で十分な性能は確保できる。
ii)Fe−Cr−Mo−P−C系はMo量をMo≦8%とする。そうでないとかえって耐食性能を劣化させる。それはMoとCl2ガスとで化合物をつくり腐食を進めるからである。
iii)NiとB系の組み合わせでFe−Cr−Ni−Bの型が溶射皮膜として最も良さそうである。まず、Niは曲げ延性を向上させる。B系とNiでの組み合わせで酸化皮膜を形成させて耐食性を上げる(図−6参照)。これは、溶射の欠点であるミクロクラック、一貫孔(いずれも1mμ以下)について、この両者とも封孔剤が皮膜の奥まで入りにくい、そこを酸化皮膜で埋め尽くすことが出来る。また表面も保護膜として耐食性を向上させるからである。
【0069】
(4)アモルファスリボンの曲げ延性と耐食性能との両者を満足する成分系について(2次評価)
ここで表−7の成分系の耐食性能と図−4の曲げ評価を参考に、曲げ評点2以下に限定。(−)は曲げ評価点。耐食性評点は1である。
・70Fe−10Cr−13P−7C(1)
・63Fe−12Cr−5Mo−13P−7C(1.5)
・55Fe−20Cr−5Mo−13P−7C(2)
・45Fe−25Cr−4Mo−6Ni−20B(1)
・20Fe−25Cr−5Mo−30Ni−13P−7C(1.5)
・32Fe−16Cr−2Mo−30Ni−13P−7C
・37Fe−25Cr−5Mo−15Ni−20B(2.5)
・51Fe−20Cr−3Mo−6Ni−20B(1.5)
以上8成分である。
【0070】
6)燐酸
塩酸と同一成分で十分である。
【0071】
7)希硫酸
基本的には濃硫酸の成分系でよいが、Moの投入が無いものはMo1〜2%(at%)入れれば良い
【0072】
8)フッ酸
塩酸と同じ成分であれば良い。
【0073】
○アモルファスリボンの曲げ性と溶射皮膜の性状の関係について
1)アモルファスリボンの曲げ性の意味
アモルファスリボンの性能が向上してゆくと、リボンは次第に硬くなり延性を失っていく。すなわち性状がセラミクスに近づいてゆく。このままの成分で溶射皮膜を作成すると、
(1)溶射皮膜の硬度が高すぎ、衝撃に弱くなる。
(2)皮膜自身が金属としてのつながりが弱くなり、割れ感受性が高い。従って表面にミクロクラックの発生や、溶射時の積層間の間があり、密着力が弱くなり、一貫孔も多くなる傾向がある。
【0074】
2)曲げ性と成分の関係
アモルファスリボンの曲げ性評価結果を図−4と分析を図−5に示している。その特徴は
(1)Crの量が多くなると確実に曲げ性は悪化する。
(2)Moが10%以内だと曲げ性に影響しない。
(3)成分系がFe−Cr−Mo−X−P−CのXにTa,Tiは硬度を確実に上げて曲げ性は悪くなる。
(4)Niは成分系を問わず、確実に曲げ性をよくする。特に図−5に示すごとくNiを入れていくと曲げ性を向上させる。
【0075】
3)求められる曲げ性能と皮膜の関係について
図−1に、“70Fe−10Cr−13P−7C”系でリボン曲げ性評価1の断面写真と“38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C”系でリボン曲げ性評価4の溶射皮膜の断面写真を示している。
38Fe−35Cr−7Mo−13P−7Cの断面写真から分かるように70Fe−10Cr−13P−7Cに比して
(1)表面にミクロクラックが発生している。
(2)縦に小さなクラックが入っている。
評点1と4の差が歴然としている。
溶射皮膜を350mμにした板を90度曲げした時の溶射皮膜の状況は、評点4については、ばらばらと剥がれ落ちる。評点1はクラックは入るものの剥がれない。
【0076】
4)曲げ延性評価による皮膜性状の優れたものの判定
ここでは曲げ評価2以下が適正溶射皮膜の得られるものと判定した。
【0077】
○アモルファス皮膜の防食と皮膜性状とのバランスのとれた評価
2次評価としては防食性能“1”、現在の溶射技術では、曲げ評価は“2.5“以下のものを実用に耐えられる溶射皮膜の成分系とする。今後は溶射技術の向上によって、いずれは曲げ評価“4”まで良好な溶射皮膜を作り上げられる。
【0078】
○工業化のための実機適用試験について
1)工業化のための適正成分系について
70Fe−10Cr−13P−7Cの成分系は対象薬剤を硫酸、硝酸、次亜塩素酸ソーダ、燐酸にすれば優れた耐食性が得られ、アモルファスリボンの曲げ延性も評価1で優れた溶射皮膜も得られている。今回はこれで実機試験を行った。
2)工業化のための具体的な実機例
(1)化学プラントの送酸用ポンプの駆動軸の適用
この部位はポンプモーター動力をインペラーに伝える部分で、軸端部からの酸漏れを防ぐために硬い特殊パッキンがモーター側とインペラー側にそれぞれ付けられている。それが軸の表面をこすり、アブレシングな状態となった上に酸(硫酸、硝酸、燐酸)による腐食が重なり、最も過酷な腐食条件にさらされている。ここの部分は現在化学プラントの腐食のウイークポイントになっている。現在の使用材質はデユリメント−20やハステロイ−C、Tiである。その耐久性は2ヶ月〜3ヶ月である。この軸の軸径はポンプの容量によるが、40〜150mm、長さは40〜250mmであり、その外径に0.25mmの溶射アモルファス皮膜のコーティングをして、実機試験を行った。2ヶ月後の試験結果では図−10に示すようにパッキンに当たる部分の腐食は従来比の1/5以下と優れた性能を示し、長寿命化につながった。現場ではこれらを取り替えるに多額のメンテナンス費用をかけている。更に現在、追加で3基の実機で試験中。これらの結果により、アモルファス皮膜は防食用材料として工業化の道を切りひらいた。今後は封孔材を使い更に耐食性能を上げていく。
(2)化学プラントの攪拌タンクのインペラーでの実機適用
化学プラントの攪拌タンクで混酸(硫酸、硝酸、燐酸)のなかで液を混ぜるためにステンレス316Lのインペラーを使っているが、インペラーの先端は腐食摩耗、根元は応力腐食のために、取替えが11ヶ月(溶失重量62%)となっているが、これに上記アモルファスの表面コーティング(厚み0.35mm)をしたものは、5ヶ月目の点検チックでの結果は溶失重量も2%であり、従来品との差は歴然であった。優れた性能である。
【0079】
前述のように、Fe−Cr系を中心としたアモルファス合金は硬度が高く、耐摩耗性にも優れている。表−8にハステロイ−Cとの硬度比較を示す。
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0080】
発明の利用分野は、高耐食性については化学プラント。高硬度、低摩擦については加工機械等、多くの産業分野で多様な利用価値がある。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】“70Fe−10Cr−13P−7C”系でリボン曲げ性評価1の断面顕微鏡写真(図(a))と、“38Fe−35Cr−7Mo−13P−7C”系でリボン曲げ性評価4の溶射皮膜の断面顕微鏡写真(図(b))とを示している。
【図2】高耐食性アモルファス合金のX線回折分析結果を示す線図である。
【図3】アモルファス合金の塩酸における初期腐食モデルを示す図である。
【図4】成分別アモルファスリボンの曲げ強度評点を示す図である。
【図5】アモルファスリボンの曲げ強度と成分との関係を示す図である。
【図6】アモルファスリボンの表面における酸化膜を示す顕微鏡写真である。
【図7】摩耗試験時の摩擦を示す図である。
【図8】アモルファス合金等について摩耗試験機による摩耗度を示す図である。
【図9】アモルファスリボンの表面成分分析結果を示す写真である。
【図10】送酸用ポンプの駆動軸に適用したアモルファス合金等の摩耗状況を示す図および写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%であり、
体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする高耐食性アモルファス合金。
【請求項2】
式−2;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−g・B
