説明

高能率熱延鋼板の製造方法

【課題】粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ライン(特に、後から幅プレス装置を導入した熱間圧延ライン)において、大幅な設備投資を招くことなく、生産能率を向上させることができる高能率熱延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】幅プレス装置14と粗圧延機16の距離(A)に対して、幅プレス後の当該スラブ12の長さ(B)と、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)の合計(B+C)を比較し、(B+C)が(A)を超える時((B+C)>A)は、前スラブ13の粗圧延が終了してから、当該スラブ11の幅プレスを開始し、(B+C)が(A)以下である時((B+C)≦A)は、前スラブ13の粗圧延が終了しているか否かにかかわらず、当該スラブ11の幅プレスを開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ラインにおいて、幅プレス装置へスラブを進入させる適切なタイミングを決定することによって、高能率に熱延鋼板を製造することを可能にする高能率熱延鋼板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、熱延鋼板を製造する熱間圧延ラインにおいては、粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような、粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ラインにおいては、幅プレス装置にスラブを進入させる時に、幅プレス装置の後面エリア(下流側エリア)にスペースを確保して、当該スラブが幅プレス終了後に後面エリアで前スラブ(粗バー)と衝突・干渉することを回避する必要がある。
【0004】
通常、新規に熱間圧延ラインを設置する場合には、上記のような当該スラブと前スラブ(粗バー)との干渉回避を考慮して、幅プレス装置と粗圧延機の間に十分な距離を確保したライン設計を行う。したがって、このような熱間圧延ラインでは、自ずと幅プレス装置の後面エリアに当該スラブと前スラブ(粗バー)との干渉回避スペースが確保されるので、幅プレス装置にスラブを進入させるタイミングに対しての制約はほとんどない。そのため、幅プレス装置の入側でスラブを滞留させることがなく、圧延能率(生産能率)を阻害することはない。
【0005】
これに対して、既設の熱間圧延ラインに後から幅プレス装置を導入した場合などは、幅プレス装置と粗圧延機との距離が近いことが多く、当該スラブと前スラブ(粗バー)との干渉回避スペースの確保については、設備上の制約条件が厳しい。且つその粗圧延機がリバース式の場合には、前スラブ(粗バー)が逆転パスで幅プレス装置の後面に搬送されてくるという制約条件も加わる。
【0006】
そこで、そのような熱間圧延ラインにおいては、従来は、当該スラブと前スラブ(粗バー)との干渉を回避するために、前スラブ(粗バー)の粗圧延が終わって、幅プレス装置と粗圧延機との間に前スラブ(粗バー)が無いことを確認した上で、幅プレス装置に当該スラブを進入させるようにしている。そうなると、ほとんど場合、幅プレス装置の入側でスラブを待機・滞留させることとなり、圧延能率(生産能率)の低下を招くという問題が生じる。また、幅プレス装置と粗圧延機の間に適切な距離を確保しようとすると、他の多くの設備も再配置することになり、多額の投資金額が必要となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−64117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ライン(特に、後から幅プレス装置を導入した熱間圧延ライン)において、大幅な設備投資を招くことなく、生産能率を向上させることができる高能率熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の特徴を有している。
【0010】
[1]粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ラインにおいて、幅プレス装置と粗圧延機の距離(A)に対して、当該スラブの幅プレス後の長さ(B)と、前スラブの粗圧延最終パス前の長さ(C)の合計(B+C)とを比較し、(B+C)が(A)を超える時は、前スラブの粗圧延が終了してから、当該スラブの幅プレスを開始し、(B+C)が(A)以下である時は、前スラブの粗圧延が終了しているか否かにかかわらず、当該スラブの幅プレスを開始することを特徴とする高能率熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ライン(特に、後から幅プレス装置を導入した熱間圧延ライン)において、大幅な設備投資を招くことなく、生産能率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態における熱間圧延ラインを示す図である。