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、gについて、
a=100−b−c−d−gで18%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、16%≦g≦22%であり、
体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする高耐食性アモルファス合金。
【請求項3】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、25%≦b≦45%、4%≦c≦10%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦35%、4%≦c≦7%、0%<d≦6%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項4】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、20%≦b≦45%、0%≦c≦5%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、25%≦b≦26%、4%≦c≦6%、0%<d≦6%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項5】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦5%、5%≦d≦7%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項6】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、18%≦b≦22%、4%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦6%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項7】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項8】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、10%≦b≦20%、0%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Moの上記係数b、cが10%≦b≦35%、0%≦c≦7%であり、Niの上記係数dは、10%≦b≦26%であれば6%≦d≦30%、26%≦b≦35%であれば20%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項9】
濃度が70〜5%の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Moの上記係数cが1%≦c≦2%であることを特徴とする請求項7または8に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項10】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦45%、c=0%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項11】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦45%、0%<c≦10%、0%<d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項12】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦10%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項13】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦35%、0%≦c≦10%、6%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項14】
王水に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、28%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるか、または、35%≦b≦45%、0%<c≦9%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項15】
王水に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦45%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項16】
王水に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦35%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項17】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦35%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦35%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦5%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項18】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%である
ことを特徴とする請求項2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項19】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦25%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、2%≦c≦5%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項20】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%である
ことを特徴とする請求項2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項1】
式−1;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−e・P−f・C
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、e、fについて、
a=100−b−c−d−e−fで16%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、11%≦e≦15%、5%≦f≦9%であり、
体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする高耐食性アモルファス合金。
【請求項2】
式−2;a・Fe−b・Cr−c・Mo−d・Ni−g・B
と表すときの各元素の含有比率(原子%)を示す係数a、b、c、d、gについて、
a=100−b−c−d−gで18%≦a≦74%、10%≦b≦45%、0%≦c≦10%、0%≦d≦30%、16%≦g≦22%であり、
体積百分率で90%以上非晶質を含むよう非晶質形成されていることを特徴とする高耐食性アモルファス合金。
【請求項3】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、25%≦b≦45%、4%≦c≦10%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦35%、4%≦c≦7%、0%<d≦6%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項4】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、20%≦b≦45%、0%≦c≦5%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、25%≦b≦26%、4%≦c≦6%、0%<d≦6%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項5】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦5%、5%≦d≦7%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項6】
フッ酸または濃度が35%以下の塩酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、18%≦b≦22%、4%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、24%≦b≦26%、4%≦c≦6%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項7】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項8】
燐酸または濃度が98%以下の硫酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Niの上記係数dがゼロの場合、Cr、Moの上記係数b、cが、10%≦b≦20%、0%≦c≦6%であり、
Niの上記係数dがゼロでない場合、Cr、Moの上記係数b、cが10%≦b≦35%、0%≦c≦7%であり、Niの上記係数dは、10%≦b≦26%であれば6%≦d≦30%、26%≦b≦35%であれば20%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項9】
濃度が70〜5%の硫酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Moの上記係数cが1%≦c≦2%であることを特徴とする請求項7または8に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項10】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦45%、c=0%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項11】
濃度が60%以下の硝酸に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦45%、0%<c≦10%、0%<d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項12】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、13%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦10%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項13】
濃度が60%以下の硝酸に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、16%≦b≦35%、0%≦c≦10%、6%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1または2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項14】
王水に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、28%≦b≦45%、c=0%、d=0%であるか、または、35%≦b≦45%、0%<c≦9%、d=0%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項15】
王水に対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦45%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項16】
王水に対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Moの上記係数b、cが25%≦b≦35%、0%<c≦9%であり、Niの上記係数dがd≧(1.4×b−29)%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項17】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦35%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦35%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、0%<c≦5%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項18】
次亜塩素酸ソーダーに対する高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%である
ことを特徴とする請求項2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項19】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、10%≦b≦25%、c=0%、d=0%であるか、12%≦b≦25%、0%<c≦7%、d=0%であるか、または、16%≦b≦25%、2%≦c≦5%、28%≦d≦30%である
ことを特徴とする請求項1に記載の高耐食性アモルファス合金。
【請求項20】
次亜塩素酸ソーダーに対するものとして溶射により形成される高耐食性アモルファス合金であって、
Cr、Mo、Niの上記係数b、c、dが、20%≦b≦25%、3%≦c≦4%、6%≦d≦15%である
ことを特徴とする請求項2に記載の高耐食性アモルファス合金。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図1】
【図6】
【図9】
【図10】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図1】
【図6】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−270152(P2009−270152A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121406(P2008−121406)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000150280)株式会社中山製鋼所 (26)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000150280)株式会社中山製鋼所 (26)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】
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