【図2】本発明の実施例1における本発明例と従来例を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態における熱間圧延ライン(熱延鋼板製造ライン)の構成を示す平面図である。図1に示すように、この実施形態における熱間圧延ラインでは、粗圧延機16の上流側に幅プレス装置14が設置されおり、幅プレス装置14と粗圧延機16の間に幅プレス装置〜粗圧延機間テーブル15が設けられている。そして、スラブ11は、幅プレス装置14によって幅プレスされて幅を変更された後、テーブル15上を搬送され、粗圧延機16によって(通常)複数パスの粗圧延を施されて、次工程へと進んでいく。
【0015】
その際に、この実施形態においては、幅プレス装置14と粗圧延機16間の距離(A)、幅プレス後の当該スラブ12の長さ(B)、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)を考慮することにより、幅プレス装置14入側での当該スラブ11の待機・滞留を大幅に減らすことができるようにしている。
【0016】
すなわち、具体的に説明すると、幅プレス装置14と粗圧延機16の距離(A)に対して、幅プレス後の当該スラブ12の長さ(B)と、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)の合計(B+C)を比較し、(B+C)が(A)を超える時((B+C)>A)は、前スラブ13の粗圧延が終了してから、当該スラブ11の幅プレスを開始し、(B+C)が(A)以下である時((B+C)≦A)は、前スラブ13の粗圧延が終了しているか否かにかかわらず、当該スラブ11の幅プレスを開始する。なお、幅プレス後のスラブ12の長さ(B)と、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)は、計算機による算出値を用いる。
【0017】
このようにして、この実施形態においては、幅プレス後の当該スラブ12と前スラブ(粗バー)13との干渉を回避しながら、当該スラブ11を必要最小限の待機時間で幅プレス装置14へ進入させることができるので、大幅な設備投資を招くことなく、生産能率を向上させることができる。
【0018】
ちなみに、従来は、前スラブ(粗バー)13の粗圧延が終わって、幅プレス装置14と粗圧延機16との間に前スラブ(粗バー)13が無いことを確認した上で、当該スラブ11を幅プレス装置14に進入させていたために、ほとんどのスラブ11を幅プレス装置14の入側で待機・滞留させることになって圧延能率(生産能率)の低下を招いたり、幅プレス装置14と粗圧延機16の間に適切な距離を確保しようとして、他の多くの設備も再配置することになり、大幅な設備投資が必要になったりした。
【実施例1】
【0019】
本発明の実施例1を述べる。
【0020】
本発明例として、上記の本発明の一実施形態に基づいて、幅プレス装置14でのスラブ11の幅プレスを行った。すなわち、幅プレス装置14と粗圧延機16の距離(A)に対して、幅プレス後の当該スラブ12の長さ(B)と、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)の合計(B+C)を比較し、(B+C)が(A)を超える時((B+C)>A)は、前スラブ13の粗圧延が終了するまで待機して、前スラブ13の粗圧延が終了してから、当該スラブ11の幅プレスを開始し、一方、(B+C)が(A)以下である時((B+C)≦A)は、前スラブ13の粗圧延が終了しているか否かにかかわらず、待機せずに当該スラブ11の幅プレスを開始した。
【0021】
これに対して、従来例として、常に、前スラブ13の粗圧延が終了するまで待機して、幅プレス装置14と粗圧延機16との間に前スラブ(粗バー)13が無いことを確認した上で、当該スラブ11の幅プレスを開始した。
【0022】
なお、幅プレス装置14と粗圧延機16の距離(A)は37mであった。また、幅プレス後の当該スラブ12の長さ(B)の平均値は8mで、粗圧延最終パス前の前スラブ13の長さ(C)の平均値は23mであった。
【0023】
その結果を図2に示す。図2に示すように、従来例では、幅プレス装置14前で待機したスラブ11の本数比率が100%であったのに対して、本発明例では、幅プレス装置14前で待機したスラブ11の本数比率が17.5%、幅プレス装置14前で待機しなかったスラブ11の本数比率が82.5%になった。その結果、本発明例では従来例に比べて圧延能率が約1%向上した。
【符号の説明】
【0024】
11 スラブ(当該スラブ)
12 幅プレス後の当該スラブ
13 粗圧延最終パス前の前スラブ(粗バー)
14 幅プレス装置
15 幅プレス〜粗圧延機間テーブル
16 粗圧延機
A 幅プレス装置〜粗圧延機間距離
B 幅プレス後の当該スラブの長さ
C 粗圧延最終パス前の前スラブの長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗圧延機の上流側に幅プレス装置が設置されている熱間圧延ラインにおいて、幅プレス装置と粗圧延機の距離(A)に対して、当該スラブの幅プレス後の長さ(B)と、前スラブの粗圧延最終パス前の長さ(C)の合計(B+C)とを比較し、(B+C)が(A)を超える時は、前スラブの粗圧延が終了してから、当該スラブの幅プレスを開始し、(B+C)が(A)以下である時は、前スラブの粗圧延が終了しているか否かにかかわらず、当該スラブの幅プレスを開始することを特徴とする高能率熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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